なぞなぞイースター
――君の笑顔を守りたいから。
僕も挑戦しようと思ったんだ。
●イースターを楽しもう!
春の暖かな風をあびた時、僕と妹はたまらなく嬉しくなった。
カラフルに飾られたカフェから、優しい音楽と一緒に友達たちの笑い声も聞こえてくる。
今日は特別な日。|復活祭《イースター》。
キリストの復活を祝う楽しいお祭り。
でも宗教の話はちょっと横に置いていて。復活祭をモデルに、子供向けの宝探しのイベントが、カフェを使って開かれていた。
「さぁ皆さんいらっしゃい! ラビットカフェの『なぞなぞイースター』イベントへようこそ!」
僕が妹とやってくると、お店のお姉さんが明るい声で出迎える。
彼女の頭にはうさ耳付きのシルクハット。テールコートを着込んでマジシャンみたいな格好だ。
待っていたよ、と屈託のない笑みで案内してもらうと、すでに他の子供たちも待っていた。
「それではイベントを説明しますね。みなさんには、イースターにちなんで『エッグハント』に挑戦して頂きます! 卵を使った宝探しです!」
ルールは簡単。
ラビットカフェの庭にかくされた、オモチャの卵たちを探し出せばゲームはクリア。
卵をカゴに入れてくれば、お菓子と交換してくれる、とお姉さんは笑って語った。
「卵の見つけ方は2種類あります。自分の手や足を使って『自力で探す』か、近くにある『なぞなぞを解いて見つける』か、です。どちらでも好きな方でみつけてみてくださいね!」
なぞなぞの答えは、そのまま隠し場所を表している。
大きな窓から見えたカフェの庭には、風船に動物、風になびくパステルカラーの紙テープなどが見え。
まるで優しい色で飾られたアリスのお茶会みたいだ。
「そして、疲れた時はカフェでぜひ休憩を。美味しいエッグタルトや春の果物を使ったジュースもありますからね。ウサギ型アイスの乗ったラビットクレープが当店の一押しですよ!」
バニーのお姉さんが可愛くウィンクすると、子供と付き添いの大人たちが笑った。
カフェとしての商売を忘れないのが、やり手の彼女らしい。
「お兄ちゃん! 私も参加したいわ! 早く行きましょ!」
「うん。そうだね。僕たちも挑戦しようか」
妹――ハルが庭を指でさす。
待ちきれないという様子に微笑んだ後、タイヤを転がす彼女と僕はゆっくりとエッグハントに挑戦するのだった。
●答えの先にある言葉。I solved the 〇〇〇〇〇〇!
「みなさん、なぞなぞはお好きですか?」
√マスクド・ヒーローの大きなカフェでイベントがあるので、よかったら参加してみないか。と話し出したのは星詠みの壱洲乃・てぃてぃ(黄金のカブトムシ・h08656)だ。
カブトムシの彼はお店までの地図を広げようと、人間の姿に化ける。その顔には遊ぶのが待ちきれない、子供みたいな笑みを浮かべていた。
「イベントで行われるのはエッグハント。つまり、宝探しならぬ卵探しです!」
子供向けのイベントなのだが、大人だって歓迎だ。
なぞを解くもよし、歩いて探し回るもよし。
参加すれば景品のクッキーがもらえるし、なにより楽しい時間になる。
でも、なんで、なぞなぞ?
「ふっふっふ。実は|花時《はなどき》・ヒカルさんという少年のアイデアなんです。このイベントには、近くの病院に入院している子供たちもご招待されているんですよ」
しかし、中には体を動かすのが大変な子もいる。
そんな子供たちも参加しやすいよう、身体だけでなく知恵を使ってもクリアできるように――と、工夫した。
その結果が、なぞなぞを取り入れた『なぞなぞイースター』だった、という訳だ。
チャリティーイベントでもあるので、お店の売り上げは子供たちの治療に役立てるため寄付される事になる。
「でも、ひとつ心配なお知らせもあるのです。この花時さんは、魔法少女の素質を秘めた子でもあるんですよ――」
|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》。
√マスクド・ヒーローで発生している、子供たちが男女問わず魔法少女に覚醒してしまう、謎の現象だ。
魔法少女に覚醒して戦えるならまだいいのだが、実際はそうもいかない。
覚醒直前や、覚醒したばかりの上手く魔法の使えない子供たちを狙って、デザイアモンスターが襲ってくる事件が多発していた。
今回は花時さんを狙い敵がやってくるので、助けてあげて欲しい。
「花時・ヒカルさんは、車いすに乗った妹のハルさんとイベントに参加していますから、すぐ見つかると思いますよ」
襲撃までは時間があるので、みんなもイベントを一緒に楽しんでみてもいいかもしれない。
エッグハントはもちろん、カフェで美味しい食事をしたり、ヒカルさんと話をしたりする事もできるだろう。
「敵が襲撃してきたときは……みなさんが花時・ヒカルさんと現場にいる子供たちを守ってあげてくださいね!」
みんなの命は君たちにかかってます。と星詠みが期待の瞳を向けてくるのだった。
●なぞなぞイースター!
広々としたカフェの庭はパステルカラーの装飾に色どられていた。
木々にはカラフルなテープや風船が飾られて、お化粧をしてるみたいだ。
庭には動物をモチーフとした置物や、秘密基地みたいなテント、アンティークな飾りもある。手入れの行き届いた花壇では春の花々が咲いていた。
「どこに卵があるのかなー」
「見つかんないよぉ」
他の子たちがしゃがみ込んで卵を探す。
僕も妹とやってくると、彼女の瞳がキラキラと輝いたのが分かった。
このエリアの問題には「森林や草原、月にもいるよ。ジャンプが得意なあの子はだーれだ?」と書かれている。
そばには沢山のお花が咲いた花壇と、可愛い動物たちの置物がある。
猫、しか、大きなウサギ、子供のキツネ、黄色いヒヨコにシマエナガ……。
「私、答えがわかったわ!」
妹がスタッフに話しかける。「卵があるのは……」とないしょ話をするように答えを伝えると、正解です、とカゴに卵を入れて貰えた。
「すごーい!」
「いいなー!」
とうらやましがる子供が寄ってくると、妹も一緒にやろうよって笑う。あっという間に友達になって一緒に次の卵を探し始めた姿をみて、僕もほっと息をついた。
君が喜んでくれたなら。このイベントを開催した甲斐がある。
事故に巻き込まれ、手術と聞いた時は妹が塞ぎ込んでしまい、どうなることかと思ったけど。
「大丈夫。今度は何が起きたって、必ず僕が守るから」
心の中で誓うと、妹が「また、なぞなぞを見つけた」と手を振るので、僕も歩きだす。
春うらら。今日を素敵な日にしよう。
第1章 日常 『今日はカミサマもお昼寝してるよ』
ラビットカフェでは、エッグハントを始めた子供たちの弾むような声があちこちから聞こえてきていた。
参加します、とくちにすれば、君にもカゴを渡してもらえる。
庭は大きく3つに分かれていて、それぞれでおもちゃの卵がかくれんぼしていた。
最初にやってくるエリアは、色んなお花が飾られたエリア。
『森林や草原、月にもいるよ。ジャンプが得意なあの子はだーれだ?』
『春の原っぱに咲いていて、最初は黄色い派手な服。次に白い服に着替えて、風に乗って旅立っていく子はなーんだ?』
見渡すと周りには、素敵な花壇と可愛い置物。
チューリップ、タンポポ、桜に菜の花と春のお花が咲きほこり。
そばには、猫や鹿、ウサギといった、柔らかな色合いの陶器の飾りがみんなを笑顔でお出迎え。
この中に卵は隠れているのだろうか?
次に来たのは人気のエリア。
まるでおとぎ話に出てくるヘンテコな御茶会みたい。
『火では燃えない、水の上に浮くものはなーんだ?』
『今は白くて硬いもの。でも、いつかはふわふわ黄色いもの。ときどき冷蔵庫やカゴの中にもいるわ。さぁ、私はいったい誰でしょう?』
長いテーブルにはお洒落なテーブルクロスがかけられて、その上にはお茶会のセットが並べられている。
それが可笑しいのなんのって。
紅茶をイメージしたティーポットは子供が入れるくらい大きくて。隣には同じくらい大きなプラスチックのカップの中に、氷に見立てた透明なオモチャがギュギュギュっと詰まっている。
かと思えばティーカップは眠りネズミにちょうどいい小さなもの。とても卵は隠せない。
お皿の上のケーキや、お菓子も、大小めちゃくちゃなサイズになっている。
1番目を引くのは中央の席のパンプティダンプティの置物。彼は大きすぎてカゴには入らないけれど、背中のフタを開けると中に何かがあるらしい。
最後のエリアは秘密基地。
テントの中では多くの子供が苦戦していた。
『眠っているのに、みれるものってなーんだ?』
『朝になると窓から部屋に飛び込んできて、夕方になるといなくなる。窓を開けなくてもガラスを壊さず入ってくるものってなーんだ?』
大きなテントの中に入ると、そこに日差しは届かない。
代わりに箱の上に飾られた大きなランタンが、まるでお日様の光みたいに穏やかなオレンジ色で周囲を照らしていた。
壁には星や月のモチーフが散りばめられている。目を擦って眠たそうなフクロウや、ムササビの置物もいろんな場所に置いてある。
けれどネズミの親子だけは、すでにベットに入って夢の中。
この薄暗い中で、卵を探すのは一苦労だ。
この庭で君は何個の卵を見つけられるだろうか。
1つでも見つけたら、ウサギのお姉さんが美味しいクッキーをプレゼント。
でも、全てを見つけたら。ぜひあの言葉を言って欲しい。
花時兄妹もなぞなぞとエッグハントに挑戦中。
君が手伝ってくれたなら、きっと笑顔になるだろう。
さぁ、素敵な時間を心行くまで楽しんでほしい。
●春と笑顔と内緒の話
優しい風が、花びらと暖かい笑い声を運んでくる。
謎を解いて卵を集めよう、とエッグハントのイベントに参加した|國崎《くにさき》・|氷海風《ひそか》(徒花・h03848)とミカエラ・ルミナス(|華おもゐ《徒花》・h09153)も、なぞなぞを見つけ出していた。
『春の原っぱに咲いていて、最初は黄色い派手な服。次に白い服に着替えて、風に乗って旅立っていく子はなーんだ?』
「答えは|たんぽぽ《Dandelion》かな?」
指で顎に触れながら呟いた氷海風の言葉。隣にいたミカエラが、目をまぁるくして声を弾ませた。
「たんぽぽ……!? すごい。僕、ちっともわからなかったわ!」
「あはは、クイズは得意ではなくてねぇ! 何となくだよぉ」
何となくでも答えは答え。
もちろん答えは正解だ。
春に咲く花の中で、タンポポは黄色花を咲かせてから、次に白い綿毛になる。
このなぞなぞは、たんぽぽの変化する姿を現していた訳だ。
スタッフに答えを伝えると、黄色い卵をカゴに入れてくれる。卵にはいろんな色の花々の絵が描かれていた。
「めっきり春らしくなったねぇ」
もっと見て回ろう。誘って二人が並んで歩く。
既に桜も満開で、ぽかぽかとした日差しが気持ちいい。のどかなお陰で、本物の動物たちが顔を出してくれそうなくらいだ。
「こうやって一緒に探してくれてありがとうねぇ」
「僕こそ、ご一緒させてくれてありがとう」
「ひとりで来るのは、ちょっと恥ずかしかったんだぁ」
実はね、って内緒をおすそ分けする氷海風の声で、ミカエラの耳がくすぐったい。
確かに大人が一人できていたら、周囲の視線が気になってしまうかも。
彼の話に、ミカエラがくすりと口元をほころばせた。髪に飾った牡丹の花が揺れ、ふわりとした花びらが温かい風に混じって舞い上がる。
「ふふ、かわいいわね。まるで君が春を連れてきてくれたみたい」
それは、友達の秘密に気づいた時みたいな、嬉しそうな笑顔だ。
「やっぱり出会ったときよりも愛らしさが増してるわ。ヒソカ、なにかあった?」
僕にも教えて、って輝く瞳を細めて顔を覗き込む。
対して氷海風は、どうだろう、と困ったような笑みで首をかしげて見せた。
店主としての――それ以外の顔も含めて。記憶の欠片をなぞってみる。
「何も変わってないと思うけどぉ……なにか変わったのだとしたら、それはいい事だとうれしいのだけれどねぇ」
「きっといいことよ。だって前よりうんと、すてきになってるんだもの」
自分では気づけない、心の中に芽吹くもの。
それは知らず知らずに成長し、変化していくものなのだから。
ミュカさんが言うならそうかもね、と氷海風が頷くと。いつもの調子を取り戻すように言葉のトーンを明るくする。
「そういうのミュカさんはなにか楽しいことあったぁ? 何があったかきかせてほしいなぁ!」
「僕? そうね、こうして君がお出かけに誘ってくれたこと。それが一番うれしくて、今この瞬間が一番たのしいわ」
ミカエラが穏やかな様子で笑う。楽しげにくるんとスカートをはためかせた。
ちょうど風で運ばれてきた、たんぽぽの綿毛を手のひらですくうと。ちょこん、と一つを摘まんで彼の鼻先に飾って見せる。
君にもっと春が来るように、なんて優しいおまじないみたいに。
「それは嬉しいねぇ! はは、いたずらっ子さんだねぇ、ミュカさん!」
サングラスの向こうで彼もくすぐったく笑う。
のんびり並んで歩く二人の間には、いつまでも談笑する声が響いているのだった。
●なぞなぞイースター 回答編
「おぉー! 子供たちで賑わっているぜ」
「復活祭でのエッグハントは定番ですからなぁ」
事件まで時間があるから――と訪れたイベント会場。イースターで賑わう子供たちに久遠・氷蓮(紅蓮の氷術師・h01405が楽しげな声を上げると、角隈・礼文(『教授』・h00226)が自慢の髭を撫でながら笑い返した。
空からは柔らかな日差しが降り注ぐ。カラフルな風船でお洒落した庭には、沢山のお花が咲いた花壇や動物を模した置き物が飾られていた。
その庭のどこかに隠された、オモチャの卵。見つけ出せばクッキーがもらえるという事で、子供が夢中になっていた。
「卵はなぞなぞを解いても手に入るそうよ」
いい暇つぶしができそうね、と飛鳥井・合歓(災厄の継承者・h00415)が日傘をさして語る。読書をするのも良いけれど、たまにはこういう遊びも悪くはない。
受付を済ませると、うさ耳を付けたお姉さんが笑いかける。
「もし、全部の答えが分かったら言ってみてくださいね。I solved the ――!」
さて、続く言葉は何だろう?
君にはいくつの答えがわかるだろうか?
●なぞなぞ① 森林や草原、月にもいるよ。ジャンプが得意なあの子はだーれだ?
氷蓮が色んな花々の咲いたエリアにやってくると、子供たちに手を振った。立派な花壇の近くには、可愛い生き物の置物だってある。
「おーい、俺も混ぜてくれ!」
彼が元気に話しかけると、子供たちも嬉しそうに「いいよー」って笑ってきた。
こうしてみんなと見つけた最初のなぞなぞ。
月に住んでいるだなんて、どんな生きもの何だろう?
けれど、彼はすぐに閃く。
「わかったぜ。①の答えは【うさぎ】だな」
この問題は、月にはウサギがいる、という日本や中国にある伝承を指していた訳だ。
「ねぇお兄ちゃん。本当に月にウサギはいるの?」
ゲットしたのはウサギの模様が書かれた卵。疑問に首をかしげる子供たちに、彼は「いたら面白そうだよな」と軽快に笑って見せた。
●なぞなぞ② 火では燃えない、水の上に浮くものはなーんだ?
合歓が関心を示したのは、お茶会のエリア。
不思議の国にでも出てきそうな大きなテーブルには、お皿やお菓子のほかにもティーポットやアイスティーの為の道具が用意されていた。
そこで見つける不思議な問いかけ。
燃えないものとは何のこと?
「そうね……私でしたらこれを選ぼうかしら」
アイスティーの道具を指さし口にする。
「②の答えは【氷】かしら」
氷は火を消すので燃えず、水の上にも浮く。本で読んだ事のあるなぞだ。
彼女が氷のように透き通った卵をゲットすると、近くにいた子供たちが、わぁっと拍手をしてくれた。
●なぞなぞ③ 春の原っぱに咲いていて、最初は黄色い派手な服。次に白い服に着替えて、風に乗って旅立っていく子はなーんだ?
エリアを戻して。花々に囲まれた場所で、氷蓮は子供たちと頭をかしげていた。
花が着替えるとはなんだ?
すぐにはピンと来てくれなくて、うーんとしばらく考え込む。
黄色く咲くなら桜じゃない、ミモザも白くはならなくて……?
そこにヒントをくれたのは、飛んできた綿毛だった。
「そうか、③の答えは【たんぽぽ】だ!」
最初は黄色い花を咲かせ、その後白い綿毛になると種が空を飛ぶ。
その変化を着替えと例えたわけだ。
「綿毛を飛ばすのって楽しいんだよな。やったことあるか?」
うん、と笑った子供たちと、見つけた花柄の卵を見せあった。
●なぞなぞ④ 眠っているのに、みれるものってなーんだ?
さてその頃。礼文は会場の最も暗い場所、テントの中へとやって来ていた。
大きなテントの中は、まるで動物たちの秘密基地。
奥を覗くと、ふくろうの絵や、眠るネズミがお出迎えする。壁には星や月のモチーフが飾られ、オレンジ色のランタンの光で照らし出されていた。
「ふむ、お困りのようですね」
そこで出会う車いすの女の子。なぞなぞが解けずに眉尻を下げていた。
様子を見ていた他の子供たちにも、やがて教えて欲しいとせがまれて。教授は先生らしい優しい顔をしてみせた。
「④の答えは【夢】ですよ。眠っていても見ることが出来ますからな」
夢を見る、という言葉から生まれたなぞなぞだ。
テントの中では唯一ネズミの親子が夢を見ながら眠っているので、探してみれば。子供があっという間に星柄の卵を見つけ出す。
「おじさま、ありがとう!」
車いすの子がお礼を言えば、教授も慎みながら笑い返す。
その独特な笑顔に目を丸くする子供たち。
そばにいた青年が「あちらも解けますか」と尋ねてくるので、次の謎にも挑戦を始めた。
●なぞなぞ⑤ 朝になると窓から部屋に飛び込んできて、夕方になるといなくなる。窓を開けなくてもガラスを壊さず入ってくるものってなーんだ?
「いくつか答えがありそうですな」
礼文がなぞなぞの問題文を見て気づく。この問題に答えは複数当てはまる。
けれど本質的にはどれも同じものを指していた。
「⑤の答えは【光】でどうでしょうか?」
斜光、太陽の光。あるいは日差し。
言葉の形は変わるけど、光はガラスを壊さず窓を通過してやってくる。
教授のいるテントには、太陽の日差しの代わりに、ランタンが部屋を照らしていた。傍でみつけた卵には、太陽のマークが描かれている。
「流石です」と青年が褒めてくれるので。教授もどこか懐かしい眼差しで答えた。
「いえいえ、お役に立てて何よりです」
●なぞなぞ⑥ 今は白くて硬いもの。でも、いつかはふわふわ黄色いもの。ときどき冷蔵庫やカゴの中にもいるわ。さぁ、私はいったい誰でしょう?
さてさて、合歓は困ってしまった。
お茶会のエリアを移動しようとしたら。なぞなぞの解けない子供たちに、泣きつかれてしまったからだ。
「お願い、教えてお姉ちゃん!」
捕まえるのは得意だけれど、自分が捕まるのは困る。
白くて黄色。硬くてふわふわ。そんなものはあっただろうか?
「ちゃんとあるわよ。⑥の答えは【たまご】じゃないかしら?」
卵の殻は固いけど、ヒヨコになったらフワフワだ。
そして彼女たちのいる広場には、大きな卵のキャラクターの置物があった。背中にあったふたを開ければ、子供たちと虹色の卵をゲットする。
泣き止んだ子供の顔には、満面の笑みが浮かんでいた。
●最後の謎には、この言葉
全ての卵を回収した三人が、再び集まった。
謎を解くのは、これでお終い?
いや、もう一つ残っている。
「そういえば、あの姉ちゃんが言おうとしていた言葉ってなんだ?」
景品のクッキーを齧りながら、氷蓮が思い出す。
I solved the 〇〇〇〇〇〇!
あの言葉の続きは何だったのか。
「その言葉でしたら、なぞなぞを楽しむ人が良く口にしているわね」
「答えの頭文字を並べると分かりますよ」
合歓と礼文は知っているらしい。
ヒントを貰って答えを並べてみる。並べるのは日本語ではなく、英語なので気を付けて。
なぞなぞの答えは。
①Rabbit
②Ice
③Dandelion
④Dream
⑤Light
⑥Egg
頭文字だけ読んでみる。……|Riddle《リドル》は、謎を表す単語。
もう彼にも言葉の意味がわかった。
全てわかったらぜひ言葉にして欲しい。この笑顔の三人のように。
「「「 I solved the riddle!(なぞなぞが解けたよ!) 」」」
第2章 集団戦 『デザイアモンスター』
●デザイアモンスターの襲撃
イベントを楽しんでいると、子供たちの悲鳴が響き渡った。
木々を傷つけながら、不穏なオーラを纏ったデザイアモンスターが現れたのだ。
それも一体ではなく、何体もいる。
庭で遊んでいた子供たちが震えあがり、わぁっと一斉に泣きだした。
そして悲鳴はもうひとつ。
花時・ヒカルと、その妹がほぼ同時に「うわぁあああ!」と騒いだ。
「ど、ど、どうなっているんだ?!」
「どうして、お兄ちゃんの頭にうさぎの耳が!?」
ヒカルは|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》に巻き込まれ、魔法少女と化していた。
変身の光が去ると、手にしていたのは魔法のステッキ。何やら兎をモチーフとした短パンの衣装とベスト。
可愛い見た目な上に中身は高校生のままなので。
(恥ずかしくて、死にそうだ……!)
けれど、流石√マスクド・ヒーロー生まれの子。
デザイアモンスターの姿を見ると、すぐに妹や泣きじゃくる子供の前に立ちはだかった。
今は戦い方さえわからない。足が震えて、声も上手く出ない。
でも、皆を守りたい正義感は一人前で。
「ぼ、ぼぼ、僕が、相手だ――」
そんな彼と子供たちの窮地に、EDENの皆が駆けつけた。
●春の嵐に花吹雪
「あらまぁ大変そうだねぇ」
|國崎《くにさき》・|氷海風《ひそか》(徒花・h03848)の良く通る声は、俯きそうだった花時兄妹を前に振り向かせた。
緊迫した空気の中。子供たちを守るように立つ氷海風だけは、余裕の表情を浮かべている。
(|妹妹《いもうと》たちを守りたいんだねぇ。その心意気、嫌いじゃないよぉ?)
だから、俺も守ってあげようとしようかなぁ、とにっこりと目を細める。
デザイアモンスターの放ってきた闇のオーラを、龍柄の煙管で払い落してみせた。
「あ……あなたは一体……?」
ヒカルの震えた声の問いかけに、振り向く氷海風は「今は内緒」と人差し指をたててウィンクし。
「はぁい、お話は後でだよぉ。少年達、後ろに隠れててねぇ」
それだけ話すと、まるで手品のように美しい黒い椿を作り出した。
「綺麗な花でしょ?」
口から放たれた詠唱が、黒い文字と化して椿の姿を形どる。
|黒椿《シュウエン》と名付けられた魔法の花たちが、宙を舞いデザイアモンスターへ襲い掛かった!
舞い上がる花吹雪が闇のオーラを弾き返し。敵の体を傷つけていった。
敵も慌てた様子で会場にある物へオーラを与え、デザイアモンスター化させて数を増やしていく。
だが。それで押される氷海風じゃない。
(わかるんだよねぇ。次の手が――)
暗殺の経験を活かし、敵の動きは予想済み。
正面からだけでなく、陰から、死角からも襲い掛かってくる敵へ。更なる黒椿を咲かせると花の嵐で迎え撃つ。
「守ろうとする姿かっこいいよねぇ! あはは、人間らしくて好きだよぉそういうのも!」
風を起こし黒い花弁の踊る中で、氷海風の弾んだ笑い声が響く。
やがて魔法に目覚めた子供へ、くるりと振り向いて。
「早く君の力も目覚めるといいねぇ!」
助言するように語る彼の周囲では、花に埋もれ動けなくなったデザイアモンスターたちが次々と倒れていくのだった。
●子供たちを助けよう
「見つけました。子供たちを襲おうとしているのは、デザイアモンスターのようですね」
「また魔法少女を襲いに来たみたいだよ。助けてあげなきゃいけないね」
敵に襲われている子供と魔法少女を助けるべく。志藤・遙斗(普通の警察官・h01920)が煙草の火を消すと、シキ・イズモ(紫毒の鳥兜未遂・h00157)と共に怯える子供たちの元に駆け付けた。
どうやら子供達向けのイベントの最中に、敵が襲撃してきたようだ。
幸い子供たちに怪我はない。
だが、不気味な容姿をしたデザイアモンスターは、そこにいるだけで子供たちに恐怖を与え震え上がらせた。ぐにゃりとした黒い体の周りには負のオーラが漂い、近くにあるものを力まかせに壊すからだ。
なにより、敵数が多いことが厄介だ。
シデレウスカードを構えたシキと、銃を手にした遙斗が、子供を守るように立ちふさがる。
「被害者が出る前に片付けてしまいましょう」
遙斗は敵の動きを分析すると、片手を地につけた。リミッターを解除した指先へと、霊的な力を集め始める。
「俺が動きを止めます。行きますよ、シキさん」
「ボクにまかせてっ」
遙斗が呼吸を止めて、一瞬。一気に放出された霊的疑似振動は、波紋状に広がる激しい振動となり、敵だけを次々と襲う。
「抵抗するなら容赦はしない!」
|制圧行動《テイコウスルナ》はデザイアモンスターたちの自由を奪った。
敵の表面が振動で壊れ始め、身体が崩れだす。
それでも暴れ進む敵へ。シキも攻撃を放ってゆく。
紫色の美しい髪を風に躍らせながら、音もなく颯爽と敵の間を駆け抜けた。
後に漂うのは、春に花咲く沈丁花よりも甘い香り。
細い指で揺れた箇所には鮮やかな紫が残っていた。
その正体はシキの得意な猛毒だ。
「悪い事をして……タダで済むと思ったの?」
|即応し奪い去る毒《ソクオウシウバイサルドク》を纏った指先に触れられたデザイアモンスターが、痺れて、壊れて、染まっていく。
毒は敵の中心で不気味に輝く|心臓部分《コア》に到達し、ドミノ倒しに倒れたデザイアモンスターたちは積み重なって動かなくなった。
子供達からは、見えない力で地震がおこり、指が触れただけで悪役が倒れていく、不思議な魔法に見えたのだろう。
守られ小さくなって怯えていた姿は、状況と共に変わっていく。
二人の活躍に、多くの子が泣き止んで、前を見つめていた。
「わ、お兄ちゃんお姉ちゃん、凄い……!」
「助けてくれたの……!?」
「どうもありがとう!」
子供たちの瞳に輝きが宿り、わぁっと明るい歓声があがる。
ヒーローを心から歓迎する声だ。
「まいったね、そんなにボクもいい子に見えるのかな」
思わず頭を掻くけれど、悪い気はしない。
「期待されているんでしょう。応援に応えるためにも、負けるわけには行きませんね。残りの敵も倒しましょう」
「ん、きっちりお仕事しておくよ」
遙斗の言葉に頷くと。二人は残る敵にも片付けていくのだった。
●デザイアモンスターをぶったおせ!
敵襲と聞いて駆け付けると、イースターのイベント会場で暴れるデザイアモンスターの姿があった。
黒いオーラを纏った不気味な敵だ。グネグネと不安定に歩く姿は、見る者に底知れぬ恐怖と不快感を与えてくる。
お陰で、イベント会場で居合わせた子供たちは震えあがってしまっていた。
でも、駆け付けた二人のEDENは、敵に怯む事はない。
御巫・朔夜(バレット・アクセプター・h01246)は表情を引き締めて、天霧・碧流(忘却の狂奏者・h00550)は戦いの気配に歓喜の色をにじませていた。
「せっかくの子供達の楽しみを壊して……悪趣味だな。迅速に敵を排除しよう」
朔夜が傍にあったイベントの品に触れる。
柔らかな色合いのイースターエッグから|武装化記憶《サイコメトリック・ジオキシス》で隠された記憶を読み解くと、サイコメトリック・オーラソードを作り出した。
そのまま子供を守るように立ちはだかる。
(俺は自分がヒーローになるなんて、興味ないけどさぁ)
と呟く碧流は手の中で弄んでいた鋭利なメスを敵へ向ける。
「ククク……敵が来るって言うなら、楽しませてもらわなきゃなぁ?」
その声を理解したのか、それとも闘争本能か。デザイアモンスターが震え、オーラを滾らせ仲間を呼ぶ。
朔夜と碧流は頷きあう。
「信頼していいのだろう? そちらの敵は任せた」
「あぁもちろん。さぁ、俺を楽しませてくれよ!」
言い終わるより先に、武器を手にしてデザイアモンスターに斬りかかった。
先手を打ち、デザイアモンスターを斬りつける。
敵から滲む鉄臭い香りがアドレナリンを促した。
朔夜がサイコメトリック・オーラソードで巧みに敵を引き付ける。
戦闘経験豊かな彼女にとって、この程度の戦いは朝飯前だ。
襲い掛かってくる敵の攻撃を、低姿勢で颯爽と潜り抜けると。そのまま隙をつき、懐の光る部分を豪快に切り裂いた。
(この敵に|心臓部分《コア》になる部分があるとしたら――ここだ!)
輝く剣はコアを真っ二つに両断する!
光る球体から、噴き出す魔力。
空気を奪われた風船のように、敵がみるみるしおれて倒れたのが見えた。
碧流も敵へメスを投げつける。
心臓部分に亀裂が入り斃れる敵へ、やれやれと残念そうに息を吐いた。
「ねぇ、これでお終い?」
大げさにがっかりすると、デザイアモンスターが両手をゆっくり前に突き出した。
――とたんに、倒したはずのデザイアモンスターたちを引き寄せて、その腕の中に吸収していく。
見る見る間に巨大化する腕。闇のオーラも強さを増して、いっそ恐ろしい姿へと変化する。
「……そうこなくっちゃねぇ!」
碧流の口端が持ち上がる。次は自分が空間ごと敵の前に引きずり出された。
振り上げた敵の腕。その腕が彼の眼前に迫る。
だが。
「いい顔だ……あぁ、そのまま堕ちていけよ!」
敵より早く幻影が燃え盛る!
|深淵の幻炎《アビス・ファントム・フレイム》は、瞬く間に敵を飲み込むと、その姿が消えてなくなるまで意識と存在を焼き尽くすのだった。
無事にデザイアモンスターを倒し終われば、子供達から歓喜の声が上がる。
しかし、戦いはまだ終わらない。
木の陰に潜んでいた、最後の敵が、ゆっくりと姿を現したのだから……。
第3章 ボス戦 『Drクトゥール』
●Drクトゥール
「いあ、いあ……! あぁ、嫌だわ……こ、これじゃ。私の作戦が台無し、じゃ、ないの」
恨めしそうな声でブツブツ呟きながら。木の陰からヌッと姿を現したのは神話怪人『Drクトゥール』だった。
自分の組織が壊滅して後も、密かに活動を続けていた狂気の科学者だ。
そのDrクトゥールが、親指の爪を噛む。
がりがり、がりがりと齧る指は、やがて血が滲み始めていた。
「ああ、EDEN。なんで、組織の、ふ、復活を邪魔するのでしょぅ。この計画の為に、魔法少女を回収するために……私は、私は……」
がりがり、がり。
とうとう指の第一関節まで食べてしまいながら、クマの濃い目で車いすの少女を睨んだ。
「あの女の子を、わざわざ、傷つけておいたのに」
言葉を聞いたとたん。
魔法少女化していた花時・ヒカルが、烈火のごとく怒る姿が見えた。
彼が握るステッキから魔力が零れ、皆を守るためのバリアが展開される。
『守るための魔法』。それが彼の持つ魔法だったのだ。
「ふ、ふふふふ! やっぱり、欲しいですねぇ、その魔法のエネルギー……!」
Drクトゥールの表情が歪む。歓喜じみた狂気の目には、もう魔法少女しか映っていない。
「守りを固めたところで、わ、私の真の姿には、耐えきれない、はずですよぉ? ふふ、ふふふふ! いあ! いあ! くとぅるふ ふたぐん! 今摘み取ってあげますからねぇ!」
髪がみるみると伸びて、怪物の触手へと変貌をとげる。真の姿の『クトゥルフ怪人』へと変わると、君たちに襲い掛かってくるのだった。
●怪人から魔法少女を守り切れ!
「子供たちが危ないって聞いて、助けないわけには行かないのよね」
パァンッと勢いよく本を閉じ、柳檀峰・祇雅乃(おもちゃ屋の魔女・h00217)が子供たちを守る様に敵の前に立つ。
手にしていたのは、√能力・不思議なおもちゃ屋の裏事情によって調べた、敵にまつわる情報だ。
「あの怪人。過去にも子供達を攫って迷惑をかけているわね。今回の|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》のきっかけを作ったのも彼女の計画かしら? だとしたら……」
お仕置きが必要よね、と睨む彼女に、ひぃっと怪人『Drクトゥール』が肩を震わせた。
「うむ。Drクトゥールがやりそうなことだね」
「私たちが来たから、もう大丈夫よ。皆は下がっていてね」
落ち着いた様子で頷いて見せたのは、幽霊の切金・菖蒲(神出鬼没・h07929)だ。
震えあがっていた子供たちには、御門・雷華(エルフの|精霊格闘者《エレメンタルエアガイツ》・h00930)が優しく声をかける。
三人の登場に、子供たちは落ち着きを取り戻し始めていた。
「……お姉さんたち、ありがとう」
お礼を言ったのは、一番足が震えていた魔法少女だ。ステッキを握りしめると、唯一使える魔法でバリアを作ってくれる。
輝く球体状のバリアに守られて、祇雅乃が微笑む。
「素敵な魔法をありがとう。必ず倒してくるわ」
その様子に、親指を噛みしめていた敵が負のオーラを爆発させていた。
「わ、わ、私を舐めて貰っては困るんですぅ……! 多人数は苦手でも……そ、その魔法少女のエネルギーは、回収させていただき、ます!」
Drクトゥールの黒い髪がみるみるうちに伸びてゆく。陰鬱とした研究者だった姿は、やがて蛸を模した触手を持つ怪物へと変化した。
空を切り、触手がみんなに襲い掛かる。
即座に銃を構えたのは、雷華だ。
「あなたの相手は私たちよ。かかってきなさい。――いくわよ。相棒」
早打ちは雷華の得意分野だ。予めチャージしていた精霊の力を借り、精霊銃で敵の本体を狙い撃つ!
無数の触手の動きをよみ、連射されたエレメンタルバレット『雷霆万鈞』。
轟く雷撃の如く触手を打ち抜いて風穴を作り出す。残る弾が穴を抜けてDrクトゥールの脇腹へ命中すると、放電しながら爆発してみせた。
「ぎゃぁあああ!」
大きくよろけたDrクトゥールは、喚きながら残りの触手を操作する。
襲い来る太い触手で子供を人質に取ろうとするが、EDENたちとバリアが邪魔で届かない。
先ほどの弾丸の効果で雷を纏う雷華の蹴りも、Drクトゥールの攻撃を押し返した。
「行かせないわ」
「……あぁ! じゃ、邪魔をしないで……下さいぃ!」
「そういうわけには行かないんだよ。代わりにキミにはこちらをプレゼントしておこう」
急に敵の背中側から声がした。その正体は気配を絶っていた菖蒲だ。
「相応の実力がなければ使用者喰らう呪具だ。だが、毒と薬は紙一重、使い方次第では薬ともなる」
召喚する無数の|暗殺呪具《ソウルイーター》。
暗殺の経験を生かした幽霊の武器は、容赦なく敵の背中を襲う。慌てて敵が触手を盾にした。
「おっと、その触手で防いだつもりなのかな?」
触手に突き刺さった菖蒲の呪具は、そのまま根を張る様に融合していった。
とたんに重くなる、Drクトゥールの身体。内側から蝕む暗殺呪具が、敵の動きを鈍らせる。
その隙に菖蒲の杖に偽装していたソードケインを抜刀し、敵の本体を切り裂いた。
更に、祇雅乃も距離を詰める。走る彼女は、大きな魔導書を片手で振り上げた。
「観念してもらうわよ!」
勢いよく振り降ろされる本の角。
ゴッッ! と鈍い音を立てて、敵の頭に本がめり込んだ。
ため込んだ魔力と自慢の怪力によって、渾身の一撃をお見舞いしたのだ。
「……いやァアあぁ! 邪魔、シナいで、くだしァイぃ!」
Drクトゥールが叫び声をあげる。EDENの猛攻をうけたせいか、足元がふらふらとおぼつかない。
それでも諦めきれないのだろう。髪を膨張させ、失った分の触手を生み出してゆく。
呂律は既に回っていない。しかし、意地でも戦おうとする執念は異常なものを感じさせた。
「まだやりたいようね。けれど、あなたの計画通りになんてさせはしないわ」
雷華がトトンッと軽いステップを踏んでみせる。
もう一度、思いっきり蹴り飛ばしても構わない。と彼女は帯電した電気を強くする。
「同感だな。ボクを知覚できないキミに勝ち目はないと思うんだよ」
平然として菖蒲も言い返す。
けれど納得しないDrクトゥールの触手が、再び襲いにかかって来た。
三人が迎え撃ちにかかる。
その後ろからは、守っている子供達からの暖かな声援が、聞こえてくるのだった。
●影とゲームと英雄と
「ああ、一般人たちを守ってくれるなら楽でいいや。頼むぜ、魔法少女」
俺はそっちまで気を配らないから、と片手をひらりと上げ、天霧・碧流(忘却の狂奏者・h00550)は前に出た。
魔法少女と呼ばれた花時ヒカルが頷いてステッキを握りしめる。子供達と碧流にバリアの加護を授けてくれた。
その様子に、傷だらけのDrクトゥールが唇をかみしめる。
「わ、私の計画の為に、……魔法少女をよこしなさぃぃ!」
「いいねぇ、そうでなくっちゃ」
冒涜的な暴力を振りかざす敵の触手攻撃。
紙一重で避けながら碧流は嗤う。素早く自分の影を編み、音もなく眷属簒奪印を作り出すと、ヤミイロが放たれた。
ヤミイロは敵の力を弱体化させる、あっという間に干からびた触手を、彼は素早く斬りつけた。
けれどヤミイロが効くのは敵だけではない。
魔法少女も対象なのだ。揺らいだバリアが、弾けて消える。
その瞬間、敵の口が歪んだ弧を描く。
無防備になった魔法少女へ、弱体化の触手で襲いかかった。
でも。
「ヒーローとか魔法少女は俺と違って、絆やら想いやらの力でなんとかできるもんだろ。――守って見せろよ」
碧流が敵を背後から襲い、活を入れる。彼の言葉で魔法少女の背筋が伸びた。
寸前のところで、再構築したバリアが敵の触手を弾き返す。
「な、なぜ、ですかぁ?! 賢い私の計画が、こ、こんなに狂うなんて」
驚く敵の背中を踏みつける形で碧流が自由を奪う。
敵の首にはメスが添えられた。
「賢いだって? じゃあ、クトゥールに俺からなぞなぞだ。どれだけ欲しがっても、絶対に手に入らないものってなんだ?」
「え? ……な、に?」
一瞬の間のあと、彼は笑って見せた。
「……答え。お前が欲しがってるもの全部だ」
最初から、敵の欲しがるものあげる気なんて、ひとつもないのだから。
ゲームオーバーと言葉を残して、鋭いメスがDrクトゥールを切り裂いた。
●華々しく最期を
「あらまぁ今度は怪人? クトゥルフ良いよねぇ、訳が分からなくてグロテスクで」
――でも、俺と同じ側だ。
明るく話す|國崎《くにさき》・|氷海風《ひそか》(徒花・h03848)の声が、突如として温度を失う。微笑む彼の姿に、Drクトゥールは青ざめた顔をひきつらせた。
氷海風は人間災厄。怯える側ではない。恐怖を与える側なのだ。
「さぁて|宵闇《ダリア》、おいで? あの時の再現をしよう――」
氷海風の手から、溢れんばかりの大輪の花が現れる。
言い終わるより先に。手から零れて舞い上がった花びらたちが、嵐となって周囲の視界を奪い去った。
花の中で何が起きているか。魔法少女と子供達には見ることができない。
知るのは彼と敵の二人だけで十分なのだから。
「イヤァアアア! やめてくださぃい?!」
嵐の中で響き渡る敵の悲鳴。Drクトゥールは花びらの生み出す鋭利な包丁で滅多刺しにされていた。
刃は触手を切り裂き、敵を紅く染める。
それだけではなく、氷海風は愛用する銃で敵の身体を次々と撃ち抜いた。
猛攻に焦り、暴れ出すDrクトゥール。だが、冒涜的な触手は守りの魔法によって易々と弾かれる。
「そ、そんな……!」
「あの少年を失うのは惜しいよねぇ」
楽しむような災厄の声。
「だから今回は、君は倒されてくれるとうれしいねぇ!」
ダリアの闇は瞬く間に敵を飲み込み、身体を切り刻んでいく。
そして、敵を倒し花びらが消えると――子供達からの歓喜の声が、聞こえてくるのだった。
「助かった、の?」
へなへなと座り込んだ魔法少女に、氷海風が歩み寄る。
「少年はいい力をもってるねぇ。これからも大切な妹を守るといいよ。そういうが人間っていうものでしょう?」
彼の言葉に未来の希望を見たのか。ヒカルの目に涙が浮かんでいた。
「ありがとう、ございます……!」
「あはは、人間っていいよねっ」
その様子に満足そうに笑う氷海風の顔は、どこかスッキリとしたように華やいでいた。