魔法少女になると決めた日
夕焼けに染まるグラウンドへ、「お疲れー!」という子供たちの声が響く。
フットサルチームの練習を終えた|真波・マナ《まなみ・まな》は、スポーツバッグを肩に掛けてグラウンドを後にした。
今日は姉が迎えに来ていて、この後一緒に買い物をして帰る約束だ。
「今日もたくさん走ったんでしょ?」
「うん! あー、お腹空いた!」
「宿題は?」
「う゛っ……それは、帰ってから」
ウキウキしていた表情は、宿題の話が出た瞬間ショボンとしたものに変わった。
「しかたないなあ、あとで宿題みてあげる」
「おねえちゃん大好き!」
そんな他愛もないやり取りをしながら、商店街を歩いていた時だ。
大きな破裂音が響き渡った。ショーウィンドウのガラスが砕け散り、人々の悲鳴が続く。
「マナ!!」
姉の悲鳴が聞こえたかと思えば、温かい腕に抱き込まれていた。
姉の腕に守られながら、恐る恐る周囲を見回す。
周囲は阿鼻叫喚だった。
散乱したガラスの中、小さな子供が泣きながら立ち尽くしている。
「なにあれ!?」
逃げ惑う人の一部から、声が上がった。
見れば、黒い霧を纏った異形が、ゆっくりと腕を持ち上げる。
腕の先にいたのは、その子供だった。周囲に親の姿はない。
マナは考える前に走り出していた。
姉の腕をすり抜け、子供へ一直線に向かう。
「マナ、だめ!」
制止の声にも、足を止めない。
異形の腕が子供に当たる直前、小さな体に飛びつき倒れ込む。
太い腕が空を切った。
その時だった。
「見つけた」
鈴の音のような声とともに、小さな青白い光が目の前に現れた。
羽の生えた不思議な存在。
「君には人を守る素質がある」
「そしつ……?」
「そう。力が欲しい?」
その言葉に、姉を見る。不安そうな顔だ。体の下には、泣いている子供。
迷う理由はなかった。
「助けられるなら、やる!」
光が弾けた。
青と白の光が身体を包み、手には見知らぬ武器。
身体の奥底から力が沸いてくる。
「これなら……!」
勢いよく駆け、手にした武器で一撃を叩き込む。
異形は大きくよろめき、最後は光の粒子とともに消えていった。
マナは自分の姿を見下ろす。
青と白を基調にしたフリルたっぷりの可愛い魔法少女姿。
「……ピンクじゃなくて良かった」
「それを最初に言う魔法少女は、たぶん君くらいだよ」
傍らの小さな存在が、くすりと笑って肩をすくめる。
それが、真波・マナという少女が魔法少女になった日だった――。