秘密をひとつ、星をひとつ
●ひみつの星空
マキイル山道の脇道にある小さな祠。その地下へ続く石階段の先には、地下だということを忘れそうなほど広い洞窟が広がっていた。
夜空みたいな毛並みの猫が、まわりにひみつ星をきらきらと散りばめたとっておきの寝床で幸せそうに眠っている。
●小さな祠にひみつをかけて
「新しいダンジョンが、できちゃったみたい」
三条・珠音(|憶えている《おしえて》・h05905)が困ったような微笑みを浮かべてあなたに声をかけた。
「マキイルの山に行く途中にね、祠に通じる地下道があるの。そこがダンジョンになっちゃって。一番奥に、ダンジョンの主の星雨猫『ステラレイン』って子が寝ているのよ。その子をやっつけたら、ダンジョンの拡大は止められそうなの」
一番奥に行くまでは、くねくねみちを辿って通せんぼしてくる扉を開けなくてはならない。その扉は、押しても引いてもあかないらしい。
「その扉はね、自分のひみつを告げると開くんだって。自分のこころに秘めたことをそっとつぶやくと、きらきらの小石が落ちてくるの。それを扉のくぼみに当てると、扉が開くわ」
ひみつはどんなものでも良いらしい。愛しいあの子に抱く心でもいいし、こっそりお菓子を食べたことでもいい。
「しゅしゅは……ふふ、体重でも扉に教えちゃおうかな? きらきらの小石は、あなたの秘密だから、そっと持って帰ることをおすすめするのよ。だれかに取られちゃわないように気を付けてね?」
その扉を抜けた先に、きっともふもふの子が待っている。その子の寝床には、たくさんのきらきらが散らばっているそうだから。どうか、ダンジョンが祠を飲み込んでしまう前にステラレインをよろしくね。
珠音はぺこりと頭を下げて、あなたを見送った。
第1章 冒険 『秘密を告げる時』
●流星雨
くねくねと曲がる細い道を歩きながら、真波・マナ(なりたて魔法少女・h13289)は腕を組んで悩んでいた。
「うーん、秘密かぁ」
秘密を告げろと急に言われても、沢山ありすぎてどれを言えばいいのか悩んでしまう。10歳の乙女には秘密にしておくべきことがありすぎるのだ。
小石を蹴り蹴り歩いていると大きな扉に行き当たる。見上げるほど大きな扉を押してみても、びくともしなかった。
「これが秘密を言えば開くっていう扉かな? ……えーと。この前の算数のテストが点数最悪だったけど、まだ帰ってきてないってごまかした!」
鞄の奥でくしゃくしゃに丸まった17点のテストを思い浮かべながら扉に向かって叫ぶ。すると、上のほうから水色に輝く小石がこつんと降ってきたが扉はまだ開かない。
「えー! 開かない! じゃあ昨日提出期限だった家庭科の課題! やってないのに先生には家に忘れたって言った!」
ころん、黄色に輝く小石が落ちてくる。扉が開く気配はない。
「開かないっ! もうこうなったら全部言っちゃえ~! おねえちゃんの買ったクッキーを一枚内緒で食べた! あとうっかり観葉植物倒しちゃったけど猫のせいにしちゃった!」
マナが秘密を告白するたびに、ころん、ころんと上の方から光る小石が落ちてきた。
「あ、もしかしてこれ鍵……?」
ひとつつまんで扉のくぼみにそっと当ててみると、大きな扉はガコ、と動いた。周りにきらきらと散らばる小石をせっせと拾い集めて、マナはその扉をくぐった。
●白いひとつぼし
道を辿りながら|ルイ・ラクリマトイオ《涙壺のルイ》(涙壺の付喪神・h05291)は自分の持つ秘密について考えていた。
かつての主人たちの秘めた思いや、抑えきれない言葉たち。そういったものたちを涙壺として受け止め、湛えてきた。しかし、それはルイ自身の秘密ではなく、かつての主人たちの大切な秘密であった。
自分の秘密について考え込んでいるうちに、大きな扉に行き当たる。なるほど、しゅしゅさんが言っていた扉とはこのことだろう。
「……誰かに優しくされると、時々どう返していいかわからなくなるんです」
扉に手を当てながら、ルイはぽつぽつと言葉を紡ぎだす。
「もちろん嬉しいのですが……。そんなにしていただいていいのかな、と、つい考えてしまって」
物として主人たちの想いを受け止めてきたルイの、心のやわらかい部分の独白。誰に聞かせるでもない、小さなつぶやきだった。
「逆の立場なら、喜んで受け取ってもらえるだけで嬉しいと、わかっているのですけれど。もっと、こう……素直に、受け止められるようになりたいです」
これも秘密になるでしょうか? と少し困ったように微笑むと、月明かりみたいに淡く光る白い小石がころりと落ちてきた。
白い小石を扉へそっと当てると、重たい石扉が音を立ててゆっくりと開いていく。
「ありがとうございます。私の秘密を聞いてくださって」
●扉だけが知っている
ヴェーロ・ポータル(紫炎・h02959)は軽く目を閉じながら足を進めていた。吸血鬼であるヴェーロが生きてきたその長い時間の中、秘めておくべきことはそれこそ星の数ほどあるだろう。しかし、本当に秘めておくべきものは、たとえ扉相手であろうとあまりにも穢れていてとても口に出せそうにもない。
扉の前で、ひとつ咳払いをしてそっと告げ始めた。
「口に出せる範囲なら……。そうですね、色々ありますが」
魔法少女の弟を思い浮かべながら小さく笑う。
「弟に、酒の量を減らした方がいいと忠告されたんです。最初は控えていたんですが、最近はまた増えてきてしまいました。あと、古書。ずっと探していたものと巡り合えて、衝動買いしてしまいました。……少々値が張ってしまいましたが。これもまだ誰にも言っていません」
あとは……。と呟いて、ヴェーロは扉に額をくっつけた。扉にだけ聞こえるような小さな声で、親友と酔った勢いで交わした、あの事を。
「……すみません」
小さく呟くと、天井から琥珀色に輝く小石がころりと落ちてきた。掌に載せて観察するように見つめる。
「やはり、こんな美しい小石を受け取るのは気が引けますね。こんなものでも受け取って頂けますか?」
扉のくぼみに押し当てると、ゆっくりと開く。ヴェーロは小さく頷いて小石を握りしめたまま先へ進んだ。
●ふたつのひみつ星
「新しいダンジョンって聞くとワクワクするね」
タージェ・シャルトルーズ(ルートブレイカー・h04741)は弾むように歩きながら、自分の影の中へ念を飛ばした。
「ふむ。まぁ、新しいダンジョンに挑むのが楽しみなのは分かるが……。タージェよ、もう少し落ち着け」
セレン・ディ・バイト(|影護《シャドウ・ガーディアン》・h05579)が苦笑交じりに諫める。
はあい、なんて返事をしながら進んで行くと、大きな扉に行き当たる。
「これが情報にあった扉か?」
「そうみたいだね。んと、確か秘密を言わないとダメなんだったっけ? ……秘密……ひみつ」
うーん、と目を瞑って考える。……やっぱりあれかなぁ。
「……んと……実は昨日セレンの分のお菓子もちょっとだけ食べちゃったんだ」
窺うように薄く目を開けて呟くと、セレンが影から人の形をとりながら出てくる。その目がジトっとタージェに向いた。
「……はぁ、どおりでいつもより何だか少ないと思ったら」
「だって美味しそうなプチシューだったから、つい……。うぅ、セレンごめん……。けど、全部は食べてないよッ!?」
手をぶんぶんさせながら必死に弁解をする。全部食べちゃいたいくらい美味しかったけれど、ちゃんとセレンの分も残してあるのだ。……だいぶ食べてしまったけれど。
「まぁ、良い。菓子くらいで我もとやかくは言わぬ」
小さく息を吐いて言うセレンに、タージェはにこにこしながら訪ねる。
「……あ、セレンは何か隠してることはないのかな?」
「ふむ。我の隠し事か……」
「なんでもいいみたいだよ。僕のおやつを食べたこととか、隠してるおやつがあることとか」
「我はタージェではない。……そうだな。ある日、父殿に頼まれて買い物に行った帰り道、ふと立ち寄った公園で、膨らませた細長い風船で動物や植物を作っている者と出会ったな」
「あー、バルーンアートってやつだ」
「そうだ。練習中とのことだったがなかなか見事な腕前で、我もいくつか教えてもらった」
「へぇ、そんなことあったんだ。今度僕達にも作ってよ」
「……まぁ、そのうちな」
そう言って、セレンはほんの少しだけ口元を緩めた。
話し終えた二人の頭上からころり、ころりと光る小石が落ちてくる。
クリーム色に淡く光る小石がタージェの、空色に輝く小石がセレンの手に収まった。
「これを扉にあてるんだっけ」
くぼみにそっと小石を当てると、扉が小さな音を立てた。
「? ……あ、開いたっぽい?」
2人は顔を見合わせてひとつ頷く。
「……とりあえず進もうか」
「そうだな」
小石を握りしめながら、2人は扉の向こうへと進んで行った。
●ふたりの証
マキイル山へ続く、でこぼことした山道を歩きながら、ツインレイ・ゼロ(クロス・ムーンハート・h08433)は空を見上げた。
木々の隙間から差し込む木漏れ日が揺れていた。鳥の声も届かず、聞こえるのは靴底が小石を踏む音だけ。
山道を外れた先には、人の手が入らなくなって久しい細い獣道が続いていた。
「新しいダンジョン、か」
珠音から聞いた話を思い返す。祠へ続く地下道。秘密を告げなければ開かない扉。その先で眠る星雨猫『ステラレイン』。
きらきらともふもふ。
そんな言葉だけを聞けば、冒険好きとしては胸が躍る。口の端が少しだけ上がる。ダンジョンの主がどんな奴なのかも気になるし、秘密を話せば星になるなんて仕掛けも嫌いじゃない。自分でも気づかないうちに足が弾むように早くなっていた。
愛する人の為に自分を磨くことも、今回の目的の一つだ。
「さて……秘密、ねぇ」
独りごちて苦笑する。秘密なんて、探せばいくらでもある。
人に言えない失敗もあるし、墓場まで持っていくつもりの出来事だってある。だけど、それをこの扉へ告げるのは違う気がした。
扉は秘密を暴く為のものじゃない。
胸の内にある、小さな欠片を預ける場所。そんな気がしたから。
やがて、道の先に大きな石扉が姿を現す。大きくて、ドアノブの上に小さなくぼみがある頑丈そうな石扉だ。表面には風雨に削られた跡が残っている。長い年月をここで過ごしてきたのだろう。けれど小さなくぼみだけは不思議なくらい滑らかだった。
「これか」
目の前へ立ち、静かに手を当てる。ひんやりと冷たい感触が掌へ伝わった。少しだけ考える。
そして、ふっと笑った。
「俺の秘密は、何故かこめておに俺のやってる事や考えてる事が筒抜けになっている事だ」
誰も居ない扉へ向かって、ぽつりと語り掛ける。扉にだけ聞こえるように、そっと。
「まぁ、秘密と言えるのかどうかも微妙だけどな」
肩を竦める。隠そうと思っても隠せない。言葉にしなくても伝わる。
嬉しいことも、悩んでいることも、怒っていることも、……少し照れくさいことも。
何故だか全部伝わってしまう。
「そもそも、俺の愛するこめておに全部筒抜けになっていても良いんだ」
自然と笑みが零れる。
「俺の愛するものだから、こめておも俺だ」
愛は、Iで、俺だから。だからこめておを大切に思うことは、俺自身を大切に思うことと変わらない。
だから困ることはない。隠し事が出来なくても構わない。それもまた、自分達らしいのだから。
「もちろん、その理屈からいくと」
一拍置いて。
「こめておの考えてる事も分かる」
思い返せば、あれこれ考えていることも、何となく伝わってくる。
本人――いや、本人と言っていいのか。
ぬいぐるみの姿をしたこめておも、きっと同じようにこちらを見ているのだろう。
「まぁ、いつも俺の事を愛してると思っているんだけどな」
くすり、と笑う。
その言葉が扉へ届いた瞬間だった。
頭上から、きらり、と小さな光が降ってくる。
掌へ収まったのは、夜空の星を削り出したような、小さな石。光を受けるたび色を変える。星屑を閉じ込めた硝子細工みたいだった。握ればほんのり温かい。
指先で転がすと、きらきらと柔らかな光を返した。
「これが、ひみつ星か」
思わず見入る。
秘密は人それぞれ違う。
だからきっと、この星も一つとして同じものはない。
「俺とこめておだけの証、って事で」
そう呟いて、小石を胸元へ寄せる。
誰にも渡さない。
誰にも譲らない。
この星は、自分達だけが知る秘密の形。
そっと扉の窪みへ当てると、重たい石扉が低く音を響かせながら、ゆっくりと開いていった。長い眠りから目覚めるように。石同士が擦れる音を響かせながら。舞い上がった砂埃が光に照らされる。
「よし」
開いた先には、まだ見ぬ景色が待っている。
星をひとつ握り締め、ツインレイは静かにその先へ足を踏み出した。
第2章 集団戦 『星喰いキツネ』
扉を抜けた、その瞬間だった。
夜空色のもふもふが、風みたいにあなたの横を駆け抜ける。
しまったはずのひみつ星がない。
少し先で、夜空色のキツネが光る小石を誇らしげに咥え、ふわりと尻尾を揺らした。
――星喰いキツネ。
きらきら光るものを見つけると、つい集めたくなってしまう困った子。
あなたの秘密の証も、その小さな宝物のひとつになってしまったらしい。
●もふもふふれあいコーナー
ひゅっと何かが身を掠めたような気がして、タージェ・シャルトルーズ(ルートブレイカー・h04741)はその茶色い瞳をまぁるくしてきょろきょろとあたりを見渡した。
同時にセレン・ディ・バイト(|影護《シャドウ・ガーディアン》・h05579)もその大きな背中にタージェを隠しつつ、鋭い視線を向けた。
2人の視線の先に居たのは、空色とクリーム色の小石をくわえた夜空色のもふもふだった。
「わっ、かわいい」
「あれは、猫……? 狐……?」
それぞれの感想がぽろりと零れると同時に、その口元に光る小石に気が付いた。
「……って、あの口にあるのは……。いつの間に!」
ポケットを外から叩く。さっきまであったはずのひみつ星が無くなっていた。
「中々すばしっこいようだな。タージェよ、気をつけろ」
「ふふん。言われなくても! あの子、遊びたいのかな?」
こてんと小首を傾げる視線の先には、きらきらしたおめめの星喰いキツネがどや顔で立っていた。
たまらずタージェが駆けだすと、星喰いキツネはその短い足をちょこまか動かして逃げていく。ある程度距離を取ったところで、ひみつ星をくわえたままどや顔で振り返る。
「か、かわいい~!! はや~い!!」
「感心している場合か」
セレンがため息をつきながら魔力糸をするすると出して、仄かに光る小鞠を作った。それを星喰いキツネへ向かってぽんぽんと投げると、星喰いキツネは目を輝かせてその小鞠を追いかける。
「セレンナイス~!」
小鞠に夢中になっている隙に、タージェは翠玉色の精霊銃におかしな魔弾をこめて撃った。前足がクッキーになって、夜空色の目がぱちぱちと瞬きを繰り返した。
「えいっ! わぁ、ふわふわ!」
喉やおなかをこれでもか! と撫でくり回すタージェに、セレンはひとつ息を吐く。
「……これで十分遊んで悪戯が減ると良いが……」
嬉しそうな星喰いキツネは、咥えていたひみつ星をそっと地面に置くと満足そうにその瞳を閉じた。
「ねぇこれってまだ撫でててもいいと思う?」
「……もう敵意はなさそうだ。タージェの好きにするが良い」
●きらきらこうかんこ
夜空色のもふもふは、ひみつ星を咥えたまま首をこてんと傾げた。
「その石、返してくれ……ないよね?」
真波・マナ(希望を紡ぐ青き星・h13289)は小さな体をもっと小さくし、星喰いキツネと目線を合わせる。
問いかけても、きょとん。敵意はない。けれど返す気もないらしい。
あげちゃってもいいんだけど、なんだか勿体無い。向こうに敵意がない限り、こちらに戦う意思もなく。敵意ありなら堂々と戦えるんだけど。
しゃがんだまま、うーんうーんと唸る。
「ねぇ、それわたしの秘密なんだよね。きみのじゃないんだけど……」
お願いの気持ちをこめて言葉をかけてみるけれど、星喰いキツネはつん! とそっぽを向くだけだった。
「うーん……あ。これと交換とかどう?」
ポケットに手を突っ込んで、取り出したのは綺麗なボタン。掌にのせて、そっと差し出してみる。
星喰いキツネは目をきらきらさせてぱくりとくわえた。
ひみつ星も一緒にくわえたまま。
「……え、欲張りさん? だめだよ~」
くすっと笑いながらふたつもくわえているもふもふにそっと手を伸ばす。
もふもふ、さらさら。その毛並みを掌で楽しみながら、語り掛けた。
「じゃあさ、もう一個、ビー玉もあるからさ。それと交換しない?」
夜空色の目をうっとりと閉じている星喰いキツネは、ぽとりとひみつ星を置いた。
「うん、いいこ」
右手でなでなでしながら、反対の手できらきらのビー玉をひみつ星と交換する。
「どうしよう。辞め時がわかんないや」
ごろりとおなかを出したもふもふを撫でながら、マナは幸せな息を吐いた。
●きらきらのおすそわけ
夜空色のもふもふは、ひみつ星を咥えたままルイ・ラクリマトイオ(涙壺の付喪神・h05291)を見上げた。
「あっ……」
思わず漏れた小さな声。重大な秘密というわけではない。けれど、あの白いひみつ星は、先ほど勇気を出して話した、自分だけの秘密が形になったものだ。
「困りましたね」
静かに苦笑する。
どうしても倒さなければならないのであれば、それも仕方がない。
けれど、できることなら。この愛らしい生き物に、そんなことはしたくなかった。
逃げる星喰いキツネを追いかけながら、優しく声を掛ける。
「きらきらがお好きなのですね」
星喰いキツネはぴこん、と耳を動かした。目線をあわせるようにゆっくりとしゃがむ。
「私もそうです。美しいものは、つい見惚れてしまいますよね」
夜空色の瞳が、じっとこちらを見る。
「ですが……それは、私の大切なものなのです」
胸元から、小さな硝子瓶を取り出した。中には琥珀色や薄桃色、淡い水色。
光を受けるたび宝石のように煌めく琥珀糖が詰まっている。
「……こちらと、取り替えっこしていただけませんか?」
星喰いキツネはくんくんと鼻をひくひくさせながらルイの持つ硝子瓶に顔を近づけた。
おいしそうな香りと、綺麗なきらきら。
ぱぁっと目が輝いた。
「きらきらしているだけでなく、甘くて美味しいのですよ」
言いながら黄色の琥珀糖をてのひらにころりと出した。ふわりと甘い香りが漂う。
星喰いキツネは白いひみつ星を地面にそっと置くと、ルイの掌に顔を突っ込むようにして琥珀糖をくわえた。カリッと噛むと、優しい甘さが口いっぱいに広がって大きな瞳をとろりと緩める。
「気に入っていただけましたか? ……おや」
甘い香りにつられたのか、3匹ほどもふもふと近づいてくる。
「はい、あなたたちもどうぞ」
青い瞳をさらに優しく下げて、掌へ琥珀糖をころりと転がした。
硝子瓶の中身がどれだけ軽くなったかは、ルイだけが知っている。
第3章 ボス戦 『星雨猫『ステラレイン』』
地下とは思えないほど広い空間だった。まるで地上と見まごうほどの景色の中、小さなお社がぽつんと佇んでいる。
その前には、たくさんのひみつ星がきらきらと散りばめられていた。
星雨猫『ステラレイン』は、その星々を寝床にするように、くぅくぅと気持ちよさそうに眠っている。
あまりにも愛らしい寝顔。
けれど、このまま放っておけば、ダンジョンは近くの街まで広がってしまうかもしれない。
どうにかして、この子を満足させてあげなくては。
たくさん遊んで、たくさん甘えて。
満足したら、きっとまた安心して眠ってくれるはずだから。
●父殿特製芋けんぴの行方
突然開いた景色に、タージェ・シャルトルーズ(ルートブレイカー・h04741)はきょろきょろとあたりを見渡した。
「わぁ、凄い広い。あれ、お社が何だか光っているような……?」
社の前ですやすや眠るステラレインを見つけて、タージェはしゃがんでふわりと目を細めた。
「わ、珍しい色合いの子だね。可愛い……」
「もしかしたら、さっきの夜色のはここに星を集める係だったのかもしれないな」
セレン・ディ・バイト(|影護《シャドウ・ガーディアン》・h05579)が小さく言うと、眠っていたステラレインがその金色の瞳をゆっくりと開いた。きらきらとお星さまみたいなまなざしを2人に向ける。
「これは『遊ぼ』って目だよね? ……だよね?」
「ああ、敵意は感じないな」
「チチチ……おいでおいで~」
タージェが柔らかく微笑んで指を差し出すと、ステラレインがとことこと誘われたように近寄る。その夜空のような毛並みを手にこすりつけた。
「あぁ、可愛い! すべすべで気持ちいい♪」
「ほら、タージェ。これで遊んでやったらどうだ? その間に我は少し遊び道具を作ってみるとしよう」
魔力糸で作られた猫じゃらしを受け取ったタージェが小首を傾げた。
「遊び道具? 何を作るの?」
「それはお楽しみだ」
ステラレインはもうタージェの持つ猫じゃらしにくぎ付けで、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。セレンはそれを視界の端に入れて、魔光の腕輪に魔力を流し込んで透明ドームの迷路を作り始めた。
「あはは、もう待ちきれなくなってる!」
ゆらゆら、ぴょんと猫じゃらしを振ると、ステラレインは目をきらきらさせながら飛びついてくる。
「うむ。案外できるものだな」
「わ、迷路だ! ねぇ、どっちが早く抜けれるか競争するかな? セレンはゴールで審判をお願いね」
「ふむ。なら勝った方には『父殿特製芋けんぴ』をやろうか。ゴールで待っている」
「決まり! じゃあ行くよ。よーい、どんっ!」
同時に駆けだす一人と一匹。
曲がり角では鉢合わせをして、思わず笑い合って、また別々の道へ。
「こっちだよ!」
タージェの声に誘われるように、ステラレインも元気よく駆けていく。
やがてゴールへ飛び込んできたのは――ほとんど同時だった。
「引き分け、だな」
セレンの宣言に、タージェは笑い、ステラレインも満足そうに小さくあくびをした。
●空に咲く猫さんキャットタワー
金色の瞳をきらきらさせてこちらを見るステラレインに、|ルイ・ラクリマトイオ《涙壺のルイ》(涙壺の付喪神・h05291)は笑みを深くした。
見た目は愛らしい黒に星空模様の猫さんではあるが、ダンジョンを増殖させる力を秘めているインビジブルだ。満足するまで遊ばせるのがいいらしいが、さてどうやって遊んであげようか。
「おや、ルイ君。奇遇だね」
「正信さん?」
ゆっくりと歩いて来た眞継・正信(吸血鬼のゴーストトーカー・h05257)の姿に目をぱちくりさせるルイ。
「なにか考え事かね」
「ええ、猫さんと遊んで満足させる、とのことなのですが」
「猫は高いところへ上ったり、追いかけたりするのが好きだと聞くがね」
「……なるほど。ああ、キャットタワーというものがありましたね。では、空に猫さんだけのキャットタワーを作りましょう」
おはなしのこ達に力を借りて、青い蓮の花を空中にあちこち咲かせる。9つの蓮の花がふわりと足場を作った。その上でおはなしのこ達がステラレインを誘うように手を振っている。
「私と一緒に、遊んでいただけませんか? せっかく動ける身体があるのですから。一緒に楽しみましょう……ね?」
微笑みかけられたステラレインは、尻尾をぴん! と立ててルイの後を追った。
「なるほど。追いかけっこは得意だろう。『Orge』。君に任せたよ」
正信が灰銀の毛並みの死霊を呼んで、共に遊ばせる。
「オルジュさんも一緒に遊びましょう。さぁ、いきますよ」
ルイの一声に、おはなしのこがそれぞれ道具を構える。軽やかにルイが道具へ足を掛けると、おはなしのこ達が力を合わせて、その身を空へ跳ね上げた。
ぽーんと跳ぶルイのまねっこをして、ステラレインも目をきらきらさせて飛び乗った。
ぴょーんとステラレインが跳び、ひゅーんとOrgeも追いかけていく。
「……実は、身体を動かすのは好きです、モノの身ではできなかったことですから」
涙壺として存在していた頃は、ただそこに在ることしかできなかったから。
割れることを恐れず駆け回れる今が、ルイは好きだった。
笑顔で跳ねるルイと、それを追いかけるステラレインとOrge。気付けば星雨の子猫達も増え、蓮の花キャットタワーを夢中で飛び回っていた。ころりと転げ落ちた子も、またすぐに駆け上っていく。
「賑やかになりましたね」
「ああ、そうだね。どの子猫も楽しそうだ」
ころころとはしゃぎまわった子猫たちは、おはなしのことじゃれあい、いつしか眠りについていた。
しかし、子猫達は眠ってしまったというのにステラレインだけはまだ遊び足りないらしい。
「おや、まだまだ遊んでいたいですか?」
目を合わせて語り掛けるルイに、ステラレインは元気に鳴いた。
●すやすやびより
青白い光の翼を出した青色のインラインスケートを滑らせて、真波・マナ(希望を紡ぐ青き星・h13289)は広場いっぱいに流れ星みたいな軌跡を描きながら駆けまわった。
ステラレインは尻尾をぴん! と立てて高く鳴く。その声に共鳴して出てきた9匹の子猫たちがだんだん透明になり、姿を消した。
「あ、かくれんぼ? いいよ、やろう!」
おおげさに目を隠して、大きな声で10を数えた。きらきらの青い瞳が子猫たちを探し始める。
「あ、見つけた!」
飼っている猫たちを見つけるみたいに、慣れた手つきで抱き上げる。
うーん、ふわふわ!
そっと下ろして、次の子を探しに駆け出した。
「いち、にーい、さん……うん、みんな見つけた!」
楽しそうに笑いながら、星の加護を受けたドレスの裾をふわりと広げる。即席の寝床の完成だ。
「固い地面より、寝床はふかふかの方がいいよね?」
頭や耳の根元をくしくしと優しく撫で、一匹ずつドレスへ寝かせていく。
そんなマナをじぃっと見つめていたステラレインへ、両腕を広げて微笑んだ。
「ほら、おいで。今日はいっぱい甘えていいんだからね」
ステラレインがたたっと駆けこんでくるのをぎゅうっと受け止めて、その夜空みたいな背中を優しく撫でる。
ごろ、と微かな振動がステラレインから聞こえてくると、マナはごろんと転がって一緒に寝転ぶ。
ごろごろとした振動がやがてゆっくりになり、すぴーと寝息に変わったのを感じて、マナもそっと目を閉じた。