シナリオ

砕け、悪の戦闘員育成計画

#√EDEN #√マスクド・ヒーロー

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●悪の戦闘員育成計画
 秘密結社『プラグマ』。√マスクド・ヒーローの世界を根城とする、悪の組織だ。
 全ての√を手中に収めるべく暗躍する彼らの魔の手は、√EDENにも当然及んでいた。

 これはそんなある日の朝のこと。
 中学校に遅刻した健一少年は、いつもの教室が異様な空気に包まれていることに戦慄していた。
「お、おい皆どうしちゃったんだよ!」
 健一少年の言葉に、同級生たちはピクリとも反応しない。彼らはみな机にかじりつき、一心不乱に何かをノートに書き写している。
 爆弾の作り方、誘拐の方法、人を騙すためのイロハ……。
 ありとあらゆる悪いことはもちろん、敬礼の手の角度、声の張り方などなど、わけのわからないことが事細かに記されていた。
「お、おい裕子、一体何があったんだよ」
 隣の席の女子生徒の肩を揺すって問いかける。すると裕子は女子の力とは思えないほどの怪力で、健一少年の腕を振り払う。
「い、いってぇ!」
「邪魔をしないで! 私はプラグマに忠誠を誓うの!」
 物凄い剣幕で健一少年を睨みつける。怖気づいた健一少年の背後をぞぞぞと黒い影が這い寄った。
「ふふふ、あなたも皆と一緒になりなさい」
 しゅるり、と健一少年の腕に糸が絡みついた。
 その糸を伸ばした主は長い黒髪の美しい女教師……だが、その下半身からは脚が何本も伸びて、顔にはいくつもの目がギラリと輝く。
「うわぁああああ!」
 彼女の名はジョロウグモプラグマ。その異様な姿に、健一少年は大声を上げた。

●学園に潜む野望を砕け
「星が降りてきたよ。みんな、力を貸して」
 √能力者に向かい、|雨深《あまみ》・|希海《のあ》(星繋ぐ剣・h00017)が静かに告げた。
「√マスクド・ヒーローの秘密結社『プラグマ』は、全ての√を支配しようとしているのは知っているよね。その構成員が√EDEN侵略のために事件を起こすって予知を見たんだ」
 希海はそう言うと、スマホで地図アプリを開く。
「この中学校。ここにプラグマの怪人が潜入して、生徒たちを洗脳しようとしているみたいなんだ」
 そうやって生徒たちを戦闘員に育て上げることによって、√EDENでの勢力を伸ばそうということだろう。
「そんなこと、させるわけにはいかないよね」
 希海はそう言うと、詳細を語り始める。
「学校ではもうすでに洗脳教育が始まっちゃってる。だからまずはこれを何とかして止めないといけないね」
 力づくで生徒たちを止めてもいいが、まだ洗脳されきっていない状態なら説得や、その他の外部的な力で止めることも出来るだろうと希海は付け加える。
「でも、気をつけなきゃいけないのは、工作員の存在だよ」
 どうやら、怪人たちは洗脳教育を完璧なものにするべく、何人かの工作員を生徒に紛れ込ませているようだ。工作員達が率先して洗脳教育を受けることで、生徒達を誘導しているのだ。
「もしそれらしい人を見つけたなら、縛り上げてしまえばより効果的なんじゃないかな」
 だが、洗脳教育が破られようとすれば、怪人たちも抵抗するはずだ。
「首謀者の怪人や工作員の他にも、協力者がいるみたい。戦況によってはその協力者が出てくる可能性もあるね」
 そうなれば、その協力者も撃退しなくてはならないだろう。だが、星詠みだけではその未来を読むことは出来ない。だから希海は一言「気を付けて」とだけ付け足すのだった。
「最後はこの事件の首謀者、ジョロウグモプラグマとの対決だよ。倒せば生徒たちの洗脳も完全に解けるはず。だから、絶対こいつはやっつけてきてね」
 そう語り終えた希海は、改めて√能力者たちに向き直った。
「生徒たちの未来も、この世界の未来も……みんなの手で守り抜いて欲しい」
 そういって、希海が頭を下げる。
「お願い。皆の力を貸して」
 √EDENの中学校を舞台にした洗脳計画。
 プラグマの野望を打ち砕くため、√能力者たちの戦いが始まろうとしていた。

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第1章 冒険 『学校に突入or潜入せよ!』


九・白

 秘密結社『プラグマ』。√マスクド・ヒーローを拠点に、全√支配を目論む悪の組織だ。
 彼らは今√EDEN侵略の足掛かりとして、学校を使った洗脳教育を施していた。
 そんな情報を受けて、|九《いちじく》・|白《つくも》(壊し屋・h01980)は思わずにはいられない。
(「洗脳して手駒を増やそうというのは悪の組織らしいが、なぜ敬礼の角度や声の張り方まで……?」)
 とはいえ、このまま罪もない子供たちを悪の道に堕とすわけにはいかない。
「なんとかするとしようか」
 学校の校門から教室を見上げて、白は呟いた。

「あめんぼ赤いなプラグマ万歳!」
 プラグマへの忠誠を誓うための発声練習に勤しむ生徒達。全員が起立し、ビシッと片手を高く上げている。傍から見れば異様な光景だが、生徒たちは疑うことなく、大きな声を上げている。
 そんな中、ガララと教室のドアが開いた。
「失礼するよ」
 そう言いながら、ぬぅっと巨漢の男――|白《つくも》――が顔を出す。
 スキンヘッドに浅黒い肌、おまけにサングラスときたその男の風貌は、|その筋《・・・》の人を思わせる。
 その風貌だけで震え上がる者もいるだろうが、生徒達は気にする様子もなく、発声練習を続けている。
「今に見ていろプラグマ万歳!」
 そんな生徒達の姿を見ながら、白はズカズカと教壇へ上がり、教卓の前に立つ。
「プラグマなんかに忠誠を誓うなんて馬鹿な考えは辞めるんだ」
 首を「くい」と捻れば、真っ暗なサングラスの奥に鋭い眼光が潜んでいることを思わせ、凄まじい威圧感を放つ。
 一部の生徒達がざわつき始めた。だが、それでも発生練習は止まらない。
「う、うまくいったぞプラグマ万歳!」
 その時、ピクリと白の眉が動いた。
 間違いない。今率先して声を発した奴――。
 ずん、と教壇から一歩踏み出して、白がのしのしと教室の中心へと向かってゆく。
 そして、一人の生徒の前に立つ。前に立たれた生徒は明らかに目が泳いでいながらも発声練習を続けており、周囲の生徒達と反応が違う。
「お前が工作員だな」
「……ひっ!!」
 ガタンと椅子を倒して、逃げ出そうとしたその生徒――工作員に先んじて、白の拳が工作員の頬を強かに打ち抜いた。
「ぐぇっ」
 カエルが潰れたような声を上げて、工作員が床に倒れる。白はそれを手早く縛り上げて教室の隅に転がすと、ゆっくりと振り向いて生徒達に尋ねた。
「それで」
 ぞわ、と生徒達の身の毛がよだつ。
「次は誰がああなりたい?」
「い、いやだぁ!」「私やめる!」「うっ、ひっく……ごめんなさぁい……」
 懇切丁寧……な説得で、生徒たちが次々教室から逃げ出してゆく。
 ……そう、実に丁寧な説得であったから、生徒たちは素直に言うことを聞いてくれたのである。

龠影・凛音

 ゆらりゆらりと廊下に白い影が揺れる。
 偶然廊下を通りかかった先生は、白い影に気が付かず、するりと脇を抜けてゆく。が、通り過ぎた直後に悪寒を感じ、ぶるる、と身を震わせた。
「……風邪かな?」
 首を傾げながらも、先生はスタスタと去ってゆく。
 そこに|龠影《よかげ》・|凛音《りんね》(幽霊の霊能力者・h05393)がいたことも知らずに。

「……つまりこれってやりたい放題じゃーん!」
 ばっと両手を上げて、凛音は喜んだ。
 彼女は幽霊である。つまり、普通の人間には見えない存在だ。教室に入ったって誰にも気付かれない。そういう状況になると、人間ってやつは自然とワクワクしちゃうもんだ。
「中学校なんか久しぶりだね……あの頃よく幽霊になる妄想してたな~」
 とか言いつつ、実際幽霊になるなんてあの当時は思いもしなかったと凛音は述懐する。
 あぁ懐かしや青春時代。そんな風にはしゃぎながら凛音は教室に入り込むと、ふらふら教室の中を見て回る。
 どうやら今、この計画を立案した怪人は教室にいない様子。しかし、生徒たちは自習的に戦闘員になるための訓練を実施しているようだった。
 それもこれも、内部に紛れた工作員のせい。洗脳を施された生徒たちに工作員の扇動が加わることで、彼らは何も疑うことなく自分から勉強をしてくれる。
「さぁ、次は幼稚園バスジャックの方法を勉強するぞ!」
 そんな一言で、生徒たちは一斉にその方法を学び始める。が。
 パンっ、と突然謎の音が響き渡った。
「ふぇっ……?」
 パン、パチン、ばちっ。
 謎の音は止まらず、むしろ少しずつ頻度が増してゆく。これは霊障、ラップ現象だ。
 これには洗脳された生徒達もザワついて、ペンを走らせる手も鈍る。
「そんなことばっかりされると困るんだよねぇ」
 もちろん、これも凛音の仕業。幽霊となった利点をフル活用して、生徒達を困惑させる。
 その間に、凛音は工作員らしき生徒の机に手をかざす。
 ふわりと現れた「過去の所有者の記憶」を凛音は見つめ、ふむ、と頷いた。
「つまりそこにいる奴は、似た顔の別人てことだね?」
 物品の記憶はそれを肯定する。つまり、工作員が本物の生徒に変装しているのだという。
「ならこいつは因縁の相手だね? よおし今始末してあげよう!」
 凛音が嬉々とした様子で『サイコメトリック・オーラソード』を生み出した。そして目の前の工作員に思い切り斬りかかる!
「ありがとうサイコメトリー!」
「なっ、ぎゃぁぁっ!?」
 すっぱりと斬られて、工作員が本来の姿を現した。その姿を確認した凛音が工作員をむんずと持ち上げる。
「倉庫にでも縛ってやろう!」
 ざわつく生徒達。
 だって突然同級生の姿が変わったと思ったら、突然奇声を上げて気絶して、挙句今ふわふわと浮かんで教室の外から出ていこうとしているのだ。
 きっと洗脳教育も忘れて、物凄い形相で恐怖をしていたに違いない。

萩高・瑠衣

 中学校の音楽室。防音の重い扉が押し開かれると、突如として大きな合唱が静かな廊下に漏れ聞こえた。
「我らプラグマ、プラ~グマ~~♪」
 歌っているのは、洗脳された生徒達だ。今は多分、組織を讃える歌の練習をしているんだろう。
 そんな様子を一瞥して、音楽室の扉を開けた少女――|萩高《はぎだか》・|瑠衣《るい》(なくしたノートが見つからない・h00256)はツカツカと生徒達の前に歩み出る。
 瑠衣は小さく礼をすると、合唱の声にかき消されないように大きな声で挨拶をした。
「こんにちは。 今日は特別講師として、日本の音楽を学んでもらいたくやってきました」
 だが、そんな言葉は洗脳された生徒達には届かない。なら、仕方ないとばかりに、瑠衣は篠笛に口をつけた。

 時は遡ること数十分前。
「中学校かあ……」
 校門の外から現場の校舎を見上げて瑠衣が小さくため息をついた。
 中学校を卒業したのなんてもう何年も前。いざ卒業してしまうと、学校にはなかなか入りづらくなる。それも他校ならなおさらだ。
 さらに瑠衣は高校生。保護者や生徒として潜入するにはどちらも少し年齢が合わない。
「不審者扱いされそう、困ったわ……」
 と首を捻ったところで瑠衣は「あっ」と小さく声を上げる。
「そうよ、中学なら教科ごとに先生が変わるじゃない!」
 それなら、瑠衣の得意分野が役に立つ。自前の篠笛とその演奏術は、学校にとって良い課外学習の機会となるはずだ。
「ついでに音楽教師になるための経験にとかって言えば受け入れてくれるんじゃない?」
 嘘も方便。こういう時には重要だ。
「そうと決まれば……!」
 瑠衣は職員室の扉を叩き、今に至ったのであった。

(「この合唱を利用する……!」)
 瑠衣は篠笛を吹きながら、即興で音を紡いでゆく。威勢の良いプラグマの歌に、か細くも力強い笛の音が混ざり合うと不思議なハーモニーとなって教室内に響き渡ってゆく。
 それは魂鎮めの囃子。周囲の状況から即興で作られた旋律であった。
「プラ~グ……マ……?」
 その音色を聞いた生徒達の歌に迷いが生じる。
 何故今、自分はこんな歌を歌っているのだろうか?
 正気に戻りかけている生徒達を観て、焦ったのは工作員だった。
「……ぷ、ぷらーぐまっ、ぷらーぐまっ!」
 誰よりも率先して声を張り上げる。だが、その声も次第に弱まってゆく。
 瑠衣の奏でる音色は非戦のための即興曲。工作員さえもが、その音色に染まり、戦意を失い始めていた。
 そして、いつしか、音楽室の中は篠笛の音色だけが静かに響いていた。瑠衣は生徒達の洗脳を解き、工作員さえも鎮めてしまったのだ。

八木橋・藍依

 さらりと長い黒髪がなびいて、若い女性が廊下を歩く。
 ツカツカと歩く様はいかにも生真面目で、見た者に信頼感を与えてくれる。
 彼女は今日から赴任の教育実習生。
 だがそれは仮の姿。本当の姿は、√能力者|八木橋《やぎはし》・|藍依《あおい》(常在戦場カメラマン・h00541)。この学校の事件を解決するために訪れたのである。
(「私自身に教養が無いのが不安点ですが……」)
 そう思いつつも、持ち前の明るさがきっと補ってくれるはず。藍依はそうやって自分を信じ、教室のドアを開けた。
「こんにちは……?」
 教室に入った藍依の瞳にまず目に飛び込んできたのは、一心不乱に銃器の解体組み立てを繰り返す生徒達の姿であった。
 皆教室に入ってきた藍依のことなど気に留める様子もなく、無言で作業に取り組んでいる。これが洗脳の結果なのだろう。
 一瞬驚いた藍依ではあったが、それならば話は早い。
 藍依は挨拶を中断し、生徒達の間を歩き回りながら、彼らの作業を見守ることにする。
(「なかなか手際が良いですね」)
 生まれてこの方、銃など持ってもいなかったであろうに、彼らはごく短期間で銃器の扱いを習得しようとしていた。立派な戦闘員が出来上がるのも時間の問題だろう。
(「けど……」)
 今はまだまだ未熟な様子。うまくパーツを嵌められない者、小さなパーツを無くしてしまう者、構造を理解しきっていない者。
 そんな生徒達の中にも一際手馴れているものがいた。そう、それはまるで|日常的に使い慣れて《・・・・・・・・・》いるよう。藍依はそれに目ざとく気付き、にこりと笑って近づいてゆく。
「とても手際が良いですね。でも、銃のメンテナンスならこうしたほうが効率がいいですよ」
「え、……あっ」
 机の上の銃を取り上げ、即座に組み上げた藍依が、流れるように銃弾を込めて生徒に向ける。
「先生、銃器には詳しいんですよ。工作員さん」
「……くそっ!」
 バレた。それに気付いた工作員がその場から逃げようとするが、最早手遅れ。工作員の腕をつかんだ藍依は一気に力を込めて、工作員を締め上げる。
「ぐああっ……!」
 工作員が無力化したためか、生徒達がざわつきはじめた。
「皆さん、ここまでにしておきましょう!」
 藍依はにこっと笑って、残る生徒達の作業を止めるのであった。

カンナ・ゲルプロート

 中学校の指定制服。1月にしてはパリッとした新品に身を包んだ少女が廊下を歩く。
 中学生にしては幼さのある顔立ちで、長い髪がふわりと柔らかく揺れる。誰が見ても、彼女を美少女と評すだろう。
 だが、その少女の影は異様に伸びていて、彼女が尋常の者ではないことを物語っていた。
 影の先端が校舎の柱にまで至ると、そこから翼が広がって烏の姿となった。
 烏は影の中から飛び出すと、残った影が細かく割れて、蝙蝠となる。
 最後に同じくぬるりと黒猫が飛び出して、影から生まれたモノ達はそれぞれ散ってゆく。
「頼んだわよ」
 そう呟いた少女の名はカンナ・ゲルプロート(陽だまりを求めて・h03261)。齢100をゆうに超える吸血鬼が、その正体であった。
 カンナは飛び立った影達……使い魔達を見送ると、改めて校舎内の気配を探る。
 多数の√能力者が潜入と阻止を試みてくれたおかげで、正気に戻った生徒たちの数もそこそこ増えてきている。
 その様子に安心しつつ、使い魔達からいまだに洗脳の解けていない教室の情報を耳にする。
「わかったわ」
 そう言うと、カンナは時計を見る。
 時刻は間もなく休憩時間。チャイムが鳴れば、この時ばかりは生徒達も若干の自由が与えられる。
「それじゃ、早速行きましょう」
 カンナは球形の時間に合わせるように、軽い足取りで歩き出した。

 チャイムが鳴って、校舎がにわかにざわつきだす。
 生徒達は教室から各々散ってゆき、束の間のひと時を過ごす。
 そんな中、教室に残っている生徒のうちの一人。次の「授業」の予習をする彼に影が落ちた。
「ねえ、ちょっとお話しましょ?」
 にこりと笑う少女――カンナがそこにいた。

 屋上へと続く階段の一番上。物置代わりにもなっているそこは、休憩時間だが人気は少ない。
 カンナは生徒をそこに呼び出し、にこりと笑う。そして。
「ごふっ!?」
 影が突如として生徒の腹を打った。
「わかってるのよ、あなたが工作員だってこと」
「な、はっ……!?」
 戸惑う生徒、だが焦っているのは確実だ。
「もう情報は上がってるの。観念しなさい」
 影はそのまま生徒……否、工作員を縛り上げ、身動きを取れなくする。
 その様子にカンナはにこにこと笑っているが、その実、心情はややおっかない。

 ――私はねえ、洗脳とか歪んだ教育で、子供を戦争の道具にするような奴はヘドが全身の穴という穴から出るほど嫌いなのよ。

 だからこそ、目の前にいる工作員は簡単には許せない。思わず「ぶっこ……」と言いそうになって、こほんと一つ咳払い。そうして首を捻って、工作員に尋ねた。
「ね、協力者いるんでしょ? 教えてよ。あとあなた以外の工作員のことも知りたいなあ」
「し、知らない……!」
 想定内の返答だ。カンナは「ふぅーん」と返事を返して、再びにこりと笑う。
「学校をあなた達の血でブラッドバスにはしたくないの」
 ぞくり。工作員の背筋が凍る。目の前の少女は口調や表情こそ穏やかだが、やると言えば完全にやるといった気配をしている。
「スマホのロック解除して私に見せたりしてくれたら嬉しいなあ」
「う、うう……」
 工作員は観念し、工作員や協力者の情報をカンナに流すことになるのであった。
 その後、工作員が戦えないほどにボコボコにされたことは言うまでもない。

第2章 ボス戦 『葛城・リサ』


 工作員達が次々√能力者に発見されたことで、洗脳教育の進捗に陰りが見え始めた。
 正気に戻ってしまった生徒達もいる、という情報に、空き教室の机に座った少女がため息をついた。
「仕方が無いわね……」
 制服姿で長い髪、だがその手には長い日本刀が握られていた。
「邪魔者を倒せば、計画の再開は出来るということね?」
 彼女こそがプラグマの協力者、葛城・リサである。万が一の時に備えて雇われていたのだ。
「さっさと消えてもらいましょう」
 彼女さえ倒せば、この計画の首謀者が顔を出すだろう。
 ここで敗れるわけにはいかない。
九・白

 葛城・リサと対峙した白は、卒塔婆を手にして身構える。
「差し詰め、プラグマに雇われた傭兵ってところかな?」
 そうは聞くが、白にとってはリサがどういう経緯で協力者となったかなどに興味はない。
 あるのはただひとつ。リサが敵だということだけ。
「邪魔をするというのなら、叩き潰してやるよ」
 そう告げた直後に白が動いた。
 卒塔婆を振り、蹴りを見舞う。リサは卒塔婆を刀でいなして蹴りを避け、間合いを取ろうとする。
「随分と乱暴ね」
 白の先制攻撃はリサにダメージは与えない、だが、この戦いの主導権は確実に白の手に握られた。
 その証拠に。
「うっ……!?」
 間合いを取ろうとしたリサの髪をぐいと掴んで、リサを力任せに引き寄せる。
「逃がさないよ」
「このっ……!」
 そこに肘打ちを入れれば、リサの腹にそれが深く食い込んだ。
 乱暴極まりない白の立ち振る舞い。それこそが白の得意とする喧嘩殺法だ。
 使えるものは何でも使う。空き教室に重ねられた机があればそれを掴んで叩きつける。黒板消しがあれば、はたいて目くらましにする。
「ごほっ、な、なんて男……っ!」
 視界が白く煙る中でリサは、自身が白に追い詰められていることを自覚する。
 このままではいいようにやられてしまう。
「そうはいかないわ!」
 刀を構え、霊力を放出する。その霊力はリサの全身を廻り、彼女を強化する。
 だが、リサの動作に合わせるように、白も呪文を紡ぐ。
「ナウマク サマンダ バザラ ダン カン」
 その言葉とともに現れた不動明王の化身が、白を包む。続けて卒塔婆に|黄昏色の炎《迦楼羅炎》が宿り、倶利伽羅剣となった。白は蜻蛉の構えをとって、リサを迎え撃つ。
「決着をつけようってわけ?」
 リサも切っ先を真っ直ぐ白に向けると、両者の間にビリビリとした緊張が走る。
「…………」
「…………」
 無言、無音。どちらかが動けば勝敗が決する。
 永遠にも思えるような時間。互いに頭の中で読み合い、勝ち筋を探る。
 そんな中。
「……はぁっ!」
 先に動いたのはリサだった。隼の如き刺突の一閃が白の喉元へと放たれる。
 だが、白が一枚上手であった。
「ふんっ!!」
 刺突を倶利伽羅剣で受け流すと、リサに完全な隙が生まれた。
「あっ……」
「決まりだ」
 そこに白の一撃が叩き込まれた。防具を貫通するほどの威力を誇る一撃、倶利伽羅剣・抜刀。
「あぁっ……っ!!?」
 崩れ、よろけるリサ。その一撃は確実にリサの命を削ったのであった。

八木橋・藍依

 プラグマの協力者、葛城・リサ。少女の姿をした√能力者だ。
 彼女は様々な勢力の協力者として、様々な界隈で暗躍している。
 今回もその仕事のうちの一つなのだろう。特に焦る様子もなく、刀を構えて√能力者に対峙する。
「【速報】白昼の凶刃、プラグマの協力者登場!……タイトルはこれでいきましょう!」
 そんなリサの様子に、藍依はスマホに手早くメモを残す。それからHK416を構えると、藍依は高らかに宣言した。
「ルート前線新聞社が生中継でお送りします!」
 直後、無数のドローンと報道カメラが飛び出した。
「……これはなに?」
 カメラのレンズを向けられ、リサが顔をしかめる。
「ほら、もっと悪い顔をしてください!」
 そう言いつつ、藍依がHK416の銃口を向け、トリガーを弾く。
 放たれた銃弾に合わせるように、ドローンからも援護射撃が放たれる。
「ふぅー……」
 それらを前に、リサは意識を集中する。そうして感じた『過去の素体』の記憶を呼び覚まし、刃を振るう。
 きぃんと甲高い音がいくつも響いて、銃弾が弾かれてゆく。リサは速度を倍加し、攻撃を防いだのだ。
「その表情です! こっち向いてくださーい!」
 冷たい表情を見せたリサの横顔を捉えて藍依が呼びかけ、カメラがフラッシュを瞬かせる。
「くっ……!」
 そのフラッシュにリサの動きが止まる。そのほんの僅かな時間を藍依は逃さない。
「今ですっ!」
 藍依が駆け、リサに肉薄する。こつんと銃口がリサの脇腹を突いて、藍依はすかさずトリガーに指をかける。
「し、まっ……!」
 激しい射撃音が響き渡る。零距離射撃。リサがいくら速度を上げたところで、避けることすら出来ない状況であれば、銃弾を受けるしかない。
 無数の弾丸が突き抜けて、リサの身体にいくつもの穴が開く。
 ただの人間であれば、もはや命はなかっただろう。
 しかし、リサは刀剣の|少女人形《レプリノイド》。未だにその瞳に闘志は消えていない。
「よくも、私に身体に傷をつけてくれたわね!!」
 激昂したリサが叫ぶ。プライドを大きく傷つけられたのであろう。再び刀を構え向かってくる姿に藍依は満足げに告げる。
「いいですね、良い記事になりそうです!」

カンナ・ゲルプロート

 葛城・リサ。クールな出で立ちに冷たい視線。一見して強敵とわかる√能力者だ。
 そんな彼女を見て、カンナはぽつりと呟く。
「……苦手なタイプだわ」
 こういう手合いは挑発にもあまり乗ってくれないだろう。そう思いつつもカンナは口を開く。
「あなたが協力者?」
 その問いかけに、リサがカンナの方を向く。
「一応聞くけれど、何で悪の組織カッコワライに協力してるの?」
 リサが口を開こうとしたところで、カンナが遮るように言葉を続ける。
「次にお前は『答える必要はないわ』と言う……ってな気もするけどね」
 ぴくり、カンナの言葉にリサの眉が動く。だが、カンナは構わず告げる。
「ま、どうでもいいわ」
 カンナの足元から影が伸びてゆく。教室一面を覆い尽くそうというほどに広がる闇から使い魔達が現れ、リサを取り囲む。
「這いつくばらせて、あなたで床掃除してあげる」

「私の……」
 影に取り囲まれたリサが小さく呟く。
「ん?」
 手にした刀を構えて自身の『過去の素体』の記憶を呼び覚ましながら、キッとカンナを睨みつける。
「私の言葉を取るなっ!」
「あら、図星だったの結構気にしてたんだ」
 意外だと思いつつも、カンナは|影技《シャッテン》を伸ばす。
 それをリサが刀で切り裂くと、パッと影が弾け飛ぶ。だがその隙にも続けざまに影技はリサに襲い掛かる。
「はぁあっ!」
 リサの刃が走る。どうやら彼女が呼び起こした記憶は速度らしい。全方位から浴びせかけられるカンナの攻撃を高速でいなしてゆく。
「やるじゃない、これならどう?」
 カンナは続けて影の中から立方体を作り出す。|影装《シャッテンゼット》と呼ばれるそれを、リサの視界を遮るように投げつける。
「甘いっ!」
 リサがそれを切り裂くと、立方体が割れて散ってゆく。一進一退、手数対手数の勝負は、互いに勝負を決めあぐねているような印象があった。
 近接戦を得意とするリサに対し、カンナは影技を使った中距離戦闘。さらに周囲の使い魔達がカンナの耳や目となることで、死角を減らし、接近を阻んでいる。
 だが、その動きはリサに『カンナが距離をとった戦いを得意とする』ことを想像させた。
 だからこそ、その瞬間を見逃してしまったのだ。
「死ぬにはいい日よ」
 爆発的な踏み込みとともに、カンナがリサに肉薄したのだ。
「なっ……!?」
「――ぶっ飛ばしてあげる」
 その勢いを載せて、巨大な鋏『アトロポス』をリサに叩きつける。
「あぁあっ……!!?」
 重く強烈な一撃をまともに受けて、リサが吹き飛ばされてゆく。
「私もね、接近戦のほうが得意なのよ」
 壁に打ちつけられたリサに向かって、カンナは胸を張るのであった。

龠影・凛音

 葛城・リサの戦う様子を教室の外から眺めて、凛音はうぇっと顔をしかめた。
「この子もここの生徒? 重度の中二病だね……」
 実際は生徒ではない、が、確かにその容姿からプラグマが適任と判断したのだろう。
 彼女はあくまでプラグマの協力者。だが、仕事を請け負う以上は責任がある。
「だから、育成計画を妨げるようなことはしないんだろうね」
 一時的に戦場を離れて、凛音は戦い方を考える。うーんと少し悩んだ後、閃いたというようにポンと手を叩いた。

「鬼さんこちらっ!」
「へぇ、そんなところにもいたのね……」
 凛音の呼び声に気付いて、リサが刀を構える。
「あなたも消してあげる」
 そう言い、駆けだした瞬間であった。
「うっ……!?」
 ぞろぞろと生徒達が廊下に溢れ出したのである。
 時間は丁度休憩時間。しかも、次の授業は移動教室で、たくさんの生徒達が一斉に移動を始めたのだ。
(「敵の協力ができない生徒の群れにかくまってもらおう!」)
 これが凛音の作戦だった。生徒達は幽霊である凛音の姿が見えない。なので、彼らの方から自然と視界を遮ってくれるのだ。
「うわっ、え、刀?」
「きゃぁっ!」
 リサの姿に、洗脳の解けた生徒達がパニックに陥る。
「……くっ、邪魔よ!」
 リサは刀にの持つ霊力をその身に纏い、ギラリと瞳を輝かせる。
 直後、リサが廊下を蹴った。生徒たちの間を縫うように、高速で凛音に向かってゆく。
「やっぱりきた!」
 だが、それも凛音の予想の範疇。ちらりと目をやる先に、ゆらりと浮かぶインビジブルを認めると、凛音はそのインビジブルに向かって手を伸ばす。
「捉えた!」
 リサが凛音に肉薄すると、超高速の突き『刺突閃・隼』を繰り出す。だが。
「……!!」
 眼前にいたのは、インビジブルであった。
「そんなに素早かったら、避けられないでしょ!」
 インビジブル・ダイブ。視界の中にいたインビジブルと凛音の位置を入れ替えたのだ。
 繰り出した突きを収めることもできず、リサはインビジブルに触れてしまう。すると、その身が震え始める。インビジブルに触れたことで、霊障が発生したのだ。
「うぐぅっ……!!」
 すべて凛音の計算通り。結果として生徒たちにも怪我はなく、リサだけに不意打ちのダメージを与えることに成功したのであった。 

萩高・瑠衣

「新手……?」
 演奏を終えた瑠衣が、√能力者達と戦う葛城・リサに気が付いた。
 俊足による斬撃を得意とするリサの行動を見るにつれ、瑠衣の表情は徐々に浮かない顔になってゆく。
「やっば……」
 あれほどの速度で戦われては、魂鎮めの囃子は効きそうにない。それに戦場は教室で、広いとは言い難い。
「あんまり刀使いと戦いたくないんだけどなー……」
 そんな泣き言まで出てしまうが、瑠衣は気を取り直し、リサへと向き直った。
「やれる事をやろうかしら」

「あなたも邪魔者ってわけね……?」
 瑠衣に尋ねるリサの姿は、√能力者達の攻撃によってボロボロになっていた。
 もう一押し、それさえあれば勝てる。そう思い、瑠衣は篠笛を口に当てる。
「ううぅううっ!!」
 それに合わせるように、リサが唸る。その素体の過去にある記憶を呼び起こし、腕力を増大させたのだ。
「はぁっ!!」
 リサが瑠衣めがけて駆ける。
(「……きたっ!」)
 瑠衣はそれを感じ取り、オーラを纏う。オーラの幕は、その刃を滑らせてゆくが、それでもリサの一閃は凄まじい。
(「うっ……!」)
 瑠衣の肩に痛みが走る。リサの刃がオーラを突き抜け、瑠衣の肌を斬り裂いたのだ。
 だが、それでも瑠衣は篠笛から口を離さない。痛みに耐え、心を鎮め、指先に意識を集中する。

(ピリリリリりりり……)

「うっ……ああぁあっ!!」
 リサががくりと膝をついた。
 瑠衣の篠笛の音色がリサの全身を震わせる。これが瑠衣の奏でる偽伝・鼓囃子。特殊な周波数が、リサに震度7相当の震動を与えたのだ。
(「……これならまともに動けないでしょう?」)
 篠笛を奏で続けながら、リサの様子を見る。もはや、リサに抵抗する力は失われていた。
 いくら腕力を増強したからとはいえ、これほどの震動では刀すら握ることが出来ない。それに、震動は√能力者達が与えた傷をさらに広げてゆくのだ。
(「さっさと退いてくれると嬉しいのだけど、ね」)
 リサが立ち上がろうとしても、よろけるばかり。周囲の机に自らぶつかってしまう始末だ。
「こ、こんなことで……」
 とうとう倒れこみ、まるで動くことのできなくなったリサ。広がった傷は僅かな命を吹き消し、遂に倒れ伏すのであった。
「……」
 インビジブルとなって消えてゆくリサの骸を前に、瑠衣は静かに、鎮魂の音色を奏でるのであった。

第3章 ボス戦 『ジョロウグモプラグマ』


 しゅるしゅるしゅる、と天井から伸びた糸を伝って、その女はルート能力者の前に現れた。
「まったくだらしないわねぇ」
 潜入工作員、雇った協力者。
 どいつもこいつも、この完璧な作戦を支えるには力不足だったようだとわざとらしく嘆く。
「け・ど」
 女は複数の目をギラリと輝かせ、笑ってみせた。
「私さえいればこの作戦は成功するの。だから皆、残念だったわねぇ」
 その女――ジョロウグモプラグマは手にした糸を手繰り寄せると、何人もの生徒達が操り人形の如くぎこちない動きで現れ、女の前に立った。
 これまでにない強力な洗脳を施された生徒達だ。今までのように説得をしても効果はほとんど無いだろう。だが、彼らもこの怪人を倒せば洗脳から解放されるはずだ。
 生徒達のためにも、この怪人を速やかに倒さねばならない。
 そんなジョロウグモプラグマは、あっ、と何か閃いたように笑った。
「そうよ、貴方達も素敵な怪人にしてあげるわ。こいつらよりもよっぽど強くて使えそうだもの!」
 まるで相手の心などを理解しようとしないその姿勢、正さねばなるまい。
 最後の戦いが今、始まった!
九・白

 ――完璧な作戦、完璧な計画。
 ジョロウグモプラグマはそう言って笑っていた。が。
「失礼だが、日本語は不自由かな?」
 白の直球の一言に、場が凍り付いた。
「……な、何を言っているの?」
「協力者が力不足なのではなく、作戦が穴だらけだった。それだけだろ?」
 サングラスの下から鋭い眼光がジョロウグモプラグマを突き刺す。するとその顔はみるみる赤くなり、言葉にならない唸り声をあげた。
「君の稚拙な作戦もこれで台無し。残念だったね」
「うっ、うるさいうるさいうるさい! 私が完璧って言ったら完璧なのよ!!」
 ジョロウグモプラグマが逆上し、四本の脚を振り上げた。すらりと伸びた美脚は美しさをただ誇示するものではない。れっきとした凶器なのだ。
「ふっ……!!」
 だが、白もその攻撃を見越していた。その脚による攻撃を見切って打ち払うと、出来た隙間に入り込んで、一気にジョロウグモプラグマに肉薄する。
「無茶苦茶をぉっ!」
 脚を打ち払われたジョロウグモプラグマが体勢を崩しながらも拳を放つ。……が。
「……っ!!」
 ジョロウグモプラグマの拳が止まった。白から発せられるビリビリとした鋭い殺気に気圧されたのだ。
 その隙をついて、白は手近な脚をむんずと掴んで一気に引き寄せる。
「ひぃっ!?」
 白の一連の動作は、おおよそ武術とは言えない純粋な『暴力』であった。
 喧嘩殺法、と、そう言われてしまえばそれまでだ。だがそれでも白は構わない。
(「凡ゆる物を用いて粉砕するのが私の流儀」)
 見てくれや形に囚われないからこそ出来ることがある。例えば……目の前の敵を徹底的に叩き潰すこと、など。
「ふぅっ……!!」
 脚を引っ張られたことで、ジョロウグモプラグマの顔面が丁度白の拳に迫った。白はそのまま指を突き出すと、眼窩に指をひっかける。
「ぬぅうんっ!!」
「ぐぇっ!!」
 力任せに腕を振り下ろせば、ジョロウグモプラグマが地面へ叩きつけられた。間髪入れずに、白は手にした卒塔婆を振り上げる。
「ちょ、ちょっ……!!」
「砕けろ!」
 卒塔婆で打ち据え、拳を振り抜き、踏みつけ蹴り上げる。近くに机があればそれを叩きつけて、徹底的に痛めつける。
 散々に痛めつけられたところで、ひょうぅっと糸が伸びてジョロウグモプラグマが天井へと逃げてゆく。
「ま、待って、いったんタイっ……!!」
 問答無用。ジョロウグモプラグマの懇願も効かずに、白はひたすらにそいつを痛めつけるのであった。

八木橋・藍依

 この状況においてもなお勝ちを確信しているジョロウグモプラグマ。
 そんな彼女にもはや語る言葉もない。藍依はアサルトライフルを構え、周囲にドローンを放って告げる。
「さっさと倒して事件を解決しましょう」
 だが、そんな態度の藍依に、ジョロウグモプラグマも高笑いで対抗する。
「そんな簡単にいくと思っているのかしら!」
 そう言いながら糸を吐く。すると、しゅるしゅると糸が連なり織り重なり、悪趣味なセンスのスーツが誕生する。
「さぁ、貴女も素敵な怪人に洗脳してあげるわ!」
 ジョロウグモプラグマが、スーツを藍依に投げつけた。スーツはまるで生き物のように裾を開き、藍依を取り込むべく覆いかぶさろうとする。
「そんなものは着ませんよ!」
 そんなスーツをアサルトライフルで蜂の巣にすると、ジョロウグモプラグマはあんぐりと口を開けた。
「なんてことをするのよ! 私のスーツが穴だらけじゃない!」
 激昂するジョロウグモプラグマだが、藍依は構わず銃撃を続ける。
「残念ですが記事にもできませんね」
「く、これだからセンスの無い大衆どもは!」
 天才を理解することなど不可能なのだ、などとジョロウグモプラグマが悪態をつく。
 だが、徐々にその表情は何かを企むような含み笑いに変わってゆく。
「ふふ……!」
 ドローンも、アサルトライフルの銃撃もすべては遠距離攻撃だ。蜘蛛の糸を張り巡らせてその弾丸を絡み取りながら、その攻撃パターンが一辺倒であることを見抜いたのだ。
「ほほほほ! なら無理やり着させてあげるわ! それで私の服の良さを知らしめてあげるのよ!」
 ジョロウグモプラグマが跳ねる。一気に藍依との距離を詰め、糸で作り上げたスーツを被せようと迫りくる。

 ――しかし。
「……はらっ?」
 次の瞬間。スーツがバラバラに切り裂かれていた。
「我が妹、桔梗よ。協力感謝致します!」
 藍依の手にはいつの間にか『カッターブレード』が握られていたのだ。
 そのブレードは強靭なはずの蜘蛛の糸で出来たスーツを、まるで豆腐でも切るかのように、容易く切り裂かれてゆく。
「銃撃戦しかできないと油断しましたね! 情報は裏取りが重要なんです!」
 藍依はそのブレードで周囲の生徒達のスーツも切り裂いて、洗脳を解いてゆく。
 これまで銃撃戦を主体にしていたのは、全てこの時のため。ジョロウグモプラグマを油断させるためだったのだ。
 そうして生まれた隙に、藍依のAnkerが作り上げた新兵器を手に入れた。
「さて、この新兵器。ご覧頂いたように蜘蛛の糸を切ることに特化しています」
 刃を向けて、藍依が尋ねる。
「この武器で蜘蛛本体を斬った場合は、どのような切れ味になるでしょうね?」
「ひ、ひぃっ!?」
 青ざめるジョロウグモプラグマ。この後、たっぷりと試し切りをされたことは言うまでもない。

カンナ・ゲルプロート

 ジョロウグモプラグマ、彼女の言動とこれまでの戦いを眺めて、カンナは確信したように頷いた。
(「うん、こいつはきっとすぐ頭に血が上るタイプと見たわ」)
 実際、そのせいで既にジョロウグモプラグマはボロボロだ。それでも全然めげないあたりは精神的にも結構タフなのかもしれない。
「どいつもこいつも私の完璧な作戦を邪魔して……!!」
 そうやって悪態をつくにはつくが、すぐに立ち直って、高笑いをしてみせる。
「うふふ……いいわ、なら、今度こそ本気を出してあげる! 今こそこの私の洗脳スーツをこの子達に着せて、それから……」
 ペラペラと作戦を語るジョロウグモプラグマ。だが、なんかリアクションが無い。
「……?」
 ふと疑問に思ったジョロウグモプラグマがカンナを見ると、くるくると自分の髪を指に巻きつけたりして暇を潰していた。
 ふと視線に気付いたカンナがにこっと笑う。
「……あー、お話終わった?」
 ぴくくっ。ジョロウグモプラグマのこめかみに青筋が立った。
「完璧な作戦って、負け惜しみの言い訳リストでしょ?」
 カンナはふぅーっと大きくため息をついて、ジョロウグモプラグマを見やる。
「それ説明するのにどんだけ時間かけてるのよ、話の間に枝毛3本見つけちゃったわ」
 ぴきぴきぴき。ジョロウグモプラグマの顔がみるみる赤くなってゆく。
「このガキぃぃ……っ!!」
 口汚い言葉を吐きかけようとした瞬間、周囲に暗い影が広がっていることに気が付く。
「……こ、これはっ」
 周囲に幾層にも重ねられた影が、洗脳された生徒達を遠ざけていた。
 教室の天井には蝙蝠が羽ばたき、黒猫の金色の瞳が闇の中でギラリと光って、ジョロウグモプラグマを牽制している。それはカンナの作り上げた空間から逃げ出すのを困難とし、入り込むのも容易ではなくなっている。
 これでは、彼らを戦闘員として使う計画もパーである。
 どれもこれも、頭に血が上ったジョロウグモプラグマのミス……いいや、そんな風に挑発したカンナの作戦勝ちであった。
「どこが完璧な作戦なわけ?」
 あっさりと破られた上に、むしろカンナの企みにハマってしまったのだ。情けないことこのうえない。
 だがジョロウグモプラグマもめげずにがんばる。
「ふんっ、そんな減らず口叩いてられるのも今のうちよ! あんたを捕らえて怪人に改造したらあんただって……!」
「あっは☆」
 間髪入れずにカンナが|嘲笑《わら》った。
「怪人ってあなたみたいな? 笑わせないで? 増えた脚でタップダンスの世界チャンプでも目指すの?」
 まくしたてるように言葉を続けるカンナに、徐々に涙目になってゆくジョロウグモプラグマ。
「う、うるさいうるさいうるさーい!! 今すぐひれ伏させてやるわ!!」
「そう、やってみなさい」
 その声は、突如としてジョロウグモプラグマの背後から響いた。
「えっ」
 |瞬動術《ブリッツトリット》。まるで瞬間移動のような速度で、カンナはジョロウグモプラグマの背後をとっていたのだ。
 その勢いを乗せて、巨大な鋏、アトロポスが振り下ろされた。
「あぎっ……!!!」
 強烈な一撃がジョロウグモプラグマに与えられた。全身に響く衝撃は、脚の一本や二本、砕いてしまうほどであったろう。
「できるもんならね」
 カンナは再び、ジョロウグモプラグマに笑いかけるのであった。

萩高・瑠衣

「私一人でも達成できる完璧な作戦」
 ジョロウグモプラグマは、そうやって自分を誇っていた。
 そんな言葉に、瑠衣は常々疑問を抱いていた。
「本当に? なんかうさん臭い」
 実際のところ、作戦は√能力者達によってもはやズタズタだ。完璧というにはほど遠い状況に追い込まれている。
「こ、これからが私の本気なのよ!!」
 キィーっと怒り散らしながら、ジョロウグモプラグマが叫ぶ。
「虚勢……って奴なのかな?」
 誰が見ても、そう感じたであろう。ここまでくれば、いっそ哀れにもなってくる。
 瑠衣は篠笛を楽器ケースに仕舞って、構える。
「じゃあその虚勢ごと、貴方の存在を忘れてあげる」
 楽器ケースから不可視の刃が飛び出した。ジョロウグモプラグマも、その様子に身構え、六本の脚に力が入る。
「ふふふ……忘れる、ね。なら、貴方の人格そのものも忘れちゃいなさい!」
 脚で地面を蹴り、ジョロウグモプラグマが瑠衣に飛び掛かった。
「ほら! ほらほら!!」
 六本の脚からの絶え間ない蹴り攻撃が、瑠衣を圧倒する。瑠衣はそれらの攻撃を刃で捌き、ギリギリで躱すが、そうなれば蜘蛛の糸が絡みついて瑠衣の邪魔をしてしまう。糸が絡み続ければいずれ身動きが取れなくなってしまうだろう。
「ほほほ! やっぱり私は完璧よ! このまま連れ帰って完璧な洗脳を施してやるわ!」
 勝ち誇るジョロウグモプラグマ。瑠衣は刃で蜘蛛糸を切り裂いて、冷たい目で見据えた。
「完璧完璧、一人で大丈夫って、ならなんで仲間を増やそうとするのかしらね?」
 うっ、とジョロウグモプラグマの手が一瞬止まる。これはそもそも、√EDENの世界征服のための足掛かりであって、そのために戦闘員を増やそうというものなのだ。
「そ、それはプラグマの意思によるものであって――」
「じゃあ、一人で作戦なんてもともと無理なんじゃない」
「そ、それとこれとは……」
 もごもご口ごもるジョロウグモプラグマ。そんな時。
「そろそろね」
 瑠衣がぽつりと呟いた。
「……へ?」
 気付けば、教室中に張り巡らされていた糸が薄く消えかかっていた。
「この世界の忘れようとする力を増幅したわ」
 瑠衣が語る。
 |√EDEN《この世界》は、忘れようとする力が強い。誰かが他の√のことを知っても、いずれそれは夢か幻だったのだと、忘れてしまう。それがこの世界が楽園と呼ばれる所以の一つ。
 だからこそ『こんな怪人なんてありえない』と人々が思えば、ジョロウグモプラグマだって、その存在を忘れられてしまう。
 その力を瑠衣は√能力で増幅した。そうすることで、忘れようとする力は現実を改変するほどの力となったのだ。
「この世界から洗脳の痕跡ごと、居なくなっちゃえ」
「……っ!!」
 周囲の蜘蛛糸が消えてゆく。洗脳した生徒達に着せた、悪趣味なスーツが消えてゆく。
「……といっても、√能力者じゃ完全に消え去るわけじゃないわよね」
 あいつごと消せれば、とも思っていたが、そう簡単にはいかないようだ。だが、全ての武器や策が消えたジョロウグモプラグマはまったくの無防備。瑠衣がため息をつき、刃を構える。
「じゃ、消えてちょうだい」
「い、いやぁああーっ!!」
 一閃。ジョロウグモプラグマを不可視の刃が斬り裂いて、その身が消えてゆく。
「あ、あぁ……私の……」
 言おうとした言葉は予測がついた。だから瑠衣はそれを遮って、呆れたように語る。
「だから、全然完璧じゃなかったじゃない」
 その声は、もはやジョロウグモプラグマには届かなかった。

 忘れようとする力が働いたおかげで、学校はみるみるうちに元通りになっていた。
 洗脳教育を受けていた生徒達も、その事実すら忘れて、ただ普段通りの一日を過ごしていたと思うだろう。
 ここで世界の危機が訪れていたことなど、誰一人覚えていない。
 ここでたくさんの戦士達が戦っていたことを、誰も思い出さない。

 だがそれで良い。この世界は、たとえ仮初であっても|平和の楽園《エデン》なのだから。

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挿絵イラスト