シナリオ

聖剣探索の成れの果て

#√ドラゴンファンタジー

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●昔々の物語
 かつて、聖剣探索を王様に命じられて、世界の果てまで探しに行った騎士がいたそうな。
 でも、その騎士は『聖剣』というものが、どんな形をしていてどんな力があって、それを手に入れるとどうなるのか、何も知らされていなかったそうだ。
 一説によると、その騎士の実力に王権が脅かされるのではと危惧した王様が、騎士を王国から体裁よく追い出すために、そんな命令を下したなんて言われているけれど、それはさておき。
 その騎士は、聖剣を探しに旅に出たまま、二度と戻らなかったそうだ。

●聖剣を求めさまよう『鎧の男』の目撃情報
「――なんて、そんなお話がただの物語だったなら、まだ救いがあったのだけれどねぇ」

 氷室・冬星(自称・小説家・h00692)は顔に笑みを貼り付けたまま、肩を竦める。

「実際に、聖剣探索に出かけた騎士は存在していた。ただ、『聖剣』というものはまだ見つかっていない。彼は今も、姿形のわからない『聖剣』を探し続けている」

 普段なら異様にテンションの高い冬星も、その騎士を憐れんでいるのか、口は弧を描いていても、どこか寂しそうな笑みだった。

「前置きはこのくらいにしておこう。√ドラゴンファンタジーで新たなダンジョンが見つかった。ただ、そこに潜入して配信活動を行っていた若者が、ダンジョンの奥で謎の『鎧の男』に遭遇したそうだ。『聖剣は渡さない』と妙な迫力で襲いかかってきて、配信者は命からがらダンジョンから逃げ出した、と。ボクもゾディアック・サインを受け取った。間違いない、その『鎧の男』は聖剣を探し続けてモンスターと成り果ててしまった騎士だ」

 執筆机に肘をついて指を組み、冬星はその手の上に顎を乗せる。
 モンスター化したという話から、どうやら、その騎士は√能力者ではなかったらしい。

「――さて、キミたちに頼みたいのは、その騎士の討伐。ただし、ダンジョンにはトラップが満載、内部をうろついているモンスターも一筋縄ではいかないかもしれないねぇ。トラップを回避したり解除したり、あるいは力ずくで破壊したり。キミたちはそういうのが得意と見える。頼りにしているよ」

 騎士には気の毒な話だが、モンスターと化してしまった以上、彼を放置すればダンジョン内はどんどん悪化し、迷い込んだ冒険者もモンスター化する二次被害の危険性もありうる。一刻も早く事態を沈静化しなくてはいけない。

「……ボクは騎士物語が好きでね。彼を楽にしてやってほしい」

 冬星はそれっきり、椅子に背を預けて黙りこくってしまった。

●成れの果て
 一方その頃、ダンジョン最深部。

「……全ては……聖剣のために……」

 何のために聖剣を探さなければならなかったのか。
 見つけたところでもう聖剣を捧げる王もいないというのに、目的を見失い、ダンジョンの中をさまよう鎧の騎士の姿がそこにあった。

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第1章 冒険 『ダンジョンのトラップ』


 あなたがダンジョンに乗り込むと、そこはトラップまみれだった。
 それはもう念入りにトラップが仕掛けられている。
 壁やら床やら至るところにスイッチが置いてあり、壁からは槍が飛び出し、床には落とし穴があり、廊下に当たる部分には左右に揺れるギロチンが血を求めている。
 よくこれを突破できたな騎士。あと配信していた若者。
 あなたはこのトラップの山をどう攻略するだろうか……?
結城・凍夜

「聖剣探索と言うのも定番ですね。いつから探しているのが知りませんが、そろそろ旅を終わらせてあげましょう」

 結城・凍夜は、ひらりと|飛行箒《ガンナーズブルーム》に飛び乗った。
 空中に浮いているため、これで落とし穴やら床に仕掛けられたスイッチやらは無効である。
 とはいえ、天井や壁も警戒したほうがいいだろう、と彼は判断し、接近しすぎないように注意しながら、ダンジョンのトラップが張り巡らされた部屋を高速飛行で翔け抜ける。
 壁から飛んでくる矢をそれよりも速く躱し、突き出てきた槍は空中ドリフトでスピードを落とさないままカーブをかけた。落下してくる棘付き天井だって難なく突破する。
 血を求めてグルグルと回るギロチンをじっと見つめ――。

(このタイミング――!)

 ギロチンが周期的にピッタリと揃った瞬間を見て、ダッシュで素早く、華麗に通過していく。
 そうして廊下を渡りきった彼は、しかし決して最後まで気を抜かない。

(扉だけは、どうしても触れないわけにはいかない。となると、ここにもトラップが仕掛けられている可能性が高い……)

 扉に触れる前に、周囲を注意深く確認する。
 ――と、彼はバックステップで何かを避けた。
 不自然に開いた穴から、毒の溶解液が飛び出してきたのだ。
 溶解液はダンジョンの壁にかかり、プスプスと黒煙が上がる。

「ふう、危ない危ない……。扉には鍵もかかってないようですし、次に行けそうですね。さぁ、次のトラップは何かな?」

 さすがダンジョン化した自宅を攻略している男、経験値が違うのだ。

雪菜・リリー・ヘヴンズフィール

「わ、トラップいっぱい。あのギロチン、当たったら痛そう……」

 犠牲者を待ち構えているギロチンは、雪菜を脅すように、キィ……キィ……と甲高く軋んでいる。

「気をつけていこうね、シマエナガ!」

 連れている純白の小鳥たちに声を掛けると、まずは|白き雪の機動妖精《メカ・シマエナガ》と|飛翔する白き雪の妖精《フラッター・シマエナガ》にお願いして偵察のために先行してもらう。
 シマエナガはその身体の小ささゆえに、罠に引っかかることなく、微細な穴ひとつ見逃さない。
 小鳥の群れは、たちまちトラップの場所を特定した。
 雪菜自身は人が一人乗れるほどのサイズのシマエナガ――|騎乗用・白き雪の妖精《ライド・シマエナガ》に騎乗し、落とし穴を難なく飛び越える。

 とはいえ、トラップは落とし穴のみに限ったものではない。
 雪菜は護霊符を握りしめ、護霊を呼び出して相談した。
 その結論は――壁や天井、床などのあらゆる怪しい穴を塞ぎ、あるいは飛び出した槍などのトラップを動かないように、再び壁に戻らないように固定するというもの。

 廊下を左右に揺れているギロチンも、ダンジョンの壁の一部が崩れて落ちた石やロープなどを使い、危険な刃物の揺れ動くための支点を固定してしまうことにした。
 シマエナガにロープを渡し、それを口に咥えた小鳥たちは、器用に、そしてしっかりとギロチンの動く元を結んで縛り上げる。

「うん、これで安心して渡れるね」

 雪菜は何事もなかったかのように、スマートに次の部屋に続くドアを開けたのであった。

青木・緋翠

 青木・緋翠は、「配信者がダンジョンのトラップを突破した」という点に目をつけた。
 ダンジョンへ潜り込む前に、あらかじめその配信者の投稿動画をチェック。
 画面の中の若者は、「うわ、すげえ数のトラップ! これもしかして当たりじゃね!?」と興奮を隠しきれない様子だ。
 まあ、トラップで厳重に守られているダンジョンなんて、最深部にとんでもないお宝が眠っていると思ったのかもしれない。
 配信者は恐る恐る床のスイッチに気をつけて歩くが、うっかり壁に手をついてしまい、「ポチッ」という音とともに「あ、やべっ」という声が動画に収録されていた。
 そこからは死に物狂いでトラップを避けながら全力疾走し、奇跡的に無傷で次の部屋の扉を開けたが、録画は当然乱れている。

 そこまで確認した緋翠は、「見える罠より、見た目でほとんどわからない罠のほうが危険だ」という気づきを得た。
 配信者が壁に手をついたとき、あからさまなスイッチは見えなかった。壁と同化するように、巧妙に隠されているのだ。
 その対策を立てて、緋翠はダンジョンへ出発した。

『>|実行《execute》 古代語魔法 "技術革新"』

 古代語魔術を封入したフロッピーディスクを、スマートグラスに符術のようにかざす。
 するとフロッピーディスクは姿を消した代わりに、スマートグラスの性能が強化されたのである。
 それをかけながらダンジョンの中、小さい仕掛けや怪しいポイントがレンズに表示され、それを避けながら慎重に歩いていった。
 先に進んだ仲間の痕跡を追いながら先へと進んでいく。

「――っと」

 緋翠は立ち止まった。
 狭い廊下の壁から、炎が吹き上がったのだ。
 どうやら、そこには火炎放射器が行く手を塞いでいるらしい。

(単純なようですが、炎の来ない場所にいくつか、踏むと発動する罠がありますね……)

 炎が弱まったタイミングで通路を進み、かつ焦って罠を踏まないように注意しながら通り抜けると、目の前には扉。
 しかし、この先にモンスターがいるかもしれないと聞かされている。
 彼はトンファーガンを構え、不意打ちに備えながら、扉を開いていった。

第2章 集団戦 『バーゲスト』


 トラップだらけの部屋を抜け、広い空間に出たあなたは、赤く光る目と獰猛な息遣いに気付く。
 ダンジョンに潜むモンスター『バーゲスト』の集団が襲ってきたのだ。
 凶暴なバーゲストは目視した限りでは3体。
 数はそれほど多くないものの、その攻撃は苛烈。
 しかし、騎士に会うためには乗り越えなければならない敵である。
柳生・友好

『聖剣』という言葉は、|柳生《やぎゅう》・|友好《ともよし》にとっては心躍る響きであった。

(僕としてこういうのはたまらないんだよ)

 そのせいで、やけに騎士について心を痛めてしまう。
 聖剣を求めてどこまでも旅をして、しかしそれは王様に騙されていただけなのかもしれない。
 その旅の果てが、聖剣に執着するモンスターと化してしまうなんて、悲劇でしかない。

「……いや、こんな愚痴を言ってもどうにもならないか。とりあえず、有象無象を倒して道を開こう」

 柳生は剣を構えて、有象無象――バーゲストを睨みつける。
 敵の魔物もフー、フーと荒い息を吐いて今にも飛びかかろうと臨戦態勢だ。

 柳生は懐から剣理・天狗之書を取り出した。
 それは夢の中で授けられた「大天狗の秘伝」を覚醒させるもの。
 その秘伝により、彼の腕力が増していく。

 バーゲストはそんな彼に襲いかかり、全身に生えた角が柳生の身体を抉ろうとする。
 しかし、彼はその動きを見切っていた。
 ジャストガードで敵の攻撃を敢えて受けるが、致命傷にはならないように上手く角を受け流す。
 そして、逆にカウンターを叩き込み、モンスターを吹き飛ばした。
 ダンジョンの壁に叩きつけられたバーゲストは、攻撃が通らない上に前足を骨折した様子で、よろよろとしている。

結城・凍夜
雪菜・リリー・ヘヴンズフィール

「あれぇ? 凍夜ちゃん?」

「雪菜さんも来ていたんですね」

 凍夜と雪菜、知り合い同士がダンジョン内で偶然合流し、束の間、ほのぼのとした空気が漂う。

「こんな処で会うの、奇遇だね~。せっかくだから、一緒に探索しよ♪」

 そうした経緯で、2人は協力してダンジョンを踏破することにした。
 雪菜はシマエナガたちがいるので寂しくはないが、知人がいるとやはり安心感がある。
 しかし、ここはあくまでも危険なダンジョンだ。凍夜と雪菜は注意深く行く先を目指し、獣のような唸り声を聞いた。

「……いましたね。タイミングを合わせましょう」

 ダンジョンを我が物顔で闊歩する黒犬の魔物、バーゲスト。
 その攻撃方法は近接メイン。ならば、距離を取って射撃で攻撃するのが定石であろう。
 凍夜は精霊銃”スノーホワイト”に宿った雪の精の力を引き出し、中央のバーゲストを狙い撃った。

「白き雪の精よ、力を貸し給え!」

 ――エレメンタルバレット『細氷乱舞』。着弾地点からダイヤモンドダストが発生し、中央の魔物中心に他の敵も巻き込む。さらに雪菜の連れているシマエナガたちに氷属性を付与して強化。

「雪菜さん、今です!」

「やっちゃえ、シマエナガ!」

 凍夜の合図に呼応するように、雪菜はシマエナガを使役し、怒涛の攻勢を仕掛けていった。
 |飛翔する白き雪の妖精《フラッター・シマエナガ》の群れが一斉にバーゲストたちに襲いかかり、魔物たちの周囲を飛び回りながら氷属性の嘴と爪で攻撃。
 バーゲストは邪魔だと言わんばかりに噛みつこうとしたり、骨折していない前足で振り払おうとするが、小鳥たちはひょいひょいと躱しながら攻撃を続ける。これは見た目以上にダメージとストレスが蓄積していく。
 さらに雪菜自身も参戦、|騎乗用・白き雪の妖精《ライド・シマエナガ》に乗って突撃し、空中からドスンと踏みつけた。

「グルルルルゥアアアア!!!」

 追い詰められ、頭に血が上ったバーゲストは穢らわしい牙で雪菜の騎乗するシマエナガに噛みつき、さらに全身に生えた角で突進してくる。

「イタっ……もう! やっちゃえ、シマエナガ!」

 雪菜は即座に飛翔する白き雪の妖精で反撃し、「|この傷、返すね?《イタイノイタイノトンデイケ》」とバーゲストに文字通りダメージを返した。彼女とその使役するシマエナガたちの傷が全回復したのである。せっかくつけた相手への傷が回復していく姿を見たときのバーゲストたちは戦慄し、怯んだ。
 ならばもう一度、と牙を剥き出した魔物に、「させませんよ!」と凍夜の狙撃銃による牽制を兼ねた援護射撃。

 前足が2本とも折れ、もはや近接攻撃すらままならない個体も出てきたバーゲストの群れ。
 さあ、いよいよトドメを刺すときが近い。

青木・緋翠

 バーゲストの群れを倒すまであと少し。
 しかし、手負いの獣ほど恐ろしいものはない。
 自分の命が奪われようとするときに、死にものぐるいで抵抗するのは、魔物でも人間でも同じだ。
 その手ごわさを知っているからこそ、緋翠は決して油断はしない。

 じりじりと近づいてくる敵にはトンファーガンで威嚇射撃をして牽制。
 まだ前足の折れていないバーゲストが飛びかかってきたらトンファーで打ち払いながら、彼は周囲に気を配る。

 スマートグラスの暗視機能をオンにすると、光源の少ないダンジョンの暗がりまでよく視えた。
 緋翠が警戒しているのは、「物陰や暗闇にまだ潜んでいる個体がいないかどうか」だ。
 結論から言えば、他にもバーゲストはいた。
 しかし、どれも既に事切れていて、地面に倒れ伏している。
 最深部に向かった配信者が先に倒していたものか、あるいは『騎士』が。

(なるほど、だから魔物がたった3体しかいないんですね。であれば、こいつらさえ倒せばいい)

 そうと決まれば、あとは出し惜しみをしない。

「>|実行《execute》 古代語魔法 "高電圧大電流"!」

 緋翠の√能力『|高電圧大電流《パルスパワー》』が、ダンジョン内に眩しく閃いた。
 威力は100分の1とはいえ、電流が300回ほとばしる大技である。
 前足が既に折れているバーゲストの個体は泡を吹いて倒れ、まだ体力の残っている個体でも、痺れて動けない。
 それをトドメとばかりにトンファーガンで撃ち抜き、やっとダンジョンの中に静けさが戻る。

「さて、この先に騎士さんがいるのでしょうか。たとえ聖剣を捧げる相手がいなくても、なんとかお気持ちを救う方法があると良いですね」

 いよいよダンジョンも最深部が近い。
 緋翠はさらに奥へと潜り込んでいった。

第3章 ボス戦 『堕落騎士『ロード・マグナス』』


 最深部に到達すると、そこには黒い甲冑に身を包んだ男……らしきものがいる。
 あれが件の聖剣を求めてさまよう『騎士』であろうか。
 鎧の男はこちらを振り向き、あなたを視認すると、「お前も聖剣を奪いに来たのか?」と低い声で尋ねる。
 あなたがイエスと答えるにしろノーと答えるにしろ、モンスターと化した騎士に言葉は届かない。

「聖剣は渡さぬ。俺が聖剣を見つけるのだ。姫と結ばれるのは、俺――」

 ……推測に過ぎないが、聖剣を探索させる際に、王様は「聖剣を持ち帰ることができたら姫と結婚を許す」というような口約束をしたのかもしれない。
 しかし、王も姫ももういない今となっては、確かめようのないことだ。
 何より、正気を喪っている鎧の男は、あなたの命を狙っている。
 襲いかかる騎士を倒さなければ、あなたはこのダンジョンから生きて出られない。
結城・凍夜
雪菜・リリー・ヘヴンズフィール

「……聖剣探索の果てに。もし見つけられたとしても、望みを成就することも無いでしょうに」

 凍夜の言葉は残念なことではあるが事実である。
 王様に聖剣の特徴すら聞かされないまま、長い、長い旅をして。
 王も姫も既にこの世を去った今、仮に聖剣を見つけても、もう騎士の願いは叶わない。

「その旅、今ここで終わらせましょう」

 今こそ、騎士の執着を断ち切り、眠らせてやるべきだ。
 |飛行箒《ガンナーズブルーム》に跨ったまま、精霊銃”スノーホワイト”を構えて臨戦態勢に入る。

「わたしもスピードを上げて攻撃しよっと。|大いなる白き雪の神精《ゴッド・シマエナガ》、ちょっと手伝って!」

 雪菜は『|白き雪の神精の加護《ゴッド・ブレス・シマエナガ》』により、|白き雪の神精《ゴッド・シマエナガ》を身に纏った。要はシマエナガの気ぐるみを着ているのだが、その姿はなぜか神々しいオーラを放っている。見た目こそ愛らしいが、その速度は先ほどまでの、どこかのんびりした雰囲気から一転、実に3倍速く動けるのだ。

「聖剣を狙うものは、全て、全て灼き尽くす! 『カースドフレア』!」

 騎士が詠唱すると、紫色の『呪いの炎』が火柱となり、ダンジョンの床や天井を舐める。
 この炎が増えていくと厄介だ。

「狙い撃ちます!」

 凍夜は精霊銃の銃身を伸ばし、箒に乗ったままスナイパーライフルのように狙いを定める。
 狙うは、騎士の鎧の隙間――!

 しかし、そんな弱点を騎士が把握していないわけがなく、手にした剣で素早く弾を叩き落とした。

 伊達に聖剣を求めて各地のダンジョンを旅してきた騎士ではない。強敵の発する、張り詰めた空気をひしひしと感じる。
 そのまま、騎士が『偽りの聖剣』を生成し、空中を飛び回る凍夜に剣を投げつけた。
 剣の投擲は精度が高く、凍夜の心臓を撃ち抜こうと真っ直ぐに飛んでいく。

(狙いが正確な分、避け易い!)

 それを弾道計算し、空中ダッシュで回避。
 さらに、自身の√能力を発揮する。
 |氷雪の錬金術《アブソリュート・ゼロ》により、ガンナーズブルームに精霊銃と狙撃銃を変形合体。|対標的凍結兵器《ターゲットフリーザー》の完成である。

「この冷気の前に、凍りつきなさい」

 3つの武器を合わせたそれぞれの銃口から、凍結攻撃の一斉掃射。
 騎士の鎧の上から、氷がビキビキと固まっていく。

 彼の射撃の合間を縫って、雪菜はタイミングを見計らい、|飛翔する白き雪の妖精《フラッター・シマエナガ》の群れを使役して騎士を襲撃させた。

「ぬっ……!? おのれ、こんな小鳥ごときに俺が遅れを取ると思うか!」

 騎士は腕や剣でシマエナガの群れを追い払おうとするが、あまりに小さくすばしっこい鳥ゆえに攻撃をやすやすと躱されてしまう。しかも、このシマエナガは牽制のための囮のようなものだ。
 その間に、|騎乗用・白き雪の妖精《ライド・シマエナガ》が突撃、体当たりで騎士を突き飛ばす。
 すると、天井付近まで噴き上がっていた紫色の炎は瞬時に姿を消した。

「呪いの炎は移動すると消えるんだよね」

 技の弱点を突かれ、騎士は鎧の中から歯ぎしりのような音を発する。

 そして最後に雪菜の攻撃。

「いくよ! くちばしアタック!」

 鎧すら貫くほどの威力に、「カハッ……」と騎士が身体をくの字に折り曲げた。

「お姫様と結婚するために、ずっと長い間旅をしてきたんだね。疲れてないのかな? もう願いは叶わないし、終わりにしようよ」

「……まだ、だ。俺は必ず、聖剣を……」

 それは騎士の執念であった。
 まだ鎧の男は膝をつかない。屈しない。
 どんなにボロボロになっても、よろよろと立ち上がり。
 それはなんとも――痛ましい聖剣への執着である。

マイティー・ソル

「むむ、黒い騎士? いかにも悪役っぽい見た目じゃが、その経歴を聞くと悲しいものがあるな……」

 マイティー・ソルはライダー・ヴィークルに乗ってダンジョンの奥地に駆けつけた。

「――じゃが! 騎士の事情はともかく、おぬしが存在することでダンジョン、ひいては世界が悪化するというのなら、ヒーローとしては見過ごせぬ!」

 彼女はヴィークルから跳躍すると、燃え上がるようなライダー・キックで、騎士に向かって強力な飛び蹴りを仕掛ける。
 鎧の男はそれを己の剣で受け止め、そのまま剣を振り払ってマイティー・ソルをはねのけた。
 ソルは宙返りをして着地、「向こうも剣士か。であれば、剣同士で切り結ぶのがよかろう!」とギミック式の大剣――クールナールブレイドを構える。

「集え極光、断て、太陽の裁き、これが正義の刃じゃ!」

 ――|陽光輝く正義の刃《ジャスティス・ソル・ブレイズ》。
 彼女は光明太陽神の分霊を身に纏い、速度を増した。さらに、『陽光剣現』により、大剣が騎士の鎧すらも貫く。

「ぐぅ……ッ!」

 騎士は膝をつく前に、剣を地面に突き刺し、杖のようにすることでなんとか耐えた。

「光り輝く剣……まさか、聖剣……?」

「いや、違うんじゃが?」

 たしかに、光に包まれた剣は聖剣に見えなくもないのだが。

「おぬし、いい加減に往生せい。聖剣に目が眩んで、他の者を害して、姫とやらが喜ぶとでも思っておるのか?」

「……だが……聖剣がないと帰れないのだ……」

 騎士には、既に姫がいないという事実が認識できない。
 うなだれた騎士からは、だんだん戦意が失われていくのが分かる。
 落ち着きを取り戻しつつある騎士を、あと一押しで説得できるかもしれない。

青木・緋翠

 緋翠は、部屋に入る前に、既に騎士と戦っている他の√能力者と騎士の話を聞いていた。

「聖剣入手の望みは果たさせてあげたいですね……執着が悪化して、無差別になっても困ります。失敗したら恨まれるかもしれませんが、試してみます」

 彼は3Dプリンタと、古代魔術の封入されたフロッピーディスクを取り出し、作業を始める。

「>|実行《execute》 古代語魔法 "技術革新"」

 フロッピーディスクを放つと、3Dプリンタは無音で何かを生成し始めた。
 作っているのは、魔力を帯びた聖剣だ。
 エクスカリバーのデザインを象り、単に騙すための偽物ではなく、新しい『聖剣』を作るつもりで作業に取り掛かる。

「……ふう。こんなものですかね」

 生成された聖剣を持って、初めて緋翠は部屋に入った。
 うなだれていた騎士は、新たな来訪者に力ない視線を向ける。
 緋翠は聖剣を騎士に見せ、声をかけた。

「あなたはこの聖剣をお望みなのですね。これは私が先に手に入れましたが、本当にふさわしい方の手に渡ってほしいと思っています。あなたが聖剣を持つに足るか、試させていただきます」

「聖剣……それが……?」

 騎士は剣の真新しさに気付いたかもしれないが、聖剣ならば不思議な力で古びることがないのかもしれない。
 鎧も壊れかけのボロボロの身体で、それでも騎士は立ち上がる。
 喉から手が出るほど求めていた聖剣、それが今、目の前にあるのだから。

 そこからは、緋翠と騎士の真正面からの打ち合いだった。
 キィン、ガキィンと金属同士がぶつかる音がダンジョンに響く。
 緋翠はパソコンの付喪神ゆえに、コピーは得意技である。
 騎士の動きを冷静に観察、|真似《コピー》してさらに応用することで騎士を上回る精度の剣技を披露した。
 さらに、聖剣の力を信じ込ませるために、手に持った剣を高々と掲げる。

「>|実行《execute》 古代語魔法 "広域震動"」

 密かにフロッピーディスクを放ち、地震を発生させた。
 震度7の揺れ、騎士は突然のことに動けない。

「こ、これが聖剣の力……!?」

 動揺し、動きを止めた騎士に、聖剣を振り下ろす。
 勝負は決した。
 とうとう地面に膝をついた騎士に、緋翠は手に持っていた聖剣をそっと差し出す。
 騎士は驚いたように彼を見上げる。

「守護者としては未熟ですが、その忠誠は騎士に相応しいものです。剣は貴方に預けましょう」

 そう言って、聖剣を騎士の手に握らせた。
 無論、最初からこうするつもりではあったのだが、騎士は「おお……おお……」と涙をにじませたような感嘆の声をあげる。

「ありがとう。これでやっと……姫のもとへ……」

 騎士は砂のように風に吹かれて消えてしまった。インビジブルになったのかもしれない。
 ――こうして、ダンジョンのひとつが踏破され、その奥地で『鎧の男』が目撃されることはなくなったという。

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