Paradiso
寒かったでしょう?温かい珈琲でも飲んでお喋りしよう
目抜き通りから一本二本と裏に入ったあたり、巨大なビルの谷あいにひっそり佇む小ぶりな煉瓦造りがひとつ。黒鉄の格子の窓辺、赤だのピンクだののゼラニウムが咲きこぼれて目を惹いた。それに比べて主張をしない木製の扉の傍らにかけた地味な看板、古びた”Welcome”の七文字の傍らで薄れた珈琲カップがこれもやはり褪せた湯気を立てている。
君が扉を開くと同時。店内、レコードの針が謡ったアルゼンチンタンゴの憂い交じりの旋律を、ドアベルの音が賑やかに妨げた。
「マスター!お客さんみたい」
カウンターでマキアートを傾けていた男がレトリバーめいた懐っこい顔をして笑う。
「ようこそ、喫茶パラディソへ」
「マスター!お客さんみたい」
カウンターでマキアートを傾けていた男がレトリバーめいた懐っこい顔をして笑う。
「ようこそ、喫茶パラディソへ」