賢いお嬢サンをいっぱい誘えば解決だろう?
『ペンタクルム・ゲート』関連シナリオ
これは、宿敵旅団『ペンタクルム・ゲート』に関連するシナリオです。これまでの物語は、#ペンタクルム・ゲートで確認できます。
このシナリオに登場する宿敵は、宿敵主との『Anker』関係が失われており、シナリオに参加しただけでは絶対死しません。宿敵主に対して冷淡な反応(他の参加者と同程度の反応)を示す事も多いため、その点は理解の上ご参加下さい。
このシナリオに登場する宿敵は、宿敵主との『Anker』関係が失われており、シナリオに参加しただけでは絶対死しません。宿敵主に対して冷淡な反応(他の参加者と同程度の反応)を示す事も多いため、その点は理解の上ご参加下さい。
アンドロスフィンクスは斃れ、本拠地だったスフィンクスゲートは消滅した。
「ついでに|骸纏ノ姫『清羅』《清羅ちゃん》は行方不明……さぁてどうするかな」
しかし淫蕩の悪魔『アスモデウス』は己の『Anker』が失われていないことに気づいている。
「俺は俺の方法でペンタクルム・ゲートを開かせてもらうさ。愛と平和のためにね!」
と笑い、淫蕩の悪魔『アスモデウス』は単身√EDENへ向かった。
尾花井・統一郎は、新たな宿敵旅団『ペンタクルム・ゲート』の動きを察知した。
「スフィンクスゲートから技術者がすっかりいなくなった、というかスフィンクスゲート自体が消えちまいやしたからね。淫蕩の悪魔『アスモデウス』は新たな協力者を探すことにしたようでございやす」
彼が狙うのは√EDENにある某大学の研究ゼミらしい。
「ゼミ生が全員女性のゼミってところが、なんとも淫蕩の悪魔『アスモデウス』らしいところでございやすな」
少々呆れ気味に統一郎は、一同に告げる。
「とはいえ、淫蕩の悪魔『アスモデウス』の魅了の力は相当のものがございやす。√EDENの優秀な女性学者を片っ端から攫おうとしている彼の計画、早めに潰しておいたほうが良うございやすよね」
さて、某大学の理学部物理学科の理論物理学ゼミの十名のゼミ生に、淫蕩の悪魔『アスモデウス』は既に接触を済ませていた。
「無理に、とは言わないよ。けれど、お嬢サン達。どうか愛と平和のために俺と一緒に踊ってくれないか? 待っているよ」
ぽぅっと頬を染める彼女たちに、アスモデウスはとある待ち合わせ場所を告げる。
君たちはその後にゼミに到着した。
「やられた!」
既にアスモデウスは立ち去ったあと。しかし彼にこれ以上好き勝手させるわけにはいかない。彼を追いかけて、倒す必要がある。
そのためにもすっかりアスモデウスに心酔している十名のお嬢さんからアスモデウスとの待ち合わせ場所を聞き出さなければ。
そしてお嬢さんたちを説得して、アスモデウスの毒牙から救ってやらねば。
第1章 冒険 『情報の収集』
淫蕩の悪魔『アスモデウス』も宿敵旅団『ペンタクルム・ゲート』のメンバーの例に漏れず、何かしら企んでいるらしい。
現場に急行したアネリス・コーネリウスは眉をひそめる。
「未来ある学生たちを誑かすなど許されることではありません、あと今普通に大学生は前期のテストのことで頭いっぱいの時期なんですよ。襲撃するにしても迷惑すぎます」
アネリス自身も文系とはいえ大学生。単位とか評価とか、色々この時期の学生を悩ませることに詳しい。
「次は学生を狙うとは……諦めが悪いと言うか、ゲートを理由にナンパしたいだけなんじゃ、と疑いたくなるっすね」
宿敵旅団の淫蕩の悪魔『アスモデウス』が引き起こした事件すべてに関わってきたクロック・ロックは、彼の女好きを良く知っている。
今回もわざわざ女子ばかりのゼミを狙ったと言うではないか。さしものクロックも呆れてしまうが、ペンタクルム・ゲートは間違いなく危険な企み。その一助になりそうなアスモデウスの行動を潰さねばならない。
アスモデウスが出現したというゼミの部屋の前で、アネリスは首を傾げる。
「理論物理学ゼミ……なぜここを狙ったのでしょう?」
敵が求める技術や知識は何なのか。それも聞き出すべくアネリスとクロックはゼミのドアをあけた。
「……どういう研究をされているゼミなのかさっぱりです。あそこにあるパソコンとかすごい高そう」
文系のアネリスの知るゼミと理系のゼミはまるで雰囲気が違う。ラボといっても過言ではない研究室の設備に、アネリスは目をぐるぐるさせた。
クロックは冷静にゼミ生の顔を見回す。皆、一様にぼんやりして頬を赤らめ、悩ましいため息を吐いている。すっかりアスモデウスにお熱のようだ。
(「|警官《国家権力》であることは伏せたほうがよさそうっすね。ここは自分も同じ女学生ということで……」)
瞬時に自分の立場を決めたクロックは、気さくに尋ねてみる。
「変わった男がやってきませんでしたか?」
「変わった? 超絶イケメンは来たけど、変わった人じゃないわ。最高の美形よ……」
「懲りない男っすね……」
アスモデウスに夢見すぎているゼミ生に、クロックは肩をすくめると、今度はインビジブルに尋ねてみる。
「****(理解不能な言語)」
クロックの能力により、知性を獲得したインビジブルは、つい先程アスモデウスがやってきて彼女達をまたたく間に魅了し、なにか囁いて堂々とドアから出ていったと説明した。
「何を囁いたかは聞こえなかった、と……」
クロックがインビジブルから真面目に事情聴取しているというのに、アネリスも圧倒されている場合ではない。
気を取り直してアネリスは、夢見るような表情を浮かべている学生の一人へと歩み寄った。
アネリスから白い花のかぐわしい香りが放たれ、あたり一面に漂う。
「アスモデウスはいつ頃ここに来たんですか?」
「ついさっきです……まるで嵐みたいだった。胸がざわーって。メロ過ぎて滅! って感じ。あーもうやばすぎて語彙が死ぬ」
確かに賢い理系少女とは思えぬ語彙だ。
アネリスは続けて尋ねる。
「研究データとか、何か彼が求めていた事柄はありましたか?」
「なんか……時空? がどうとか。とにかく平和のために一緒に頑張ろうって……あんなメロ男と頑張るとか……ヤッバ! あー死ぬ! コレ無理、キュン死する!」
悶えまくるゼミ生に、アネリスは別の意味で圧倒されるのだった。
「まったく……!」
ライラ・カメリアは、淫蕩の悪魔『アスモデウス』の魅力にすっかり骨抜きになってしまったゼミ生達の惨状を見て憤る。
「また罪のないレディたちを利用しようとするなんて。あの悪魔は、いつも人の心を利用して自分の目的を果たそうとするのね」
真面目に学問や研究一筋で努力を重ねてきただろう彼女達の心をかき乱して利用しようとする――あの淫蕩の悪魔の悪辣さは、ライラのよく知るところだ。
だがここで憤っていても進展しない。この憤りをアスモデウス自身にぶつけるためにも、まずは彼の行方を探らねばならない。
ライラはゼミ生と会話すべく相対する。
そして、大きくゆっくり深呼吸をして、自分の平静さを努めて保つようにした。
ライラとしては本当に心の底から癪だが、アスモデウスにメロメロのゼミ生に彼の悪辣さをいくら説いて聞かせても逆効果なのは自明だからだ。
にっこりと麗しく微笑み、ライラは口をひらいた。
「ご機嫌よう。わたし、大学へ進学できたら、このゼミに入りたいと思っていますの」
「あ、そうなのね。歓迎するわよ」
ゼミが同じというのは志を同じくするのと同義。ゼミ生は仲間になりたいと言ってくれるライラに好意的だ。
「それにしても、皆様なんだか気もそぞろ。先程来られたという美形の方? 皆さま、その方に心を奪われていらっしゃるのですね」
あんなイケメンを前に惚れないなんて無理、と異口同音にゼミ生が返答する。
ライラは大仰に『まあ』と驚いてみせ、そしてねだるように両手を合わせてみせた。
「憧れのお姉さまたちがそこまで惹かれる方なら、わたしもぜひ一度お目にかかってみたいですわ」
ぜひ見るべき、あれは歴史に残る美形と熱弁するゼミ生に、ライラは歩み寄る。
「もしお差し支えなければ、その方とはどちらでお会いになるご予定なのか、教えていただけませんこと?」
「秘密って言われたけど、絶対見たほうが良いから教えちゃう。裏門よ! この大学の裏門の駐車場の奥に生えてるクスノキの下で待ってるって!」
なるほど、とライラは頷く。これでアスモデウスの居場所は分かった。あとは行って叩きのめすだけだ。
だがまだゼミ生は歌うように続ける。
「じ・つ・は、あのクスノキ、伝説の樹なのよ! あの下で愛を誓うと永遠になるって都市伝説がある木なの! きゃーっ、あの方そのこと知ってるのかしらね?! あたしたち永遠になっちゃうかもぉ!」
キャーキャーと肩を叩き合い顔を真っ赤にしているゼミ生たちを見てしまうと、このまま放置は出来ないと言わざるを得ない。
淫蕩の悪魔『アスモデウス』を倒すのは、彼女らを救済してからだ。
第2章 冒険 『被害者の救援』
さて、女の園に突如現れた甘い声の超絶美男子に惚れ込んでしまっているゼミ生たちの目を覚まさせてやらねばなるまい。
彼女達が淫蕩の悪魔『アスモデウス』に与したところで、待っているのは搾取だ。
かつてスフィンクスゲートで拉致されてきた技術者や研究者がしっぱいさくに監視、虐待されながら酷使されてきたこともEDENは知っている。
ゼミ生たちの恋に恋している状況をどうにかするには、現実を見せつけたり、『貴方はアスモデウスの一番になれない』ということを告げてやる必要があるだろう。
もちろん、√能力などを使って逆催眠という方法もあるかもしれない。
とにかくあのような女の敵といえる簒奪者のいいようにされていい『お嬢さん』などこの世に一人もいないのだから。
ぽんやりと赤らめた頬を押さえて夢を見るように遠い目をしている女学生たちに、クロック・ロックは敢えて疑わしげな声音で話しかけた。
「待ってください。美男子に求められているその話、何かおかしくないっすか……?」
「え??」
何がおかしい、と身構える女学生にクロックは首を傾げてみせる。
「さっき『変わった男がやってきませんでしたか?』と聞きましたよね。実は貴方以外にも、沢山の女性ばかりが声をかけられているそうで」
不審だと思ったのだ、とクロックは懸念を示す。
「その男が一人で来るとも、限らないでしょう? 拉致されたらどうします? 最近警察が注意喚起してたじゃないっすか……」
クロックは、ゼミの廊下に面した窓から見える掲示板を指さす。
|用意周到に《preparation time》警視庁異能捜査官として準備しておいたクロック、警官たちに掲示板に『誘拐事件頻発、不審者に注意』という旨の注意喚起チラシを配らせておいたのだ。
掲示板にはまさにそのチラシが貼り付けてあった。
ペンタクルム・ゲートの活動により、様々な技術者や研究者が拉致されていたのは事実。警視庁異能捜査官クロック・ロックは嘘などついていない。
「冷静になってください。ウマい話には裏があるものっす」
女学生は途端に不安げな顔になった。
「そう、かも」
見ず知らずの美男が自分を誘うことの違和感にようやく気づいた女学生は、みるみる顔面蒼白になった。
「わたし、やめておきます……」
「それがいいですよ」
意気消沈する女学生を認め、クロックはようやく微笑んだ。
クロックの注意喚起で数人は大人しくなった。
だがそれでもイケメンチャンスを逃せない、と息巻くゼミ生も多い。
そんな彼女らを森屋・巳琥は否定しない。
「アスモのお兄さんが来たいならここだと、なんか悪戯っぽく言ってたのです。私も一緒にいくのです」
と淫蕩の悪魔『アスモデウス』がゼミ生たちに集合場所として示した『駐車場のクスノキ』の場所を示すメモをゼミ生に見せ、自分も同志だとアピールした巳琥は、すんなりとゼミ生たちに受け入れられた。
「皆で行けば怖くないのです。行くですよ」
「そうよそうよ!」
集団心理は、誘拐の恐怖を圧倒した。
赤信号皆で渡れば怖くない、とはよく言ったもの。巳琥と共に複数人のゼミ生は研究室を出て、一路集合場所へと向かい出す。
「お兄さんとの用事が終わったら帰るのですよ」
「用事ってなにかしらね?」
「それ終わったら、イケメンも一緒にカラオケとかいっちゃう?」
「いいねぇ! お酒もイケる口なのかなぁ?」
キャーキャーと脳天気なことを言い合うゼミ生の会話を聞きつつ、巳琥はそうっと『|寝過ごしの午睡《ラージャ・シエスタ》』を発動させた。
「なんかいい匂いしない? おひさまの匂い的な……」
すんすんと鼻をひくつかせるゼミ生が感じている陽を受ける黄花玉簾の薫りは、巳琥の体から溢れ出しているものだ。
駐車場へ向かう道のりは屋外なのであまり濃厚な薫りを感じさせることはできなかったが、それでも誰しもが分かる程度の薫りが漂う。
「えー? あ、ほんとだ。お布団を干した後みたいな……」
と薫りについて話し合う女子大学生たち。
実はこの薫りは、眠たくなる虚脱の効果がある。数人があくびをしはじめた。
巳琥は効果が現れるまでの辛抱だと、少し歩みの速度を落とす。
「なんか……だる、眠い……ごめん、あたし行くの止める。ちょっと仮眠室行く……」
数人が踵を返し始め、
「うちも……。あ、無理。マジ眠い……」
数人はその場で座り込み始めた。
いかに魅了されていたとしても、三大欲求のひとつである睡眠欲には抗えまい。
「効果がでてきたのです。並列操作補助機構「蜃気楼」起動」
巳琥は十二人の自分によく似た素体を喚び出した。
座り込んでしまったゼミ生や、のろのろと仮眠室に向かう生徒に肩を貸し、目的地であるクスノキから引き離す。
急に肩を貸してくれる巳琥らしき存在に、ゼミ生は疑問を抱くも眠くてそれ以上を考えられないようで、素直に運ばれていった。
「ふぅ、これで全員保護完了なのです」
巳琥は大学生たちを安全な場所に運び終え、ほっと胸をなでおろす。
これで被害者はゼロ。あとは一人寂しく待っている淫蕩の悪魔『アスモデウス』を成敗するだけだ。
第3章 ボス戦 『淫蕩の悪魔『アスモデウス』』
さて、淫蕩の悪魔『アスモデウス』が誘ったゼミ生は全員保護が完了した。
あとは彼を倒すだけ。EDENらはゼミ生から聞き出した集合場所である駐車場のクスノキへと急ぐ。
「あれ? お嬢サンたちは?」
EDENしか来ない状況に虚を突かれたような淫蕩の悪魔『アスモデウス』だったが、瞬時に状況を飲み込み、剣呑な顔つきになった。
「ちぇ。本当に嫌がらせばかりしてくれるね。愛と平和のためだっていうのに、どうしてこうも……邪魔してくれるんだか」
ハハハ! と嘲笑う声とともに、
「やあ、待ったかい?」
天霧・碧流は恋愛ゲームのラストよろしく『伝説の樹』の下へ駆けてきた。
とはいえ、これが恋愛ゲームならばバッドエンドのご登場だ。
「おやおや、とんだ嫌がらせだ。お嬢サンを待っていたら野郎が来た」
「学生たちなら来ないっすよ」
追いついてきたクロック・ロックが冷静に言い渡す。
淫蕩の悪魔『アスモデウス』が首をすくめていると、眦を厳しくしたライラ・カメリアが断罪の指を突きつける。
「嫌がらせをされているのは、どちらなのかしら」
「とんでもない、EDENのお嬢サン。俺のこの行動は誓って愛と平和のためだよ」
慇懃無礼に胸に手を当てて礼をするアスモデウスは、ライラの精神を逆撫でするのが随分と得意なようだ。さすが元宿敵。
「愛と平和……ね。ねえ、あなたは愛や平和を口にするけれど。本当は、誰一人愛してなんていないのでしょう?」
ライラの指摘を聞いたアスモデウスは無言で片眉を跳ね上げた。
「だって、あなたが愛しているのは、自分の望みを叶えることだけだもの。今までも、自分の役に立たないと分かった途端に『お嬢サン』たちを切り捨ててきたでしょう」
アスモデウスは鼻を鳴らした。図星を突かれて、ぐうの音も出ないのだろうか。
「そう、何度もトラブル起こされてたまるかって話っす。いい加減お縄につくっすよ」
「はぁい♪ なんて言うと思うかい? 思ってもないことを言うのはやめておきな」
目を細めたアスモデウスはクロックにそう言い返した。
愛と平和のため――眼前の淫蕩の悪魔はそう嘯く。だが、クロックは『その平和や愛に、一般人の生活は含まれていない』と感じるのだ。
「逃がさない、永遠に」
これ以上の問答は不要。クロックは己の体を巨大な狼のような異形へと変じさせていく。
「この下で愛を誓うと永遠になるんだって? なら、ここで磔にでもなって永遠になってくかい?」
両腕を広げながら言う碧流に嘲弄の眼差しを注がれ、淫蕩の悪魔『アスモデウス』は眉をひそめる。
「お生憎様だが、君と愛を誓う気はないねェ。お嬢サンでもないし、俺の好みじゃあない」
「そうか? 俺は男でも女でも歓迎だぞ? 抱かれるのは嫌だが抱くのは別だ」
どうせ来ないと思いつつ、碧流は更にからかいの言葉を重ねつつも、視線は駐車場に点在する教職員や学生の乗用車だ。
アスモデウスの力で凶器にされかねないものが此処にはゴロゴロしている。死角から不意打ちで昏倒なんてされようものなら、笑えない。
「そうかい? 歓迎してくれるってのなら、俺の虜になってもらおうか」
さァ、とアスモデウスの赤い瞳が妖艶に揺らめく。
案の定、停車していたバンが勢いよく碧流へと飛んできた。
「ッ!」
予想通りだと碧流はバンの射線から走って逃れ、揺らめく魅了の瞳の誘惑から精神力で無理やり己の心を引っ剥がした。
「おいおいおい、歓迎していないじゃないか」
アスモデウスが肩をすくめて嗤う。
「嗤ってる場合っすかね」
化け犬の姿のクロックが高速でアスモデウスを鋭い爪で引き裂かんと襲いかかった。
「おっと。その姿、愛らしくないね。元の姿に戻りなよ」
すいと一歩引きながら、クロックへ右手を伸ばしてくるアスモデウス。だがその一歩下がったことで、淫蕩の悪魔は碧流の射程に入る。
「腕の中に来るのはお前だよ!」
碧流の影が伸び、炎を纏う黒い腕がにゅうと生えてアスモデウスを握りしめる。
「野郎のハグとはぞっとしないが……優しく頼むぜ」
「聞けないなぁ! 俺の炎をゆっくり味わいな」
碧流が言うなり、影の腕ごとアスモデウスが破滅の炎で包まれた。
燃え盛る淫蕩の悪魔めがけ、ライラは愛剣Valkyrieを掲げて走る。柄に、刃に、破魔と浄化の力を乗せて。
白椿の花弁が舞うなか、ライラの剣は炎につつまれる影の腕ごとアスモデウスへと二重に閃いた。
「ハハハ、ハハハハハ!」
アスモデウスが哄笑する。
「いつもいつも厄介なお嬢サンだ!」
悪魔の翼がライラの腕を切り裂く。白椿に朱が散った。
破滅の炎で燃やされ、刃に斬られた淫蕩の悪魔『アスモデウス』は、以前に比べて弱体化しているように見える。
それはきっと、彼がペンタクルム・パールを所持していないからだろう。
ペンタクルム・パールによる能力ブーストがない単身の簒奪者は既に瀕死であった。
それでもアスモデウスは余裕そうに微笑んでいる。
どうせ彼は殺しても真の意味で『死なない』。Ankerであるペンタクルム・ゲートという目的がある限り。
逆を返せば、アスモデウスはAnkerであるペンタクルム・ゲートという目的を達成するために全力を尽くすということ。
「この方法じゃあ無理があったかァ。もっと他を考えなくちゃな」
目を眇めてアスモデウスは、遠くの精霊銃の銃口を見やる。
少し離れたところから彼を狙っているのはレミィ・カーニェーフェン。
敵と見定めた者には一切の油断をせず、警戒を怠らぬ少女は、アスモデウスの魅了の力を危ぶみ、遠距離から精霊石射出機構をセットした|父の形見《精霊銃》での狙撃を試みようとしている。
そんなレミィの青い瞳を見つめながらニヤつくアスモデウスがおもむろに唇を動かした。
『う・て・よ』
この場は観念したということか。それともこの程度では止まる気がないからさっさと帰してくれという嘲弄か。
「……っ」
挑発だ。だが、ここで撃たないという選択肢もない。
「セット完了……このまま一掃します!」
レミィは引き金を引く。
「フフ、それにしても…………」
射出された雷の精霊石が喚ぶ稲妻によって、アスモデウスは瞬時に穿たれた。
同時に轟く雷鳴が、アスモデウスの言葉をかき消す。
彼が最期に何を言ったのか、レミィには聞き取れなかった。