シナリオ

界渡の古妖

#√妖怪百鬼夜行 #√EDEN

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 #√妖怪百鬼夜行
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●現界
 暗き森の奥。『それら』は突然現れた。
 白面の猿の群れ。そして、それを率いる鬼の獄卒。
「この満ち満ちたるインビジブル……まさにここは『√EDEN』」
 鬼獄卒は、手にした鞭を振るうと、猿達に命令を下す。
「封印から解き放たれたは良いが、よもや界渡りまでしようとは。しかし我らの為すべきことは変わらぬ。人間どもを殺戮し、妖怪の支配する世とするのだ。行け!」
 鬼獄卒の号令とともに、猿達は駆け出した。奇怪な鳴き声を森に響かせて。

●星の道しるべ
 星詠みが1人、狐堂・カイナ(古書店主代理狐・h02271)は、集いし√能力者達へ、ゾディアック・サインがもたらした未来を語り始めた。
「この√EDENに、√妖怪百鬼夜行と√EDENを接続する『入口』が出現するのじゃ。それを通り抜け、ある古妖が√EDENに乗り込んできよるという」
 悪しき古妖を野放しにしておけば、目に映る全ての人間を殺戮、あるいは、喰らい尽くしてしまうのは明々白々。
 特に、この古妖『鬼獄卒「石蕗中将」』は、人と妖怪の交わりを忌み嫌うのだという。
「人はもちろん、人に友好的な妖怪までも脅かしかねん。そこで能力者どのに、この古妖の退治を願いたいのじゃ」

 カイナの示した『入口』……すなわち敵が出現する場所は、古い森の奥。そこにある忘れ去られた祠が、2つの|√《世界》の結節点となったのじゃろうと、カイナは推測した。
「まずは、古妖が引き連れてきた取り巻きどもの始末じゃ。敵は『面妖・申』なる妖怪軍団」
 巨大化や鳴き声、更には病まで操る多芸ぶり。取り巻きといえどもあなどれぬ。
 首尾よく面妖を撃退出来たら、首魁である『石蕗中将』を、√妖怪百鬼夜行へと追い返すことになる。
「ひと冒険を経るか、あるいは力ずくで押し込むかは、その時の状況次第となるが、目的自体は変わらぬゆえ、問題はないのじゃ」
 √妖怪百鬼夜行へと押し返した先には、元々石蕗中将を封じていた祠が存在する。敵を武力で制圧し、再封印を施せば、この事件は解決となる。
 しかし、追い詰められた敵は、何をするかわかったものではない。最後まで油断は禁物だろう。

「かの古妖は、どうやら踏み込む√を間違えたようじゃな。√EDENを……人と妖怪が共に生きる世界を守るためにも、1つよろしく頼むのじゃ、能力者どの」
 ぺこり、とカイナは頭を下げたのだった。

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第1章 集団戦 『面妖・申』


東風・飛梅

 目指すは人里! 森を跳び、駆ける面妖・申。
 白面に輝く瞳に宿るは、原初的な殺戮衝動。加えて主が命ずるのならば、面妖達にとどまる理由はない。
 しかし、その行く手を遮ったのは、風。
 梅の香を乗せた東風とともに、揺れるリボン……東風・飛梅(あるじを想う霊木・h00141)が姿を現す。
 √能力により先陣を切った飛梅が、古妖どもの殺戮行を封じた。
「√妖怪百鬼夜行にいるあるじ様を護るためにも、復活した古妖は封印しなきゃ」
 決意をこぼす飛梅の脳裏には、自らのAnkerたる人物……学び舎の教師にして聖なる乙女の顔が浮かんでいる。
「貴様、√能力者か! 我らが道行きを阻むつもりとみえる」
 正体を看破した『石蕗中将』が、飛梅を睨む。
「人に与する愚か者め。申どもよ、こやつを血祭りにあげてしまえ!」
『奇ィーッ!』
 不気味なる猿の鳴き声。
 多数の白面の視線が、飛梅を射抜く。常人ならば、それだけで身がすくむ事であろう。
 しかし、飛梅は、あいにくと常人ではない。何より今の飛梅には、梅の香の加護がある。数的不利など何するものぞ。
 無論、その宿せし力には、面妖達も気づいている。いきなり接近戦を挑むのは危険……ゆえに、奴らは選んだ。安全圏からの攻撃を。
『奇奇奇ィーッッ』
 空気が軋む。
 面妖の甲高い叫び声……虚空に爪を立てたが如き不快なる音が、異変をもたらす。
 それは、飛梅を、あるいはその周囲の地面や木々を、尋常ならざる震動にて揺るがさんとした。
 だが、飛梅はそれらを退けた。
 周囲の地形に及ぼされた変動は、倍加された技能を用いて、回避してみせたのだ。その挙動は、華麗というほかなし。
 叫び声による制圧が不発に終わったことを知ると、面妖達は、新たな動きを見せた。
『宇奇奇ーッ』
 野生の猿より多少良い程度であった体格が、突如膨張を始めた。
 飛梅など片手で捻り潰してしまえそうなほどの大猿が、顕現する。
 変容は、肉体のみにとどまらない。面妖大猿は、自らの体毛を引き抜くと、吐息を吹きかけ、如意棒と為した。
 唸り声とともに、大猿が飛び込んでくる。爆発的に増大した膂力で、振り下ろされる如意棒。
 だが、その一打が叩き潰したのは、地面だった。
 飛梅は紙一重で一撃を見切ると、虚空を蹴って相手から距離を取った。
 更に、周囲の木々を足場として勢いをつけると、相次いで繰り出される如意棒の数々をかいくぐり、巨躯に右掌を触れさせる。
『……!?』
 ルートブレイカー!
 瞬時に能力を解除された面妖は、元のただの……『ただの』で済ませるには奇怪な姿だが……猿へと強制的に回帰した。
 能力の解除は、武器の喪失をも意味する。慌てる敵の顔面に、飛梅の徒手空拳が炸裂した。ただの拳ならいざ知らず、今のそれは、通常の三倍に比する威力。
 古妖とてお構いなしに、その身体を軽々と吹き飛ばす。
 そこに、別の大猿の追撃がくる。されど、飛梅は絶妙なるタイミングで跳躍。相手の背後を取ると、大猿化を解き、逆襲していく。
「あるじ様、一夜もしないうちに私はあなたのもとへ戻るわ。だから待っていてね」
 近くて遠い、別の|世界《ルート》にいるあるじの事を想いながら。
 飛梅は、面妖の群れを退治していくのであった。

赤神・晩夏
白・冰夷

 森の奥、自然織り成す迷い路。居並ぶ木々の間を、白面の猿が駆ける。
 人気に満ちた場所を求めて。しかし今の理由は、それだけではなくなっていた。
 自分達を追走するもの……√能力者、赤神・晩夏(狐道を往く・h01231)達への応戦のためだ。
「封印が解かれただけじゃなくって、√EDENにまで来ちまってるのか。そりゃさっさとどうにかしないといけないな」
 面妖・申との危険な鬼ごっこに身を投じながら、晩夏が呟く。
 鬼獄卒に比べれば、個々の戦力は低い。だが、配下だとあなどり、逃がすような事があれば、何を起こすか分からない。
「気合い入れて行くぞ!」
『奇ィッ!』
 面妖達も迎撃の構え。
 静寂だった森に、満ち満ちたる負の妖気。
 その主である面妖達の背後から、白・冰夷 (黒風白雨・h01321)が姿を現した。
『奇……!』
「おやおや、穏やかではありませんね」
 冰夷が常人でないことに気づき、警戒感を露わにする面妖達。
 野放図に振りまいていた殺意が研ぎ澄まされ、冰夷へと注がれる。
「血の雨は好きではないのですが、致し方ありません。人間の殺戮は私としても困りますので……」
『奇ィ?』
 たった2人でこの数とやれるのか? 面妖達が、√能力者の無謀を笑う。
 しかし、冰夷の気配が波立つことはない。
「幸い此処は森なので、人目も気にしなくてすみますね」
 その言葉の意味は理解できたのだろう。
 舐めるな! 面妖達は、怒気とともに、冰夷達に襲い掛かった。
『奇奇奇ッ!』
 まずは、間近に迫った一団から。標的を定めた晩夏に、面妖達が仕掛けた。
 奇怪な鳴き声が、森に反響する。木々は小枝すら揺らがない。それすなわち、標的を晩夏に絞ったという証でもある。
 だが、直感的に、音波の狙いから脱する晩夏。幾度も響く叫びに合わせて、直撃を逃れていく。
 しかし、叫び声が干渉しうるのは、何も√能力者に限らない。
『奇奇奇ーッ!!』
 突如、晩夏の足元が震動した。
 晩夏を直撃するのが難しいと判断した面妖は、狙いを晩夏を支える地面に変更したのだ。
 もっとも、晩夏はそうした攻撃も想定のうち。大打撃をこうむる前に跳躍し、木の枝や幹も活かして、アクロバティックに回避していく。
「鳴き声は厄介だな」
 だが、この状況は、晩夏にとっても活用のしがいがある。
 再び、吠声を上げようと大きく口を開いた面妖は、そのまま硬直した。
『奇?』
 いない。晩夏が。
 今の今まで視界に捉えていたターゲットは、面妖達の気づかぬうちに消失していた。
 きょろきょろ、森の景色を探る面妖達。
 その頭上から、黒影が急降下する。
『!?』
 襲来したのは大鴉。晩夏が、化け術を用いてチェンジした姿だ。
 晩夏は消失したのではない。大鴉変化による隠密力により木々の間に紛れ、機動力を発揮して敵に素早く接近したのだ。
 飛翔していれば、地面はおろか、木々を揺らされても問題はない。
 首尾よく面妖達の頭上を取った晩夏は、変身を解くと、そのまま、拳を固めた。
「狐様、力を貸してくれ!」
 晩夏の願いに、狐様は答えてくれた。腕に霊力が満ちるのを感じる。ならば己が為すべきは、この拳で面妖達をぶん殴ることのみ!
「ここはお前らのいるべき場所じゃないぜ!」
 吹き飛ぶ面妖達に、晩夏がそう宣言した。
 しかし、その背後に、音もなく迫る敵影。
 ひときわ大きな樹木の影から晩夏を狙っていた面妖を、水弾が直撃した。
『!?!?』
 その威力は、正しく面妖に作用した。
 水による衝撃・爆発が、白面を妖気の粒子に変えて消滅させる。射手は、味方を援護すべく動いていた冰夷だ。
 そして、冰夷の√能力がもたらすのは、敵の破壊のみではない。はじけた水滴は、味方たる晩夏へと新たな加護をも与えたのだ。
 晩夏と息を合わせ、面妖達を蹴散らしていく冰夷。
 数では、冰蝦達の方が劣る。だが、どちらが優勢かと言われれば、冰夷達の方であることは、明白だった。
 思うように攻勢を強められぬのは、晩夏だけでなく、それをサポートする冰夷がいるため。
 そう判断した面妖達は、まずは冰夷を仕留める策に出た。
『奇奇奇ーッッ!!』
 森を震撼させる、奇怪なる叫び声。
 それは、単に空気を振動させるのではなく、特定の存在のみを揺るがすように作用した。すなわち、標的である冰夷を。
「おっと」
 もっとも、それは、冰夷も織り込み済だ。とっさに手持ちの傘を広げて、受け流す。
 当然、たやすい芸当ではない。それでも、心構えが出来ていれば、耐えることはそう難しいことではない。
 徐々に震度を上げていく面妖だが、それが最高潮を迎えるより先に、白面を一閃が貫いた。水粒子を用いたレーザー射撃。
 冰夷の用いる√能力自体は同じ。しかし、それを応用させて、敵群を駆逐していく。
「それにしても、数が多いですね」
 新たに飛び掛かってくる敵の目を、傘の石突で潰しながら、冰夷は平然と言ってのけるのだった。

百々箇手・炬

『奇ィーッ』
 聞くものに怖気を走らせる怪音が、森に響く。
 声の主は、白面の猿。『面妖』と呼ばれし申が、人間を求めて森を行く。全ては鬼獄卒の意志のまま。妖怪に悪しき影響を及ぼす人間を殺戮するため。
「話を聞けば聞くほど今の世界と反りが合わねぇ奴だな。誰かが傷つく前に駆けつけられて良かったぜ」
『!』
 木々を軽快に渡っていた面妖達が、しゅた、と足を止める。
 鬱蒼とした木々の間、闇の中より現れたのは、百々箇手・炬(獣妖「大ムカデ」の|載霊禍祓士《さいれいまがばらいし》・h00368)。
「よぉ、早速で悪いが回れ右してそのまま帰れ。帰らねぇなら、俺がぶっ飛ばしてやる」
『宇奇ッ』
 炬の不敵な発言に、面妖が笑った。白面を歪めて。
「あ、今無理だろとか思ったろ? まあ確かに少し話を盛っちまったとは思うぜ。でもな」
 炬の瞳が、闘気を帯びる。
「いくら俺のタッパが小せぇからって簡単に勝てると思うなよ」
『宇宇宇ーッ』
 やれるものならやってみろ。
 面妖達が、炬の無謀をあざ笑うように、変貌を始めた。
 黒き肉体が膨張、倍加を遂げると、その手に如意棒を生み出す。大猿の誕生だ。
「デカくなろうが武器を持とうが」
 炬は、卒塔婆を構えた。
「当たらなきゃ意味ないよな?」
 向かい来る大猿の如意棒を迎え撃つように、卒塔婆を繰り出す。
 だが、炬が叩いたのは、なんという事のないただの地面。
『奇奇奇ッ!』
 おいおい、冗談だろう?
 大猿は、今度も失笑をこらえなかった。もし攻撃中でなければ、そしてもし手に何も持っていなければ、炬の無様を、両手を叩いて笑っていたに違いない。
 そして、如意棒が来る。炬の身体をくの字に折り、心も命も折るために……。
『!?!?』
 外れた。
 如意棒は、地面どころかただただ虚空を薙いだだけ。
 なぜなら大猿達は、今や炬の掌の上。気づけばこの場は、妖気と霊気入り乱れる、載霊無法地帯。
 さっきの空振りは偶然だ! そう弁解するように、別の大猿が、再び炬を狙う。
 だが、炬が軽くステップしただけで、如意棒はその意志に反して、大木を打つ。
めり込んだ如意棒を引き抜く間もなく、面妖の巨躯を、毒の弾丸が撃ち抜いた。
「こいつは俺を舐めてかかった報いってやつだぜ」
 相手が手間取っている隙に、炬は卒塔婆とポイズンシューターを自在に駆使して、大猿達を仕留めていったのだった。

第2章 冒険 『落石注意』


「うぬう、よもや√能力者が待ち受けていようとは」
 鬼獄卒『石蕗中将』が、鬼の形相の中に、焦りをにじませた。
 惨憺たる現状……配下である『面妖・申』達がことごとく退治された状況を前にして。
「貴様らなど我の相手ではないが、そうした慢心こそが申どもの敗因ともいえよう。ならば」
 中将は、外套を翻した。逃走したのだ。
 否、ただ逃げ出したわけではない。印を結び、何やら呪文のようなものを唱えると、周囲に岩石を召喚したのだ。
 鬼面めいた顔を刻まれた岩石群が、自在に飛び回り、追跡の足を阻む。
「臆病者と笑うか。だが、封印を解かれたこの機を無駄にはできぬのでな。さらば!」
 岩石に後の雑事を任せるように、森の闇に紛れる中将。
 当然、「はいそうですか」と見逃すわけにはいかない。
 鬼面岩石群を突破し、敵を追走。森の奥、√妖怪百鬼夜行につながる『扉』へと、石蕗中将を誘導するのだ。幸い、星詠みから『扉』の場所は聞いている。
 さあ、鬼ごっこの始まりだ。
東風・飛梅

 √EDENの理を乱す、悪しき妖風を鎮めるように。今また梅の風が吹き渡る。
 颯爽と現れた東風・飛梅(あるじを想う霊木・h00141)は、『石蕗中将』を瞳に映す。
 が、直視を遮ったのは、飛来した岩石群であった。
「あら」
 錯覚か、ニヤリと岩が笑ったような。そんな飛梅の視界、木々を押しのけ飛来するは、『石蕗中将』の用意した罠だ。
 幸い、敵の気配は捉えたまま。見失わぬよう、かつ、敵を『扉』へと追い込まねばならぬ。
「鬼ごっこ、って言うのがまさにふさわしいかしら」
 鬼が追われる側であるのは、皮肉なものだ。
 石蕗中将が、逃げおおせた後の事を考えている一方で、飛梅もまた、敵を追い詰めた後の事を考えていた。
「√妖怪百鬼夜行へ追い込まないといけないわけだけれど、そうすると、向こうにいるあるじ様のことが少し心配ね」
 出来るだけ巻き込まないようにしたいと、飛梅は案ずる。
 とはいえ、敵を封印するためには、|√妖怪百鬼夜行《むこうのルート》にゆかねばならぬ。その前提がある以上、飛梅としても、追撃の手を緩めるつもりはなかった。
「人妖め。こんな時でなければ誅殺してやるものを」
 駆ける石蕗中将が、恨み節と共に、追加の岩を飛梅へと差し向けた。
 この場所の本来の『住人』、すなわち木々を破壊する権利など、悪しき古妖にあるものか。
 梅の香に後押しされて、石蕗中将を追いかける飛梅。
 そこへ迫りくる鬼面岩石。まさか自爆したりはしないだろうが、君子危うきに近寄らずともいう。
 無理に打ち返すことはせず、ひたすらにかわし、かわして、かわし続ける。
 速力は三倍。それ以外も三倍だ。岩の軌道を見切り、木々を切り抜け、軽やかに前進。
 しかし、古妖とは意地の悪いものだ。石蕗中将が背後の飛梅を一瞥すると、岩の速度が変化した。飛梅のリズムを崩し、直撃コースを描く。
 今、飛梅の足は地面から離れている。滞空中ゆえ、急な方向転換は不可能……。
 ではなかった。
「……小癪な!」
 思わず石蕗中将も振り返り、声を上げた。
 飛梅は、虚空を蹴り、速度を上げて鬼面岩石を回避したのだ。
「簡単に逃げきれると思わないでね、中将さん」
「ぐぬ……!」
 飛梅の言葉を受けて、鬼さんこちら、などとからかう余裕など一切なく。
 石蕗中将はその顔に、醜悪な苛立ちを浮かべたのだった。

赤神・晩夏

「待てーっ!」
「待つものか!」
 逃走者は『石蕗中将』、追跡者は赤神・晩夏 (狐道を往く・h01231)。
 鬼を捕らえる鬼ごっこ。場所が鬱蒼とした森の中とあればいささか神秘的ではあるが、しかしそんな情緒もこの際、無縁か。
「逃げるなんて卑怯な! けど確実に追い詰めてるって証拠だよな」
 そう、敵に十分な勝算があるなら、実力行使でねじ伏せてくる事もできるはずだ。
 どうせならこのまま『扉』の所まで追い立てちまおう、晩夏は、思い切りよく踏み込んだ。
 跳躍と共に、大鴉へと【リアルタイムどろんチェンジ】!
 この姿ならば機敏さは十分、飛翔能力で険しい道も多少は無視して楽が出来る。
「あとは突き進むだけ……って」
 単純な速力勝負ならば、話も早かった。しかしあいにくと相手は古妖。そしてこの遊戯には、ルールもへったくれもあったものではないわけで。
 晩夏に迫りくるのは、岩。召喚されし岩の群れ。
「よく見たらめっちゃ怖い顔してる!」
 石蕗中将並みの強面で威圧してくる岩達。
『ニヤリ』
「い、今笑った? あの岩、もしかしてあれも古妖なのか!?」
 普通の岩と違い、重力に従って動くだけではなく、動き自体も不規則。√能力を使ってこないだけマシと考えるべきか。
 自在度の増した鬼岩をかわすため、晩夏の速度はどうしても落ちる。少しばかり中将との距離も開いたようだ。
「|こ《カラス》の状態だと岩を押し返したりは無理だろうしな……ぺしゃんこにされないよう気を付けないと」
 しかし、厄介ばかりではない。岩が古妖の類だというのなら、ただの岩には使えない対処法も使えるということ。
「これでも喰らえ!」
 ぶわっ!
 羽ばたく晩夏と鬼岩の間に、突如、煙が現れた。晩夏の振りまいた『どろん煙幕』だ。
 普通の岩なら、慣性に従い落下、あるいは飛ぶだけだが、これらは妖に近い存在。
 晩夏の読みは見事的中し、岩群は困惑の表情とともに、動きを乱した。
 まんまと撹乱された鬼岩達の間を、俊敏に切り抜け、石蕗中将を追撃する晩夏。
「アレを突破したのか? ただの岩ではないのだぞ」
 思いのほか早く距離を詰められたことに驚いた中将は、その足を速めた。
 しかし、大鴉はそれを逃さない。
「さあ、あとは扉まで鬼ごっこだぜ! 負けないからな!」
 鬼とカラス……そこに岩も交えた追走劇は、しばし続いたのだった。

百々箇手・炬

 悪いヤツを追いかけるのも、ヒーローの使命。
 百々箇手・炬(獣妖「大ムカデ」の|載霊禍祓士《さいれいまがばらいし》・h00368)は、森を駆けていた。標的はもちろん、『石蕗中将』の追走。
「あの野郎逃げやがった。逃げるなら追いかけるだけだ」
 √妖怪百鬼夜行への『扉』のあるポイントを念頭に置きつつ、敵の気配を探っていた炬は、すぐに敵を視界に収めた。
「ち、また追っ手か」
「そう簡単に逃げられると思うなよ。俺たちはしつこいんだからな」
 刹那こちらを振り返り、舌打ちを漏らす石蕗中将に、不敵ワードを投じる炬。
「人間と馴れ合い堕落した妖怪如きに、我が捕まると思うな!」
 中将が、足を止めぬまま、掌をこちらに向けた。
 歪んだ景色の中から出現したのは、視界と行く手を遮る岩の群れ。
『ツブシテヤルゼ』
「今喋ったか? 喋ったよな?」
 喋る岩。これもまた妖怪……中将に従う古妖の類か。
 鬼の顔をした岩が、炬に襲い掛かる。ただの投石や落石と違い、多少は動きをコントロールしてくるようだ。結局は炬にぶつかってくるとしても、ふらふら動かれれば厄介。
 そもそも、襲い来る岩を、律儀に全部砕いていたらキリがない。
「悪いな」
 謝罪1つ。炬は、森の木を盾にした。
 わざわざ木に衝突するのは御免被りたいのか、岩の側も、木を避けて飛ぶものだから、炬への狙いは自然と甘くなった。
 それどころか、急に進路を変更したせいで、岩同士での激突が発生する。
 ギャッ、という岩らしからぬ……『岩らしい』という概念がこの際不明だが……悲鳴と共に、一部砕けて落下する。
「考えたくねぇけど、当たったら絶対痛いぞ」
 岩同士の衝突事故を目の当たりにして、炬はほんのり身震いした。
 |元《ムカデ》の姿を取っていれば、もう少し走りやすい……そんな考えが、不意に炬の脳裏をよぎる。
「いや、どっかしら押し潰されそうだな。人型でよかったかもしれねぇ」
 ベターな選択。
 手荒いもてなしをしてくる岩の群れを切り抜けつつ、石蕗中将を追い立てる炬。その方向は『扉』。仲間達が動いていた方も参考に、逐一ずれを修正しながらの追跡行。
「くっ、全く鬱陶しい事よ……!」
 炬を振りきる事ばかりに気を取られているためか。
 石蕗中将は、自分が元の世界へと目前まで追い込まれていることに、気を回す余裕はないようだった。

第3章 ボス戦 『大妖『荒覇吐童子』』


 もうすぐ√能力者達を振り切れる……!
 逃走を続けた『石蕗中将』の行く手に、しかし待っていたのは、鳥居型をした『扉』だった。
「まさか、我を送り返すのが目的……!」
 気づいた時にはもう遅い。中将を押し込み、『扉』を抜けた先。
 空気が変わる。√妖怪百鬼夜行へと足を踏みいれた証だ。
 景色こそ、先ほどまでと似た森の中。しかし、明確に異なるのは、祠の存在。これが石蕗中将が封印されていたという祠だろう。
「再封印を施すつもりか。我……『俺様』を調伏する事など無理とわかっているってわけじゃねえか。お利口さんだな。カカカッ!」
 突然、石蕗中将が笑いだした。
 その口調、声質が変じたかと思うと、体までもが内側から膨張を始めた。
 軍服と鬼の皮を破り、脱ぎ捨てて現れたのは、全く別の鬼であった。
「驚いたか? 『コイツ』の姿と在り様は何かと便利だから化けていたが、封印されるのは御免だからな。ちぃとばかり本気を出してやるよ」
 大妖『荒覇吐童子』!
 化術を解いたことで、石蕗中将をも凌駕する妖気が、森を侵食し始める。
「この√に俺様を送還したのが運の尽き。ここでなら存分に力を奮えるからなア!」
 真なる大妖の顕現。だが、関係ない。
 ここで古妖を制し、再び祠へと封印するのだ……!
東風・飛梅

 これも√能力者の実力を認めた証。
 正体を現した古妖に、東風・飛梅(あるじを想う霊木・h00141)は静かに語り掛けた。
「それがあなたの本当の姿、というわけね。さすが古妖、化けるのもお手の物ってことかしら?」
「まあなァ。手を抜いて封印されたんじゃア、間抜けもいいところだろ?」
 終始渋い顔で、何処か余裕のない様子であった『石蕗中将』とはうってかわって、『荒覇吐童子』はおどけてみせる。
「でも、あなたが姿を偽ろうと、そうでなかろうと、関係ない。いずれにしても、私の拳と、みんなの力があなたを打ち倒すことに変わりはないのだから」
「おぉ、怖い怖い。化けた姿のあの鬼なら、それも容易かろうよ。だが、俺様は格が違う」
 口ばかり達者かと思いきや、実際、先ほどまでとは違う。
 隙だらけに見えて油断はなく、飛梅の実力を推し量るようなまなざしを注いでいる。
 強敵だ。
「俺様はせっかちなんでな、少しは楽しませてくれよ」
 先に仕掛けたのは、童子だった。
 五爪が瞬時に伸長し、凶器へと変ずる。禍々しきそれは、既に数多の血に塗れ、無念の色をたたえていた。
「古妖の名は伊達じゃねぇ。人だろうが妖だろうが、目に映る者皆屠ってきたからなァ!」
 爪の色の由来語りとともに、童子が飛梅を八つ裂きにかかる。
「その技、構造を熟知していると解体をできるらしいけれど、あなたは梅の木の妖には会ったことがあるのかしら? もしそうなのだとしたら、物知りね」
 飛梅に爪撃が至る直前、荒覇吐童子の表情が歪んだ。
「この匂いは……!」
 飛梅のまとう梅の香りに気づいた時には、幻惑の領域に踏み込んだ後だ。振り払うには暇が足りぬ。
 精神を惑わされた童子の爪の狙いが、わずかに鈍る。わずか、で済んだのはさすが大妖、というところか。
 しかし、その刹那に等しいブレが、この戦いにおいては致命的な隙だった。
「な……!」
 童子の巨躯に突き刺さったのは、飛梅の拳。そこに憎しみはない、ただ愛のみをこめた鉄拳が、連撃という形をとって、童子に届けられた。
 ずざざっ、と土煙を上げて、後退した童子が、飛梅を睨む。
「いい拳持ってるなァ、梅の木よ……こんな一撃は初めてだ」
「知らないようなら教えてあげるわ」
 巨躯をくの字に折り、威力を素直に称賛する荒覇吐童子に、飛梅は告げた。凛然と。
「梅の香が、人も妖も心震わせることを」

百々箇手・炬

 √妖怪百鬼夜行へと戦場を移した百々箇手・炬(獣妖「大ムカデ」の|載霊禍祓士《さいれいまがばらいし》・h00368)は、敵との『再会』を果たしていた。
「あれ? お前、そんなツラだったか? 背中ばかり見てたから一瞬誰だかわからなかったぜ」
「はッ、あんな恰好なんざ仮初よ。俺様の今の姿だけ覚えてりゃあいいのさ。まッ、覚えたところですぐにテメエは無に帰するわけだがなァ」
 炬と荒覇吐童子、軽口と軽口が、見えざる火花を散らす。
 やがてそれは、可視の激突へと発展する。
「さあ、八つ裂きにしてやろう。いや、拳でぶっ潰してやるのが似合いか?」
「どっちも御免だ。それと、言っとくけどな」
 返答と共に、炬はポイズンシューターのトリガーを引いた。
「|俺《ムカデ》は絶対に退かねぇ。真正面からぶつかってやる」
 撃ち出された毒弾が、童子を狙う。
「ふん、百足特製の妖毒ってわけか。それなら古妖にも通じるかもなァ」
 余裕をのぞかせながら、射撃を回避する童子。
「ははッ、見えてるぜ」
 それはブラフ、ではない。
 童子の片腕に、電子回路めいた模様……血管が浮かび上がり、炎に包まれる。
 既に敵の√能力は発現していて、今まさに、炬はそれを相手にしているのだ。
 だが、それも作戦のうち。敵の力を引き出させ、相手が突っ込んでくるだけの隙をわざと作る。
「『隙』だらけなんだよ、百足の!」
「そう、俺はムカデだ。わかってるじゃねえか」
 めりめりっ、と怪音が、森に響く。
「なるほど、俺様と同じ、化けたってわけかよ」
 童子の双眸には、異形が映っていた。
 10本の腕、4つの頭部。まさにこれぞ妖怪変化。
 その力は、すぐさま発揮された。増殖した腕と、頑強すぎる卒塔婆で、童子の拳を受ける。
 激突は、妖気の火花を散らして行われた。鬼腕の炎を散らし、威力をしのぐ炬。
 相手の怪力を押しのけると、童子の間合い、その更に内側へと、強引に入り込む。
 一本、また一本と、炬の腕が、童子の自由を奪うべく拘束していく。
「ちッ、厄介な獣妖よ……!」
 完全に組み付いた炬は、いよいよ『メインディッシュ』に移った。
 喰らう。開いた大顎で、童子を捕食する。
 ぺっ、と吐いた血とともに、鬼の肉片が地面に転がる。
「あぁ、全然美味くねぇ。婆のくれる飯のがよっぽど美味ぇや」
 自身のAnkerを引き合いに出しながら、炬は古妖の『食レポ』としたのだった。

赤神・晩夏
八雲・綴

「ありゃ、石蕗中将が現れたって聞いてたけれど、まさか化けた荒覇吐童子サンだったとは」
 飄々とした口調と共に、木々の間から現れたのは、八雲・綴(遊糸・h03212)。
「こいつはまた場違いなヤツが来たようだな? その本でも読んで日向ぼっこでもしてな。まッ、俺様とまみえた以上、二度とそんな真似は出来ゃしないがな」
 綴の手にしたもの……本を見て、童子は、残虐さを乗せた笑みを浮かべた。
 赤神・晩夏(狐道を往く・h01231)達が追い詰めた古妖は、その姿も気配も、妖気の質さえも変じていたのだ。
「姿まで誤魔化してたのか。どこまでも卑怯なヤツだな」
「まァ恨まれようが、『アイツ』の所業って事にしちまえるからなァ」
 石蕗中将本人が聞いたら憤慨しそうな事を、さらりと言ってのける『荒覇吐童子』。
「濡れ衣もいいところだ。だけどここまで追い詰めたならあと一歩。再封印させてもらうぜ!」
「はッ、狐憑きと人妖如きに、させるものかよ!」
 晩夏達と、童子の決戦の火ぶたが切られた。
 晩夏の背後から、糸が繰り出される。綴の書物……|蜘蛛の教典《くものひみつ》が糸へとほどけ、悪鬼古妖を滅する『刃』となる。
 紡がれる物語に乗せて飛来する糸を、童子は難なくかわしてみせる……はずが、腕から血しぶきが上がる。
「なんだこいつは。避けたはずだぜェ?」
 はっ、と童子は気づきを得た。周囲が森ではなく、不思議な空間へと書き換えられていることに。
「なるほどなァ、本好きは伊達じゃねェってわけか」
 【|千夜八千夜物語《ニゲバナシ》】。
 扉はおろか窓1つない応接間へと、童子は案内されていたのだ。
「ほらほら、どうしたんですぅ? ご自慢の格闘術で攻撃してくださらないんですかぁ?」
 盛大に煽る案内人・綴。必中の糸を操ってみせながらも、言葉は止まらぬ。
「このままだと為す術なく綴サンたちに封印されちゃいますよぉ?」
「調子に乗るなよ絡新婦。先に八つ裂きにしてやってもいいんだぜ」
 綴の挑発を真に受け、怒りを露わにする童子。
 だが、決して我を忘れる事はなく、綴へと鬼爪を閃かせた。妖だろうと、人の姿をしているのなら分解のやり方は熟知していよう。
 しかしそれでも、爪の先すらも、綴に届くことはない。
「よし、今のうちに。行くぜ狐様!」
 こーん。
 鳴き声が森に木霊したかと思うと、晩夏の姿に、霊験あらたかなる狐のそれが重なった。
 完全に融合を果たした両者は、童子をも見下ろす巨大なる狐の姿へと転じた。
「おうおう、でかくなりやがって。けどな、図体のでかさが妖力の高さってわけじゃねェ。むしろ的がでかくなってくれて助かるぜ」
 童子の指摘は正しい。
 だが、それは晩夏も承知している。ただでさえ、童子の攻撃の精度は高い。どうせ喰らうのであれば、反撃に有効な姿を取るのが次善の策。
 狐化した晩夏に、視線を送る綴。
「ボクは反撃を成功させないことに注力するから、怪我の心配はしないで遠慮なく戦ってくれ」
 綴の意図をくんだ晩夏は、自身の作戦を伝えた。
 ならば、綴は、それに合わせて童子の動きをコントロールしてみせるまで。
 相手を単純に封殺するよりは難度が高いが、やってやれないことはない。綴は、胡散臭い笑みの中に、やる気をひそませた。
「狐よ! ただでかくなるほど頭は悪くないンだろう? 俺様の拳をたっぷり喰らいやがれ」
 荒覇吐童子が、戦闘態勢を取った。鬼に伝わる古武術の構え。
 繰り出された拳が、晩夏をかすめる。それだけで、狐の身体に緋色の線が走る。
「まだまだァ!」
 回し蹴りが、晩夏の腹を打つ。直前に体を引いたものの、威力の全てまでは回避できなかった。
「一発入ったなァ。お仲間の糸にゃあ邪魔されんぜ」
 蹴りの勢いを活かしてそのまま跳躍すると、両手を組み合わせ、叩きつける。
 直撃を避けようとした晩夏だったが、その後ろ脚をやられた。
 しかし、肉を切らせて骨を切る、ともいう。相手が次々と技を繰り出せば、その分、疲労は加算されていく。
 そして、持久戦なら、今の晩夏に分がある。綴の援護もあり、致命傷は一つもない。
 獣の四肢を武器として、童子に抗う晩夏。攻撃を最大の防御とした童子は、構わずそれを受けて前進。
 劣勢なのは晩夏の方。蓄積したダメージが、動きを鈍化させる。その隙をついた童子が、必殺の掌底を浴びせた。
「ふん、終いだ」
 勝利を確信し、倒れ伏す晩夏ばかりに意識を向けていたのが、童子の失策だった。
 死角から飛んできた綴の糸が、童子の鬼腕を斬り飛ばしたのだ。
「なッ……!」
 これには、さしもの大妖も色を失った。鬼の顔に脂汗じみたものが浮かぶ。
 くるくる、宙を舞う腕を見て、綴は笑みを深くした。そして、晩夏へと首肯する。
「あとは存分に」
「ダメージコントロール、助かったよ」
 腕を失い、たたらを踏んだ童子の後ろ、狙い通り蘇生を果たした晩夏の双眸が光を放つ。
「これは……ッ」
 空間ごと全身を引き寄せられる童子。その胸に、晩夏のカウンターが炸裂したのだった。

「こいつは、ちぃとばかり調子に乗りすぎたかァ? ハハッ、あばよ……『次』はこうはゆかんぞ」
 笑みを消し、荒覇吐童子が呪詛を吐いた直後、祠が輝いた。
 光は童子を呑みこむと、祠へとその身を閉じ込め……収まった。森に訪れる静寂が、再封印完了の証。
 かくして、無事役目を果たした√能力者達は、踵を返す。それぞれのいるべき|場所《ルート》へと帰っていくのだ。

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