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Open The Door

#√汎神解剖機関 #クヴァリフの仔 #プレイング受付中

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 #√汎神解剖機関
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●でぐちはない
 一瞬の出来事だった。
 がたんと自転車のフレームが鳴る。やらかした。乗り越えようとした段差に引っかかった。慌てて体勢を整えようとして、地面に手をついた――はずだった。

「……は?」
 次に顔を上げたときには、褪せた黄色の世界が広がっていた。頭でも打ったのか、それで視界がおかしくなったのかと目を擦るが、ふいに見えた自分の手の色は正常で、服の色にも変化はない。
 部屋がある。黄色い、部屋だ。だだっ広い空間に、彼はぽつんと転がっていた。

「……なん……だよ、ここ」
 青年は周囲を見回す。異常性は明らかだ。広がる世界は真っ黄色、どこを見たって人はいない、壁と柱があちらこちら。
 ……誰も、いない。何もない。起き上がり足元を見れば、乗っていたはずの自転車すらも存在していない。
 ここは、どこだ。青年の額に冷や汗が伝う。呼吸が浅くなる。

 彼はまだ気付けない。奥の奥から、ぬちゃり、音がしていることに。

●ごきげんよう。
「『ごきげんよう』、皆様。大変ご機嫌の良くないお知らせを」
 一礼するはデッドライト・シリル・クールベ(窓・h08786)。無表情。|彼女《彼》は一呼吸置いて、静かに口を開いた。
「バックルームという噂をご存知ですか」
 噂話――都市伝説――あるいは誰かが広めた創作の世界。ある日、ある瞬間、人が黄色い部屋に放り出される。そこはバックルーム。本来ならば奥の部屋、文字通り。一般の客などに向けた用途ではない部屋を指す。だが今は前者の……都市伝説のほうが有名か。

「ともあれ。迷い込んだものがいるらしく」
 自分のような迷い方ではないようで。|漂流船《メアリー・セレスト》、冗談を言うときも無表情。

「本来誰もいない場合が多いのですが。今回は先客がいます。この空間を利用している者が」
 それはぬぢょだとか、べじょだとか、奇妙な音を立ててはヒトのふりをして、蠢き這いずり歩く真似をして――。
「クヴァリフの仔と共に居るようです」
 揺れるインビジブルの光。
 デッドライトは指を立てる――まずは、黄色い部屋から抜け出す手立てを見つける必要がある。それから、青年の保護と避難。この空間には出口がある。
 現実世界への出口。あるいはその他の脅威。または、クヴァリフの仔、そして、その『母』が待つ空間が。

「故に、先手を」
 |彼《彼女》は静かに告げる。
「殺し尽くしてきてください」
 船霊が導く先は、海水の中ではない。
これまでのお話

第3章 ボス戦 『仔産みの女神『クヴァリフ』』


 ――プールの水が蒼く染まる。潮の匂いが強くなる。ぞわり、肌を粟立たせるほどの悪寒をもってして――『母』が、顕現する。
 ざばり。プールの水を派手に溢れさせた仔産みの女神『クヴァリフ』は、その視線をEDENへと向ける。

『妾の集めるものすべて、汝らは気に入らないというのだな』
 いつでも、せっかくの饗宴を台無しにしてくれる。女神は不機嫌そうに眉をひそめ、それでも笑みを崩さない。青白い肌にぬらり伝うプールの水。彼女から出る触手が、プールの底で眠る『仔』を守ろうと動き出す。

『好い余興であった。では……ご退場は、あちらからだ』
 指さす先は開いたドア。だがその先の景色はくらやみである。入ればどうなるか、わかったものではないのだが――。

『開いたドアは閉めるもの。なあに――妾もその程度、手伝ってやろう』
 |逆《・》だ。
 退場すべきは、女神のほうである。
北條・春幸

「相変わらずキレイな吸盤だねえ」
「妾の美しさなど、妾自身がよく知っている」
 どろり。溢れる粘液はありとあらゆる場所から。視線は鋭く、どこか甘ったるい雰囲気を纏っていた。青白い肌をしたうつくしく艶めかしい身体。だが彼女をみて北條・春幸(汎神解剖機関 食用部・h01096)が思うことは、その身体のうつくしさを見てのものではない。

「折角だから和解してさ、君の仔を僕らに与えてくれればお互い平和に過ごせると思うんだけどな」
 仲良くしてくれるなら、|解剖機関《ウチ》はいつでも大歓迎。両手を広げるその背中、どこか後光すら見えた気がするが。
「……汝の『平和』がそれだと云うのなら、EDENも腐ったものよな?」
 それはそう。くつくつと喉の奥で笑うクヴァリフ――彼女の背からうぞり這い出ている触手が、爆ぜるように動いた。
「おっと!」
 刺突。素早く動いた触手を避けて、「今回も交渉決裂かあ」と笑う春幸。フラれてばかり、それも仕方のないことである。もとより春幸はEDENの中でも独特な考え方をしているのだから。
「仕方がない――相手をしてやろう……」
「うん。よろしく。……じゃあ」
 気怠い表情で指先を動かしたクヴァリフへと。春幸は笑顔で、云う。

「だぁるまさんが、こーろんだ」

 ――『仔』を産み落とした直後、その身体が、硬直する。メガネの奥の目が笑っている。迫ってきていた触手が――削ぐように切り落とされた。噴き出す青色の血液を浴びながら、春幸の目はクヴァリフをとらえつづけていた。
「うーん、やっぱり切り応えを考えたら、相当に食感が良いと思うんだよね……」
 丁寧に削ぎ切りされていくクヴァリフの触手。硬直したままの仔すらも切り刻むメスの切先。このままでは流石にドライアイも真っ青だ。クヴァリフの肌や触手よりも。ぱちり、瞬きをした瞬間に動き出す。

 切り刻まれ、麻痺した触手はまともに機能しない。身動きが取れないまま戦闘能力すら削がれた仔もまた、べしょりとプールの中へと沈んでいった。

「お子様は僕らが預かるから、ママは早々にご退場いただけるかな」
「……笑止!」
 うぞりぬぞり、プールの中。『仔』らは親の顔も春幸の顔も知らず、揺れている。

禍神・空悟

「こいつは御丁寧にどうも」
 開いたドアを閉める、それだけでも人の品位というものは知れるものだが、彼女はそもそもヒトの倫理・論理で生きてはいない。丁寧さは|お墨付き《・・・・》。
「だが殺し尽くせって注文でな」
 禍神・空悟(万象炎壊の非天・h01729)の掌から一瞬、炎が爆ぜる。……空悟の周囲から一瞬、湿気が消えた。

「それにメインを頂かれずに出て行かれちゃ、テメェもホストとして顔が立たねぇだろ?」
「どうであろうなあ。汝らに喰わせるには少々お高くつくものだ、支払いは何で済ませるつもりか?」
 目を細めたうつくしい顔。ぎろりと向く視線――。支払いも何も、招いたのは『女神』である。支払う必要などなにひとつない、無効な決済だ。

「さて、タコ女。捌かれる準備は出来たか?」
 無数の眼球が空悟を刺す。物理的な痛みすら与えんばかりの視線の数々を空悟が放った黒炎が広く遮った。

「汝も、捻り千切られる準備は十分だろう?」
 見えずとも構わないとばかりに空悟へと距離を詰め、そのまま両腕を広げるクヴァリフ。だがそれは空悟の身体を捕らえることなく、僅かに掠めるに留まった。どこへ行ったとばかりに視線を這わせ、そして感覚から捉えたのは――真下!

「遅ェんだよ!」
 プールの飛沫を蹴散らしながら、腹を貫く黒炎の刃。燃え盛る切先が抱擁の勢いを利用し、深く抉る――!
「ぐっ……う!!」
 ブチ抜かれた腹部。それを振り払うため、そして強撃を与えるために放たれた触手たち。しかしその強烈な打撃をものともせず、クヴァリフの粘液を干からびさせんとばかりに渦巻く黒い炎。
 さらに深く抉られた傷口に青い血液を吐き、クヴァリフは唸りながらもその身体を捻り、空悟の腕からなんとか逃れた。ざばりとぬめるプールの水が波打って飛沫を上げた。

「蛞蝓共と違って見てくれが良いだけで、ぬめりも気にしなくなるってのは我ながらアレだよな」
 中身は似たようなモンだったが。ぐちゃぐちゃの肉が、そこにあるだけで。それでも蛞蝓どもよりずいぶんとマシである。
 じわりとクヴァリフの身体から汗のように粘液が吹き出す。焦りか、それとも。じろりと空悟を睨みつける視線は鋭く、そして……恨み深い。

クラウス・イーザリー

「君が一緒に退場してくれるなら考えてもいいよ」
 背にしたドアからの退場者は今のところ誰一人いない。開きっぱなしだ。
「応じるわけがなかろう」
「だよね」
 ゆえに、当然のやりとりである。残るは戦いで退場者を決めるだけ。だからこその応答。
 女神クヴァリフはじっとりと湿った目線で、クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)と睨み合う。
 傷ついた体を庇うわけでもなく、先陣が切り捨てた触手を自切するようにプールへと落とし、新たな触手を用意するクヴァリフ。プールの波に揺れて濡れるそのさまは、追い詰められた蛸によく似ていた。

「さて、汝も帰る気がないのだろう? ならば……妾がここで潰すのみ!」
 ぎろり。女神の無数の視線が、一斉にクラウスへと向けられた。巨大な眼球から放たれる圧。突き刺さる視線に足が僅かにすくむ、だがそれが何だというのだ。
 大鎌の形に錬成された魔力――触手と滑る足場に気を使いながら走り抜け、クラウスはクヴァリフのその身体へと肉薄する!

 触手がそれを阻もうと伸びてくるが、大鎌の刃で邪魔だとばかりに切り捨てた。クラウスを貫かんと勢いよく放たれた触手の先、それを魔力防御で切先を逸らすように流し、触手の射程を測りながらクヴァリフの元へと着実に進んでいく。
 時には引き、そして迫り、触手を一本ずつ着実に切り落としていくクラウス。
「まったく、ちょこまかと!」
 ――痺れを切らしたように女神が動いた。両腕を広げ、その腕で抱擁しようと迫る彼女。それからなんとか逃れ、追撃として放たれてくる触手たちも大ぶりに振りかぶり切り裂いて、女神のその体に一閃、深い傷を刻み込む――!

「ッ、く、あぁッ!!」
 青い鮮血と粘液を撒き散らしながらクヴァリフが声を上げる。触手を盾にし後退する女神……その向こう側に見えるクヴァリフの仔らは、母の奮闘を意識していないのか、未だゆらゆらと揺れているだけだ。
 ――あれを潰し切るか。持ち帰るか。二択を選ばされ続け、思えば長い付き合いである。だがそれでも彼らは尽きることがない。無限とも思えるほどに生まれ落ち、そしてEDENに『処理』されてきた。
 女神の思惑はどうあれ――この|地獄《部屋》には、まだまだ先があるようだ。