真夜中の機械都市防衛線
「皆さん、来てくださりありがとうございます! 次に向かっていただく世界は、√ウォーゾーンとなります」
そういって、星詠みの説明を始めるのは、アクシア・メロディールーン(はつらつ元気印なルーンソリッド・アクセプター・h01618)である。
「向かっていただく都市は、この地図にある都市となります。到着日時は深夜となります。ただ、戦闘機械群の軍団は、早朝に攻撃を仕掛けるつもりのようですので、その隙に都市の近くで陣を張っている敵軍を仕留めてください。あるいは、真夜中のうちに都市の人達を避難させ、安全を図るという手もあります。こちらは、皆さん相談して決めてください」
アクシアは続ける。
「そうそう、夜襲で敵軍に見つかると、大量の敵を相手にしなくてはいけなくなります。できるだけ、敵に見つからないよう強襲してください。また、多くの都市の人達を避難させると、その後にささやかな宴に誘われるかもしれません。その際に打ち合わせ等を済ませておくと、次のボスとの戦いが少し有利に進められるかもしれません」
その辺もまた、相談して決めて欲しいとアクシアは言う。
「とにかく、最後に控えるボス……スーパーロボット『リュクルゴス』を倒せば、任務終了です。それまで、皆さん、気を引き締めて、都市の人々を救うためにも、頑張ってくださいね! 皆さんのご武運、祈っています!!」
そういって、アクシアは現地へと向かう√能力者達を見送るのであった。
第1章 冒険 『夜襲作戦』

「√ウォーゾーンの人達と話などをしておいた方が、後々新聞のネタを掴めるかもしれません……!」
そう思い、|八木橋《やぎはし》・|藍依《あおい》(常在戦場カメラマン・h00541)は、死角のないドローン、【新聞社特別製】千里眼カメラを飛ばしていく。
「ああ、あそこにいるのですね……あまり近づけないので、正確な数は分かりませんが……」
流石にあの数を相手にするのは、骨が折れそうだ。今確認出来たところで、10体くらいいるのが分かった。
「次は安全なルートを記していきましょう」
今度は敵軍から離れるように、藍依は千里眼カメラを動かしていく。藍依の目的は、安全なルートはもちろん、情報を収集し、皆に知らせる。それは仲間やこれから避難する都市の人達へと渡すものである。だからこそ、カメラで安全な場所を確認し、それを丁寧に記していく。
「あっと……これを出しましょう」
藍依は、明るい光を放つ懐中電灯を取り出し、手元を照らす。ちなみにこれは、避難時にも使用する予定だ。
安全な道だけではなく、冒頭で確認した敵軍の内容も、その地図に書き込んでいき。
「よし、出来ました。では、そろそろ伝えに行きましょう。皆さんの助けになるといいのですが……」
そう言って藍依は仲間がいる場所へ、そして、避難させる人々がいるところへと急いで向かう。その手に出来立てほやほやの、今回に使う必要なマップや資料を持って。
「あれ~? 私、いつの間に、この都市にやって来てたんだろう?」
首を傾げながら、この世界に紛れ込んだのは、Anchorの|春埜《はるの》・|紫《ゆかり》(剣の舞姫・h03111)だ。
しかも、この暗がりの中、変な機械軍隊みたいのを見つけて、見つからないよう、都市の方へと逃げてきた。
「しかも都市の周りには、見るからに敵っぽいロボット軍団がいて、避難しないといけないとかめんどぉ~! あ、でもこれって何時ものメタバース的な映画の世界観を体験するやつかしらね?」
残念、これもまたメタバース的なのものではなく、現実である。当たったらヤバいぞ、紫!
「それにしても、いつも突拍子のログインはないわー。まぁ、それなら世界観に則って、この都市の代表に私はなる!」
いやいや、流石にそれは難しい。
それに、なんだか情報を届けて逃げようって言っている人も、なんだか強そうな感じを受けるし、さっき見かけた二人組も避難させるって言っていたなあと紫は思い出した。
「とりあえず、避難指示は慣れた人に任せて、この襲撃が終わったあとの慰労会を考えないといけないわね」
え、そういうこと?
「この都市の予算がいくらあるかはわからないけど、バーチャルな世界だから、ご都合主義でいくら使っても大丈夫なはずよね? どうせなら絵的に豪華なものにしたいわ」
いやいや、流石にそれは難しいだろう。それでも、やる気はいっぱいだ。
「いけるわよね? 専属秘書ぽい、そこの人!」
「え、俺!?」
たぶん、それは違うと思うが、紫に言われて、哀れそのお兄さんは、これから始まるかもしれない宴の準備を手伝わされるのだった。
「ご協力、ありがとうございますであります。では、小生もさっそく……」
タマミ・ハチクロ(TMAM896・h00625)は、この都市をまとめているリーダーと接触することができた。
「ありがとう、俺達からもよろしく頼むよ。それに見ての通り、この都市はハリボテなんだ。人数は君達が思っているより少ないと思っていい」
リーダーが言う様に、この都市に住む人々は、それほど多くはないらしい。だが、それでも相当の数だ。
「こういう時には、人海戦術と相場が決まっているでありますが……もちろん抜かりなく手配済みであります」
そう告げて、タマミが事前に発動させていたのは、|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》。
「これで総勢小生13体。各自、都市の皆様に敵襲を知らせて回って、避難準備を開始であります」
タマミの言葉に12体のバックアップ素体は、「はっ!」と短く返事をして、素早く動き出す。目指すはこの地にいる人々を安全に導くことである。
「加えて、この仕事にはうってつけの友人がおりますゆえ。……という訳で頼むであります、エリミちゃん殿」
「はい、お任せください」
そう告げるのは、タマミのAnchorでもあるエリミネーター・シクス(又の名をエリミちゃん・h04841)だ。
「私は戦えませんし、√能力も使えない。けれど、避難誘導なら任せて下さい」
そういって、エリミネーターが用意したのは、地上数メートルを浮遊して移動する小型のバイク型飛行兵器、エリミちゃん号である。
「よいしょ、よいしょっと」
テキパキと慣れた手つきで食料をバイクの後ろに取り付けられているカートに、次々と運んでいく。流石に全てを持って行くことは難しいが、避難先で食べる分には困らないだろう。
「避難時の食料等はご心配なさらず。運び屋業務もお手伝いの一つ、ですから」
歳の割にしっかりしているのは、エリミネーターが実はお手伝いロボットだからだ。このときにどんなお手伝いをすればいいのかは、既にインプット済み。だからこそ、効率的に運び出すこともできるし、暗い中でも暗視ができる機械の目でしっかり補うこともできる。
だから、避難誘導の先頭に立ち、案内して行ける。
また、藍依からのデータもかなり役立っている。敵の位置がしっかり分かっているので、安心して避難することが出来るだろう。
「そっちに敵がいるなら、避難するなら……藍依さんが見つけてくれた、このシェルターに向かうのが良いだろうな」
そうリーダーが言ってくれたおかげで、すぐに行き先は決まった。
リーダーのいうシェルターが生きているのであれば、多少騒いでも、これだけ離れていれば問題ないとのお墨付きである。
「全て集めてきたのであります! リーダーお忙しいところ恐縮ですが、一度、人数を確認していただけませんですか?」
と、そこで避難民を集めてきたタマミが戻ってきた。
「ひーふーみー……うん、これで全員だ。ありがとう、大変だったろうに」
「いえ、これくらいどうってことはないのであります」
準備が整ったところから、エリミネーターが先頭に立ち、ゆっくりゆっくり進んでいく。ゆっくり進むのは、音をあまり響かせないのと、人々の足並みに合わせる為である。
「機械群の思考パターンは、ある程度トレース出来ますし、ね……」
そんなことが起きないことを祈りながら、エリミネーターはゆっくりと食料を大量に積んでいるエリミちゃん号を進めていく。
なお、殿を務めるのは、13体のタマミ達である。武装をしているが、決してこちらからは攻撃しないつもりである。敵に出会ったら全力で排除するつもりではあるが……。
「この様子だと、この武装を使用することもなさそうなのであります」
数時間後、エリミネーターが先頭に立った避難民達は、無事に目的地であるシェルターへとたどり着くことが出来たのであった。
第2章 日常 『ちょっとした賭け』

√能力者達の活躍により、都市に住む人々は無事に、都市から離れた場所にある避難先のシェルターへとたどり着くことが出来た。
ここでなら、少し騒いでも問題ないだろう。ささやかな宴が催され、中には賭けをしている者達もいるようだ。
「改めて……助けてくれてありがとう。君達のお陰で、被害もなく、ここへと避難することが出来た」
彼らを取りまとめるリーダーが人々を代表して、√能力者達へと感謝の言葉を述べる。
「ささやかではあるが、宴の場を用意したんだ。よかったら、楽しんでくれると嬉しいよ」
ささやかな宴や賭けに興じるのもいいだろう。
また、この間に最後の決戦の話を出すのも悪くない。そうすることで、彼らの手助けが得られるかもしれないのだから。その場合は、戦いを有利に進められるだろう。しかし……万が一の時は、彼らにも犠牲が出てしまうかもしれない。その点も踏まえて、話をする必要があるだろう。
「そうそう、ここには、万が一に備えて、武器もあるんだ。何かあったら知らせてくれ」
銃器を乗せた車などもあるらしい。
なにはともかく、このささやかな時を避難民達と共に、過ごすことにしよう。
●マスターより
宴(ささやかではありますが、ご馳走もあります。ちょっぴり豪華なレーションって感じですが)に参加するか、はたまた賭けを楽しむか。
また、最後の決戦の助力を求めるか……選択肢は気にせず、何をすべきか考えて進めてみてください。Anchorの方もここにある銃器を扱うことはできますが……√能力者よりは劣ってしまうことをお忘れなく。
人々との交流を深めるのも、それはそれで楽しいかも?
皆さんのささやかなひと時をお楽しみください。
「無事に避難誘導が完了したようで何よりです。避難誘導の協力、そして宴の場を用意して頂き、ありがとうございます」
そうリーダーにぺこりと頭を下げて、礼を述べるのは藍依だ。
「いえ、皆さんが来ていただかなかったら、我々は、あのまま機械軍にやられていたことでしょう。礼を言うのはこちらですよ」
おっと、宴の前にお礼祭りが開催されそうである。それはいかんと、藍依はすぐさま、話を変えた。
「では、調理器具をお借りしたいのですが、よろしいですか?」
「えっ……ああ、たくさんありますから、どうぞどうぞ」
どうやら、今回の避難の為にいろいろと用意してきたらしい。ありがたくそれを借りて、√EDENから持ち込んだ食料をこれでもかと贅沢に使っていく。
「わあ、お肉だ!!」
「野菜もいっぱい入ってるっ!!」
藍依が作ったのは、香りのいいカレーだ。もちろん、お米(レトルトだが)もいっぱい持ってきている。
子供も食べられるよう、カレーは甘口。物足りない大人には、香辛料もサービスしている。
「そういえば……戦闘機械群の敵軍について知っていることはありませんか?」
カレーを盛りつけ渡しながら、それとなく藍依は尋ねる。
「そうだな、むしろ皆さんの話を聞いて、知ったくらいですし……」
大人は知らないようだったが。
「ボク知ってるよ! でっかいすっごいロボット見た!!」
「怖いから逃げちゃったんだけどね」
「あれって、セイギのミカタじゃないの?」
恐らく、子供達が見たのは、これから戦うべきスーパーロボットの事だろう。
「それは正義の味方ではなく、敵ですね。そう聞いています。だから、次見かけたときも、見つからないようすぐに知らせてくださいね」
「うん、わかったーっ!!」
「あのかっこいいロボットが敵なんて、つまんないー」
素直に頷く子供に残念がる子供達。そんな彼らを見ながら、藍依は必ず彼らを守ろうと誓うのであった。
料理をする√能力者は、藍依だけではなかった。
「それでは、宴に更に華を添えるとするありますよ。いざ、【料理】タイムであります!」
「了解です、ここはぱーっとお出ししちゃいましょうか」
タマミは、エリミちゃんこと、エリミネーターが運んできたサバ缶を使って料理をするようだ。後ろに控えるエリミネーターも、同じく大量にあるサバ缶で美味しい料理を作るようだ。
「私は焼サバの煮付けを作ります。タマミさんにはサバのお味噌汁をお願いしますね」
「小生は、サバのお味噌汁担当でありますな」
エリミネーターから作り方を教わって、タマミは、サバ缶を使って、美味しいみそ汁を作るようだ。味噌はもちろん、サバ缶の汁も利用することにより、味に深みを出していく様子。更に自分達が持ち込んだ野菜の缶詰(トマトやコーン)を水気を切ってから、入れていく。どちらかというと、洋風なみそ汁になったと言えよう。
「多少洋風っぽくなっても問題なしであります。お味噌も濃いめにするでありますよ。皆、移動で疲れているでありましょうから」
ことことと、暖かくて美味しい、タマミの味噌汁も出来た所から、人々へとすぐに分配していった。ちなみに給仕には少女分隊で呼んだ複数のバックアップ素体が担ってくれているので、たくさん市民が来ても問題ない。
さて、もう一方のエリミネーターの方はというと……。
「サバ缶から身を取りだして……と」
丁寧にサバ缶から身を取り出し、ほぐしながら、火を通していく。火が通ったところに更に缶詰の野菜を入れ、醤油でコトコト、煮込めば完成だ。トマトが入っているため、こちらもどちらかというと洋風である。
「缶詰だとお野菜はちょっぴり洋風になりがちですけれど……そこはアレンジということで」
しかし、市民らは暖かいご飯は久しぶりのこと。
「わーい、美味しいご飯だ!!」
「とっても美味しそうね」
大人も子供も大喜びである。タマミとエリミネーターから、みそ汁と味噌煮をもらって、ほくほく顔である。
「タマミさん達もしっかり食べて下さいね」
「エリミちゃん殿こそ、バッテリーの方もちゃんと充電しておくでありますよ?」
「わたしはオイルを頂いておきますので」
タマミもエリミネーターも、市民達と一緒にしっかり食べて充電して、英気を養ったのであった。
「さすがロボットが攻めてくる世界、銃がたくさんあるわ! 私もこれを持って無双できる、はず……あれ? 重くない?」
思ったよりも重い武器に、紫は首を傾げる。
「小3の私に持てない? ステータスを上げたら使えるのかな?」
ぴんと何かを思いついた。
「ステータスを上げたら使えるのかな? 上げるステータスはSTG? DEX? うん、上げ方もわからない……ヘルプもない……ステータスは年齢通りってことで上げれないのね、そういう世界設定か~最近そういうの多いな~」
そりゃそうだ。ここは別世界の現実なのだから。小さな拳銃であれば、紫でも使えなくもないが……いかんせん、武器は武器。危ない。
そんな彼女の事を、√能力者と思って、見守っている武器庫の番人がいた。
「そこの秘書の人! 私が持てて、敵を一発で倒せる『そんな装備大丈夫か?』とか聞かれないやつを出してね♪」
「えっ、俺!? 秘書じゃないんだけど……」
武器庫の番人は、それならと告げる。
「それなら、あれがいいんじゃないかな?」
ジープに取り付けられた機関銃を指さし、番人は続ける。
「あれなら、狙いを定めて、撃っていけばなんとかなるから……って、君、本当に戦うのかい?」
改めて言われて、紫はうーんと首を傾げる。
「それよりも、あっちでカレーとかサバの料理が出ているから、食べに行くと良いよ」
番人に言われて、紫のお腹がぐうっとなる。
「そうね、まずは腹ごしらえも大事よね!」
そういって、紫は美味しいカレーをもらいに向かったのであった。
第3章 ボス戦 『スーパーロボット『リュクルゴス』』

人々が一息ついた頃。
√能力者達は、彼らのいるシェルターから少し離れた場所で待機していた。
なぜなら、シェルターを狙って、スーパーロボット『リュクルゴス』がやってくるからだ。
スーパーロボット『リュクルゴス』は、かなりの強敵だ。√能力者ではない者が戦えば、かなり不利となるだろう。武器を借りたとしても、二人いてようやく一人分の戦力になるかならないか……。場合によっては、別の√能力者を呼ぶのも悪くはないだろう。
まだ、スーパーロボット『リュクルゴス』が到着するのに時間はある。
その時間も含めて、スーパーロボット『リュクルゴス』の戦いに備えよう。
●マスターより
Anchorの皆さんが戦う場合は、武器を借りて戦うこととなります。一応、今からでもシェルターにいる人達から助力を借りることは可能です。その場合は万が一の展開も考慮して動いて下さい。出来れば、他の√能力者さんの参戦が望ましいです。
これで最期の戦いとなります。皆さんの熱いプレイング、お待ちしています!!
「なるほど、あれはヤバいやつだ」
継萩・サルトゥーラ(|百屍夜行《パッチワークパレード・マーチ》・h01201)がいち早く見つけたのは、シェルターを狙うスーパーロボット『リュクルゴス』である。ゆっくりと迫るリュクルゴスに、サルトゥーラは笑みを浮かべる。懐から薬をいくつか取り出し、それを口に含んで。
「やったろうじゃないの!」
がしゃんと音を立てながら、標準をリュクルゴスへと合わせ、そして。
「狙え」
――ダダダダダダッ!!!
自身よりも大きなガトリング砲が火を噴き、敵を射抜いた。これでもかと言わんばかりの弾丸を降らせて。
煙で一瞬、敵が見えなくなったが、それもすぐ姿を見せた。
多少、先ほどの銃撃で装甲が剥げているが、まだリュクルゴスは健在。
『掃討対象を確認。これから排除を行います。投降するのであれば、楽にして差し上げましょう』
そう告げるリュクルゴスにサルトゥーラは、空になった銃創を取り出し、新しいものへと手早く入れ替えた。
「まぁ焦んなや、楽しいのはこれからだ」
腰のポーチからペンタイプの薬を取り出すと、慣れた手つきで、太ももに刺していう。
「さてっと、もう一回、始めるとしようか」
ガトリング砲だけでなく、ソードオフショットガンを手元に構え、再び、ケミカルバレットをリュクルゴスへと放ったのであった。
ざんっと、仁王立ちしながら、紫は遥か遠くから……ぶっちゃけるとシェルターの見張り台から、リュクルゴスを見据えていた。その手には、借りた双眼鏡がある。
「ふふっ、何も殺傷力が高い武器を持って攻撃する事だけが戦いじゃないわ。私の武器は|ここ《・・》よ!」
とんとんと紫は、こめかみを叩きながら続ける。
「私の大人の頭脳での華麗な頭脳戦を見せてあげる!!」
いったい、彼女はどんな戦いを見せてくれるのだろうか! こうご期待!?
「というか、そもそもジープの運転免許持ってないし。それに攻撃する時は、運転席から機関銃の台座まで移動しないといけないとか面倒だし。反撃されたら咄嗟に逃げられないし、やっぱ面倒だし! でも、颯爽と運転したかったな~」
どうやら、先のエリミネーターはあんな身なりをしても、ロボットである。免許がなくてもしっかりバイクを運転していた。手足が届かない……ということは置いといて、それにしたって、羨ましい限りである。そこで紫は考えた。
そんな自分が出来る戦い方とは……。
「それよりこうやって、双眼鏡で遠くから敵の動きを分析するわ!」
えっ……それって……?
「それで行動パターンを分析し、後は、敵の行動に合わせて、攻撃か回避を指示するだけね」
まさか、それって……。
「ほら、右、来るわよっ!!」
「次は左から!! ほら、言ったじゃない、気を付けてー!!」
「避けてー!! いいわいいわ、その調子っ!!」
こうして、紫はリュクルゴスに認められないところで、双眼鏡を片手に、√能力者達へと声援を送っていたのである。
「跳び蹴りの届く所までは、フルスロットルで頼むであります……」
そう告げて、エリミネーターの運転するエリミちゃん号に乗り込むのは、タマミ。
「シェルターに近づけさせる訳にはいきません、先制攻撃ですね」
念のためにヘルメットを被って、エリミネーターは、エリミちゃん号のエンジンに火をつけた。
そう、二人はエリミちゃん号に乗って、リュクルゴスのすぐそばまで接近。
タマミだけそのまま飛び込み、戦いを継続。
一方のエリミネーターは、そのままフルスロットルで一気に戦場を離脱する……そんな流れである。
「仕掛けるタイミングはお任せします。思いっきり飛ばしますね。……私の運転の見せどころです」
そんなエリミネーターのヘルメット頭をぐりぐりと撫でて、タマミは装備をもう一度、確認する。
「では、行くのであります」
「はいっ!!」
エアバイクが猛スピードで、リュクルゴスの方へと迫っていく。
『排除対象の増加を確認。更なる敵を排除します』
いち早くそれを見つけたリュクルゴスが、斬光飛翔翼アポロニアウイングにて、タマミとエリミネーター達へと攻撃しようとするが。
「そうは……させませんっ!!」
見事なドリフト走行で、機体を滑らせ、敵の放ったアポロニアウイングを華麗に避けて見せる。
「……それじゃ、突っ込んでくるでありますよ」
「どうか、お気をつけて」
タマミとエリミネーターが小さく言葉を交わし、飛び出した。
『予測不可能! Emergency! 何がおこ……』
「その図体、ぶち抜いてやるであります!!」
レイン砲台からのレーザー連射と共に急降下の力を込めた鋭い蹴りが、リュクルゴスを襲う。
『アアアアアアアアーーーーッ!!!』
一面、激しい砂煙に包まれ、一瞬、リュクルゴスの姿が見えなくなったが、それもつかの間。
やはり、敵はそれでも健在だった。しかし、タマミとエリミネーターの協力技でもって、片腕が破壊されていた。バチバチと壊れた先から小さな火花が散っている。
「……さて、リュクルゴス殿。領域拡大か、はたまた貴殿の目に適う強者でも居たのか。此度の目的は分かりませぬが、好きにはさせませぬゆえ」
『敵を排除します。あなたを……いえ、貴様は許しません』
タマミの激しい銃撃戦と、リュクルゴスの鋭い刃のような羽が交差した。
一方、エリミネーターは、そのまま戦場を後にしていた。
彼女が向かうのは、先ほど滞在していたシェルターである。タマミ達が引き付けてくれているお陰で、エリミネーターを追いかける余力はなさそうだ。
「残っていても足でまといになるだけですし、あちらの護衛役も必要でしょうし……」
そして、あっという間に目的地へ到着。ヘルメットを外して、エリミちゃん号のハンドルにかけると、そこにいる人たちの事を思い浮かべる。
「私から打って出ることは出来ませんけど、いざと言う時に人々を【かばう】ことくらいは出来ます」
だからこそ、ここへと戻ってきたのだ。
遠くの方でまた、爆撃音が響いていた。
「万一の敵襲に備えて、しっかりと守りを固めておきます。だから、安心して戦って下さいね。……信じてますよ、タマミさん」
心配そうにもう一度、タマミ達が戦っている方角を眺めて、そして、エリミネーターは自身の役目を果たすべく、シェルターの中へと戻っていったのだった。
実は密かに……サルトゥーラよりも早く、スーパーロボット『リュクルゴス』に一撃を与えていた者がいる。
「毎度お馴染み、ルート前線新聞社です!」
キャンピングカーの【新聞社特別製】機動要塞ルートエデン号を走らせている藍依だ。ちなみにこの戦いは、生中継されているらしい。
「後ろからの接近に、敵は気づいていないようです。ではこのまま……」
キャンピングカーから身を乗り出して、藍依は報道ナレーションと共に、愛用のアサルトライフルであるHK416を一気にリュクルゴスへと放つ。
『後ろから掃討対象を確認。まさか、後方から来るとは思っていませんでした』
大急ぎで斬光飛翔翼アポロニアウイングを展開するリュクルゴスに、藍依は再度、ライフルに弾を込める。
『これでも喰らいなさい、アポロニアウイング!』
「その程度の攻撃、どうってことは……!?」
避けようとした先に、小さなうさぎが目に入った。このままではあっという間にやられてしまう。
「危ないっ!!」
急ハンドルで車体が斜めになる。アクセルは全開、そのまま運転席側のドアを開け、キャンピングカーを盾としつつ、片手で何とかうさぎを救うことが出来た。
「このまま、この子を安全な場所へ!!」
『掃討対象をロスト。このまま先へ進みます』
激しい雪煙と共に、藍依のキャンピングカーを見失ったリュクルゴスは、シェルターのある方向へと向き直り、突き進んでいった。
その後の戦いは、サルトゥーラから始まる連戦へと繋がっていく。
そして、離脱した藍依はというと。
「ここまで来れば安全ですよ」
敵の来ないところで、うさぎを解放していた。ちらっと藍依の方を見ていたが、そのまま、一目散に何処かへとぴょんぴょん駆けていってしまった。
「まさか、戦いの途中でうさぎに出くわすなんてね」
人でなくてよかった。けれど、この所為で戦いにズレが生じてしまった。
幸いにもまだ、発動した|新聞社の速報!《ニュース・レポーター》の効果は残っている。
「戻らなきゃ……!!」
この効果が消える前に。藍依はすぐさま戦場へと戻る。この一部始終は、電波を通じてこの戦いを見守る人々へと届けられているのも気づかずに。
藍依がキャンピングカーを猛スピードで走らせていると、丁度、タマミがリュクルゴスの片腕を飛ばしているところだった。
両者の激しい戦いの末、決着はつかずにタマミとリュクルゴスが離れる。
もちろん、タマミも無事ではいられない。かなりの深手を負っているように見える。
しかし……よりダメージを受けているのは、リュクルゴスの方だと分かった。
「私がいない間に、戦いは継続されていたようです。見てわかる通り、私達√能力者達の方に軍配が上がっているようです!」
自身でそうナレーターをしながら、再度、愛用のライフルを手にするかと思われたが……藍依が選んだのは。
「行きなさい、千里眼カメラ!!」
キャンピングカーからいくつもの、ドローンカメラの【新聞社特別製】千里眼カメラが飛び出していく。
『ドローンを確認。これは武器なのでしょうか?』
武器とは思えないドローンの出現にリュクルゴスは、困惑しているようだ。いや、もしかしたら、度重なる戦いで思考を司る部分が破損してしまったのかもしれない。電撃放射角ケリュネイアホーンの発動が遅れたのだ。それを見逃す藍依ではない。
「この瞬間をカメラに収めねば! あと10秒……3……2……1……ゼロ!」
|衝撃の瞬間!《 シャッターチャンス》だ。60秒間、カメラマンとしての根性魂をチャージした直後に放ったのは、威力18倍の必殺カメラフラッシュ。もちろん、チャージ中にリュクルゴスが電撃放射角ケリュネイアホーンを放ったが、そのダメージは全てチャージ後に適用される。すなわち。
『Danger、Danger!! 救え……』
救援を求めようとしたが、もう遅い。リュクルゴス放たれたフラッシュは、あっという間にコアを破壊され、そして。
『ギヤアアアアアアアアアーーーー!!!』
恐ろしい大音量を響かせながら、地に伏せ、爆破四散したのである。
こうして、√能力者やAnchor達の活躍により、無事、都市にいた人々を助け、指揮していたリュクルゴスを破壊することに成功した。
指揮機を失った敵軍は、態勢を整えるべく、撤退。しばらくはこの都市を襲うこともないだろう。
それに万が一があっても、今回の避難が役に立つだろう。
役目を終えた彼らは、周囲に敵がいなくなっているのを確認して、その場を後にしたのであった。
なお、この戦いの様子を実況していた放送は、かなりの人気を博したらしいが……それはまた別の話。
まずは、この戦いで勝利できたことを喜ぶとしよう。