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ヒーローショーの天才子役は魔法少女!?
●ヒーローショーの天才子役
「|鈴木《すずき》さーん、出番です」
「はーい。まぁボクに任せておいてよ」
少し大人びた様子の少女が舞台袖に現れる。まだ中学生にもなっていなさそうだが、とても利発そうだ。
舞台袖に用意された鏡で、最後の身だしなみチェック。
「うん、大丈夫。ボク、|香織《かおり》は今日も可愛い」
そう言って鏡を見て微笑んで、|鈴木《すずき》 |香織《かおり》は舞台へと駆け出していく。
そこではヒーローショーが繰り広げられていた。
香織はそこで襲われる子供役だ。
まさかそれが本当になり、そして、自分が戦うことになろうとは、この時はまだ、思ってもいなかった。
●天才子役は魔法少女!?
「いいなー、私もアイドルとして役者さんみたいなことしてみたいなー」
EDENたる√能力者達を突然呼びつけておいて、突然つぶやくのは星詠みのヨーキィ・バージニア(|ワルツを踊るマチルダ《ワルチング・マチルダ》・h01869)だ。
天啓的な予知を得て、その内容を伝えることができる√能力者である星詠みがこう前振りをしたからには、つまり、それに関わる事件が起きた、と言うことだ。それにしても多分に個人的な関心が混じっていそうだが。
「と、ごめんごめん。みんな、|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》のことはもう聞いた?」
|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》は√マスクドヒーローで起きてる事件で、子供達が男子女子問わず魔法少女に覚醒してしまう現象の事を言うようだ。それだけなら、まだしも、魔法少女が現れるとそれと対になってその心を狙う怪物『デザイアモンスター』が現れると言う方性質が悪い。
「これまでは、子供達を守るために造られたメカ『ロボトロン』達が、デザイアモンスターを退治してきたみたいなんだけど……」
どう言うわけか、最近、|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》が大量に発生し始めたらしい、とヨーキィは続ける。
「それと並行して、ヨーキィちゃんみたいに星詠みの予知に引っかかるケースも発生し始めたみたい」
罪なき人が傷つけられる可能性があると言うなら、それを放置できるはずはないよね、とヨーキィはEDEN達に視線を投げた。
「最初の話にやっと繋がるんだけど、今回、|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》で覚醒してしまうのは、|鈴木《すずき》 |香織《かおり》。小学四年生だよ」
そんな若い子でも魔法少女に覚醒すると言うのだから、驚きである。
「香織ちゃんは、若くしてありながら、天才子役として知られていて、よく魔法少女系のヒーローショーとかにも参加したりしているみたい」
今回の事件が起きる場所もヒーローショーの最中みたいだね、とヨーキィは語る。
「本当なら危機を伝えて逃げてもらうのがベストなんだけど、香織ちゃんはプライドもプロ意識も高いから、ステージを放り出して逃げられないみたい。みんなをスタッフとして登録しておいたから、それとなく香織ちゃんと接触して顔見知りになりつつ、デザイアモンスターの襲来に備えて」
しばらくしたらヒーローショーの最中に、|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》が発生し、香織が魔法少女に覚醒、デザイアモンスターに襲われることとなる。
「上手く、香織ちゃんを守りながら、デザイアモンスターを倒してね」
その後は、ヒーローショーが突然惨劇になったことでショックを受けた保育園児達を香織と共に慰めてほしい、とヨーキィは言う。
「香織ちゃんは、人々の目の前で変身しちゃってるからね。誤魔化すためにもベストなのは、襲撃自体がヒーローショーの一環だったと言うことにして、ヒーローショーを続けることだと思う。その辺りの方針はみんなに任せるよ」
「まとめると、香織ちゃんにヒーローショーで接触、デザイアモンスターを倒す、園児達を慰撫し、香織ちゃんの秘密を守る、ってこと。新しい事態ではあるけど、やることはシンプルだね」
そう言って、ヨーキィは微笑んだ。
これまでのお話
第1章 日常 『ローカルヒーローショー』
「つまりは『ロボトロン』が間に合わないかわりに、私たちが行くってことよね。わかった、行ってくるわ」
そう言って、星詠みの言葉を要約して頷くのは√仙術サイバーの最上層、上海Ⅶで暮らしてきた幽夢派仙人、燦・シレンティウム・インフィニトゥム・天(煉丹師・h12794)だ。
そうして、燦がヒーローショーの会場に向かっている間に、先にヒーローショーの現場に少女が一人迷い込んでいた。
「……ここ、何処でしょうか……!?」
√ドラゴンファンタジーの名家の令嬢である少女、竜宮殿・小奈(もしくは、今はまだ名も無き新米魔法少女・h12779)は状況が飲み込めず、キョロキョロと周囲を伺っている。
「明らかに、私が元々居た世界じゃないですよねっ?」
どれだけ周囲を見渡しても、彼女の住む√ドラゴンファンタジーでなら当たり前の見えるはずのダンジョンやDBECと言った異種族達も見当たらない。
小奈にとってここは単に見慣れない場所ではなく、明らかに異郷であった。幸いなのは彼女は10歳にして利発な少女であったことだろう。速やかに、ここは自分の知る世界——√のことだが彼女はそれを知らない——ではないと看破した。
しかし、事態の進行はそれより早かった。
「君が代役の子だね、さ、入って入って」
ヒーローショーのスタッフが小奈に気付くと、小奈はあれよあれよと言う間に、ヒーローショーの舞台袖に連れて行かれてしまう。
(「しかも……このヒーローショーのスタッフの人たち、私が来られなくなった子役の代役って勘違いしてます……?」)
とはいえ、そこは利発な小奈のこと。スタッフ達のやりとりを聞いて、すぐに事情を察知する。どうやら、来るはずだった代役の少女も青いメッシュの髪が特徴的な少女であるらしく、そこから誤認されたようだった。
このままでは勘違いされたままヒーローショーに参加することになってしまう。
悩んだ小奈は周囲を見渡し、情報を集める。
そして彼女の視界に入ったのが、今回の渦中となる少女、鈴木 香織であった。
「鈴木さーん、まもなく出番でーす」
「はーい。まぁボクに任せておいてよ」
(「と、とりあえず、歳の近そうな女の子……鈴木さんて呼ばれてましたっけ? 話し易そうな彼女に助けを求めましょう」)
そう決めて、鏡に向かってスタイルを確認する香織に、小奈は声をかける。
「あの――」
「何? 挨拶が遅いんだけど。先輩であるボクに今まで挨拶もしないなんて、どう言うつもり? プロ意識無いわけ?」
小奈は香織のことを微塵も知らなかったわけだが、香織の方は、小奈——厳密にはそう勘違いされている元の少女——のことを頭に入れていた。だから、香織には「後輩である少女が自分に挨拶なく過ごした上、いきなり不躾に声をかけてきた」とそう感じた。
「……は? …………先輩の役者に挨拶も出来ないのかって? ……プロ意識の欠片も無い?」
勘違いとはいえ、そんな言葉をぶつけられた小奈も黙ってはいられない。
「……あなた、何歳でしょうか?」
「なに、共演する役者のデータも頭に入ってないの? ましてこのボクの年齢を知らないの? ちなみに、小学四年生だけど、だからどうしたの?」
「へえ……小学四年生。――私、五年生なんですよ」
「え、それプロフィールと違——」
「あなたこそ年上への礼儀がなってないんじゃないですかねっ?」
「なんですって? 私より芸歴も経験も浅いくせに年齢を傘に着て偉ぶろうっての?」
一発触発のその時。
「天さん、入られまーす」
「はじめまして、鈴木さん。私は天・燦。今回の悪役の一人です。よろしくお願いします」
蓮花の意匠が付いた霊樹製の杖を手に、燦がやってくる。
彼女はヒーローショーとやらに詳しくなかったが、拠点たる仙窟『幽夢の洞』に召喚した仙人執事に調べてもらい、念話を通じて概ねを把握していた。
「あら、最初に私に挨拶するなんて分かってるわね。ご存知と思うけど鈴木 香織よ、よろしくね」
「舞台で先輩になる人へこうして挨拶するのは、当たり前では?」
かしずかれるのを当たり前と感じている燦ではあったが、ここが故郷たる√仙術サイバーでないことはきちんと理解している。「郷に入っては郷に従え」の精神をきちんと持ち合わせていた。
「その点、こっちの子は……、まだまだね」
そう言って香織が小奈を見て、やれやれ、と肩をすくめる。
(「――予定変更、決めました!」)
そうして、小奈は決めた。
(「このヒーローショーを鈴木さん以上に盛り上げて、この子をギャフンと言わせてみせます!!」)
本来なら、スタッフの誤解を解いて、謝り、この場を去るべきべきである。それは小奈も理解していた。
だが、それはもう頭に血が昇り易い彼女の中では許されなかった。
(「……スタッフの皆さんの誤解を解いて謝るのはその後でっ。やってやりますっっ!!」)
かくして、ヒーローショーは始まりを告げる。
偽りのヒーローと本物の「魔法少女」が交錯する危険な危険なヒーローショーが。
第2章 集団戦 『デザイアモンスター』
ヒーローショーはつつがなく進んでいく。
中盤、香織の出番が訪れる。
香織がステージに立ち、迫真の演技で、被害者役を演じ、舞台が大いに盛り上がる。
しかし、突如、香織の周囲を未知の光が溢れ始める。
(「な、なに? ボク自身が光ってる……?」)
一瞬困惑する香織、だが、プロ意識でそれを打ち消し、アドリブで問いかける。
「ぼ、ボクになにをした!?」
「今に分かるわ」
悪役を買って出た杖を構えたEDENがそのアドリブに応じる。
直後、光が収束し始め、香織の服装はグレーと銀を基調とした魔法少女の姿へと変わっていた。
「な、なに……?」
流石の香織も自分が意図せず早着替えする——まして主役を食うような服装で——ことになるとは思っておらず、困惑する。
だが、香織に混乱している時間はない。
『デザイアモンスター』が雪崩れ込むようにヒーローステージに入ってきたのである。
「お前達の仕業か!」
香織は必死で恐怖を自制し、拳を握って構える。
この姿にこの状況、プロである自分が主役を張って牽引するしかないと考えたのだ。
とはいえ、香織も戦闘は素人。まして、武器らしき武器も持っていない。
小学四年生の小柄な彼女では徒手空拳も限界があると言うものだろう。
彼女を支援し、あるいは守りながら、デザイアモンスターを倒し、人々を守らなければ。