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四月一日怪異戦線

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柳・依月

 深夜。人気のない校舎。
 明かりのついていない暗い廊下を丸い光があちらこちらと泳いでいる。
 懐中電灯を片手に進むひとりの男、|柳《やなぎ》・|依月《いつき》はこの|四月一日《ワタヌキ》小学校に勤務する用務員である。
 彼の仕事は児童達が登校するより早く、彼等が帰った後も続く。
 通常、規定の時間になれば各教室や出入り口を施錠して業務を終えるのだが、彼にはもう一つ果たすべき役割があった。

 前方、ぴたりと光が止まる。
 そこにいるのはひとりの……否、|それ《・・》は人間ではない。本来なら理科室にいるはずの骨格標本だ。
 剥き出しになった骨の白は暗闇の中に映え、光が当たれば尚の事。かしゃりかしゃりと骨を擦り合わせる音が伊月へと迫る。
 夜間警備をも担う彼の役割。それはこういった異常をあるべき姿に戻す──事ではない。
 
『用務員、金次郎から通達有り。侵入者だ』
「うげっ、今日もかよ……」

 苦虫を噛み潰したように眉根を顰め、当たり前のように話し掛けてきた骨格標本へと返事する。
 この標本は伊月の味方。彼等は怪談衆を名乗り、学校に住み着く怪異達だ。
 広く多くに知らしめる事で存在強度を高める他の怪異と異なり、学校という限定された領域のみに出現する代わりに存在濃度を深めた特殊な怪異。
 故に人間を必要以上に害せず、死人が出ない程度に脅かし、恐怖を得る代わりに|学校《なわばり》にある全てを護るのだ。

「今度は何が入り込んだってんだ」
『八尺様だ』
「おいおい、片田舎からここまで来たのかよ。都市伝説ってのは節操ないな」

 標本の案内で目的地に向かいながら次の手を考える。
 最近の都市伝説は強い。この数年で急速に強度を高め、怪異となり|姿《かたち》を得た。その上弱点や退散方法の少ない彼等を撃退するのは難しい。
 ただの人間相手であれば、の話だ。

「八尺様なら校舎内まで侵入できないだろ。外で仕留めて敷地外へ追い払おうぜ。てけてけは?」
『|人体模型《あいぼう》が呼びに行ってる』
「助かる。八尺様は俺とてけてけで対処するから引き続き警戒しててくれ」
『了解』

 美術室の前で標本と別れ、伊月は窓の外を見る。すらりと長い、白いワンピースを着た女の姿を捉えればにいっと笑って帽子を脱いだ。

「始めるか。『学校の怪談』の矜持、見せてやるぜ」

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