シナリオ

√横断!恐怖の悪質転売ヤー作戦!

#√EDEN #√マスクド・ヒーロー

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「√EDENに怪人出現。怪人殺しの時間なの」
 そんな連絡を受けて集まった√能力者達の前で、晦日乃・朔夜(虚眼の暗殺者・h00673)は自分が視た予知について語り始めた。
「秘密結社プラグマに協力する外星体『ズウォーム』が、√マスクド・ヒーローから配下を引き連れて、√EDEN征服作戦を企てているの」
 外星体ズウォームは地球への愛ゆえにプラグマの掲げる『全√支配』に理解を示し、√EDEN侵略にその頭脳を使っている。本人からすれば慈善行為なのかもしれないが、地球人類――特に√EDENの住人にとっては迷惑な事この上ない。

「ズウォームは配下の戦闘員を√EDENの日本各地に散らばらせて、物品の買い込みを行わせているの」
 対象となるのはホビーやトレーディングカード、あるいはアニメやゲームの限定グッズといった、品薄になりやすく価値の変動が激しい商品だ。秘密結社プラグマの資金力と組織力を使って、彼らはこれらの品を大量に買い占めようとしている。
「買い占めた商品は√マスクド・ヒーローに持ち込んで、そっちで転売する予定みたいなの」
 √をまたいでしまえば足がつく心配もなく、高額転売でプラグマはさらなる資金源をゲット。そして本来欲しかった商品が手に入らなかった√EDENの住人は悲しみに暮れ、なんやかんやで世界はプラグマの手に落ちるという計画だ。

「ふざけた計画なの。さくっと叩き潰すの」
 まずは一般人に紛れ込んだプラグマ戦闘員による買い占めを阻止するところからだ。
 手段は問わない。力ずくで阻止しても、買われる前に買ってしまっても、なんらかの交渉を持ちかけるでもよし。とにかくプラグマの手に商品が渡らないようにしよう。

「作戦を妨害すれば、向こうも力ずくでこちらを排除しにくるの」
 一番可能性が高いのは、買い占めに参加していた戦闘員が正体を現して襲ってくるケースだが、もしかすると√EDEN側にもプラグマの作戦に協力する者がいるかもしれない、と朔夜は語る。
「まあ、どっちにしても殺る事は変わらないの。配下や協力者を倒されたら、指揮官のズウォームも出てくるはずなの」
 彼は宇宙的価値観において地球を愛しているが、その思想はこちらとは相容れない。
 戦闘になれば外星体としての能力を遺憾なく発揮して、作戦の障害を始末するだろう。

「ズウォームを倒せば、プラグマの悪質転売作戦もご破算なの。二度とこんな事ができないように、よろしく頼むの」
 説明の終わりに朔夜は√能力者達に、予知で入手した「プラグマが買い占めようとする商品・販売所」の情報を伝え、送り出す。ふたつの√をまたいだ悪質かつ組織的な転売行為、これを阻止できなければ大勢の人々が不幸になるだろう――。

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第1章 冒険 『多々買いから守れ!』


雨深・希海

「転売、許せないね。本当に許せないよ」
 転売目的で√EDENの商品を大量に買い占め、品薄を発生させようとする秘密結社プラグマ。その卑劣な所業に雨深・希海(星繋ぐ剣・h00017)が怒りを燃やすのも、彼女自身がかつて転売ヤーの被害にあったからだ。
「欲しかったプラモが初日で完売しちゃってて、フリマサイト見たら何倍の値段にもなっててさ。当然ぼくのお小遣いじゃ買えないし、買いたくもないけど、そういうの見るとどう塗装しようとかどう改造しようとかワクワクしてた気持ちも萎えちゃうんだよね」
 最悪だよ、と呟く一言に相当の怨嗟が籠もっている辺り、恨みの根は深そうである。
 たかが趣味、たかが玩具と舐めるなかれ。大切なものを手に入れる機会すら奪われた怒りと悲しみは、本人にしか分からない。

「というわけで、転売は全力で阻止するよ」
 気合十分の様子で、希海はプラグマ戦闘員の出現が予知された店にやって来た。丁度今日はとあるロボットアニメのプラモデルの発売日で、それを目当てでやって来たらしい客もかなりの数が見られる。
(まず、転売ヤーは大抵その作品のファンじゃないから、なんとなく雰囲気が違うはず)
 転売ヤーに作品への思い入れや愛着はない。ただ利益になるというだけで購入する輩には、商品に対する興味が根本的に欠けている。そういう人を見かけたら、彼女は直接疑問を突きつけていく。

「このロボットの名前を教えてください。正式名称で」
「え? ……ええっと」
 質問を受けたその客は、焦った様子でプラモデルのパッケージに視線を泳がせた。
 専門的な名前は一見さんでは分からないはず。この反応は間違いなくアタリだろう。
「炙り出し成功っと」
「なっ、なにを言って……いてっ?!」
 ボロを出した転売ヤーの背中に、ちくっと針で刺されたような痛みが走る。希海が操る【決戦気象兵器「レイン」】のレーザー攻撃を受けたのだ。普通の客とお店に迷惑をかけないよう出力は落としているが、何度も何度も撃たれるとヤバい。

「その商品を棚に戻して、大人しく帰るんだね」
「ち、ちくしょう……!」
 レインのビームでちくちくと撃たれ、ほうほうの体で店から追い出される転売ヤー。
 まずは一人、悪質な転売目的の購入を阻止した希海は、この調子で次の転売ヤーを探しに行くのだった――。

アクセロナイズ・コードアンサー

「転売ヤーはやつらのせいだったのか……!?」
 秘密結社プラグマの悪事と転売ヤーの真実を知ったアクセロナイズ・コードアンサー(変身する決闘戦士・h05153)は、ガーンと大きな衝撃を受けた。まさか悪質な転売の裏で悪の組織が手を引いていたとは。
「怪人め……ヒーローとして、カードゲーマーとして、絶対に許せねぇ!!」
 彼は『遊戯マスター』というカードゲームのヘビーユーザーであり、このジャンルは度々転売ヤーの被害を受けてきた。色んな意味で他人事ではないため、事件解決に向けるモチベーションも最高潮である。

「正義と遊戯を守るため、オレの出番だ! 駆けろアクセルボード!」
 コードアンサーは浮遊するスケボー型の乗り物に乗って空中を移動し、プラグマ戦闘員出没が予知された全ての店の行列を回って、怪しい連中を片っ端から見つけ出す。例えば商品棚の近くで電話やSNSを使ってるような奴らなんて、かなり怪しい。
(あいつら、在庫情報を共有しているんじゃないか?)
 組織的な買い占めなら、店舗ごとに斥候を送り込んで情報収集するのは常套手段だ。
 特に疑わしい輩を発見すると、彼はボードから降りて、何食わぬ顔で接触を図った。

「自分もこの箱で組みたいデッキがあるんですよね!」
「えっ? あ、そうなんですね」
 普段通りの態度で接近して話しかけると、相手はちょっと動揺しながら相槌を打つ。
 この反応だけなら、初対面の相手に急に話しかけられて驚いただけ、とも取れるだろう。そこからコードアンサーはさらに話題を膨らませる。
「今弾強化されたアレとかアレとか、レアじゃないけどアツいですよね!」
「あー、はい。分かります」
 知識の多寡を問い詰めるつもりはない。だがカードを商材としか思ってない連中は、興味のないカードゲームの知識を次々ぶつけられたら、ムカつくか辟易するだろう。面倒なヤツに捕まった――と内心では思っているはず。

(その顔を見逃さないぜ!)
 カードへの無関心さを表に出してしまった時点で、コードアンサーはコイツが転売ヤーだと確信する。となればコイツをレジに行かせるわけにはいかない。店の迷惑にならないよう「穏便に」退場してもらおう。
「立ち話もなんですし、もうちょっと話しましょうよ!」
「えっ、いや私は……!」
 コードアンサーにガシッと肩を組まれ、店の外に連れ去られていく転売ヤー戦闘員。
 善良なカードゲーマー及びカードショップが転売被害にあう危機は、こうして阻止されたのだった――。

御茶菓子・如何

「いらっしゃいませ。ご来店ありがとうございます」
 とある街のおもちゃ屋さんのレジに立つ、電子的なAI口調が特徴的な白髪の少女。
 この店に秘密結社プラグマの転売ヤーが現れると知った御茶菓子・如何(アクセプター・イロハ・h01417)は、事前にバイトとして雇われていた。
(高額転売されるほどの商品を並べるのですから、バイトの数は多い方がお店側もありがたいと思います)
 採用されるのは特に難しくなかった。客の中から転売ヤーを見極め、悪質な買い占めを防ぐには、店員として働くのが好都合だと考えたのだ。表向きは真面目に業務をこなしつつ、彼女はレジにやって来た客に質問を投げかける。

「私、その作品大好きなんです。ところで、特にネットで話題になった〇話の●●、どんなキャラクターが使っていたかご存じですか?」
「えっ? えーっと、それは……」
 その商品の元となった作品が好きなファンであれば、知っていて当然の簡単な質問。
 ところが尋ねられた客のほうはすぐに答えられず、明らかに動揺して言葉を濁した。
「そちらのフィギュアも、搭乗していたキャラクター……のお父様の本名を言えますか?」
「ちょ、ちょっと待ってください! 今思い出すんで!」
 如何がさらに質問を重ねると、相手はますます慌てだす。考え込む素振りが白々しい。
 どんなグッズも転売用の商材としか見ていない転売ヤーには、原作の知識も愛もない。この手の輩をあぶり出すには定番のトラップだ。

「おかしいですね、何度もアニメで登場していましたよ?」
「そ、それは……その、このフィギュアは娘が欲しがっていて! なので私はよく知らないんですけど!」
 追い詰められた転売ヤーは、苦し紛れに言い訳をする。子どもへのプレゼントなら、親がその商品に詳しくないのはおかしくない、と主張するつもりのようだが。その程度で如何は追求を緩めたりしない。
「子どもが欲しい? ならそのお子様をこの場に連れてきてください」
「が、学校に……」
「なら電話してください」
 無機質な口調でガンガン問い詰めてくるバイト店員。転売ヤー側からすれば厄介な相手に捕まってしまったと頭を抱えたい気分だろう。どんな言い逃れもできないよう、徹底的に逃げ道を塞がれてしまった。

「こちらも商売なんです。さあさあ、できないのでしたら売ることはできませんよ」
「く、くそっ……覚えてろよ!」
 とうとう言い訳のネタが尽きた転売ヤーは、捨て台詞を残して手ぶらで店を出ていく。
 無事に商品を防衛できて、少し得意気な如何。だがまだ本日の勤務時間は終わっていない――次なる転売ヤーの来襲に備えて、彼女は仕事を再開するのだった。

イルフィリーズ・メーベルナッハ

「うふふ、転売屋さんなんて死んじゃえば良いよね❤️」
 朗らかな笑顔で転売ヤーへの殺意を1ミリも隠さない、イルフィリーズ・メーベルナッハ(止まぬ闇と病める夜・h01239)。未知なる√よりやってきた人外の種族にとっても、やはり転売は許すまじき悪行なのか。
「っても最初から問答無用ってワケにはいかないし、まずは買い占め阻止から始めましょっか」
 彼女は星詠みから貰ったリストを元に、転売ヤーが出没する店へ向かう。そこには開店前からすでに店舗前に並んでる人達が大勢いた。そのうち何人が転売ヤーかは分からないが、敵は秘密結社の組織力をフル活用して商品を買い占めるつもりのようだ。

「まずはこの辺に爆弾を仕掛けて……」
 イルフィリーズは【愉快犯爆弾魔】で正直病の病原菌を仕込んだ腹腹時計を生成し、開店5分前に起爆するようにタイマーをセットして待機列へ設置。普通の爆弾だったらただのテロ行為だが、これは一般人に危害を加えるのが目的ではない。
「3、2、1……ドカン❤️」
 彼女が設定した通りに腹腹時計は起爆。心霊的な爆発なので普通の人には知覚できないだろうが、正直病の病原菌は撒き散らされた。病原の巣「クランクハイト」の女は妖しげな笑みを浮かべ、並んでいる人達に話しかける――。

「ねえ、あなたは何を買いに来たの? なんのために買うの?」
「今日から発売になるアニメのフィギュアを……自分、すっごくファンなんで!」
 イルフィリーズに商品の購入目的を尋ねられると、相手は素直に理由を話す。正直病に罹った人達は嘘をつけないので、口にした言葉は間違いなく本心である。隠す必要のない目的なら、問題はない。
「あなたは?」
「俺も同じフィギュアを、俺達の√で転売するために……あっ!?」
 だが転売目的で並んでいた転売ヤーは大変だ。素直にそれを言ってしまうのだから。
 慌てて口を噤もうとしても、正直病に罹った舌は止められない。問われたが最後、腹にしまった悪事を全部白状してしまう。

「あらあら。じゃあ、あなたは通せないよね」
 イルフィリーズは純粋に品物を欲しがってる人だけを通して、転売目的の人達は行列から追い出す。さっきの発言は他の人達にも聞かれているので言い逃れはできまい。そもそもウソが吐けないので抗弁のしようが無いが。
「無理矢理買おうとするなら、死なない程度にボコっちゃうよ?」
「うぐぐ……!」
 鉄打棒「ハマー・デア・リーベ」を振り上げると、転売ヤーは威圧的な雰囲気にビビり、これ以上余計な事を言わないよう、手で口を塞ぎながら逃げていった。これでもう、この店に良からぬ連中が寄り付くことはないだろう――。

リア・カミリョウ

「ここは権力を使いますわ。お父様は職員の上の方の権威のある人ですの」
 敵が悪の秘密結社という組織の力を使うなら、こっちだって同じ手段を取らせて貰う。
 リア・カミリョウ(|Solhija《太陽の娘》・h00343)はお嬢様としての特権をフルに活かし、敵に買い占められる前に商品を買い占めるという強硬手段に出た。
「なぁに、簡単な話ですわ。リア1人で買い占めるのは大変だから、人を雇いましてよ」
 彼女とともに店にやって来た人々は、父の部下や関係者だったり、お金で雇った現地の人だったり。秘密結社プラグマの組織力に対抗するため、この短期間で集められるだけの人員を集めたようだ。

「みなさん、会員カードは宜しくて?」
「「はい!」」
 さらにリアはあらかじめ店舗側に根回しをして、転売されそうな商品は店の限定会員だけ買えるように仕向けておいた。もちろん雇った人達には限定会員のカードを配布済みである。
「人海戦術ですわーー!!!」
 リアの号令、そして√能力【世界を変える歌】に合わせて、人々は一斉に店に突撃。
 彼らの傍らに出現する歌い手の幻影が、この作戦の成功率を底上げしてくれる。悪質転売ヤーなにするものぞ。

「こちらの商品1点のお買い上げですね。このキャラの名前は?」
 リアの雇った人員が商品を持ってレジに並ぶと、店員が商品を指して質問をする。
 これもリアが店に話を通しておいた対策だ。ファンなら簡単に答えられる質問を合言葉にすれば、無知な転売ヤーだけをあぶり出せる。
「魔法少女チャーミー・チョコミントちゃんです!」
「はい。ありがとうございます」
 もちろん雇った人達にはスムーズに答えられるよう手配してある。レジ前での行列が滞ることなく、商品は速やかにこちらの手に。商品棚が空っぽになるまで然程の時間はかからなかった。

「完璧ですわーーー!!!」
 逆買い占め作戦が計画通りに上手くいっているのを見て、リアは大満足。これだけ手際が良ければ、プラグマの転売ヤーが手を付ける隙もないだろう。もっとも、これだけだとやっている事は敵と変わらないのだが――。
「こちらで買い占めた物は、後日正規の値段で正しく再販売するから安心なさって!」
 もちろんリアはアフターケアも抜かりない。本来の購買層の手に渡るまでには、ちょっとだけタイムラグが生じてしまうが、悪い奴らの資金源にされるよりは良いはずだ。
 かくして思う存分振りかざされた権力の前に、秘密結社プラグマの作戦は阻止されたのだった。

パンドラ・パンデモニウム

「ぱんぱかぱーん! パンドラが来ましたよ!」
 ハイテンションに名乗りを上げて、とあるグッズショップに現れたパンドラ・パンデモニウム(希望という名の災厄、災厄という名の希望・h00179)。ここで秘密結社プラグマによる悪質な買い占めが行われるとの予知を受け、駆けつけたのである。
「むむ、買占めですか……良くないですね! 昔、商業の神ヘルメス様にもよくないことだと教えられました」
 必要としている人の元に、適切な商品を適切な価格で届けるのが商業の理想。必要以上の買い占めは需要と供給のバランスを破綻させ、モノとカネの流れを歪ませてしまう。商業神が苦言を呈するのも当然だろう。

「それだけに私が解放してしまった災厄『買占め』に対しては責任を感じます……ここは責任を取らねばなりませんね!」
 かつて、神々がこの世のあらゆる災厄を封じたという「パンドラの箱」。その伝説の当事者であるパンドラは、今回の事件も間接的には自分の責任だと考えている。それゆえ解決への意気込みも強い彼女は、勇んでグッズショップに乗り込むと。
「封印災厄解放! みんな仲良くしましょう!」
 【封印災厄解放「|みんななかよしぱんぱかぱん《フラットライン・フラタニティ
》」 】発動。名状しがたいほんわかとした雰囲気が、彼女を中心に広がっていき、店内にいる全ての人間――店員も客も転売ヤーも、まとめて包みこんだ。

「だめですよ、人の迷惑になるようなことをしてはね」
 ほんわか雰囲気が店中に行き渡るのを待ってから、パンドラは転売ヤーに話しかける。
 今まさに大量のグッスを買い占めようとしている連中に、そんな真っ当な注意をしても効き目はなさそうだが――。
「あっ、はい。ごめんなさい……」
 意外や意外。相手は素直に謝罪し、商品を元の棚に戻した。先程のパンドラの√能力は周囲の全員を「パンドラと仲良くしたい気持ち」にさせ、友誼や友愛で縛りつけるものだったのだ。

「むしろみんなで分け合って楽しくお買い物をした方がいいじゃありませんか。推し活は人が多い方が賑やかでいいですよ」
「そ、そうですね!」「みんなで楽しむのが一番です!」
 転売ヤーとして送り込まれた秘密結社の怪人とも、強制的に仲良しになったパンドラは、情に訴えかける形で買い占めを止めるように説く。本来の邪悪さがウソのように、彼らの大半は賛同を示した。
「い……いいや! 俺はどうしてもコレが欲しいんだ!」
 だが、そんな洗脳――もとい、説得にも渋る怪人はゼロではない。あくまで結社への忠誠と命令を第一とする者は、どれだけ言っても商品を手放そうとせず、無理やりレジで会計を済ませて店から出ていってしまった。

「意地っ張りな怪人さんもいますね……ま、問題はないですけど」
 しかし転売ヤーに逃げられても、パンドラは特に慌てない。ヤツが持っていった商品は、事前に「モルペウスの衣」で作り出した幻影とすり替えておいたからだ。当人は実物を買い占めたと思い込んでいるだろうが、実際は手ぶらのまま帰っただけである。
「さ、みなさんは1人1個までにしましょうね。列に並び直すのもだめですよ」
 帰っていった連中は放っておいて、残った怪人や客の統率を取るパンドラ。これ以降、こちらのショップでは一切トラブルが起きず、怖くなるほど平和であったという――。

カトル・ファルツア

「う〜む、やっぱり転売ヤーって奴はクズだな」
 とあるアニメグッズの販売店で、並んでいるのだろう転売ヤーに対して吐き捨てるのはカトル・ファルツア(ラセン使いを探す者・h01100)。自分は欲しくももないのに商品を買い占め、値段をつり上げた転売で不当な利益を得る。まさにクズの所業である。
『俺も転売には腹を立てている、転売阻止のいいアイデアがあるから紙に書いて欲しい』
 店舗側も転売ヤーには迷惑を被っているだろう。彼は「ピヨー」と言いながらも店員の前にスマホで入力した文章を見せる。√能力者ではない普通の人には、彼の言葉は鳴き声にしか聞こえないのだが、これならコニュニケーションが取れる。

「これでいいですか?」
 謎の客(?)からの提案に首を傾げながらも、店員はカトルの要望通りの文章を紙に書いてくれた。カトルはそれを受け取ると店内で行列を作っている人々の元に飛んでいき、彼らの視界に入るよう高々と紙を掲げた。
「おい、これを見ろ!」
 そこには『このフィギュアのキャラの必殺技を答えよ(店員の耳元で言いましょう)』と書いてある。このアニメのファンなら当然分かる質問だが、アニメを見てすらいない転売ヤーには答えられないだろう。

「ああ、アレね」「ひ、必殺技……?」
 ちゃんと店員に答えを伝えられた客はフィギュアを購入できたが、答えられない転売ヤーは購入を拒否されてしまう。店だって転売されるためにグッズを売っているわけではないのだから、当然の措置だ。
「おい、なんでだよ! カネは払うって言ってるだろ!」
「こ、困ります……!」
 が、それで素直に引き下がるようなら転売なんて企まない。いいからとっととモノを売れと、店員を怒鳴りつける転売ヤー。あと一歩で暴力沙汰になりそうな剣幕で、もはやただのクレーマーだ。

「おい、みっともないぜ……消えろ」
 そんなゴネる連中に、カトルは√能力【|覚醒精霊憑依獣のラセン《スピリットクリーチャー・ラセン》】を使用。巨大な鳥型の龍神に変身して睨みつけると、転売ヤーはビビッて「ヒッ……お、覚えてろよ!」と捨て台詞だけ残して逃げていった。
「くそ、転売ヤー多すぎだろ!」
 秘密結社プラグマは一体どれだけの戦闘員を送り込んできているのか。カトルはその後も転売ヤーの対応に追われる。ファンのためのグッズが悪の資金源にされる、そんな最低の事態は断固阻止しなければ――。

星谷・瑞希
鳳崎・天麟
鳳崎・蓮之助

「うわぁ……最低!」
 秘密結社プラグマの悪質転売作戦に、星谷・瑞希 (大切な人を守る為に・h01477)は不快感を露わにする。彼も以前欲しいゲームのグッズがあったが、転売ヤーによって買うことが出来なかった事があったからだ。
「でも……どうしようかな?」
 買い占めを阻止したくても、そう簡単にはいかないから転売ヤーは絶滅しないのだ。
 ゲームショップでうーんと頭を悩ませていると、瑞希は見覚えのある人達が列に並んでいるのを見つけた。

「あれ? 二人ともそのゲームやってるの?」
「あっ! 瑞希!」
「おう、瑞希」
 並んでいたのは瑞希の幼馴染の鳳崎・天麟(大切な人を守る為に戦う狩人・h01498)と、その義父の鳳崎・蓮之助(朱鱗159代目・h04842)だった。瑞希に声をかけられると、二人は笑顔で応える。
「あー、実は蓮之助の友達がこのゲーム好きらしいのですが怪我してしまったらしく買いに行けなくなってしまったらしくて私達が買いに来たんです!」
 二人がここにいた理由は天麟の説明通り、転売阻止が目的ではなく半ば偶然である。
 だが、邪悪な転売ヤーを放っておけないのは彼らも同じ。瑞希が今起きている事件について説明すれば、二人ともプラグマの協力者探しに力を貸してくれる事になった。

「まあ、転売ヤーだらけじゃねえか」
 天麟の説明中に蓮之助がざっと見回した限りでも、明らかにそれっぽい連中は店内に大勢いる。秘密結社の組織力を活かした人海戦術で、早い内から列に並んでグッズを買い占める作戦だろう。
「ん? ここって何時から並ぶとか張り紙無かったけ?」
「はい! 並ぶ時間が決まっているって友人が言っていたのでその前には並ばないようにしていましたよ!」
 そこでふと疑問を抱いたのは瑞希。確認してみると、確かに並ぶ時間が書かれた紙が貼ってあるのを天麟が見せてくれた。ショップ側からの転売対策で、時間内に並んだ人には列の後ろから整理券が配られている。

「転売ヤーはこういうのは見ない奴もいるので効果的ですね!」
「前の列の連中は時間前から居たので多分買えないだろうな」
「前からあったから、見てないで時間外に並んだ転売ヤーは貰えないって事か」
 転売ヤーの中には開店前に大行列を作り、通行人にまで迷惑をかける輩が存在する。
 そうした連中を取り締まり、少しでも普通のファンに商品が行き渡るようにするため、有効な施策と言えるだろう。
「整理券をご提示ください……はい、ありがとうございます」
 もちろん、ちゃんと券を持って並んでいた天麟と蓮之助は、問題なく友人に頼まれていたグッズを買うことができた。ルールを守って店に来ているほとんどの客も同じだろう。しかし――。

「おい! ちゃんと列に並んだのになんで買えないんだよ!」
「ですから、整理券を提示できない方には……」
「関係ねえよ! こっちは客だぞオイ!」
 それがルールだからと説明しても、納得いかずにゴネるのが転売ヤー。悪の組織の戦闘員に真っ当な倫理観を求めるのは無駄である。いいからとっととブツを寄越せと、店員や他の客にまで因縁を付けようとする。
「おい、アンタら……それは駄目だろ」
「うるせぇ……うおっ?!」
 見かねた蓮之助は【パラノイア・デッドライフ|融合《フュージョン》】を発動し、海奪龍の牙の様なマスクとヒレに、背中から蜘蛛の脚を生やした姿に変身。怪人の如きその異形を見て、転売ヤーはギョッとたじろいだ。

「こら! ちゃんと書いてあったでしょ!」
「うおわぁっ!?」
 瑞希も【|霊力超解放《オーバー・ライド》】を発動して、概念を書き換える念動力の手で転売ヤーを捕まえる。お店にも他の客にも迷惑をかける厄介客は、抵抗虚しく店からつまみ出された。
「おいガキ、そのグッズ俺に譲れよ……ぐえっ?!」
「あーやだやだ……うざいですね」
 そして天麟もネガティブ・パラノイア態に変身して、因縁をつけてきた転売ヤーを取り押さえ、速やかに警備員に引き渡す。子供相手だからと舐めてかかったのが運の尽きだ。

「や、やべえっ……」
 仲間が次々に捕まっていくのを見た転売ヤーは、血相変えてそそくさと逃げていく。
 この店での買い占め作戦は失敗だが、どうせまた他の店に行って、また同じ事を繰り返す気なのだろう。
「妙に逃げるの速いね、君」
「ひぇ!?」
 もちろん見逃されるはずもなく、蓮之助の「簒奪の超糸」に引き寄せられてしまった彼は、がしりと肩を組まれて店の外に連れ出される。これ以上店に迷惑をかけるのは忍びない、話の続きは外でじっくりさせてもらおう。

「なあ、少し教えて欲しい事があるんだけどよ……」
「な、なんでございましょう……?」
 人間災厄「パラノイア・デッドライフ」融合形態で少し強めに質問すると、転売ヤーはあっさり圧に屈した。聞けば今回の作戦は秘密結社プラグマの怪人だけでなく、√EDEN側にも協力者がいるようだ。
「ふーん……案内しな」
「は、はい!」
 蓮之助はすっかりビビっている転売ヤーに、協力者の居場所まで案内してもらうことにした。悪の組織の√EDEN侵略に手を貸すような輩だ、潰せるなら潰しておいて損はない――。

「やっぱり止めよう、転売!」
「その通りだね、天麟!」
 ゲームショップのほうでは、天麟と瑞希が残った転売ヤーを全員とっ捕まえていた。
 これで蓮之助の友人も、他のゲームのファン達も一安心。あわや買い占めの危機にあったグッズの販売は、滞りなく再開されたのだった。

ソル・ディールーク

「楽しみだな〜ふんふ〜ん♪」
 各地で√能力者と悪の転売ヤーの攻防が繰り広げられる一方、とあるカードショップの前にできた行列の中にソル・ディールーク(楽園に転生した冒険者・h05415)はいた。
「ゆっくり進んでください。列を乱さないでー」
 彼のお目当ては本日発売のトレーディングカードゲーム。かなりの人気なので、早めにここに来て店員の指示で列に並び、今に至るというわけだ。この手の商品は発売直後は特に争奪戦になることも珍しくはない。

「おお……やった……とってもとっても嬉しいな……!」
 早めに並んだ甲斐あって、ソルは無事にお目当ての商品をゲットできた。パッケージのシュリンクは剥がされたが、元々開封する為に買ったので特に問題なし。どんなデッキを組もうか今からワクワクだ。
「おい! なんで剥がすんだよ!」
 だが、並んでいた客の中にはキレている奴もいる。なぜシュリンクを剥がされて怒るのかと言えば、開封済みの商品は転売時に値が下がったり売れなくなったりするからだ。逆に言えば、そんな事を気にするのは十中八九、転売を目的にした輩だけである。

「おや……どうやら、転売ヤーとやらが居たようだね……」
 自分とは直接関わりのない事なので、ひとまず様子を見ることにしたソルだが、徐々に転売ヤーの剣幕はヒートアップしてきた。このままでは店員に手を上げるかもしれない。
「警備員さんを呼んで来てください!」
 そこでソルは他の客にそう告げてから、揉めている方へと向かう。同時にポケットから「極天の宝珠」を取り出し、指先で回転をかける。今でこそ一般人として√EDENで暮らしているが、彼には”前世”からの特技があった。

「M√SKILL……銅星の回転」
 特殊な技法で投げられた宝珠が、キラキラと輝きながら転売ヤーの元に飛んでいく。
 今まさに店員に殴りかかろうとした時、後頭部に直撃を食らった転売ヤーは「ぐえッ?!」と悲鳴を上げて気絶した。
「えっ……た、助かったの?」
「大丈夫でしたか?」
 突然の事に困惑する店員に、ソルは優しく声をかけ、駆けつけた警備員に転売ヤーを引き渡す。これにて一件落着――と言いたい所だが、彼はまだ拭い去れない違和感を抱いていた。

「他√の人の可能性がある、しかも協力者がいる!」
 これが√EDEN以外の住人の仕業なら、もっと大きな陰謀が動いているかもしれない。
 ソルは買ったばかりのカードをしまって店の外に走りだし、隠れている奴らを追うことにした――。

第2章 ボス戦 『警邏巡査110面相』


「やれやれ……俺の仕事は手引きと見逃しだけで、こういうのは管轄外だった筈だがな」

 各地の店舗に出没し、買い占めを図っていたプラグマ戦闘員を撃退した√能力者達。
 これで悪質な転売は阻止できたかと思いきや、彼らの前に警官の制服を着た男が現れる。

「頼みますよイトーさん! あいつらを排除してくれたら、報酬は倍にするんで!」

 男の後ろにいるのは、さっき√能力者にとっちめられた転売ヤー達だ。
 今回の事件には√マスクド・ヒーローからやって来た怪人だけでなく、√EDEN出身者も関与していると予知されていた。おそらく、この警察官が「協力者」なのだろう。

「まあ……俺の事を嗅ぎ回っていた奴もいるみたいだしな。面倒だがやってやる」
「ありがとうございますッ!」

 彼の名は『警邏巡査110面相』。通称|110《イトー》と呼ばれる√能力者だ。
 偽名と変装、そして完璧な所作で住民からは頼られる警察官として振る舞いながら、裏で悪事を働くニセ警官。その能力を活かして今回の作戦を手助けしていたのだろう。

 今のイトーは秘密結社プラグマに協力する傭兵のようなもの。
 変装や裏工作が得意とはいえ、戦闘力も並の戦闘員よりは格上だ。
 逆に言えば、プラグマ側もこいつに泣きつく位には戦力的にピンチだということ。

 こいつを撃破すれば、いよいよ本作戦を指揮する大ボスが姿を見せるだろう。
 悪の秘密結社による転売を阻止すべく、√能力者達はニセ警官との戦いに挑む――。
雨深・希海

「ふーん。警察がこういうのに加担するんだ」
 秘密結社プラグマの協力者として現れた『警邏巡査110面相』に、希海は冷ややかな視線を向ける。悪質な転売を取り締まるべき側の人間が、逆に犯罪を助長していればそんな態度にもなろう。
「まぁ、こいつが本物の警察じゃないことはわかってるけど、ちょっと怒りをぶつけさせてもらおうかな」
 彼女は周囲のレイン砲台を一点に集めて、実体剣「ストームブリンガー」を生成。合わせて√能力【|蒼嵐の剣《ストームブリンガー》】も使って攻撃回数と移動速度を強化する。店内での転売ヤー撃退時と違って、今度は容赦する気はなさそうだ。

「おお怖え。俺はちょっと手を貸してやっただけなのによぉ」
 対するイトーは悪びれる様子もなく【規則に基づいた適切な対応】を取る。警察官に扮して数々の悪事を働いてきた悪の√能力者は、警察官の装備の扱いに関しても熟知しているようだ。
「警棒で引っ叩かれた事はあるか? コイツでも上手く使えば骨くらい折れるんだぜ」
「ないよ、ぼくはそこまで不良じゃないし」
 特殊警棒で殴りかかってきたイトーに対し、希海は強化したスピードを活かしてとにかく移動。【蒼嵐の剣】発動中は受けるダメージが増えてしまうため、攻撃はなるべく避けるか受け流さないといけない。心がけるべきはヒット&アウェイだ。

「迸れ、ストームブリンガー!!」
 蒼色に輝くレインの剣とともに、戦場を疾走する希海。寄せては返す波の如く、敵の攻撃を躱せば直後に反撃に出る。怒りの籠もった斬撃が、警棒を持つイトーの腕を裂いた。
「ぐっ。公務執行妨害だぞ、ガキ!」
「うるさいよニセ警官」
 イトーは即座に警棒を持ち替えて殴り返すが、希海はストームブリンガーの刀身で受け流し、今度は敵の脚を斬る。彼女が狙っているのは【規則に基づいた適切な対応】で再行動するのに必要な部位だ。先に壊してしまえば、そのぶん敵の攻撃回数は減る。

「クソっ、ちょこまかと……!」
 まともな殴り合いではイトーのほうが不利な以上、どこかで無理をする必要がある。
 だが片腕片足にダメージを負った上で、さらに自傷して行動回数を増やしても、余計に動きが鈍るだけだ。機動力で勝る希海にとっては好都合。
「これで……叩き斬る!!」
「がぁッ?!!」
 チャンスとみれば一気に畳み掛ける。嵐の如き蒼剣の乱舞を前に、イトーはたまらず後退した。彼も相当な実力者ではあるが、希海の怒りとレインの力が、この場は上回ったようだ。

リア・カミリョウ

「警察ぅぅううう!? はあ??? しんっじらんない! 逆でしょうよ、何やってんのよ転売ヤーよ? 取り締まりしなさいよ!!」
 人海戦術による逆買い占め作戦を指揮していた時は、お嬢様然と振る舞っていたリア。
 しかし悪の組織のみならず警察まで転売に加担していたと知って、怒りが沸点に達したらしい。不正を見過ごすばかりか手を貸すなんて、こんな事が許されて良いのか。
「いいや、リアがお仕置きしたげる!!」
「ハッ。逆にテメェを取り締まってやるよ」
 正確に言えば、敵は本物ではなく警察官に変装した悪の√能力者なのだが、どのみち倒すべきなのは変わらない。特殊警棒を玩びながら高圧的に笑う『警邏巡査110面相』は、絵に描いたような「腐った汚職警官」そのものだった。

「リアの愛のウイルスちゃん達、行くのよ!」
 そう言ってリアは【|LoveBOMB《アイノウイルス》】を起動、召喚した電脳霊体ウイルス「ラブボム」にイトーとの融合を命じる。ダメージの代わりに行動力をなくして、最終的に消滅へと追い込む戦法だ。
「可愛くねえラブレターだな!」
 皮肉げに吐き捨てて【規則に基づいた適切な対応】を取るイトー。ニセ警官のくせに巧みな警棒さばきで電脳ウイルスを払い散らし、即座に皮膚を自傷して前進する。まともに使い魔の相手をするよりも、召喚者を先に叩くつもりだ。

「思い知れ、これが国家公認の暴力だ!」
「殴られるのはイヤ!」
 ニセ警官のくせにふてぶてしいイトーへの嫌悪感も露わに、リアはエネルギーバリアを張りながらグリュックの中身を漁る。出てきたのは魔弾銃「ツァウバー」。護身用として兄から譲り受けたものだ。
「おいおい、そいつはガキの玩具じゃ……」
「うるさいのよ!」
 少女が持つには少しばかり厳つめの銃を、リアはしっかり両手で保持してトリガーを引く。撃ち出されるのは炎の魔弾――的確な弾道計算によって、狙うのはイトーの足だ。

「きゃはは避ける為に踊れー避けられるものならね」
「ぐッ?! このガキィ……!」
 イトーが咄嗟に身をかわそうと、かすめただけで炎の魔弾はダメージを与える。そこに追いついてきた「ラブボム」が、イトーの背後から融合に成功。【規則に基づいた適切な対応】による再行動と行動力低下が相殺される。
「そして燃えなさい! どうよ熱いでしょ」
「あぢぢッ!! フザけんじゃねえぞクソがッ!!」
 動きの止まった標的へと、リアは容赦なく魔弾の雨を浴びせる。燃え上がる炎に全身を焦がされ、逆上したニセ警官の罵声が飛ぶが、そんなので彼女が怯むと思ったら大間違いだ。

「転売ヤーへの怒りってこんなもんじゃ済まないんですのよ! 覚悟なさい!」
 悪質な買い占め・転売許すまじ。実行犯のみならず転売を助長する者も同罪である。
 この炎はリアの心の中で燃える怒りの体現だ。トリガーを引く指先にいつもより力を込めて、彼女は敵が黒コゲになるまで魔弾を撃ち続けた――。

カトル・ファルツア

「てめぇが協力者か!」
「ああ、そういう事になるな」
 と叫びつつもエネルギーバリアを展開し、即座に戦闘態勢を取るカトル。警察官の制服を着てるくせに秘密結社プラグマと手を組み、転売に加担していた√EDEN側の協力者。その犯人たる『警邏巡査110面相』は悪びれもせず笑っていた。
「俺の言葉をしっかりと理解してる……やっぱ√能力者か!」
 普通の人間には分からないカトルの言葉が通じるのなら、もう疑う余地はない。相手が邪悪な√能力者だと判断した瞬間、彼は素早く「スピリットガン」から魔弾を放った。

「ハッ、まるで鳩に豆鉄砲だな!」
 イトーは特殊警棒で魔弾を弾きつつ、こちらに向かって来る。警察官の格好は人を欺くための変装でも、その戦闘技術は紛い物ではない。【規則に基づいた適切な対応】という名の、容赦ない暴力が執行される。
「うおっ?! 危ねえ!」
「まだまだいくぜぇ!」
 対するカトルはエネルギーバリアで警棒を受け止めつつ、後ろに下がり距離をとる。
 イトーは即座に肉体の一部を自傷し、再行動で距離を詰めてくる。このまま一気に叩きのめすつもりだ。

「こっちも反撃と行こうか!」
 負けじとカトルも√能力を発動。スピリットガンを構えて撃つと見せかけ、ギリギリまで引き付けてから、相手がこちらの間合いに踏み込んできたところでオーラパンチを放つ。
「へッ。そんなもん当たるか……なにッ?!」
 距離を詰めてしまえば銃なんざ役立たず。そう思っていたイトーからすれば、この攻撃は予想外だっただろう。豪快に殴り飛ばされたニセ警官に、風と雷が追い打ちをかける。

「この状態なら反撃されねぇだろ! くらえ!」
 雷と風で敵を捕縛した後、とどめの一撃を叩き込む、カトルお得意の【ラセン連撃】。
 標的が無防備になる瞬間を突いて、次元を貫くラセンの爪撃が急所に突き刺さった。
「ぐぁッ!!? クソ……やるじゃねえか、トリ野郎……!」
 この一撃は流石に堪えたか、イトーの表情と声色に苦痛が滲む。が、それでも彼は膝を屈さず、警棒も拳銃も手放してはいなかった。傭兵としてプラグマから報酬を受け取っている以上、ここで戦闘を投げ出す気はないようだ。

「こいつ……頑丈だな……」
 まだまだ余裕そうな敵を見て、カトルは気を引き締める。ここで油断して返り討ちにあうようでは、転売作戦の主犯を倒すことなんてできやしない。慎重に身構え、隙を狙う――見た目はファンシーでも、彼のたたずまいは立派な戦士であった。

アクセロナイズ・コードアンサー

「警察官ってのは、自分みたいなヘンテコ鎧のヤツよりはるかに身近な『ヒーロー』だっていうのに、その恰好で悪事を働くなんて――とんでもない怪人だ」
 もしもヤツのせいで市民が警察に不審感を抱くようになってしまったら、治安は乱れ、善良な人間ばかりが割りを食う事になってしまう。転売ヤーに加担している件も含めて許すまじき悪党だと、コードアンサーは『警邏巡査110面相』を睨みつける。
「ハハッ。文句があるなら力ずくで止めてみろよ、ヒーロー!」
 そんな彼を挑発しながら、イトーは拳銃と特殊警棒を構える。変装はただのコスプレではなく、警察官らしい【適切な武器使用】の心得もあるようだ。本来なら治安を守るための武器を振りかざして、どれほどの悪事を重ねてきたのやら。

「出し惜しみはしていられねぇ、行くぞ!」
 アクセルボードで宙を飛びながら、敵を撹乱するコードアンサー。高速移動するボードの残像を利用して、相手の攻撃を回避できないか試すが――とはいえ、ここは相手の方が上手のようだ。
「避けきれると思ったかよ!」
 拳銃による射撃と、変装のために身に着けた戦闘技能の数々を利用して、イトーは連続攻撃を繰り出してくる。跳弾による不意打ち、正確な弾道計算、警棒の近接打撃など、豊富な手練手管を躱しきるのは難しい。

(だが構わないぜ)
 攻撃をどこかしらに受けてしまうのはコードアンサーの想定内。むしろ相手の技の威力を利用して、彼はアクセルボードから派手に吹っ飛んだ。シルエットが太陽と重なるくらいに高く、高く飛んで――。
「そっから繰り出す必殺!」
「なにッ?!」
 カードゲーム『遊戯マスター』のデッキから【『突撃』と『達人の一撃』】を腕のカードリーダーにセット。「|空想兵器最適化装置《コードアンサー》」の機能によって、読み取ったカードの効果が付与される。

「アクセル、キック!」
 認証完了。銀色の閃光を帯びた飛び蹴りが、流星のように天から地へと突き刺さる。
 追加で『増殖機雷』のカードをスキャンする範囲攻撃バージョンもあるが、今回は命中重視の単体攻撃だ。こいつを確実にニセ警官にブチ当てる。
「ぐおぉぉーーーッ!!!?」
 ヒーローの必殺キックを躱せなかったイトーは、悲鳴を上げて天高くふっ飛ばされた。
 特撮番組ならここで爆発四散するところだが、流石に√能力者はしぶとい。それでも、相当のダメージを負ったことに変わりはないだろう――。

星谷・瑞希
鳳崎・蓮之助
鳳崎・天麟

「まさかの協力者が現れるなんて……」
 秘密結社プラグマの仲間として出てきた『警邏巡査110面相』を見て、瑞希はかなり驚くも、すぐにエネルギーバリアを展開して戦闘に備える。あいつも転売ヤーの一味で、しかも√能力者なら油断はできない。
「まさか伊藤さん……?」
「へぇ〜伊藤さん、アンタこいつらの仲間だったのか……ふーん」
 一方で天麟と蓮之助は、その男が近所の頼れる警察官として知られる「伊藤さん」だと気付いた。偽名と変装で表向きは立派に職務を果たしつつ、裏で悪事を働いていたのか。こんな身近に悪の√能力者がいた事に、程度の差はあれ二人とも驚いていた。

「あーあ、あなた皆を裏切った事後悔しますよ?」
「……俺しーらね」
 市民を騙し、信頼を欺いたニセ警官を睨みつけ、ネガティブ・パラノイア態に変身しながら戦闘態勢を取る天麟。義娘がかなりお怒りであることを察した蓮之助は、小さく呟きつつパラノイア・デッドライフ態に変身した。
「後悔するのはお前達のほうさ。知られちまったからには生かしておけねえな」
 本性を現したイトーは善良な警察官の仮面をかなぐり捨て、守るべき市民や子供にも躊躇なく銃口を向ける。警官の肩書はニセモノでも【適切な武器使用】の腕前は本物だ。

「うぐ……本当に攻撃してきた!」
 瑞希はイトーの拳銃攻撃をエネルギーバリアで防ぎながら、念動力の手で殴り返す。
 相手の√能力は武器と技能を組み合わせた連続攻撃。防戦一方では追撃を受け続けるだけだ。
「あーやだやだ、一般人に拳銃をぶっ放して来るなんて……」
「銃の引き金を見れば避けれんだ……ぜ!」
 天麟と蓮之助は拳銃の引き金をよく見て、発砲のタイミングに合わせて空中ダッシュで回避。直後に天麟は黄泉の回転魔弾を放ち、蓮之助は「フェニックスオーブ」をクイックドロウのように投げつけて、瑞希と一緒に敵の追撃を防いだ。

「チッ。思ったよりやるな……」
 三人から反撃を受けたイトーは拳銃を連射して念動力と魔弾とオーブを弾き、警棒を持ち替えながらリロードを行う。転売ヤーに扮していた戦闘員の動きとは雲泥の差で、隙を見せない。
「おい、天麟……馬鹿の時に使えなかった力使ってみるか?」
「行きましょうか!」
 しかし蓮之助にはまだ作戦があるようだ。養父の提案を飲んだ天麟は、その辺で拾った小石に黄泉の覚醒回転をかけて、彼の方へ投げつける。彼はそれに合わせて釘バットを振りかぶりながら、√能力を発動して――。

「お前の本当の力見せてみろ……」
 【パラノイア・|強欲の覇帝王銃《グリード・パラライズガン》・シュリン】。小石がバットで破壊された瞬間、石に込められていた回転の解放が天麟を一時的な√能力者に覚醒させる。龍と蜘蛛の鎧を装着し、黒い羽衣を纏い、大剣と銃を携えた、強欲なる王に。
「ふふ……貴方の『全て』を寄越せ!」
「はあ? 調子に乗るんじゃ……なにッ?!」
 変身した天麟は異次元の身体能力で敵の背後に回り込み「簒奪の剣」で斬りかかる。
 その速さに反応できなかったイトーは、背中を切り裂かれながらも前に飛び退き、身体をひねって【適切な武器使用】で反撃しようとするが――。

「ッ?! なんだ、力が使えねえ……ぐはっ!」
「隙ありだ、偽警官」
 蓮之助の√能力で変身した天麟の剣は、斬った相手から√能力を奪う。イトーが動揺している隙に、蓮之助が空中ダッシュで距離を詰め、釘バットをフルスイング。殴り飛ばされた敵はボールのように放物線を描いた。
「ぐッ……クソがぁ……!」
「絶対に許さないよ! 偽警官!」
 ここで畳み掛けるのは瑞希。【|霊力超解放《オーバー・ライド》】を発動し、相手をしっかりと見据えながら星剣「レイチェス・フラン」を構える。善良な人々を騙し、転売ヤーに協力していた罪、ここで償ってもらおう。

「来るなッ! 来るんじゃねえ!」
「飛び道具は効かないよ!」
 √能力が使えないまま拳銃を連射するイトー。瑞希は霊力解放で強化された第六感と身体能力を駆使してそれを躱し、概念を書き換える念動力の手で敵を捕まえ、投げ飛ばす。
「ぬおおおおッ?!」
「天麟! 今だ!」
「はい! 瑞希!」
 間髪入れずに追撃を仕掛けるのは天麟。宙を舞った相手に黄泉の回転魔弾を放ち、落ちてきたところを剣で斬り、今度は魔力を吸収する。この変身形態はいわばプロトタイプなのだが、その戦闘力は瑞希や蓮之助にも負けていない。

「ガハッ……俺が、こんな奴らに……」
「とどめです!」「くらえ!」
 よろめいたイトーに天麟は再び魔弾を撃ち込み、空中ダッシュで助走をつけた蹴りを叩き込む。同時に瑞希もありったけの霊力を込めて星剣を振り下ろし――眩き閃光が、戦場を薙いだ。
「ぐ、がはぁ――ッ!!?!」
 ばっさりと斬り伏せられ、蹴り飛ばされたイトーの絶叫が、血飛沫と共に溢れ出す。
 これまで好き放題やってきたニセ警官にも、いよいよ「年貢の納め時」というやつが来たのかもしれない――。

パンドラ・パンデモニウム

「私のAnkerであるお姉さまは警視庁異能捜査官ですから、あなたの噂はちらちら聞いていましたよ偽警官さん」
 偽名と変装を駆使し、市民を欺きながら悪事を働くニセ警官『警邏巡査110面相』。
 √能力者である彼の活動範囲は√EDENに留まらない。パンドラが噂を耳にするほどとなれば、相当手広く犯行に及んできた悪党なのだろう。
「√能力者にも規則に縛られず自分の正義を貫くための汚職警官はいるそうですが、残念ながらあなたはそうではないようですね」
「ハッ。正義なんてちゃんちゃら可笑しいね」
 パンドラに睨みつけられても、イトーが悪びれる様子はまったくない。警察官というニセの身分を徹底的に悪用し、報酬次第で悪の組織とも手を組む彼に、情状酌量の余地はない。

「これも私が解き放ってしまった災厄『汚職』の影響なのでしょうか……ならば責任を取ります!」
「ありがとよ。じゃあ死ね!」
 パンドラの箱としての覚悟を示す彼女に、イトーは特殊警棒で殴りかかる。【規則に基づいた適切な対応】と嘯くが、その棒は「適切に」使えば骨くらい叩き折れる代物だ。
「ヘパイストス様からの贈り物、使わせていただきます!」
 対するパンドラは「ヘパイストスの盾」で防御の構え。鍛冶の神が鍛えたこの盾は、一度だけすべての攻撃を防ぐ絶対防御の権能を有する。人の作った棒くらい、弾き返せて当然だ。

「封印災厄解放!」
 特殊警棒を防いだ直後、パンドラは早業でカウンターを仕掛けた。【封印災厄解放「|終末の三重葬《メギド・トリスメギストス》」】は、「空間識失調」「錯乱による自傷」「隕石直撃」の3つの厄災を連続で与える√能力だ。
「うっ?! なんだ、頭がクラクラしやがる……いでぇッ!!」
 空間識失調でイトーの狙いは狂い、わけもわからず自分自身を攻撃してしまう。技自体の命中率が高いのが仇になった形だ。慌てて【規則に基づいた適切な対応】の効果で再行動し、体勢を立て直そうとしても――。

「あなたはいつまでも自分自身を殴り続けるのです」
「がっ、げふっ、ぐえぇ!」
 空間識失調と錯乱状態を脱しない限り、何度再行動を繰り返したところで、パンドラを攻撃するつもりが自爆してしまうだけだ。勝手にボロボロになっていくイトーの頭上より、大きな影が落ちる。
「とどめは隕石の直撃です!」
「ハァ?! んなバカな……ぎゃぁぁッ!!!」
 普通に日常を送っていれば奇跡的な確率でしか起こらないはずの不幸。それを引き寄せた厄災に、叩き潰されるニセ警官。人間を欺くのは得意でも、人外の者には通用しなかったようだ――。

イルフィリーズ・メーベルナッハ

「ふぅん、用心棒さんってワケね。強そうなヒトだけど……ふふ、素敵ね♥」
 悪質転売ヤーの助っ人として現れた『警邏巡査110面相』に、艶やかな笑みを見せるのはイルフィリーズ。甘え媚びるような友好的な仕草だが、その本心を人間が探るのは難しい。
「こんなこともあろうかと、とっておきのプレゼントを用意しておいたのよ。折角だから、あなたにあげちゃおうかな?」
「へえ、そいつは楽しみだ」
 なんて言いつつ鉄打棒を振るって攻撃するイルフィリーズに、イトーは特殊警棒で応戦する。単純な殴り合いではニセとはいえ警察官のほうが強そうだが、彼女の危険性は腕っ節の強さではない。

「ゴホッ……なんだ……毒か?」
 イルフィリーズに近付いた直後から、イトーの身体に異常が起こり始める。人間災厄「クランクハイト」を包む病原汚染空間「クランカー・ラウム」からは、悪性の病原菌が散布されている。
「長期戦は不利みてえだな。だったら……」
「あら、いいの?」
 じわじわとダメージを与えるつもりの相手に、√能力で速攻をかけようとするイトー。
 だがそこでイルフィリーズが妖しげに微笑みかける。先程口にした「とっておきのプレゼント」という言葉が、小さな棘となってニセ警官の心に引っかかる。

「ふふっ、気になるでしょ? とっておきのプレゼントだもの、すぐにあげたら勿体ないよ。|期待《警戒》、しててね♥」
 いかにも含みのある態度でそう囁かれたら、イトーも警戒せざるを得ない。下手に思い切った事をしたら酷い目に遭う――そう思わせるのが、イルフィリーズの√能力【|症例番号24「因果流転症」《ハイリッヒ・アーベント》】なのだ。
「チッ……薄気味悪い女だ」
 結局イトーは【規則に基づいた適切な対応】で畳み掛けるよりも、堅実な戦い方を選んだ。武器での殴り合いならこのままでも分がありそうに見えるのも、判断を鈍らせた一因かもしれない。いずれにせよ、病原の巣相手にその選択は悪手だ。

「ゴホゴホッ……おい、プレゼントってのはまだなのか? 焦らしてくれるじゃねえか……!」
「楽しみにしてくれてるの? 嬉しい♥」
 言葉巧みに敵の√能力を牽制しながら、鉄打棒と病原菌で攻撃するイルフィリーズ。
 実体のないプレゼントに惑わされ、本来の実力を出しきれないまま、イトーは徐々に追い詰められていく――。

御茶菓子・如何

「ニセお巡りさん、ですか。本来ならば悪徳転売ヤーを成敗する立場である者が、こういった立ち回りをするのは如何なものかと」
「ハッ! 説教なら間に合ってるぜ」
 如何から正論を突きつけられても、『警邏巡査110面相』はどこ吹く風。表向きは市民に愛される警察官を演じながら、その信頼を裏切って悪事に加担する。そのことに負い目すら感じることのない、卑劣な悪党だ。
「……けれど、仕方がありませんね。『変身』」
 静かな決意を胸に、如何は腰のベルトに「ワガシ・ガジェット」をセット。掛け声とともに『アクセプター・イロハ』に変身する。鶴をモチーフにした仮面を纏い、陣羽織風の特殊スーツを羽織った、和風ヒロインの見参だ。

「なっ……テメェ、ヒーローか!」
「そう呼ばれる方も、中にはいます」
 素顔を隠した少女から発せられる殺気に、イトーが一瞬動きを止める。その隙に如何は飴色に輝く「アメザイク・ブレイド」を抜き、必殺の居合を振るった。たかが飴細工と侮るなかれ、その刀身は極めて強固だ。
「くッ!」
 咄嗟に特殊警棒でガードしたイトーであるが、斬撃の圧に押されて後退する。√EDENでヒーローに遭遇するとは思っていなかっただろうか? 如何は素早く刀を鞘に納め、追撃の体勢に入った。

「舐めんなよ……!」
 形相を歪めながらイトーは【適切な武器使用】で反撃。日本刀の間合いの外から拳銃を乱射する。近接戦の分が悪いとみれば距離を取って戦う、確かに”適切”だがプライドの欠片もない戦法だ。
「謡え」
 だが如何にも遠距離攻撃の手段はある。再び刀を抜き放てば、鮮やかな【|あじさい《 ウツリギナオモヒ》】の花が弾丸となって射出される。それは着弾地点の標的を蕾で包み込み、敵には爆発のダメージを、味方には花の加護を与えるのだ。

「報酬目的ですか? どの敵も金、金、金……子供の夢を食い尽くす悪党ばかり」
「ッ、なんだ、こいつは……!」
 燃え上がる正義の怒りに呼応して、如何の肉体より溢れ出す柔らかな光。移り気なき想いを乗せたあじさいがイトーを捕らえる。人々の憧れと尊敬の対象であるべき警察官の制服は、このような輩にふさわしくない。
「正義を偽る貴方に、私は負けません――!!」
「ぐ、ぐわぁーーーーッ!!!?!」
 宣言とともに大爆発。揺るぎない「和の心」に打ちのめされたイトーの悲鳴が上がる。
 いかなる変装の名手とて、この状況から逃げ延びる術はない。満身創痍のニセ警官に、決着の時が迫っていた――。

ソル・ディールーク

「……伊藤さん、貴方だったんですね」
 今回の転売ヤー事件の協力者は、まさかの近所の住民から頼られていた警察官で、ソルが営業する喫茶『ルミナス・オーガ』の常連さんだった。顔なじみの正体が悪の√能力者という事実を前に、ソルの胸中には複雑な感情が渦巻く。
「貴方は転売ヤー達を手引きしゲームやアニメグッズを楽しみにしていた人達の想いを踏み躙ろうとした……そして、警察官を勝手に名乗るのは犯罪ですよ」
「ハハッ。そんな事は言われなくても分かってるぜ、店長さん」
 激昂するのではなく、静かに睨みつけながら戦闘態勢をとるソルに、『警邏巡査110面相』は嘲り笑いながら特殊警棒を構える。「伊藤さん」だった頃は絶対に見せなかった表情――これがヤツの本性なら、もう戦いで決着を付けるしかないのだろう。

「まずは敵を動かそうか」
 ソルは敵の動きを見る為に、素早く追尾属性攻撃の回転をかけた宝珠を投げつける。
 ライフル弾のように鋭い軌跡で飛んでいく「極天の宝珠」を、イトーは最小限の動きだけで回避した。
「当たるかよ、こんなもん」
「やっぱり強い、警察官だからかなって思ってたけど能力者だったんだね……」
 前世は冒険者だったソルの目から見ても、イトーの動きは常人離れしている。宝珠を躱した彼は【規則に基づいた適切な対応】に移行し、特殊警棒で反撃を仕掛けてきた。

「オラッ! 公務執行妨害だ!」
「冗談でも笑えないよ、伊藤さん」
 皮肉げに嘯きながら叩きつけられる警棒を、ソルは回転で生じた歪みによるオーラで防ぎ、殴り返す。彼もまた常人離れしたフィジカルと怪力を持つ男だが――ふいにイトーの皮膚の一部が裂け、動作が加速する。
「当たらねえよ!」
「また避けられたな、なら」
 今のは【規則に基づいた適切な対応】の効果だ。即座に敵が再攻撃を仕掛けてくる前に、ソルは今殴ったのとは反対の方の腕で地面を殴った。砲弾が落ちたような衝撃波が発生し、地面が割れて敵の左右に壁が立ち上がる。

「それがどうしたァ!」
 地面の壁が出てきたところで、イトーの攻撃は止まらない。だが左右を壁に挟まれ、正面に敵がいるなら、位置的に顔か腕を狙って来る可能性が高まる。ソルの目的は相手の狙いを限定することにあった。
「危ね……」
「なにぃ……ッ?!」
 敵が特殊警棒を使う時の動きをしっかり見て、紙一重で受け止める。勇者の剣「ルアン・ジャルグ」と警棒の鍔迫り合いを、ソルは怪力にものを言わせて押し返し、右側の壁の向こう側へとイトーを弾き飛ばした。

「クソが! テメェ、ただのカフェのマスターじゃ……」
「……捕まえた」
 反撃を食らったイトーが一旦距離を取ろうとすると、ソルは靴を踏んで足を止める。
 再行動する隙は与えない。ここで勝負を終わらせるべく、男は前世で編み出した技の名を呟いた。
「M√SKILL……トルメンタ・エクステント」
「ぐほぁッ!!!?」
 神の力で転生したソルの肉体は、金属のように強固な骨格と強靭な筋肉を持つ。その全力で腹を殴られたイトーは警棒を取り落とし、砲弾のように壁の方へ吹っ飛んだ。辛うじて受け身は取ったようだが、ダメージは甚大だ。

「まだだ」
「ぐがッ?!」
 ソルは間髪入れず敵の横側に回り込み、今度は上方へと蹴り飛ばす。そして空中ダッシュで飛ばされた敵の背中に追いつき、飛び膝蹴りの追撃をかます。まるで重力を無視したような、アクロバティックな連続攻撃だ。
「ちょ、調子に乗んじゃねえ……!」
 またしても吹っ飛ばされたイトーだが、その先には先程手放した警棒が転がっている。
 攻撃を食らいながらも、上手く武器がある方へ飛んでいくように調整していたようだ。こんな所で終わってたまるかと、憤怒の形相で警棒を握りしめる。

「終わりにするか」
「テメェがな! 死ねぇッ!」
 再度√能力を発動しようとするイトーに対して、今度はソルのほうから向かっていく。
 腕をへし折らんと敵が警棒を叩きつけてくれば、その根本近くに狙いを合わせてぶん殴る――度重なる戦闘で損耗していたのだろう、その一撃で警棒はボキリとへし折れた。
「なぁぁッ? ぐへぁッ!!」
 武器を破壊され動揺するイトーへ、そのままパンチで回転した勢いを追撃に繋げる。
 またしても殴り飛ばされたニセ警官の頭から、制帽が吹っ飛ぶ。その格好で働いてきた悪事のツケを、今こそ支払う時だ。

「トルメンタ・エクステント……フィニッシュ」
 アッパーカットで相手を上空に飛ばし、羽交い締めにして掴み、そのまま回転をかけながら落下する――地面に叩きつけられる際の2人分の衝撃は、全て敵にかかるように。これがソルの必殺ムーブだ。
「ち、チクショウ……たかが転売くらいで、なんで俺がこんな目に……グワーーッ!!」
 嵐を巻き起こしながら回転落下した『警邏巡査110面相』は、頭から地面に突き刺さり、ピクリとも動かなくなる。秘密結社プラグマの協力者として悪質転売作戦に加担してきたニセ警官は、こうして退治されたのだった。

第3章 ボス戦 『外星体『ズウォーム』』


「お、おいどうするんだ……イトーさんがやられちまったぞ!」
「ど、どうするって……どうしよう?!」

 悪質転売ヤー作戦の協力者兼傭兵である『警邏巡査110面相』を倒され、秘密結社プラグマの転売ヤー達は明らかに浮足立っていた。彼を倒せるような実力者達を相手に、ただの戦闘員に勝ち目などあるはずがない。

「落ち着きたまえ。我々の計画はまだ潰えてはいない」
「ず、ズウォーム様!」

 そこに現れたのは、明らかに地球の生命体とは異なる風貌の人物だった。
 半透明のスーツの下から浮かび上がる青い肌に、昆虫のような頭部。
 彼こそが本作戦の指揮を執る外星体『ズウォーム』だ。

「√EDENの地球人達よ、こんにちは。この青く美しい楽園で生きる君達に、私は心からの敬意を示したい」

 ズウォームは穏やかな声と紳士的な態度で、√能力者達に一礼する。
 その所作から害意や敵意は感じられないが、だからこそ油断はできない。

「私なら、この地球をもっと良い星にできる。そのための施策の一つとして、まずは富の再分配を。全ての富を我らプラグマの元に一度集め、本当に『欲しい』と思っている人の元へと届ける……君達が転売と呼んでいるこの行為は、善行なのだよ」

 悪意ではない。少なくとも彼個人は本気で転売を「善意」だと思っている。
 地球への愛ゆえに、プラグマの掲げる「全√支配」に賛同した彼の思想や価値観は、地球の一般的常識からはかけ離れていた。

「どうしても理解して貰えないのなら、致し方ない。少々痛い目を見て貰う事になるが、これも最終的には君達のためだ」

 共感を得られない空気を感じ取ったか、ズウォームは残念そうに戦闘態勢に入る。
 たとえ彼に悪意がなかったとしても、転売ヤーの横行は悪の組織の資金源となり、それによって悲しむ人がいるのは事実。断じて許すわけにはいかない。

 秘密結社プラグマの悪質転売ヤー作戦を阻止すべく、√能力者達は決戦に挑む――。
カトル・ファルツア

「いや、そんな訳ねえだろ?!」
 そもそも敵が転売しようとした商品は、本当に欲しい人達が手に入れるべきだと思っているカトルは、外星体『ズウォーム』の主張にストレートなツッコミを入れつつ、エネルギーバリアを展開する。
「理解を得られないのは悲しいことだ。残念だが、ここは作戦遂行を優先させて貰おう」
 本心から悲しんでいる口ぶりのズウォームだが、実力行使となれば手加減しない様子。
 地球の理論とは一線を画した頭脳と科学力の持ち主である彼は、数十基の破壊光線砲を召喚し、一斉砲撃を仕掛けてきた。

「ぶっ放してきやがって! ふざけるな!」
 野生の勘と第六感で【ズウォームキャノン一斉発射】のタイミングを察知したカトルは、素早く回避を試みる。命中率は高くないようだが、砲台の数でそれを補う戦法だろう。
「覚悟しろ、この転売野郎!」
 悪質転売ヤーへの怒りを力に変えて、彼は光速移動で敵に急接近。避けきれなかった光線を先に展開していたエネルギーバリアで防ぎながら、まずはオーラパンチをお見舞いする。

「むうっ?!」
 牽制と呼ぶには高威力なパンチを食らったズウォームは、目を丸くして体勢を崩す。
 その隙を狙ってカトルは全身から風と雷を放出。大気の束縛と感電によって敵の拘束を試みた。
「むむっ、動けん!?」
 捕縛されたズウォームはもがくが、外星体の力でも瞬時に脱出するのは困難だろう。
 ここまで目標が近くにいると【ズウォームキャノン一斉発射】も誤射のリスクがあるので迂闊に撃てない。自分を巻き込むリスクを避ける、理性的な判断が仇となった。

「善意があっても転売していい訳がねえよ!」
 もしも本気で転売を善行だと捉えているのだとしても、それは現実に商品を手に入れられずに嘆く人々の存在を無視した、誤った考えだ。今回の事件だけでもどれだけの人が迷惑を被ったか――それが分からないヤツに好き勝手はさせない。
「ラセンの裁きを受けろ!」
「ぬおおおッ……なんという力だ!!」
 至近距離で放たれたラセンの爪弾が、風と雷に捕らわれたズウォームに突き刺さる。
 それはカトルから悪質な転売ヤーに対する断罪の一撃。想像を超えるダメージを食らったズウォームは、驚愕の表情で吹き飛ばされるのだった――。

ソル・ディールーク

「何か自分勝手だな……宇宙マフィアと変わらないなって思ってしまった僕はちょっと駄目だな……」
 転売を肯定し、悪の組織による世界征服を推進する外星体『ズウォーム』の言い分を聞いて、ソルは率直に酷いと思った。仮に善意のつもりだったとしても、地球人の気持ちを考えないやり方は、ただの独善だ。
「AM√SKILL……極天なる回転『オーガ5』!」
 悪しき計画を阻止するために、ソルは自身を回転させつつ特殊な呼吸を用いて、白い服と羽衣を纏った姿に変身する。神秘や魔法の力によるものではない、前世で彼が編み出した戦闘技能の一種だ。

「形態変化能力を持つ地球人とは珍しい……だが作戦の障害となるなら容赦はしない」
 すでに彼らを計画破綻の脅威とみなしているズウォームは、躊躇なく【ズウォームキャノン一斉発射】を敢行。数十基の破壊光線砲による大火力で、目標を消し去ろうとする。
「おっと……でも宇宙マフィアの砲台よりは回避しやすいな」
 超兵器の類なら前世で見慣れていると、ソルは慌てずに射線を見切って回避。変身によって身体能力も上がっているのだろうか、羽衣をなびかせながら光線を躱す姿は天人の如しだ。

「AM√SKILL……宝星の回転!」
 それでも避けきれない攻撃には「極天の宝珠」を放つ。星の回転をかけた宝珠は爆発的な衝撃波を発生させ、敵の光線を相殺する。小さな流れ星のような閃光が一瞬、戦場にまたたいた。
「AM√SKILL……|極天なる星拳《スターアサルト)》!」
 敵の攻撃を凌いだら反撃のターンだ。ソルは身体を捻って回転をかけてから、思いきりズウォームをぶん殴る。超人的な肉体がもたらす怪力と回転の技術、ふたつを合わせた打撃はただの物理攻撃とはいえ凄まじい威力を発揮する。

「ぬおおお……ッ!!!?」
 咄嗟に両腕をクロスしてガードしたズウォームだが、それでも殴り飛ばされる。地面を何回かバウンドして、それでも勢いを止めきれずに壁に叩きつけられるほどの衝撃。まさか√能力者ではない地球人がこれほどの力を持っていようとは。
「転売滅殺だ」
 無様に倒れ込んだ敵を睨みながら、ソルは冷たい声音でそう言った。コイツをぶちのめせば、秘密結社プラグマの転売ヤーも全員撤退せざるを得ないはず。悪質な転売被害を根絶するため、彼はもう一度拳を振り下ろした――。

リア・カミリョウ

「転売は転売よ。それは悪よ。滅びなさーい!」
 ごちゃごちゃと理屈をこねる転売ヤーの元締め宇宙人に、リアは問答無用で攻撃を仕掛けた。魔弾銃「ツァウバー」から今度は氷の魔弾が放たれ、ダイヤモンドダストの輝きと共に標的を襲う。
「正規のルートで買って、正当に手に入れるの! 君たちが居るとね、行き渡らないの。わかる?」
「だがそれは一時的なものであって、我々が富と物流を掌握した暁には……」
 攻撃を受けても反論されても、外星体『ズウォーム』は穏やかな態度を変えないが、自身の主張を曲げることもなかった。転売を通じて秘密結社プラグマが世界を支配することが、地球の為になると彼は本気で考えている。

「分かんなくてもいいや、きっと理解するつもり無いよね。うん。いくよ!」
 論破することは早々に諦めて、リアは引き続きツァウバーを連射。まずは足から狙って、正確な弾道計算で確実に当てていく。氷の魔弾で敵の動きを鈍らせたら、次は手だ。
「ラララ、転売ヤーは地獄に落ちろ~♪」
 片手でトリガーを引きながら、グリュックからガイコツマイクの「骸さん」を取り出して、怒れる歌を熱唱する。たった今即興で考えた「転売ヤー許すまじ。」の歌である。その歌声は局所的な高重力を発生させ、敵にさらなる重圧を与える。

「どうあっても受け入れて貰えないか……では仕方ない」
 手足を凍らされ、重力に捕縛されたズウォームは【ズウォームキャノン一斉発射】を発動。身動きの取れない自身にかわって、数十基もの破壊光線砲を召喚して攻撃を行う。
「効かないわよ、そんなの」
 しかし前もってエネルギーバリアを張っていたリアは、第六感で攻撃の前兆を察知し、回避または防御を行う。そのまま踊るような足取りで敵の傍まで近寄ると、ダブルアックスの「小野さん」でトドメの強撃を見舞う。

「他の人も攻撃してるし、君ボロボロね。結構効いちゃわない?」
「ぐおおぉぉぉッ!?!」
 味方の√能力者が与えた傷口を抉るように、両手持ちの大斧がズウォームを切り裂く。
 銃撃にレゾナンスディーバの歌唱、さらに近接攻撃も加えた【|全武装《フルスロットル》】の連続攻撃を受け、敵はたまらず悲鳴を上げた。
「適正価格って、あるんだから。値を吊り上げて不当に儲ける転売ヤーにはお似合いの姿よ」
 欲しかったものが手に入らず、多くの人を悲しませる転売を、善行だなんて絶対に認めない。怒りに燃えるリアはまだまだ気持ちが収まらない様子で、ぶんぶんと「小野さん」を振り回すのだった――。

星谷・瑞希
鳳崎・天麟
鳳崎・蓮之助

「お前さん達の転売ヤー達が店側に結構迷惑かかっているしうちの娘にも恐喝しようとしていたんだが?」
 パラノイア・デッドライフ態に変身しつつ、相手に不満を述べるのは蓮之助。どんなに口でお題目を並べ立てても、秘密結社プラグマの転売ヤーが実際に迷惑をかける所を彼は目撃している。
「あーあ、嫌ですね……転売ヤーのせいで色んな物が買えなくなって皆困っているんですが……」
 彼の義娘である天麟も、ネガティブ・パラノイア態に変身したまま敵へ文句を言う。
 実際に転売ヤーの被害を受けた人間がこれだけいるのに、それでも計画を推し進めようとするなら、あの『ズウォーム』とやらは絶対に地球人とは相容れない存在だ。

「絶対許せないよ、僕だって転売する人のせいで欲しいの買えなかったんだし!」
 瑞希も大いに怒りを表明し、霊力狙撃銃を構えて戦闘態勢を取る。ここでズウォームを倒せば悪質転売ヤー事件は解決だ――しかし、プラグマの一般戦闘員とは格が違う強敵だ。大事な幼馴染に万が一の事がないよう、彼は念の為に√能力も使用する。
「お願い……力を貸して!」
「瑞希、分かりました……変身!」
 瑞希の【|シュリンの覚醒《シュリン・フォース》】によって、天麟は「霊王シュリン」に変身。ロリータ系マフラーを装着して愛銃「シュリン・バレット」を抜く。この姿であれば、√能力者である幼馴染や義父にも引けを取らない。

「諸君に迷惑がかかった事は謝罪しよう。だがそれは一時的な事だ。今回の迷惑分を補填するだけの利益を、我々は必ず約束する」
 三名から相次ぐ転売への不満を訴えられても、ズウォームの意見は変わらなかった。
 ここで√能力者達を倒すことさえも、最終的には全地球人のためであると語り、【ズウォームキャノン一斉発射】を仕掛けてくる。
「話にならねえな、おい」
「まずは躱さないと不味いですね」
 召喚された破壊光線砲による一斉攻撃を、蓮之助と天麟はしっかりと見て回避する。
 この親子の戦闘スタイルはよく似ており、空中をダッシュして光線を避けていく姿は、異形ながらもスタイリッシュだ。

「光線砲は命中率に難があるか。ではこれを……むむっ?」
 いくら高威力の一斉発射でも当たらなければ意味はない。ズウォームは【ズウォーム・レンズアイ】を発動し、蟲の如き眼球を無重力ガンに変形させるが――それを発射する前に、死角から攻撃を受けた。
「僕の事も忘れないでよ!」
 そう言ったのは瑞希だ。念動力で宙に浮かびながら狙撃銃で素早く弾丸を撃ち込む。
 眼球を武器に変形させているなら、その射線は視線とイコールのはず。敵の視界に入らないようにしつつ、自力で浮遊しておけば無重力も効きづらいだろう。

「これは困ったな」
 視界の外からの狙撃が邪魔で、ズウォームは無重力ガンの照準を合わせる暇がない。
 特定の対象に目標を絞らなければ【ズウォーム・レンズアイ】は威力を発揮できないのだ。
「よし、本気出してやるぜ」
 この間に蓮之助は【パラノイア・|喰覇王《グラトニスト》・デッドライフ・シュリン】を使用して喰覇王に変身。海奪龍と蜘蛛の脚が混じりあったその姿は、通常のパラノイア・デッドライフ態よりもさらに禍々しく、畏怖すべき力に満ちていた。

「むむ、これはいかん……!」
 交戦中の√能力者三名の中でも、強化形態に変身した蓮之助を最大の脅威とみなしたズウォームは、ふたつの√能力の照準を彼に合わせた。破壊光線砲と無重力ガンによる、容赦なき一斉射撃が襲いかかる。
「悪いけど喰覇王には効かねえんだ」
「なにっ?!」
 だが喰覇王に変身した蓮之助は、攻撃・回復問わず外部からのあらゆる干渉を完全に無効化する。破壊光線も無重力ビームも効かないと分かっているので、そのまま突っ込んでいく。

「とりあえずその砲台邪魔だから消えな」
 そう言って蓮之助は起源戻しのブレスを吐き、破壊光線砲を召喚される前まで戻す。
 鬱陶しい【ズウォームキャノン一斉発射】が消えれば、ズウォーム本体への接近を阻むものはなくなる。
「おらよ」
「ぐおッ?!」
 すかさず次元喰らいで噛み付き、娘達の方へ投げ飛ばす。自分の役目はここまでだ。
 変身中は無敵を誇る喰覇王だが、無効化能力を使うたびに魔力や霊力その他のエネルギーを大量消費する。枯渇すれば意識を失うため、あまり長時間は維持できないのだ。

「……そろそろ気絶するから一旦離れるな」
 と娘達に一言告げて安全な場所へ避難する蓮之助。それは二人を信頼するからこそだ。
 彼の期待に応えるため、瑞希と天麟は投げ飛ばされたズウォームに攻撃を仕掛ける。
「よし、追撃するよ!」
「シュリンとして、貴方を裁きます!」
 瑞希が操縦する小型ドローンが、搭載火器による掃射を浴びせ。天麟の放つ銃弾が、次元干渉で残りの破壊光線砲台を消し飛ばす。完全に無防備になったズウォームへと、覚醒霊気の拳と黄泉の回転弾が突き刺さった。

「ぐおおおっ! な、なんという力だ……!」
 幼馴染コンビの連携攻撃を食らい、驚嘆を露わにするズウォーム。昆虫の甲殻めいた肌に亀裂が走り、血液とは異なる色の体液が流れだす。相当のダメージを受けたところに、間髪入れず天麟が突っ込んできた。
「吹き飛びなさい……今です! 瑞希!」
 霊王の神速と全体重を乗せたタックルが、またしてもズウォームを舞い上がらせる。
 描かれた放物線の先には、もちろん彼女の幼馴染がいる。全身からほとばしる覚醒霊気のオーラが、まるで星のように輝いていた。

「僕に任せて!」
 ありったけの力を振り絞った念動力が、局所的な重力異常の霊力現象を発生させる。
 その規模たるや地球の数十倍、あるいは数百倍。宇宙空間で生まれた外星体でも、無事では済まない圧力だ。
「なん、という、ことだ……むおおぉぉぉ……!!」
 不可視の重力の腕に押しつぶされたズウォームは、悲鳴とともに地に這いつくばる。
 健全な商業活動を阻害し、人々に迷惑をかける転売ヤーがどれほど罪深い存在か、これで彼も多少は理解しただろうか――。

雨深・希海

「うーん……。よくわからないな。結局なんで転売するの?」
 外星体『ズウォーム』の主張を聞いても、希海には転売が善行となる理屈が理解できなかった。富の再分配がどうとか言われても、自分達が利益を得ることの自己弁護にしか聞こえない。
「本当に欲しい人はプラグマから買わなければすぐ手に入るのに。……ていうか、他の√に持ってかれちゃうんなら、√能力者以外買えないじゃん」
 √をまたいで商品を持ち去ることさえ「再分配」と言うつもりなのだろうか。だとしたら大層な欺瞞だ。普通の人からすれば忽然と商品が消えた、または現れたようにしか思われない。

「全然筋が通らないね。これ以上話をする必要はないかな」
 そういうわけで希海は自分のレイン砲台をひとつに束ね、強襲形態「ストームブリンガーMode:A」を生成。√能力【|蒼嵐の剣《ストームブリンガー》】も使って、一気にズウォームに攻め掛かる。
「残念だよ。諸君にも賛同して貰いたかった」
 迎え撃つズウォームは数基の破壊光線砲を召喚し【ズウォームキャノン一斉発射】の態勢。テクノロジーと火力の差で一気に決着をつける気のようだが、砲撃に専念するぶん機動力は低下する。

「機動力が落ちてるなら、移動力の高いぼくの方が有利だよね」
 蒼嵐の剣を手にした希海の移動速度は通常の4倍。まさに嵐の化身が如き疾走で、破壊光線の乱射をかい潜る。あさっての方向に飛んでいった光線が電柱を溶かすのが見えたが、そんなのでいちいち怯んでいられない。
(攻撃が当たると痛いけど、命中率も下がっているなら、高い移動力で相手を翻弄できるはず)
 彼我のスピードに大きな差がある今が、攻め立てるチャンスだ。希海はぐっと剣を握りしめ、砲撃を抜けてズウォームの懐に飛び込んだ。ここまで近づけばもう、命中率の低い光線砲は使い物になるまい。

「これで……叩き斬る!!」
 蒼い閃光の軌跡を描いて、希海のストームブリンガーが敵を断つ。向上しているのは移動速度だけではない――目にも止まらぬ連続攻撃を受け、ズウォームが「ぐおおぉっ?!」と悲鳴を上げた。
「なぜなんだ……私は君達地球人を……」
「お前の善意はぼくらとは相容れない」
 宇宙人差別するわけではないが、彼と地球人にはどうしようもない思想の乖離がある。
 いかに善行だと言っても、それが地球にとって迷惑なのだと理解できないなら、受け入れられるはずがない。

「ひとりよがりの善意なんて、そんなの悪意よりたちが悪いってこと、知ってよね」
「な、なんと……」
 冷たいまなざしで相手を睨みつけ、返答がわりの斬撃を叩きつける希海。押し付けの善意を拒絶されたズウォームは、嘆いているのか怒っているのか――蟲のような頭部から表情を窺うのは難しいが、間違いなくダメージは蓄積されていた。

イルフィリーズ・メーベルナッハ

「あなたの考え方は高度すぎて、わたしにはよく分からないの」
 転売によって富を再分配し、地球人を幸福に導くという外星体『ズウォーム』の主張は、イルフィリーズにはこれっぽっちも響かなかった。どんなに立派な事を言っても、これまで見てきた転売ヤーへの邪悪なイメージは覆らない。
「分かるのは、転売って手段を採った時点で、あなたはわたしの敵ってコトだけ。だから、殺っつけちゃうね♥」
「無念だ。君達を傷つけなければならない事が」
 ”愛の鉄槌”と銘打った金属バットで喧嘩殺法を仕掛けてくイルフィリーズに、ズウォームは嘆きつつも応戦の構え。プラグマによる世界征服が成され、地球が幸福になれば、最終的には理解されるだろうという考えのようだ。

「燃えちゃえ♥」
 鉄打棒による物理攻撃に交えて、イルフィリーズは焼病菌「ブラス・フォイア」を散布し、焼却攻撃も同時に仕掛けていく。肉眼では見えない病原菌が付着した瞬間、ズウォームの体が青褪めた炎に包まれる。
「地球にはこのような病原体が存在したのか……これは危険だな」
 地球人よりタフな外星体も、叩かれながら燃やされるのはダメージの蓄積が大きい。
 反撃のために【ズウォームキャノン一斉発射】を起動し、焼病菌をその|保菌者《キャリア》ごと吹き飛ばさんとする。

(敵の切り札は光線砲。あんなの受けたら、絶対タダじゃすまないけど……当たらなければ大丈夫)
 敵の周囲に数十基の破壊光線砲が召喚されるのを見ても、イルフィリーズは微笑を浮かべる。呼び出した数に応じてダメージが上昇するタイプの√能力だが、引き換えに命中率は落ちるようだ。
「だから、こうしちゃうね?」
「ぬおっ……?! なんだ、地震か?」
 突如としてズウォームの体を強烈な振動が襲う。天災を疑うが、揺れているのは彼だけだ。人間災厄クランクハイトの【|症例番号11「震動病」《ツィターン・クランク》】――感染した相手の肉体を震えさせる病原体に、いつの間にか彼は罹患していたのだ。

「ただでさえ当てにくいのに、この状態でちゃんと当てられるかな?」
「くッ……いかん、照準が……!」
 イルフィリーズは震動に加えて間合いを詰めることで【ズウォームキャノン一斉発射】を回避。明後日の方向に飛んでいく破壊光線をよそに、そのまま鉄打棒で反撃を仕掛けた。
「滅多打ちにしちゃうね♥」
「ごはぁッ!!」
 まともに立っている事すらできないほどの振動は続いたまま、微笑む乙女にバットでぶっ叩かれる。にこやかな素振りに隠しきれない殺意を、骨の髄まで味わうズウォームであった――。

パンドラ・パンデモニウム

「他の星からのお客様ですか。私の古い知り合いは星座になっている方も多いのですが、セミ座というのは聞いたことがありませんね……セミじゃないのかな?」
 外星体『ズウォーム』の昆虫のような頭部を見て、そう言ったのはパンドラ。おそらく本人に煽りのつもりはないだろう。宇宙の虚空から誕生する外星体はそもそも「故郷の星」というものを持たないのだが。
「さておき、あなたの言葉は間違いですよ『本当に欲しい人』が買えなくなるのが買い占めというものです」
「ふむ?」
 パンドラの冷静な指摘に、ひとまずズウォームは耳を傾ける姿勢を見せる。欲しい人のもとに商品を届ける富の収集と再分配、それが彼の転売ヤー作戦の目的らしいが、現実は真逆だ。

「なけなしのお小遣いを握り締めて買い物に来たお子さんが、物がなかったり、何倍にも値上がりしていたりしたときの哀しい表情が想像できませんか」
 それだけでも善であるはずがありません――と、確固たる意志でパンドラはズウォームの計画を否定する。ヘルメスの靴で宙を舞い、掌から放つは「ゼウスの雷霆」。主神より授かった権能が、壮絶な閃光と雷鳴を放つ。
「君の意見は理解した。だが、私も子供たちの笑顔のために働く気持ちに偽りはない」
 ズウォームもまた意志を曲げず【ズウォームキャノン一斉発射】で応戦。召喚された数基の破壊光線砲による全砲撃が、ゼウスの雷霆と真っ向からぶつかり、爆炎を起こして相殺する――。

(まあ打ち消しきれないでしょうが)
 こと単純火力において、外星体の超兵器は神の力にさえ勝りうるものだった。賜ったのはあくまでオリジナルには及ばぬ断片、はなから勝てるとは思っていなかったパンドラは、爆炎が起きた一瞬に「モルペウスの衣」を使い、周囲の光景に同化した。
「む……彼女はどこへ?」
 身を隠した彼女の行方を、ズウォームの眼は捉えられない。夢の神モルペウスからの贈り物は幻影を作り出し、生物のみならず無機物までも惑わすのだ。体勢を立て直すには十分な猶予を得られる。

「射撃勝負と行きましょうか……封印災厄解放です!」
 今度は押し負けはしないと、パンドラは【封印災厄解放「|降り注げ日輪の牙燃え上れ太陽の矢《アポロンズ・デストロイ》」】と【封印災厄解放「|舞い踊れ月輪の刃凍り付け月光の矢《アルテミス・アニヒレーション》」】を同時解放。炎の弓三基、氷の弓三基を召喚する。
「弓の神であるアポロン様とアルテミス様から頂いた弓矢の威力を味わってください」
 炎と氷それぞれ矢は54本ずつ、合わせて108本の矢の雨だ。その総火力たるや間違いなくパンドラの保有する贈り物の中でも屈指。加えて、射手である本人は姿を隠していることも忘れてはならない。

「どこから飛んでくるかわからない状態で避けきれますか、セミさん? ……セミじゃないんでしたっけ?」
「ぬおっ?!」
 紅蓮の炎の矢が、凍てつく氷の矢が、神々の弓より一斉にズウォームへ射掛けられる。
 射手が見えないがため、反応のタイミングが一瞬遅れたズウォームは、慌てて今度も【ズウォームキャノン一斉発射】で応戦しようとするが――。
「こ、この星にこんな超兵器があったとは……ぐわぁぁぁぁっ!!!」
 今度は相殺することもできず、押し負けたのは彼のほうだった。骨の髄まで焦がされ、凍りつくような灼熱と冷気が、108の矢を通じて突き刺さる。それは宇宙空間の過酷な環境にも勝るものであった。

アクセロナイズ・コードアンサー

「欲しいと思っている人間に届けるのは公式や通販サイトや小売店がやることであって! お前らが割り込む必要なんてねえ!」
 富の再分配を謳う外星体『ズウォーム』の作戦を、コードアンサーは真っ向から全力否定した。そもそも正規の製造者や販売者が努力しているところに、いち消費者でしかない者が介入するなど烏滸がましいではないか。
「それは不必要な中抜きって言うんだよ!」
「な、なんだと……!」
 びしり、と指を突きつけ断言すれば、流石にズウォームをショックを受けた様子でたじろぐ。本人にその気がなかったとしても、事実はそうだ。そしてそれが分からないヤツに、正しい富の再分配などできるはずがない。

「私は間違っていたというのか……? いや。私は信じている、この地球の未来を!」
 度重なる√能力者との交戦により、ズウォームの負傷も限界に近づいている。だが彼は己の信念を曲げはせず、取り出した商品――おそらくは転売品のひとつから【ネガ・マインド・ウェポン】を生成。物品に眠りし過去の所有者の記憶と因縁が力となる。
「だがその因縁はオレが受け止める!」
 その武器がどんな因縁を持つのかはわからないが、ズウォームが依り代にしたのはカードパックのように見えた。ならばカードゲーマーであるカード・アクセプターである自分とも無縁ではない。皆の攻撃もかばうつもりで、コードアンサーは敵の正面に立つ。

「ならば……覚悟してもらおう!」
 これは信念と意志のぶつかり合いだと、剣状のネガ・マインド・ウェポンを振るうズウォーム。彼も秘密結社プラグマの幹部の一員だ、実力は相当だろう。コードアンサーの継戦能力もどこまで持つか。
「この星も、この世界の娯楽も、お前らに管理されてたまるか……!」
 ――そこで彼は、さっきの騒動で偶然買えた1パックを剥く。この逆境をひっくり返す、逆転のカードを引き当てられることを願って。確率からすればその可能性は数百分の、あるいは数千分の一。だが真のヒーローなら、真のカードゲーマーなら。

「来たぜ『赤龍神カーマイン』! こいつが新たな切り札だ!」
「なんだと……!」
 引き当てた赤い龍のカードを、コードアンサーは高々と掲げる。まさにそのタイミングで敵も道具の因縁を使い果たしたようだ。武器が尽きた今を置いて逆転の時はないと、彼は高らかに叫ぶ。
「変身ッ! アクセロナイズ・ドラゴレッド!」
 『赤龍神カーマイン』の炎の力を宿した、赤い鎧の強化フォームに変身したコードアンサーが、新武器「赤龍神剣フレイムタン」の一撃を見舞う。その切れ味と灼熱は、ズウォームを怯ませるに十分なものだった。

「くっ……ここで新形態だと!」
 ズウォームは破壊光線砲で応戦するが、一瞬の隙でアクセルボードへ飛び乗ったコードアンサー。灼熱を周囲に放つその様は流星の如しであり、防御も速度も自信ありだ。
「今更破壊光線なんか効かないし当たるかよ!」
 そのまま熱気と銀の光を纏い、光線をすり抜けながら距離を詰め、ボードから跳躍。
 全身全霊を込めて叩き込む【『突撃』×『達人の一撃』】が、本日のフィニッシュムーブとなる!

「これで決まりだ、アクセル・キック!」
「ば、バカな……すまない、地球の民たち……グワーーーーッ!!!!!!」
 赤きヒーローの必殺キックを食らった悪の怪人は、断末魔の絶叫とともに爆発四散。
 スタッと地に降り立ったコードアンサーは、太陽と蒼天を背に、勇ましくポーズを決めた――。

 かくして、√能力者たちの活躍により、悪の転売ヤー作戦は潰えた。
 欲しい人たちに欲しい商品が行き渡る。√EDENの健全な商取引のあり方は、無事に守られたのである。

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挿絵イラスト