シナリオ

猫こそ世界の癒しなり

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 とある街にある猫カフェ。
 一見普通の店、外に向けて大きく開いた窓から中を覗くと、猫たちが思い思いの場所で寛ぎ。中に入れば、ちょっとした飲食物と癒しの時間をゲットできるそんな場所。
 それなりに賑わっていて、週末などは予約が必要だったりもするらしい。
 そんなどこにでもあるお店のはず、だった。

「事件です」
 憂鬱そうな顔をした平岸・誠(D.E.P.A.S.デパスの|警視庁異能捜査官《カミガリ》・h01578)が手元の種類を捲る。
「とある街の猫カフェで、行方不明事件が起きているようです。グループで行った友人の一人がいつの間にかいなくなっていたり、店に行くと言っていた知人と連絡がつかなくなっていたり」
 本当なら、もっと騒ぎになっていてもおかしくない事件のように思えるのだが。
「√EDENの人々は異常現象を忘れる力が強すぎる為、事件に遭った人々からの証言も極めてあいまいなんです。そのため……急な出張に行ったのかもとか、気紛れな人だからとかで流されてしまっているようでして」
 はあ、とため息を零しつつ、誠が次の紙へと視線を落とす。
「まずは普通に猫カフェに行ってみてください。そこで何か違和感等が感じられるような事があったら探しておいてもらえると。その後はバックヤードへと潜入する感じになるかと思われます」
 猫カフェ自体は普通に楽しめる。メニューとしてはジュースやお茶、コーヒー等とケーキやサンドイッチなんかがあるらしい。店に勤めている者達も、一部を除き普通の猫カフェだと思っている人間であるため口にしても問題ないとの事だ。
「猫ちゃんたち、お店が無くなっても大丈夫なんでしょうか……関係者でどうにかするんでしょうけど」
 顏を上げた誠が、集まった能力者達に目を向けると踵を合わせ敬礼を送る。その顔は先程までとは違い大分引き締まって見えた。
「無理だけはしないように――よろしくお願いします」

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第1章 日常 『ふれあいカフェのひととき』


 パステルカラーの室内に、大きめのキャットタワーやカゴ、鍋や猫用ベッドが並ぶ。入り口と反対側の壁際には、来客者用のカウンターテーブルと、猫のおやつ自販機。
 渡されるドリンクとフードには、カバーがかけられており気を使われている感じがする。
 そんな店の中だけれど。
 やけに多い監視カメラ。能力者だからこそわかる、異質なものの気配。今向こうから、何かの目玉が覗いていなかっただろうか?
 不可思議なものの気配を感じつつ、まずは猫達と戯れるとしよう。

====================
 のんびり日常パート。
 上記のように、ただの猫カフェにしてはどことなくおかしい部分があります。
 ちょっと気にかけておく必要がありそう。
錫柄・鴇羽

「はー……」
 こてん、と転がる三毛猫。おやつくれないかなあと入ってきた人をじーっと見るふかふかに毛の長い猫。
 |錫柄・鴇羽《すずつか・ときは》(|不敗《しなず》の朱鷺・h01524)は目の前のあまりにも平和な光景に思わず感心して、頬に手を当て目を見張る。
「小動物との触れ合いで出来る場所。すごいですね、|うち《√ウォーゾーン》では考え難い事です」
『なーん?』
 足元までてこてこと歩いてきて、見上げてくるふっくらとした子に視線を落とす。
「猫かわいいー」
 店の了解を取り、持ち込みおもちゃとして|レギオン《小型ドローン》を使い、猫達をじゃらして遊ぶ。
 おもちゃ扱いされているレギオン達が何やら不満を訴えているが、鴇羽は聞かなかった事にした。任務優先――ついでに私情優先。猫可愛い。
 レギオンにぶら下げた猫じゃらしに飛びつく猫、走って追いかける猫……仕草の全てが可愛らしい。
 ついでに、おもちゃを動かしすぎたふりをしてバックヤードを覗いてみる。ステルス機能を乗せたレギオンの超感覚センサーが感知したのは、奥に不自然なほどごつい格子のついた扉があるらしいとの事。
 部屋には『保護部屋』とプレートが付いている。
 そこまで見えた所で寄ってきた猫がぴょんとジャンプし、膝の上に上がってきた。
「とりあえず怪しい場所を見つけたので、良いですよね」
 潜入するならまずはあそこだな、と考えつつ、手をそっと膝の上で丸まろうとする猫の背に乗せてみる。
『ぅなん』
 撫でて、と言いたげな視線。薄茶色のふかふかとした毛並みの、真ん丸な目が愛らしい子。
「触って良いのね?」
 そっと手を動かす。すべすべで、温かくて柔らかくて。
「あらあらまあまあ」
 じんわりと伝わる重さも、心地良さげの細められた目が見上げてくるのも、全てが心地良い。
 戦いに次ぐ戦いにすり減りまくっていた心が癒される。久々の休息だと、鴇羽は時間一杯までこの場を楽しむのだった。

クラウス・イーザリー

 店内のカウンターに受け取ったトレーを置き、クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は視線を落とす。
 ころころと転がる猫、不思議そうにクラウスを見上げてくる猫。皆人を疑う事を知らない、真っ直ぐな目をしている。
(解決後のことを考えると、少し憂鬱だね……)
 この子達はどうなるのだろうか、優しい新しい飼い主に巡り会えると良いのだが。
「まあ、その心配をする前に……まずはしっかり事件を解決しないといけないけど」
 カウンター席で、ケーキを引き寄せる。たっぷりの生チョコを挟んだケーキは|クラウスの世界《√ウォーゾーン》では、このような甘味は貴重なもの、フォークで切り取った一切れを大切に口に入れる。
 チョコのこってりとした甘さ、上にかけられたココアパウダーのほんのりした苦みが絡み合って
食べやすい感じを受ける。デコレーションに使われている削りチョコのぱりぱりした食感がアクセントになっていて、味と食感の変化が楽しい。
 一通りケーキを楽しんだ後は、床に座って猫と遊ぶ。
『なぁん』
 手を伸ばすと、頭を擦り付けてくる子――細身の三毛猫がそのまま膝の上に上がってきて。
「可愛いな」
 喉を擽るとぐるぐると心地良さげな声が聞こえる。手を動かしつつ、店の中をさりげなく見回すと、どうもカメラの数が多いように思える。
 猫達を守るためというよりも……人を見定めているように見える。もしくは。
「客の隙を見付けるためなのかな……?」
 暫く楽しんで退店し、店の近くでシステムにハッキング。カメラの映像を辿りながらバックヤードを覗くと、モニターのある部屋は鍵がかかっていて、店長他数名しか入れないようなっているようだった。店の安全のためだとするなら、これはおかしい気がする。
 他にも変わった様子は無いか確認しようと、クラウスは裏口を探して店横の路地へと進んでいった。

フィア・ディーナリン

「猫カフェという文化には馴染みが無いですが……問題が起きているというのなら、行ってみましょうか」
 紅茶と焼き菓子の乗ったトレーを手にしたフィア・ディーナリン(|忠実なる銃弾《トロイエクーゲル》・h01116)が、店内へと足を踏み入れる。
 最初はカウンターで様子を見る事にする、何せ猫とはあまり触れあった事が無いのだ。
 転がっているボール等で勝手に遊んでいたり、ベッドですやすや眠っている猫達を眺めながら紅茶のカップを口に運ぶ。
 このような場所なので期待はしていなかったが、意外とちゃんとした紅茶でカップを手にフィアは柔らかく微笑んだ。
「なんというか……見ていて飽きないものですね」
 くるくると変わる動き、愛らしい仕草。猫の挙動一つ一つが物珍しくて。目で追っているうちにおやつの自販機がある事に気付く。
「試しにあげてみましょうか」
 小さなカプセルに入ったおやつを開けると、音に気付いた猫達が寄ってくる。一つ掌に載せて差し出すと、困ったような顔をした長毛の猫が顔を近づけ、ぱくりと咥えるとそのままもごもごと食べ始める。1匹が貰えば、おやつがあるぞと他の子達もねだる様にフィアの膝に手をかけたり、鳴いてアピールしたり。
 集まってきた子に順番におやつをあげ、足りなくなって買い足しまたおやつを配り……。
「……、いけません、目的を忘れるところでした」
 気が付けば、おやつを食べる猫の様子に魅入ってしまっていた。
 目的を思い出し、フィアはおやつをあげつつもさり気なく周囲を窺う。
「あれらのカメラは、何を監視しているのでしょう? 猫? それとも客?」
 やけに目につくカメラ。しかも何だかこっちを見ているような気がする。気になったフィアは、カメラが追う先――他の客の出入りの数や客層、カメラを操っているだろう店員の動きも細心の注意を払う。
 そうして時間の限り、フィアは猫と触れ合いつつ店の中の人の動きを追い続けたのだった。

リア・カミリョウ

「やーーん、猫ちゃんかーわいー!」
 部屋いっぱいに散らばる猫達を見た瞬間、|リア・カミリョウ《マグノリア・上稜》(|Solhija《太陽の娘》・h00343)は思わず叫んでしまう。
「いっぱい、もっふもふ! ハッピー空間!」
 この空間を全力で堪能するためにはどうしたら良いか。考えたりアはここはなされるがままになってみよう、と店の奥の方へと進み、そこで大の字になる。
 あっという間に好奇心旺盛な猫に囲まれ、お腹の上に載ってきた子を撫でおしりをポンポンし、すり寄ってきた子を軽くハグして顔を寄せる。
 日向ぼっこしていたのか、おひさまの匂いがする子を軽く抱きしめて、リアは目を閉じた。
「わー、幸せ」
 両手に猫という状態で、リアは素早く目をあちこちに走らせる。
 カメラは何個あるのか、どこを見ているのか――死角は無いか。何かいるのなら、そういう所に潜んでいるはず。
 頭は素早く回転し、目はあちこちに動きながらも手は猫を構い続ける。身体をくっつけてきた長毛の子をブラシで梳く様に指を立てて撫でてやりながら、ふと浮かぶのは動物好きそうな幼馴染の顔。
「んー、幼なじみと来たかったな。今度誘ってみようかな」
 きっと動物好きだろうから、喜んでくれるはず。
 虎縞の猫を抱っこしたまま、身体を起こす。まだ幼いのか、一回り小さな身体のその子はリアに顔をぎゅっとくっつけて、気持ちよさそうに身体を丸めようとしていて。
「寝ちゃうの?」
 ふふ、と笑って頭を撫でてやると、ごろごろと喉を鳴らしながら力を抜いて手の上に頭を乗せてきた。
 そのまま視線を上げた先、第六感に引っかかった場所にさりげなく目を向ける。カメラの死角になっているその場所、そこにちょこんと座っている黒猫の背中から今見えたのは。
「触手?」
 見間違えたのだろうかと思うくらいに一瞬で消えたけれど、でも。
「なんか変」
 リアの勘が危険だと警鐘を鳴らし続けていた。

雨深・希海

 |雨深・希海《あまみ・のあ》(星繋ぐ剣・h00017)は手にしたトレーを落とさないように気をつけながらも、辺りの光景に目を奪われてしまう。
「猫カフェ。ねこ。ねこだよ。ねこって可愛いよね。ふわふわで柔らかいし、目もくりくりだし、耳のふにゃっとした感触も好き。にゃーんって鳴く声もかわいい」
 猫が大好きな希海からしたら、天国のような場所に思える。
「猫は後で沢山触れるから……」
 まずはこっち、とケーキと甘くしてもらったコーヒーに目を向けた。冷めてしまったら勿体ない、カウンターへと移動する。
 たっぷりのクリームを使ったふわふわのイチゴショートは優しい甘さで、コーヒーともよく合っている。
 ケーキを食べている間にも足元に寄ってくる猫もいたので、猫じゃらしを片手に軽く遊びながら様子見。懐っこい子が多いのか、遊んでもらえると分かったら入れ替わり色々な子が側に来る。
 時々遊びつつケーキを食べ終え、場所を移動してキャットタワーの側へ。置いてあるベッドで寝ている子をスマホで撮影したり、遊ぶ姿を動画で残したり。
 スマホが気になるのか、手を伸ばしてくる子もいて思いのほか良い画が撮れたりして、希海も思わす笑ってしまった。
 それにしても。
「なにかに見られてる感じ、気になるな」
 どこから来るのだろう、とスマホで撮影するふりをしつつ周囲を観察。カメラの多さも気になるが、この違和感はそれだけではない気がする。
 そしてふとカメラを向けた先。バックヤードへ繋がるドア近くの、一寸奥まった場所。
 そこに座っている黒猫と目が合う。気のせいとかではなく、ぴたりと視線を合わせてきたように思え、希海がカメラを外し直に見ると。
『にゃーん』
 こちらを見て一声鳴いたその子が、嗤ったように見えて。その身体が一瞬ぶれて、何か違うものがぐちゃっと固まっていたような気がして。
 思わず固まった希海、その様子を見て満足そうな黒猫は――ゆっくりとバックヤードへと消えていった。

シチーリヤ・バックマン

「猫カフェ楽しそうだね。私も行ってみたい」
 シチーリヤ・バックマン(良い狩りを・h01253)もいそいそと店の中へ。
 周りからはよく犬派だと言われるが、猫も好きだ。可愛いに優劣はない。
「小さい子も可愛いけど、大きい子も好き。あと毛がふわふわな子もいいね。ブラッシングが大変だけど……」
 大きい毛のふわふわな子で思い浮かぶのは、自身が相棒として連れている護霊兼愛狼「ノーチ」。深夜色の艶やかな毛並みは、何かあって絡まったら大変そうだなと思った事があったから。
 ジュースとケーキを持って店の中へ、まずは猫達の様子を窺う。
「ぱっと見は変な所は無し、かな」
 ラグの上で丸まる猫、キャットタワーの上からシチーリヤを見下ろしてくる猫。特に異常は見受けられない。
「失踪事件が起きる店ってことだけど、店員さんは普通そうだし、猫ちゃん達も一見普通に見えるけど」
 猫と遊びながら、店の中をじっくり観察してみよう、と店の奥の方へ。寄ってきた子を手でじゃらしたり、撫でたりしつつ周囲の様子を伺う。
 座り込んだ膝先でころんと転がり、撫でてくれとアピールする黄金色のソマリの毛に指を埋めながら室内から店員がいなくなるのを待って。
「|竜眼《 ドラゴンインサイト》使ったら怒られちゃうかな」
 受付にいる店員から見えないように、自然な動きで背を向けると右目に意識を集中する。炎を纏った視線が、店の中を舐め――見つけた違和感。
 誰からも死角になっている場所から、こちらをじっと見ている黒猫。形は普通、だけど明らかに纏う空気が違う。何より、こっちを見ている視線が。人の其れよりもはっきりと――嗤っているように見えて。
「出来れば、猫ちゃん達は普通であってほしかった、けど」
 あの子は何か違う。そうはっきりと狙いを定めたシチーリヤの視線を躱す様に、黒猫はバックヤードへと続く猫用ドアから姿を消したのだった。

アリス・アイオライト
天ヶ瀬・勇希

「猫を利用しているとしたらとんでもないですね!」
「生き物利用するのは許せないよな」
 腰に手を当てて怒るアリス・アイオライト(菫青石の魔法宝石使い・h02511)、隣でその通りと頷いた|天ヶ瀬・勇希《あまがせ・ゆうき》(エレメンタルジュエル・アクセプター・h01364)が外のウインドウから店の中を覗く。
「かわいいから気が緩みやすいのはわかるんだけど」
 目が合った猫に手を振り、受付へと向かう。
「解決のため頑張ります! ……とは言っても、私なぜか動物には嫌われるので、町中で出会う猫と同じようにシャーってされるだけでは……」
「師匠はネコ達を怒らせないよう大人しくしててくれよ」
 トレーを持ってカウンターへ。一先ずアリスはこちらで様子見、勇希が辺りを見回し、とりあえずおやつの自販機に向かう。
「お、もう見てんのか」
 かこん、とカプセルが落ちてきたのを手にして振り返ると、おやつの気配を察して寄ってきていた真ん丸目のスコティッシュフォールド。
「ほら」
 掌に載せたおやつをぱくりと食べてそのまま足元にすりすりと身体を寄せられて。
「可愛いなあ」
 ぽんぽん、とお尻を叩いてやると身体をくねらせ機嫌よく可愛らしい声を上げる。その声が読んだのか、また次の子が気がついたら足元へと近付いて来ていて。

「見てるだけでも可愛いですね」
 アリスはカウンターの椅子に座り、紅茶のカップを手に勇希が猫と戯れる姿を眺めていた。何か変わったものは無いかと見まわすアリスの視界に、不意に黒いものが過ぎる。
「……あら?黒猫さん、どうしました?」
 首を傾げるアリスと金目の黒猫は暫し見つめあい、そのまま近づいてくると、不意にアリスの膝にずっしりとした重さがかかる。
「!!??? ゆ、ユウキくん、ねこ、ねこさんが、私の膝にっ……!!」
「……って、師匠どうしたんだ、そのネコ? へー、師匠に懐くネコなんているんだ……なんて名前だろ」
 あわあわとするアリスとは逆に、膝の上ですっかり寛いでいる気配の黒猫。くるりと器用に丸まり、そのまま目を閉じて心地よさそうにしている。壁に貼ってある猫の一覧を見ると、あんこちゃんと言う名前らしい。性格は人懐こい、マイペースとなっている。
「あんこちゃんか。撫でても大丈夫そうだぜ、せっかくだから触ってみたら?」
「な、撫でても大丈夫ですか? えっ、いいんですか? はわ……あったかい……」
 そっと乗せた手から伝わる温かさ。軽く毛並みを整えるように動かすと、ぐるぐると音が聞こえてびくりと手を上げるが、楽しんでいる声だと聞けばまたそっと撫で続ける。
「あんこちゃん、これで良いです? ふふふ……温かくて柔らかくて」
 
 初めての経験に無中になっているアリスから離れ、勇希はまずおやつで挨拶、その後は猫じゃらしを振って走らせたりしてついでにバックヤードへと近付き中の様子を窺う。
 見えたのは、大量に設置されている監視カメラのモニターが並ぶ部屋のドアが開いていて、中に店長らしき人と黒猫がいる様子。そこまで確認したところで、勇希が見ている事に気付いたのか店員が近寄ってくる。
「あっ、ごめんこっち入っちゃだめだった?」
 あまり近付かないようにと軽く注意を受けて、その後は普通に遊び猫を構い倒す事に集中する。情報は後で共有すれば良いだろう。
「……師匠の幸せそうな顔が見られただけで、来てよかったなと思うな」
 カウンター席で猫に手を乗せ、とろけるような笑顔を浮かべているアリスを見て。
 勇希も満足げに笑みを浮かべたのだった。

ソレイユ・プルメリア

 ソレイユ・プルメリア(君が為の光の剣士・h00304)も初めての猫カフェに若干そわそわとしてしまっていた。
「こういうカフェって初めて入るけど、動物と触れ合えるって素敵ね」
 受付を済ませ注意事項を確認している間に、変わったことなどは無いかと店員にそれとなく確認するが、特に何も起きていないという認識らしい。
 後は中に入って実際に確認するしかないのかもしれない。
 室内へと入ると、構って欲しい猫達がさっそく足元へと寄ってくる。
「猫さん、いらっしゃい♪遊びましょ? いっぱいおもちゃ持ってきたから……」
 貸し出し用のおもちゃや許可を取って持ち込んだ猫じゃらしやボールや音の鳴るおもちゃを取り出すと、目を輝かせた子が早く遊べと手を伸ばしてくる。
「はいはい、それじゃまずボールね」
 軽く放るとジャンプして捕まえようとする子や、跳ねたボールに合わせて走る子。最後にゲットした子は得意げにソレイユの元へとボールを咥えて戻ってくる。
「上手ね、じゃもう一回」
 ボールを受け取り今度は少し遠くへ。戻ってくるまでの間に音の鳴るおさかな型のおもちゃを近くにいる子に向けて転がしてやる。
 暫く遊んで、おやつの自販機に気付き近くに向かうと後をついて来る子の期待の視線。
「欲しいの? はい、お待たせ♪」
 促されるままに購入し、手に乗せるとすぐに顔を近づけてくる。ふんふん、と匂いを嗅ぐ息が手のひらに当たって少し擽ったい。
 さっきまで走り回っていた子達もおやつに気付き、順番を待つようにソレイユの周りを囲む。その中で、寄ってこない子がいるのに気付き視線を向けると、その黒猫はこちらを見てふん、と笑いバックヤードの方へと消えていった。
 少し気にかかるものの、目の前の猫さん達に追加のおやつを催促されそちらに意識が向く。
「ふふ、のんびりできるカフェ、ほんとに楽しいわ」
 その後も猫達の気が済むまで遊び、ソレイユは初めての猫カフェを満喫したのだった。

第2章 集団戦 『シュレディンガーのねこ』


 店の閉店後。
 裏口から中へと入ろうと向かうと、何故かドアが開いている。
 覗き込んだ先には、妙にがらんとしていて誰もいない。何の音もしない。
 まず向かうなら、監視カメラのあった部屋だろうか。そちらへと向かおうとすると、視界の端に黒い影。
 あっという間に一つ、二つと増えていく。
『にゃーん』
 可愛らしい声。なのに。
 視界の端に移るそれが、歪な形をしているのはどうしてだろう。
 羽が、触手が――見えるのは何故だろう。
 誰かが思いつくままに様々なものを掛け合わせたような、その塊が。
『にゃーん』
 もう一度、可愛らしい声で鳴いた。
 ここを通さないと、言いたげに。

====================
 集団戦です。
 場所の広さなどは特に気にしなくて大丈夫です。
クラウス・イーザリー

「これは、猫……なのか?」
 足を止めたクラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)を取り囲むように、猫のようなものが数を増やしていく。一つ一つは大きくないけれども、くっ付いて、捩れて――化け物へとなっていく。
 猫を何匹も、無造作に組み合わせたような胴体からはのこぎりのようなギザ刃や、蝙蝠のような翼が歪に飛び出していて到底普通の生き物には見えない。
『にゃーん』
 声だけは高く甘い猫のまま。それが、却って違和感を増大させているようだ。
「鳴き声は可愛いけど、本物の猫みたいに無害という訳じゃなさそうだ……猫らしき生物を攻撃するのはちょっと気が引けるけど、解決のためには戦わないとね」
 シュレディンガーのねこはじわじわと数を増やし、そろそろ普通に抜け出す事も難しくなってきている。クラウスは拳を握ってさっと構えると、比較的シュレディンガーのねこが集まっている辺りに向かって駆けだした。
「一気に行くよ!」
 ダッシュで近寄った勢いのまま一匹に拳を叩きつけ、他方からの反撃の猫爪をワンステップで躱しつつ、光刃剣のトリガーを引いて瞬時に刃を出し斬り付ける。更に拳、拳銃をぎりぎりに突き付けての零距離射撃。
 撃たれた猫が後ろへと吹き飛び、そのまま崩れて消えていった。
 連続攻撃が決まりシュレディンガーのねこ達が散り散りに逃げ始めると、ドローンや拳銃を使い動きを封じて。
 猫達の動きを見ていると、特定の方向――カメラのある部屋を守るように動いているように見える。
「通せんぼをしてくるのなら、この先に黒幕が居るって感じなのかな」
『にゃん』
 ふふん、と鼻で笑うようにシュレディンガーのねこが鳴く。クラウスの青い目に、対照的な赤の目玉がぐるりと動くのが映った。
「何としてでも通してもらうよ」
 この事件を終わらせなければならない。クラウスは手にした武器を構え直すと、シュレディンガーのねこに改めて向き直った。

フィア・ディーナリン

 フィア・ディーナリン(|忠実なる銃弾《トロイエクーゲル》・h01116)の手には、鋭く鈍く光るナイフ。
 それをじっと見るいくつもの目。様々な形の猫が――フィアを一斉に見上げてくる。うねうねと動くのは触手だろうか、付け根の辺りには牙の生えた口も見えて、中々に気持ちが悪い。
「猫というのは、羽や触手が生えたりするものなのですね、知りませんでした」
 ぐるり、と周囲を見回して。
「……いえ、さすがにそんな訳が無いですよね。昼に触れあった猫とは全く異質なモノ……怪異なのですから葬りましょう」
 店の表側で癒しを与えてくれた、あの可愛らしい姿とは似ても似つかない。暫くお互いを見合った後に、フィアは手の中のナイフを一度くるりと回し、握り直す。
「あまり近付きたくない上に直視したくない容姿ですが、そうも言っていられません」
 距離を詰め、狙った急所にナイフを突き込む。|致命の刃《トートリヒヴンデ》――確りと狙いを定め、威力を増した必殺の刃。
 刃の根元まで刺したナイフを一度ぐりっと捻るとすぐに抜き、さっと離れる。ひらりと靡いた銀色の髪が一筋、伸びてきた猫の爪に刈り取られた。
 崩れる仲間を踏み越え、次の猫が迫る。
『にゃーん』
 フィアを囲む輪の中で、一匹が鳴き声を上げると、爛々と光る目の赤が色を増したような気がした。生半可な攻撃では倒せそうに無い雰囲気……多少時間をかけても確実に仕留めなければならない。
 試しに近寄ってきたシュレディンガーのねこに対し、牽制の意を込めてナイフを振るう。
 羽を使い軽く浮いて避け、嘲笑うような顔を向けてくる姿を冷静に確認し、分析して――。
「次、です」
 僅かな間を置いてすっと伸びた手が、ナイフを音も無くシュレディンガーのねこへと滑り込ませた。
「ここまでです――必ず、通して貰いますよ」
 間近で見たシュレディンガーのねこ。ナイフを押し込めば背中から生えている白骨化している猫が、ざらりと音も無く崩れていった。

錫柄・鴇羽

「一通り楽しめましたし、お仕事の時間です」
 するりと店の裏から入り込んだ|錫柄・鴇羽《すずつか・ときは》(|不敗《しなず》の朱鷺・h01524)、入ってすぐの場所は物置兼なのか妙に広い。
「猫カフェはいい物でしたので、長く続いて貰わなければ」
 非常灯だけがついている薄暗い中を進んでいくと、視界の端に光るもの。顔を向けると姿は無く、また反対の端に何かが光る。
「ふーむ。猫の怪異とは初めて会いましたが視界の端。視えると視えないの曖昧な所から現れる怪異といった感じでしょか?」
 次第に数を増やす光を見ながら鴇羽は小型無人兵器「レギオン」を起動すると、シュレディンガーのねこと同じくらいに数を増やしたレギオンを使い、囲むように足を止めさせていく。
 初めて正面から見たシュレディンガーのねこは歪で、醜い……と思える。少なくとも、先程まで触れ合っていたカフェの猫達とは全く違うと鴇羽は感じた。
「感覚リンク完了。周囲索敵を開始。……目標捕捉。各機ミサイル攻撃開始!」
 取り囲んだレギオン達が、一斉にミサイルを発射する。囲まれてしまっていては逃げ場は無い、爆破され崩れ去っていく中で。
『『にゃーーん!』』
 長い鳴き声が終わるや否や鴇羽の身体がぐらりと揺れた。立っていられないほどの振動が襲ってくる――シュレディンガーのねこ達は微動だにしていないのに。
「なるほど、そう来ましたか……レギオン、攻撃継続」
 こちらを狙って来るならそれでも構わない。レギオン達は浮いているから何の影響も無い。
「ところで、この子達気に入った個体があれば持ち帰ったりは……」
 シュレディンガーのねこをじっと見ていると、その造形に何処かユニークさを感じないでもない。ふと思い浮かんだことを口にして――数体のレギオンが否定するようにこちらを見ているのに気付いて。
「ダメ。ダメですか。残念」
 肩を落としつつ、続く攻撃を見守るのだった。

リア・カミリョウ

 見る間に数を増やし、|リア・カミリョウ《マグノリア・上稜》(|Solhija《太陽の娘》・h00343)を取り囲むシュレディンガーのねこ達。
 口元に手を当て、声を押さえるようにしながらリアは視界に入るようになった猫達をじっと見て顔をしかめた。
「わ、クリーチャー猫……可愛くはないね。鳴き声に騙されないよ」
 目を逸らさないままにじわりと後ろに下がると、既に構えていた|小野さん《両手持ちのダブルアックス》を思い切り振り上げ、そのまま叩き落した。
 予備動作が大きいせいかシュレディンガーのねこには当たらなかったものの、床が衝突した場を中心に大きくひび割れ、砕けていく。
 そしてリアの力――|重力波《グラビティアクション》が辺りを包む。リアを中心に一帯が重力倍増地帯となって、シュレディンガーのねこ達はちょっとした動きさえ、苦しそうに藻掻くような素振りが加わり始めた。
「これで攻撃しやすくなったね」
 敵の動作が鈍くなる中、リアは|小野さん《両手持ちのダブルアックス》の重さなど気にならないように振り上げたままダッシュ、猫達が集まっている場所に向けて振り下ろす。
 如何に相手が牙を持っていようとも、羽があろうとも――ハンマーの重量に挟まれてしまえば一溜まりも無い。
『にゃーん!』
 悲鳴を上げて姿を消すシュレディンガーのねこに、リアはむーっと頬を膨らませた。
「やだー、やめてよニャーとかいって鳴くの。躊躇わないけど心にくるものがあるね」
 声の可愛らしさは昼間に遊んだ猫達を思い出してしまう。いや、と首を振ってハンマーを握り直して。
「負けないんだから」
 再度小野さんを叩きつけると、横から別の猫の爪が迫る。
「当たらないよ」
 しかし、予め攻撃が来るのを見越して展開していたエネルギーバリアがそれを跳ね返した。
「そろそろ終わりにしようか」
 ぐりん、と変な角度から此方を見据えてくる機械仕掛けの猫を横殴りに弾き飛ばし――リアは止めを刺すために|小野さん《両手持ちのダブルアックス》を頭上に降り上げた。

雨深・希海

「ねこ……」
 猫、と呼ばれるだろう物を適当に繋ぎ合わせたようなシュレディンガーのねこを前にして、|雨深・希海《あまみ・のあ》(星繋ぐ剣・h00017)は困ったように声を漏らす。
 こちらを見上げてくる猫の顔は可愛らしいが、その背中から生えている羽は何だろう。腰のあたりに繋がっている、触手は、歪に鋭い牙の生えた骸骨は。
「うーん、かわいいところもあるけど、これはねこじゃないね。うん、可愛いとは思うけど……怪異には出ていってもらうよ」
 地域の癒しとなっているこの店が良くなるように。昼間遊んだあの猫達が、幸せになれるように。
 希海が手を広げると、周囲に浮かぶきらきらした光がその手に集まっていく。瞬時に粒子状のレーザー発生装置――レイン砲台を展開、自身を囲む猫達を一体ずつ出力を落としたレーザー光線で撃ち抜いていった。一撃の威力は低いものの、足止めには十分、数本のレーザが当たればそれが致命傷となったのかぐずりと崩れ、そのまま塵となっていく。
『にゃあーーん』
 崩れる仲間を踏みつけ、危機を感じた残った猫が放つ長い鳴き声。普段とは違うそれが響くと、不意に足元がぐらりと揺れる。最初の振動を感じた瞬間、希海は急ぎ裏口近くまで退避、身体を屈め壁に掴まって倒れないように身を護った。
 大きな振動が襲う。膝をついて、猫達を見ればそちらには影響は無いのだろう……飛び掛かろうと身を縮めているのが見えて。
「させないよ」
 浮いているレイン砲台は、震動の影響を受ける事は無い。最初は散らばっていたレーザーも、次第に狙いを纏めるようにして、確実にシュレディンガーのねこの数を減らし始めた。
「おっと」
 どうにかレーザーを搔い潜り飛び掛かってくる猫を、レインを集めて網状にしたアンブレラで受け止め、弾き飛ばす。
「お前達じゃ癒やしにはならないよ。元の世界に帰りなよ」
 突き放すような希海の声が、居場所を間違えているのだと、ここにいてはいけないのだと――諭すようにがらんとした建物の中に響く。

ソレイユ・プルメリア

「あらあら、今度は全然可愛くない猫ちゃんが来たわね」
 裏口から足を進めたソレイユ・プルメリア(君が為の光の剣士・h00304)を取り囲んだのは歪な猫――のようなもの。
 爛々と光る目は、獲物を狙う色を湛えている。身体を一つにした猫のどれもが、嘲笑うような顔をしているように見えて。
 じわじわと囲む輪を狭めてくるシュレディンガーのねこに目を落とし、ソレイユは小さく息を吐いた。
 一触即発の張りつめた空気、先に動いたのは。
「どこ、見てるの?」
 飛び掛かったシュレディンガーのねこ、しかしその先にソレイユの姿は無く。代わりにあったのは、美しい装飾を持った鋭い2本の刃。
 ――|une ombre pour toi《カゲニウゴク》。飛び掛かってきた猫を逆に迎え撃ち、すぐにソレイユの身体は闇に隠された。
 置かれた物の陰に潜みながら、ダブルダガーを突き刺し、抉って1匹ずつ仕留めていく。
 踊る様に動くソレイユの足元では、留めを刺されたシュレディンガーのねこがじわりとその形を崩し、塵へと変じていた。
『にゃーん』
「可愛い声で鳴かれてもだめよ、逃がさない」
 生半可な攻撃では生命力を増幅しているからか鈍らせるくらいしか意味は無く、しかもじわじわと回復されてしまうため、時間がかかっても確実に数を減らす事を狙う。
 届く位置からシュレディンガーのねこがいなくなれば、アンクレットから一斉発射で矢を撃ち出し動く方向を操って。
 時折、気配で気付いたのか飛び掛かってきた猫をひらりと躱し、衝撃波で叩き落す。
「だいぶ減ったかしら」
 気が付けば、店の中に溢れるようだった猫達は大分数を減らしている。向かわなければならないのはその向こう、モニターが置かれていると思われる部屋。
 残った猫達もそちらの方を気にしているように見える。
「通してもらうわね」
 微笑みを浮かべたまま、ソレイユは手の中のダガーを構え直した。

シチーリヤ・バックマン

 裏口から侵入したシチーリヤ・バックマン(良い狩りを・h01253)を出迎えたのは。
「あれは、猫……?」
『にゃん』
 声は可愛らしい猫のもの。一番前を歩いているのも、猫の形をしているように見える。しかし、その後ろにくっついているものは。ばさりと動く翼は、羽は。尻尾の代わりにうねる触手は。
「なんというか、猫の塊? 猫といえば、猫なのかな? うーん、「猫」が何なのかよく分からなくなってきた……」
 猫らしく、足音をたてずに次第に数を増やし、シチーリヤを囲み、じわじわとその輪が縮まってくる。
「どちらにせよ、ここを通らないと奥を調べられない。どうにかして、どかさないといけないけど、本当に倒さないといけないのかな?」
 先程まで触れ合っていた猫達を思い出す。この子も、ひょっとして。
「もしあの猫?が満足したら、通したりしてくれないかな? でも、あれだけ大きいと、普通に遊ぶだけじゃマズそうだね」
 光る牙が、爪が、血のようなものに塗れた鋸刃が――遊ぶだけでは足りないのだと訴えかけてくる。
「やっぱり戦わないとダメか……」
  シチーリヤの手にする|BC-42《Bachman's Customウラガーン。暴風を称する改造拳銃を構え、戦闘を進む猫の足元を狙い、引き金を引くと室内であるのに、強く風が巻き上がる。
 突風を起こす|精霊の祝砲《エレメンタルサリュート》、シュレディンガーのねこ達がシチーリヤの狙い通りに吹き飛ばされて転がっていく。
『にゃーん!』
 床にしがみついた一匹が鳴き声を上げると、転がったシュレディンガーのねこ達の動きが変わる。身を起こし、身体を振るわせる姿から見るにあまりダメージは入っていないようだが。
「道は出来たね」
 守る様に広がっていた、カメラのモニターのある部屋前からは退かされていた。シチーリヤは慌てた様子(に見える)シュレディンガーのねこ達が届く前にそちらへ走り、一気に奥の部屋へと向かう。

天ヶ瀬・勇希
アリス・アイオライト

「はあああ……楽園でした……」
 いまだ猫カフェの余韻に浸るアリス・アイオライト(菫青石の魔法宝石使い・h02511)、その隣を歩く|天ヶ瀬・勇希《あまがせ・ゆうき》(エレメンタルジュエル・アクセプター・h01364)は腕組みをして店の中にあった違和感の原因を探っていた。
「やっぱり怪しいのは監視カメラと、店長と一緒にいたネコだよなあ……って」
 隣の人へと目を向け、軽く肩を揺らす。
「おい師匠、そろそろ真面目にやってくれよ? 楽しかったのはいいんだけどさ……」
「は、そうですね、調査に集中しなくては」
 辿り着いた店の裏口は、鍵もかかっておらず。招かれているようで気味が悪いが、そのまま中へと足を進めた。
「かわいいあんこちゃん他、カフェの猫さん達を悪用させないためにも、行きましょう!」
 薄暗いバックヤード、とにかく猫カフェへと通じる方へ向かおうとすると。
 一つ、二つ。影が集まり、大きく膨らみ――歪に寄り合わさって。その先頭にいるのは、見覚えのある黒猫の顔。
「店長と一緒にいたのはお前らか? なるほどな、店のネコに紛れてこんなやばいヤツもいたんだ!」
「な、なんかいろいろ混ざってる猫ですね……!」
 苦笑いを浮かべる勇希に対し、アリスがよく確認しようと一歩踏み出すと。
『シャー!』
 背中から生えた猫相の悪い猫に威嚇されて思わずびくっと下がる。
「あっ、その姿でもやっぱり私にはシャーなんですね! ううう、悲しいけど、気持ちは切り替えて戦いますよっ」
 勇希が腰のベルトにポーチから取り出した宝石を嵌めると、ぱっと光が走りばさりとローブの裾が広がる。
 すぐに手にした剣にも氷属性の宝石を取り付けると、わざとに物影に隠れた猫も誘うように走り回り、シュレディンガーのねこを出来る限り集めて。
「今だ師匠!」
 魔法使いらしい姿に変身した弟子の動きを目で追いながらも、アリスは目の色と揃いの宝石をつけた美しい杖を頭上に掲げ。
「ラピスラズリよ、彼の者に試練の光を放ち給え」
 杖の先端から、青い光が飛び出し、周囲を包み込んだ。|瑠璃星の光《ラピスラズリライト》の試練の星光がシュレディンガーのねこ達を打ち据える。
『にゃああーーん』
 攻撃を受けながらもシュレディンガーのねこが一声鳴くと、アリスをかなりの振動が襲う。
「きゃ……!」
「師匠!?」
「ユウキくん、私は大丈夫なので、攻撃を……!」
 その場にしゃがみこんで振動を耐えるアリス、一瞬心配げに近寄ろうとした勇希だったが、彼女の言葉に頷いて剣をシュレディンガーのねこへ向ける。
「これで凍らせてやる!『アイシクルジュエル』!」
 ジュエルブレイドが発した声と、勇希の声が重なる。氷の礫が剣を向けた先へと放たれると、シュレディンガーのねこへと命中した。
 普段ならば、増幅している生命力で耐えられるであろうダメージ。しかし、アリスの攻撃に晒されていたシュレディンガーのねこ達には止めとなったようだ。
 全身を凍りつかせ、砕け、散っていく。
「お前らみたいな不気味なやつ、ネコとは言わないからな!」
 勇希の声に、凍り付く寸前のシュレディンガーのねこがにやりと笑い……笑顔のまま塵と化ししていった。
「大人しくしてください、私達の敵はこの先にいるはずですから!」
 姿勢を立て直したアリスの声に、最後の星光が降る。身体が凍り付いた猫達へと降り注ぎ、その全てが無となっていく。
 猫達が消えた更に向こう側、しんとなった建物の中で、ぽつんと目立つのは一つだけ明かりが微かに漏れている部屋。
「この先に、全ての原因がいるのか」
「行きましょうユウキくん、カフェの猫さん達の幸せの為にも!」
 二人は視線を交わし頷きあうと、モニターの置かれた部屋へと向かっていった。

第3章 ボス戦 『人間災厄『善意の死滅天使』高天原・あがり』


 部屋の中へと足を踏み入れると、そこにいたのは。
「あれー? 勝手に入ってきちゃダメダメだよ!」
 赤く長い髪を揺らした、少女のようにも大人の様にも見える女性が一人。ダンスでも嗜むかのような格好をしたその女性は、あ、と口に手を当てて何かに気付いたように目を見開く。
「君たちも、猫がいれば他に何もいらない系? 良いよね猫、可愛いしカッコいいし最高最高!」
 にい、と笑った女性の背後に光輪のような輝きが現れる。浮かべた笑みが、僅かに歪む。
「だから、ここで死んだら猫に囲まれて最高に幸せだと思うんだ……死んでよ、ねぇ」
 背後の光輪が、誘うように色をチラつかせた。まるで猫の玩具のように。
リア・カミリョウ

 光輪を背負い嗤う女を目の前にしても、|リア・カミリョウ《マグノリア・上稜》(|Solhija《太陽の娘》・h00343)は変わらない。
「んー……猫ちゃんね、可愛のだけどね。リアの絶対はもう居るの。だから、猫ちゃんでは死ねないかな」
 真っ直ぐに自信を否定してくるリアをじいっと見て、人間災厄『善意の死滅天使』高天原・あがりは。
「そっか―……仕方ないねえ。なんて言うと思った? 生きてるのって苦しいでしょ?」
 手を後ろで組み、首を傾げるあがり。
 続く言葉を発する前に、リアが動いた。
 普段から下げている小さなポーチから、決して収まらないはずの大きさの|ツァウバー《魔弾銃》が取り出される。リアが使うにはどこか手に余るような、ごつめの銃が真っ直ぐにあがりを捉え。
「避けないでよ」
 氷の弾丸が、あがりの足元へと当たった。
「避けないで、って当たらないじゃん……あっ!」
 リアの狙いは、これでダメージを与える事ではなく足止め。更に続く弾丸が光輪を、腕を凍らせて固めていく。
「重たくても謝らないからね」
 ぶん、と風を切る音。振り上げられた両手持ちのダブルアックスがあがりに向けて落とされた。
「うわっ、痛ーいっ! ねえ、こっちに来なよ! 苦しみが好きな人なんて居るはずないよ!」
 重く鋭い刃が、肩口を切り裂き床を抉る。鈍い音が響き、部屋の中に大量に並ぶモニターが傾いて崩れかける――凍ったあがりの足に、僅かに罅が入る。
 同時に、あがりの目がリアを捕らえた。叫び声に込められたあがりの苦しみが、リアを包み、その身体を抑え込もうとしてくるが……ばちり、とリアの周囲で何かが弾けた。
 エネルギーバリアが、麻痺の視線を遮ってリアを守る。身体の周囲で火花を散らしながら、リアはあがりとしっかり目を合わせ。
「幸せってね、自分で決めるの。君に決める権利なんて無いのよ。1度死んで出直してくるのね」
 |小野さん《ダブルアックス》を肩に乗せ、不敵に笑うリアを見たあがりの身体が、大きく震えた。

ソレイユ・プルメリア

「ねぇ、死んでよ! 最高に幸せに死ねるんだから良いじゃない!」
 「そんな自分勝手、許されるはずないでしょう?猫も人も生きてこそよ?」
 叫ぶ人間災厄『善意の死滅天使』高天原・あがりの声を遮るように、ソレイユ・プルメリア(君が為の光の剣士・h00304)が進み出る。
「生きるも死ぬも、あなたが決める事じゃない」
「はー? 猫に囲まれるなら幸せでしょ!? カフェ楽しかったでしょ!?」
 諭すようなソレイユの言葉に頬を膨らませたあがりが、大きく髪の毛を払うと背の光輪が一つ数を増す。ぐっと広がり、すぐに小さくなったそれをあがりは手元へと引き寄せた。手の上で再度大きく膨らんだ虹色の光が、何処か禍々しくソレイユの目に映る。
「抗おうとする手足なんて切っちゃおうよ、大丈夫、あなたが死ぬ時にはちゃんと猫ちゃんたちも呼んであげるし」
 光輪を投げつけようとするあがりをくるりと立ち位置を入れ替えるように避けると、ソレイユは右目を覆う花の眼帯をずらして力を集中させた。
 竜漿魔眼。全身の竜漿を右目に集めると金色の瞳が感情の見えない縦長の瞳孔へと変化して――現れる竜の目で見るのは、今まさに倒さんとする敵の間合いの盲点。
 避けられたことが面白くないのか、顔を歪ませ今まさにこちらに攻撃を向けてこようとする、その動き。大きく振りかぶった、伸びた腕になら攻撃が届きそうに見える。
 ソレイユの衣装の房飾りが、追いかけるようにダブルダガーが宙を踊る。細身の刃が光輪を支える手を切りつけ、また離れて。大きく後ろへ飛び、腕を掲げて振り下ろすと腕輪から打ち出された細い矢があがりを襲う。
「わ、ちょ……痛いっ!」
 突き刺さった矢に驚いたあがりの手から光輪が消え去った。敵からの反撃が来ない今が勝機。
「ようやく、息が切れてくれたわね。このときを待っていたわ」
 肩で息をするあがりに向けて、刃が迫る。あがりの視界を埋め尽くすのは柔らかな太陽色の脅威。

クラウス・イーザリー

「猫が最高って意見には同意するけど、死んで幸せになれるとは思わないな」
 クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は軽く肩を竦め、手にしていた電磁ブレードに視線を落とす。
 彼がいた世界においては、死は身近なものであった。だからこそ、救いだとは思わない。死は終わり。死は、負けだ。
 それに。
「そこまで極端な思考じゃないし、死にたいとも思ってない」
 まだ学生の身であり、欠落を持った彼は深く絶望する事も、甘やかな希望を持つ事も無い。ただあるがままの生を受け入れるだけ。戦い、前に進むだけだ。
「だから、まだそんな時じゃない」
「何で皆して否定するのよ! 猫がいれば幸せでしょ! 幸せの中で死ねるならそれで十分じゃない!」
 癇癪を起こしたように足を踏み鳴らした人間災厄『善意の死滅天使』高天原・あがりが手の中に光輪を生み出す。
「――遅い」
 アクセルオーバー。電流で強化されたクラウスの移動速度に光輪が追い付けない。あがりが投げつけた姿勢を戻す前に、|紫電一閃《必殺の一撃》があがりへと叩きつけられた。
「きゃあああっ!!!」
 悲鳴を上げ、吹き飛ぶあがり。その身体をガントレットのワイヤーが捕らえ、引き留める。あがりの近くにあったモニターに電磁ブレードが触れ、動作を止めた。
「君は善意で動いているんだろうけど、その行動の結果が一般人への被害なら見過ごすことはできない」
 猫カフェに関わり、行方不明になった誰かは、きっと猫の為に命を捧げたのだろう。彼女がそれが幸せだと信じているのだから。
「というか、猫を利用するのはやめてほしい……」
 それが幸せだという傲慢な思い込み。他人が規定する幸せなどは偽物に過ぎないとクラウスが首を振る。
「うるさいうるさいうるさい! あたしが幸せって言ってるんだから、幸せなの!」
 ぼろぼろに傷つきながらも叫ぶあがりと対照的に、静かに佇むクラウスの目が鋭く細められた。

雨深・希海

 破壊されたモニターがばちばちと音を立てている。人間災厄『善意の死滅天使』高天原・あがりはその前に立って、|雨深・希海《あまみ・のあ》(星繋ぐ剣・h00017)を睨みつけていた。
「なんでっ! あたしが正しいんだから! 幸せに死ねるなら良いじゃない!!!」
「ねこに囲まれてるのは幸せだけど、何もいらない系じゃないよ。残念、解釈違いだね」
 猫は可愛い。けれど、過ぎたるは及ばざるが如し――それだけではダメなのだ。希海はゆっくりと首を振った。
「ぼくは死ねない。死んだら悲しむ人がいるんだから」
 希海の左手の中に、何かが形成されていく。大きく広がり、鋭い刃を成し……最後に振動装置が実体化した。ストームブリンガー Mode:A……レインで作られた、愛用の武器。
「死んでよっ!」
 叫びながら光輪を形成するあがりから、一旦距離を開いた。
「大丈夫、当たっても痛くないよ……幸せになるだけ」
「だから、無理」
 攻撃を受ける訳にはいかない。あがりの手を離れ追いかけてくる光輪を手のストームブリンガーで牽制しつつ走って回避に努める。
「幸せっていうのはもっと暖かいものだよ」
 死の静けさ、冷たさも幸せと感じる人もいるかもしれない。ひょっとしたら、希海がいつかそう思う日があるのかもしれない。
 でも、今じゃない。
 光輪が腕を掠め、身体の中に侵入してくる。しかし、希海は慌てずに立ち止まって。
「こんなの、全然幸せじゃない――ぼくの手足はまだ動く。絶対、抗ってやる」
 自分の胸に右手を押し付け、力を開放する。ルートブレイカー……全ての√能力を無効化する、希海の根源の力。
 希海の身体から、禍々しい虹色の光が弾き出され、粉々に砕けて消えた。呆然とするあがりに向かって、希海がストームブリンガー Mode:Aを振りかぶる。
「終わりにしよう」
 振り下ろされた刃があがりを切り裂き、剣が発するビームがその背にある光輪を砕いた。

シチーリヤ・バックマン

 肩で息をする人間災厄『善意の死滅天使』高天原・あがりをじっと見据える目が2対。
 シチーリヤ・バックマン(良い狩りを・h01253)と相棒のナイトウルフ、ノーチだ。
「猫ちゃんはかわいいし、かっこいいし、見てたら幸せなるよね。それは分かる」
「そうでしょ!!!」
 破壊されたモニターの上に立って叫ぶあがりをじっと見たまま、シチーリヤが再び口を開いた。
「けど、それは私達の人間の勝手な思い。私達の思いとは関係なく動くからこそ、猫ちゃんって尊いんじゃないの? あんたがどう思うかは勝手だけど、そういうのを人に押し付けたらダメだよ」
 ふ、と息を吐いて視線を一度下に落とし。
「それに死んだら、猫ちゃん見れないじゃん。ね? ノーチもそう思うでしょ?」
 まだ出会ってない猫達との出会いについて話を振るも、ノーチは聞くような素振りも見せず、黒い目でじーっとシチーリヤを見上げている。
「あっ、ノーチ、「自分は関係ない」って顔してない? あっちが猫なら、こっちは犬ってことで……」
 ねえ、と身体をゆするシチーリヤをノーチはじっと見て、ふうと息を吐き目を逸らした。
「え、何。だからノーチ、「自分は狼だし……」みたいな顔しないで」
 自分犬じゃないですもん、とほんのり気分を害したような顔を見せるノーチにシチーリヤは。
「あとでおやつあげるから」
 美味しいもので懐柔を計った後、あがりに向き直る。
「え。犬派? 猫最高じゃないの!?」
 敵じゃん、と光輪を生成し投げつけようとするあがりを指さして。
「とにかく! 行って、ノーチ! 噛みついちゃえ! とりあえず偉そうなあいつを引きずりおろして!」
 飛ぶようにノーチが駆ける。あっという間にあがりへと辿り着くとその牙をあがりの足へと突き立てる。
「ちょっと! 痛いってば! 犬は違う!!!」
 犬じゃないんです、と言いたげなノーチが一度口を離し、思い切りジャンプすると肩の辺りへと嚙みついてあがりを引き倒した。

錫柄・鴇羽

 室内に響く二つの音。
 人間災厄『善意の死滅天使』高天原・あがりの荒い呼吸と、|錫柄・鴇羽《すずつか・ときは》(|不敗《しなず》の朱鷺・h01524)が従える小型無人兵器「レギオン」の駆動音。モニターは度重なる攻撃に耐えかねたのか、ほとんど映像を映さずに黒い箱と化している。
「猫に囲まれて死ぬのはいいですけど、あなたに殺されるのはノーセンキューなので抵抗しますね」
「……なんでよ! 良いじゃない、素敵な光景にしてあげるって言ってるのに!!!」
 理解されない悲しみを苛立ちに変え、あがりが首を振りながら叫ぶ。赤い髪がふわふわと揺れるのを見ながら、鴇羽は眼鏡のつるに手をかけそっと位置を直した。
「幸せの押し付けはやめましょう。誰にとっても不幸な結果にしかなりませんよ」
 レギオンがゆっくりとあがりを取り囲み始める。
「大人しく死んでよ!」
 あがりが手の上に光輪を作り出し、鴇羽へと投げつける。見る間に鋭い刃となった光輪が迫るが瞬時に鴇羽を囲むように設置された金属の板が攻撃を阻む。
 がっしりと光輪を食い込ませたフレックスウォールの陰で、鴇羽は間に合ったと軽く息を吐いた。
「設置が間に合ってよかったです」
 鴇羽のフレックスウォール『アウターコート』は通常のものよりも分厚く重い。その分、防御力が高かったことが幸いしたのだろう。
「小さくてカワイイものに囲まれるのは幸せなんでしょう? それなら、この子達でも良いですよね……目標を捕捉。内部爆弾起動。……よし、行きなさい」
 その言葉で、あがりを囲んでいたレギオン達が一斉に突撃を始め。あがりを覆い隠すように、連続で自爆攻撃が始まる。
 何が楽しいのか、自爆の度にはしゃぐ制御AIに、鴇羽は僅かに眉根を寄せて。
 「それにしても何がこの子達を自爆に駆り立てるのでしょか? その様な教育した覚えはないのですが」
 いつの間にか光輪は消え、フレックスウォールを畳んだ鴇羽を、ぼろぼろになったあがりが睨み付けた。

アリス・アイオライト
天ヶ瀬・勇希

 破壊されたモニターが嫌な音を立てる。その上に座り込んだ人間災厄『善意の死滅天使』高天原・あがりは、新たに進み出てきた二人へと怒りを込めた目を向けた。
「ねえ、カフェ楽しかったでしょ!? 猫最高でしょ!?」
 問いと言うには噛みつくような勢いの言葉をぶつけられた二人は、戸惑う様子を見せずにあがりと視線を合わせる。
「出てきたな、猫カフェのボス!」
「あなたが元凶ですね」
 ロッドを手にしたアリス・アイオライト(菫青石の魔法宝石使い・h02511)と、彼女を守るように前に立つ|天ヶ瀬・勇希《あまがせ・ゆうき》(エレメンタルジュエル・アクセプター・h01364)。
「ええ、仰る通り猫は素晴らしいです」
「でしょ!!!」
 目を輝かせるあがりを制するように首を振るアリス。
「ここのカフェの猫さんは人懐っこい子が多くて最高でした。でも、ここで死ぬわけにはいきません。残念ながら私、猫より魔法宝石に埋もれて死にたいのでっ!」
「はぁ!? 猫で良いじゃない、カフェの子達呼んであげるからさあ!」
「……はあ、なんかネコへの愛がずいぶん歪んでんだな……って師匠!師匠はほんとに埋もれて死んでそうだから勘弁してくれ!」
 アリスの叫ぶ内容が耳に入り、顔をしかめる勇希。冗談だろうと思うけれども、敵を前に振り返る訳にもいかずそのままあがりに向かって駆けだした。
「今死んでくれたら、死ぬ時には猫ちゃん連れてきてあげるって! 苦しみが好きな人なんて居るはずないよ!」
 狂気に満ちたあがりの目が怪しく輝く。勇希は麻痺させられる前に急ぎ手を動かして。
「これで燃やしてやる! フレイムジュエル!」
 ジュエルブレイドの宝石を炎属性に変更すると剣自体が炎に包まれた様に赤色の魔力を帯びる。ジュエルブレイド・フレイムフォーム――勢いに乗せて正面からあがりに斬り付けると、あがりは光輪を使い受け止めようとするが……間に合わない。
「あああああっ!!!」
 もう動いていないモニターにあがりの身体が叩きつけられる。剣の勢いは斬るだけではなくあがりを弾き飛ばして、麻痺の視線を断ち切った。
 起き上がったあがりの身体は、傷に沿って焼け爛れている。それでも、あがりは。
「ねえ、猫最高でしょ!?」
「猫が本当にお好きなら、利用するようなことしないでしょう。あなたは私達だけでなく、猫を愛する全ての人の敵ですっ!」
 アリスの指先から、透明な欠片が零れ落ちていく。魔法宝石の欠片を砕いたものがキラキラと落ちて、地面につく前に魔力の風に乗って渦を巻いて。
「クリスタルよ、我が手に凍れる杖を与え給え」
 持っていたウィザードロッドに魔法宝石が集まって――|水晶魔杖《クリスタルロッド》へと姿を変える。
 あがりに向かって杖の先を向けると、吹雪が巻き起こって。
「なにこれ! 冷たい!!!」
 あがりの足を凍らせ、動きを止める。
「俺は死ぬより一緒に暮らしてく方が、好きってことだと思うんだよな」
 猫でもなんでも。死んでしまったら終わりだから。あがりに向かって再び駆け寄った勇希が、再度剣を振るう。
 崩れ落ちたあがりの向こうで、辛うじて一つ残っていた稼働しているモニター。カフェ内部の様子を映したそれに一瞬勇希の目が向いた。
 カフェの中は薄暗く、猫達が穏やかに眠っている様子が映されている。あの子達は特に何かの影響を受けたりせずに、無事なようだ。そう思うと、思わず口元に笑みが浮かぶ。
「……師匠、またここに来ようぜ。あんこちゃんに会いに来ないと、だろ?」
「無事に終わったら、平和な猫カフェになるでしょうか……ええ、また遊びに来ましょうね」
 この戦いが終わって、平和が戻って。その後にこの店がどうなるのか、まだ分からないけれど。きっと残っていると信じて。
 可愛いあの子にまた会うために、戦いを終わらせなければと手の中の武器を構え直した。

フィア・ディーナリン

「確かに猫は可愛いです……猫に囲まれたら幸せを感じるのも確かでしょう」
 フィア・ディーナリン(|忠実なる銃弾《トロイエクーゲル》・h01116)の言葉に、モニターの残骸の上に座っていた人間災厄『善意の死滅天使』高天原・あがりはぱっと顔を輝かせる。
「でしょ! だから……」
「ですが、それを理由に死を迫るのであれば、お断りします。私にはまだ、幸せな最期を迎える権利は無いでしょうから」
 モニターの上に立ち上がるあがりの声を遮り、フィアは首を振りながら続けた。己の役割はまだ終わっていない、だから死ねない。
 天井に撃ち込まれたワイヤーガンが戦いの開始の合図。
 壁を蹴り、天井からぶら下がって移動しながらも本人に、足元に銃弾を叩きこむ。同じ場所に留まらない事で視線の射程を崩し続けていたのだけれど。
「そんなの……わざわざ辛い事をする必要なんてないじゃない! 苦しみが好きな人なんて居るはずないよ」
 あがりの声が、フィアを捉える。銃弾を受けながらも立っていられるのは人間災厄だからか、あがりの目はしっかりとフィアを見据えていた。
「……苦しみが好きな人が居るはずないというのは、その通りでしょう。だからこそ、その中で生きなければならないのです……少なくとも、私は」
 身体が動かなくなっていくのが分かる。フィアはワイヤーでぶら下がったまま、あがりの視線が途切れるのを待つ。
「ねえ、死んでよっ!」
 あがりが背にあるものと同じような光輪を作り出す。攻撃用のそれを、何処か硬質な輝きを放ちながら手の中でサイズを変えながら投げつけようとするが。
「……っ、きゃあっ!」
 先程足元に撃ち込んだ銃弾が、あがりの足元のモニターを破壊していた。バランスを崩し、視線が途切れる。
 その瞬間に、手の中のマシンピストルを落とす。即時|武装転送《アーセナル》が発動し、アンチマテリアルライフルが現れた。ワイヤーガンを開放し、銀色の髪を靡かせながら床に飛び降り即ライフルの引き金を引く。
 必殺の銃弾があがりを撃ち抜いた。
 あがりは気付いていなかったが、先程までフィアがあがりをじっと見ていたのにも理由があった。
 |致命の刃《トートリヒヴンデ》――動き方は、攻撃の癖は、どこを狙えるのか……敵の情報を得る事で、攻撃の威力を上げるフィアの力は見事にあがりを打ち倒した。
「……やだ、なんで! 私、私は……猫で皆が幸せになれば……!」
 ずる、とモニターの上からあがりが崩れ落ちる。床に倒れ藻掻くあがりにフィアが近付いて。
「猫は幸せの形の一つ、かもしれません……でも、幸せはそれだけじゃないので」
 信じられない、と言う顔をしながらあがりだったものが崩れていく。崩れ、溶けてインビジブルへと変じていく。後には何も残らない。
「終わり、ましたか」
 フィアは最期まで見届ける事なくその場を後にした。彼女の戦いは、これで終わる訳では無いから。

 その後、店はたまたま猫好きのオーナーが見つかり修繕の後そのまま猫カフェとして再オープン、新しい店は猫を大事にしているとしてテレビ等でも紹介され、中々に繁盛しているらしい。

挿絵申請あり!

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挿絵イラスト