突撃!! 赤い傘の女を追え
チャ~チャラ、チャチャチャラ♪
「しょうわ仮面のおねえさま、顏を隠して正義を助ける、いい女ひとよ♪」
自分のテーマソングを歌い終わり、全身を赤いマントで覆ったまま、空中回転で降りてきた。
|昭月・和子《あきづき・かずこ》(しょうわ仮面・h00863)は星詠みを伝える。
「√能力者のみなさん、集まっていただきありがとうございます。『私立アテナイ学園』で起こった事件から、次のゾディアックサインが現れました」
学園の放送部にヒーローが招かれた時のことだ。
教師のひとりが女怪人『マンティコラ・ルベル』だったと判明した。
「実はこの報告は二度目になります。情報が集まったおかげで、人間態の彼女を尾行する機会を得ました」
しょうわ仮面はマントのあいだから、データメディアとその印刷物を渡してくる。
赤い傘を差した女性が写っている。予知をもとに再現したものだ。
「同一個体が蘇生しているのか、別個体が同じ人物になりすましているのかはわかりませんが、この人間態が学園から退勤するところから、尾行してもらいます」
時間や場所は判っている。
どうやら今回は、学園外での活動になりそうだ。
「尾行がうまくいけば、悪のアジトを突き止められるでしょう。もし、途中で気付かれて『マンティコラ・ルベル』や他の妨害者と戦闘になったとしても、おそらくまたゾディアックサインに繋がるはずですから、現れた敵は全力で撃破してください」
赤いマスクの星詠みは、そう言って頭を下げた。
「私の姿も赤ばかりなので、ヘンな気がしますが、ターゲットは『赤い傘の女』とでも呼びましょう。うふふ」
布地越しに、しょうわ仮面の唇が笑っているのがわかる。
「『赤いコウモリ傘の女教師』では、長すぎですよね」
第1章 冒険 『尾行――悪のアジトを探せ』
学園の付近にあるパーキングメーターに、現代東京ではギリセーフの、尖ったデザインのマシンが並んで止まった。
巡航単車『イロタマガキ』からは、ベニイ・|飛梅《とびうめ》(空力義体メカニック・h03450)が。
戦闘4輪バイク『アルファルク』から、|白神・明日斗《しらかみ・あすと》(歩み続けるもの・h02596)。
そしてもう一台のライダー・ヴィークルから|久遠・氷蓮《くおん・ひょうれん》(紅蓮の氷術師・h01405)が降りてくる。
幹線道路からはひとつ奥まっているので、周囲は雑居ビルばかり。通行人もおらず、裾がボロボロになった白衣の男と、長身で金髪ロングな男が歩いてきても、目立つことはない。
白衣の男、|葬刻《そうこく》・ルキ(狂気のゾンビドクター・h00628)は両手を広げて歓迎した。
「ようこそ|バイク乗り《ヴィークル・ライダー》の諸君。……と言っても、僕は√マスクド・ヒーローの出身じゃないけどねぇ」
ニィっと笑った顔には傷がある。デッドマンなのだ。
長身の男、モルドレッド・アーサー(防導の騎士・h04734)は、自分もそうだというように頷きを繰り返した。彼だけ少しばかり年齢が上の風貌だ。
悪のアジトを探す任務に志願した、√能力者たちの集合場所だった。
下校時間は過ぎており、例の教師が校門から出てくるまであと少し。どんよりと曇っているから、まもなく小雨程度で降ってくるだろう。簡単に配置を確認する。
「相談どおり、主たる尾行は|俺《わたし》の役目である」
モルドレッドが自分の胸に手を置く。皆が頷き、氷蓮が代表して理由を繰り返した。
「俺たちのなかじゃ、あんたが一番の大人だ。街の中をひとりで歩いていても不自然じゃないからな。頼んだぜ」
「承知した。迷子を捜すのも、うろつく怪物を追うのも得意だ。相手は女であるが、簒奪者を逃しはせん」
「頼もしいねぇ。赤い傘なんて目立つ目印だ、見落とすはずがないよね」
ルキはまた笑うが、ベニイがおずおずと手を挙げる。
「目立つのは私たちのほうです。上手くやらなければ……」
「そうそう、だから俺とベニイのマシンはここでお留守番、っと。じゃ、始めさせてもらうぜ」
明日斗は、『アルファルク』に搭載された自在錬金クラフトツールを開く。ルキも白衣のポケットをまさぐった。
「僕のかわいいペットを紹介しよう」
召喚されてきたのは、ゾンビ化したネズミたちだ。
「こいつらの鼻は鋭いし、動きも素早い。ターゲットに気づかれることなんてまずない。モルドレッドのバックアップには丁度いいと思うよ。あと、ベニイ君がつくってくれたアレも運べるからさ」
「お願いします。私は高い位置から追跡しますから……」
「よし、できた。ひとつ連れていってくれ」
一対の羽根が妖精を思わせる、小型機だ。錬金術で作成したばかりのものを、明日斗は渡した。
「視界やセンサーは俺のデバイスと共有できる。残りの『フェアリートルーパーズ』は赤い傘の女よりも先行させて、地域を探査するぜ。移動なら、氷蓮の後ろに乗せてもらえるからな」
「あんたは情報に集中だ。俺のヴィークルが一番、不自然じゃないらしい。ハハハ」
マシンに戻ってエンジンをかける、氷蓮。
小型機を引き連れ、明日斗がタンデムシートに座る。一礼したモルドレッドが学園へと歩き去った。その後を追う、ゾンビネズミ。
「さあ、僕はさらにその後ろをゆっくりと追わせてもらうとしよう。焦らず確実にね」
ルキが姿を隠すと、ベニイは地面を蹴って大きくジャンプする。
雑居ビルの壁面にある、雨どいや室外機、窓枠に手足を引っかけて屋上まで登りきってしまう。地上の能力者とは別に、屋上から屋上、屋根から屋根へと飛び移り、校門を見下ろせるビルまで来た。
「赤い傘……赤い傘、と。本当に、目立つ目印で有難いです」
時間も予知とピッタリ。
小雨が降ってきたので、教師としてアテナイ学園に務めている女は、傘をさした。周囲に生徒はおらず、ひとりで路地を歩きだす。ベニイは身体ひとつでパルクールしながら追跡する。
時折、距離をおいたモルドレッドの姿が視界に入ることもあり、またフェアリーを通じて情報収集組の予測も進んだ。
赤い傘の女は、幹線道路からは離れていく。
より小さめなビルが立ち並ぶ、雑多な地域へと入り込んでいくようだ。たぶん、ネズミは隠れやすい。
最初は通行人がいた路地も、いまはまた彼女ひとりになった。モルドレッドも身を隠しながらついていったが、急に女の足がピタリと止まる。
屋上から乗りだしていたベニイも、ハッと口を押さえた。
赤い傘がくるりと回り、背後を確認したようだ。
そこには、折り畳み看板。
女は首を傾げたが、もともと進んでいた道へと戻っていった。
モルドレッドは看板の裏だ。運んできたゾンビネズミたちが足元で縮こまっている。
(「ベニイ殿が作ってくれた城壁である。ルキ殿の下僕たちもお役目、御苦労」)
高い位置の追跡者は、安堵とともにビルから跳躍した。明日斗の機械についたカメラの映像が手掛かりになったらしい。
スピーカーから氷蓮の声がして、傘の女の目的地を割りだせたと言い出す。
「街のなかを走るのも、迷宮探索みたいなものだ。ましてや、ナビや検索も使えるんだからな。その先に、潰れたバッティングセンターがあるぜ」
はたして、モルドレッドとベニイ、ルキがそれぞれの位置から見たところ、傘の女はその閉鎖された建物に入っていった。
合流した√能力者たちは、裏口をみつけて侵入する。
「む、いかん!」
モルドレッドが走りだしたので、ベニイたちも倣った。
打者が立つ位置のそれぞれに、一般人と思われる人々が立たされており、投球装置から赤い光線が照射されていたのだ。被害者の身体が透けかけており、一刻の猶予もなかった。
体当たり気味に押しのけて、光線の範囲から外す。モルドレッドは、彼らに脱出路を伝え、すぐに逃がした。
「凍り潰れろ! ヘイルストーム!」
「さ、行って来い、フェアリー」
「『|動物膿場《ペット・セメタリー》』!」
投球機をつぎつぎと破壊する、氷蓮の雹。明日斗の小型兵器のチェーンガン。そして、ルキのゾンビネズミの牙。
一般人を助けた能力者たちに、男の声が聞こえてくる。
「ヒーローたちが入り込んでいるぞ。また、ルベルの奴がしくじったな!」
バッティングセンター全体に響いてくる。ベニイはたずねた。
「赤い傘の人ではないのでしょうか。あなたは誰ですか?!」
「ヒャーッヒャヒャヒャ! さきに、改造が終わった人間からお目にかけよう。『おしおき先生』、でてこーい!」
受付のあるあたりから、集団の影が近づいてくる。姿は一般人とかわらぬが、眼が赤く輝いていた。
潜入工作用改造人間『スニーク・スタッフ』だ。
第2章 集団戦 『潜入工作用改造人間『スニーク・スタッフ』』
敵集団の服装に共通点はない。
この廃業したバッティングセンターまで尾行するあいだに街ですれ違った通行人、行きずりの他人同士のようだ。
ゆえに、人工的に光る眼と、手にした金属バットの異様さが際立つ。
四方はフェンスで囲まれているが、営業していないことを示すように、その外を板張りで塞いでいた。上もネットで覆われている。雨がわずかに抜けてくるのと、日も落ち暗くなってきた。野球場ではないから、たいして広くはない。
ベニイ・|飛梅《とびうめ》(空力義体メカニック・h03450)は、状況をそのように観察する。
「不利、ですね」
「改造人間だって? 手ごわいのかな」
|葬刻《そうこく》・ルキ(狂気のゾンビドクター・h00628)はまだ楽しそうに言った。
「親近感が湧くなぁ。何を隠そう僕も自分を改造した身だしね。さっき壊した機械が改造用で、こいつら『スニーク・スタッフ』が完成品だというなら、赤い傘の女を追った僕たちは、みごと『戦闘員工場』を探しあてたってことさ」
腕に武器を装着した。
チェンソーアームだ。
「それじゃあ、僕が性能をテストしてあげよう」
「フハハハ! 少年よ、すべてご明察だ。だが、君たちヒーローに勝てるかな。そっちの女の判断のほうが的確だ。少々、分が悪いとみるがね」
笑い声とともに、黒づくめの男が現れる。
目元は白い仮面で隠されていた。
「あ、あなたは……」
ベニイが言いかけると、男は遮るように人差し指を立てる。
「我が名は秘密結社オリュンポスが大幹部、コマンダー・オルクス!」
「おや、ボスは集団敵を倒したら姿を現わすんじゃないの? まぁ、アテナイとオリュンポスで古代ギリシャ縛り、いかにも黒幕っぽいか」
ルキは疑問と推察とを口にする。
すると、目の前のコマンダー・オルクス(悪の秘密結社オリュンポスの大幹部・h01483)とは別に、笑い声が響きわたった。
「ヒャーッヒャヒャヒャ! そんな組織など知らん。勝手にやってきて関係者ヅラするな!」
確かに、集団敵を呼び込んだのは、こっちの甲高い声のほうだ。
オルクスは虚空にむかって叫んだ。
「関係ならある! 我が組織は、大総統の名の下、世界征服を目的としている。競合する目障りな他組織は、先に潰すことにしたのだ。よって……」
立てた人差し指から、細い糸のようなものが流れだす。
「ヒーローとは一時的な共闘。……ということにしてくれたまえ」
糸はあやとり用の紐で、『刃鋼紐』という金属製のものだった。ベニイにむかって口角をあげてみせる。
「はい、コマンダーさん。最初からそのつもりでしたけど……。いえ、味方になってくれて心強いです」
ちょっと眉根を寄せてから、リボルバー式拳銃を構える、空力義体サイボーグ。
「不利とは戦場の狭さのことで……。ヴィークルもありませんし。あらかじめ銃を作っておいて正解でした」
装備の名は、『テンジンリボルバー』という。
謎の声が、命令をくだした。
「ヒャヒャヒャ! おしおき先生は、出来の悪い生徒の弱いところを見つけだす。探査義眼には十分な時間があった。かかれェ!」
潜入工作用改造人間が、トスバッティングの要領でボールを打ってきた。
弾幕のように数が多い。
「コマンダーさん、ルキさん。一緒に戦うなら、しっかり繋がっておいてください」
ベニイはサイバー・リンケージ・ワイヤーを接続した。
これで相互に情報を共有し、敵に見抜かれた隙を補えるかもしれない。実際に、飛んでくる打球を、強化された反応速度で回避する、デッドマンと大幹部。
金網とネットに手足を引っかけ、空中ダッシュも使って、ベニイは上方へと登った。
日没も利用する。自身の肌はデジタルタトゥーで暗く偽装し、額にのせていたパイロットゴーグルをおろして、仕込まれた暗視機能を作動させた。
(「撃つしかない……。それしかないんです……!」)
元が一般人である事実を意識の隅へと追いやり、テンジンリボルバーのトリガーを引いた。
電磁投射方式で金属片を高速射出する。
背広やスーツの男女が切り裂かれ倒れていく。上からの攻撃はやはり効き目がある。
伏した者たちの周囲を色のついた気体が取り巻いた。
打撃を続ける改造人間にも流れていく。
「さぁ、この攻撃に耐えられるかな?」
チェンソーアームとは逆の手から、『|悪魔の毒々ステージ《ミスト》』が散布されていた。ルキの毒は、弱った敵にトドメを刺し、動ける者からも体力を削る。
追い打ちで飛び込み、改造人間の手足を唸るチェンソーで切断した。
キン、と金属の抵抗感。
鋸刃をバットで受け止めるものが現れる。探査義眼の効果か。打球の数もさらに増える。
コマンダー・オルクスは接近の機会をつかめない。あまりの動きに、姿がブレて見えるほど。
ところがバットを振るのとは別に、縦方向への揺れが起こる。
地面は平坦なままだ。改造人間たちだけ、バッティングフォームが崩れている。
「散歩をしていたら、ここが妙に騒がしかったんだ」
「私もたまたま覗いてみたの。困っている子供はいないみたいだけど、悪の組織を放っておいたら、きっと子供たちにも悪さをするわよね」
√能力者の援軍だ。
長髪の男性と、ぼさぼさ髪の女性。
シリウス・ローゼンハイム(吸血鬼の|錬金騎士《アルケミストフェンサー》・h03123)に、アメリー・コノハナ(愛の匣・h03444)である。
「助っ人に来たのはいいが、俺の『|霊震《サイコクエイク》』はまだ完全じゃない。体制を立て直すなら早めに頼む」
「でしたら、私がお先に。『|名称未設定《ミンナイイコナノ》』」
アメリーは、三色のトランクで殴りかかる。
赤のドロシーを金属バットの振りに合わせて牽制にすると、緑のショウスケが敵を捕まえる。青のニニで、強撃の連続攻撃を与えた。
「ニニちゃんは、お洒落さんで、パパとママが大好きなのよねぇ」
「お二人にも……!」
ベニイはリンケージを伸ばした。
同時に、どこかに潜んでいるボス、コマンダー・オルクスとは別の笑い声の主を警戒する。
逃走された場合に備え、ヴィークル/AIのイロタマガキを呼び寄せてはいるが。
「助かる。命中がいくぶん安定した」
シリウスの|霊震《サイコクエイク》は、個人ごとを目標に指定して、震度7までの揺れを起こすのだ。
コマンダーは敵に飛び掛かった。
「フハハハ、これがお前に送る揺籠だ! 『|揺籃の綾取《クレイドル》』!」
あやとり紐が、『|伸縮自在刃鋼束紐《キャッツクレイドル》』に変形する。チェンソーアームと渡りあっているバット使いの上半身に巻きつき、捕縛した。
「改造に切開は必要なかったみたいだけどねぇ。バラバラに戻しておくよ」
ルキの鋸刃が、縛られた上半身を袈裟懸けに切断する。
「『せんせい』は、テストを受ける側には慣れてないかな」
「保護者が預けたいと思うような、教師ではありませんよね」
アメリーの青のトランクが改造人間を殴り潰す。
「ヒャーッヒャヒャヒャ! 一般人を相手させるのだ、戦闘能力はこんなものだ」
あの、笑いだ。
(「ええ? うんと近くで聞こえた?」)
ベニイがゴーグルを使うと、なんと等身大のコウモリが、すぐそばのネットに逆さまにぶら下がっていた。
「ヒャヒャヒャ! 次はこの俺……ぐあッ!」
コウモリが名乗る前に、ベニイはテンジンリボルバーを撃ち込む。ネットから剥がれて落ちていく、怪人。
そのせいなのか、残りのスニーク・スタッフは極端に動きが悪くなった。
「あのコウモリ、文字通り高見の見物だったと言うわけですね」
ベニイ・|飛梅《とびうめ》(空力義体メカニック・h03450)は、怪人を追ってネットから降下しようと構えたが。
「狙える? いや、まだ無理。排除するしかない、……戦闘員を……!」
さきほどの射撃で、残りの改造人間たちの注意をひいてしまった。
見上げてくる顔に仕込まれた義眼から、赤い光がいくつも照射されてくる。これも、『おしおき先生』とやらの能力だと、笑い声の主は喋っていた。
悪事のために、要らぬ機能を持たされたのだ。
「改造された人達の仇、逃がしたりしない!」
集団敵との決着を急ぐため、ベニイは再度、デジタルタトゥーの迷彩による肌色を変更しての偽装を行う。ゴーグルの暗視による状況監視を組み合わせ、ネットの弾力から空中ダッシュし、壁にあたるフェンスの格子に張り付いた。
改造人間の打球は、フライのような山なりで、ここに陣取れば致命傷はくらわない。
隙を分析されても平気だ。
フェンスをつたって細かく位置を変えながら、テンジンリボルバーから金属片を高速射出し、一体ずつ減らしていく。
「タマイロガキ!」
呼び寄せていた巡航単車が間に合った。
閉店を示す板張りの一枚を突き破り、バイクが屋内に突入してくる。空中でシート部分に立つと、ベニイはすぐさま電撃属性キックを放った。
「|戦術飛梅《プラム・ミーティア》!」
バッターボックスのひとつを蹴り込むと、放電が周囲に広がる。
残った潜入工作用改造人間『スニーク・スタッフ』の体にスパークが走り、すべてがその活動を停止した。倒れたのちに、ゆっくりと消えていく眼の光。
そして、いまのキックでピッチングマシン側へと追い込まれたかっこうになる、人型コウモリ。
潜伏や逃走を諦めたのか、開き直ったように名乗ってきた。
「ヒャーッヒャヒャヒャ! 俺は秘密結社プラグマの流れを汲む、コウモリプラグマ!」
第3章 ボス戦 『『コウモリプラグマ』』
「ほうほう、プラグマの怪人か」
|葬刻《そうこく》・ルキ(狂気のゾンビドクター・h00628)は、白衣の袖を擦りあわせる。
「コウモリの怪人なんて実にホラー映画的で唆るねぇ。実に良い仕事だ」
共感か、興味。
傷跡の目立つ顔でそんな感情を表す。
飛行モードのヴィークル、『イロタマガキ』が降りてきて、ベニイ・|飛梅《とびうめ》(空力義体メカニック・h03450)は地上の味方と合流した。
「『|天神《テンジン》ロマンチカ』!」
白梅の香りと共に、ベニイの能力が高まる。
さっき開けた板壁の穴からは、眩く熱い光が洩れてきた。別のヴィークルがジャンプで乗り込んでくる。
「ぶっこみ行かせてもらうぜ! 『|Sun Rise《サンライズ》』!」
魔導バイク『エアハート』に跨った犬獣人の少年、エイル・イアハッター(陽晴犬・h00078)だ。その腰には、女性の白くて細い腕が巻かれている。
「エイル君、運転うまいし。あーしは歩いてくるのに疲れちゃってぇ」
ユーフィリア・ユーベルメンシュ・ユニタリア(▓▓▓▓▓▓・h03120)は、巫女服に包まれた身体を、少年の背に押しつけた。バイクの後ろに乗せてきてもらったらしい。
「そんなことないよ。姉ちゃんの力はすげぇから。攻略情報をがんばってね」
言いつつ、サンバイザーを目深におろす。
クリアブルーなので、エイルの照れくさそうな顔は丸見えだが。コウモリプラグマは続々と集結するヒーローたちに、笑い声を引きつらせた。
「ヒャッ、ヒャヒ……。俺の実験に付き合うのは、もう終わりかぁ?」
「それじゃあ次は僕の研究成果の方を見せてあげようか」
ルキが、ぞろぞろの袖を掲げた。
「『|大ゾンビ東京に現る《クラッシュ・オブ・ザ・タイタンズ》』、発動♪」
白衣が膨らむ。
隙間から見えるのは、複数のゾンビが組み上がっていくさまだ。ルキは『巨大合体ゾンビ』へと変身したのである。
「みんな、いまから怪人の動きを封じるからね。そら、毒のブレスを……」
合体ゾンビは構えをとる。
コウモリプラグマも足を踏ん張り、ブレスに耐えようとした。だが、双方ともに変化がない。
「あ、あれ……?」
異常を感知したルキの声が漏れた。ベニイはゴーグルに手をあてる。
「攻撃手段解析……。これは、無効化能力同士で相殺?」
「いやあ、僕のほうが損だよ。いまので内部のゾンビを利用したバッテリーが切れかかってるもの」
ルキは焦っていない。かわりの大声が響きわたる。
「大丈夫なのかよ!! けっこう、ピンチじゃんか、風のむくまま来てみれば!」
|風間・颯斗《かざまはやと》(くるり風のひととき・h03154)だ。
大人の男性がもうひとり。
「電源って、ゾンビなんや」
落ち着きはらい、棒立ちに見えるが、実は隙のない構えをとっている。|神之門・蓮人《かみのと・れんと》(再現不可能・h01288)も|√《ルート》を彷徨い、行きついた。
「ヒャヒャ、なんか知らんが助かったぜ。俺のコウモリブラスターをくらえ」
怪人は戦場全体に攻撃を放つ。
「今度は……って、超音波!? 建物内全部が攻撃範囲!」
ベニイの注意を受けたものの、能力者たちには回避のしようもない。
「おい、そっちの男ふたり。声が大きいほうと顔がイイほう」
『エアハート』の後ろから、ユーフィリアが呼びかける。
颯斗は自分を指差し、蓮人の顔を見てから、また巫女を振り返った。
「俺たちのことだよね?」
「他におらへんわ」
「怪人を集中させるな。いくらでもコウモリを召喚されてウザい」
人間災厄『生命、宇宙、あらゆる全てへの究極の解答』にして妖怪探偵、サイコメトラーの攻略情報取得能力だ。
「幽かに|象《しんり》に触れた。巨大ゾンビが復活すれば、あーしらの勝ち。方法はエイル君にかかってる」
「そうなの?!」
ハンドルを握った少年の背がしゃんとする。
「おふたりが攻撃を加えるあいだ、わ、私が超音波攻撃を受け止めます!」
ベニイは声を裏返らせた。
自身と『イロタマガキ』の空中移動で、敵怪人と味方の間に位置取る。
両腕を胸の前で交差させる格好で、ヘルメットと義肢の両前腕部のエネルギーバリア発生機構を集中させ、自分の前方に扇状に展開させた。
範囲への超音波攻撃を受け止め遮ることで、颯斗と蓮人を庇うのだ。
「集中防御態勢! ええと、テンジンブロック!」
「助かるぜ。俺がなんとかするから、もうちょっと辛抱してくれ!」
颯斗は、風車の付喪神だ。
数秒間だけ念じたあと、『リアルタイムどろんチェンジ』で大きな姿になった。
神器『風車神楽大車輪』で風を起こす。
「ヒャ、ヒャあ? 身体が勝手に浮いちまう……」
コウモリプラグマは翼に風を受けてしまい、位置を動かされる。
驚かせ力が上昇しているので、怪人は集中できない。煽られ、飛ばされた先へと、蓮人は雷属性の気弾を射出する。
「『|雷紅拳《ライコウケン》』!!」
合わせた両掌から出た気弾は、命中したあと爆発を起こした。コウモリプラグマをさらに動かす。黒い翼がよじれている。
「あと、電力供給もできるから……ゾンビの人へ」
今度は片手を、ルキの変身体へとかざした。ビリビリと小さな雷が、吸い込まれていく。
吹っ飛びながらも、怪人の口からは超音波が発せられている。
エネルギーバリアにも限界はありそうだが。
「私は大丈夫、まだ耐えられます! 皆さんは攻撃を!」
「ベニイ姉が……。俺のできる事って?」
エイルがせがむと、後ろからユーフィリアが明かす。
「ざっくり言うとねぇ。ルキとコウモリプラグマは、同一の行動が干渉しあって互いを縛ってるんだ」
この助言、『|象牙座の感触《フラグメント》』にはいくつかのリスクがあり、攻略情報はぼやけたものになる。
「どういつのこうどう……?」
「『実験』と『団体』。自分たちで言い合ってたっしょ。ふたりとも実験に目がない同士でぇ。実験の課題も、団体の制御でこれも同じ……」
コウモリプラグマは新団体の面倒を見ている。
この『工場』で構成員を増やし、赤い傘の女を通じて『学園』で怪人の実験をしていたようだ。
「エイル君は家族が多くて団体行動が得意じゃんか。ルキのなかにあるゾンビたちを一致団結させろ。敵の新団体はまだ出来上がっていない。越えて行け」
「うん、俺。わかったよ!」
「いまのでわかったんか」
「すげぇな、少年」
「がんばって」
助言にエイルは応え、牽制攻撃を続ける蓮人と颯斗に防御役のベニイは彼を励ました。
魔導バイクが、ルキの傍らへと滑り込む。
「ゾンビ兄、ゾンビ姉! ゾンビくん、ゾンビちゃん! ほら、いっしょに必殺ワザだよ!」
少年が声をかけただけだ。
これにより、敵との因果関係が切れた。
「ふむふむ、本当に再起動できたよ。では、遅くなったが究極のゾンビ科学、その一端をお見せしよう」
合体巨大ゾンビは大きく立ち上がる。
牽制チームが射線を空けると、毒ブレスがそこを通り、浴びたコウモリプラグマは四肢をつっぱった姿勢で宙に貼り付いた。
そこへ、巨大な腕が振り下ろされる。
ルキは怪人にむかって、強烈な一撃を叩き込む。
ズドーンと、バッティングセンターの地面にめり込んだ。能力は解除され、裾がボロボロになった白衣姿に戻ると、怪人が埋まった穴だけが残される。
用心しながらも、穴をのぞきに寄ってくる、能力者たち。パーキングメーターに集合したときのような。
「ヒャ、ヒャヒャ、戦闘員工場はほかにもある。『スパルタン教育委員会』の完成が楽しみ……うう、高久先生、ごめんなさい」
コウモリプラグマは顔だけを上にむけて最期の言葉を吐き、泡になって消滅する。