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秘密をひとつ、星をひとつ
●ひみつの星空
マキイル山道の脇道にある小さな祠。その地下へ続く石階段の先には、地下だということを忘れそうなほど広い洞窟が広がっていた。
夜空みたいな毛並みの猫が、まわりにひみつ星をきらきらと散りばめたとっておきの寝床で幸せそうに眠っている。
●小さな祠にひみつをかけて
「新しいダンジョンが、できちゃったみたい」
三条・珠音(|憶えている《おしえて》・h05905)が困ったような微笑みを浮かべてあなたに声をかけた。
「マキイルの山に行く途中にね、祠に通じる地下道があるの。そこがダンジョンになっちゃって。一番奥に、ダンジョンの主の星雨猫『ステラレイン』って子が寝ているのよ。その子をやっつけたら、ダンジョンの拡大は止められそうなの」
一番奥に行くまでは、くねくねみちを辿って通せんぼしてくる扉を開けなくてはならない。その扉は、押しても引いてもあかないらしい。
「その扉はね、自分のひみつを告げると開くんだって。自分のこころに秘めたことをそっとつぶやくと、きらきらの小石が落ちてくるの。それを扉のくぼみに当てると、扉が開くわ」
ひみつはどんなものでも良いらしい。愛しいあの子に抱く心でもいいし、こっそりお菓子を食べたことでもいい。
「しゅしゅは……ふふ、体重でも扉に教えちゃおうかな? きらきらの小石は、あなたの秘密だから、そっと持って帰ることをおすすめするのよ。だれかに取られちゃわないように気を付けてね?」
その扉を抜けた先に、きっともふもふの子が待っている。その子の寝床には、たくさんのきらきらが散らばっているそうだから。どうか、ダンジョンが祠を飲み込んでしまう前にステラレインをよろしくね。
珠音はぺこりと頭を下げて、あなたを見送った。
第1章 冒険 『秘密を告げる時』
●流星雨
くねくねと曲がる細い道を歩きながら、真波・マナ(なりたて魔法少女・h13289)は腕を組んで悩んでいた。
「うーん、秘密かぁ」
秘密を告げろと急に言われても、沢山ありすぎてどれを言えばいいのか悩んでしまう。10歳の乙女には秘密にしておくべきことがありすぎるのだ。
小石を蹴り蹴り歩いていると大きな扉に行き当たる。見上げるほど大きな扉を押してみても、びくともしなかった。
「これが秘密を言えば開くっていう扉かな? ……えーと。この前の算数のテストが点数最悪だったけど、まだ帰ってきてないってごまかした!」
鞄の奥でくしゃくしゃに丸まった17点のテストを思い浮かべながら扉に向かって叫ぶ。すると、上のほうから水色に輝く小石がこつんと降ってきたが扉はまだ開かない。
「えー! 開かない! じゃあ昨日提出期限だった家庭科の課題! やってないのに先生には家に忘れたって言った!」
ころん、黄色に輝く小石が落ちてくる。扉が開く気配はない。
「開かないっ! もうこうなったら全部言っちゃえ~! おねえちゃんの買ったクッキーを一枚内緒で食べた! あとうっかり観葉植物倒しちゃったけど猫のせいにしちゃった!」
マナが秘密を告白するたびに、ころん、ころんと上の方から光る小石が落ちてきた。
「あ、もしかしてこれ鍵……?」
ひとつつまんで扉のくぼみにそっと当ててみると、大きな扉はガコ、と動いた。周りにきらきらと散らばる小石をせっせと拾い集めて、マナはその扉をくぐった。
●白いひとつぼし
道を辿りながら|ルイ・ラクリマトイオ《涙壺のルイ》(涙壺の付喪神・h05291)は自分の持つ秘密について考えていた。
かつての主人たちの秘めた思いや、抑えきれない言葉たち。そういったものたちを涙壺として受け止め、湛えてきた。しかし、それはルイ自身の秘密ではなく、かつての主人たちの大切な秘密であった。
自分の秘密について考え込んでいるうちに、大きな扉に行き当たる。なるほど、しゅしゅさんが言っていた扉とはこのことだろう。
「……誰かに優しくされると、時々どう返していいかわからなくなるんです」
扉に手を当てながら、ルイはぽつぽつと言葉を紡ぎだす。
「もちろん嬉しいのですが……。そんなにしていただいていいのかな、と、つい考えてしまって」
物として主人たちの想いを受け止めてきたルイの、心のやわらかい部分の独白。誰に聞かせるでもない、小さなつぶやきだった。
「逆の立場なら、喜んで受け取ってもらえるだけで嬉しいと、わかっているのですけれど。もっと、こう……素直に、受け止められるようになりたいです」
これも秘密になるでしょうか? と少し困ったように微笑むと、月明かりみたいに淡く光る白い小石がころりと落ちてきた。
白い小石を扉へそっと当てると、重たい石扉が音を立ててゆっくりと開いていく。
「ありがとうございます。私の秘密を聞いてくださって」