√アニムは脈々に『繰り返すもの』
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男子、三日会わざれば刮目して見よ。
それは東方の大陸の格言だったか故事だったか、とヴァン・ウィンディア(エアリィ・ウィンディアのAnkerの父親・h13047)は、子の成長速度というものを己が見誤っていたことを知った。
身を持って、というのは実直なる彼の性質、性格というものを如実に示すものであった。
まず、と己の色眼鏡の色を擦り落とすことからはじめた。
そう、贔屓目というのは存在する。
我が娘であるところのエアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)は、親の贔屓目というものを抜きにしても才能に溢れた子だと思う。
それは認めるところだ。
とは言え、才能がある者など世界にはごまんと存在している。
才能の原石など、そこら中に転がっているし、今も世界のどこかでは彼女を凌ぐ才能を持った子が生まれていることだろう。
だが、多くは原石のままで終わる。
磨かれることなく、その真価を発揮することなく路傍の石として歴史の端々から転がり落ちていくものだ。
それをヴァンは痛いほど理解していた。
だからこそ、己の色眼鏡、フィルター、贔屓目……この際、そうした言葉の綾なんてものは横においておくとしよう。
「エアリィ。せっかくだから打ち合うか?」
彼は娘であるエアリィが充分に魔法や剣術といった実力の基礎、土台となる部分が蓄積されていることを彼女の素振りから見て取っていた。
武器の扱いというものが、格段によくなている。
これも実戦というものを経験したからだろうな、と彼は結論づけていた。
とは言え、彼女の動きは魔法職のそれであった。
後方からの攻撃。もしくは、仲間と連携しての補助。言ってしまえば、器用に立ち回ることを覚えていると言ってもいいだろう。
そこが少しずつ垢抜けるように実戦向きの動きになってきている。
だからこそ、ここで経験を積むのもよいのではないかと思っての提案であった。
「組み手?」
「いや、立ち会い、というのが正しいかも知れない」
「決闘、みたいなもの?」
「それの練習みたいなものだな。武器だけでオレの防御を打ち崩せるか」
「そんなことできるのかな? でも、状況は?」
「一対一だ。シンプルに行こう」
「でもでも、戦いはシンプルじゃあないでしょ?」
「ああ、確かに冒険の状況に寄っては一対一、なんてことのほうが少ないかも知れないが、何事も経験しておくのが良いだろうと思ってな」
自信がないのならやめておくか、というヴァンの言葉を遮るようにしてエアリィは笑って頷いた。
「そういうことなら……うん、一回試してみる!」
「そうこなくてはな。では、構えろ」
ヴァンの言葉にエアリィは、精霊剣と精霊銃を構えた。
『エレメンティア・ブレイド』と『エレメンタルシューター』。
右と左。
二刀流ならぬ一刀一銃と言えば格好はつくだろうか。ヴァンは自らと異なる構えにわずかに笑む。。
対するヴァンは、盾と剣である。
対照的と言えば、そうだろう。エアリィは身を晒すように開かれた構えであり、瞬発力に優れることを伺わせる。
対するヴァンは半身で盾を構えているがゆえに、その盾の内側にある体勢をすっぽりと多いかk吸うものであったし、どっしりと構えた鈍重ささえ感じさせる構えであった。
「例えば、相手が同じ魔法を使うタイプだが、お前が魔法を使えない時を想像しろ。もしくは、魔法で防御を貫けぬほど堅牢な相手だった場合……そうした時、エアリィ、お前ならどう立ち回る?」
「魔法が使えない時? 効果がないってこともあると思う?」
「そういう状況もあるだろう。エアリィ、お前の魔法は確かにお前の長所であり、強みでもあるだろう。だが、それに頼りすぎてもいけない。己の中に真芯という名の柱を持つことは肝要だが、それに寄りかかりすぎていては、元も子もない。もしも、その真芯が喪われてしまった時、何もできないと自ら白状しているようなものだからだ」
「わかった」
エアリィは静かに頷く。
「それじゃ、お父さん。行くよっ!」
駆け出すエアリィ。
手にした精霊銃の銃口がヴァンを狙う。
放たれる弾丸は、弾幕、つまりは牽制だ。ヴァンが容易く銃弾を盾で弾くことを想定したような狙いを絞るつもりのない、ばらまき方だった。
確かに狙いが精確であることには越したことはない。だが、狙いが精確だということは、当然、その弾道というものを計算に入れることができる。
圧倒的な速度で迫る弾丸を前にして、そのような計算を刹那に行わえるものが、どれだけいるというのだろうか。しかし、そうした埒外と相対した時、その一瞬こそが生命の明暗を分けることは言うまでもなかった。
だからこそ、相手に己の狙いを読ませぬ弾丸のばらまきこそが、必要だったのだ。
弾幕とは、そうしたところにこそ意味がある。
ただの目眩ましだったのならば、銃弾に頼る意味もない。
ヴァンは少しは考えているのだな、と関心したが、しかし、まだ甘いと盾で全ての銃弾を受け止めたいた。
「距離を詰めることしか考えていないことが丸わかりだ、エアリィ」
そう、牽制の後に来るのは本命の精霊剣の斬撃。
それはわかりやすく、ヴァンにとっては盾で受け止めるには容易い一撃だった。
響き渡る剣戟の音。
「真正面がダメならどうする!? 自分の特製をしっかり思い出せっ!」
「うぅ~! 魔法を使えたらいろいろできるのにぃー」
「お前の手は、足は、魔法のためだけに存在しているんじゃあない。魔法がお前のために存在しているんだ。それを思い出せ」
その言葉にエアリィは鈍重な構えの父を前にして、動きを変える。
踏み出す足は、速度を上げ、彼の周囲をぐるりと駆け抜け、刎ねるようにして斬撃と共にヴァンを翻弄しようとしていたのだ。
残像を生み出し、視覚的に混乱させながらエアリィは精霊銃の弾丸を今度は、地面に叩き込む。
舞い上がる土煙。
「ほう」
考えているな、とヴァンは知らず広角が釣り上がるのを感じた。
とは言え、防御を解く理由にはならない。
銃弾の弾幕と大して、それは変わらないからだ。だからこそ、構えを変える必要はない。しっかりと大地に足を踏みしめるようにしてヴァンは盾を構え、堅牢な城門のようにエアリィの斬撃を受け流し続けるのだ。
「斬撃、銃撃、その全てが囮、なら」
次に来るのは、とヴァンは理解していた。
残像と土煙。
視界を奪いながら、狙うのは。
「とりゃー!」
背後からの強襲である。
エアリィは一瞬の隙を見て、ヴァンのえ中に飛び蹴りを叩き込む。
無論、それが決定打にはなり得ぬことは言うまでもない。だが、これは鍛錬なのだ。自ら模索し、自ら手繰り寄せた解決策を手にする。
それこそを知ることが目的の鍛錬なのだ。
ヴァンの体が揺れ、踏ん張りを失って前にたたらを踏むようにしてよろめいたのを見て、エアリィは笑った。
「やったー! お父さんに一発いられれたっ!」
「ふむ、いい動きだったぞ」
ヴァンは頷き、構えを取った。
「ほんとっ!?」
「ああ、実践的な動き……少し無駄な動きが目立たなかったと言えば、嘘になるがな」
「まだ改善の余地があるってこと?」
「そうだな。例えば、弾幕にしたってそうだ。敵の意識をそらすつもりかもしれないが、敵も弾幕を張られれば、本命があるのだと警戒するだろう? 警戒している相手を突き崩すのは、どうだった?」
「大変だったよ! お父さん、全然構えを緩めないんだもん!」
「そうだな。それはお前が何かを狙っているとわかったからだ。それを悟らせないことも、戦いには時に必要なものだよ」
「駆け引きってこと?」
そのとおりだ、とヴァンはエアリィと共に水を飲みながら休憩がてら、座学めいた今回の模擬戦闘についての総評めいたことを語る。
それにしても、とヴァンは思う。
しばらく見ない間に随分と。
「強くなったな。何かあったのか?」
少しばかり気になった。
「うん?」
「いやなに。少しばかり気になっただけだ。何か身が引き締まるようなことでもあったのかな、と思ってな」
その言葉にエアリィはなんてことないことのように笑う。
「だって、とっても大好きな人を守りたいから!」
それは無邪気な笑顔であった。
だが、ヴァンは口に含んだ水を吹き出しそうになっていた。
「ぶっ……!? だ、大好きな人、だと……?」
「うん。なんで? おかしい?」
「いや、おかしく……おかしくはないが……お、おまえ、いつのまに……」
動揺してしまって、ヴァンは口の端からこぼれる水を手で拭った。
まさか娘から『大好きな人』という単語を聞くとは思ってもいなかったのだ。
まだ12歳である。
色恋沙汰なんてものに興味が出る、とは思ってもいなかった。
いや、違うな、とヴァンは己がまた親の贔屓目というか、フィルターというか色眼鏡めいたもので見ているということを自覚して頬をかいた。
「いや、いい。言わなくて」
「そう?」
エアリィはやっぱり無邪気に笑って額に浮かんだ汗を拭った。
「あっ! もう約束の時間だ! 汗かいちゃったし、シャワーしなきゃっ!」
「あ、おい……って、もういない」
ヴァンは己の額にも浮かんだ汗を拭う。
なんだか、と彼は昔のことを思い出していた。エアリィの母親のことだ。
彼女との関係も、思い返してみれば、娘のエアリィと同じ頃合いだったか、と思い出したのだ。
しみじみ、という言葉が浮かぶ。
「まさか、オレが、な……」
こんなことを思うなんて、となんだか苦笑いがこぼれてしまう。
それも、悪くないとは思うけれど、とヴァンは複雑な思いにかられながら思い出した。
「大好きな人って誰だ――?」