転じて、変じるもの思い
●音声記録01-ある男子中学生
三色菫の身代わり傀儡人形? 知らないよ、そんなの。君の友達が持ってたろって……知ってんならなんで聞くんだよ。身代わり傀儡人形ってことまで知ってて……その質問は、不愉快だ……!
あいつが死んだことは知ってんだろ!? どんな風に死んだと思う?
そうだよ、自殺だよ。でも身代わり人形の女の子がいるから、薬たくさん飲んで、自分の胸を刺しながら高いところから飛び降りて!! たくさんの死に方を重ねてまで死んだんだ、あいつは!!
いじめを苦にしてだよねって……んなことまで知ってんならあんたまじで何聞きに来てんだよ!? お前は何も力になってやれなかったなとでも言いに来たのか? んなこと俺が一番わかってんだよ。何もできなかったよ俺は。あいつのこと全然救えなかった!! 妹みたいな子ができたって、すみれ色の目をした女の子紹介してくれてさ、うれしそうにしてた、あの子も「しあわせを守りたいからがんばる」って言ってた。それが……その子がいるから死にきれなくて、『ごめんね』って最後に電話で訳を説明して、その向こうで女の子も『ごめんなさい』って……本当に何もできなかった。悔しかった!!
これが聞きたかったのか? これで満足かよ。あん? それともわざわざ心の傷抉りに来た? 大層なご趣味だな!!
帰れ!!
●音声記録02-ある主婦
いじめで亡くなった子のお母さんのお話……あんまり聞いて回っちゃだめですよぅ。
マ! 同級生の子にはもう話聞いたって……アナタね、順番って、あるでしょう? そんなセンシティブな話題、イキナリ子どもに振っちゃダメですよぅ。
感情的に怒鳴られてしまったって、そりゃそうでしょうネ。デリカシーがないにも程がありますもの。
ワタシがこんなにお茶を濁すんですのよ? 関係者とかへの聞き込みより先に、アナタ、ちゃぁんと調べて来た方がよかったでしょう。え、調べた上で? 本当に好奇心に囚われた人って、猫よりも愚かですわねぇん……。
……大きな声では言えない話、いじめられてた子の母親はね、人を殺したんです。調べたんならご存知でしょうけど。
そりゃ親が犯罪者だったら、それだけでいい標的でしょうに、数ある犯罪の中でもいっとうわかりやすい「殺人」ですよぅ? そりゃ子どもは言い逃れも親へのフォローもできないし、周りはここぞと責めるでしょう。リンチですよリンチ。暴力でなくたって叩きのめしているんですもの。
いじめで苦しんでいたのもわかるし、だからってどう慰めたらいいのかわからないじゃないですかぁ。どう考えても人殺しをした親が悪いことには変わりないですし。
うん? 「アナタは悪くない」って子どものことを擁護してやればよかった?
ハァ。そんなのね、学校のセンセだって何千回と言いましたわよぅ。でもね、あの子が一番苦しんだのは、「お前の母ちゃん人殺し」って、罪を犯した母親を責め立てられることだったんですよぅ。
どうすればよかったっていうんですかぁ。
はい? それで、母親の殺人事件について? いじめのことはいいからそっちが聞きたい?
アナタ大概人の心ってもんがないですねぇ?
でもまあそうですねぇ。正直、殺されても仕方がないような男だったんですよ。そこまでお調べでない?
詳しく言うのが憚られるくらい酷いことをね、たくさんの人にしていた。あのお母さんは謂わばあの男の被害者の一人と言えますねぇ。
ワタシもあのお母さんとは時折井戸端会議する仲でしたけれど、あの日——男を殺して自首する前に矢鱈可愛い女の子を連れていましたぁね。
お胸にお花のコサージュつけた六歳くらいの……。
ひょっとして、あの子も男の被害者だったのかしらん。女の子の消息は知りませんのよねぇ。
●資料01-ある男の手記
おもしれぇ人形を拾った。
身代わり人形ってやつだ。いやまあ噂には聞いていたがよ。意思があって動いて、そのくせご主人サマを目の前で殺されても悲鳴の一つもこぼしやしねぇ。つまんねーな、所詮人形かって思ってたらよ、「あなたのような荒くれ者なら、簡単に死なないでくれるの」ってさ! オレを新しいご主人サマにするってよォ!! 笑っちまった。これがおもしろくなくて何がおもしれぇってんだ!!
身代わりのための傀儡なんだと。なるほどなぁ。ご主人サマに逆らう以前にご主人サマがいねぇと行動できねぇんだ? って聞いたら、「行動はできるけど、それじゃあ身代わりとしてのお役目を果たせないから」だとさ。真面目ちゃんかよ。
三回目までは即時身代わりができて、四回目からは身代わりまで時間を置く必要があるんだと。使い捨てにすりゃよかったのに、オメエを作ったヤツは性格悪いなって言ったら、しょぼくれちまった。
「わたしが不出来で守れなかったからわたしを作ったその人も死なせてしまった」とよ。しけたツラしてさ。調子狂うぜ。
でもま、そーゆーとこがカワイイでちゅねーって思ったから、しばらく置いといてやらぁ。菫の花みてえな青紫の目も綺麗だかんな。綺麗なもん侍らすのは気分がいいぜ。
オレのこと背中から刺してやろうって輩が多いのは知ってっからな。身代わりしてくれんならちょうどいい。
お人形サンらしく、泣きも喚きもしねぇし、怒鳴りも笑いもしねぇ。五月蝿くなくていいぜ。
五月蝿ぇと殺したくなっからな。ハハッ。
たまにゃこーゆーのも悪くねーや。
●特集『三色菫の身代わり傀儡人形』-とあるオカルト記事
三色菫の身代わり傀儡人形を追い、資料調査と関係者への聴取を行った。
三色菫の身代わり人形の記録は遡ると百年以上前のものまで存在するゆえ、かなり古くから存在する身代わり人形であると考えられる。
身代わり人形であるが、幾度も身代わりの主を変えているということから、曰く付きであることは確実。であるならばその曰くや真相を深掘りしてこそのオカルトライターである。そうして執り行った調査の結果をここに綴っていこう。
結果として、三色菫の身代わり傀儡人形を見つけることは叶わなかったが、その曰くの裏取りをすることができた。
プライバシー保護のため、実名等は伏せるが、婦女暴行を繰り返した男が身代わり人形を手にし、その男を恨み殺害に及んだ女性の手に渡り、その女性の長男が最終的に身代わり人形の主となっていたようだ。
最終的な主である男子中学生は母親が殺人犯であることを理由に学校でいじめを受け、それを苦に自殺したというのは音声記録の通りである。殺人犯である女性は事件後程なく自首、現在刑を受けているところである。が、つまりそれ以外の身代わり人形の関係者は死んでいるということになる。
女性の起こした殺人事件は新聞やネット、ニュースなどで取り沙汰されており、殺された男がはたらいた婦女暴行の被害者であると報道されている。
男の遺体は複数箇所刃物で滅多刺しにされており、その恨みの深さが窺える……などとされていたが、男が身代わり人形を所持していたとなると、恨み以外にも、一撃では死ななかったから何度も刺したという線が考えられるのではなかろうか。
殺された男、自殺した少年。この二件だけでも三色菫の身代わり傀儡人形の恐ろしさがありありとわかる。過去を全て洗い出せば、これ以上の無数の凄惨な悲劇が眠っていることだろう。
ところで、当方の調べでは、その人形の目の色が青みの紫から赤みの紫へ変遷しているように思われる。もしかしたら死んだ主らの血を啜り、呪いの品へと変貌したのかもしれない。引き続き調査していく所存である。
続報を待て。
●Whiteshift
三色・すみれはある意味争いの絶えない中にいて、身代わり傀儡人形として主を守ろうとしてきた。だが、それはあまり叶っていない。これまで失ってきた主の数は指折り数えられる程度ではないから。
けれど、新しい主に迎えられ、連れて来られた世界はこれまでと趣の異なる「争いの絶えない世界」であった。
主——汀・コルトの暮らすこの世界は「√ウォーゾーン」と呼ばれ、戦闘機械群という存在と戦っている。
ビームやミサイルなどが近未来的武器が飛び交う戦場というのは、呪術だの魔法に組成の近いまじないによって生まれたすみれにとっては新鮮であった。
戦場には出たことはないけれど、話を聞くだけでも目新しいことばかりで、すみれはうんうんと目を煌めかせながら、知らない世界のことを知っていく。
コルトに連れられてきた戦闘組織の小隊「Whiteshift」ではコルト以外の隊員にも歓迎されていた。
「かわいい子~。名前は?」
「すみれ。三色・すみれ」
「コサージュの花と同じ名前ですか……!? これからよろしくお願いしますね!」
「よろしく。……あ、コルトさん」
隊員たちと挨拶を交わしていると、コルトの姿を見つけ、心持ち声高に名を呼ぶ。
「すみれさん」
コルトはすみれが控えめにひらひらとした手に自分の手を伸ばし、そっと重ねた。
「カーディガン、着てくれたんだ。似合ってる」
「うん。……うれしかったから」
今まで主となった人々とはお別ればかりしてきた。すみれを愛してくれる主もいたけれど、短い間しか一緒にいられなくて、服をくれる余裕のある人もなかなかいなかったから。
それに、白い上着は「Whiteshift」の制服のようなものだという。制服とはすみれの認識では「同じ場所で過ごす人の証」だ。
このカーディガンをコルトから渡され、それが「|Whiteshift《このばしょ》」にいてもいいということだと知って——途轍もなく、幸せを感じた。
自分は主を不幸せにするばかりだと思っていたけれど、そうじゃない生活をあなたと過ごしたいよ、と示されたから。
赤みの紫からすみれ色には戻らなくとも、その顏には花のように笑みが綻ぶ。