森の書庫
集めたすべてが、おさまるところ。
駅から歩いて二十分。住宅街を抜けた先には、静寂に包まれた深い森が広がっている。
しっとりとした木肌の匂いに包まれながら、木々の隙間を縫う未舗装の小道を進むと、白塗りの小さな家が姿を現す。
遠くで小鳥の囀りがこだまするなか、黒金のドアノッカーを鳴らして扉をくぐれば、まず目に飛び込むのは天井まで届くウォールナットの書架だ。そこには書物のほか、貝殻の化石や天球儀、瓶詰めの植物標本などが並ぶ。
キッチンと書庫を分ける、飴色に染まったチェリーウッドのカウンターには、同素材のハイチェアが添えられ、本の隙間に羽ペンが挟まれている。
部屋に満ちた甘い香りは、窓際に飾られた花のものだろうか。窓から差し込む陽光は森の木々に遮られ、緑の影を床に落としている。
ここは、リリィ・インベントが蒐集品を収める私的な書庫。この家を知る人々は、ただ「森の書庫」と呼んでいる。
※個人旅団です。