シナリオ

【サポート優先】黄昏に咲くは、星の祈り

#√マスクド・ヒーロー #デザイアモンスター #魔法少女現象

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●逢魔が時に迫るモノ
 夕暮れの公園は、つい先程まで子供たちの遊ぶ声で賑わっていた。
 滑り台、砂場、並木道、古びたベンチ――どこにでもある街角の光景である。
 だがこの世界では、そうした平穏の只中にこそ危険が忍び寄る。
 |綺星《きらぼし》・ひまりは、いつの間にか公園にひとり取り残されていた。十三歳。特別な存在に憧れ始めたばかりの、ごく普通の少女である。
 しかしどんなに平凡に見えても、心の内に強い願いを抱えているのが人というもの。

 誰かに認められたい。
 置いていかれたくない。
 自分も、きらきらした何かになりたい。

 その切実な想いに呼応するように、ひまりの足元で影が蠢いた。
 ベンチの下、遊具の陰、木立の隙間。夕闇に溶けていた黒が粘つくように盛り上がり、人でも獣でもない異形へと変じていく。
 デザイアモンスター。
 覚醒した魔法少女の「|希望の心《・・・・》」――それを至高の餌とする、自動的な怪物である。
「え……なに、これ……」
 戸惑うひまりを囲むように、怪物どもは次々と現れた。
 一体が腕を伸ばせば、別の個体は周囲へ昏い欲望の気配を撒き散らそうとする。
 既にこの場は死地――新たに覚醒した魔法少女を喰らうための狩場と化していた。
 悪夢から醒めるようにひまりが叫ぶ。
「……いや……こんなの、いやぁっ!」
 その時だ。
 ひまりの胸の奥から、淡い金と桃色の光が溢れ出した。
 足元に輝く紋様が咲き、制服の裾がふわりと翻る。
 |魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》。
 かくして――ここに、また一人の少女が魔法の力に目覚めた。

 力の使い方も分からぬまま覚醒したひまりは、今まさにデザイアモンスターの標的となったのだ。放っておくわけにはいかない。各地で同時多発的に発生した魔法少女現象により、ロボトロンは手一杯だ。もはや希望はただひとつ。
 夕暮れの公園に溢れ返るデザイアモンスターを撃破し、覚醒したばかりの綺星ひまりを守り抜け。
 魔法少女の光が完全に喰われる前に、戦いを開始せよ――。

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第1章 集団戦 『デザイアモンスター』


青木・緋翠
シキ・イズモ

 夕暮れの公園は、まるで別世界のようだった。
 赤く照り映える滑り台、砂場、そして錆びかけた鉄棒――つい先刻まで子供達の笑い声を受け止めていた遊び場はしかし、今や別種の気配に侵されている。
 |魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》により覚醒した少女――綺星・ひまりを囲むように、怪異が……デザイアモンスターの群れが蠢いていた。

『―――…………』

 ゆらり、ゆらり……怪異どもが緩慢に包囲を狭めていく。
 腕と思われる器官の先端からは触手がうねくり、腹には不気味な宝石めいた核が脈打つ。少女を襲う魔物としては酷く悪趣味と言わねばなるまい。

「いや、来ないで……誰か……」

 たとえ魔法少女になろうとも、覚醒したばかりのひまりに、戦う覚悟などありはしない。待ち受けるのは、喰らわれ、動力に変えられる悲惨な末路のみ――。

 ――だが、その√を|能力者《EDEN》は認めない。

「大丈夫です。俺が来ました。いえ、俺たち、ですか」
 軽やかに滑り込む影。
 屈んで頭を押さえるひまり――その体に影が差し、穏やかな声が耳朶を打つ。
 少女が震えながら見上げれば、そこには緑色の髪が目を引く青年――青木・緋翠(ほんわかパソコン・h00827)の姿があった。
 薄灰色のパーカー、その裾の意匠はファンクションキーを模してどこか機械めいている。肩に担いだモニターライト型トンファーガンもまた同様で、柔らかな物腰でありながらその立ち姿には一分の隙もない。
 その隣に、音もなく並ぶ影がもうひとつ。
 短く跳ねた青紫の髪に、紫水晶めいた双眸。
 白い上着の下に覗くのは、黒と青緑を基調とした戦装束。装甲めいた硬質さと、豊満な肢体へ張り付くような艶やかさが同居した異形の機能美がある。

「……まず落ち着いて……こいつらはボクらで片付けるから」

 シキ・イズモは気怠げにそう告げると、次の瞬間にはもう群れの最前列へ踏み込んでいた。
 デザイアモンスターが迎え撃つ。
 両の怪腕が振り落とされれば、それは空気そのものが裂けるような連撃となる。
 だがシキは退かない。掠めた傷も、肉を浅く持っていかれる痛みも、彼女にとっては敵の懐へ跳び込むために差し出す|代価《・・》でしかない。

「……タダで済むと思ったの?」

 低く零れた声とともに、ぬらり、と――毒に塗れた貫手が閃いた。
 毒手は怪物の|核《コア》を抉り、毒液を流し込む。
 物言わぬ異形の身がビクリと痙攣し、グズリと崩れ果てた。
 その一方で、シキの裂傷は時を巻き戻すかのように塞がっていく。

『―――…………』

 もとより怪物どもに仲間意識などありはしない。
 奴らは同胞を殺される痛みなど知り得ない。
 数体のデザイアモンスターが泥濘のように融け合い、一本の巨大な腕へと変じた。巨大化――否、それは悪意を束ね、腕という形へ収斂させた暴力に他ならぬ。
 怪腕が手招きすると同時、公園の空間がぐにゃりと歪んだ。
 不可視の引力が、シキの身体を怪物の只中へと引き寄せようとする。

「……っ、面倒だね」

 足が砂を抉る。
 直後、緋翠が言葉を放った。

「援護します。なに、こいつらの好きにはさせませんよ」

 いつの間にか、電磁バリアがひまりの前面に展開している。
 淡い光の膜が少女を覆い、十二体の二足歩行ロボが|怪物どもの背後から《・・・・・・・・・》強襲した。箱に脚が生えたようなヘルプキャラは、体当たりを敢行してデザイアモンスターを混乱に陥れる。
 転瞬――トンファーガンが火を噴いた。

 放電を帯びた銃撃がシキを囲もうとしていたモンスターどもを穿つ。別個体が欲望のオーラを撒き散らし、ブランコや街灯、鉄柵にまで力を注ぎ込まんとするのを見ると、緋翠は即座に狙いを変えた。

「ああ、公園そのものが敵に回るのは流石に困りますね」

 精密射撃が、怪物化の起点となる個体のコアを撃ち抜く。

「融合してくれて助かった、かな……」
 一方、シキは敵の引き寄せる力すら利用し、自ら巨腕の懐へ飛び込んだ。
 毒を纏わせた拳が、融合個体に呑み込まれるように突き刺さる。
「……纏めて殺せたほうが、手っ取り早いんだよね」
 紫毒が、内側から怪物を溶け崩れさせていく。
 天高く持ち上がった巨腕さえもグジュリと溶解した。
 その崩壊を横目に、緋翠が迫りくる個体に銃撃を加えていく。怪物どもは一体また一体と撃ち抜かれ、溶けるように消滅していった。
「まだ出てきますか。でも……」
 影から新たなデザイアモンスターが次々に湧いてくるも、状況は先程より明らかに好転している。
 EDENがいるのだ――何も知らぬひまりはしかし、しゃがみ込みながらも目の輝きを取り戻しつつあった。

久遠・氷蓮
星峰・アトラ

 黄昏を迎えた公園は、まるで悪夢の中の光景を思わせた。
 滑り台、鉄棒、ジャングルジム――子供たちが遊んでいたであろう遊具は夕陽を浴びて寂しく影を伸ばし、その暗がりから、ゆっくりと怪異どもが這い出てくる。
 デザイアモンスター。
 人の形をした不気味な水棲生物といった姿のそれらは、まるで無尽蔵であるかのように湧き続ける。駆けつけたEDENが次々に蹴散らしているが、余りに数が多すぎる。

「そんな……まだ……」

 公園の中央に立つ少女――綺星・ひまりは、ステッキを手に愕然とするしかない。|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》により覚醒させられてしまったばかりの彼女は、包囲を狭めてくるデザイアモンスターにとって、莫大な動力を得るための好餌に過ぎない。

「――――…………」

 EDENの猛攻を縫い、ぬたりぬたりと怪異どもが近づいてくる。
 思わず目を瞑ろうとしたひまり――その絶望を切り裂くように、ひとすじの銀光が割り込んだ。
 ひまりの目前まで迫っていた怪異が、まとめて断ち斬られる。溶けるように崩れる敵影の前へ、華麗な踊り子衣装を翻して小柄な少女が舞い降りた。
 妖剣《ルシター》を逆手に構えた、星峰・アトラ(葬送歌・h04702)だ。

「……勘違いしないで。別に、あんたを助けに来たわけじゃない」
 淡々と、だが一歩も退かずに彼女は言う。
「こいつらがムカつく。ただ、それだけよ」

 言葉とは裏腹に、その立ち位置はひまりを庇う前衛そのものだった。
 踏み込みは小さく、それでいて斬撃は鋭い。最小限のスナップで刃が閃けば、怪腕が飛び、デザイアモンスターの核に深く亀裂が入る。背後から斬りつけた手並みもそうだが、舞うようでいて、その攻撃は飽くまで冷徹だ。
 だが斬り損ねた個体の傷口は、どす黒い欲望のオーラに包まれて蠢いた。裂けた肉が繋がり、砕けた部位が戻っていく。
 あちこちの影から、新たな個体も這い出てきていた。

「面倒ね……まあ、また殺せばいいだけだけど」

 そのときだった。
 重低音のエンジン音が、公園の空気を一変させたのは――。

「待たせたなァ!」

 |大型バイク《ハイブリザード・クロス》が土を蹴立てて突っ込み、怪異の群れをまとめて跳ね飛ばした。続けざま、シートを蹴って飛び上がった少年が、夕陽を背に空中できりもみ回転する。

「ブチ凍れええぇぇッ!!」

 久遠・氷蓮(紅蓮の氷術師・h01405)のライダー・キックが、包囲の一角へ隕石めいて炸裂。氷気を纏う蹴撃に数体がまとめて吹き飛び、地面には浅いクレーターと霜の輪が刻まれる。

「へえ。ずいぶん派手ね」
「幾ら集まろうが、全部ぶっ飛ばしてやるぜ!」

 走ってきたバイクに氷蓮が再び跨がれば、白い排気と共に凍気の軌跡が公園に轍を作る。怪異どもは撥ね飛ばされ、余りの威力に割れ砕けるように消滅していく。
 だが、自動的な怪物である奇怪な群れは、この苦境にすぐさま適応した。

「「「――――…………」」」

 残ったデザイアモンスターがどろりと溶け合い、ひとつの巨大な腕へ変貌したのだ。さらに歪んだ空間が周囲を軋ませ、二人のEDENとバイクをまとめて引き寄せようとする。

「鬱陶しいわね」
 アトラの瞳が冷たく細められる。
「私の全力の一撃、見ていきなさい!」

 |放星の踊り子《シリウス・ブラスト》。
 解き放たれた放星形態の彼女は、干渉そのものを拒絶する光を纏っていた。怪異が放つ欲望のオーラも、物体引き寄せも今のアトラには届かない。閃いた|妖剣《ルシター》が融合した怪異の巨腕を斬り裂き、核を暴き出した!

「今よ」
「ああ! 任せなッ!」

 待ってましたとばかりにアクセルを吹かした氷蓮が、引き寄せすら利用するように駆け抜ける。ハイブリザード・クロスが奔馬のように前輪を上げ、紅蓮の氷術師が再びシートを蹴って空へ跳び――空を裂く!

「これで終わりだ!!」

 叩き込まれた蹴撃が、凍気で核を凍結させ、そして蹴り砕いた。
 次の瞬間、アトラの追撃が奔る。
 まさに八つ裂きだ。
 再生する間も与えぬ連閃に、融合体は黒泥になって四散した。

「ふん。ひとまず片付いたわね」
 アトラは素っ気なく短剣を構え直す。
「……まだ出てきそうだけど」
「上等だぜ」
 氷蓮もまた笑って、バイクに飛び乗った。
「どれだけ出てこようが、まとめて叩き潰してやるまでだ!」

 黄昏の公園で、二人は戦い続ける。
 影から這い出てきた怪異が、次々に黒い泥と化して溶けていく――。

リーリエ・エーデルシュタイン

 夕陽が空を赤く染め、公園のあちこちに昏い影を落としていた。
 逢魔が時の不吉をそのまま象ったような怪異が、遊具の暗がりから這い出てくる。
 希望を簒奪し糧とする、|自動的な怪物《デザイアモンスター》。物言わぬその怪異は四肢と頭を持ちながらも、まるで水棲生物めいた不気味な形をしていた。
 その数は圧倒的だ。
 公園に落ちる影から、いつ果てるともなく這い上がってくる怪異は、それだけでも不気味極まりない。駆けつけたEDENたちに守られていたとしても、昨日まで、否、つい先程まで日常の中にいた少女――綺星・ひまりにとって、それは悪夢というほかない。

「こ、来ないで……!」

 ぬたり、ぬたりと、這い寄るデザイアモンスター。
 一体でもEDENたちの猛攻を掻い潜る怪異がいれば、それは、ひまりの死に直結する。
 まるで本能のままに動く原始的な生物のように、怪異は損耗も顧みず迫ってくる。
 ああ、なんて悪い夢だろう――。
 ――だがその悪夢的光景は、闇裂く一撃に|砕き割られた《・・・・・・》。

「|吹っ飛べ《・・・・》!」

 ひまりに迫ろうとしていたデザイアモンスターが、背後からの攻撃に身をしならせる。サンドバッグに重い拳が叩き込まれたような音が響き、刹那、怪異の不気味な体が文字通りに吹っ飛んだ。空中で四散し、塵と化して消えていく。
「あ……」
 少女は圧倒されていた。
 何に――? 決まっている、自身の前に舞い降りた、凄艶なる|格闘者《エアガイツ》の姿に。
 ひまりの前に立ったひとりの|√能力者《EDEN》、即ち――リーリエ・エーデルシュタイン(アンダー・ザ・ローズ・h05074)は、今しがたの烈しさが嘘のように、和やかな笑顔を浮かべていた。
「ごきげんよう、ひまりさん」
「あの、えっと……?」
 驚きの連続に、少女の|心の容量《キャパ》は飽和状態にある。けれどリーリエの笑顔はそれを若干和らげ、そして、そのためもあってか少女は目をパチパチと瞬かせた。言葉にしなくても何を言いたいかなんてわかる。
「え? 温度差? それは気にしないお約束ですわ。……ともあれ、まずは身の安全を確保しましょう」
 幸い、公園に集ったEDENたちが食い止めてくれている。後ろを気にしなくて良いのは都合がよかった。
 それにしても――、
 ――またひとり魔法少女が生まれたのですね。
 |魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》は不特定多数の子女を巻き込んで、大事件の様相を呈している。
 ――まずは活路を開きませんと。……まぁ殴りましょうか。殴ったら解決するでしょうし殴りましょう。
 単純明快な結論に達すれば、あとは行動あるのみ!
「道を開きますので、敵の少ないほうへ退避を」
「は、はい……! でも、私……」
 唯一の武器であるステッキを握りしめながら応じたひまりは、しかし未だ不安げだ。無理もない。それでも、彼女にまだ生き延びようとする意志が残されていることに、リーリエは微笑んだ。
「大丈夫、ひとりにはしませんから安心して」
 二人の行く手を阻むように、地に伸びる影からデザイアモンスターが這い出てくる。彼らは悪……魔法少女を喰い物にする悪そのものだ。まるで世界に刻まれた罅割れから這い上がるかのような怪異どもを見て、リーリエは笑う。一転して凄絶に。口の端をつり上げ、刃のように眼差しを尖らせて――。

「さあ、道を開けていただくとしましょうか」

 不気味な腕を鞭のように振り上げて襲いかかってくるデザイアモンスターに、リーリエは恐れることなく踏み込んだ。

「至近距離での勝負……受けていただくわ!」

 ブォンと空を裂いて鳴る怪腕。それを紙一重で躱し、鉄拳を|核《コア》らしき部位に叩き込む。砕いた手応え。鞭のような腕の横薙ぎを跳んでやり過ごし、今度は空中回し蹴りで怪異を蹴り飛ばす。長い黒髪と共に|闇に咲く薔薇《婉麗なドレス》が翻り、着地とともに再び身を捻れば、|悪役令嬢のヒール《ローズ・ソーン》が別の怪異を蹴り斃す――。
「すごい……」
 ひまりは舞うようなリーリエの戦い振りに、一瞬、恐怖も忘れて見入っていた。

「「「「――――…………」」」」

 埒が明かぬと思ったか、怪異どもは互いに溶け合い、巨大な怪腕となって掌を広げた。
 凄まじい引力に、ヒールが地を抉る。
 だが次の瞬間、リーリエはそのエネルギーさえ利用して跳んだ。
「引き寄せられるのは、却って好都合ですわ」
 巨腕が拳を握り込む。コンクリート壁すら砕く渾身の直突きを打ち放つ。
「至近距離になれば拳が外れることも無いでしょう!」
 その巨拳に――リーリエは自らの拳を打ち込んだ!
 重機が衝突したかのような轟音。
 怪腕がぶるりと震えたかと思うと、そのまま溶けるように消えていく。
 それに対して、薔薇の悪役令嬢は平然たるものだ。
 凄まじき|薔薇の暴君《ローズタイラント》の一撃は、怪異を討つのみならず、受けた衝撃ダメージを癒す力さえあった。
「これで公園は抜けられそうですね」
 危機をひとつ潜り抜けることができたのは間違いない。
 ひまりの傍でリーリエが見渡せば、デザイアモンスターの姿は公園から消え失せていた。

第2章 集団戦 『デザイアモンスター』


 公園を離れた綺星・ひまりは、人の多い方へと足を向けていた。
 オフィス街だ。
 ここを抜ければ、家に辿り着ける――。
 ビルが林立する大通りには、まだ仕事帰りの人波があった。
 黄昏が夜へと移りつつある時刻だ。
 店の灯りも、車のヘッドライトも、闇を照らすべく輝き始めている。
 この道なら安全かもしれない――しかしそんなひまりの考えは、敢えなく裏切られることとなった。

「――――…………」

 路上駐車されたバンの下から這い上がってきたのは、紛れもなくデザイアモンスターの奇影だった。路地裏の暗がり、自販機の光が落とす影。そうした闇のひとつひとつからデザイアモンスターが滲み出してくる。
「嘘……ここにも……!?」
 この悪夢はいったい何処まで続くというのか。
 悲鳴が上がり、道行く人々は我先にと逃げ惑う。
 彼らの健全な心は、異常を抱え込まぬためにそれを忘れようとする。無事に遠ざかってしまえば、この悪夢じみた光景もやがて薄れていくだけだ。
 一人の少女の命もまた、闇に溶けて消えるのみ――。
「た、戦わないと……でも……」
 綺羅びやかなドレスを纏ったひまりのステッキに、星のような輝きが灯る。振るえば光は怪異へと飛ぶが、まだ力の制御ができず、決定打には至るまい。
 だからこそ、守り手が必要だ。
 オフィス街の地形は、デザイアモンスターではなく|√能力者《EDEN》たちを利するだろう。
 機転を利かせて戦えば、群れなす怪異どもを一掃しながら、ひまりとともに街路を駆け抜けることも不可能ではない。

 夜が来る。
 闇に染まり始めた都市の只中で、戦いの第二幕が始まる。
切金・菖蒲

 黄昏が夜闇に侵食されつつある時刻。
 √マスクド・ヒーローのオフィス街は、混乱の渦中にあった。
 路地裏や路上駐車された車の下から、不気味な怪異どもが次々に姿を現したからだ。デザイアモンスター。覚醒したばかりの魔法少女を至高の餌とする、自動的な怪物である。
 人の形をしていながら、どこかぬめぬめとした怪獣じみたそれらは、物言わず一人の少女に狙いを定めていた。
 綺星・ひまり――街路を逃げ走る、覚醒したばかりの魔法少女である。

「こんなところにも……早く逃げないと!」

 息を弾ませて、ひまりは走る。
 けれど、デザイアモンスターは左右の路地裏からもぬっと現れ、道を塞ごうとしていた。
 駄目――ひまりが一瞬諦めかけた、その時のことだ。

「このままだと危険だね。助けが必要かな」

 声だけが街路に響き渡った。
 ザンッッ――!
 水生生物じみた怪異の肉体が袈裟に切り裂かれる!
 悲鳴ひとつ上げることなく、泥のように溶け崩れて消えていく怪異。突然のことに、ひまりは足を止めることしかできなかった。彼女の目の前で、並び立っていた別個体がびくりと震え、どうと倒れた。その背中に突き刺さっていたのは――棒手裏剣だ。
 
「数だけは多いようだけど、脆いね」
 
 風のように駆け回りながらダウナーな声を響かせていたのは、そう、切金・菖蒲(神出鬼没・h07929)に他ならない。オートキラーによりハチェットを投じた瞬間から、彼女は闇を纏い隠密状態となり、怪異どもに視認されることなく暗器を投じていたのだ。飛刀、飛針、峨嵋刺――影が閃くと同時に、デザイアモンスターたちの体にそれらが突き刺さる。

「――――…………」

 怪異どもはこの恐るべき暗殺者に対抗すべく、殆ど自動的に、互いの体を融合させていく。みるみるうちに、それらは巨大な一本の腕へと姿を変えた。物体引き寄せ能力を持つ腕が空間を歪曲させ、菖蒲を引き寄せようとする。
 続いてまるで羽虫でも払うかのように巨腕が振り回された。直撃を受ければ、たとえEDENであってもただでは済むまい。
 ――もちろん、当たればの話だが。

「……隙だらけだね。それじゃ当たらないよ」

 大振りの怪腕を見切った菖蒲が、引き寄せの力をも利用して急速接近。
 鉤爪の鋭い輝線を描き出した。
 ザンッ――巨腕と化した怪異の体が引き裂かれ、泥のように溶け崩れていく。

「ひとまず無事だね」
「あ、あの……ありがとうございます」
 軽やかに降り立った菖蒲の姿は、十代半ばにも届かないひまりと、同じくらいの年格好に見えた。白のドレスを纏った金髪碧眼――その姿は、覚醒したばかりの魔法少女に強い印象を与えるほどに、あまりにも美しく可憐だった。

レイシー・トラヴァース

 夕焼け空が、夜の色に染め上げられつつある時刻。
 √マスクド・ヒーローのオフィス街は、逃げ惑う人々の混乱と叫喚で満たされていた。置き去りにされた車両の影から、そして暗い路地裏から滲み出てくるのは、自動的な怪異――デザイアモンスター。人の形をした軟体生物とでもいうべき怪物は、腹部の不気味な|核《コア》を輝かせながら、ぬたり、ぬたりと路上に出てくる。
 その標的は、街路を駆ける魔法少女――綺星・ひまりだ。
 覚醒したばかりの少女は、まだ満足に力を制御することさえ出来ていない。しかし秘められた力は、デザイアモンスターの飢えを癒すには必要にして十分だった。
 そして、力づくで喰らうのもまた酷く容易だ。
 街路の左右から出てきた怪異が、ひまりの行く手を塞ぐ。
 足を止めたひまりに、次の瞬間、闇を照らすかのような声が届いた。
「――させるかよ!」
 さながら弦月の如く、閃いたのは|月明星稀《つきあきらかにほしまれに》――月の魔力を宿した刀であった。背後を塞ごうとしていたデザイアモンスターが一刀のもとに両断される。
 ひまりの前に、赤の混じった黒髪が颯爽と翻った。
 あまりの鮮やかさに呆然とする少女に、振り向いて笑顔を見せた者こそレイシー・トラヴァース(星天を駆ける・h00972)――黒鱗のドラゴンプロトコルである。
「あたしはレイシー。助けに来たぜ」
「あ、あの」
「まあここは任せな!」
 長い睫毛を伏せて詠唱すれば、ぽんっと弾ける音とともに空中に魔導書が出現した。三秒経つごとにまた一冊――高速詠唱を乗せれば、魔導書の蝶は更に増えていく。これぞ|本の虫《ブック・バタフライ》――本は蝶のように羽ばたき、レイシーとひまりの周囲を巡り始めた。
「力の使い方を教えるなんて状況じゃないけどさ。|魔法《ちから》ってのは便利に使ってこそだぜ!」
 転瞬、レイシーの意志に呼応して、魔導書がデザイアモンスターたちに飛んでいった。風もないのにパラパラとページが捲られ、放たれた光条が不気味な怪異どもを貫いていく。

「――――…………」

 物言わぬデザイアモンスターが反撃とばかりに欲望のオーラを放つと、周囲の街灯が明滅し、見る間にへし折れて槍と化した。
「こりゃ厄介だな。……でも!」
 少しでも避けようと思えば、ブック・バタフライは消え果てる。
 でも、やりようはある――。
 魔導書の蝶が空を飛び鏡めいた盾を展開。街灯であった槍の軌道を逸らすと、盾ごと掻き消えた。だが、まだ攻撃役の魔導書は残されている。レイシーの意思のもと、魔導書の群れは自在に空を飛び、光芒を放ち、周囲のデザイアモンスターを着実に屠っていく。
「これが……力の使い方……」
 鮮やかな手並みに、ひまりは我知らずそう呟いて、ステッキを握りしめていた。
 ――まだこんな風に力は使えないけれど、私にもそんな可能性があるなら……。
「ざっとこんなもんだな。大丈夫、あんな化け物ども、あたしらがやっつけてやるからさ!」
 言うと、レイシーはサムズアップとともに、ぱちりとウィンクしてみせた。

パンダカ・パンダナ・パンダ

 たとえば或る√で魔法少女に覚醒した少女がいたとして。
 たとえば彼女が奇々怪々な魔物どもに取り囲まれているとして。
 たとえば周りの人間たちが逃げ惑うことしかできなかったら、どうする――?
 決まっている。
 誰かが助けを呼んでいる。|パンダが動く理由はそれだけでいい《・・・・・・・・・・・・・・・・》。

「だりゃあーーーっ!」
 夜のオフィス街のストリート、その中央に立っていたデザイアモンスターが重い一撃を喰らって吹き飛んだ! 軟体生物めいた|人型《ヒトガタ》はビルの壁面に叩きつけられるなり、ぐずりと溶けて消えていく。
 凄まじい風切りの音を奏で始めたのは、流星錘――否、速すぎてその場の誰も視認できないが、それは紛れもなく棺桶であった。
「脆い、脆いぞ。そんなことでパンダの一撃を受けきれるか!」
 街頭に照らされた路の只中に立つ彼女こそ、パンダカ・パンダナ・パンダ(大熊猫大進撃!!・h12359)! 背に守られた魔法少女――綺星・ひまりは魔法のステッキを握りしめたまま、色んな意味で呆然としていた。
「ぱ、パンダ……?」
「然り!」
 そう、パンダである。
 ジャイアントパンダのフリークスバスターであるパンダカの頭の両端にあるのは、確かに|大熊猫《パンダ》耳。
 それでいて|彼女《パンダカ》は、鍛え上げられた大柄な肉体を持つ明るい美貌の少女と言ってもいいだろう。その身長は大凡250cm超、ヒト型の太極獣たる彼女の姿は、守られるひまりにとって、頼もしいことこの上ない。
 いま気功は全身の経絡を廻って燃え上がり、流星錘を軽々と振り回して会話を交わす余裕さえパンダカにはあった。
 ある種、異形ともいえるその得物は名を――殴り棺桶「”吠吠”」。名の通りに吠え、名の通りに群がるデザイアモンスターを殴り倒す!

「――――…………」

 対する怪異どもは、腹部の|核《コア》を輝かせ、欲望のオーラを増幅させた。死なない限りあらゆる傷をものの数分で全快してのける異能である。それは即ち、パンダカを容易ならざる強敵と認識してのこと。

「面白いぞ!」

 ニィ、とパンダカは口端を歪めた。
 にじり寄ってくるデザイアモンスターに殴り棺桶を振り回せば、その中から霊符がバラバラと宙を舞う。何やら僵尸でも封じるような文字が書かれたそれらが怪異どもに貼りつけば、びくりと異形が動きを止めた。

「パンダの力が強いか、お前たちが強いか、いざ勝負だ!」

 ――パンダを前にして怪異無し!

 動きを止めたデザイアモンスターたちに殴り棺桶がブチ当たる!
 余りの威力に怪異どもはまるで風船が割れるように破裂し、次々に消滅していった。妖魔退治の専門家――その自称は伊達ではない。
 回転力を脚で殺すと、パンダカはやりきった笑顔を見せた。

「ざっとこんなもんだぞ!」

リーリエ・エーデルシュタイン

 黄昏は夜の色に染まり、ビルに灯った明かりが闇を無機質に装飾していた。
 点々と並ぶ街路灯は人の気配が失せた|通り《ストリート》を照らし、その光を以って周囲の陰を色濃く引き立てている。
「――――…………」
 乗り捨てられた車両の影や路地裏からぬたりと這い出てくるデザイアモンスターは、能力なき者からすれば、ホラー映画の怪物さながらだろう。
 覚醒したばかりの魔法少女――綺星・ひまりにとって、状況は未だ悪夢に等しい。
 既に多くの怪異が斃されていたが、同じ形の魔物が、無限と思えるほどに湧いてくるとなれば……。
 だが天運はまだ彼女を見捨ててはいなかった。
 少女の耳に、段々と大きさを増すエンジン音が聞こえてくる――。

「あら、バイクを取りに行っている間にまた大変なことに」
 アクセルグリップに力を込めれば、左右のビルが凄まじい勢いで流れていく。
 |装甲バイク《ミスティーク・ローズ》――機械仕掛けの奔馬を颯爽と駆るのは、リーリエ・エーデルシュタイン(アンダー・ザ・ローズ・h05074)だ。
 影から染み出るように出現するデザイアモンスターは全く以って執拗だ。数だけは確かに脅威と言っていい。
「でも有象無象なら……蹴散らしましょうか」
 敵の只中へと飛び込む寸前、リーリエはほんのわずかに体を起こした。次の瞬間、体重移動を伴う繊細な操作で車体を流し、ブン回すように後輪を滑らせる。乗り手の操作に応えて咆哮するエンジン。テールランプの尾を引き、獲物に跳びかかる獣めいて、機械の奔馬が怪異どもを薙ぎ倒す!
 タイヤが猛烈なスキール音とともに白煙を発し、そしてバイクは停止した。
「またまたごきげんよう、ひまりさん」
 街路灯が、まるで舞台のスポットライトのようだった。
 華やかな笑顔を浮かべたリーリエに、ひまりが大きく目を見開き、駆け寄る。
「た、助けに来てくれたんですね……………!」
 |彼女《リーリエ》がいるならばこれは悪夢的な状況であっても、悪夢そのものではない。
 ひまりは、烈しくも美しい薔薇の悪役令嬢の戦い振りに、すっかり魅了されていた。そしてそのリーリエが、今度は装甲バイクを駆って現れたのだ。テンションが上がってしまうのも無理はない。
「えっと、あの……とっても格好いいです! バイクにも乗れるなんて!」
 その熱い眼差しに、リーリエは、こほんと咳払いを一つ。
「淑女はいろいろと秘密を持っているものですわ」
 もちろん、状況は予断を許さない。
 そうこうしている間にも、デザイアモンスターは前方を塞ごうとしていた。
 リーリエは掻っ攫い気味にひまりをシートの後ろに乗せると、怪異どもを威嚇するようにアクセルグリップを捻り、エンジン音を轟かせる。
 それは美しき猛獣が飛びかかる前触れだった。
「さぁしっかり掴まっていて。飛ばしますわ!」
 自動的な怪物どもは、複眼を不気味に光らせて行く手を塞ぎにかかる。
 瞬間、ミスティーク・ローズのタイヤが猛然と回転し、灼くように街路を擦った。二人を乗せた装甲バイクは目の前に形成された|壁《・》にブチ当たるや風船でも割るように弾き飛ばし、瞬く間に突破してしまう。
 ――全力で轢き逃げ……まあ相手は怪異ですし!
「わ、わわわっ……」
 ひまりは流石に、リーリエの腰にしがみつくので精一杯だった。
 が、装甲バイクは伊達ではない。速度と安定を保ったまま、立ちはだかるデザイアモンスターを轢き殺してなお疾走る!
「そんな、まだあんなに……!?」
 しかし、ひまりが次に口にしたのは悲鳴のような言葉だった。
 前方の路地裏から、軟体生物めいた怪物どもがわらわらと湧き出てきたのだ。
「あらあら、集まってきましたわね。狙いは単純ですけれど」
 デザイアモンスターの群れは道路中央の一個体に引き寄せられて融合を果たした。
 巨大な怪腕と化したそれが二人の行く手を文字通り塞ぎにかかる。
「なら、一気に仕留めるとしましょう! ひまりさん、少しの間だけバイクにしがみついていてくださる?」
「は、はい……!」
 ひまりも段々と超常の戦いへの耐性がついてきたらしい。なにより、二度に亘って救けてくれたリーリエへの信頼があった。何が起こるのかも分からぬままバイクのボディにしがみついた彼女に軽く頷き、薔薇の悪役令嬢は左右のステップを蹴る。余りに見事な跳躍は、バイクの走行バランスを崩しもしない。
 |闇に咲く薔薇《黒のドレス》が宙に躍る。
「動くな!」
 麗しくも烈しい声が夜気を裂いた。
 怪腕は反射的に手を広げ、リーリエを迎え撃ったが――次の瞬間、びくりと震え、時が止まったかのように停止した。眦を裂いた薔薇の悪役令嬢、その爛々たる双眸が巨大な化物の腕を捉えていた。まるで視線が、見えざる槍と化して怪異を空間に縫い止めたかのように――。
 直後、
「この一撃で吹っ飛べ!」
 ド、ォッッ――!! まるで隕石の衝突めいた衝撃が、怪腕を貫いて道路に眩い闘気の花を咲かせる。まさしく|一輪の薔薇《シューティング・スター》。クレーターを中心にして放射状に広がった衝撃波が、巨大な怪異の腕を千々に吹き飛ばす!
 それは|射抜く視線《グランサー》との合わせ技だった。より確実に吹き飛ばすため、リーリエは声と眼差しで巨腕を麻痺させ、そこへ痛烈極まる蹴撃を見舞ったのだ。如何に融合体といえど、この連撃を耐えきれる道理などない。
 まさに圧倒的暴力……!
「上手くいきましたわね」
 リーリエは着地すると、すぐに颯爽と跳躍。
 猛烈な速度で走り過ぎようとした装甲バイクのシートに飛び乗った。
 多少耐性がついてきたひまりも、これには驚きのあまり言葉もない。もはや目まぐるしく動く状況に理解が追いつかず――それとリーリエの苛烈な戦い振りにも良い意味で圧倒されて――何が何だかわからなくなっていた。
 これこそが|√能力者《EDEN》が繰り広げる超常の戦いである。
 ……ということにしておこう。
 流石に言い繕っている暇もないので、リーリエはエンジンの回転速度を上げた。
「さぁ今度こそ安全な所まで退避しますわよ」

第3章 ボス戦 『アストレア』


「あれだけのデザイアモンスターでも捕らえられないとは……」
 人の気配が失せたオフィス街の交差点、その中央に女は立っていた。
 魔槍と天秤を携えたその姿は、闇に浸されきった光輝を帯びている。
 さながら夜に咲く花だ。
 アストレア――彼女こそ天秤座とジャンヌダルクのシデレウスカードカードにより誕生した麗しき|怪人《シデレウス》である。
「この上は、私が出るしかありませんね。我らが神の意志に背く不届き者……赦すわけにはいきません」
 魔槍を掲げ上げるアストレア。
 否――それは、槍である以前に、旗であった。
 使命を果たそうとする決意に、旗布がたなびく。
「魔法少女を我が手に……星の光よ、私とともにあれ」
 夜に輝く聖女は、自らの信奉する闇に、|綺星・ひまり《一人の魔法少女》を取り込まんとしていた。

 ※第三章はボス戦です。
 ひまりと行動を共にしている(或いは共にする)プレイングがある場合、まだ力の制御を知らない筈のひまりから、突如として不思議な光が溢れ出し、周囲が「輝く魔法のフィールド」(きらきらと輝く宇宙の中のような)に包まれます。ビルとか街灯とか、その辺にあるものは引き続き利用できます。
 このフィールド内では、ひまりが味方と認識した全員に対して「身体能力上昇」「治癒速度上昇」「空中ジャンプ能力付与」などの強化を付与します。
 指示によっては、ひまりもステッキから星の輝きめいた光を発して攻撃できるかも知れません(流石にダメージは僅かですが)。


 ※ボスであるアストレアの攻撃方法は下記のとおりです。
●POW:シデレウスカードの真価
 知られざる【シデレウスカードの力】が覚醒し、腕力・耐久・速度・器用・隠密・魅力・趣味技能の中から「現在最も必要な能力ひとつ」が2倍になる。
 ⇒武器で攻撃するほか、蹴り技などの体術も繰り出してきます。

●SPD:我らが神はここにありて
 【罪の重さを測る天秤】による牽制、【掲げた神の信奉者たち】による捕縛、【手にした旗】による強撃の連続攻撃を与える。
 ⇒罪の重さを測る天秤が傾くと、敵対者ひとりに対し、動きを阻害する重圧がかけられます。神の信奉者たちは敵対者の周囲に影となって現れ、掴みかかり、捕縛しようとします。そして動きが鈍った敵対者にアストレアは強撃を加えてきます。

●WIZ:業火の魔女
 視界内のインビジブル(どこにでもいる)と自分の位置を入れ替える。入れ替わったインビジブルは10秒間【炎に包まれた】状態となり、触れた対象にダメージを与える。
 ⇒業火に呻くインビジブルにて敵対者を包み込み、火刑に処します。
若命・モユル

 夜のオフィス街はゴーストタウンさながらに人の気配が消え失せていた。デザイアモンスターの襲来で殆どが逃げ去ってしまったからだが、交差点に立つ|怪人《シデレウス》は旗を掲げて戦いの時を待ち構えていた。
「来たな、|√能力者《EDEN》よ」
 天秤座とジャンヌ・ダルクのカードにより形作られた彼女は名を、アストレアと云う。顔の半分は、兜というには些か近未来的なバイザーで覆われ、表情も窺えない。
 が、その殺気は、現れた少年――改造人間へと真っ直ぐに向けられていた。
「こいつが元凶か……オイラたちでやるしかないね」
 戦場に降り立ったのは、シデレウスを相手取るのに相応しい戦士であった。若命・モユル(機獣戦士サイバー・カヴ・h02683)、それが彼の名である。変身と同時に出現した|光の武装剣《ソードブレイザー》を構え、背後に迫る気配を振り返りもせずに感じ取る。それは敵ではない。魔法少女を伴った、|味方《EDEN》だ。
 だからこそ、ここで眼前の敵にまず一太刀浴びせねば。
「邪魔をするならば、その罪、万死に値しますよ」
 旗槍を地に突き立て、片手の天秤をモユルに突きつけるアストレア。
 聖女を元にした怪人は、それ故に自らの信念を決して崩さない。
「説得の余地はないみたいだね」
「それはお互い様でしょう。貴方からは揺るぎなき闘志を感じます」
 ならば――ぶつかり合うまで。
 アストレアの眼前に、突如としてシデレウスカードが出現した。紫色の輝きを放つそれは回転しながら胸に吸い込まれ、爆発的闘気を放ちながらアストレアは地を蹴立てる。
「負けないよ!」
 モユルも踏み込み、瞬きする間もなく打ち合っていた。
 旗槍を翻し、卓越した槍術を駆使して刺突を繰り出すアストレア。モユルは弾き、弾き、弾き――弾き切って全て逸らす。怪力を乗せたソードブレイザーは途轍もない重さを以って怪人の旗槍を弾いていた。
 そしてアストレアの体勢が崩れたのを、モユルは見逃さない。
「オイラのミサイルをくらえぇ!」
「しまった……!」
 体内格納型のミサイルの一斉発射。
 爆発の花がオフィス街の只中に咲き乱れ、轟音とともにビルの壁面を赤々と照らした。
「やりますね……!」
 爆煙を貫いてバックステップするアストレア。
「どうしても戦いは止めないんだね」
「愚問です」
 ならばとモユルはソードブレイザーを輝かせた。
「キミが人を傷つけようとするなら、オイラはそれを絶対に許さない!」

冬夜・響
柳檀峰・祇雅乃

 夜のオフィス街に大爆発が巻き起こった。
 先行した改造人間の内蔵型ミサイルが、|怪人《シデレウス》に着弾し爆発の花を咲かせたのだ。
「|新手《あらて》ですか。あと少しで魔法少女を捕らえられるというのに」
 濛々とした爆煙が薄れたとき、怪人――アストレアは、数メートル先に立つふたりの√能力者の姿を認めた。
 ひとりは、冬色の髪と、底知れぬ双瞳を持つ少年、冬夜・響(ルートブレイカー・h00516)。
 そしてもうひとりは、対照的に漆黒の髪と瞳を持つ柳檀峰・祇雅乃(おもちゃ屋の魔女・h00217)。
「魔法少女を捕らえる? 子供に酷いことをしようなんていかにも悪党の考えることね」
 |古代語魔術師《ブラックウィザード》にして、不思議なおもちゃ屋『おもちゃのハウザー』の店主である祇雅乃だ。罪もない少女を犠牲にしようとする凶行など許せるはずがない。
「僕がするべき事はひとつだけだ――」
 捉えどころなく茫洋とした、それでいて揺るぎなき声が響く。掲げた片手に、破壊の炎が宿る。力なき者の目には何も見えないが、祇雅乃と怪人の目は確かに捉えていた。全てを消し去る炎の幻を……。
「――あとのことは任せる」
「ええ、任せて」
「貴方たちも私の邪魔をするというのですね。ならば断罪するのみ」
 アストレアの胸の前にシデレウスカードが現れ、紫色の炎に包まれた。
 天秤座とジャンヌ・ダルクのシデレウスカードにより形作られた怪人――それがアストレアだ。カードの力を得て地を蹴立てれば、矢もさながらに跳んで祇雅乃に突きかかる。
 切っ先を読んで裏拳で弾き、拳を見舞う祇雅乃。彼女の纏うレザースーツはその身のこなしを阻害せず、魔女は凄まじいフィジカルで堕ちた聖女と打ち合う。
「大した力ですね」
「お互い様よ」
 アストレアも、聖女と言うには余りに格闘戦に長けていた。
 弾き飛ばされるように距離を取る両者。
「――今だ」
 一方の響は眉一つ動かさず機を窺っていた。
 人の気配が失せたオフィス街の交差点で、響とアストレアは一瞬のうちに交錯する。
 アストレアの旗槍が閃いた。
 切っ先が響の|既製服《パーカー》を裂き、肌を裂き、血を|飛沫《しぶ》かせる。
 だが、致命傷ではない。
「捨て身……!?」
 アストレアからすれば、確かに心臓を貫く刺突であった。だが敢えて踏み込み、身を翻した響はなお止まらない。リーチの長い旗槍であるが故に、懐に入られれば対処は困難――それを響は狙っていた。
「この一撃は外さない……!」
 右手を伸ばす。
 その手が、遂に怪人の肩に触れた。
 響が狙っていたのは、アストレアの格闘能力を支えるシデレウスカードの加護だった。
「しまった……!」
 ルートブレイカー。
 √能力が無効化された瞬間、祇雅乃が踏み込む!
「――我が内なる魔力よ、|彼《か》の力を写し取れ」
 再び、祇雅乃とアストレアが壮絶な格闘戦を繰り広げる。
 今度は明らかにアストレアの方が圧されていた。
 魔力により形成された輪郭のぼんやりした触腕が、祇雅乃とともに打撃を繰り出しているのだ。能力複製――シデレウスカードの力を複製した祇雅乃は、持ち前の喧嘩殺法に腕力の強化を得て、アストレアの旗槍を大きく弾く!
「子供を犠牲にする手合いには、容赦しないわ……!」
 空いた怪人の懐に、祇雅乃は強かに拳をめり込ませた!

帆瀬・アスナ

 物語は喜劇のみにて紡がれるものではない。
 誰もが幸せになるストーリィなど、うそ寒くて仕方がない。ささやかな幸福も、満たされた思いも、この残酷な世界では容易く壊され、悲劇に代わりうる。
 いつだって誰かに救けてもらえる?
 危機に陥れば手が差し伸べられる?
 馬鹿馬鹿しい――そんなものはただの奇跡だ。
 だからこれはひとつの成り行きであり…………見てしまったからには放ってもおけない。
「覚醒したばかりの魔法少女のお守りなんて御免よ。でも仕方ないわね。戦う理由が無いというわけではないわ」
 ひと気の失せたオフィス街の街路。その真ん中で、帆瀬・アスナ(テイルズノワール・h12191)は|物語の力が込められた宝石《ネガテイルズジェム》を|魔法の杖《ノワール・リーディングロッド》にセット。
 その体が不可思議な力でふわりと浮かび、銀色の長い髪が宙に揺れ――薄黒い|紗幕《ベール》に包まれた少女の身をノワールドレスが包み込む。
 タッと街路を踏んだ彼女こそ――闇の魔法少女テイルズノワール。
「魔法少女ですって……!?」
 アストレア――天秤座とジャンヌダルクのカードから生じた麗しき|怪人《シデレウス》は、旗槍を構えて警戒した。
「駆け出しの魔法少女を守ってあげるつもりなんてないわ。私はただ……|簒奪者《あなた》が嫌いなだけ。あはは、貴方も物語のように歪ませてあげるわ!」
 便箋のようなものが、まるで魔女の使い魔か何かのように少女の周囲を旋回する。ヤブレター――人の暗い心にドンヨリ族の力を注ぎ込んで産まれる怪物の、一つの姿なのだろう。
「邪魔をするなら容赦はしません……!」
 凄まじい疾さでアストレアがアスナとの距離を詰める。
 ヤブレターが、妨害するように牽制し、旗槍が空を掠めた。
「なに……!?」
「どこを狙ってるの?」
 掻き消えた。
 否、入れ替わったのだ――このオフィス街に漂うインビジブルと。
 アストレアが気づいたときには、その足元に、ころんと何かが転がっていた。檸檬。それは確かに檸檬の形をしていた。
「……!?」
 ネガテイルズジェム『檸檬』――怪人に文学の知識があるかといえば、限りなく否だろう。しかし、そこに込められた悪意だけは反射的に察した。
 飛び退こうとした瞬間、
「どっかーん!」
 嘲笑うようなアスナの声とともに、檸檬型爆弾が大爆発を起こした。
 アストレアが瞬間移動したかのように距離を取るが、視界内のインビジブルと自身の位置を入れ替える|彼女《怪人》の能力――業火の魔女は、緊急回避に使うのが精一杯だった。予想外のダメージを負いながら、燃え盛る炎を背に、アストレアは歯噛みする。
「この物語の中では、あなたは倒される存在みたいね?」
 可憐にして小悪魔的な笑みを浮かべて、アスナが小首を傾げた。

リーリエ・エーデルシュタイン

 天秤座とジャンヌダルクのカードより誕生した|怪人《シデレウス》。
 |√能力者《EDEN》との激戦を繰り広げながらも、その力は未だ衰えを知らない。
 |星のごとく輝く者《アストレア》――その名は神話に刻まれた女神に由来するのであろう。確かに夜の闇の中でも、その存在は輝きを放っている。だがそれは禍々しい凶星だ。星は落ちず、未だ夜闇の中に在る。
「やっと黒幕のお出まし? いえ、まだ後ろに誰かいそうね?」
 |装甲バイク《ミスティーク・ローズ》を駆ってオフィス街の道路を疾走してきたリーリエ・エーデルシュタイン(アンダー・ザ・ローズ・h05074)は、スキール音を響かせて急制動をかけた。
「まずは目の前の障害を取り払いませんと。ひまりさん、少し離れていてくださる?」
「は、はい……!」
 ダンスの誘いをするように流麗な所作でひまりの手を取り、リーリエは彼女をバイクから下ろす。そうしている間にも、√能力者とアストレアが戦いを繰り広げていた。
 激戦だ。単騎で複数を圧倒するシデレウスは、なるほど容易ならざる相手に思える。
 が、ここさえ越えられれば彼女に安息を与えることはできるはず――。
「何はともあれ、これでひまりさんの平和が守れるなら良しとしましょう」
 爆発と共に、先行した√能力者とアストレアが互いに距離を取った。
 怪人がリーリエに刺すような殺気を送る。
「ほう……魔法少女を守っていたのは貴女のようですね。よくもここまでやってくれたものです……ですが、それもこれまで」
 街路に旗槍をガツリと立て、アストレアは審判を告げるように天秤を掲げた。呼応して、宙に光を帯びたシデレウスカードが出現。それが胸に吸い込まれた刹那、紫色の闘気が怪人を包んで燃え上がった。
 一方、凄艶なる女傑――薔薇の悪役令嬢は、鉄拳を|麗貌《カオ》の前で構え、口の端を笑みの形に吊り上げる。
「さぁ覚悟は終わった?」
 怪人のみならず、背後のひまりさえ、リーリエの変化を肌で感じ取っていた。悪役令嬢のオーラが|闇に咲く薔薇《ドレス》を戦がせ、アストレアを身構えさせる。
 その時だった。
「え……これ、は……なに……?」
 胸元でステッキを握りしめていたひまりから、突如として不可思議な力が溢れ出す。光は周囲を染め上げ、塗り替え、たちまちのうちにきらきらと輝く宇宙のような魔法のフィールドへと変化させた。星光がリーリエを包み、身体能力を賦活させる。
 そして――、

「薔薇の|芳香《かおり》がアナタを仕留めるわ」

 アストレアの眼前で、リーリエはドレスを翻し、ミスティーク・ローズに飛び乗った。エンジンが唸り、タイヤがアスファルトを擦って装甲バイクが猛進する。
「――ッ!」
 歯噛みしたアストレアはそれでも瞬時に対応してのけた。これがデザイアモンスターならば、為す術もなく轢殺されていたことだろう。だが麗しきシデレウスはすかさず横っ飛びに回避し、転がるようにして受け身を取った。
「この程度で……!」
 横滑りするミスティーク・ローズ。
 アストレアが構え直そうとした時には、すでにリーリエは愛車から飛び降りていた。
「なるほど、アナタが強化したのは|速さ《・・》ね?」
 先行した√能力者とアストレアとの戦いを、リーリエは瞥見していた。
 先程までと比べ、明らかに反応速度が向上している。
 だが――そうと分かれば幾らでも対処のしようはある。
「殴る方が簡単でいいわ。これを躱せるか、試してみなさい!」
 鉄拳、空を衝つ。左右の拳でリーリエは|虚空を殴る《・・・・・》。
 ひとたび繰り出せば、輝ける闘気が拳から放たれ、衝撃波となってアストレアに飛来する! ド、ドドドドドドォッ――! 腹に響く轟音をたてて飛ぶ強撃の乱れ撃ちが、息つく間もなく怪人を襲う!
「この程度……!」
 旗槍で払い、死地から逃れようとするアストレア。だが、正面のみならず、左右にまで間断なく飛んでくる衝撃波だ。退路は断たれ、逃れ出ることなどできはしない。

 星の光が、ひまりの祈りを受けて輝き渡り、リーリエを綺羅びやかに彩っていた。
 アストレアとて強大な力を持つシデレウスだ。
 傷を負っているとて、ここまで単騎で多くの√能力者を相手取ってきた怪人である。
 だが、星光の加護を受けて百パーセント以上の力を発揮するリーリエの力は、今やそれさえも凌駕していた――。

「信じられない……なんという威力……ッ!」
 ガードして耐えることしかできないアストレアを見て、リーリエは|悪役令嬢のヒール《ローズ・ソーン》を鳴らし、ここぞと地を蹴った。
「来たわよ私の距離――!」
「負けられない、私は……!」
 アストレアが突き出す、旗槍の切っ先。それをリーリエは腕に纏わせた|百合の花の在り方《ディザスター》で逸らし、渾身のボディブローを繰り出した!

「さぁ彼方までぶっとべ!!」

 直撃ッ――! アストレアは凄まじい威力に文字通り吹き飛ばされ、虚空にて爆発を起こした。爆炎が星光のフィールドを彩り、やがて消えていく。
「終わったわね」
 拳を突き出したままの姿勢でリーリエは言うと、息を吐き、そしてひまりに振り返る。
 その貌に浮かんでいたのは、穏やかな笑みだった。
「帰りましょうか、ひまりさん。お送りしますわ」


 ☆本シナリオに継続参加していただいたリーリエ・エーデルシュタイン(アンダー・ザ・ローズ・h05074)さんに、綺星・ひまりの登録権を差し上げます。 もしよかったら登録してあげてくださいませ。

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