ダンジョン、ときどき、眠れる子猫
「みなさま、冒険ですわ!」
シャルロッテ・ニンフェライヒ(亡国の誇りを継ぐ者・h12833)は、力一杯拳を握る。
「剣に魔法にダンジョン探索、王道の冒険ですわね!」
ふんすふんすと意気込む彼女は今回は星詠み。冒険には出かけられない。
あなた方にダンジョン探索を託すのみである。
「今回みなさまにお願いしたいのは、ダンジョンの奥に迷い込んだ猫ちゃん探しですのよ。
飼い主とはぐれた猫ちゃんが、ダンジョンの奥に潜り込んでしまったそうでして。
探して連れ帰ってきてほしいとの依頼ですわ。
この猫ちゃん、困ったちゃんですの。警戒心が強くて、慌てて近づくと攻撃してくるそうですわ。
巨大化して踏み潰したり、星屑を降らしてきたり……結構手のかかる子みたいですのよ」
シャルロッテは頬に手を当て、ふうと溜息をつく。やれやれと首を振った。
「けれど、なでなでもふもふして警戒心を弱めてあげれば……つまりうまく懐かせてあげれば。
あら不思議、おひざの上で寝ちゃうんですのよ。可愛いですわね!
ごちんとお仕置きして無理矢理連れ帰ってきてもよろしいですけれど。
眠らせてあげた方が簡単に連れて帰ってくることができるんではなくて?
詳しい方法はおまかせしますわ。がんばってくださいまし」
そうそうちなみに、とシャルロッテは言葉を続ける。
「ダンジョンの近くの街は、花の都と呼ばれる、美しいお花に囲まれた街ですわ。
今はちょうどお花祭りが開かれているそうですから、お祭りを楽しんでくるのもアリですわね!
お店でお土産物を買ったり、美味しいものを食べたり……街の観光に行くのも楽しげですわね。
せっかくですから、ゆっくりのんびり過ごしてきてもよろしくてよ。
デートやお友達と出かけるのもぴったりですわ!」
ただし。シャルロッテは眉を寄せる。
「ダンジョン道中には恐ろしい罠が蔓延っているそうですから、お気をつけて!」
では、と彼女は微笑む。
「いってらっしゃいませ。よき報せをお待ちしておりますわ!」
ということで、√能力者たちはダンジョンへ向かうのであった。
第1章 日常 『緑美しい街で』
「なるほど……花の都デスカ、とても美しい所デスネ」
ムルゥ・ムルゥ(獣妖「モンゴリアンデスワーム」の|警視庁異能捜査官《カミガリ》・h13214)は街を見回し溜息をついた。
捜索目標の猫について事前情報は得ている。強そうな猫だった。
「どの様な物が好物なのデショウカ?」
好物を持っていけば、簡単に猫を懐かせることができるかもしれない、とムルゥは考えていた。
彼の知る猫、つまり普通の生き物としての猫とは異なるかもしれない。
庭園などを見学しながら、現地の人にこの世界の猫の好物を聞いてみよう、とムルゥは思いついた。
もちろん祭りのことも聞きたい。せっかく訪れたのだから。
「すみません、お尋ねしたいのデスガ……」
「あらあら。街の外の人? お祭りに参加しに来たのかしら? 何でも聞いてちょうだい」
「この街の猫は、どのようなものが好みなのデショウカ?」
「あら、猫の話? うふふ、普通よ、普通。わたあめやマシュマロが好きなの。甘くて柔らかいものよ」
街の人は誰も彼も優しくて穏やかだ。
(今は楽しい祭りですカラ、職務質問みたいな感じにならない様に気を付けなければいけませんネ……)
この優しい街の人たちを質問攻めにして怖がらせてはいけない。楽しい祭りの空気を壊してはいけない。
ムルゥは職業病が出てしまわないように、慎重に街の人に接するのであった。
「星詠みでモフは見るけど、私がもふれなくってね。
だからこの依頼、とっても楽しみだ。エアリィ嬢、ありがとう」
椎宮・紫水 (シセキエイ・h12162)は誘ってくれた同行者に微笑む。
可愛い生き物は好きだ。けれどいつも見送るばかりで、触れ合いはできなかった。
もふもふした生き物との触れ合いができる絶好の機会に、胸を弾ませる。
その隣では、エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)が足を弾ませていた。
「ダンジョン探索っ♪ でもその前に英気を養おー♪」
「だね、先に英気を養おう」
美しい花の街を見ながら祭りの空気を楽しむ。
店先、民家、公共の道。どこにでも花が溢れていて、花の香りに包まれ、心地いい街だ。
「花の都の花祭りって、ちょっと舌噛みそうじゃない?」
「綺麗な街だね、紫水さん!」
「綺麗で華やか……エアリィ嬢の元気さも負けてないね」
「誰よりも元気で笑顔! それがあたしだからっ!」
お喋りをしながら、街をお散歩する。不意に素敵なお店が目に入り、エアリィが紫水の手を引く。
「紫水さん、見て! 可愛いお店があるよ!」
「っとと、エアリィ嬢、お店は逃げないよ。とってもいい感じのお店だね」
元気いっぱいのエアリィに微笑みかけながら、紫水も店に入ると、そこはお菓子屋さんだった。
色とりどりの可愛いお菓子が所狭しと並べられており、そのどれもが美味しそうな味を想像させた。
「はわぁ、おいしそうなのが一杯……。沢山あるから悩ましい。……ここは最終手段を使うっ!」
エアリィは、迷いすぎてどれも選びきれなかったので、高速詠唱で精霊交信を行う。
「うーん、目移りするなあ、どうしよう? エアリィ嬢は……っていつの間にか精霊さんが?!」
「ね、精霊さん。ここで子供に人気のスイーツって何だろ?」
「そういう手があったか……」
精霊さんは、お菓子の周りをふよふよ漂いながら、じっくりとひとつひとつ吟味し、ひとつを選ぶ。
「じゃあ、これにするね! ふふ、たのしみー。紫水さんは何にするの?」
「私は花の形をした練り切りを。いやーなんか親しみ慣れたのを選んじゃった」
「練り切りって和菓子だっけ? 大人な感じだぁ~」
練り切りももちろん、花の都ということで、季節の花の形をしている。
色鮮やかで華やかで、美しい逸品だ。
「ねね、せっかくだからシェアしない? だって、一人で食べるより、二人の方が喜び倍増だもん♪」
「お、いいね、シェアしよう。私もそう思うよ。今、とっても楽しいね」
ふたりで甘いスイーツを半分こしながら、紫水とエアリィは、花祭りを満喫するのであった。
第2章 集団戦 『アニマル・モンスターズ』
EDENたちはダンジョンに潜入した。
それは洞窟のようなダンジョンで、そこかしこから生き物の息を潜める声が聞こえる。
不意にEDENたちの前に『それ』が姿を現す。
『それ』は、動物。ふわふわもふもふのアニマルたち。
大きな瞳に立派な尻尾。強そうな牙が生えているものたちもいる。
それは愛くるしい顔であなたたちを見つめる。
……しかし、油断大敵。それは愛くるしい動物たちといってもモンスターだ。
ただもふもふすれば良いだけではない。
或いはそれは人間に対し凶暴に襲いかかってくるものもいる。
しかし、それが全てではない。
彼らに敵意がないことを示せば、協力的に猫探しを手伝ってくれるものもいるだろう。
彼らの優秀な鼻や耳を使えば、探し猫の居場所がすぐにわかるかもしれない。
心を鬼にして、襲いかかってくるアニマルたちを倒しながら先に進むのもよし。
友好的に接して、仲間にしながら進むもよし。
それはEDENの選択次第だ。
「可愛らしい動物が沢山出て来ました! とても目が癒される光景デスネ」
ムルゥ・ムルゥ(獣妖「モンゴリアンデスワーム」の|警視庁異能捜査官《カミガリ》・h13214)は、ダンジョンの中にたむろする動物たちの愛らしさに、その胸を弾ませた。
「しかし、あの牙なんかを見ると、意外と危険な生き物なのかも知れマセン」
刺激しないように、そっと近づく。
まるで普通の猫のように仲間同士毛繕いをしたり、じゃれ合ったりする様子を見れば、温厚にも見える。
しかし虎やヒョウが一度牙を剥き出せばひとたまりもないように、彼らを甘く見ることもできない。
ムルゥは遠くから眺めながら、そう言えば、と思いつく。
「あの子達は、私達が探している猫を目撃していたりしないデショウカ?」
仲間の動物同士なら、見てはいなくても匂いや足跡など、何か形跡を知っているかもしれない。
「今は少しでも情報が必要デス……危険ではありマスガ、あの子達が猫の事を知っているか聞いてみまショウ」
ムルゥはある程度、動物と会話できる技能を持っていた。そっと話しかけてみる。
『もしもし。お尋ねしたいのデスガ』
「ぐるる……」
アニマルモンスターズたちは、ムルゥの一挙一動をじっと見つめていた。警戒心が半分、好奇心が半分。
けれどムルゥが、動物たちの言葉で穏やかに話しかけると、ふんふんと鼻を鳴らして答えてくれた。
『猫? そう言えば、珍しいやつを見たよ。僕らの縄張りでは、普段見かけないやつ』
『もっと奥に行ったよ。なんか、捜し物をしていたみたい』
『奥デスネ。では、先に進みまショウ。ありがとうございマシタ』
ムルゥが丁寧にお礼を述べれば、彼らは再びふんふんと鼻を鳴らして、機嫌良さそうに見送ってくれた。
「スイーツ美味しかったね。練り切りも綺麗だったし♪」
エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)は、花祭りで食べたスイーツの味を思い出しながら、表情を緩ませる。
「エアリィ嬢がシェアしてくれたスイーツも絶品だったね」
椎宮・紫水(シセキエイ・h12162)は、そんなエアリィに笑いかけながら、ダンジョンへと足を進めた。
花祭りで食べたお菓子は彼らの舌とお腹を満足に満たしてくれた。
ダンジョンには恐ろしい罠が待ち構えると聞くが、さて、どんな相手が待っているだろうか。
どんな凶悪な罠であろうと、隣にいる相手さえいれば百人力。
そんな2人の前に現れたのは、もふもふの動物さんたちであった。
「エアリィ嬢、どうする?」
様子を窺う紫水に、エアリィは元気いっぱい答える。
「戦うのもありだけど、ここは、紫水さんの為にも全力全開でもふりますっ!」
「え? 私もふっていいの?!」
紫水は表情をぱあっと明るくさせる。
もふもふの予見は今までに何度もしてきた、けれどいざ自分が立ち向かうのは珍しいことだ。
龍脈励起・纏の陣。紫水は√能力を展開する。反応速度が1.5倍になる能力だ。
これで思う存分動物たちを愛でることができる。
「抱き着くのはあと。まずはご飯で警戒心を解こう♪」
エアリィはジャーキーを差し出し、手ずから動物たちにご飯を食べさせる。
警戒心を解いて、触れても攻撃されないようにするためである。
動物たちは美味しい食べ物に興味を惹かれたのか、エアリィと紫水に攻撃する気はないようだった。
両手を広げながら近づけば、動物たちはふんふんと鼻を鳴らしている。
「もふだっきゅる!」
エアリィはぎゅうと動物に抱きつく。ふわふわもこもこの毛に包まれ、ぬくもりが伝わってくる。
そんなエアリィと動物たちのやりとりを見ていて、紫水はほうと溜息をついた。
可愛いもふもふと戯れるエアリィの様子を見ているだけで、十分に癒やされる。
これが尊いという感情だろうか。可愛いと可愛いのコラボレーションに胸がぽかぽかしてくる。
「あれ?紫水さん、どしたの?」
もふらないの、とエアリィが首を傾げれば。
「エアリィ嬢に見惚れていたんだよ」
つい口から本音が零れてしまう。そんな紫水に、エアリィはきょとんと首を傾げる。
何を言ってるんだ、俺!
紫水が焦っていると、一緒にもふろ、と手を引かれる。
ついうっかりを誤魔化すように、紫水はもふりと動物たちに抱きつき、もふもふを堪能する。
反応速度1.5倍のもふもふは、普段以上に格別に気持ちいい気がする。
紫水もエアリィも、その心地よさに自然に笑みが零れるのであった。
3人の女性たちの前に現れたアニマルモンスターズは、ふんふんと興奮した様子を見せていた。
「ふわふわもふもふのアニマルさんたち……撫でてもらいたいだけなのでしょうか?」
神隠祇・境華(金瞳の御伽守・h10121)は大小様々な動物を眺めて、様子を窺っていた。
「ネコちゃんじゃないふわふわさんが……いっぱいいるね? 興奮してる子も、いっぱい。遊んでほしいのかな……?」
小弓・佐倉(夜黒の椿・h08163)は両手の形をした御霊、夜黒の手を差し出す。
飛び出してきた動物たちのことを受け止められるように。
「小弓ちゃんも境華ちゃんも、遊びたいなら心行くまで遊んでいいわよ。
その子たちも、撫でてもらいたいようだもの。撫でてあげて?」
イルゼ・ラウィーネ・ローゼンクランツ(埋火・h02039)は暖かい視線を向けて、見守りの姿勢だ。
ふんす。飛びかかってきた動物を、夜黒の手が優しく受け止める。
「ヤグロ、飛び込んできた子達、手で掬ってあげて。
周りの子達も、おいでおいで……大きな手に包まれるの、気持ちいいよ?」
小弓が優しく呼びかけると、大きな両手に包まれた動物たちがゆらりゆらりとゆりかごのようにあやされる。
その横では、境華が霊布を呼び出し、動物たちを包み込む。
勢いを殺して受け止めたり、暴れるようであれば、少し距離を取って、布で囲いを作ってやる。
イルゼはと言えば、尻尾で動物をいなして、じゃらして遊んでいた。
傷をつけないように、丁寧に、慎重に、その体当たりを受け流し、躱し、軽くあしらっておく。
てしてし、と前足を使ってイルゼの尻尾にじゃれるアニマルたち。
「イルゼさん、動物の扱い方、慣れてるみたい……」
境華はその様子を見て感心してしまう。倣うように、動物たちの興奮をなだめてやることにする。
興奮した動物は目を隠してやると落ち着く、と聞いたことがある。
柔らかな布で包み込んで、そっと暗闇の中に置いてやると、動物たちは徐々に落ち着きを取り戻していく。
「……ふふ、イルゼさんのしっぽにじゃれついてる子たち……かわいい」
小弓が微笑む。モンスターと言われても、もふもふとした毛で覆われた動物たちは可愛い。
イルゼは纏った冷気を調整し、空気を冷やして涼しい場所を作ってやる。血の上った頭を冷やせるように。
それから、みんなのために冷たくて甘い飲み物も用意してやる。
動物たちには、冷たいだけで砂糖の入っていない清水を。
「二人も、ふわふわちゃんも、ばてないうちにちゃんと休憩するのよ?」
それを見た小弓は、ヤグロの手のひらに包まれた動物や、霊布に包まった動物たちを、冷気の中へ運んだ。
一緒に涼みながら、そっと頭や体を撫でて落ち着かせる。
境華が布をゆらゆらとハンモックのように揺らすと、心地よかったのか、眠ってしまった動物もいた。
「みんな、落ち着いてきたみたい」
「猫さん探しを手伝ってもらえないかお願いしてみましょう。皆で探せば、きっと早く見つけられるはずですから」
境華と小弓は、優しく動物たちに語りかける。
「大丈夫です。私たち、あなたたちを傷つけに来たわけではありません」
「わたしたち、迷子の猫ちゃんを捜してるの。いっしょにお手伝いしてくれる子、いるかな……いますか?」
水を飲んでいた動物がすんと顔を上げる。耳をぴくぴくさせて、2人の言葉に耳を傾けているようにも見える。
一番大きなモンスター、おそらく、群れのボスだろう。
くるるる、と喉を鳴らすと、動物たちが3人を先導するようにダンジョンの奥へと向かっていく。
「案内してくれているのかしら?」
3人は、動物たちの後を追って奥へと足を進めた。
探し猫はきっと、その先にいることだろう。
第3章 ボス戦 『星雨猫『ステラレイン』』
探し猫『ステラ』は、ダンジョンの最奥にいた。岩陰に隠れて息を潜め、尻尾を揺らしていた。
ダンジョンの奥に辿り着いたEDENたちを見ると同時に、子猫はちょろちょろと逃げ回り、尻尾を逆立てた。
まだステラは、あなたたちに警戒心を見せている。
けれど、この小さな子猫は、人に愛されて育てられてきた。
人の愛情や優しさ、親しみを感じればすぐに警戒心を解くだろう。
大きくて円い星色の瞳は、あなたたちの様子を窺うように、じっと、じっと見つめている。
この迷子の猫ちゃんを、無事に飼い主の元に送り届けてあげよう。
「もふもふ気持ちよかったねー!」
エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)は、前のエリアでの動物との触れ合いを思い出して、頬を緩ませる。
「もふを堪能して……よし、本番だ!」
椎宮・紫水(シセキエイ・h12162)は、ダンジョンの端でちょろちょろしているステラを発見し。
「あれが探している迷い猫みたいだね。ところでエアリィ嬢、ステラ猫のどこをもふりたい?」
「え?どこをもふりたいって? んー、お腹?」
猫のお腹に顔を埋めて猫吸いをするのは至極だろう。そう思ってエアリィは答えるが、今日の主役は紫水だ。
「此処は私がやってみてもいい?」
紫水はしゃがみ込み、帽子の帯の房を猫じゃらしのようにゆらゆらと振ってステラに見せる。
空いたもう片方の手には猫の大好物、ジャーキーも準備しておく。
「やっちゃえやっちゃえーっ♪ それじゃ、あたしはそんな紫水さんを応援っ♪」
エアリィは高速詠唱で精霊具現化の呪文を唱え、風の精霊を呼び出した。
元気いっぱいダンスを踊って、紫水専属チアエルフに変身。
「紫水さん、がんばれ、がんばれっ♪」
エアリィの元気いっぱいで可愛らしいダンスの応援に、紫水は思わず本音が漏れる。
「なにそのご褒美嬉しい(エアリィ嬢が応援してくれるなら心強い)」
建前と本音がひっくり返って口から零れてしまった。
帽子の房を使った猫じゃらしでステラを招き寄せ、てしてし、と房に猫パンチをお見舞いするようになったら。
今度はジャーキーを差し出し、食べ始めたところで確保。ステラは人に触れられることに抵抗を見せない。
「ふふ、さすが。人馴れしてる」
「おお、ねこさん確保だね。かわいいなー」
ステラを抱きかかえ、もふ、もふ、と柔らかい毛並みの感触を確認したら、ステラのお腹を上向きにしてエアリィに差し出す。
「はい、幸せのお裾分け」
このままだっこすれば思う存分お腹がもふれる。
「わーい、ありがとー♪」
エアリィは慎重にステラの体を受け取り、優しく抱きしめる。
もふ、もふもふ。ふわふわの毛に包まれ、幸せの気持ち。
「はわぁ、もふもふ~♪ かわいいし、とっても幸せー♪」
ステラのお腹はほんのり雨上がりのような香りがした。
ステラをもふもふしながら考えるのは、紫水のこと。おびき寄せるために使った帽子の房の使い方。
「その帯の房、まさかそういう使い方があるとはね~」
「ふふ、何事も準備だね」
などと言って笑った紫水が、本当は必死で何か無いか探したのは内緒だ。
「あの子が捜索対象の猫デスネ」
ムルゥ・ムルゥ(獣妖「モンゴリアンデスワーム」の|警視庁異能捜査官《カミガリ》・h13214)は子猫の姿を目に捉え、じっと観察する。
「色々探すのに苦労しまシタガ、怪我などしていなさそうで安心デス」
危険なダンジョンに潜り込んだと聞いたから、もしかするとモンスターに襲われ……なども考えたが、杞憂だったようだ。
「しかし……可愛いのは変わりませんが、やはり私の知っている猫とは何か違う様ナ……」
特徴的なのは、その毛に纏う星のようなきらめき。ステラはまるで星空のような色をしている。瞳は月のよう。
普通の猫よりも少し、神秘的なような。普通の猫と同じ対応で何とかなるのだろうか?
ステラはこちらの様子を窺うようにムルゥをじっと見つめている。
「何となく警戒されていそうな感じですノデ、どこまで伝わるかは分かりませんがお話をしてみまショウ」
ムルゥは動物の言葉で、話しかけてみる。
私はあなたの敵ではありまセン、私はあなたを害するつもりはありまセンヨ、と伝えてみれば、ステラは耳をピクピクさせた。
ムルゥの持ち物には、猫じゃらしなどの猫用グッズはない。代わりにサメのぬいぐるみで気を引いてみる。
サメのぬいぐるみをふりふりしてみせれば、大きな瞳をまんまるにしてステラが寄ってきた。
てくてく、と寄ってきて、サメのぬいぐるみを見上げる。興味津々だ。
今なら触れられる。ムルゥはステラに手を伸ばすのであった。
「ボスさんの案内のおかげ、かな? 罠とかなく、奥まで来れたね……」
小弓・佐倉(夜黒の椿・h08163)は、ここまで案内してくれたアニマルモンスターの頭を撫でる。
ぷるる、と小さく震えて鳴き声を漏らした後、アニマルは元いた住処へと引き返してしまう。
「ありがとう、ボスさん。おかげで猫ちゃん、みっけ。出てきてくれるかな?」
「見つかってよかったわ。後は無事に連れ帰るだけね」
イルゼ・ラウィーネ・ローゼンクランツ(埋火・h02039)は猫のために用意したご飯を取り出す。
「一応、ご飯は持ってきたけれど……二人も、猫ちゃんのご飯を持って行って頂戴な」
「イルゼさん、ご飯、用意がいい……」
神隠祇・境華(金瞳の御伽守・h10121)の目配せに合わせて、三人は少し離れた位置へと移動して、しゃがみ込む。
目線の高さを合わせて、ステラを刺激しないようにする。
小弓は肩乗りサイズの小さな虹色花火の妖精さんを呼び出す。妖精さんは小さなパチパチ花火で、猫の興味を引いている。
イルゼは氷でできた、きらきら輝くおもちゃを作って気を引こうとする。
「カラカラと音を立てるボール? それともただきらきらとしているだけの小さな結晶がいいかしら」
「雪の結晶を降らせるのはどうですか?」
「それも良いわね」
猫の気を引き、体力いっぱい遊ばせて疲れきった後は、逃げる体力もなくなるだろう。
そうすれば、連れて帰るのはきっと楽になるはずだ。
もちろん三人の立っている場所は、ステラの逃げ道を塞いではいない。
ステラが逃げようと思えば、逃げることはできる。もしも逃げたときは、追いかければ良いだけ。安心が優先だ。
「大丈夫です。怖いことはしません。一緒に帰りましょう」
境華が優しく話しかける。ステラは尻尾を左右に振ってじっと彼女を見つめている。
静かに、手は低い位置で広げて見せる。飛び込んでこれるように。瞳は見つめすぎないように、ゆっくり待った。
「わたしも、黒くて、仲間だよ。ふたりも、やさしい。こわくない、こわくない」
小弓も静かに声をかけた。ステラは大きな星色の瞳をキラキラさせている。
「……冒険、したかったのかな。わかるよ。いっしょに冒険してあそんで、ごはんも食べて、おうちに帰ろ?」
「それなら少しだけ、ここで遊んで、お腹が空いたらご飯を食べて、それから、おうちへ帰りましょうね」
イルゼの言葉を聞いて、ふんふんと鼻を鳴らした子猫は、ボールにじゃれて、花火を追いかけ、無邪気に遊びはじめる。
気ままにたっぷり遊んでいるところを、彼女たちは気長に眺めて待った。
決して邪魔をせず、こちらに興味を示すようなら応じて、ご飯に気が向いたら食べるところを眺めて。
子猫の小さな大冒険を見守っていた。
イルゼの用意したご飯を平らげた後、ステラはにゃうんと鳴いて、三人の足下へとやってきた。
「気が済んだのね。そうしたら、後は一緒に帰りましょうね」
イルゼの足下で、ころんと円くなって、ステラは寝息を立て始めた。
お腹が膨れて満足して、眠くなってしまったらしい。
「……ところで、巨大化してふみふみしてくるって、この子、本当にそんなことできたのかな……?」
小弓の疑問に答えるものは誰もいない。ステラは眠ってしまっているのだから。
三人は、ステラを抱えて飼い主の元へと、連れ帰ってくるのであった。