幽蘭
朝が来れば、扉も看板も、ひっそりと消えている。
汝はこんな噂を耳にしたことがあるやもしれぬ。
深夜の路地をさまよい続けておると、
不意に紫銀の光を宿した看板が見えるというのだ。
その扉を開けば、小ぢんまりとした酒場があり、
何やら頼りなさげな男がひとり、淡々とグラスを磨いておるらしい。
されど、声をかければ普通に酒を勧めてくれるというから不思議な話よな。
特段、豪奢な酒を揃えているわけでもないらしいが、
一杯飲んで過ごせば、幾分心が軽くなるとも聞く。
ところが、朝が近づけばその店も看板もかき消えて、
まるで最初から存在しなかったかのよう。
ただの幻なのかどうかは、余には何とも判じがたいが、
疲れた心が呼び寄せるささやかな救いなら、
それはそれで悪くはあるまいな。
不意に紫銀の光を宿した看板が見えるというのだ。
その扉を開けば、小ぢんまりとした酒場があり、
何やら頼りなさげな男がひとり、淡々とグラスを磨いておるらしい。
されど、声をかければ普通に酒を勧めてくれるというから不思議な話よな。
特段、豪奢な酒を揃えているわけでもないらしいが、
一杯飲んで過ごせば、幾分心が軽くなるとも聞く。
ところが、朝が近づけばその店も看板もかき消えて、
まるで最初から存在しなかったかのよう。
ただの幻なのかどうかは、余には何とも判じがたいが、
疲れた心が呼び寄せるささやかな救いなら、
それはそれで悪くはあるまいな。