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√一寸先案内人『ザ・ファースト・インプレッション』

#√仙術サイバー #ノベル

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ヴェル・メル・ミルクレープ

●√
 仙術とサイバー技術が高度に発展した現代地球。
 それが√仙術サイバーである。
「――とまあ、そんな訳なんですけど~」
 ヴェル・メル・ミルクレープ(Pathfinder・h08750)は、√を跨いだ。
 他の√は彼女がいる√より、遥かに豊かだ。
 嫌な戦闘機械群もいない。
 食うに困って、こそこそと這い回らなくていい。
 それはとても幸せなことであった。

 なので、彼女からすれば他√へと足を踏み入れるのは趣味と実益を兼ねたことだった。
 物資補給の合間に他√観光なのか、はたまた他√観光の合間に物資補給をしているのか、もはや定かではないが、怒られないのならばオーケーというやつである。
「この√はなんていうか……空気が悪い? いやまあ、自分の世界も大概空気悪いですけど~」
 どんよりしている。
 それは他の√でも感じることであった。
 周囲を見回す。
 彼女のよく知る人類の領域である『|天蓋大聖堂《カテドラル》』によく似ている。
 けれど、決定的に違うのは、生命攻撃機能が無効化されるどころか、そもそも存在しない点である。
 それに自動修復機能もないようだった。
 壊れたらどうやって直すんだろう? とヴェルは物珍しげに周囲を見回している。
 生活様式は、√EDENよりもずっと機械的でヴェルは、むしろ親近感を覚えた。

「ふむふむ。けど、やっぱり全然違う世界なんだな~。何か食べ物が……くんくん……何やら美味しそうな匂いが! しますね~!」
 鼻腔をくすぐるなんとも言えない香り。
 香しいと言えばいいのか。
 釣られるようにしてヴェルは香りに導かれるようにして、√仙術サイバーの積層都市の中層をふらふらと歩んだ。
 するとすぐに屋台通りめいたストリートが見えてくる。
 人の通りも雑多だ。
 誰もが居並ぶ物資を前にして、吟味するように眺めたり、店主と何やらやり取りをしていたりする。

 ここには人類の営みが、そのまま残っているのだ。
「あの、これを一ついただいてもいいですか?」
 目についたフルーツ飴をヴェルは早速買って、口に運ぶ。
「美味しい! これは脳がとろける甘さですよ! わ~……これ、すっごい~……」
 かじって飲み込むだけでは勿体ない気がする。
 けれど、戦場においてカロリーは即座に摂取されるべきものである。味わっている暇なんてない。
 けれど、そんなことを思っていると、手にしていたフルーツ飴が横合いから飛び込んできた影に吹き飛ばされそうになったが、ひょいと軽やかに彼女はフルーツ飴を守った。
「おっと、危ない。急に飛んでくるものあり、と」
 メモメモ、と突然の出来事にも動じず彼女は、フルーツ飴をまた一つかじった。
 うん、美味しい。

「このやろう! 喧嘩ならよそでやれ!」
「うっせー!」
「おい、弁償しろよ!」
 やんや、と声が聞こえる。
 おや? と吹き飛んだ影はと、漸くにヴェルは視線を向ければ、そこには血気盛んな若者たちが屋台を巻き込んで、大暴れしているではないか。
 そこら中にあるものを利用して凶器にしている。
 更は勿論、屋台の暖簾に幟、はたまた長椅子に鍋蓋。
 それは周囲にある環境を全て武器にする手段であった。
「すご~い、戦い慣れてる感じ! ウチの組織にほしい人材です!」
 そう思ったのも束の間である。

 飛ぶは刀剣、迸るはレーザー。
 翻るは、リング型の武装に、鉄爪、鉄球、手裏剣、毒針、スタンガンのエトセトラ。
「えぇ~あれなんです? どうやってるんです?」
「あん? そんなの仙術に決まってるだろ、こら! 商売道具をよくも!」
「そうなんですか~仙術? へぇ~あの、ところで」
「なんだよ! 今忙しいんだけど!」
「止める人っていないんですか? 警察の人とか」
「軍警のこと言ってんのか!? 呼んでるよ! けど、あいつら、滅茶苦茶やりやがるから……」
「そうなんですねぇ……う~ん、お困りですよね?」
 なら、と彼女は決戦気象兵器を手繰り寄せ、出力を絞った光の雨を屋台通りに降り注がせる。

 争っていた若者たちは、その光景に目を見開くだろう。
「ケンカは時と場所を選びましょう!!」
 ヴェルの一声で、どうやら若者たちは冷水を浴びせられたようである。
「……さっきのなんだったんだ?」
「なんかでっけぇドローンが飛んだかと思ったら、光がでたよな……」
「あれって加減されたってことか?」
「だろ、絶対……」
「あの」
「はい!!」
 びし、とヴェルの言葉に若者たちは居住まいを正す。
 ヴェルは知らないことであったが、この√仙術サイバーは、武強主義がはびこっている。
 強きものが全てを手にする、という危険な思想である。
 だがしかし、力を示したのならば、力弱き者は従順になる。
 それは今の彼女にとっては都合がよかった。
「ちょっと教えてほしいのですが、仙術ってどこで教えてもらえます?」
 それは、彼女の新たな道を模索するのにピッタリな質問だった――。

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