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#√仙術サイバー

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 #√仙術サイバー

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●ひとつめ
 腐った場所にだってルールは有る。
 余所者は無法だ何だと宣うが、こっちのルールを知らないだけだ。
 人を信用するな。
 依頼の指示には従え。
 敬意を払うべき人間には出来得る限り敬意を払え。
 金を持ってるだけの豚野郎には媚びながら唾を吐け。
 クソ野郎を出し抜ける時を見逃すな。
 命は取引材料だ。内蔵も、血も骨も、肉も。
 人は一人では生きていけねえ。
 食事、食料、安全な飲み水、薬、食える木の根も雑草も。
 俺達は何も知らねえ。知る機会も訪れねえ。
 知っている賢い奴等は、上に行くか、何も知らねえ奴に狩られて野垂れ死ぬ。
 ルールを守らねえ野良犬は殺せ。
 それでも。
 生きている。
 俺達は生きている。
 此処に居る。
 吠えたって良いだろうが。
 なあ。

●鏢局「虎狐」
 骨に皮を張り付けただけの様な小汚い男が、鏢局の前で、一つの封書を抱えて、息絶えている。
 細い目をした局員は、良く有る事だと顔を覗き見て、首を傾げ、暫くして、ああ、と頷いた。それから、封書を丁寧に取り上げて、無遠慮に中を覗く。内容を確認すると、喜悦ににんまりと顔を歪めて、男の屍体の使い道を考える。仲介料の取り分は弾んで貰えるかどうか、上機嫌に鼻歌を歌いながら、死体を管理場に引き摺っていく。
「と言う経緯ですが、何方に付きますか、局長」
 含み笑う糸目の従業員に、局長と呼ばれた男は、封書を見てから、煙管の灰を落とし、にぃっと嗤う。
「欲が見え見えだ。狐。コイツぁ美味しいネタだからなぁ、引っ掻き回したくて仕方ねえんだろ。派手にやれや」
「さっすが、局長。私の事を良く分かっていらっしゃる!」
 天啓を授かったかのように、大仰に両の掌を広げて、狐は喜びを表現した。勿論、本当の腹の底など分からないが、局長はこう言った仕草をする時、裏切る事は無いと分かっている。
「世辞は良い。とっとと段取り決めやがれ」
 運び屋は√仙術サイバーに数多く有る。
 其れ等は大概、表の顔と裏の顔を、都合良く使い分ける。近所の好好爺から、簡単な手紙の配達を請け負いながら、その道中でマフィアの護衛をする。
 誰が呼び始めたのか、黒星の名を冠した暗殺者、ヘイシン・クーリエ達の寄合場。それが鏢局、ギルドだ。その内の一つが、腕だけは確かだと同業が言葉を濁す変人の集まり。鏢局「虎狐」である。

●依頼の説明「狐」
 鏢局「虎狐」は封書を、鬼城最奥を訪れる、とある人物に渡す様に依頼した。然し、封書は集まった人数分渡され、中身を見ずに届けろと言う。
「見た場合は、報酬の話はナシと言う事で」
 何故か楽しそうに目を細めた依頼人について、君達は思うところが有ったかも知れない。兎も角、封書を届ける為に、君達は鬼城の最奥を目指す事になる。男はこうも言った。
「正しい封書を、正しい枚数届けたら、その分、イロを付けて差し上げましょう」
 男は指をゆっくりと二つ立てた。倍額、と言う事だろう。
「指定場所は深い霧に覆われています。襲撃は恐らく其処で活発化します。後始末が楽ですから。それでは、宜しくお願い致しますね」


●世界説明「√仙術サイバー」
 経緯を説明し終えた動画内の少年、 寺山・夏(モノ聴き・h03127)は何時も以上に憔悴した顔で、該当世界についての説明を始めた。内容はこうだ。
 世界の名前は「√仙術サイバー」
 仙術とサイバー技術が高度に発展した現代地球であり、積層都市に住まう強者達が、武強主義のもと覇を競い合う、荒々しい世界だ。
 バブル経済絶頂期、謎の自然現象『雷素崩壊らいそほうかい』が発生し、電気エネルギーは突如として不安定になる。電線や発電所、テレビや街灯に至るまでが次々と爆発する危機的状況にあって、香港の√能力者達が『仙術』を新たなエネルギー源として提供した事から、異なる歴史を辿った√だ。
 これを期に、仙術機械文明が始まり、それは武強主義に至る。
 この危険思想の発生は単純な物で、仙術は√能力だからだ。
 使用者の強さに応じて、効果が増大するのだから、文明を発展させる為には、より強い√能力者を、より多く集めるのが効率的だ。より強き者が全てを得る、そう考える様になるのは当然のことだろう。実際に強者は増え、生身の肉体を捨て、機械化する者も増えて行き、文明は栄華を極め、やがて、インビジブルの枯渇と言う最悪の結果で、限界を迎えた。
 人々の決断は何処までも愚かであり、枯渇への対抗策は都市を積層化する事で、上空のインビジブルを得るとした。大気中のインビジブルが尽きる度に新たな都市を積み上げる、常軌を逸していると言っても良い行いが、一般化した。
 より良い生活が出来る者が上層へ、持たざる者は取り残される。最下層はあらゆる暴力が跋扈する鬼城と化している。
 此処は、何処までも救いが無い世界だ。
 それでも、人は強く在る、在ろうとする。
 遠かろうと、叶わずとも、笑って夢を見るのだ。
 明日は綺麗な女と過ごすのだ。明日は大切な人を過ごすのだ。
 腹を満たして美味い水を飲む。
 皮肉な事に、武強主義が、世界に希望の種を残している。

●締め括り
「星詠みからEDENへ、どうか、宜しければ、お願い致します」
 画面向こうの星詠みは最後に深く頭を下げ、動画を締め括った。

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第1章 冒険 『秘密の届け物』


クラウス・イーザリー
ガイウス・サタン・カエサル
馬車屋・イタチ
リズ・ダブルエックス

●依頼まで(1)
 √仙術サイバー、鏢局の有る通りで、二つの人影が、適当な屋台を訪れては味比べをしている。一人は切れ長の双眸を持った背の高い男。緑色の瞳に、やや好奇の光が浮かんでいる。
「美味しいですか、ガイウス様」
「庶民の味、と言う奴だね。この言葉の意味について、レポート提出を命じようか?」
「きちんと書けるまで、リテイク……ですよね」
 細身の長身に付き従うのは、青い髪を後ろ手に結んだ少女だ。服装は、黒を基調としている隣の男に何処となく似せている。何時もであれば、隣の主、ガイウス・サタン・カエサル(邪竜の残滓・h00935)の言葉も、その命令も喜んで受けるのだが、今回ばかりは、目に見えて、どんよりと沈んでいる。それでも本当に命じられれば行うと言う固い意思は見えていた。
 少女の今の名は、ロヴィーサと言う。幾つも自分で名前を考えて来たが、好意を抱いた人から貰った名前だけに、彼女は今までのどの名前よりも、これを気に入っている。
「冗談だよ。ロヴィーサ、この間の修行で疲れているね」
「疲れない人など、存在するのでしょうか……カエサル様がいらっしゃいました。己の未熟を恥じ、一層、修行に励む所存です」
 涼しい美貌が、上品に汁蕎麦を啜っている。食べる速度が遅い訳では無い。直ぐに付け合わせの点心に箸が伸びる。
「無敵と言っても痛覚は有るからね。動かさずに斬り続ければ悲鳴を上げるだけで何も出来ない。精神も鍛えられただろう? 慣れてきたのも有るだろうが、こうして、私に不満を述べる事が出来るのだからね」
「それは、今のガイウス様が料理に気を取られているからですよ。それに」
 二人での時間を取ってくれたのが嬉しいとは、ロヴィーサは口に出来なかった。言い掛けた口を閉じて、俄に頬を染める。間に、頼んでいた点心が胃袋に消えていた。続けて運ばれた小籠包に漸く箸を伸ばす。噛むと、口中で溢れ出るスープの旨味と挽肉の力強い食感、そして熱が、疲れの見えていた少女の舌を有無を言わさず唸らせた。
「好みかな?」
「とは言え、ガイウス様ほど私は食べられませんから、このお店では、これだけにしておきましょう。有難う御座います」
「切替は済んだ様だね。では、頭を回したまえ」
 今回のも修行だからね、とガイウスは今回の依頼への、ロヴィーサの対応に耳を傾ける。
「封書を開けたら報酬は無し。封書を正しい数届ければ報酬は倍額、でしたね。先ずは開けて中身を確認。相手も此方を見ているのでしょうから、同じ事をしましょう。そのまんま返しの我慢比べ……如何、でしょう」
「では、状況が終わるまで、私に頼ってはいけないよ。その時は」
 細められた瞳に、ロヴィーサの背筋が凍る。思わず喉が引き攣り、悲鳴を上げそうになるが、堪えて、返答をどうにか絞り出した。

●依頼まで(2)
 昼時にずらりと建ち並ぶ屋台。猥雑な人混みは女の話と功名の話と儲け話に満ちている。その中には暗号らしき言葉遣いがちらほら見受けられる。
 馬車屋・イタチ (偵察戦闘車両RCVの少女人形レプリノイドの素行不良個体・h02674)は耳を澄まして得た情報に、意味も無く幾度か首肯した。乳白色の人工毛髪は独特の光沢を持ち、厚手の暗色テックウェア・パーカーにスカートを合わせた控え目な装いは、育ちが下層の物では無いと、俄に噂が拡がっていく。
「イタチさんってば人気者ね~」
 等と宣っていると、蒸籠を山ほど抱えながら片端から点心を美味しそうに貪っている見知った顔が通り掛かる。銀色の短い髪と、白を基調としたボディスーツ。胸部には、逆三角に傷を付けた様な、欠けた六芒星とも言える、独特の紋章。少女の顔が、ひょいと、イタチの方を向く。
「はへ、いひゃひひゃんひゃないれふふぁ?」
「うんうん、食べるのを止めてから喋ろうね~、相変わらずだね~キミは。一つ貰って良ーい~?」
「ろうろ!」
 リズ・ダブルエックス(ReFake・h00646)は注意を無視し、次の点心を頬張りながら、空いた手で蒸籠をイタチに一つ手渡した。中に入っている熱々の肉饅頭を頬張る。
「キミも動画で依頼の大まかな説明は聞いたよね~」
 止まる気配の無いリズの横を歩き、汁蕎麦、棒々鶏、よだれ鶏、油淋鶏、ニラ玉、鶏出汁粥、胡麻団子、鶏皮餃子、麻婆豆腐、胡麻団子等々が瞬く間に消えていくのをのんびりと眺める。
「マッチポンプ作戦を実行しようと考えています!」
 ジャスミン茶を飲み干し、漸く、やりきったと言う表情をしてリズは一息を入れた。説明するよりもと、データを435分隊の暗号コードで送る。
「いや~無茶苦茶だね~。でもイタチさんもやりたいこと出来るし歓迎だよ~」
「ああ、リズも来てたのか、偶然だね」
 黒い髪、中性的な容姿。小柄な、黒外套を羽織った青年が通り掛かる。屋台の店主が品書きに目を遣ると、すぐに適当なメニューを注文した。
「そう言うクラウスさんこそ! 今、丁度作戦を共有している所です!」
 口元に食べ零しが残っていたり、今も屋台のお品書きを目で追うリズの前に、丁度、天津飯が提供され、益々説得力は薄れていく。クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は小さく笑ってから、考えている事を話した。
「それなら、クラウスさんの情報を飛ばしましょう!」
「それは、どうなるんだろうな……」
「イタチさんは揺さぶりを掛けるから~、その時だね~」
「面白い話をしているね、この子にも少し、聞かせてやってくれないかな?」
 見知った顔の居る三人組を見付けて、ガイウスはロヴィーサを引き連れて、話に加わった。紹介されたロヴィーサは丁寧に頭を下げた。
「では、私は元々予定していた通り、依頼主を観察しましょう。イタチさんにそれぞれ応じた合図を送りますね」
「宜しく~」

●歪曲:依頼説明「狐」
 鏢局「虎狐」のロビーで、狐が説明を終え、封書を人数分渡す。
 ロヴィーサは封書を懐に仕舞い、他の者の出方を伺う様に装って、手近な椅子に腰掛けた。ガイウスは付き人を装い、少女の隣で静かに佇む。その様子を警戒する様に狐からは視認し辛い位置へと、クラウスが動く。リズは何も考えていない風に、身体を揺らしながら、鼻歌を歌う。依頼人の趣味に合った動きは、割と自然だった。表の騒動は確りと攪乱していた為、気付かれていない。
「あれ~? イタチさん達の分が足りないみたいだよ~?」
 上機嫌な顔をしていた狐の眉がぴくりと跳ねた。その言葉を皮切りに12人のイタチが押し掛け、一斉に足りない分を強請る。
「おやまぁ、大所帯ですねえ。これは困りました」
「足りないって事はこれで全部かな~?」
「いえいえ、人数分は有りませんが、お渡ししましょう」
「いやいや~こんなでも本職運び屋だからね~。ちゃあんと働くよ~、裏切らない限りは、だけど~」
「これは手厳しい。然し、貴方は賢明だ。私を信用してはいけません。私は信用される材料を何も出せていないのですからね。さてさあて、それでも仕事はして頂きたい」

●記憶との対話
 クラウスの指先が、小さく温かな火を灯して、瞳を閉じて、封書にそっと触れる。
 骨に皮を張り付けただけの様な男が、呻き声を漏らしている。
「と、どけ、てく、れ。狐様。と、ど、ける。俺の、命、の使い、所。虎、狐」
 うわごとの様に虎狐と狐様と繰り返す。クラウスは慎重に言葉を手繰り、ゆっくりと息を吐く様にそれを紡ぐ。
「届いた、よ。心配しなくて、良い。教えてくれ、封書と、狐の事を」
「人で遊ぶ、以外は、そう悪い人じゃ、ねえ。鬼城、上がり。これは軍警の、不正。その証拠。たのむ、届けて、くれ」
「分かった。必ず届ける。あなたの力を少し貸して貰う」
 目を開けて、ロヴィーサに合図。ロヴィーサの方もやや驚きつつも白のサインを寄越す。瑠璃色のアマツバメが一羽、クラウスの持つ封書に停まる。
「信じる者は救われます。そう言う可能性について、どう思いますか?」
 鼻歌を歌っていたリズから投げ掛けられた問い掛けに、流石に狐も虚を付かれた。
「どうしたのですか、急に」
「夢とパーティは大きく派手な方が楽しいでしょう! 出来れば大きなケーキと食べきれないほど豪華で美味しい食事が有ると嬉しいです! それからふかふかのベッドも所望します!」
「は、はい?」
 リズから溢れ出す、蒼い竜漿の煌めきが、周囲を満たす。クラウスの手元から、風音が響く。
「さあ、行くべき所へ行きましょう! 依頼を開始しますね!」
 封書がまるで生きているかの様に、突風を作り上げ、外界へ飛び立って行く。リズは早々にそれを追い掛けた。

●勝ち取った正式依頼
 一連の現象と流れを狐は冷静に分析し、大まかな結論を出す。これはこれで面白い物が見られたと首肯し、気を取り直した。
「ハァ……それで、貴方達はどうします? 報酬、要ります?」
「流石と言うか、あれだけで其処に行き着くんですか、流石に頭が回りますね」
「報酬自体は欲しいかな~、鬼城の人達にね~。イタチさんたちはともかく、他のヒトたちは真面目で優しい人も居るんだから、あんまり揶揄っちゃダメだよ~?」
「ああ、まあそんな所なんでしょうねえ。此処の住民じゃないことがそれだけで伝わりましたよ。忠言痛み入ります。では、信頼して、全てお任せしましょう」
 狐はまず、渡した封書は全て届けて欲しい物だった事を告げる。協力非協力を問わず、全て届けたかったと言った。
「ブツは軍警のとある悪徳派閥をごっそり陥れる物ですよ。どっちにとっても価値がある」
 幾つか誤情報を交えて、彼方側にも情報を流した事を伝えた。
「鬼城の住民には、代わりに出来るだけ物資を優遇しましたよ。今回の件が上手く行けばどうにかなりますからね」
 深い霧が立ちこめているのも、狐の仙術の為らしい。式や制御下に置いた暴走サイボーク等で追っ手を食い止めるつもりだったようだ。
「紹介状を渡します。気になるなら中身を改めても構いませんし、独自の確認方法があるなら、各封書を其方で確認すると良いでしょう。私は貴方方を気に入りましたし、信頼します。正式に依頼しましょう。封書を全て、届けて下さい」
 狐は拱手を作り、頭を下げる。糸目の下には真摯さが伺え、疑う余地は見えない。
「少し、虫が良すぎる気がします」
 渡された紹介状と悪事の証拠がつらつらと書かれた封書を改めて、それでもロヴィーサは上手く行き過ぎて気持ちが悪いと感じていた。
「まあそうでしょうねえ。其方の方が私の好みですが。義侠心と仕事と趣味は区切っています。今回はもう遊べる領域ではなくなったのですよ」
 楽しそうに糸目を更に細めた狐の表情に反骨心を刺激され、その後の告白に、ロヴィーサは折れた。

●リズ・ダブルエックスは食べ足りない
 先程巡った屋台とは別のルートを辿りⅢ層の屋台で買い食いをする。レイン化した封書からは目を離さず、中での経緯はイタチを通して通信端末で遣り取りを聞き、情報を把握した。ジャージャー麺を啜り終えて、回鍋肉に手を付ける。濃い味噌の味を搾菜と青梗菜と水餃子で洗い流す。何となく売っていた桃饅頭を抓んで、茶で飲む。
「……何時もより食べ過ぎてしまいました! それでは改めて、行きましょうか!」
 舌の根も乾かぬ内に月餅を囓りながら、気流操作の施された封書の煌めきは衰える事無く、アマツバメ達と同じように空で踊る

●最下層・鬼城(リズ)
 先に辿り着いたリズを、銃弾の嵐が歓迎する。雷気を帯びた鈍色の鉄片を、砲剣で纏めて切り飛ばし。雷素崩壊爆発から超高速飛翔で逃れ、霧中にダイブ。大凡の位置を把握し、敵性勢力の居る場所に砲撃。拡散する光帯が敵を捉え、胴に穴を開ける。
「予想外です。交渉出来る雰囲気では、ありませんね!」
 胴を開けた敵性勢力から高熱源反応、速度の急速上昇、人体変異を確認。
「ドッグファイトですね! 望む所です!」
 複数相手への牽制射撃、から銃を構えるラグまでに集団へと肉薄、低空飛行から、砲剣を振り抜き、変容した、軍警姿の化物を光帯が焼き斬り、旋回、近接からの砲撃で塵に帰す。
 切り返しから霧を抜ける上空に誘い込み、空を舞う封書と瑠璃色のアマツバメの集団に指示。
「レイン、弔って下さい!」
 蒼い光輝が結合し発射台を形作る。霧中から飛び出た追っ手を囲むように放たれた光の熱線が、刺客を焦がす。墜落を此処に狙い撃ち、薙ぎ払う。
「まだまだ行きますよ! レイン! 敵を成る可く私に引き付けましょう!」

●最下層・鬼城(イタチさん達)
 先行したリズの移動位置をイタチが共有する。序でに上空からの地理情報を確りと作っていく。
「助かるね~、お陰で動きやすい」
 立ち込めた霧はそのままの方が良いとされた。
 と言っても12体の姉妹と一緒に動いている為、イタチは単独行動する事に決めた。正面からやり合う性能では無いが、こう言った環境なら、偵察機を元としたイタチに部がある。
「と言う訳で絶賛逃亡中なんだよね~イタチさん達は~」
 石造りの様な迷路、時折崩壊し瓦礫と化した建物。12体の姉妹はそれぞれ散り散りになって情報を収集し、敵を攪乱する。或いは待ち伏せる、そして、奇襲する。
 疑似的な数的有利を確保しながら プラズマ・カッターがジ・ジと音を鳴らし、白い暗闇に断続的な光をもたらし、敵の体を切断融解する。
「レーダーと通信機の進化って偉大だよね~」
 過剰なレベルで敵を引き裂き、後腐れの無い様にしながら、霧深い鬼城を進む。

●最下層・鬼城(ロヴィーサ・カエサル)
「丁度良い負荷だね」
「そうですね。どう進みましょうか」
 一応端末で各種情報を共有しつつ、ロヴィーサは悠然と歩を進めていた。これはガイウスが急ぐ気が無いと言うのも理由の一つだ。また、情報収集戦力としてはリズが抜きん出ており、イタチの物量にも勝てそうに無い。現状では。
 だから、漏れた刺客を相当する役回りに徹することにした。案の定、徒党を組めなくなった刺客からの凶弾が少女へと放たれ、それが炸裂する事は無く。
「妖魔人間というのはこう言う感じなのですね」
 視界悪の中で銃弾を光剣の切っ先がが二度弄ぶ。一度目で機動を上に反らし、二度目で相手の方に戻す。弾道から敵の位置を予測し、踏み込み。雷素崩壊による爆発を見届けてから、背後からまず頭を貫いて、次に心臓。再生を危惧して、肉を刺突で削り、抉る。
「ふむ、悪くない。この前の修行が功を為しているね。また今度桃を持って来よう」
 他の分隊を、ナノ秒以下で、一切の音を発さず、発現させた光剣で裂き、何事も無かったのかのように従者と話す。
「桃って、桃ですか?」
「桃だとも。何が、気掛かりな事でもあったかな?」
「いいえ、いいえ」
 何が起きたのか察する事も出来ないロヴィーサは、何時も通りの会話を楽しみ、それ以上の追求を止めた。


●最下層・鬼城(クラウス)
 リズの殿、イタチの情報収集に、クラウスの放ったドローンによる地形把握が着々と進む。大体の有人エリアの割り出しは終わり、クラウスは人的被害を抑える方向で動く事にした。
「穏便に進んで良かった。でも本番は、これからかな」
 集落らしき場所では、どうにか活力を保っている痩せ細った住民が身を寄せ合っている。信頼関係には見えない、縋れるから縋っている。そして、クラウスの様な余所者には、強い猜疑の目が突き刺さる。語り掛けるより先に、狐から渡された紹介状を見せると、痩せ細った禿頭の男が、ゆっくりと近付いて、紹介状をじっと凝視する。数分ほどそうしてから、今度はクラウスの顔を見上げて、瞳を覗き込む。
 どうにも行動の理由が分からず、クラウスは少しだけたじろいだ。
 漸く満足した頃合に、クラウスから離れ、少量の水が入った、ボロボロの欠け茶碗を差し出され、力を使って、優しく触れてみる。
 クラウスと狐への信頼と歓迎が、記憶に染み付いていた。
 水に口を付けた所で、気配を感じ取り、スマートゴーグルで敵影を知覚。手甲に仕込まれたワイヤで拳銃を巻き上げ、電流で強化された脚力で地を蹴り、肉薄する。顎を膝で砕き、肩を蹴って背後からもう一度、背骨に膝を落とし、腕を極めて折る。足りなかったので雷撃鞭で身体の自由を奪い、電撃で意識と身体を焼いた。
 現地民とコンタクトを取ったことを皆に知らせた。


●合流
 刺客と呼ばれる物の襲撃が一度収まった頃に、イタチの提案で、鬼城の各集落を回る。儀を通し、紹介状を見せたEDEN達を住民は受け入れた。
 現在は狐の持って来た物資で少しだけ余裕があるらしい。
「報酬はきちんと皆で分けるようにするからね~。皆、協力してくれると嬉しいな~」
 鬼城の住民は、この提案も呑んだ。
「マッチポンプしたかったです……問答無用ってどう言うことですか……」
 リズが一人、そんな風にやさぐれていた。

第2章 日常 『闇市場でのお宝探し』


●鬼城の闇市「黒鬼灯」
 平時は互いに距離を取り、暮らしていた鬼城の住民達は、わざわざ挨拶回りに来たEDENを信頼し、一同に介す。そして、最奥部に続く、とある場所へと案内してくれた。
 特に最下層に住まう鬼城の住民は、不本意ながら、使い捨てられる資源として下層から上層まで、関係を持ち、近付こうとする事も多い。
 偶に成り上がった者等が、気紛れな義侠心に目覚め、施す事も有る。結果、彼等には身に余る施設が、出来上がった。
 建物の一つに入ると、焚かれた香の独特の香りを漂わせ、案内を任された男が、香の幻惑を、解除する陣に触れる。そうすると、厳重な施錠と封印を施された扉が見える様になる。男が扉に近付き、何事か向こうに語り掛けると、扉が開く。
 店舗を構えない、或いは天幕すら敷かずに、物が並ぶ。ただ山のように積まれた我楽多と機械部品がが有る。鎖で繋がれた、人の姿がある。
 見るだけで気分が悪くなりそうな赤黒い物やパーツが、粗悪な容器に詰められ、格安で並んでいる。
 かと思えば、信じられない程に見事な武器が転がり、その隣で子供等が綺麗に作り上げた泥団子を飯の種にしようと売買を試みる。向かいでは釣り餌になりそうな虫を売りながら、涎を垂らして腹を鳴らす。
 通常ならば腹を壊しそうな虫が、串焼きにされ、食品として売られている。快活な呼び込みのされているエリアはほぼ無く、大多数が、何処か呆けた様子で、漠然と、客が商品を買うのを待っている。蛙の肉、蜥蜴肉、鼠肉等は随分と上等な方で、まともな食事はほぼ、提供されていない。
 時折、動かない乞食が、通り縋る人影に耳打ちをする。情報屋がそう言う者達になりすまし、仙術で情報を流す。此処で手に入る物に価値を感じている上層の人間が、見回りの為に使い捨ての子飼いを寄越し、特権階級だと勘違いして、大股で気儘に市の中を闊歩する。
 最下層に更に増設された地下 その浅い層にある市の一つ、鬼城の闇市「黒鬼灯」。
 お宝も我楽多もあるが、商法も禁忌も何処にも無い。ルールは一つ。互いの商売の邪魔をしないこと。それが、どんなに非情な品であろうとも。

●状況説明
 依頼人と鬼城の住民は、EDENの行動に信頼を示し、最奥に至る道を案内してくれた。最下層に上層が作った迷宮の様な場所が、この鬼城の最奥だ。その入口では、独特の価値観によって、運営されている闇市が有る。
 見て回る時間は有る。買物を楽しんでも良い、気紛れに繋がれた人やサイボーグから、気に入った者を買い上げても良い。無造作に積まれたジャンクの山を漁るのも、この市での独特の楽しみだろう。
 特に非合法の市だけあって、生物の取扱は他に類を見ない。EDENのどの様な要望にも応え、商品を用立ててくれるだろう。血統から外見、心の有り様から経緯まで、雑破でも細かくでも、好きに注文をしてみると良い。
 何なら、商材が有るなら。自身が商売をしても構わない。思わぬ出会いがあるやもしれない。
 情報を集めても構わない。何かが世界の琴線に触れ、変わるかも知れない。
 ただこの状況は、刺客をいち早くに退け、依頼人と、鬼城の住民の信頼を勝ち取ったEDENに与えられた気儘な猶予だ。
 遊んでいても何ら支障は無い。心に沿った振る舞いをすると良い。
 暫しの自由な時間を、EDENは好きに使って良いのだ。
馬車屋・イタチ
黒鉄・彪
ガイウス・サタン・カエサル
クラウス・イーザリー
リズ・ダブルエックス

●打ち合わせ
「こう言う所って、どんな世界にもあるもんなのか?」
 電脳ゴーグルの下に額の傷跡を隠した、日に焼けた焦茶色の肌の少年の第一声がそれだった。フード付きの白いパーカー、暗色のジャンパーとズボン、同色のスニーカーは、施された装飾と、通された靴紐の青色を良く引き立てている。
 肌の色と同じ、焦茶色の瞳は、快活な光を宿している、少なくとも、今、黒鉄・彪(試作型特殊義体サイボーグ・h00276)に兵士としての面影は感じられない。有るとすれば、今、彼の肩に留まっている黒の機械鳥くらいだろうか。
 赤いアイセンサに、感情の光は無い。
「√ウォーゾーンには良く有るよ」
 親近感を覚えると、クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は首肯した。後ろ手に纏めた細い黒髪が揺れる。
「私達の世界に無いって言ったらそれは嘘になりますね! 私の拠点にしてる機械都市も少し前まで酷かったんですよ!」
 作戦が思い通りに行かなかった憤りは時間経過によって解消され、リズ・ダブルエックス(ReFake・h00646)が白く、形の良い頬を俄に膨らませて同意する。最早、一緒に居る事が当たり前になっている瑠璃色燕のレイン達が、彪の黒い機械鳥に近付いて戯れている。感情が無い筈の赤目に、感情の起伏の様な物が現れ始め、ゴーグルの流れてくる情報に彪は少し驚いた。
「キミも知っての通り、435分隊なんかは、あの世界じゃ、大分マシな所だよねー。キミは気にしないかも知れないけど、イタチさん達は気が咎めるから~、一緒に居ようね~」
 わざとらしい含み笑いを浮かべて、馬車屋・イタチ(偵察戦闘車両RCVの少女人形レプリノイドの素行不良個体・h02674)の姉妹達の一体が、彪の背後に立つ。偵察車両をそのまま背部外骨格武装とした異様は、少年の退路を塞ぐ気概に溢れていた。本当に心配しているのかも知れないが、それは彼女達姉妹のみが知る真実だ。
「目にしたことは無いですが、私の居た世界にも、有ったのでしょうね」
 朝か昼か夜かも分からない、夕暮ればかりが続いている様な世界だった。ロヴィーサは少し外れていたから、世界はきっと、黄昏色の海の様な物なのだと、時折考えて、少ししか外れていなかったから、退屈と、自身の肉体を、何処か他人事の様に傍観しながら、透けた魚達と遊んでいた。妙な噂を聞いて、退屈凌ぎに紛れ込んだ先で、今、隣に佇んでいるガイウス・サタン・カエサル(邪竜の残滓・h00935)に出会うまでは。
 怜悧で、退屈そうな切れ長の緑色の双眸に、どうして好奇が宿っているのだろう。世界に飽いていると、あんなにも嘯いているのに、どうして、光が消えていないのだろう。その疑問に、取り憑かれた。気付けば、側に居たいと、ロヴィーサは思ってしまった。
「どうかしたのかね? 世界が知的生命体に溢れている限り、貧困と争いが尽きる事は無いよ」
「はい、正論だと思います」
 思わず見上げてしまった事実を、ロヴィーサは極めて冷静に取り繕った。反応が遅れたので、恐らく見透かされている。
「お二人は仲良しですよね。良い事です!」
 何か最近、思う所があったのか、リズは急にロヴィーサの手を取って、笑い掛けた。
「それでー、イタチさん達はこの時間も、皆に協力するつもりだけど、何をするか聞いても良いかなー?」
「ああ、では、廃棄された施設を探してくれるかね? 君達の情報収集能力は頼りになる」
「そう言う事なら、レインもお貸ししましょう! 良いですよね?」
 リズが一応レインに確認を取ると、楽の感情が返って来る。誘うように機械鳥の頭上を飛ぶ。
「アオタカがこんな反応するなんてな。遠慮無く遊んで来い。何か有ったら伝えてくれよ」
 気持ちの良い笑顔を浮かべて、レインと共に飛び立つ黒翼を彪は見送る。ガイウスとロヴィーサに、イタチから簡易の通信端末が手渡された。
「皆様、有難う御座います」
 ロヴィーサが素直に頭を下げる。一方、ガイウスは佇むだけで、当たり前と言えば当たり前だが、何方が従者か分からない振る舞いになる。
「俺は、イタチ先輩が逃してくれそうにないしな……イタチ先輩を手伝うことにするよ」
「イタチさん達は商売だ~、薬品を始めとした日用品を作って売るよー」
 今度は何処か自慢気に笑い、彪を協力者として、肩をがっしりと掴む。
「俺のドローンにも協力させようか。リズに操作権限を預けておくよ。後は、時間まで見て回ろうかと思っている」
 思い人の気に入りそうな物は有るだろうかと、クラウスは思案する。無ければ無いで、自身の欲しい物があれば、手に取るだけだ。
「私も思いきり遊びます! 食べます! ジャンクパーツも気になります!」
 他世界の技術を漁るときは、先ず技術資料、次に実物を寄越せ、と何処かの老けた男性が言った事をさも無かったことかの様に扱い、実物機械だけを持って帰ろうとする算段だ。
(だって、どうせ、それだけでどうにかしちゃうじゃないですか!)
 リズの担当者に対する思考は大体こうである。
「了解~それじゃあ、自由行動かなー、イタチさん達は邪魔にならない程度に茶々を入れるよ~、寂しかったら相手にしてね!」

●さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい
 瑠璃色燕と機械黒鳥、モノアイカメラのドローンと、偵察車両のレプリノイド数体が黒鬼灯の市場内外を駆け回る。情報は435分隊の暗号コードでイタチの元に届けられ、その後、情報端末で地理情報と共に共有される。
「さぁさぁ皆々様お立合い~」
 適当な大通りで、彪がイタチが作り出した小太鼓を軽く叩く。合わせて、彼女が手を大きく広げ、手を二度打ち鳴らす。
「種々の、物の始まりが一ならば~、薬の始まりは炎帝神農、山野を歩いて百草を舐め、日に3度も病にかかっては3度も治し、もって毒と薬を区別して、世の民草に伝えたそうな~」
 通りに歩く者の注目を集める様に、列の視線を指先でなぞる。自分も視線を行き渡らせる様に首を回し、足で軽快に地を鳴らす。
 噺屋顔負けの演技、語り口調の合いの手に彪の小太鼓が鳴り響く。
 テックウェアの余り袖から並び立つ、愛用の鎮痛薬と強心剤。
「負傷ながら私も~、それに習いまして、今日は安売り薬売り、かの狐様のご紹介に預かりまして~、本日は芸達者な皆様は一芸と、いやいやわらしべ一つしか御座いませんと申せば、その交渉にも応じましょう~。本日、薬だけでは御座いません」
 袖で商品を隠し、彪と同じ小太鼓を作り出す、次には消化器、建築修理資材、接着剤、品質の良い工具から、料理道具に着火剤、飯盒等々、様々な日用品が並んでいく。
 イタチに疑惑の目を向けた住民が、犬の吠える声が得意だと言って、見事な犬の遠吠えを疲労してみせる。
「おやおやお客様、本当に上手でいらっしゃって~、好きな物をお一つどうぞ。EDENは~、お客様、皆々様の味方です」
 男は目を丸くして、そそくさと鍋を一つ手に取った。茫洋と、変わり者を見つめていた鬼城の住民達に、光が灯る。こんな所でも、どうにか生きているだけあって、それぞれ一芸くらいは持っていた。イタチの商店には、やがて、人集りが絶えなくなっていく。
(虎狐の二人に、恩を押し売り出来る様に、頑張らないとね~)
「今後ともご贔屓に~っ」
 狐への信用と、信頼を別に考え、三枚目の笑顔に、打算的な本心を隠して、イタチの露店営業は好調に続く。EDENは、最下層の鬼城、その経済区域で、小さな知名度と大きな信頼を得る事に繋がっていく。

●働く少年
 彪は主に大道芸払いや、物々交換の遣り取りを手伝って行く。芸は素直に楽しいものから、何処で役立つか分からないもの、イマイチなモノまで様々だが、何となく、状況が楽しくて、彪は良く笑っていた。
 物々交換にしても絶対に釣り合わないモノから、何処から手に入れたのか分からない様な代物まで、上にも下にも釣り合わない物、用途が解らない物と、目と、好奇心を満たすには十分だった。
 アオタカが俄に宿した感情を伝えてくれるのが楽しかった。ゴーグルから伝わって来る、宙空から見る黒鬼灯の景色は新鮮だった。作戦を抜きに、地理を見るのは、随分と久し振りだった気がした。心を満たすのに、十分な時間だった。
「楽しめているみたいだね~、良かった良かった」
 イタチが、そんな彪の様子を見て、歯を見せて、にっと笑う。

●レンジャー課程?
 リズは上機嫌な笑顔を浮かべながら、物珍しげに昆虫の屋台を見る。食用に適しているかどうか怪しい毒持ちも並んでいる。火種はまだどうにか出来る上に、ジャンクの中でも格安の、只の鉄板を利用して、適当な金属棒に巻き付けたり、そのまま焼いたりされている。当然の様に格安で、毒入りは一応、毒入り表記がされてあり、其方はタダ同然だ。最低限の倫理と言って良かった。食べて死ぬ確率と、食べずに死ぬのと、何方がマシかを選べと言う事だろう。
「いやー、どうかなーこれ?」
「昆虫食は知識でしか知らないので! 実食してみましょう!」
「リズ君は思い切りが良いね」
 リズは適当に買い漁って食べ比べをしていく。少なくとも人間用の毒では死なない。ガイウスは愉快そうに目を細め、反面、ロヴィーサは気持ち悪そうに口を押さえた。
「毒入りは、人の食べる味では無いですね。食感は面白いですけど」
「食用に適しているのは、コオロギ、イナゴ、バッタ辺りで……案外クリーミーで生でも大丈夫なのはイモムシだったかな」
 クラウスが食べられる昆虫について語ると、皆、意外そうな顔をした。
「学徒兵時代に、サバイバル知識として、叩き込まれたからね、その名残だよ。実食する機会は無かったけどね」
「大陸では、ミツアリが先住民の栄養源として長く愛されているね」
「そっちは美味しそうです! これは、お土産として喜ばれる物でしょうか?」
「正直、お勧めはしないかな~。せめて揚げ物じゃないとね~。幾らあの世界でも、タブレットの方がマシって言うよね」
 イタチの言葉に、少し残念そうにして、リズは土産物にする事を諦めた。
 クラウスの話が耳に届き、鬼城の住民が寄って来て、食べられる安全な昆虫の種類について、詳細な情報提供を求めた。幾つかを簡単な図解付きでさくさくイタチが日用品として編集し、付いてきたイタチ一体が此方でも、商売の種としながら、この場は引き受けると、他のEDENに片目を瞑って見せた。

●泥団子(極)
 路地でひっそりと、作った泥団子を売っている子供が自分の爪と指先の皮膚を囓りながら、へたり込んでいる。こう言った場の子供と言うのはか弱く、搾取されるだけの存在であり、脅威にならないのか、と問われれば、馴染みのある者達は一様に、首を振るだろう。
 規則も倫理も薄い場で、腹を空かしている子供は、人が無警戒に立っていれば、食い物にする。これが比喩で無い場合すら、良く有ることだ。
「泥団子は、流石にちょっと……」
「食べ物じゃないよー、リズ~」
 一見すると泥団子には見えない。
 丁寧に捏ねられ、独特の工程を経た泥土は、鈍色の光沢を持ち、灯りの少ないこの闇市場でも、それと分かる様に輝いている。食用では無く、鑑賞用の、それこそ子供でも作れてしまう、一種の芸術品として、売り出しているのが分かる。当の子供は、僧衣売った物を視て、腹を鳴らすばかりだ、一応、客に囲まれているので、指を指して、最低限の視線誘導はするが、それ以上の気力や愛想は無い。
「綺麗に出来ているね」
 クラウスは腹を空かした子供に、携帯食料を見せて、泥団子を指差すと、少しだけ顔色を輝かせて、一生懸命と言った様子で泥団子を両手で持ち上げて、クラウスに渡す。軽く頭を撫でてから、取引を成立させると、すぐに封を開けて全て食べてしまう。まともな食事に、笑顔が宿る。
「誰から教えて貰ったか、聞いても良いかな?」
「イタチさん達も気になる~」
 子供は少し迷ってから、人差し指を立てた。情報量として、食料を渡して欲しいと言う意思表示だろう。今度はイタチがすぐに食べられる物を一つ差し出した。
「ぱんだ……子供でも、簡単な商売だからって。つりえさもおなじ。名前は別料金。ちゃんとした筋の情報なら、もっと、たくさん」
 腹が満たされて上機嫌に、にひ、と卑しく笑うが、表情を見せても良いと判断したとも言える。払いが確かな客として、歓迎されている。
「パンダかー。此処らしいね~。お人好しなのかな~、そのパンダ」
「子供に優しいパンダ、会ってみたいです!」
 他の気配を感じながらも、此処の秩序は守るべきだと、クラウスは判断した。子供に礼を言い、リズ、イタチ共々、早々に場を去る。

●武器屋(クラウス)
 リズと別れ、イタチと共に露天で売られている武器を、クラウスは見て回る。継ぎ接ぎ布と角材で作られた店舗を構えた店は、他よりも店主の顔色が良く、痩せてはいるが、他と比べると栄養失調の気も少ない。愛想も有る。
「こんにちは、武器を見たいんだけど良いかな?」
 クラウスの挨拶に矢張り無言で頷き、目の前の品に目線を遣る。大小様々な物が並ぶが、目を引くのは陰陽魚の施された拳銃。並ぶ暗器の種類は他の世界でも稀に見る多さだ。
 その中で、二丁の短剣付き拳銃が一層、目を引いた。
 銃床から弾倉を入れ、供給するフル・オートマチックに、普通の者には見えない刻印が、余す所無く、複雑な電子回路の様に刻み込まれている。
「これは」
 クラウスが指し示すと、店主はあからさまに渋い顔をした。ただ、その表情は非売品、と言う訳では無く、譲るのが難しい、と言ったニュアンスだった。
「そいつは、人を選ぶ。気に食わなかったら人を食う。持てたら売る」
 店主の忠告に、クラウスは笑った。酷い笑みだと自覚出来た。銃把を握る。触れた掌から、力が影の蛇となってクラウスを侵食したかと思うと、突然、収縮した。死にたがりが不死鳥を宿すか、馬鹿め。と、呆れた様な思念が響き、両手に双子の銃が収まっていた。
 店主は約束通り、代価を言い、クラウスがそれを払うと、素直に売り渡した。


●ジャンク屋と暴走機械人
「此処と私の世界は相性が良いと思ってたんですよね。特に、機械と精霊魔法を組み合わせて戦う私にとっては!」
 黒鬼灯の一角、ジャンクの積まれた屑鉄山には、スカベンジャー達がそれぞれ漁った部品を青空市場で売り出している。目利きの出来ない客を引っ掛けようと薄らと笑う。傍目から見れば、リズはその手の客にも見えただろうが、それは早くに高性能なアイセンサによる、正確な分析によって打ち砕かれる。
「失礼な人達ですね、全く!」
「機械人として見られてるのは分かるけどね~、それにしたって、ってね」
 そう二人で愚痴っていると、ちょいちょいと、イタチの肩が突かれる。
「狐様からの紹介状、持ってんだろ、見せてみな?」
「あ、コレのことですね!」
 リズがさらっと書状を開く。小さなメガネを掛けた男は書状を見て、一人で数度首肯した。
「付いて来な」
 屑鉄山の一角に、暴走抑止の為に拘束された完全機械人が置かれている。ウォーゾーンと比較しても完成度が高い人型だ。
「狐様が使う予定だった、暴走完全機械人だ。あんた等のお陰で使う必要が無くなったと連絡があった。長い時間拘束も出来ないらしい。正直処分に困るらしくてな、持って行け」
「厄介払いですね。任されました! こう言うのは私達得意なんですよ! ね、イタチさん!」
「こっちの流儀が何処まで通じるのかなってテストには、ま、丁度良いけどね」
 仙術を不安要素として、一先ず435分隊で使われている疑似人格プログラムを、電波変換してそのまま流し込む。だが、精神構造が確りと完成している事と、不安要素がネックとなって、クラックは予想通り、失敗に終わった。
「んー、プランAは失敗でした。プランBです!」
「要はノープランって事だよね~」
「そうとも言います! レイン、力を貸して下さい!」
 呼び掛けに答えて、瑠璃色燕が一羽舞う。布で抑制された機械人に、精霊が入り込み、元々有った人格の自我を補強し、感情を徐々に安定させて行く。同時に気流を操作する事によって、レインの存在を、手紙の時と同じように閉じ込め続ける。与えられた生命の感情が、深く深く機械人に根付く。生命の実感と、精霊との触れ合いが、完全機械人の正気を復活させた。
「……廊」
 名前だけを告げて、機械人は休眠した様だった。不安定さは無く、良く見れば弛緩した様に垂れ下がった腕、立たせられたままの疲弊を現す様に放り出された脚部など、問題が解決された証拠が並ぶ。瑠璃色燕が戻って来て、リズの肩に留まる。安心を、リズに伝えた。他、人工神経系の代替パーツと仙術用の回路等、比較的質の良い物を見繕ってくれた。インタフェースも独特で、人機一体についてのノウハウがウォーゾーンと比べて進んでおり、其方についても幾つか譲り受けた、が。
「イタチさん、本人曰く、廊さん、任せても良いですか!」
「うん、まあ、そうなるよね~」
 眠ったまま、やる気の無い機械人をイタチが背負う羽目になった。

●商売繁盛
 イタチの開いた日用雑貨と薬品商店は賑わいが衰えない。手伝っている彪もそろそろ目を回し始めた頃合に、ガイウスの求めていた情報が幾つか届き始めた。
「はいはいはーい並んで並んでー、順番だよ~。芸はイタチさん達じゃなくても、隣のこの子でも良いからね~」
 即座に暗号通信をデコード、ロヴィーサとガイウスに情報を渡す。

●ちょっと意外な趣味
 ロヴィーサは興味を持って闇市を覗いていた。酷い市場では有るが、退屈は感じないどころか、刺激的だ。目に入れたくない物も、つい、見てしまう。
「気に入ったようだね」
 何より、修行だと分かっていても、主人が時間を割いてくれている事実が、心の底から嬉しかった。
「退屈はしないと言うだけです」
 ガイウスは暫し、考え込むように顔を背ける様な仕草をしてから、口を開く。
「何か欲しい物はあるかい?」
「今の所は……それに、もう十分過ぎるほど」
 ロヴィーサは最後まで言い切れずに口籠もり、顔を赤く染めた。丁度、端末に情報が表示される。
「向かいましょう」
 誤魔化しついでに、楽しそうだとロヴィーサは目を輝かせた。
 どれもこれも大規模な施設だった。手近な所から向かえば、それは規格外の浄水施設だった。
 ロヴィーサとの質疑応答に満足したところで、ガイウスは、体内細胞に宿る魔力を、仙術の様式に変質させ、発現させる。宝貝と化した浄水施設は轟音と共に稼働し、溜まっていた雨水を安全な飲み水へと変えて行く。
 次の施設はショートブレッドの製造機器だ。此方も此方で何故有るのか疑問に思う所だが、同じように仙術動力で動作し、仙術の力だけで、ショートブレッドを作り続ける。
「随分と手の込んだ下準備だ」
「確信犯的というか、計画的というか。何時かこのような時が来ると分かっていたかのような施設ですね」
「ちゃんと趣旨は理解しているね。その調子だよ」
 何方のことを指しているのか分からず、ロヴィーサは暫し困惑し、気を取り直した。更に、もう一箇所、どうも不可思議なスペースに行ってみると、隠蔽された扉が見付かった。中に入る。
「遣り方は見えただろう? これは自分で開けたまえ」
 光剣ですら、長時間扱えば、まだ自身の掌が焦げ付く有様なのだが、主の命令には逆らえないと、ロヴィーサは力の流れを真似る。そもそも膨大過ぎる魔力を自身に扱える程度まで絞り込む所から始まり、更にそれをこの世界特有の力に変える、脂汗が滲み、気が遠くなる。軽く生魚を逸脱し、超過した魔力に血が吹き出し、幸運と捉えて意識と集中力を取り戻す。遠くで、扉の鍵が開く音がした。
 白亜の部屋、散らばった資料、大きな掌の感触。
「ギリギリ合格、と言った所かな」
 囁かれる辛辣な評価、飛び込んでくる切れ長の双眸。端正な顔立ち。慌てて抱き留められた状態から逃れようと、足掻く。
「目覚めて早々、元気で何より」
 研究所の様な一室に、仙術機械で作られた外骨格が一つ。未稼働だった大型端末はガイウスによって起動され、中身の資料やデータが立体スクリーンによって部屋全体に投影されている。
 仙術外骨格に興味を持ったロヴィーサはすぐに試着に走った。とサイバーな造形が気に入ったのか、視覚インタフェースを楽しみながら、四肢を見遣る。
「ガイウス様、先程の発言を撤回しても宜しいでしょうか」
「何かな?」
「私、これが欲しいです!」
「それでは、後でもう少し改良して作り込んでみようか。私もそれには興味がある。君が使うのであれば、丁度良いね」
「有難う御座います!」

●宴とロンロン
 黒鬼灯は活気立っていく、ガイウス達と合流しようとしたイタチ達は、浄水施設から水が湧き出て、ショートブレッドが製造されているのを見て、鬼城全体に触れて回った。収穫を喜ぶ農民の様に、酒の代わりに綺麗な飲み水を持ち寄り、摘まみほど上等では無いが、ショートブレッドを腹が膨れるまで囓る。偶に浄水施設に泥水を注いで、追加で飲み水を確保出来る様にする。商品も老若男女も関係無く、腹を満たせる宴が開かれ、それがEDENによって齎された恵みと聞いて、最下層の住民達から、揺るがぬ信頼を得る結果となった。
「暫くは安泰が続くだろう、良くやってくれた。期待通りだ。廊も仙術外骨格も回収するとは、わしも思ってなかったよ」
 小さなパンダが合流した五人に話し掛ける。
「やあ、狐から預かった封書をわし、ロンロンに渡してくれ。それから、わしの護衛を頼めるかな」
 伝え聞いた名前と同じ、封書に書かれた宛名も同じ。宛先としては間違い無く、この小さなパンダは嘘を吐いている様にも見えなかった。
「ま、封書は最後でも良いしな。一先ず、護衛役の依頼を、追加で受けてくれんか」

第3章 ボス戦 『フィクサー『クライム・サスペンス』』


●もみ消し屋「黒域」

「あのパンダ、良くもここまでやらかしてくれましたねェ。封書など氷山の一角。本当に何がしたいのか分かりません。ああ、ご案内有難う。約束通り」
 高級生地の白のワイシャツ、皮膚が血に濡れる事を嫌ったボディスーツ。それらを覆い隠す黒外套と黒背広。足まで届く長い髪に、悪魔を連想させる、端正な顔立ち。丁寧な言葉遣いは、悪魔の様な顔貌の所為で、いっそ恐怖すら覚える。
「救って差し上げますよ」
 無造作に構えられた自動拳銃が弾を吐き出し、銃声を響かせた。
 何かやたら喧しかった気がする、と男は耳の調子を確認する様に、或いは不快感を掻き消す様に、耳を掃除する。
 生ゴミを容赦無く踏み潰し、耳垢を落としながら、処理班を端末で呼び付ける。
 黒鬼灯の視察に、自身が出向くと、何故この様な事になるのか、このような事が起きるのか、男には分からなかった。そもそも、此処に生息する良く分からない動物の鳴き声に、耳を貸す気など無かった。
 主に絶対服従する様、頭を弄られた軍警の飼い犬、妖魔人間「錦衣衛」の援軍が辿り着く。
「あの程度の演技に騙されるとは……本当に何をやらかしたんでしょうねえ。さて、施設の所有権を奪いなさい。浄水も食糧供給も、それだけで状況が変わります。此処から害獣が這い出てくれば、何が表沙汰になるかも分かりません」
 と言うのは建前で、全て黒域の物にしてしまえば、それだけで利益は膨れ上がる。依頼人には封書の件で脅せば手は出せない。
 自然と頬が緩む。気分が良くなって、手配した的を撃ち殺してしまいそうだった。
 武強主義の悪面を凝縮した様な黒の男、クライム・サスペンスが、行動を開始する。

●ロンロンの依頼

「少し話が飛躍しているからのう、わしの護衛は勿論じゃが……住民が言うにはEDENじゃったか。お前さん等が予想以上に仕事をしてくれたお陰で、事は大きくなる。この市場が襲われる。お前さん等が気に病む必要は無い。希望には厄災が付き纏うのが常じゃ。要は利権じゃよ利権」
 小動物位の大きさのパンダ、ロンロンは、軽業師の様な曲芸を演じながら、のんびりと状況を話す。
「理屈は幾つでも捏ねるじゃろうが、要は使用料金の請求等々よ。払えん額を押しつけて、今より酷い状況になるじゃろ。そうすれば、資源として使い易くなる。動くのは、下請けの大企業、黒域って何でも屋じゃ、己の為に、封書も狙われるじゃろ」
 ここまで話して、何故かロンロンは含み笑う。
「お主達にとってはちょっとしたお遊び、パルクールよ。地理地形の把握は済んでおるしな。此処が敵の盲点じゃ。住民に被害が出ないよう、手を尽くしても良い。その際は子供等を優先じゃ、有事の際にわしと取り決めた、隠れ規則じゃよ」
 片腕で逆立ちをして、両足を軽く開き、逆さになった上体を揺すりながら、他の情報を、と喋る。
「雇用関係も洗い済みじゃ。使い走りは錦衣衛。軍警で主に絶対服従する様に改造された妖魔人間じゃな。多分、此処に来る前に戦っておる。数は多くなるじゃろうなあ。それから、黒域の方で扱っておる仙術義体か。ま、コストを考えれば、余分には呼べまい」
 それで、と区切る。
「これでも、わしを信用出来んか。パンタがこの世界の状況をおかしいと思って動くのは、そんなにも、奇異な事かの。生き辛いから、市街地に降りるのは稀じゃがな。偶に降りた時に色々教えたり気紛れに人を助けておったら、それなりの地位になったってだけなんじゃが。いっそ世を動かせんかと、欲が出てな。そうすると、面倒な連中に目を付けられてしもうた訳じゃ。主義主張は人の理、パンダに武強主義なぞ、関係が無い」
 今度はコミカルに唇を歪めて、凄んでいるのか和ませているのか分からない雰囲気を出した。少なくとも、心のままに喋っている事は十分に伝わっているだろう。視線もブレず、嘘の気配は無い。
「報酬は要らぬと言ったお主等にわしが提示出来る報酬は無い。故に、丸ごと請け負ってくれるなら、わしが叶えられる範囲で、願いを一つ叶えよう。どうじゃ? この世にEDENはまっこと、良い薬よ」

●状況説明

 宴で英気が養われた最下層の住民の士気は高い。いざとなれば、商品として捕らえた者すら解放し、抗戦するだろう。装備は無いが、何一つ躊躇が無く、命の使い所を弁えている彼等を、戦力として数える事は出来る。ただし、その様に使うとしても、装備は心許ない。
 EDENは幾つかの選択肢を持っている。
 先ず、ロンロンの依頼を、何処まで引き受けるかどうか。
 正直な所、最下層の鬼城の住民とEDENの繋がりは薄い。施設防衛戦を引き受ける程の義理は無いだろう。封書とロンロンを届ける為に全力を尽くすだけでも良い。その場合でも、狐を通して、問題無く元の報酬が、生き残った最下層の住民に行き渡る。この世界では常識的と言って良い選択肢だ。
 施設防衛を引き受けるとして、どの様に戦うか、これもEDENに託されている。
 引き受ければ、必要な情報はロンロンから引き出せる上に、EDENは遊びながらも情報収集を怠っていない為、地理地形の情報戦は圧勝していると言って良い。
 大きな点として、住民を避難させるか、戦わせるのか、が挙げられるだろう。何方にしても、何処に配置するかは考えるべきだ。戦わせる場合は武器の準備も必要だろう。
 サイボーク「廊」とロンロンは見知った仲だ。暴走状態を解いた恩もあり、どの様な選択肢でも、ロンロンが叩き起こし、協力してくれる。
 決断と指示を出す程度の時間の猶予はあると考えて良い。
 この物語はEDENに委ねられている。

  状況を把握し、EDENはそれぞれの決断を下す。
ガイウス・サタン・カエサル
馬車屋・イタチ
クラウス・イーザリー
リズ・ダブルエックス

●依頼……「受諾」
 ロヴィーサはロンロンの芸を楽しみながら、ゆっくりと話を聞いていた。そもそも、パンダが喋る事に興味を惹かれていた。口調から長く生きていること、そして、動き一つ一つが洗練されている事が興味深く、つい聞き入ってしまっていた。
 やや後方に控えている主を何となく見上げた。ガイウス・サタン・カエサル(邪竜の残滓・h00935)は何も言わず、視線を動かす事すらしない。
 起こる事は勿論、元凶にすら興味が無いらしい。
 それはそうだろう、ロヴィーサ自身も、元凶には何一つ思う事が無かった。何処にでも居る、退屈で、極々平凡な、欲望と力に溺れた人間だ。
「防衛を、引き受けましょう」
 手に入れた仙術外骨格で遊ぶには、丁度良い相手だ。
「ふむん、仁義を謡って此処で商売させて貰った以上、いの一番に逃げるわけにはいかないんだよね~。ま、撤退が許されているだけ、いつもよりマシなんじゃないかな~。ね~?」
 馬車屋・イタチ (偵察戦闘車両RCVの少女人形レプリノイドの素行不良個体・h02674)はそう言って、残りの二人に笑いかける。
「私達にとっては、これが日常ですしねー。此撤退先どころか、補給先すら曖昧だったりしますけど!」
 リズ・ダブルエックス(ReFake・h00646)は何でも無い様な事だと、冗談めかして気楽に笑う。補給路が不安定な状態での防衛戦は、あの世界に住む者達にとって、日常だ。特別な事では無い。
「運び屋が潰されるの、あるあるだよねー」
「あれで何度、配給がタブレットになった事か……! と言う訳で、護衛を引き受けます」
 リズが心底悔しそうに目を瞑り、顔を背け、歯を噛む。余程嫌だったらしい。
「俺も、義理は無くても、そうしたいと言う衝動には抗えないしね」
 同じ境遇の者達の言葉に、何時もより少しだけ肩の力が抜ける。無意識に、小さく笑ったかも知れない。希望では無い。小さく儚い、安らぎだった。
「噂に違わぬなあ、本当に根から違う。が、此処より酷いとはどう言うことじゃ……」
「んーまー、外に出たら敵意剥き出しの仙術義体に囲まれてる、みたいな~?」
「そもそも一時期、人類が住む場所も全部奪われてましたからねー。取り返した後も」
「情報戦術は勿論、人質、補給路爆破、何なら都市もそんな奴等が残した物の流用だから、セーフティ暴走したら全滅だし~、誘拐なんて止めようが無いよね~?」
「止めよう、二人とも。止めよう……」
 同じ世界出身で唯一、人間で有るクラウスが本気で気分が悪くなって止めた。
 ロンロンは少し固まった後、外の世界は広いのう、と感心して茶を濁した。

●防衛方針
 暫しの脱線の後、EDEN達は方針を話し合う。
「住民たちには出来れば避難して貰いたいけど……彼等が戦いたいと望むなら、止めはしないよ」
「同意します! 戦意旺盛な人には、比較的危険の少ない任務を担当して貰いましょう」
「ロンロン……さん、で良いでしょうか。武器は俺が買いますので、調達をお願い出来ますか。何なら、成功した時の俺の願いは、それで構いません」
「ほうほう。分かった。では、わしが手配しよう。だが流石に、運搬に暫し時間が掛かるぞ。屑鉄山に置く様に指示しよう。良い感じに紛れる筈じゃ」
「戦意旺盛な人達を、それまで避難させる口実が出来るね~、イタチさん達は支援に回るから、その辺りも任された~!」
「でしたら、避難場所はショートブレッドの生産施設、でしょうか。イタチ様達には少し負担を掛けるかも知れません」
「支援に回るって約束したからね、遠慮はなしだよ~、特にイタチさん達は強くないからね~、ロヴィーサ」
「索敵は私ですね。武器が届き次第、住民さん達にも協力して貰いましょう」
「リズ、頼むね。それじゃあ、始めよう」
「お任せ下さい。それでは開戦と行きましょう!」

●開戦まで
「逃げるのは女子供が先、女子供が先だよ~! 戦いたい人達も武器が届くまで一度は待待避だ~。それまで戦意は仕舞っておこうね~! その後も、イタチさん達には従ってねー、お願いだよ~!」
 士気の高い住民達に、簡単な作戦概要と地図を撒きながら、イタチは四つにルートと人と自分達を分けて食料生産施設へと誘導する。最前列には身分問わず、イタチが直ぐに庇える様に女と子供が並ぶ。子供ですら大体、何が起こるのかを分かっていて、大人しいのは、元居た世界と変わらない。
 リズは早々に空へ上がる。52の瑠璃色燕が、楽しげに謡いながら、銀髪の少女人形と共に舞う。リズに伝わって来る精霊の感情には時々、飽きが挟まり始めていた。後で沢山遊ぼうと言った子供染みた、楽しい事の約束という、優しい思念の遣り取りを繰り返す。
 クラウスは物陰に潜みながら、軽快しながら、黒鬼灯の入口へ。手に握る、すっかり自分に呆れ果てたらしき銃に心を伝えてみる。安全装置が掛かったままの様な違和感ばかりがある。
「面白い物を持っているね。クラウス君」
 ロヴィーサと一緒に居ると思っていたガイウスに話掛けられて、ハッとした。この人物は、物音どころか、気配すら感じ取れない時がある。
「どの世界でも、どの様な在り方でも、竜とは大抵、強欲なものだ。それに居るのは、そう言うモノだね。君とは、相性が悪そうだね。いや、逆か」
「言っている事が、良く」
「お人好しな魂喰らいが居たものだと思ってね。存外、それは使い手に恵まれていた様だ。望めば、望む通りに、連れて行ってくれるだろう」
 切れ長の緑眼には、爬虫類の虹彩が宿っている。クラウスは、魅入られる様に、目が離せなくなっていた。
「君の本当の願いは、もう何時でも、叶うとも」
 魅力的な、言葉だった筈だ。そう思いながらも、クラウスは、ガイウスに告げられた言葉を、覚えていられなかった。何処からか、だから言ったのだ、馬鹿者めと、悪態を吐くのが聞こえた。
 同時に、リズからの敵襲の報せが耳元に響く。

●乱
「ガイウス様、何方に?」
「私も少し気になったモノが有ったからね」
「そうでしたか」
 襲撃の合図を聞き、予め同期していたロヴィーサのサイバー・バイザーに敵味方の情報が点と線で示されている。ロンロンに起こされた、廊と名乗った仙術機械人が、ゆったりとロヴィーサの横を歩く。
 予期出来ていれば迎撃は簡単だ。レーダーと気配を感じ取り、踏み込む。五体の軍警制服が瞬時に、冥色の外骨格を囲む様に構えようとして、拳がめり込む。
 一人は腹へ掌底、一人は顎を打たれ、一人は頭を裏拳で打ちのめされる。銃弾が放つ事が出来たのは二人。零距離から放たれた弾丸は、然し、指先で弾かれて自身に返る。
 雷素暴走による爆発音、煙が上がる。怯みに乗じて冥色が更に距離を詰める。躊躇の無い当て身が意識を奪い、片足を軸に身体を回し、踵を脇腹に叩き込む。
 外骨格の基本性能、身体能力の向上と動き易さ、そして何より、身体負荷の圧倒的軽減にロヴィーサは満足そうに頷いた。
「初めてにしては中々だが……仙術にはまだ慣れてないな。嬢ちゃん」
「そうだね、積載機能の三割という所かな?」
「慧眼だな。恐れ入る」
「では、先達の君はどうするのかな?」
「例えば、こうだな」
 潜む敵に仙気で紡いだ糸を伸ばし、静かに首を切る。異変に気付いた残りの内、二体の身体に軽く触れる。更に二体は腕に仕込んだブレードで両断する。
 全てが、流し込まれた仙力によって、数秒の後に内部から破裂する。
「内功なんて呼び方もする。機械での出力調整は少しコツが要ってな。仙術外骨格が評価されず、廃れたのもこの辺が原因だ。生身のままか、全部替えた方が早いってな」
「と言う訳だそうだ。ロヴィーサ?」
「それはこの世界の住民にとって、ですから。それに、なら一層、面白いです」
「その意気だ。嬢ちゃん。飛んでいる嬢ちゃんは恩人だが、アンタも良いな。気に入った。この一戦でモノに出来る様に色々見せてやろう。修行と洒落込もうか!」
 
●希死念慮
 囁かれた言葉を無視して引き鉄を引く。意識が朦朧としている。判然としない。誰が撃っているのか、自身か、別の誰かか。頭の中に響く言葉に従っている、気がする。
「使えるモンは全部使って戦う。戦場じゃ、当たり前、さ……」
 これは誰だろう。自分だっただろうか。トリガを引く。銃身がスライドし、反動が腕から肩へ。薬莢が吐き出され、放たれた弾丸が、螺旋を描いて、軍警姿の眉間を寸分違わず射貫く。命令系統を傷付けられた肉体が、静かに頽れる。恨み言の様に何かを吐く前に、首を上部のナイフで掻き切る。
 囲まれれば銃弾の数を数え、標的の数と比較する。
 一つ、二つ、三つ、四つ。
 硝煙の匂いが敏感に感じ取れる。
 俺は誰だっただろうか。
 敵と思しき影を銃でなぞりながら、黒尽くめの男は考える。
 薬莢の落ちる音がハッキリと聞こえる。発砲音も確りと捉えている。
 ぼんやりとしていながら、身体はこれ以上無いほどクリアに動いていた。
 動かしているのは誰なのだろう。
 俺なのだろうか、俺とは何だったのだろう。
 弾が切れて弾倉を落とす。隙だと肉薄した敵が振りかぶった腕。その手首の動脈を切断する。慈悲無く、首を狩る。倒れた後に、遅れて血の池が出来る。
 望む所に行けるのだろうか、ふと、そんな考えが過った。
 弾倉を交換する。赤い点に向かって、二砲で火線を形成する。音に怯えて炙り出された所で低姿勢で飛び込み、足を削ぐ。マズル・フラッシュが眩しかった。
 心がどろどろに溶けている様な感覚が有る。俺は泥になったのだろうか。
 救いたかったのだったか。
 救いたかった筈だ。
 ああ、どうか、その言葉を、紡がないでくれ。
 銃身が竜眼の様に怪しく光る。引き摺られた魂を申し訳程度に食み、使い手の神経系に憑依し、駄目になりかけた心を代替する。
 今の、仮初めの使い手を舞台の上で踊らせる。
 自身を見失ったまま、クラウス・イーザリーは目的の為に邁進する。

●不発に終わったんだ、貴方達の所為でっ!
「この場所において精霊さん達と連携しながら戦う経験は既にあります。そう、マッチポンプ作戦で!」
 蒼い閃光。瞬光と共に放たれる。アイセンサに表示される敵軍に火器管制によるマルチ・ロック。エネルギー充填率。
「オール・グリーン!」
 収束、発射数十を越える敵を、砲剣から放たれた蒼光が撃ち貫き、熱で焼く。視線が向くよりも早く胴を薙ぐ一閃、二閃。リズの軌跡と無数に重なる剣閃が、軌跡を描いていく。レイン兵器の最高出力の光翼は、音空を裂く音のみを響かせる。青光を纏ったリズは、縦横無尽に空を舞う蒼雷その物だ。軌跡に舞う蒼い燐光のみが、その存在を優しく示す。
「精霊さん! そちらの対応を!」
 瑠璃色燕が粒子状の砲台を発生させ、別の場所で蒼い光雨が降り注ぐ。
「私の深謀遠慮が遺憾なく発揮されていますね!」
 誰に向けてでも無く、何となく得意気な顔をするが、全ては後付けである。蒼い雨にやられて弱った敵を容赦無く刈り取り、更に別の場所を渡り歩く。
 気儘な蒼翼は、この世界の最下層でも、眩しく輝いている。


●鼠が牙を立てる時
 蒼い閃光、光の雨、静かな銃声。其れ等の隙間を縫って動く小数の錦衣衛。
 イタチは住民を偵察車両を模した重量級装甲で庇い、後をリズが寄越すシールド型レイン兵装に任せ、分隊数名で誘導し、囲んで工作道具で身体を切断する。幸い、殆どの敵はリズの活躍を始め、他のEDENで食い止められている。
 食料生産施設に女子供から押し込めて、イタチ達は余裕の有る間に防衛戦を築いていく。十分な水の運搬、屑鉄山と工具を用いての、塹壕にも似たバリケードの作成。拠点生成は数と質が生きている。住民達にはこの即席屑鉄塹壕の迷宮の地図を配布し、更に簡単なワイヤートラップを仕掛けさせ、あり合わせの武器での迎撃を、意欲の有る住民に任せた。
 近付く敵がワイヤに掛かり、砲火の餌食になった所を、イタチ達がプラズマカッターで処理していく。
「君達にはシンパシー有るけど、戦争なら止むなしだよね~、やっぱり、戦闘か改造される前に自爆は必要だよね~、おっと。今のは嘘嘘、嘘だからね~」
 ヒートアップし過ぎない様にと、面倒見の良い人物を演じて、住民を宥める。
「到着したぞい」
「ロンロンさん、手配ありがと~、どうかな~、そっちだけで足りそうかな~?」
 待機していた姉妹に語り掛けると、答えはネガティブ。イタチは姉妹を数人引き連れて、屑鉄山に向かい、武器と資材を回収する。
「重いと思ったら~、人数分のアサルトライフルにマシンガン、良いね、分かってるね~!」
「アタッチメントで銃剣化も出来るぞ。予備弾薬も足りるじゃろ」
「と言う訳で、みんなー、装備が行き渡るけどー、やることは奇襲とゲリラ戦法! 絶対に無理しちゃダメだよ~、何が起きるか分からないからね~!」
 威勢の良い声と共に、自動小銃が勢い良く掲げられる。

●支配者には余裕が有る物だ
 其処彼処で派手な戦闘音が鳴り響く。蒼光は特に、黒鬼灯の中では派手に明滅する。それに隠れる様に、黒い影が鏖殺とも言える所業を為し、正体不明のサイボーグ二体が暴れ回っている。
 序でを言うなら、徒党を組んだ動物の群れが、統率の取れた奇襲を行い、その場その場に即席の罠を仕掛けていく。こんな単純な状況を打破出来ない、無能な部下ばかりだと、もみ消し屋は笑顔を浮かべて、苛立っていた。
 そして、報告役を作らなくて心底良かったと胸を撫で下ろした。こんな状況を報告されても、そのゴミを処分するだけだ。要らぬ労力だ。
「ま、此処まで来たら、何処まで出来るのか、暫く見学と洒落込みましょう」
 敵ながら、必死に踊る姿は中々に愛らしいとも思う。仙術義体八体に動く様、命令する。


 仕掛けた罠が起爆し、アサルトライフルの軽快な銃撃音が響く。数を撃たれて数名の軍警姿がズタズタに抉られる。
 良心の呵責など、最下層の住民には無い。然し、こうなると、過度の熱狂も無い。冷静では有るが、獲物を狩ると言う危険な思考に移行する。彼等の見え辛い闘争心と征服欲、武強主義の善悪一体となった面が表に出始める。
 ただ、彼等を留め、縛っているのは多大過ぎる恩恵を齎したEDENとロンロンへの借り、つまり恩義だ。故に、彼等を信用し、熱を処理して、引く。
 だから、対処出来ない脅威に出会っても、誰を欠ける事も無く、防衛ラインへと、待避する事が出来た。
「やあ、そろそろ必要かと思ってね」
 まるで全ての動きが見えているかの様な言動だった。ガイウスが指を弾く。一瞬で膨れ上がり、圧縮された魔力が、虚空にオクタグラムの法陣を描き、障壁を形成する。
 直属の部下である仙術義体が、戦場に姿を現し、スラムの住民が待避した直後である。。

●長距離精密射撃「帚星」
「隠れる気とか無いんですね! それじゃあ遠慮無く! お邪魔します!」
 超長距離からの砲撃ロック。マニュアルに切り替え、ターゲット・スコープに映り込んだ首謀者に狙いを定め、エネルギーを充填。収束音が重なって響く。充填完了にコンマ五桁はズレの無い、トリガ・プル。
 出力全開状態で更に練り上げられたエネルギー砲撃は、空に煌めく蒼い光の橋を架ける。が、四体の仙術義体が展開した防御障壁がエネルギーを散らす。一体が膝を折り、オーバーヒートか何かで、煙を噴く。
 その隙を逃さず、黒尽くめの男が関節に、精密に弾丸を撃ち込む。銃に備え付けられた刃を交差させ、僅かに露出した主要ケーブルを鮮やかに裂く。クラウスの黒い瞳には何時も以上に光が無い。まるで、別の何かが、身体を動かしているようだった。両腕を失った機械から、何故か命の光が消える。見ていたレインの精霊が何となく、理由を察して、リズにそれっぽく伝えていく。
「元気を無くす、力? 吸収系ですね! あ」
 良く似た全く違う理屈を、この間調べ上げた事を思い出し、リズの表情が僅かに曇る。

●得たり
 仙術義体が加わった敵部隊は俄に勢いを取り戻し始めた。
 廊とも対応の為に別れたロヴィーサは、状況を打開しようと足掻く。数の多い軍警姿の妖魔人間を退けながら、強敵の暗器から逃れる。針、貫手、鎖鞭、銃、仕込まれた機構、仙術の練度も高く、一つ触れたらそれで終いの状況を紙一重で掻い潜る。
 針が触れればあらゆる手で焼き払い、退け、捉えようと仙術を介して振り回される鎖鞭を避ける。距離が空けば即座に飛んで来る銃撃に反応すれば、避けた先に掌が迫る。
 二人掛かりでこの様だが、徐々に徐々に、ロヴィーサは仙術外骨格の使い方を物にしていく。まず、仙力の変換に慣れ、ロスが無くなっていく。廊の疲労した触れた先から力を流し込む手は、妖魔人間に打ちつつ、敵の間合いと思惑を潰していく。
 針打ちは挙動から後の先で払う。貫手はそもそも予備動作が大きい。余り使われない。蛇の様に舞う鎖鞭を、仙力で強化された外骨格の五指で掴み、引き込む。ゼロになった間合いから、掌に仙力を集中。捻り込む。展開される鋭い五爪が装甲を刺し穿ち、義体の中で、流し込まれた膨大な力が暴れ回り、疑似神経系を焼き尽くし、やがて奔流は核に至り、肉体を爆ぜさせる。
「発勁。我、得たり……とは、到底言えませんね」
 これで、この外骨格の性能の五割くらいだろうか。手も口も出さない。あの時の反応はそれを物語っていた。手を出させれば、今回の修行は駄目だったと言える。 廊が同時期に一体やったと報告が上がる。
「あと六体、ですね」
 やや戦法が違う義体を、二体。ロヴィーサは攻撃手段を冷静に見極めながら、仕留める事に成功した。ほぼ同じ時間に廊が仕留める辺り、二人の実力は互角なのだろう。此処まで来ると、無意識下で外骨格への仙力充填、配分が出来る様になっている。ただ、成長と言うには、余りにも小さく感じられた。
 愛しい人の名前を心中で呼ぶ。
「届きますから、側に居られる様に」

●掃討完了
「索敵に成功してもこうなっちゃね~、あれ本当に強いよ~!」
 残った二体の足止めを任されたイタチは、人員を総動員し、あらゆる手段を講じて迎撃している。幸いガイウスの張った結界のお陰で、ほぼ一方的に銃撃は出来るものの、高出力の仙術持ちに生半な攻撃は通らない。幾つかの爆弾を隙を見て投げ込む物の、痛撃には至らなかった。
「いや~、倒したら持って帰りたいね~。これ戦力になるよ」
 提示された時間まで粘った所で、斉射を止める。
 仙力で構成された糸が漂い、気配に飛び退いた所を冥色の外骨格が背面から首を掴み、力を流し込む。起きた状況を飲み込めなくなった所に、廊の指がアイセンサを塞ぐ様に、避けようと首を振るのは許されず、さりとて払えば片手を塞ぐ。足は挙動を封じられ、飛び退けば追従される。つまり、この状況では何れの行動も致命だった。静かに二人の力が流され、電子化した生命が途切れた。
「面白かったかい? ロヴィーサ」
「はい。とても」
 ロヴィーサは気遣いだと信じて、主の言葉を、可憐な笑顔で受け止めた。
「それじゃあ、最終局面かな~、イタチさん達も何人か付き添うよ~」

●決戦「黒域」
 あの長距離精密射撃が牽制だとは思わないだろう。制圧が終わった箇所から集まったレイン精霊達が光の雨を精密に振らす。かと思えば、雷光の速度で距離を詰めたリズが加速のままに砲剣を一閃する。そもそも戦術の引き出しが多く、何処を警戒して良いのか分からない。出力も群を抜いている。
 その上で、小回りの利く正気かどうか怪しいクラウスが油断なく補助を行う。即席でありながら互いが互いの動きを分かっているかのように補完し合う。リズが砲撃に移行すれば間合いを詰め、リズが接近戦になれば距離を取って銃撃で確実に行動を制限する。四体は主人の前で、呆気なく処理が行われた。
「いやあ、素晴らしい。どうですか、私の所で働きませんか? あなた方なら、待遇はお約束致しますよ。毎日の美味しく贅沢な食事、ふかふかのベッド。全て提供致しましょう」
「それはとっても魅力的な提案ですね! ですが、中華だけでは物足りません! 真実には程遠いです! それに、私の所の料理長は、凄い人ですから!」
「残念です。貴方は……いいや、貴方は要りませんね。兵隊という柄じゃない」
 正気を失ったクラウスを見て、やれやれと溜息を吐き、悪魔の面で嘲笑う。
「そうだね。君はどっちかな?」
 緑色、切れ長の双眸に、正気を失ったクラウスが顔を向ける。首を振った。
「そうか。君は使い手思いだね。混じらない様に気を付けたまえ」
 忠告に頷き、何時の間にか作られた影のホルスターに拳銃を仕舞う。
「うん、そして、君か。予想以上につまらない男だね」
「は?」
「ああ、もう私に話し掛けないでくれたまえ」
「あー、お兄さん、多分、相手が悪かったね~。どうどう、落ち着こうね~」
 興味を無くしたガイウスが、適当に物見を決め込み、控えている仙術義体らしき付き人からも、無関心と、僅かな憐憫を感じ取り、イタチの言動が、更に男の神経を逆撫でする。男はいよいよ、抑えが利かなくなってきた。
「随分と、虚仮にしてくれますね……! 良いでしょう。始めから、制圧など私一人で十分だったと、此処で証明して差し上げましょうう」
 黒色の球体を発現させ、ずぐりと、自身の身体へと埋め込む。漆黒の風雷が渦巻き、身体も、顔貌すら黒く染まって行く。渦巻く竜巻に自然と身体が引き寄せられ、ロヴィーサは、特に脅威では無いと判断し、懐に潜り込む。
 

●曇天に笑って願う。明日、天気になあれ
 戦場に降り注ぐ黒雷をリズは一つ残らず切り落とす。渦巻く風は苦にならない。
「力を、貸して下さい!」
 大気を司る精霊達に、心の底から願う。気軽な二つ返事が快い。偶に冷静な精霊が難色を示しながらも、嫌とは言わなかった。気儘に飛んで、粒子を残す。
 明日は何をして遊ぼうか、今日は風が強いね。雨燕の語らいは何時だって和やかだ。風を止める方法を真摯に考えない。笑い声が時折響いては、風に巻かれて飛ばされて、それを楽しむ。暴風に混ざる光輝が次第に複雑な陣を為す。
「明日、天気になるでしょう?」
 天気予報の様な思念を受け取って、快晴が訪れる。黒雷が一時的に止み、敵の男すら、何が起こったか分からず、口を開けて棒立ちになっている。
 冷静に動いたクラウスを操作する何かが、高所を取る。潜んだ自身を変換し、蒼白光輝を纏う影槍を作り出し、外套に潜ませる。新種JK鵜自在のそれで敵を追尾し、一瞬で距離を詰める。それをロヴィーサが追尾し、退路をイタチが囲んで塞ぐ。
 暴走させながらも影槍は敵だけを貫こうと追い縋る。
「忘れていませんか?」
 リズの一振りが男の命を奪う。続け様、影槍が男を串刺しにし、拘束する。
「な、ぜ……」
 此処まで来て、漸く、クラウスが正気を取り戻した。
「ただの、酔狂だよ」
 状況を再確認している間にリズの砲撃が降り注ぐ。
「レインは暫くお休みですが、私は元気ですからね!」
 砲撃に合わせて、ロヴィーサが影槍と共に男を拘束する。
「結構苦労させられたから、イタチさんもね~」
 ちゃっかり借り受けたアサルトライフルで、イタチが小気味良い音を立てて男を撃つ。
「終いかな」
 そろそろ飽きたと、ガイウスが男を睥睨する。天堕の威圧感に、男の顔が崩壊する。
「ガイウスさん! それはちょっと、レイン達に面目が立ちません」
「ああ、それもそうだね」
 綺麗な空を見せてくれたからねと、ガイウスはリズに譲る。
 リズは間近で砲を構え、エネルギーを収束させる。
「綺麗な流星にして上げます」
 エネルギー充填率が120を指した所で、皆が離れ、LXMが膨大な熱量で敵の男を焼く。快晴に、綺麗な光の星が流れた。蒼光が、最下層にもう一度希望の橋を見せる。


●終幕
 主要な敵を払えば、ロンロンの護衛は、言われた通り、スポーツ感覚のパルクールだった。EDENは襲撃を受けながらも、元の生活区域の高層にロンロンを送り届けた。と言っても、彼自身は高層の自然地帯に身を置いており、都市部ではロンロンの弟子やロンロンに世話になった者達が取り仕切っている。皆、らしくない程度には、善意に寄っていた。
 届け物は、悪法となった世ですら、隠し切れる物では無く、軍警での上層部の一人はロンロンの思惑通りに失脚、序でに今回の襲撃事件の罪も黒域によって被せられた。蜥蜴の尻尾切りと言えばそうだが、少しは世直しになっただろうと、ロンロンはEDENの前で安堵の溜息を吐いた。
「約束通り、わしの出来る範囲で、願いを叶えよう」
 ロヴィーサはどうしようか迷い、この世界でも珍しい風景や遊興スポットが纏められた旅行本を貰い、ガイウスに薦めた。
「ああ、君らしいね」
 思わぬ収穫もあったと、ガイウスはロヴィーサの頭を撫でた。暫く観光と洒落込むかも知れない。
 リズは高級中華の食べ放題を指定して、目を輝かせていた。クラウスとイタチの分もちゃっかり確保している。
「私は~、そうだねえ、商売の権利を貰っても良いかな~? 出来れば広い範囲で」
 イタチは販路の開拓を願い、手続は程なく済んで権利証が紙とデジタル、両方で発行された。
 クラウスは武器の代金としたが、それよりも、ナイフ付きの拳銃が気になって、見つめていた。ガイウスの言葉が思い出したくても、思い出せないからかも知れない。
「クラウスさん! イタチさん! 一緒に食べに行きましょう! とっても美味しいらしいですよ!」
 誘いに、疑問は置いておいて、今日は料理を楽しむ事にした。
 風が吹いて、ふと、今日は空が綺麗だと思った。

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