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Let's go on an Adventure!

#√ドラゴンファンタジー #冒険王国『カーネリアル』

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 #√ドラゴンファンタジー
 #冒険王国『カーネリアル』

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   さぁ、一歩踏み出し給え 冒険の始まりはいつだって キミたち次第だ



●新たなる冒険の始まり

 ここは冒険王国『カーネリアル』の辺境に位置する街『イニティス』
 特筆すべき特産物も名所も無く、人口流出が危ぶまれる片田舎でしか無かったその街はある日を境に大きくその運命を変える事となった。

 その傍らに存在する森林――それが鳴動したのだ。一説によれば局所的に発生した地震の影響を受けた地殻変動。また、一説によれば長く降り注いだ大雨による土砂崩れ。様々な諸因が飛び交ったが、兎に角して突如ダンジョンが出現したのだ。

 これに際して王国は執政官を派遣し、ダンジョンを一時的に統治下に置くと調査を行う為に王国への許可申請を条件に一般冒険者に対してダンジョンの解放を宣言。これにより各地から財宝、または名声、或いは浪漫を求めた冒険者たちが集まり田舎街『イニティス』は俄かに活気に包まれたのだ。

 ダンジョンの調査の進展も、田舎街イニティスの発展もその全ては冒険者たちの行動に掛かっている。今、此処に白紙の冒険譚の頁が開かれた。


●一歩、踏み出す時

 「どうも皆さん。お集まり頂きありがとうございます」
 
 集まったEDENたちを前に星詠みの椎帆は朗らかな笑みを携えたままそう簡単に礼を述べる。そしてわざとらしくコホンと咳払いをするとそのままの調子で言葉を続けた。

 「えー、今回の仕事の内容は端的に言えば皆さんに新人冒険者パーティの護衛をしつつ、ダンジョン攻略に関しての教育をして貰う事になります。もちろん、自身がダンジョン攻略の経験が無ければ新人の方と一緒に勉強に励んでもいいかもしれませんね」

 出現したダンジョンは地下へ地下へと続く階層型のダンジョン。簡易的に行われた調査により浅い階層であれば新人にとってもそこまで脅威でない事は判明している。然し、万が一という事もあるし、引き際を誤った新人が深部まで入り込んでしまうといった事も予知されている為、その様な事態を防ぐ為に今回の処置が取られたのだと椎帆は流暢に説明を続ける。

「王国としてもダンジョンの調査を行える貴重な冒険者はどれだけいても困りませんからね。このダンジョンを切っ掛けにイニティスの発展。ひいては国の発展の為にも王国は今回の事に力を入れていきたいみたいです。そういう意味では新人たちを教育するEDENの皆さんへの協力も惜しまないんじゃないでしょうか」

 例えば、たんまり報酬を……と言い掛けた椎帆はコホンと咳払いをする。

「それで新人冒険者たちについては三段階に分けての教育を行ってください。まずは街での座学。それが終われば実際にダンジョンに入っての実演。そして最終目標はダンジョン上層のボスモンスターの討伐です。今回はダンジョンの調査も兼ねているので最終目標さえ達成して頂ければその他についてはある程度自由にして頂いて問題ありません」

 説明を終えた椎帆はどこかソワソワした表情を浮かべていた。未知のダンジョンの出現。その事実が冒険者の端くれである彼女の心を刺激したのだろう。もしかすると、その話を聞いていたEDENの中にも彼女と同じような気持ちを抱いた者がいるかもしれない。

「やっぱり、こういうのってなんだかワクワクしちゃいますよね。冒険者としてお宝の匂い……ではなく! 好奇心が疼きますね! ともあれ、現地で皆さんの事を待っている人たちがいます。どうか、彼らの事をよろしくお願いしますね」

 
 ――さぁ、踏み出し給え
 ――これは紛れも無い
 ――キミたち自身の冒険の始まりでもあるのだから
 

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第1章 日常 『お茶会で冒険譚を披露しよう』


 冒険王国の辺境。片田舎の街イニティスに足を踏み入れれば賑やかな雑踏がキミたちを歓迎するだろう。往来には冒険者らしき人々が闊歩し、王国より派遣された職員らしき姿も多く見受けられる。街の通りはダンジョンの噂を聞き付けてやってきた行商人たちが露店を開き、まるで祭りかのような賑わいを見せている。その他にも急ごしらえで建てられた宿屋や酒場が立ち並ぶその様子はきっと片田舎の名は不釣り合いだと思えるだろう。

 そんな賑わいを見せる街の酒場を兼ねた食堂のオープンテラスで4人の新人冒険者たちがキミたちを待っていた。

「あっ! 今回、指導をしてくれる人たちっスね! よろしくお願いします!」
「えっと……よろしくお願いします?」
「どうも、おじさんこう見えて新人なんだ。お手柔らかに頼むよ」
「貴殿らが私の師となる者たちか――よろしく頼む」

 それぞれがそれぞれの事情で冒険者を目指す新人たちに誘われ、キミたちは食堂の席に座る。早速、彼らに指導を行っても良いし、食事を摘まみながら談笑を交して親交を深めるのもいいだろう。冒険とは必ず、出会いから始まるものなのだから。
エレノール・ムーンレイカー
アダルヘルム・エーレンライヒ

 イニティスの街の東側から昇る太陽が空の頂点を目指してゆっくりと昇っている。燦々と降り注ぐ日光に照らされた食堂のオープンテラスの一席で肌を撫でる心地よい風にエレノール・ムーンレイカー (蒼月の守護者・h05517)は微笑みを浮かべていた。その視線の先……テーブルの対面となる席にはそれぞれ一癖も二癖もありそうな4人の新人冒険者が座っている。そしてエレノールがふと視線を横へと向ければ、長身を褪せた砂色の外套で包んだアダルヘルム・エーレンライヒ (余花を夢む・h05820)がやって来たかと思えば、エレノールや新人冒険者たちに軽く会釈を行いそのまま口を固く閉ざしたままテーブルの端の席へと座る。そんなアダルヘルムの赤い瞳とエレノールの琥珀色の瞳の視線が交差すると、アダルヘルムは言葉を発さぬまま、エレノールに話を進めてくれと言わんばかりに小さく頷いた。そんな彼の意図を受け取ったエレノールは小さく頷き返すと改めて新人冒険者たちへと向き直る。

「さて、皆さん準備も出来た様ですし座学を始めましょうか。そうですね……まずは自己紹介から始めましょうか」

 そうエレノールが切り出すと同時に事前に彼女が注文していた軽食が給仕によってテーブルの上へと並べられる。小皿に盛られた焼きたてのソーセージからはその皮を破って黄金色の肉汁が零れ、添え物のハーブが香しい香りを放っており、採れたてのジャガイモを三日月の形に切り取ったきつね色のポテトフライはほくほくと湯けむりを漂わせている。銅のコップに注がれた森の天然水は陽を受け宝石の様にキラキラと輝いていた。ゴクリと喉を鳴らす新人たちを前にエレノールはニッコリと笑みを浮かべたまま、彼らの顔を見回していた。

「せっかくですので食卓を囲んで親睦を深めるとしましょう。……と、すみません。まずはこちらからしなくてはなりませんね。私はエレノール・ムーンレイカー……えっと、そちらの方は――」

 エレノールの視線、それに追従する様に新人たちの視線が一斉にアダルヘルムへと向けられる。そんな突然の事にアダルヘルムは困惑する様に眉を顰めるが、すぐに観念したように小さく息を吐くとその鋭い視線を新人たちへと向ける。

「……俺はアダルヘルム。アダルヘルム・エーレンライヒだ」

 そうとだけ短く答えるとアダルヘルムは再び固くその口を閉ざしてしまったが、その自己紹介を受けエレノールは満足そうに頷き、そして今度は新人たちへ自身の自己紹介を促した。

「はい! まずは俺、朝霧タイガ! 一応、屠竜騎士やらせて貰ってます!」
「えっと……私は静夜リンです。神聖祈祷師の事でしたら基本的な事はやれる……と思います」
「それじゃ、次は僕だね。灰谷コロウ、今はただの無職だけど、格闘者として頑張らせて貰おうと思ってるよ」
「そして真打はこの私……エミリア・クロノワールだ。何を隠そうこの私は……いや、長々と語る事ではないな」
「あの……エミリアさん? これ、自己紹介なんで……」
「…………」

 ちょっとした紆余曲折はありながらもそんなやり取りは恙なく進み、各々の得意分野やパーティとしての役割などの話を交えた自己紹介が無事に纏まると最初に口を開いたのは珍しくアダルヘルムだった。まるで独り言の様に語られる重厚な彼の言葉にその場にいた全員は無意識にも耳を傾ける。

「……悪くはない。前衛に後衛、そして回復職。バランスとしては上々だ。……そうだろう?エレノール殿」
「はい、私もアダルヘルムさんと同意見です。この調子で皆さんがそれぞれの役割の理解を深めて行けば良い連携が取れる筈です。ダンジョンでは互いを理解しているかどうかが、生死を分ける事もありますからね」

 そうして自己紹介を終えると話題は本題への座学へと移り変わる。まず先陣を切るのはエレノール。水で喉を潤し、コホンと咳払いをして教鞭を執るエレノールをアダルヘルムが遠くから静かにその様子を伺っている。エレノールがまず新人たちに教えるのはダンジョンの基本中の基本。ダンジョンの歩き方や考えうる罠の種類、その解除方などを初心者向けに分かりやすく噛み砕きながら説明していく。基本を軸に置いたその説明は新人たちにとっても取っ付きやすかったのだろうか軽い質疑応答も挟んでその反応はとても良く、その全員がエレノールの説明に耳を傾けている。

「これはあくまで初歩的な事ですので時には更に工夫などが必要になる場合もありますが、この基本の知識が必ず皆さんの力となりますので絶対に忘れないでくださいね。そして私が特に大事にしている事……皆さんに大事にして欲しい事は“無事に帰ることを最優先に考えろ”という事です」
 
 そう語るエレノールの口調は先ほどまでと比べると少し強く感じられた。それこそがエレノールが新人たちにこれだけは絶対に覚えておいて欲しいという気持ちの表れだ。

「無事に帰る事……ですか」

 ずっと熱心に話を聞いていたタイガがエレノールのその真剣な眼差しに思わず同じ言葉を返していた。そんなタイガにエレノールは朗らかな視線で返答する。

「というのも、新人ほど『まだ行ける』と引き際を誤りがちだからです。実際に私も駆け出しの頃にはそういった無茶をして危険な目に遭った事が何度もありました」

 そう語るエレノールの脳裏にはいつかの懐かしい記憶が朧げに浮かんでは消えていた。今から凡そ4年前……16歳の頃だろうか?駆け出しの冒険者だった頃の自分の姿が目の前の彼等とどこか重なる様な気がした。だからこそ、エレノールは自分にも言い聞かせる様にして『どこで退くか』の判断の重大さを新人たちへと教えるのだった。

「無事でさえあれば、例え目的を達成できなくてもまた挑戦する事ができますからね。――そうですよね、アダルヘルムさん?」

 不意にそう問われたアダルヘルムの口元には微かに不敵な笑みが浮かんでいた。エレノールのその言葉は戦場で狂気に侵された様に捨て身で戦い続ける彼にとっては耳が痛い内容であったからだ。だからこそアダルヘルムはエレノールの言葉が恐ろしい程に正しい事を知っていた。己を顧みない生き方の末路は破滅しかない事を知っていた。

「ああ、その通りだ。エレノール殿の言葉をその胸に刻んでおけ。後悔したく無かったらな」
「ありがとうございますアダルヘルムさん。では、次の座学をお願いできますか?」
「……こういうのは柄じゃないが、仕事として引き受けたからにしっかりやらせて貰うさ」

 エレノールから促され、アダルヘルムはゆっくりと席を立った。そしてゆっくりとした足取りで新人たちへと近づくと彼らが座るテーブルの上におもむろに取り出した地図や携帯食。薬品などを広げてみせた。

「俺は教育者じゃないんでな。全員に丁寧に教えるつもりなぞ毛頭無い。興味のある奴だけが聞けばいい。……ダンジョン内で斃りたくなければの話だが」

 アダルヘルムのそんなぶっきらぼうな言葉に一瞬、緊張が奔るがそれは新人の言葉によって掻き消される。

「っす! アダルヘルムさんみたいなカッコいい歴戦の戦士の言葉を聞き逃す訳ないです!バッチリ聞いておきます!」
「ふん……やはり貴殿らは中々のやり手と見える。この私も貴殿らの言葉はこの胸に刻み、私の力の糧としよう」
「……なんでもいいが、一度しか言わん。しっかり聞いておけよ」

 そんな新人たちを尻目にアダルヘルムは淡々と言葉を続ける。テーブルの上に置かれた道具たちを指さし、ダンジョンに入る前の事前準備の重要性を説く。

「これらの道具に情報収集……探索準備は念入りにしろ。この段階で既にダンジョン攻略は始まっている。道具の品質も見極めろよ。粗悪な品と上質な品では天と地の差が……見せた方が早いか」

 呟く様に唇を僅かに動かしたかと思えば、アダルヘルムはおもむろに短剣を取り出すとその切先を自身の左手首へと走らせた。鋭い痛みが奔り、色黒の肌には紅い2本の線がじわりと浮かび上がるのをアダルヘルムは眉1つ動かさずに見ていた。そんな突然の行動にタイガとリンの2人は驚きの声を上げ、エレノールは真剣な眼差しで静かに動向を見守っていた。そしてアダルヘルムはテーブルの上の回復薬の小瓶を2瓶摘まみ上げるとその蓋を開け、中身の液体を傷に向かって振り掛ける。するとその液体に濡れた傷口は瞬く間に塞がり最初から何も無かったかの様に綺麗さっぱりと消失した。

「こっちが普通の回復薬だ。無論、この程度の傷なら普通に治る」

 淡々と言葉を続けながら、アダルヘルムはもう1つの回復薬を振り掛けた傷……治癒せずそのまま残った傷口を新人たちへと見せ付けると、空になった小瓶の片方を摘まみ上げた。

「問題はこの粗悪品だな。ちっとも治らねェだろ?無駄に痛みが伴うだけで、ただただ不快だぞ」

 回復薬に留まらず、道具は店や作り手によって品質は大きく異なっている。当然、品質によっては先ほどの実演の通りにその効果に大きな違いが出る。それを見定める為には色、状態、管理方法など細部まで観察する事が重要になるという事を淡々と告げるアダルヘルムの言葉に対し、エレノールもまた同調するようにうんうんと頷いていた。

「ええ、その通りです。私も駆け出しの頃は粗悪品を掴まされて大変な目に何度も遭いました。いざという時はそれが攻略の成否を決める事もありますし疎かにする訳にはいきませんね」
「さて、ここらへんで俺は露店に消耗品の補充にいくつもりだが実践がてらに付いて来る奴はいるか?――俺はどっちでもいいがな」

 一通りの説明を終えたアダルヘルムはテーブルの上の道具を片付けると突然そう告げた。一緒にテーブルに並べられていた軽食も既に食べ終わっているのを確認するとエレノールも席を立ちあがる。

「アダルヘルムさんの言う通り、事前の準備はダンジョン攻略の成否を大きく左右します。こういうものは実際に見てみるのが一番です。アダルヘルムさんと一緒に物資の購入に向かうとしましょう」
「実践ですね!了解です!」
「わ、分かりました……ご同行します……!」

 2人が席を立てば、新人たちも各々席を立ってその後へと続いていく。向かう先は露店の呼び込みで活気立つ街の大通り。座学で2人の説明に聞き入っていた新人たちは説明を交えて露店の店先で道具の品定めに挑戦する。2人のベテラン冒険者に見守られながら、新人たちは悪戦苦闘しながら露店を巡り歩いていく。

治部・亞比栖
彩音・レント
ルメル・グリザイユ

 食堂のオープンテラスにてEDENたちの新人教育が各々開始されている中、新人冒険者の1人である灰谷コロウは治部・亞比栖(紅玉の貴人・h00488)彩音・レント(響奏絢爛・h00166)ルメル・グリザイユ (寂滅を抱く影・h01485)の3人トリオと対面していた。2人の青年と1人の少年を前にし、新人冒険者組の中でも年長者のコロウは気まずさを紛らわす様に自身のわしゃわしゃと掻いている。

「いやぁ……まさかこの歳になってこうやって指導を受ける事になるなんてね。人生何があるか分かんないもんだなぁ……」
「まずはご機嫌よう、コロウよ。何、学びに遅いなどないのだ。我らがしっかりと講師の役目を務める故、大船に乗ったつもりでいると良い。ルメルにレント、そうであろう?」

 金髪紅瞳の少年――亞比栖が優雅に一礼すれば、名前を呼ばれたルメルとレントもコロウに対して気さくにヒラヒラと手を振った。

「もちろんだよお。キミがコロウくんだねえ? ふふ、僕たちが手取足取り教えてあげちゃうよお」
「うんうん、僕たち3人がコロウさんをご指導しちゃうよ! 大先輩の僕にドーンとお任せあれ~!」

 そんな3人に眩しそうに視線を向けるコロウは楽しそうな3人組にいつかの青春の影を見る。でもそれは過ぎた事と滲み出した陰気な雰囲気を吹き飛ばす様に亞比栖は言葉を続ける。

「さて、色々と教えたい事はあるが……コロウよ。そなたは格闘者であったな。では、まずは我が格闘技についての指南を――」
「はいはーい。格闘技のことならお任せ……ってあれ? 2人とも? なになにどうしたの? その目はなあに?」

 待ってましたと手を上げ、指導の先陣を名乗り出たルメルに亞比栖とレントは生暖かい視線を送っている。

「ふむ、その心意気は実に良い。良いのだがそなたは怪力で解決する節があるゆえに見本にはならぬ」
「なん……だと……いや、僕だって一応技術は使って……ねえ、レントくん?」

 助けを求める様に視線を向けられたレントはそんなルメルに対してニッコリと笑みを浮かべる。そんなレントの笑みにルメルもまたパァと笑顔を咲かせるがそんなルメルの希望を打ち砕く様にレントは静かに首を横に振った。そんな無慈悲な仕打ちにルメルは大袈裟にがっくりと肩を落としてみせた。

「そ、そんな……僕は…………ふむ…………いや、うん。確かにここはアビィに任せよう。うん、そうしようね」

 ルメルは少しの間、思考を巡らせるようにしていたが何かを悟ったかの様にして挙手を撤回する。そんな3人組のやり取りにコロウの口元には微かに笑みが浮かんでいる。

「いやいや、ほんと仲が良さそうでいいねぇ……大人になってからのそういう友人って貴重になってくるからなぁ……」
「ふむ、では改めて我が格闘技を指導させて貰うとしよう。時にコロウよ。そなたは格闘技にどれほど造詣があるのだろうか」
「造形……って程じゃないが、ちょっと昔は少し齧っていてね。まぁ、それなり……かな」
「基本は出来ていると考えて良いか。うむ、ならば話は早い。では此度は、鋭い攻撃と重い攻撃を使い分けについて話させて頂こう」

 そんな亞比栖の教鞭にルメルは待ってましたと合いの手を入れ、レントもまた亞比栖のその話に興味深く耳を傾けている。そんな2人を尻目に亞比栖はハッキリとした口調で分かりやすく噛み砕いた説明をコロウへと行って行く。鋭い攻撃とはつまり一瞬にて大きなダメージを与えるもの。対して、着実に攻撃を当て時間の経過と共にダメージを蓄積させていくのが重い攻撃なのだと亞比栖は語る。実際の動きがイメージしやすいように言葉を選んで解説する亞比栖に応える様にコロウもその言葉をしっかりと刻んで行く。

「ビックリするぐらい分かりやすいね。それじゃ、具体的にはどう使い分ければいいのかな」
「良い質問だ。鋭い攻撃は浮遊物……敵の部位であれば頭や腕など安定しない軽いものに使うとよかろう。攻撃を受ければ吹き飛び移動してしまうゆえにその一瞬でダメージを与える必要があるのでな。対して重い攻撃は相手の胴や軸足などに使うとよかろう」
「なるほどね……理論的でおじさんでも分かりやすい説明だったよ」
「お褒めの言葉ありがたく頂戴しよう。すべて技術には理論があり、理論は上達を速める……ゆえに座学とはいかにも重要なのだ。何事も経験だけではのうて、ぜひ理論からも修めてもらいたい。さて、一先ず我からはこれぐらいだが――」
「はーい、アビィおつかれさまあ~それじゃ、今度こそ僕の出番だねえ」

 亞比栖の隣の席でニコニコとその講義を聞いていたルメルが亞比栖が席を入れ替える為に立つと同時にずずい身を乗り出す様にしてコロウの正面へと座る。

「あっ!抜け駆けはずるいよルメルくん~」
「残念だったねえ、早い者勝ちだよお」
「はは……おじさんモテモテだね。大丈夫、おじさんは逃げないよ……」
「ふふ、それじゃそんなコロウくんの為にも僕も頑張らないとだねえ。それなら僕は……『他人との向き合い方について』教えようかなあ」

 ルメルが座学のテーマとしたそれは日常の他人との関りに留まらず、戦いの場に於いても欠かせない重要な事である事を伝える為、ルメルは言葉を続けて行く。

「まず僕が言いたいのは誰かと接するときはね、予め「干渉するのはここまで」っていう線を引いておくこと」
「線引き……ね」
「うん、そうだよお。誰かを助けたいって気持ちは分かるけどそれで無理して自分までやられちゃったら元も子もないからねえ」

 ルメルの瞳が何かを問いただすかの様にコロウの顔を覗き込む。ルメルのその言葉の意味はいざという時――もはや手に負えない状況になった時は他人を切り捨て自身が生き残る事を優先するという事だ。それは冷たく、残酷にも思えるその言葉にコロウは気まずそうに乾いた笑いを零す。だが、それでもきっとコロウはルメルのその言葉の真意、その重みに気が付く事が出来ただろう。それでもやはりそう簡単に割り切れず、どう言葉を返していいか分からず髪を掻くコロウに対しルメルはふっと笑みを浮かべて見せた。

「うん、やっぱり迷うよねえ。でもだからこそそういう覚悟を持つ事が大切……かな」
「あー……まぁ、そう言われると納得……は出来るんですがねぇ……」
「ふふ、思いっきり迷って考えるといいよ。その為の座学なんだからねえ。それじゃ、少しだけ話題を変えよっか。もし、他の人が何か間違えをしてたとしたらコロウくんはどうするかなあ? その子の為に間違いを正そうとするかな?」
「そう言われると……難しい問題だね」
「分かるよお。でも、その間違いを正そうとするとしても、その子が自分で考えて正しい結論に辿り着く過程を見守るくらいにしておくんだよお。深入りし過ぎるのもその子の為にも良くないと思うしねえ。それに、自分にとっても……ね」

 ルメルのそんな言葉たちの前にコロウが小さな唸り声を零しながら悩んでいるのを見るとルメルはパンッと軽快に手を叩いて鳴らすとニッコリと笑みを浮かべ、そして頬杖をついて僅かに口角を上げる。

「とはいえ…情けは人の為ならず。未来の自分のためにも、余裕のあるうちは、なるべく助けてあげてね。なーんて、これで僕からの講義はおしまい!という訳でお次はレントくんの出番だよお」

 そう言って席を立つとルメルはまるで席にエスコートする執事の様な所作で空いたイスをレントへと差し出した。

「うむ、大トリはレントであるな」
「あはは、そう言われるとちょっと照れちゃうな……よーし、頑張っちゃうぞー! という訳でコロウさん、ビシビシご指導しちゃうからよろしくね~」

 亞比栖、ルメルに続き3人の座学の最後を飾るのはレント。そんな彼がコロウに教えるのは『自分との向き合い方』だ。ダンジョン攻略に必要なのは道具などの事前準備だけではない。自身の体調に気を使う事はもちろんの事、メンタル面のコントロールも決して欠けてはいけない要素なのだとレントは切り出した。

「例えば、順調に階層を進めた時とかってテンション上がっちゃうんだよね。で、楽勝~って感じで舐めてドンドン進んだ結果、え?そんなトラップ踏むの?的なトラップを普通に踏んで帰れなくなったり、最悪死にかけちゃったりなんて事あるあるよ~?」

 レントは少し大げさなジェスチャーを添えて過信が齎すダンジョンでの悲劇を語る。ちょっとした笑い話で済めばいいんだけど、実際の所そんなに甘くはないんだよね~とレントは笑うがそんな柔和な表情とは裏腹にその言葉には重みがあった。きっとそれは実際にダンジョン攻略を行った者でしか分からない感覚なのだろう。それをレントは上手く言語化してコロウへと伝えている。

「油断大敵……って事だね。あー……なんだか分かる気がする。僕も働いてた時の苦い記憶が……ま、この話はいいか……」
「その話も気になっちゃうけど一先ず話を続けるよー! とりあえずコロウさんの言う通り油断大敵ってね。自分を過信しすぎず常に緊張感を持つこと。やっぱこれが大事だね! それに体調管理も万全にね、そうじゃないと判断力が鈍っちゃっていざって時に困っちゃうから」

 レントの話の中に出た体調管理という言葉。その言葉に思う所があったのかコロウは乾いた笑いを零すと何かを誤魔化す様に銅のカップに注がれた水を喉の奥へと流し込んだ。そして、その時に一瞬だがコロウが物足りなさそうな表情を浮かべたのを見逃さなかった。そう、一見普通に見える彼が酒癖という致命的な欠点を持っている事を知っていたからだ。

「よくダンジョンに行く前に景気づけにお酒を一杯……なんて人もいるんだけど、お仕事前にお酒を飲んだりするのは論外ね」
「ふふふ~、まぁ盛り上がりたい気持ちは僕も分かるけどねえ」
「ルメルよ……そなたは少し静かにしているといい」
「はあ~い」

 隣で騒がしい2人の共にレントはくすりと笑い。そしてコロウへの指導の為に言葉を続けた。

「少しのお酒でも全く影響がない訳じゃないし、もしそれで判断ミスが起これば……死、あるのみ! なーんてね、そんな事で死んじゃうのなんて嫌でしょ? だから自己管理も冒険者の心得のひとつってね。という事ではい! これで僕からのお話しもおしまい!」

 3人による座学が終わり、コロウはどこかバツが悪そうにその視線を泳がせる――が、それはすぐにコロウの意志によって一旦その動きを止めると、何かを決心した様に改めて3人の方へと向けられた。

「いや、ほんと為になる話ばっかりだったよ。なんだか年甲斐も無く、これから頑張ってみようかなって気がしてきたよ」
「その意気だコロウよ。学びに遅いはない。それと同様に何かを始める事にも遅い事などないのだ」
「うんうん、僕だってコロウくんとは歳近いけどあっちこっちフラフラしたりしてるしねえ」
「そーそー、あんま気を張り過ぎないで頑張ろー」

 3人が楽しそうに笑い合っている。それを眺めるコロウの表情は以前の疲れた様なものではなく、どこか活気があるように見えた。亞比栖、ルメル、レントの3人の座学はきっとコロウに響く物があったのだろう。

クラウス・イーザリー

 食堂のオープンテラスで開かれている新人冒険者へ座学会はいよいよ佳境に入りつつある。時刻が正午に近づき、食欲を誘う料理の香りが周囲を漂う状況でも新人たちは座学を行うEDENたちの言葉にしっかりと耳を傾けている。そんな最中、座学の出番が回って来たクラウス・イーザリー (太陽を想う月・h05015)は新人たちに会釈を行うと、彼らの正面の席に腰を落ち着けた。

「よろしくね」

 クラウスの挨拶に新人たちもそれぞれの言葉を返す。ダンジョン攻略の指導とは言ってもクラウス自身はダンジョン自体に詳しい訳ではない。とはいえ、各地で戦いを続けて来たその経験はきっと新人たちの為になるものだろう。その経験を新人たちに教えつつ、自分自身もまた学びを得ようとそんな気持ちでクラウスは新人たちの指導へ挑んでいく。

「もうこんな時間だね。そろそろまたお腹も減って来ただろうし、少し食事を摂ろうか」

 ちょっとした休息と懇親を兼ねてクラウスは給仕へ料理を注文する。そうして間も無くテーブルの上には芳ばしい焼きたてのバゲットと街の農園で採れたばかりの瑞々しいい野菜をじっくり煮込んだ黄金色のスープ。卵の黄身と肉汁が調和するベーコンエッグの皿が並べられた。それらを頬張りながら自己紹介を兼ねて雑談を交わせば思いのほかに新人たちとの会話を弾ませる事に成功する。

「座学……とは言っても俺は戦うのは得意だけど、ダンジョン探索はまだまだ初心者だよ。それでもよければ話を聞いてくれると嬉しいかな」

 そう言ってクラウスはこれまでの戦いの経験も踏まえて、戦いにおける大事な事。初心者が覚えるべき基礎を伝えて行く。クラウスにとって――√ウォーゾーンに生きる者にとって戦いとは生きる為の手段に他ならなかった。だからこそクラウスはこの世界である種の戦いであるダンジョン攻略が町おこしの一環であったり、はたまたその冒険の様子を実況するという感覚が不思議だった。だから今回の事は新人のみならず、クラウスにとっても未知に触れる機会だったのだ。

「あの、ちょっと質問いいですか?」
「あ……ああ、うんいいよ。できるだけの事は答えるつもりだよ」

 新人冒険者の1人である静夜リンの声によって思考に耽っていたクラウスの思考が引き戻される。クラウスに質問を投げ掛けたリンはつい最近までは戦いなどとは縁遠い普通の女子高生だった。そんな彼女が一体どんな質問をするのだろうとクラウスはちょっと興味を惹かれながらその言葉の続きを待つ。

「私はその……力とか弱いんですけどそんな私でもモンスターを倒せるコツとかあるんでしょうか……?」

 静々とした声で投げ掛けられた質問を受けて、クラウスは少しの間、思考を巡らせた。そして考えを纏めると、彼女の質問に答える為にゆっくりと口を開く。

「確か回復魔法とかが得意なんだよね。だったら無理に攻撃の事は考えないで仲間の援護に力を入れた方が良いと思う。そう、自分の得意な事を伸ばしていくんだ。その方がきっと強みになるだろうからね」
 
 戦いになればのんびり考えている時間など与えられない。それが不慣れな事であれば猶更だ。それであるなら体に染み付き、自然と無意識にやれる得意分野での活躍を目指した方が良い。そう、穏やかな口調でリンに伝えれば彼女はどこかホッとした様にその表情を和らげる。自分の伝えたい事がしっかり彼女に伝わったのだ。そう思うとクラウス自身もどこか肩の荷が降りたような気分になった。

「あ、ありがとうございます! 参考にさせて頂きます!」
「うん、今の話が役に立ったなら俺も嬉しいよ」

 そんなやり取りを他の新人たちとも何度か繰り返しているうちにやがてクラウスが担当する座学の時間は終わりを告げる。漸く一息つけるとクラウスは銅のコップに注がれた陽光をキラキラとその中に取り込んだ水で喉を潤した。

「……こんな感じのアドバイスで役に立つかなあ」

 教鞭を執るという慣れない事にクラウスは一抹の不安を感じていた、だが先ほどの新人たちの反応を見る限りその不安はきっと杞憂だろう。今回の座学は新人たちにとっても、クラウスにとっても未知の体験としてその力の糧となる事だろう。

エアリィ・ウィンディア

 オープンテラスに吹く穏やかな風を受け、エアリィ・ウィンディア (精霊の娘・h00277)の青い髪が静かに揺れていた。そこで開かれる新人冒険者たちへの座学会の様子を伺うエアリィは新人にダンジョン攻略について指導する為に教鞭を執る事に少しばかりの緊張と同時にワクワクと胸を弾ませている。

「新人冒険者さんのお勉強かー……たしかに、座学で事前知識を得るのも大切だもんね」

 エアリィはかつて冒険者としての師匠でもある母親から教えられたのがまずは今回の様な勉強だった事を思い出す。つまり、今回はその時の母親と同じ事を自分がするのだと思うと自然と緊張は消え失せ、やる気が滾々と満ち溢れて来た。

「よし……がんばってみるっ!」

 そうしてエアリィの番がやって来た。やっぱり、こういうのは第一印象も大事だよね!とエアリィは新人たちの前に出ると花の様な笑顔を咲かせてみせる。

「さて、みんな。冒険者としての第一歩っ!……って、あれ?どうしたの?」

 エアリィの思っていた反応とは違い、新人たちは驚き、或いは困惑の表情を浮かべていた。どうしてだろう?と小首を傾げるエアリィに新人たちの中で最年長者であるコロウがどこか言いにくそうにしながら口を開く。

「あー……いや、こういっちゃ失礼かもしれないけど、まさかこんなに小さい子が出てくるとは思っていなくてね」
「浅いなコロウよ。外見だけで判断するなど愚の骨頂。かくいう私もこの姿は仮初の姿であり本来の私は――」

 相変わらず演技染みたエミリアの口調にエアリィはくすりと笑みを零し、そしてコロウを始めとした新人たちへと言葉を伝える。

「ふふふ……やっぱそう思う? でも大丈夫! こう見えても攻略したダンジョンはかなり多いよ。それに、いろんなモンスター退治の依頼も行っているしね。だから安心してなんでも私に聞いちゃってよ!」

 師匠である母親から様々な事を教え込まれ、学業の傍らダンジョンに潜る日々を過ごしていたエアリィのその言葉は経験に裏付けされた自信に満ち溢れており、その説得力の前には新人たちも納得して安堵の表情を浮かべている。

「ね、みんな。これまでの勉強で色んな話を聞いてきたと思うけど復習も兼ねてみんなの得意なことを教えて?」
「得意な事、得意な事……うん、やっぱ俺は剣を振る事っスかね! まぁそれ以外は苦手とも言えるんですがね!」

 私は、自分はと新人たちがそれぞれの得意な事を口に出し、エアリィはその新人たちの得意な事をしっかりと記憶していくと更に言葉を続ける。

「うんうん、それじゃそのみんなの得意な事を活かしながら協力するとして、どう動けばいいか分かる?」

 新人たちの得意分野を考えれば、この4人の組み合わせは非常にバランスが取れている。だから彼らがそれを理解して動けばきっとダンジョン攻略で活躍できるだろう事をエアリィは見抜いていた。だからこそ、彼らが自分たちでそれに気が付き、様々な選択肢を得られる様に敢えて新人たちに考えさせる様に問い掛ける。

「協力ね……それじゃ、僕は近接型だしみんなの前に出て戦うよ。それに年長者だし若い子たちにはしっかりとしたところを見せないとだしね……」
「そ、それじゃ私は後方から回復魔法で援護します……!」

 新人たちが自分たちだけで話し合い、様々な意見を出し合い答えを探していく。そんな光景をエアリィはニコニコと笑顔で見守りながら、度々新たな問いを投げ掛ける。

「それじゃ、もし誰かが怪我しちゃってその役割ができないとしたら、他のみんなはどうする?」

 そんな新たな問いに新人たちは再び全員で意見を出し合い、話し合って行く。それを何度か繰り返せば新人たちは夢中になって自分たちだけでその議論に花を咲かせていた。その姿を見守りながらエアリィは淹れたてのお茶で喉を潤していた。体が中からホカホカと暖まり、彼らと同じように母親から勉強を教わったあの日の事を思い出す。その座学は間違いなく新人たち、そしてエアリィにとっても有意義なものになった事だろう。

第2章 冒険 『草原ダンジョンに山菜を取りに行こう』


 正午を僅かに過ぎ、空の頂点に昇った太陽が燦々とイニティスの街を照らす頃。座学を終えたキミたちは新人冒険者たちを引き連れ、例のダンジョンへと潜って行く。そこでは頭上から穏やかな陽の光が差し込み、瑞々しい緑が広がる草原の様なフロアが広がっていた。何処からか吹く風に木々は揺れ、遠くから心地よい清流の音が聴こえるその様はダンジョンの中とは思えない程に美しく清々しいものだとキミたちは感じる事が出来るだろう。

 この場所で行われるのはダンジョンでの演習だ。キミたちはダンジョン内での過ごし方や薬草などの採取の仕方。キャンプの設営方法など自由に新人たちに教えると良い。小型モンスターとの実践をしてみても構わない。比較的調査の進んでいるこの第一層はモンスターも少なく強いものもいない。安全が確保されている事もあり他の冒険者やそんな冒険者を相手に商売をしようとする者がいたりとダンジョン内にも関わらず人通りが多い。そんな彼らとコミュニケーションを取ってみるのもいいかもしれない。ダンジョン攻略の方法は無限大に存在する。キミたちはキミたちらしく新人たちに指導をするのだ。


――さぁ、これからが本番だ。小さくて偉大なダンジョンへの第一歩を踏み出したまえ
エレノール・ムーンレイカー
エアリィ・ウィンディア

「さぁ、冒険に出発だー!」

 暖かい陽の光が差し込み、カーテンの様に揺れているイニティスの森林。そのダンジョンの入口でエアリィ・ウィンディア (精霊の娘・h00277)は連れ添う新人冒険者たちに向かってそう元気よく声を上げた。エアリィが彼らの顔を見渡せば、その表情には不安も確かにあったが、それ以上の希望で満ちている様に思える。そんなエアリィと同じ指針を以て同行していたエレノール・ムーンレイカー (蒼月の守護者・h05517)もそんな様子を見て、静かに微笑んだ。

「さて皆さん、ここからはいよいよダンジョン内での実地演習です。座学で学んだ知識を元に、今度は実戦で学んでいきましょう」

 そのエレノールの言葉にエアリィもうんうんと頷き、そして手を大きく上げてその言葉の続きを紡ぐ。

「という訳でダンジョンです! さて、ダンジョンにあるものって何だろ? みんなは、どんなものがあるか想像できる?」
「はい、エアリィさんの言う通りダンジョンに入る前に整理しておきましょう。では、答えられる方はいますか?」

 エレノールとエアリィが新人たちに期待の眼差しを向ければ、新人たちはお互いの顔を見合わせると、まずは朝霧タイガが元気よく手を上げた。

「はい! やっぱダンジョンと言えば隠されし秘宝……お宝ですよね!」
「いや、財宝に目を眩ませるのは愚か者の所業だ。ダンジョンとはやはりその地に潜む魔の存在が切り離せないだろう」
「でもじみ~だけどトラップも忘れちゃいけないかなぁ。おじさんも人生のトラップに――」

 次々と意見が飛び出し盛り上がる新人たち。そんな彼らの話を纏めるべくエアリィが再び口を開く。

「うんうん、お宝、トラップ、そして、モンスター……危険が一杯! ロマンもあるのがダンジョンっ♪」
「そうですね。慣れないうちは危険の方が多いかもしれませんが、いざとなればわたしたちがいますから、安心して「冒険」してくださいね」
「という訳で改めて冒険の時間だーっ!」

 エアリィが先頭を進み、新人たちを挟んで後方を守る様にエレノールが続きダンジョン内部へと降りて行く。樹木が生い茂る少し薄暗い通路を抜ければ、どこからか小鳥の囀りが響き、ダンジョンの外と変わらない明るさの広々とした草原の様な場所へと辿り着く。ダンジョンの入口付近という事も加え、安全な階層であるからかこの場所でダンジョン攻略の準備を整える冒険者の姿も見受けられる。そして二人が連れ添う新人たちも最後の確認を行う為に一旦この場所で立ち止まった。

「では、ここからダンジョン攻略となります。連携を意識して隊列を組んでみてください」
「それぞれの得意分野も意識してみてねー!」

 エレノールとエアリィに促され、新人たちは座学で学んだ事を意識しながら自分たちで隊列を組んで行く。前衛を耐久力と機動力に優れたタイガとコロウが担当し、後衛を狙撃能力に特化したエミリアが担当。そしてその両方から守られる様に回復支援を得意とするリンが中衛を担当する事になった。隊列を組み終わった新人らはどこかソワソワとした様子で顔を2人の方へと向ける。

「こ、これでどうですか……?」
「わりと自信ありありですよこれ!」

 そんな新人たちを前にエレノールとエアリィはお互い顔を見合わせると、ニッコリと笑みを浮かべて頷いた。

「うんうん! いい感じだね! ちゃんとみんなの得意分野が活かせる隊列になってるよ」
「基本的な隊列ですが、これは初心者だけでは無くベテランの冒険者も多用する隊列ですね。この隊列が自分たちで組めるという事はちゃんと基本が出来ているという事……おみごとです!」

 そうして意気揚々と出発する新人たち。その隊列を後列から見守る2人は草原の様なダンジョンを往く新人たちに次の指導を実践する。

「いいよ!様になってるよ!それじゃ、この調子で周りを気にしながら進んで行こう!」
「ええ、周囲の警戒も基本中の基本です。ではここで『ダンジョンの見かた』を覚えて貰いましょう」

 新人たちに手本を示す様に2人は前列に移動すると、今度は新人たちを後列に引き連れ更にダンジョンの奥に進んで行く。壁際を歩くエレノールは壁に傷跡が無いかと注視しながら進み、エアリィは足下の足跡などを探りながら進んで行く。索敵と調査、これらの技能を磨く事はダンジョンに仕掛けられたトラップを暴くだけではなく、先んじて敵の居場所を探知するなどダンジョン攻略以外にも応用の聞く重要な事だと念を押す。

「例えばモンスターの足跡だけでなく、人の痕跡も気にしてみてください。人の痕跡が無いのであればそれはその場所が前人未踏の地という事にもなりますので不安定要素の多い危ない場所だという事が分かります」
「それに空気の流れとかも大事だよ。慣れてくればそれで出口の大体の位置とかが分かる様になるからね。ダンジョンの中で道に迷わないっていうのはそれだけで大きなメリットになるんだよ」
「へぇ……為になります!」
「それじゃ、今度はみんなで今の事に気を付けながら進んでみようか♪」

 索敵と調査、その一通りの動きを見せると2人は再び前列を新人たちに任せ再び後列から見守って行く。そんな新人たちは2人から教えられた事をしっかりと実践し、足下だけでは無く周囲一帯を警戒しながらゆっくりながらも少しづつ前へ前へと進んで行く。足下に足跡らしきものがあれば立ち止まり、壁になんらかの仕掛けが無いか探る為に手頃な木枝で叩いてみる。そんな恐る恐るといった様子の新人たちにエレノールとエアリィの2人もなんだか新人だった頃の様な感覚を思い出し、ちょっと新鮮な気持ちで一緒にダンジョンの探索を行って行く。

「あ、薬草見っけ♪」

 全員で慎重に探索を進めているとふいにエアリィが嬉しそうな声を上げる。さて、どうしたのだろうかとみんながその声を方を向けばしゃがみ込んだエアリィが小さな植物を片手に持ちニコニコとした笑顔をみんなの方に向けていた。新人たちはそんなエアリィを不思議そうな顔で見つけていたが、エアリィのその真意に気が付いたエレノールはコクリと頷いた。

「エアリィさんが見つけたその植物は薬草の一種ですね。丁度いいので薬草についても解説しておくとしましょう」

 少しの小休憩を兼ねて、エレノールとエアリィは発見した薬草を教材にその特徴や採取の方法を新人たちへと教え込む。ダンジョン内にはその環境にもよるが冒険に利用できる薬草が群生しているという事。そして薬草と特徴が類似しているがその性質は真反対である毒草が存在していて、注意して判別を行う必要があるという事を教え、そしてその採取から加工までを新人たちの目の前で実践し応急薬を造ってみせた。そして今みせた事を自分たちでやってみるようにと指示を下す。

「あっ、エミリアさん残念! それはただの雑草だよ!」
「……まぁ、私は最初からしっていたがな。た、試していたのだ……」

「リンさんの採取したものは先ほどの薬草と同じものですね。では加工を試してください」
「は、はい……こんな感じでいいかな……?」
「あら? 初めてとは思えないぐらいに手際が良いですね。素晴らしいです!」

 増分に力を発揮する者もいれば、少し躓く者もいる。それぞれがそれなりに経験を積んだ後、一行は再び隊列を組んでダンジョンの先へと向かって行く、すると前方を警戒していたコロウが突然立ち止まった。

「一旦ステイ……モンスターがいるね」

 その報告を聞き、エレノールとエアリィも確認を行う。コロウの言う通りに進行方向の少し先にモンスターの群れが存在していた。とは言ってもそれは脅威とは言えない小型の獣に近いモンスターで数自体もそう多くは無かった。

「あ、モンスターだね。じゃあ、早速だけどみんなの力を見せて欲しいな。さっきの座学の連携を実践だよー♪」
「そうですね、これはいい機会です。わたしたちも備えておきますのでまずは皆さんの力を見せて下さい」
「ついに実戦……興奮してきたっ! 見せてやりますよ俺たちの力を!」

 実戦で経験を積む事こそが成長の大きな第一歩になる。そう判断したエレノールとエアリィは小型モンスターとの戦いを新人たちへと一任する。いざという時はすぐに助けに入れるようにエミリアと同じ後列で待機し、一緒に新人たちを見守る様に9体の聖樹の護霊もふよふよとその周りで浮かんでいる。そして新人たちとモンスターの戦闘がついに始まった。前線を張るタイガとコロウ。それを攻撃面でエミリアが、回復面でリンが援護する形。座学で話し合った通りの連携は取れている。そして弱いモンスター相手とは言え、初戦という事もあり最初こそあぶないと感じる事はあったが新人たちは実戦でコツを掴んだのか徐々に安定していき、ついにはモンスターたちを倒す事に成功した。

「や、やった!」
「私たちが……勝てたんだ……」
「みんなおめでとう! ちゃんとできてたね!」
「お見事でしたね!」

 これで一定の経験は出来たとしてエレノールとエアリィの2人はダンジョン攻略を一旦中断し、モンスターの気配の無い場所まで移動する。

「という訳でみんな怪我は大丈夫?」
「全然大丈夫です! 掠り傷ぐらいです!」
「ダ―メ! そういう油断がいけないんだから! ほら、見せて。魔法でしちゃってもいいんだけど、せっかくだからさっきの薬草を使ってみようか。ほら、こういう風に♪」

 そう言ってエアリィは先ほど採取し、煎じた薬草をタイガの傷口に塗り付けた。染みる痛みに僅かに声を上げるタイガを尻目にエレノールも新人たちに採取した薬草を加工して作成した疲労を回復する薬のその効能を説明しながら全員に配布していった。

「では改めて初めての戦闘お疲れ様でした。座学で教えた事は良く出来ていましたが少し気になった点をお教えしますね。まずはタイガさん。しっかりと敵に攻撃を出来ていました。しかし、少し前のめり過ぎでしたかね。モンスターの数が多いと囲まれてしまう危険性があります。そしてコロウさんはタイガさんに合わせた動きがしっかり出来ていましたね。でも自身の攻撃には遠慮がちな部分があったと思います。もっと遠慮なくモンスターを攻撃しても大丈夫ですよ?」
「私からはそうだなぁ……リンさんはしっかりみんなの回復ができてたね。でもちょっとソワソワし過ぎちゃってたかも。気持ちは分かるけど、ドーンとしてた方がいいな! エミリアさんの狙撃は凄かったけど少し自由過ぎるかな! カッコいいポーズをキメるのはいいけど集中はしてね!」

 そんな講評をもとに以前の座学と同じように新人たちもそれぞれが意見を出し合ってモンスターとの戦いを振り返って行く。エレノールとエアリィからの指導。実践。そしてこの様に結果について振り返る。これらの事は間違いなく新人たちの成長の糧となっている事だろう。

クラウス・イーザリー

 瑞々しい緑が生い茂る、草原の様なダンジョンの内部では耳を澄ませば心地の良い清流の音がさらさらと聞こえている。光源を持たずとも昼間の様な明るさと時々吹く爽やかな風にクラウス・イーザリー (太陽を想う月・h05015)も無意識に穏やかな表情を浮かべていた。

「綺麗なダンジョンだね」

 のんびり観光気分――戦いから離れたそんな穏やかな時間を堪能したいという気持ちは紛れも無い本心であったが、残念ながらこれは新人たちの実践指導の一環。自分たちの指導にしっかりと耳を傾けて、ダンジョンに挑む新人たちの手前気を抜きすぎる訳にはいかないなとクラウスは気を引き締める。そして手頃な広場の様な場所に辿り着いた所でクラウスは足を止めた。

「さぁ、ここでキャンプの設営方法を学ぼうか。冒険と言えばやっぱキャンプ……だとみんなも思うよね?」
「うおー! キャンプ! 確かに冒険っぽいです!」
「ふぅ……おじさんちょっと足が痛くなって来てたから丁度良かったよ」

 其れまでダンジョン内を警戒しながら進んで来た新人たちはクラウスのその言葉に緊張が溶けたのか口々に言葉を発する。そんな新人たちを微笑ましく思いながらもこれも勉強の一環だとパンッと軽く手を打ち鳴らして新人たちの意識を自分に向けさせるとそう念を押す。

「という事でテントを組み立てて見ようか。うん、大丈夫。俺も手伝うからゆっくりやってみよう」

 シートやマット、テントを張るロープや固定の為のペグなどのキャンプセット一式。それらを手に新人たちが各々役割分担し、クラウスの監修のもと作業を行って行く。カン、カンとベグを打ち付ける音がリズムカルに響き、指をハンマーで叩いてタイガが悲鳴を上げれば指を懸命に冷やすタイガに代わり、苦笑いを浮かべながらクラウスが残りのベグを地面に打ち込んでいく。そうしていよいよテントを張る段階になるとエミリアがロープの固定先を間違え歪な形のテントが出来上がったりもしたが紆余曲折あって全員の協力のもの、ついにテントが完成する。

「やれやれ、どうなる事かと思ったがどうやら運命は私たちに味方したようだな」
「まぁ、わりと殆どクラウスさんにやって貰っちゃいましたけどね……」
「あはは……気にしないでいいよ。一応、これで大体の流れは覚えて貰えたと思うしね。休息は大事だから休める時はしっかり休むようにね」

 あんまり人に言える立場じゃないけど――と日々、その身を削って戦っている自分の口から休息の大切さを説く言葉が出た事になんだか呆れながらクラウスは立ち上がり新人たちを見渡した。

「それじゃ、次はモンスターとの実戦に挑んでみようか」

 実戦の為の手頃なモンスターはすぐに見つかった。少し前に新人たちが戦ったものよりは少し手強い相手だが数は少なく練習にはもってこいの相手だ。

「1人じゃなくてみんなで戦うんだ。仲間同士の連携を意識して戦えばそう苦戦もしない筈だよ。そしてもう一つ大切な事。それは攻撃する時に躊躇わない事。モンスターも生き物だけど……躊躇ったら自分が危なくなるからね。危ない時は俺が助けるから落ち着いて。さぁ、頑張って」

 クラウスの言葉に背中を押され、新人たちはモンスターに戦いを挑んで行く。そんな新人たちを見守るクラウスの瞳は静かに閉じられ、そしてその左目に炎を伴って再び開かれた。看破の瞳でモンスターと新人たちの隙を常に監視する。新人たちはクラウスの期待に応えるように上手く連携を取り順調にモンスターを追い詰めて行く。だが、それでも新人たちはそこそこの頻度で隙を晒してしまう事も見受けられた。

「側面に気を付けて!目の前の敵だけに意識を取られ過ぎたら危険だよ!」
「た、助かりました!了解です!」

 新人らの曝した隙をカバーするべくクラウスが放った炎魔法が新人たちへ攻撃を仕掛けようとしたモンスターに直撃しその体勢を大きく崩れさせる。そしてクラウスのその掛け声に呼応し、態勢を整えたタイガがそのモンスターに見事な一撃を与えて撃破する。そんなクラウスの援護もあり、新人たちはそのままモンスターの群れを一掃し、歓喜の声を上げている。

「うん……良い動きだったよ!」

 新人らの動きはこの実践訓練を通じて確実に良くなってきている。まだ、その粗は多いものの、彼らを見守り続けていたクラウスはその成長の著しさを感じ取っていた。来る時の為、まだまだ彼らは経験を積んで行く。

彩音・レント
治部・亞比栖
ルメル・グリザイユ

 新人たちの実戦練習を兼ねたダンジョン攻略が始まって数時間が過ぎ、ダンジョンの外では真上に位置する太陽が西側に傾き始めた頃、新人たちの疲労も溜まって来ただろうとEDENたちは各々で休憩を取る事にした。そんな中、治部・亞比栖(紅玉の貴人・h00488)、彩音・レント、(響奏絢爛・h00166)ルメル・グリザイユ (寂滅を抱く影・h01485)の3人は以前の座学のよしみとしてテントの設営練習も兼ねてコロウの指導を行う事にした。

「さて、丁度良い頃合い故に休息を兼ねてテントの設営を行うとしよう」

 そんな亞比栖の一声にルメルとレントは「いえーい!」を声を揃え、パチパチと手を鳴らす。そんな突然の提案と2人のノリにコロウは当然困惑の表情を浮かべる。そんなコロウの肩をレントがポンと叩いた。

「うんうん、ダンジョン内で数日過ごすって事はざらにあるからね。そういう時こそ大事になるのは安全な寝床の確保と栄養補給の2点。という訳でいざテント設営! あと美味しくて栄養満点な料理にも挑戦してみよっか」
「へ……? 料理?」
「うん、料理だよお。でも安心してねえ~? 僕も腕を振るわせて貰うからさあ~」

 コロウの肩に腕を回し屈託の無い笑顔を浮かべるレント。キリッとした自信に満ちた表情でサムズアップをするルメル。そうして不安そうに眉を下げるコロウ。そんな楽しそうな3人の姿を見て亞比栖も腕を組み満足気に頷いている。

「うむ、実に良い雰囲気であるな。コロウよ。我もどちらについても初心者ゆえに此度は共に習いてゆこうではないか」
「あ? あ、ああ……こちらこそよろしく頼むよ……?」

 賑やかな彼らは持ち運んで来たテント設営用の道具を地面に並べて亞比栖とコロウに簡単な説明を行う。そうして次はテント設営の簡易的な手順を伝えるとまずは実戦あるのみと早速テントの設営を始める為、ルメルが筒状に丸めた大きなグランドシートを持ってくるとそれを全員の目の前に広げてみせる。

「という訳でジャーン。グーラーンードーシート~」
「おお! まずはこの四角きシートを張るのか!」
「そうだね、これが所謂テントの基礎! 一番最初で一番大事な所とも言えるからばっちしキメないとね」
「ふむ、それであるなら4人で角を持たば丁度ちょうどよいな! ほれ、コロウよ。そなたはそっちの角に立つと良い。ほれほれ、日が暮れてしまうぞ!」
「あはは……分かってる分かってる。急かさなくても大丈夫だよ」

 ダンジョンでの実践演習……というよりかはまるで修学旅行か何かの様な雰囲気で、4人はそれぞれがシートの四隅に立つとそのシートを摘まみ上げ、それぞれがお互いの正面に立つという形になる。その際、シートを持ち上げる際にコロウが腰の痛みを訴えたのはご愛敬だ。

「うむ、では早速お手を拝借――」
「あはは、アビィ、それじゃ宴会だよお」
「む、確かにそうであるな」
「でも掛け声ってのやっぱ大事だしね! アビィ、お願いね!」
「承知した。では行くぞ……そーれ!」

 その掛け声と同時に4人がシートを持つ手を振り上げれば、ふわりとその大きなシートが宙に舞い。そしてそれは空気抵抗を受けながらゆっくりと落下していくと皴の目立たない綺麗な状態で地面へと着地した。

「おー凄い凄い!大成功だよ!」
「ようし、この調子でどんどんやって行こうか~。と、なると次はポールの組み立てかな。あ、コロウくん。そっちのポールを持ってもらえる~?」
「ポールね、了解了解。おじさんだってこれぐらいならできるよ」
「次はそれか! よし、我も手を貸すぞ!」

 テントの組み立てに於いて、重要な部分をコロウに任せそれを他の3人がサポートする形で協力しながらテント設営は進められていく。最初は骨組みだけだったテントも組み立てられたポールにインナーテントが引っ掛けられて自立し、それを固定する為にベグが次々と打ち込まれていく。和気藹々と雑談を交しながらその作業が進められて行けばそんなに時間も経たぬ間に複数人が入れるほどの大きなテントが完成した。

「おお、完成したぞ!」
「テントは一人だと結構面倒な作業って印象だったけどみんなで組み立てると一瞬ねえ」
「うむ、確かに一人なれば大変であったろうなぁ。しかし、みなとなれば、楽しいほどだ。我も良い経験になったぞ」
「僕も年甲斐もなく楽しんじゃったかなぁ。おかげでテントの組み立て方はなんとなく覚えられた気がするよ」

 完成したテントを前に爽やかな達成感をしみじみと語る3人。そんな時、ふとレントはいつの間にかルメルの姿が消えている事に気が付いた。キョロキョロと周りを見てもルメルの影さえも見つかる事は無かった。確かにルメルはテントが完成するその直前までは隣でニコニコと笑っていた筈なのに……と、レントはルメルの行方を亞比栖とコロウに尋ねる事にした。

「うーむ……確かにルメルの姿がどこにも見えぬな。はて、何処に行ったのやら……」
「あー……その事だったら僕の見間違えじゃなければ向こうの方に歩いて行ったのが見えたよ」

 そう言ってコロウが指さしたのはこのキャンプ地と隣接する草木が生い茂る雑木林の方向だった。そんなコロウに対し2人は意外にもあっさりとした反応を示す。

「そうか、まぁルメルであればそんな事もあろう」
「まぁそうだね。ルメルくんなら仕方ないかなぁ」
「え……?そんな感じでいいの?」
「そんな感じでいいと思うよ。それじゃあ……次はいよいよ料理の準備をしておこうか! 僕は人並みくらいは料理もできるし、しっかり教えてあげる!それに今回の料理はこちら!……カレーだね!」
「ほう?カレー……であるか」
「カレーというのはどんな具材だろうと美味しく仕上げてくれる魔法の調味料よー!初心者でも安心安全!それじゃ始めようか!」

 レントの指示のもと、3人はそれぞれ分担してまずは料理の為の準備を開始した。完成したテントの目の前に野外用のテーブルを設置し、その上に料理に使う道具を並べていく。包丁、まな板、ピーラーに底の深い鍋。それらカレーを作るための一式の道具が揃えば次はカレーの下拵えだ。

「野菜はしっかり水洗いしてねー。それが終わったら次は野菜を切って行くから僕に教えてね!」
「うむ、レントよ。しかと心得た。しかしなんだ……不思議と水に付けた野菜を手洗いしているだけの筈なのだが不思議と心が弾むな」
「わかるー! なんなんだろうねあれ!」

 そして野菜の皮むきも含めた下拵えが終わると、ついにカレー作りは本格的な調理へと進展する。仮設のキッチンの前にエプロンを付けた亞比栖とコロウが並び、その2人を見守る為にレントがその傍らで待機している。そしてレントから包丁の指導を受けたコロウがいざまな板の上の野菜に包丁を通そうとしたその時、隣で見ていた亞比栖が危なっかしいコロウに待ったをかける。

「コロウよ、コロウよ、兄さんが言うておったのだ」

 亞比栖の紅い球の様な瞳がじぃっとコロウの顔を見つめる。その白い肌は僅かに紅潮させ笑うその表情はその子供の姿に相応な無邪気なものでそれを向けられたコロウはその眩さに思わず言葉を詰まらせる。

「材料を切るときは、左手を猫の手にするそうだ。ほれ、このように……はて、狼の手でもよいかな?とにかくコロウよ、我の真似をしてみるのだ。それ、わおーん……という感じでな」
「わ、分かったよ。猫の……狼の手だね」

 手を丸く握り、狼の遠吠えを真似する亞比栖。コロウもそんな亞比栖のアドバイスに従い、手を丸く握り恐る恐るとしながらも順調に野菜を切る事が出来ていた。

「すごい!上手だよ~アビィの言う通りに包丁で何かを切る時は手を丸く握った方が怪我する心配も少なくなるからね。アビィ、アイスアドバイスだ!」
「ふふ、我も初心者の身ではあるがアドバイスが役に立ったというのであれば我も嬉しいというものだ」

 そうして3人が和気藹々とカレー作りを進め、食材を炒め始めた頃、ついにあの男が帰って来た。そう、いつの間にか姿をくらませていたルメルが雑木林の繁みの中から突如姿を現したのだ。そして何処から採って来たのか新鮮な川魚を数本ぶら下げ、ルメルの周りでは本人を模した魔法人形がその上着にたっぷりの山菜を詰め込んでいた。

「わあ~、具材が焼ける良い匂~い。…ってことは、まだ間に合うね~?」
「あ、ルメルくん。うん、今から丁度炒めた食材を鍋に入れようかと思ってた所だよー……って、ルメルくんそれは――」
「なるほどね~? はいは~い、ここから先は僕に任せてえ。みんな、お疲れだと思うし少し休んでていいよお」

 キッチンに姿を現したルメルはカレーを仕上げる為に華麗にその妙技を披露する。まな板に寝かせた川魚、それを鮮やかな剣舞とも思える華麗な包丁さばきで瞬く間に降ろし――そしてそれを躊躇する事無く鍋の中へと投入した。その瞬間、ルメルを見守っていた3人からどよめきの声が上がる。そしてそんな声もなんのその、ルメルは魔法人形に運ばせた大量の山菜もこれでもかと仇の様に次々と鍋へと入れていく。

「お……おお……ルメルよ……それを入れては……」
「ん~? アビィ、なにか言った~? 安心してねえ、アビィが前に臭いが強いものは苦手だって言ってたからちゃあんとその対策もしてあるよお」

 そうしてルメルが取り出しましたのは重曹と炒りぬか。見守る3人にウィンクをして答えるとルメルはその2品も豪快に鍋の中にぶち込んだ。どよめき……というよりかは悲鳴が上がる。

「……待ってルメルくん、今なに混ぜた? ねぇ、なに混ぜたのっ!? 怖い! 怖いよっ!」
「な……何が起きてるんと言うんだ……」
「まぁ、ルメルが楽しそうゆえそれでよいか……」

 そしてその果てには味に深みを持たせる為に巷で聞いた気がするココアパウダーを追加したりと奇行を繰り返した末、紆余曲折はあったものの遂にみんな大好きカレーが完成した。明らかに具材がゴテゴテと入ってはいるものの、見た目自体はわりと普通だった事もあり、ルメルを見守っていた3人の間で妙な安堵感が広がっていた。

「全く、色々入れてくれちゃって……食べ物を粗末にしたらダメなのよルメルくん」
「えー? 大丈夫だよお、ちゃあんと作ってるってば。ほら、暖かいうちに召し上がれ?」
「ちょ~と気になる事はあるけれど……そうだね、それじゃみんなも残さず食べようね」

 色々あったけれど、こうしてみんなで協力して料理をして、それを食べるのはいいものだとレントはそのカレーを一口頬張った。瞬間、レントに電流奔る。

「……!!?!??!」

 それはまるで宇宙であった。人類の理解外にある未知なる世界であった。それは謂わば真理だったのだろうか?レントはその一口だけで甘み、辛み、苦み、旨味――ありとあらゆる味がレントの中に流れ込んでくるのを感じだ。不調和の中の調和と言うべきかそれはつまり――想像を絶するほどの不味さだった。

「が……ま……」

 レントの意識はその一瞬で刈り取られ、自由を失った体は地面へとバタリと倒れ込んだ。

「なッ……そ、そんな…!! レントくん……!」
「は、はは……よほどの衝撃だったのであろうなぁ……では、いただきます」

 レントの惨劇を目の当たりにしても亞比栖もまたそのカレーを頬張った。なにせ友人がせっかく作ったカレーなのだ。それを裏切る訳にはいくまい、その覚悟のもと頬張ったそのカレーは想像以上の衝撃を亞比栖へ与えた。まるで体に稲妻が落ちたかの様に思考が真っ白に塗り潰され、そしてスクリーンに映し出される様にして友との楽しい思い出が流れては消えて行った。それを形容すべき言葉はまだ亞比栖は見つける事が出来なかった。敢えて言うとすればそれは即ち、個性的という事であろうか――

「こ。個性的、な味、だ……」

 そして亞比栖もまた倒れ、コロウもまた二人がカレーを食べた事により自分も食べざるを得なくなり彼もまたその犠牲となっていた。

「アビィ!! コロウくーーーん!!」
「そ、そんな大声を出さすとも我は大丈夫だルメルよ……」
「あっ、ごめんね。じゃあ少し声を控えるよお。という訳で……アビィーーー!」

 そんなやり取りを少し繰り返した後、亞比栖はよろよろと立ち上がる。

「だ、大丈夫だ、ありがとう。そなたの料理は食べると言うたはずだ、ルメル」
「アビィ! そこまでして僕の事を……!」
「気にするでない……だが上達はまだまだのようよな、ハハハ」
「うん、僕も現状に甘んじていないでもっと腕を磨く事にするよお」
「いや……そうではなくてだな……いや、待て!レントとコロウは無事であろうか!」

 亞比栖とルメルがそんな会話を交わす中、レントとコロウは地面に倒れ伏せたままであり。レントの近くにはまるで最後の力を振り絞ったかの様に犯人はルメルと言う文字を地面に残していた。ぼんやりとする意識の中で聴こえてくるのは心配そうに声を掛ける亞比栖とルメルがダイイングメッセージを隠滅する音。意識が遠ざかって行くその中、レントはとある決意をしていた。

(万能調味料カレーをも制すルメル飯……もう絶対に2度と作らせない……)

 そう心に誓い、レントは意識を手放した――

第3章 ボス戦 『亡腕のマヌ』


 新人たちを引き連れ、ダンジョンを進むキミたちはこの攻略演習の中で新人たちと様々な経験を積み重ねてきた。ダンジョンの歩き方……罠の攻略に薬草の採取、モンスターとの実戦からキャンプの設営に料理。それらの経験は間違いなく新人たちの成長の糧となった筈だ。そしてきっと得た物はそれだけでは無い筈だ。もしかすると共に過ごした時間で絆を得る事ができているかもしれない。

 とにかく、次が新人たちへの最後の指導となる。それはダンジョン攻略の肝とも言えるボスモンスターとの戦いだ。これからキミたちはこの第一層の最深部のエリアに存在するボスモンスター『亡腕のマヌ』と戦う事になる。騎士を思わせる風貌のそのボスは剣技の他に魔術などの搦手も使う中々に手強い敵だが、第一層のボスという事もありキミたちにとってはそこまで脅威にはならないだろう。だが、新人たちにとっては違う。冒険者になって日が浅く、ダンジョンに潜るのが今回が初めてとなる彼らにとってはそのボスは手に負えない強敵である事に変わりはない。つまり、今回はキミたちがボスを倒す事が目的となる。強敵との戦い方を新人たちに披露するのだ。とはいえ、新人たちも経験を積んだ事により何も出来ない訳ではない。キミたちが指示をすればそれなりの行動は取る事ができるだろう。キミたちは新人たちの手を借りても良いし、借りなくても良い。

 ――さぁ、新人たちの初めての冒険に勝利のファンファーレを響かせようではないか
クラウス・イーザリー

 冒険王国『カーネリアル』。そのイニティスのダンジョン第一層の最深部へ足を踏み入れたクラウス・イーザリー (太陽を想う月・h05015)は最後のフロアで待ち構える『亡腕のマヌ』を視界に収めると連れ添う新人たちへと顔を向けた。

「さて、ついにボス戦だね。全てを任せて貰ってもいいんだけど……せっかくここまで来たんだし経験も積んでみたいよね?」

 クラウスのそんな問いかけに新人たちはお互い顔を見合わせ、そして頷き合うとクラウスのその問いに答える。

「っす! 緊張しますけど自分やってみたいです!」
「わ、私もせっかくだし……挑戦してみたい……かな」
「うん、いい返事だ。それじゃあ、少し手伝って貰おうかな」

 そんな新人たちの返事にクラウスは微笑みを浮かべ、彼らの顔を見渡すと先陣を切ってマヌに向かって歩き出した。

「強敵だけど、落ち着いてね。まずは動きをしっかり見て」

 新人たちが見守る中、クラウスは加速し一息にマヌとの一定の距離まで詰めると|無明《二丁拳銃》による銃撃を叩き込んだ。軸足を安定させ、腰を落とした射撃姿勢から繰り出される弾丸は常に移動を続けるマヌを狙い撃ち、その装甲に穴を穿つ。更にそこにレイン砲台による射撃が追い打ちを掛ける中、マヌはガシャガシャと鎧を鳴らし、マントを翻すのを合図にそこから無数の切断された人間の腕が飛び出した。

「攻撃が来る! 全員備えて!」
「り、了解!」

 マヌの放つ|絡みつく屍肢《タッキーカレス》はその一本一本の腕が意志を持つように宙を飛び回り、クラウスたち目掛けて飛来する。それに対し、クラウスは新人たちにその腕の一部の対処を行う様に指示を出せば彼らはその動きに僅かに固さを見せながらも浮遊する腕を迎え撃つ為に前進する。戸惑いが見える――新人たちのその動きから攻撃への躊躇がある事を見抜いたクラウスはそんな彼らの背を推す様に声を上げる。

「戸惑わないで! 戦いの中で迷っちゃダメだ!」

 人の姿に限りなく近いモンスター相手にどこか迷いがあった新人たちはクラウスのその声で覚悟を奮い立たせ、迷いを振り切り果敢にその腕へと挑んで行く。コロウは浮遊する腕と取っ組み合い、地面へと叩き付け。タイガが剣を振るって腕を追い払えばそれをエミリアの放った弓矢が貫いた。少し不格好ではあったがそれは冒険者としての動きとしては間違いなく合格点だ。そんな彼らの勇姿にクラウスもまた自分の中で何か熱いものが込み上げてくるのを感じた。

「よし! 良い動きだ! ――俺も負けれられないな」

 残るマヌの屍肢が新人たちの奮闘により行き場を失って反転する。このまま態勢を整えさせてはいけないとクラウスは退避しようとするそれらとの距離を詰めると両手に構えた|無明《二丁拳銃》を器用に躍らせその銃身に取り付けられた短剣で叩き斬り、地面へと撃ち落とし無力化させる。地面で動かなくなった腕に視線を落としながらもクラウスはガシャリと金属が擦れる音を確かに聴いた。マヌが新人たちに反応を示している――それを新人たちのもとに向かわせてはいけないとクラウスは咄嗟にガントレットからワイヤーを射出するとマヌの鎧へと絡ませ、ワイヤーの伸縮する反動を利用しマヌの懐へと飛び込むと魔力で錬成した剣をその装甲へと叩き込んだ。それによりマヌは足を止め、クラウスの方へとぐるりと手で覆われた頭部を向ける。

「彼らに手は出させないよ。お前の相手は俺がする」

 新人たちのハレの大舞台。それを勝利で飾る為の戦いはまだ始まったばかりだ。

彩音・レント
治部・亞比栖
ルメル・グリザイユ

「ううん……アレ? 僕はカレーを作ってて確か……よく思い出せないけどなんだか体が軽い気がする……! よっぽどカレーが美味しかったのかな!」
「おお、レントよ……いや、みなまで言うまい……我らは良き時間を過ごせた、それで良いのだ。それでな……」

 キャンプでのルメル飯事件を経た後、その被害者となった治部・亞比栖(紅玉の貴人・h00488)、彩音・レント(響奏絢爛・h00166)、そしてコロウの3人はあの惨劇が夢であったかの様に体調は万全で、体は軽く清々しい心持ちだった。そんな3人の様子を見たルメル・グリザイユ (寂滅を抱く影・h01485)はホッと安堵の息を吐く。

「ああ…二人とも、元気になってくれて良かったあ~」

 満面の笑みを浮かべ、大袈裟に手を広げるルメル。そんな彼の手元ではなんともショッキングな物凄い色の錬金薬の小瓶がキラリと光り、まるで手品の様にさり気なくポケットの中へと落ちて行く。

「あれ? ルメルくん今何かしてた?」
「んー? 気のせいだよお。それよりもほら――最後の仕上げに掛かろうか?」

 ルメルはレントに悪戯な笑みで応え、そして涼しい表情のまま|短剣《ナイフ》を構える。そんなルメルの視線の先にはこの階層のボス、『亡腕のマヌ』が亡霊の様に待ち構えている。

 「うむ、早速実演としようか。コロウよ。まずは依然に座学で教えた事を我が見せよう」

 コロウに気品ある笑みを見せた亞比栖はルメルの隣に並び立つとその体を赫き霧が包み込んだ。かと思えばその霧は一瞬で霧散し、そこには子供の姿では無く、大人の男性――髪に赤いメッシュが入っている事以外はコロウと瓜二つな姿へと変身した亞比栖が立っている。そんな亞比栖と並び立つルメルの肩をポンッと軽く叩きレントも一歩前へ進めば3人が『亡腕のマヌ』と対峙し並び立つ形となった。

「さぁて、みんな準備万端って感じだね~? それじゃ、最後のお仕事~サクッと終わらせちゃおー」
「うむ……レント、ルメル。――往くとしようぞ!」

 亞比栖のその合図と同時に3人は一斉に行動を開始し、それと同時に『亡腕のマヌ』も剣を構え、その周辺に幾つもの死肢が浮遊する。そんな相手に向かって疾走する亞比栖とルメルの背を見守るレントは白と黒が対となるデュアル精霊銃を手に傍らに立つコロウへと華麗にウィンクを送った。

「さーて、コロウくん。しっかり覚えて行ってね。戦いで大切なのは仲間たちと連携して戦う事――さぁ、忘れられないライブにしてあげる!」

 レントの2丁の精霊銃が音を奏でる。撃ち出される弾丸の音は断続的に反響し、心を奮い立たせる様な勇敢な音楽を奏でフロアの中へと響き渡らせていた。響き渡るBGMにその音を聞いた亞比栖とルメルは体が軽くなり、溢れ出てくる力にその速度を加速させ一気に『亡腕のマヌ』との距離を詰めて行く。そして2人はレントの援護射撃を受けながら往く手を阻む死肢を躱し、その妨害を瞬く間に突破する。そんな光景を見てコロウは圧倒されたかの様に言葉を零す。

「すごいな……これもキミのサポートの影響か?」
「そーそー、僕の役割は前線に出るみんなのサポート……兼、バトル演出!」
「演出……演出になんの意味が……」
「はいはい、そんな事言わない! 何事も雰囲気は大事よー!って訳であとはほら、2人の活躍の時間だよ!」

 レントとコロウがそんな短いやり取りを交わす間にも亞比栖とルメルは『亡腕のマヌ』をその攻撃範囲内に捉えていた。マヌの正面に飛び込んだ亞比栖に対し、マヌは鋭い剣を振り下ろすと同時に数多の死肢で取り囲む。だが、それこそが亞比栖の狙いだ。わざと隙を晒し死肢を近づけさせた所で重心を捉えた鋭い打撃で一纏めにして散らすと、その勢いのままに腰を落とし、呼吸を止めたその瞬間に自身の体重を込めた一撃をマヌの胴へと叩き込んだ。バキリに鈍い音が鳴り響き、マヌの鎧の一部が砕かれればその衝撃にマヌは僅かに後方へと押し込まれ地面に深い溝を刻む。そんな強烈な一撃を与えた亞比栖はそれ以上の深追いはせず、そのまますぐに前線から退いた。マヌがそんな亞比栖を追おうと視線を動かしたその時、漸くマヌはそこで直前まで亞比栖と共に行動していたルメルの姿が無い事に気が付いた。どこだ?一体どこに消えた――そんな風にマヌが視線を巡らせたその瞬間。背後からルメルが囁いた。

「ほら、もうこんなに近くにいるよ?」

 マヌの背後から鎧越しに衝撃が奔る。Translatio Percussor――転移魔術によりマヌの背後へと転移したルメルはその背中に|短刀《ナイフ》を突き刺しながらマヌの顔を覗き込み微笑を浮かべ、そして突き刺さったままの短刀を一切の躊躇なく捻り、その傷口を抉った。マヌの口から苦悶の声が上がった。それと同時にルメルは自身の体の骨が力の代償として折れた感覚を覚えてたが、どこの骨が折れたかについてルメルは特に興味を抱く事は無い。レントのサポートによる活性化も理由か、戦闘継続にはなんら支障のない取るに足らない事であったからだ。そのままマヌの背中を蹴り飛ばし、短刀を引き抜き一旦距離を取ると怒気を孕ませこちらに振り向くマヌにゆっくりと視線を這い廻らせた。そんなルメルの背後にマヌの死肢がふわりと浮かび上がり今度は逆にルメルを強襲しようとその狙いを定めている。だが、次の瞬間に軽やかな音色が響いたかと思えば風を纏う弾丸が一陣の突風を巻き起こし、ルメルを狙っていた死肢は弾き飛ばされる様にして自ら地面へと叩き付けられていた。それはレントによる援護射撃だ――遠くから銃口を向けていたレントはその背中は任せろと言わんばかりにポーズをキメている。そんなレントの援護を信用し、最初から背後からの攻撃など考慮に入れていなかったルメルは即座にマヌへの追撃へ移行していた。

「この感じだと……うん、あともうちょっとかな~。だったら次に狙うべきは~……ここ!」

 姿勢を落とし、マヌの足元から潜り込む様にして懐に飛び込んだルメルはマヌの鎧の関節部分に短刀を捻じ込んだ。そして再び短刀を引き抜くと亞比栖の砕いた鎧部分を切り付ける。その攻撃は意図的に急所を外されている――だが、着実にマヌを消耗させていた。それも全て、この時の為だ――

「さぁ、クロウよ! そなたの出番ぞ!」

 マヌに一撃を加え、コロウのもとへと後退した亞比栖は今がその時だとコロウに呼び掛ける。

「僕が……やるのか」
「そうだ、そなたが――そなたでなければいかぬのだ。格闘家に最も大切なことは、信頼だ。そなたの役割は剣であり盾、最前に出ることだ。あの腕のようなものが、背後からそなたを襲おう。だが、それでも最前に出続けるのだ。そなたの仲間を守るために」

 3人の連携を目の当たりにし、驚嘆の声を漏らしていたコロウはその戦いの場に自分が出る事は不相応なのではという疑念に駆られていた。そんなコロウの疑念を否定し、彼の背を押す様に亞比栖は言葉を続ける。亞比栖は――3人はこれまでコロウの指導をしていたからこそコロウのその実力を知っていた。もう、彼は冒険者として相応しい実力を持っている。だからこそ、本当の意味で冒険者としての第一歩を踏み出す為に言葉を送る。

「仲間がそなたを守ってくれる。――我らを、信頼してくれるかな?」

 コロウは息を深く吸うと、無言で大きく頷いた。亞比栖はニコリと笑う。そう、それでよいのだ――ならば後は最後まで付き合うのみ。

「ゆけ!」
「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

 亞比栖のその声と同時にコロウは走り出した。その時のコロウの表情は疲れた様なものでは無く、一端の冒険者のものだった。そんなコロウをマヌの死肢が襲う。新人だろうと容赦なく、その命を刈り取ろうと魔の手が伸びる。そんな事はさせないと、コロウの邪魔をさせてはならないと亞比栖は彼に付き従い、その盾となり、時には剣となりこの道を抉じ開けた。

「さぁ、後ろは僕に任せて突っ走れー!」

 レントの送る弾丸の|贐《はなむけ》がコロウの往く手を阻む死肢を射抜き、コロウはついにマヌのもとへと辿り着く。消耗激しく動きの鈍るマヌの背後からルメルがひょっこり顔を出して手を振るとルメルはそのままグッとサムズアップをコロウに送りそのまま前線から離脱する。そして実質的にマヌとの1対1の形になったコロウにマヌは振り上げた剣を一気に振り下ろす。コロウはその剣に怯む事無くその懐に飛び込むと以前に教わった事を再現する様に腰を落とし、呼吸を1つ。そしてその剣が自身の体に届くよりも早く痛恨の一撃をマヌの胴に叩き込んだ。その威力にマヌは態勢を崩し、後方に吹き飛ばされるとそのままついに膝を付いた。明らかに致命的なダメージだ。

「よくやったぞコロウよ!」

 マヌに致命的ダメージを与えた事に今だ実感が湧かず自分の拳を唖然と見つめるコロウのもとにその快挙を祝うべく子供の姿に戻った亞比栖が駆け寄り、レントとルメルもそのまま2人のもとへと合流する。そんな3人を前にコロウは困惑――というよりかは照れ隠しの様に乾いた笑いを零せば、そんなコロウを見て3人はお互いに顔を見合わせるとコクリと頷き合い、3人揃ってコロウへと向かってポーズを決めた。

「「「遊~!」」」

 小首を傾げ、キュートにすぼめた口元で裏ピースサイン。パチンとウィンクをキメれば3人の背後ではドーンと光が弾けて、キラキラと紙吹雪が舞い踊るそんな演出が幻視される様だった。そんな3人の勢いに今度こそ困惑するコロウに3人は和気藹々とその成長を喜ぶ様に声を掛ける。

「いや~凄かったよおコロウくん~初めてのボス戦とは思えない戦いっぷりだよ~」
「うむ、ルメルの言う通り見事なものであったな!」

「い、いやぁ……僕がというよりもみんなの力……って感じで……」

「でもそのみんなの力を上手く使えたのはコロウくんの実力って奴だよ。これがパーティの醍醐味ってやつよー強敵だってみんなとなら…ってね。コロウくんにもそんな仲間が見つかるといいよね」
「その通りだ。そしてコロウよ。これよりもその拳にて、そんな仲間を守れよ」
「……ああ、ありがとう。守ってみせるさ。――必ずね」

 亞比栖が拳を突き出せば、それに呼応する様にコロウもその拳に自分の拳をコツンと突き合わせる。そしてレントもルメルも自分たちもと拳を突き出し、4人は拳と拳を合わせて、それぞれの健闘を称え合う。この戦いの経験はコロウにとって決して忘れられない――コロウのこれからの道を示すかけがえの無いものになった事だろう。

エアリィ・ウィンディア

 第一層のボスエリアに挑むその直前、エアリィ・ウィンディア (精霊の娘・h00277)は新人たちに向けて、最後の確認を行っていた。ボス戦を前に緊張からか表情がこわばっていた新人たちにエアリィはそんな彼らの緊張を解こうとするかの様に太陽の様に明るい笑顔を見せている。

「ボスエリアだね。ん-、どうする?一緒にやってみる??」

 そんなエアリィの問いに新人たちはお互い顔を見合わせ、少しの沈黙の後頷き合って口々にエアリィの最後の問いの答えを出した。彼らの答えは総じてイエス。そんな彼らの答えに満足する様にエアリィは大きく頷いた。

「それなら、一緒に行こうかっ!」

 さぁ、初めての冒険を締めくくる時が来た――エアリィは新人たちに最高のフィナーレを送る為に最後のブリーフィングを開き、陣形の確認を行った。それはこのダンジョン攻略を進めるにあたって研鑽し続けて来た基本的な陣形だ。

「タイガさんとコロウさんは前衛だね」
「は、はい! 頑張ります!」
「うん、年長者として頑張らないとだね」
「ほら、固くなってるよ~? リラックスリラックス! 2人は前に出ると思うけど無理は厳禁! 基本的に防御と回避を重視して敵の動きをしっかり見て対処するって事が大事だからね! 観察して、隙があれば攻めて貰ってもちろんオッケーだからね!」

 エアリィが前衛の2人にアドバイスと鼓舞を行っているとエミリアが自分も声を掛けて欲しそうにチラチラとエアリィに視線を送っていた。そんな彼女の様子に気が付いたエアリィは彼女にも笑顔で声を掛ける。

「エミリアさんは後方からの援護射撃だね。準備は大丈夫?」
「ふ、愚問だな。私は常在戦場、いかなる時も常に準備は――」
「偉い! エレメンタルバレットでの支援がキーだからね! エミリアさんの腕に掛かってるから期待してるよ!」
「ふっ……任せるが良い。なにせ私は――」

 そして最後にエアリィは新人たちの中でもっとも不安そうにしているリンを和ませる様にニッコリと微笑んだ。

「そしてリンさん、大丈夫だよ。リンさんならきっと出来る。パーティーの生命線だから。戦場全体を見て、回復タイミングを逃さず……落ち着いてこの事を忘れなければきっと上手くやれるよ!」

 エアリィのその声掛けに新人たちのパーティーを包んでいた緊張感は和らいだ。そしてもう一度彼らを振り返ると、小さく頷いて『亡腕のマヌ』に向けて歩き出す。

「……大丈夫、みんなならできるっ!――さ、それじゃ行こうかっ!」

 歩を進めエアリィを中心に彼女と共に戦いに向かう新人たちに精霊力を宿した力が繋がって行く。|精霊力接続《エレメンタル・コネクト》――その魔力を接続した全員の足取りは軽く、直前まで見せていた緊張による固さもすっかり消えている。そうしてマヌもまた新人たちに試練を課そうと剣を構え、数多の腕を空中に躍らせた。

「さ、それじゃ……まずは私から行かせて貰うねっ!」

 精霊剣と精霊銃を引き抜き、エアリィは足取り軽くマヌに向かって駆け出した。草原を吹き抜ける風の様にマヌの懐に飛び込んだエアリィはその速度を剣に乗せ一閃。火花を散らし鎧を掠める切先に身を退けるマヌに対しエアリィは更に追い打ちを掛け、その零距離から精霊銃を腕に覆われた顔に突き付け炸裂させる。その一撃に仰け反りながらもマヌは力づくで態勢を立て直し、その勢いのままにエアリィに向けて剣を振り下ろした。その剣がエアリィに届くその直前にエアリィは剣で受け止め、マヌの剣は火花を散らしながら滑り落ち、大地を砕く。――から、切り上げる返す刃がエアリィを追撃するがそれもまたエアリィは魔力による障壁を展開し弾き飛ばす事に成功した。

「うおおおおお! 加勢します!」

 エアリィがマヌの攻撃を防ぐと同時に突入したタイガの振るう剣がマヌを怯ませ、その胴体にコロウの重い一撃が命中する。その連撃に怒りを露わにする様にマヌが剣を振り回し2人を掠めればリンの回復魔法が素早くその傷を癒やした。そして大きな隙を晒すマヌの頭部にエミリアの狙撃が見事に命中する。危なっかしい部分は多少ありつつも見事な連携にエアリィも思わずグッと拳を握る。

「みんな凄い! よーし、さ、それじゃ本気出そうか」

 新人たちの連撃によろめくマヌ。そんな彼らの活躍に応える為にとエアリィが迅速に詠唱を終えれば六色の光のオーラがエアリィの体を螺旋を描く様に翔け周り、懇々と溢れ出す鮮やかな光がエアリィの体を覆う。そして一息に地面を蹴り、マヌを目掛けて疾走する。早く、速く、疾く――空を翔ける鷹の如く速度で再びマヌのその懐に飛び込み、そして一閃。|六芒星増幅術精霊斬《ヘキサドライブ・ブースト・スラッシュ》――複合魔力を束ねた斬撃が光を煌めかせながらマヌの装甲をいとも簡単に切り裂いた。

「さ、みんな、畳みかけろーっ♪」

 エアリィのその勇姿に感化された新人たちもまた果敢に戦場に飛び込んで行く。剣も拳も銃も魔法も、その全てが1つになり勝利を目指して戦い抜く。エアリィと新人たちのその連携は第一層の守護者であるマヌを圧倒する。

エレノール・ムーンレイカー

「さて皆さん、大体のダンジョン攻略の最後に待つものは何でしょう? そう、ボスモンスターです」

 第一層の最終フロア。天井から木漏れ日が差す、その最後の場所で決着の時を待つ『亡腕のマヌ』。エレノール・ムーンレイカー (蒼月の守護者・h05517)はゆっくり、ゆっくりとそのボスモンスターに向かって歩を進めて行く。これが総仕上げだ――自分が新人たちに教えられる残りの全てを伝える為、その技や想いを記憶に残す為、エレノールはその決戦に単独で挑んで行く。

「最後の講習は強敵の倒し方をお教えしましょう。わたしが何を見て、何を考えているのか、よく観察してくださいね」

 新人たちを安全な後方へと下がらせ、エレノールはあえてマヌの正面から対峙する。彼女の目の前に立つマヌは殺気立ち、複数の腕を取り巻きに禍々しい剣を構えている。それに対しエレノールは怯む事無く、それどころかマヌの攻撃範囲に居ながらも平然と後方へ待機している新人たちへと言葉を投げ掛ける。強敵相手に必要なのは敵の動きを見切り、魔術や大技への対応を瞬時に判断する事――そう説明している最中にマヌの剣がエレノール目掛けて振り下ろされた。後方でその様子を見ていたリンが思わず悲鳴を上げる。だが、当の本人であるエレノールはその剣の切先を涼しい顔で眺めていた。

「では、まずは実際に敵を観察する事について教えるとしましょうか」

 視線の先で動く剣の切先――その弧を描く軌道からその太刀筋を読み切り、最小限の動きで体を移動させればエレノールの真横をマヌの剣が通り過ぎ、風がその美しい銀髪を揺らした。直後、マヌの付近に浮かんでいた魔術師の腕の指が印を結び――魔法弾が放たれた瞬間にエレノールが唇が僅かに動き、それに呼応する様に彼女が身に着けていた蒼月のアミュレットが蒼く輝き展開した障壁がその魔法弾を打ち消した。フロアボスに相応しい苛烈な連撃、マヌはそれに加えてエレノールの体力の消耗を狙うかの様に複数の屍肢をエレノールへと差し向けた。

 「汚れ無き聖者の光よ、全てをあるべき姿へ戻せ......!」

 だが、そのマヌの連撃をエレノールは更に上回り、屍肢がエレノールに殺到するよりも早くその詠唱は唱えられていた。それと同時にエレノールの輪郭が仄かに明るく浮かび上がったかと思えば神々しき光が奔流する。解き放たれた|聖なる波動《ホーリー・ウェーブ》は屍肢らを飲み込みそのまま消滅させる。そんな手際よくマヌの猛攻を凌いだエレノールに対し、新人たちは思わず歓声を上げた。

「武器は何か、どんな構えを取るか、攻撃の太刀筋、魔法の際の予兆——このあたりをよく観察しておけばこの様に対処も容易になり生存率もグッと上がります。——当然、パーティを組んでいるのであれば、その情報共有も大事になってきますね。さて……次は反撃とさせて頂きましょうか」

 マヌの一連の攻撃を凌ぎ、その様子を観察していたエレノールは既に相手の動作、攻撃の癖、そこから考えられる攻撃パターンを概ね熟知していた。後はそれをどう処理して攻撃に繋げて行くかなのだがエレノールは即座に反撃に移る事はしなかった。強敵との戦いの中で焦る事こそが危険なのだと十分に理解していたからだ。当然、その事も新人たちに教えなければならない——エレノールは呼吸を浅く、静かに賢帝の剣を構えると内臓された賢者の石を溶媒に水鏡のように青く透き通る水属性の刀身を錬成する。

「さぁ、ここからが重要です。例え、戦況がこちらに傾いたと思っても決して焦って攻撃してはいけません。冷静に、隙を見つけて確実に——常に相手を観察する事を意識しておきましょう」

 新人たちに指導をしながら、賢帝の剣の切先をマヌに向けたままジリジリと間合いを測り、エレノールの瞳はマヌの動きを追って揺れている。剣を振り上げてからの振り下ろし、その太刀筋に合わせ賢帝の剣で弾けば火花と同時に水飛沫が飛び散りマヌの体は大きく態勢を崩す。その隙を見逃す理由も無く、足を踏み込み重心を安定させてからの一撃。エレノールのその一撃はマヌの鎧を袈裟切りに裂いた。それ以上の追撃はしない、エレノールは一度身を退くと再びマヌの動きを観察し、そして再度その攻撃に合わせ受け流すと更に一撃を与える。ヒットアンドアウェイ、エレノールはじわじわとマヌの体力を削り、そして追い詰めた。

「動きが鈍った! 今こそ一気呵成に攻める時です!——この黄金の眼に、痺れなさい!」

 静から動へ——マヌが剣を取り零したその瞬間、エレノールの叫びに呼応しその両の瞳に刻まれた魔法陣が黄金色に輝いた。|黄金色の魔眼《パラリシス・アイズ》——その魔力に囚われたマヌは電撃を浴びた様に全身が痺れ、落とした剣を拾い直す事もままならない程に指の先すら動かせない。先ほどまでの慎重な立ち回りとは真逆の大胆な動き、エレノールは一息にマヌの懐へと飛び込んで行く。

「貴方の『源』を喰らわせてもらいます……!」

 エレノールの賢帝の剣が黒の瘴気に浸食されていく。それは瞬く間にその刀身を包み込み、禍々しい漆黒の刃を持つ|蝕の魂剣《ソウル・イーター》へと生まれ変わる。それはまるで命を刈り取る死神だ。そして全てを終わらせる漆黒の刃はエレノールの手によって振り下ろされた。断頭台の様に鋭いその一撃はマヌの体を一直線に切り裂いて、溢れ出る黒い瘴気がその命を蝕んだ。そしてついにマヌは鎧の金属音を鳴り響かせて地面に倒れ、周囲を漂っていた無数の腕と共に力尽きた。——ボスモンスター討伐完了だ。

「す、すげええええ! めちゃくちゃ凄いっス!」
「ふ……流石は私の師たちだ。まさかこれほどまでの力とはな……」

 戦いが終わり、新人たちの歓声が上がる。彼らは興奮気味に戦いを終えたばかりのエレノールたちのもとへと駆け寄って来る。若いタイガとリンの2人は特にキラキラと子供らしくキラキラとした尊敬の目を向けていて、戦いが終わった安堵もあって凛としていたエレノールの口元も思わず緩む。そんな新人たちを見ているとこれで彼らへの指導も終わりかと思うと名残惜しい気持ちもあったが、一先ずはこれで区切りを付けなければならないとエレノールは新人たちに最後の言葉を送る。

「さて、いかがでしたか? このように普段は慎重に立ち回りつつも、時には大胆に攻め立てる事も大切になります。今後も冒険者としてダンジョンに挑むのであれば強敵との戦いはいずれは避けられないでしょう」

 エレノールのその言葉に新人たちの表情に不安の色が灯る。EDENたちとボスモンスターのあの苛烈な戦いを目にし、あれと自分たちが同じ事をやるとなるとその不安も当然だろう。だが、エレノールは自分たちが指導した彼らの実力をしっかりと理解している。座学を真摯に聴き、演習をこなし、こうしてボスモンスターとの戦いからも逃げ出さずに立ち会った彼らが冒険者の資質をしっかり持っている事を知っているのは紛れも無いエレノールたちだった。そんな新人たちの不安を払拭するようにエレノールは微笑む。それは戦いの時の凛とした表情とは違う、全てを優しく包み込む月の光の様に柔らかな笑みだった。

「——その時は今日のことを思い出してくださいね」

 そうしてEDENたちによる新人冒険者たちへの指導は第一層のボスモンスター討伐を以て完了となった。キミたちが指導し鍛え上げた新人たちはキミたちの背を追ってダンジョン攻略に励んで行く事だろう。もしかするとそんな彼らが偉業を成し遂げて、このダンジョン——『イニティス』の街に大きな変革を齎す時が来るかもしれない。そんな未来が来るかどうかはまだ未知数だが——少なくとも新人たちと共に第一層を制覇したキミたちの偉業は疑いのない所だ。

 キミたちはこれから新人たちと共に街に戻り、この事を祝って祝杯を挙げてもあげなくてもどちらでも良い。どちらにせよ、今この時を以て、新たな冒険が始まるのだから。

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