戦闘機械群というカラオケボックスに潜む闇
「やぁ、久しぶりだね。川口市の事件では世話になったね」
そう言って長い自毛の髪を揺らして少女染みた見た目と声色で√能力者達を出迎えるのは人類社会潜入型ベルセルクマシン、真紅・イサク(生きるとは何かを定義するモノ・h01287)。
星詠みの資格を持つ『彼』からの依頼とは、戦闘機械群ウォーゾーンに纏わる事件に違いない。
「都内新宿区の某繁華街にあるカラオケボックスで、レリギオス・オーラムが√EDENの民間人を拉致して人体実験の検体にしようとしているみたいだ」
本来は戦闘機械群ウォーゾーンにおける|王権執行者《レガリアグレイド》の一人である『ドクトル・ランページ』が率いる巨大派閥たるレリギオス・ランページの分野であるが、今回動く|王権執行者《レガリアグレイド》は『統率官『ゼーロット』』だ。
「そう、御存じ小悪党で小物のゼーロットだよ。奴はあくまでレリギオス・オーラムにおける統率官のひとりであり、内輪揉めと出世争いにのみ執心している」
ならばその出世争いの材料として、レリギオス・ランページの得意分野をゼーロットが猿真似するのも自然の道理という事か。
「そこに√EDENの簒奪者の一人である『怪しい店主『ジョン・スミス』』がゼーロットにカラオケボックスを用いた検体の確保を提案し、ゼーロットも後先考えずそれに飛びついたみたいだ」
だが、それもイサクにゾディアック・サインで捕捉されたという訳だ。
「まずは開店前の夜明け前のカラオケボックスに強襲を仕掛け、拉致準備を整えている『ジョン・スミス』を襲撃。速攻で撃破してのこのこ√ウォーゾーンからやってきたゼーロットを返す刀で撃破するって作戦さ」
ジョン・スミスは宿敵であるがその本領は経営能力にある。
ゼーロットは言わずもがな……『正直あんまり強くない』とあらゆるゾディアック・サインから断言されている。
「なので、連戦になるけれどそこまで気を付ける必要はないよ。其れが終わったらカラオケボックス店の後始末も兼ねてカラオケをしたりして良いんじゃないかな」
そう言ってイサクはレギオンを操作し、件のカラオケボックス店がある場所を示した地図を全員に配布していくのであった。
第1章 ボス戦 『怪しい店主『ジョン・スミス』』

「おやおやおやおや……いきなりバレましたか」
ニチャア、と言った様子で笑みを濃くする簒奪者『怪しい店主『ジョン・スミス』』。
しかし、脈絡もなく取り出した棍棒を用いて戦闘態勢を整える。
「こちらにも事情があるのでね……死ねぇい!」
そう叫びながらいきなり殴りかかって来る簒奪者。
さぁ、√EDENを守る√能力者達よ、どう動く――
「話が早くて助かるよ」
光刃剣を居合として抜き放ち、踏み込む事でジョン・スミスの棍棒を受け止めながらクラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)はハンドアックスをもう片方の手で握り締める。
「そっちから殴りかかってきてくれるなら、こっちも遠慮せず最初から全力で戦えるね」
敵であるジョン・スミスからの攻撃に対してはクラウスの√能力『先手必勝』で割り込み、先制攻撃をしてから身を隠して隠密状態に移行。
そこからクラウスは居合で不意打ちしながら、ガントレットのワイヤーで捕縛して動きを止めながらジョン・スミスと戦っていく。
「何も知らない人々を攫うなんてこと、許す訳にはいかない」
「ハハハ!――赦すも許さないも無いですよ!」
絶叫しながら振るわれるジョン・スミスの棍棒の軌道を見切り、回避すると同時に隠密状態を活用し……隙を突きながらクラウスは戦っていく。
「お前もゼーロットも倒して、人々を守ってみせるよ」
「出来る者なら、ね!」
棍棒とバトルアックスの応酬は、そのまま光学迷彩によるイニシアチブを有するクラウスの有利へと傾いていく。
何せジョン・スミスの方は棍棒の軌道を範囲攻撃にして複数回攻撃にしていく√能力。
見えているならばジョン・スミスの方が有利であろうが……クラウスは現在、ジョン・スミスの知覚から逃れている。
「相性という奴だね」
「はっはっは……捻じ伏せるには、そのまま棍棒を振るい続けるしかないですねぇ!」
やがて棍棒がバトルアックスに切り落とされ、返す刃でクラウスはジョン・スミスの肉体を袈裟斬りにするのであった。
「√EDENの簒奪者っすか……初めて会うっすけど、出身√を他の√の簒奪者が侵略するのに協力するとか、理解できないっすね」
「ハハハ!――理解できなくても、意味はあるのですよ」
√能力『|百錬自得拳《エアガイツ・コンビネーション》』で拳を振るいながら|山田・菜々《やまだ・なな》(どこにでもいる、大切なものを守りたい、ただの人間・h01516)は√EDENの簒奪者の一人『怪しい店主『ジョン・スミス』』に殴りかかっていく。
「意味も価値も理解も無いっす……その存在、それ自体が罪っす」
「生き様を罪そのものと断じるとは、そちらはかなり傲慢ですねぇ!」
「御託は良いっす……かかってくるっすよ、返り討ちにするっすからね」
棍棒の一撃を見切って避け、バンチからの掴み技に、追加のパンチにスタンビュートによるマヒ攻撃、からのパンチから始まる喧嘩殺法……
これが『|百錬自得拳《エアガイツ・コンビネーション》』……コンビネーション型√能力である。
「おいらのコンビネーションは止まらないっすよ」
「さぁ、どうでしょうか?」
強敵感あふれる雰囲気と共に棍棒を取り出し、菜々の体術攻撃を受け止めていくジョン・スミス。
しかし菜々は更にコンビネーションを加速させ、ジョン・スミスを押し切っていく――
「これでも喰らえ……っす」
次いで、抉る様なアッパーカットを繰り出した後……そのままがら空きになった何でも屋の鳩尾に菜々は正拳突きを叩き込んでいくのであった。
「はい、そうですか……って頷けるわけないだろ!――どうしてもってんなら、あたしと一緒にいくかい!?」
「ハハッ! こちらこ――」
瞬間、強大な爆発が発生する。
量産型少女人形らしく初手特攻とばかりに、ジバ・クスール(|M67《アップル手榴弾》の|少女人形《レプリノイド》・h02318)はジョン・スミスに近づいて自爆。
丸い形状から「アップル」とも呼ばれるM67破片手榴弾の性能を具現化した量産型人造少女……その特性を宿した√能力者であるジバは、ただ自爆するだけの√能力者ではない。
まずはレインメーカーとしてレインを雨粒のような「レイン手榴弾」として運用。
大気中の粒子を集め「アップルM67化」することで、内部から様々な形状のレーザー光線を一斉に放つ……という様に「レイン」を投擲・爆破する形で運用する事が可能。
更にはゴーストトーカーとして記憶……魂の転送を拒み、一時的な地縛霊化する手段をも確立している。
「ちっ、逃げられたか……準備がいいね」
地縛霊化し、戦闘復帰を果たすジバ……顔に笑みを浮かべ――√能力『|ZⅠB《ゾディアックワンビースト》ー|AKU《アリエスカルマユニット》』を発動。
自爆した後に大破した姿で現れ、地縛の鎖を纏い自己強化。
更に近接攻撃として『大爆発』を発生させる事も可能な状態である現在のジバは、大破した姿でありながら高速移動で再接近し……
「今度は逃がさない。何度だって大爆発を……!」
「ちょ、ちょっと冗談じゃないですねぇ……!」
何度も何度も自爆しては、即座に蘇り再び自爆を敢行するジバ。
その様子に、流石のジョン・スミスも顔が引きつっている様だ。
「――まさか、このジバ・クスール様がジバクするとは思わないだろ?」
自縛し地縛霊となる事で何度も自爆を繰り返す√能力者は、そう言って再び簒奪者を巻き込んで自爆するのであった。
「なんだってカラオケボックスを元にしたのよ……これじゃ演奏の練習にも使えなくなるじゃない」
不機嫌そうな声色で|萩高・瑠衣《はぎだか・るい》(なくしたノートが見つからない・h00256)……レゾナンスディーヴァの√能力者はジョン・スミスを睨みつける。
「うん、決めた。絶対許さない。あなたには音楽を聞かせるのももったいない、切り刻んであげる――他の人のあとの追撃、卑怯とは言わないよね?」
「ハハハハハ……死ねぇい!」
棍棒を振り上げて瑠衣を狙うジョン・スミス。
しかし落ち着いた様子で彼女は改造楽器ケースを構えて刃を展開――そのまま居合の要領で斬りつけていく。
「それでどこか切断できればヨシ……掠るだけでも当たったなら楽器演奏のリズム感で連続攻撃を仕掛けるわ」
「あ、棍棒が!」
「強敵感のかけらもないあなたになら、よく効くでしょう?」
√能力『|我流・n段の調《ミダレバヤシ》』……|錬金騎士《アルケミストフェンサー 》として『刃を展開した改造楽器ケースの刀モードで攻撃した後に技能攻撃を繰り出し、再び改造楽器ケースで斬撃を連続して繰り出していく』という異能を以て、√EDENの簒奪者『怪しい店主『ジョン・スミス』』を瑠衣は切り刻んでいく。
「そのまま退散しなさいな、まあ……そうするまで攻撃を止めないけど」
「色々な意味で残念ながら、引く事は出来ないのですよねぇ!」
絶叫しながら棍棒を振るい続ける男に対し、彼女は太い動脈を切断する様に改造楽器ケースを振るっていくのであった。
「(なんだこいつ。頭悪そうね……キノコみたいな頭してるし)」
最後にカラオケボックス店に到着したのは|カンナ・ゲルプロート《Canna Gelbrot》(陽だまりを求めて・h03261)。
腕力で強引に使う巨大な鋏『アトロポス』を構え、カンナは『怪しい店主『ジョン・スミス』』に語りけていく。
「ごきげんよう、キノコ頭の人。頭の中身も胞子みたいにどっか飛んで行っちゃった?」
「(大人しくタケ〇コとだけ戦争していればいいのに、馬鹿ね)」
自身の使い魔である|蝙蝠《ロキ》と|黒猫《エレン》を呼び出し、カンナは死角と音声のフォローをさせつつ簒奪者と交戦。
執拗に牽制攻撃を繰り返すと同時に自身の影を伸ばして操作し、作業や攻撃を行うカンナの固有能力『|影技《シャッテン》』を用いて切断攻撃や刺突攻撃を繰り出し……
更に影装を使って色々な武具で接近を阻み、相手との距離を保ちながら百年の長い時を生きる外見は10歳ほどの吸血鬼は攻撃だけでなく口撃を仕掛ける。
「ねえ、キノコとタケノコどっちが好き? あ、もちろんキノコよね? そういう顔してるもん」
「どちらも、商品ですからねぇ……青いのも紫のも好きですよ!」
やられ役臭がすごいけれど油断せず、軽口を叩きながら√能力での必殺のタイミングをカンナは見計らう。
「殺る時は一瞬で殺るのがモットーだからね――『|三連倒律《ドライファッハシュラーク》』……!」
瞬間、|影技《シャッテン》による牽制攻撃で相手の棍棒を弾き飛ばし……相手の影に投げつけたアトロポスが簒奪者の胴体に突き刺さり捕縛状態に。
トドメとして、|瞬動術《ブリッツトリット》による強撃をカンナは叩き込む――
「これで、おしまい!」
強烈な音響がカラオケ店内に、反響していくのであった……
第2章 ボス戦 『統率官『ゼーロット』』

「おっのれぇぇぇぇェェェ……!」
瞬間、怒気……情念自体は濃いが、そこまで恐ろしくない気配に√能力者達は振り返る。
「生肉風情と、生肉に肩入れする愚か者どもめ……何処まで私の立身出世を邪魔する……!」
怒りに燃えるのは、√ウォーゾーンの|王権執行者《レガリアグレイド》の一人であるウォーゾーン『統率官『ゼーロット』』だ。
ゼーロットは自身の兵装を展開し、√能力者を抹殺しようとしている。
――外で交戦したら、躊躇無くゼーロットは√EDENの一般人を巻き込むだろう。
静かなカラオケボックス店内で、ゼーロットと√能力者との戦いが始まろうとしていた……
「お前の出世なんて知ったことじゃないよ……この狭いカラオケボックスなら一般人を巻き込む心配も無いな、好都合だ」
「この生肉がぁぁぁ!」
クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)はゼーロットへと踏み込み、√能力『猛襲』を発動。
拳による攻撃の後、技能攻撃を用いて連鎖する様に攻撃を繋げていく√能力を統率官へと繰り出しながらクラウスはふと思う。
「それにしても、カラオケボックスにいるゼーロットは何だかギャップがあって面白いな……」
「黙れ!」
拳攻撃の間に居合やクイックドロウ、喧嘩殺法、2回攻撃などを挟んで連続攻撃を繋げていくクラウス。
ゼーロットの方も√能力『マルチプライクラフター』によって生み出した新兵装を用いて対応していくが――
「ゴバァ!?」
「手数の数が嵩むたびに、そちらの爆発によるリスクは上がる」
積極的に近接戦闘を挑み、徹底的にゼーロットと肉薄する状態を維持していくクラウス。
勿論、爆発に巻き込まれるリスクはあるが……クラウスは新兵装が起爆する前に叩き落し、ゼーロットのみを巻き込む様に爆発させていく。
「外に出られて他人を巻き込む訳にはいかないからね」
「邪魔をするなぁ!」
怒りのままに文字通りの鉄拳を振るうゼーロット。
しかしクラウスは分かりやすい殺気から先んじてクロー・ワイヤー・バリアが搭載されたガントレットで受け止め、逆にクロスカウンターの如くクローとワイヤーでゼーロットを絡めとり、そのままガントレットを纏った拳で殴りつけていく……カラオケボックスの外にゼーロットを出さない為に。
「こいつかあ……毎度毎度、生肉生肉ってうるさい奴ねえ」
辟易とした様子で|カンナ・ゲルプロート《Canna Gelbrot》(陽だまりを求めて・h03261)はゼーロットを見据える。
人間を”生肉”と称して見下す気持ちを隠さないゼーロットの在り方は、多くの√EDENを守護する√能力者から辟易を越えて呆れの感情を抱かせる矮小なものだ。
『あなた、毎回同じように生肉生肉って言っているけれど、他の語彙力ない訳? だから出世できないのよ』
「何だとぉ!?」
|蝙蝠《ロキ》と|黒猫《エレン》を呼び出し、死角と音声のフォローを……スピーカーの様に虚空から自身の声を響かせながらカンナはゼーロットの√能力『マルチプライクラフター』で作り出された新兵装の群れへと対応。
カンナとしては新兵装は『ちょっと煩わしい』という感想であるが、挑発して無駄打ちさせることを意識して立ち回っていく。
『同じ言葉繰り返すだけの機械なら、√EDENにあるおもちゃの方が可愛げもあるし存在価値が高いわ。要するにあなたはおもちゃ未満の存在ってことなの』
「だ、黙れ!」
ゼーロットの新兵装を用いた攻撃を|影技《シャッテン》や|影装《シャッテン ゼット》……影を操作するカンナ自身の固有能力で受け止め、流す様に捌く。
そこから敢えて直ぐ反撃するのではなく、新兵装を無駄打ちさせる。
「13%とかソシャゲのガチャよりは確率高いし、気長に待つのみよ……ほらね」
爆散――新兵装が放った炎熱に巻き込まれ、体勢を崩すゼーロットへとカンナは√能力『|蹂躙する影《ブルートシャッテン》』――
先述の|影技《シャッテン》を『深紅に輝く広域殺戮モード』を起動させた状態で4回攻撃を統率官に叩き込む!
「それじゃ――さよなら」
「ネームノルマは果たしたことだし、今度は少女人形としてのアピールに付き合ってもらうよ」
「生肉が作ったがらくた風情が……!」
次にゼーロットと交戦したのはジバ・クスール(|M67《アップル手榴弾》の|少女人形《レプリノイド》・h02318)。
軽くない負傷を負ったゼーロットは√EDENの豊富なインビジブルを利用して√能力『リモデリング・フィンガー』を発動し、目に着いたインビジブルと座標を交換する様に転移していく。
「ちっ、転移系か……」
ゼーロットの視界から隠れつつ、投擲支援レーダーで敵の位置や周辺の情報を取得しながらジバ・クスールは√能力『決戦気象兵器「レイン」』を発動――
「馬鹿め、現在の私は空間転移が可能なのだぞ!」
「じゃあここで問題――どうやって指定ポイントで発動できると思う?」
勝ち誇ったゼーロットの眼前に現れたのは――丸い形状から「アップル」とも呼ばれるM67破片手榴弾。
「答えは跳弾投擲――跳ねろ|アップル《レイン手榴弾》」
瞬間、アップルが炸裂……転移が間に合わず、爆風にゼーロットは巻き込まれる。
「あぁ、ベースボールとも呼ばれるね?――変化球だってあっても不思議じゃないだろ」
更にジバ・クスールは雨粒のような「レイン手榴弾」で大気中の粒子を集めて「|アップル《M67》化」する機能が搭載されている。
「そりゃあ標準タイプの|レイン砲台《一斉射撃》の様な見栄えは無いかもしれないが、これがあたし――|擲弾特化型《アップル》モデルの戦い方さ」
店内を跳弾しゼーロットの元へとレイン手榴弾が届く様に投擲し、連続して爆風に巻き込んでいくジバ・クスール。
再び勝ち誇ったようにジバ・クスールは宣言する。
「このジバ・クスール……M67の|少女人形《レプリノイド》が、|M67の爆破攻撃《じばく》をするなんて思わないだろ?」
「出世のためっすか、つまらんやつっすね……さっさと片付けてやるっす」
「生肉めぇ……!」
兵器を構える暇も与えない――|山田・菜々《やまだ・なな》(どこにでもいる、大切なものを守りたい、ただの人間・h01516)は縮地の要領で一気に統率官『ゼーロット』の懐へと潜り込む。
「――『|百錬自得拳《エアガイツ・コンビネーション》』……!」
先手を取って拳をゼーロットに叩き込み、更に追撃として高圧電流を発し、鞭のようにも伸縮する特殊警棒『スタンビュート』を用いて技能攻撃による連撃を繰り出していく。
今回用いた技能攻撃は麻痺攻撃――流し込んだ高圧電流により、ゼーロットの躯体はショートを起こしている。
「もう身体は動かないと思うっすけど……連携攻撃はまだまだ続くっすよ」
そこから再び拳を繰り出し、続けざまにグラップルを活用した徒手空拳を二の打として追撃。
√能力の効果で更に拳を振るい、新兵装を叩き落としながら菜々はゼーロットを圧倒する。
「バ、バカな!?……私が生肉風情に戦功を奪われるなど――」
「とっとと、√ウォーゾーンに帰るっすよ」
声を上げようとして上ずらせた所、菜々のハイキックで頭部を蹴り抜かれ吹き飛ばされるゼーロット。
そこから菜々は何度目かの拳を、統率官に突き刺すのであった――
「えっ、こんな狭い中で思い切り戦う気……!?――てかもう他の皆も滅茶苦茶やってる……これって、下手すると建物も壊れそうになってない?」
既に半壊状態になっているカラオケボックス店内を見据え、|萩高・瑠衣《はぎだか・るい》(なくしたノートが見つからない・h00256)は目を見開く。
「まぁ、建物を壊されて外に出られてもマズいよね……ならば、この√能力を使いましょう」
そこで瑠衣は『忘れようとする力』――√EDENの『忘れようとする力』を増幅させ、半径21メートル圏内の存在を『死なない限り、外部から受けたあらゆる負傷・破壊・状態異常が、10分以内に全快する』という影響を齎していく。
展開された『忘れようとする力』を以て、周りへの被害を修復できるように逃げ回っていく。
「とはいえ、ここまでゼーロットが痛めつけられているなら……!」
瑠衣は騒乱の隙を突いて壊走する統率官『ゼーロット』の背後へと忍び寄り……改造楽器ケースの刃を、居合の如く振り抜いてゼーロットの首を切断。
「あ――?」
何が起こったか分からない、と言った様子でゼーロットは間抜けな声を漏らしてそのまま絶命。
一時の死を以て√EDENから退去していく。
「でも……それ以前に、不安定な新兵装が私を巻き込まない様に爆発してほしいものだけど望み薄よね……だからこそ」
|錬金騎士《アルケミストフェンサー 》として改造楽器ケースの機能を最大限発揮。
非実体の刃を持つ剣の柄にもなる錬金術的な強化を施した、篠笛用の頑丈なケースを用いてゼーロットが遺した新兵装の爆発を瑠衣は無傷で凌いでいく。
「少しは祈った甲斐は、有った様ね」
そんな風に言って『忘れようとする力』で修復していくカラオケボックス店内を見据え、瑠衣は廊下にあったソファーに座り込むのであった。
第3章 日常 『深夜のカラオケボックス』

これにて、√EDENにて一般人を拉致して人体実験の検体としようとしたゼーロットの野望を粉砕した√能力者達。
星詠みが色々と後処理の為の手続きで時間をかける中、君達はカラオケボックス店内で時間を潰す事だろう。
カラオケを楽しむも良し、カラオケの飲食メニューを食べるも良し、カラオケボックスという場所を活かして何か作業やゲームをするも良し、だ。
「後始末とは……勘違いだったらごめん、別店舗でもなく戦場となった店内でやるんだよね?」
とはいえ『忘れようとする力』により、既に戦場となった際の破損は完全に修繕している。
その様子を見てジバ・クスール(|M67《アップル手榴弾》の|少女人形《レプリノイド》・h02318)は溜息を付く。
「ま、あたしらもあたしらで楽しむとしようか……お前さんもそう思わないかい」
ジバ・クスールが語り掛けるのはカラオケボックス内に漂っていたインビジブル……すると、それらが生前の姿へと変容していく。
この|M67《アップル手榴弾》の|少女人形《レプリノイド》はレインメーカーのジョブだけでなく、地縛霊化能力としてゴーストトーカーのジョブも獲得しているのだ。
『久しぶりにカラオケボックスに来たなぁ……』
「なに、しゃべるのは目撃情報でも愚痴でもなんでもいいさ……あぁ……Zi、Zi、Zi、Ziba-kuな感じのジバクソングにでも賑やかしとして付き合うかい?」
『ええ、久しぶりにカラオケが出来るお礼として付き合いますよ』
そう言って生前の姿を一時的に取り戻したインビジブルとジバ・クスールはカラオケボックスでジバクソング……アニメで有名キャラの立派な自爆を行う際の挿入歌をメドレー(と言っても4.5曲くらいだが)にして歌い上げるジバ・クスール。
インビジブルもそこに合いの手を入れ、限られた時間の中でカラオケを堪能していく――
『……ありがとうございます。お陰で、元に戻っても怖くないです』
「また縁があったら、その時はもう一回謳おうか」
「よし……無事、解決した祝勝パーティーっすよ」
カラオケボックスのソファーに座り、山田・菜々《やまだ・なな》(どこにでもいる、大切なものを守りたい、ただの人間・h01516)は嘆息を着く。
今回菜々はクラスメイト達を呼び、カバーストーリーを用いて『お得なカラオケパーティーが出来る』という風に話を持ち掛けて楽しむ。
「調理せずにそのまま出しそうなメニュー……それをかたっぱしから頼んでいくっすよ」
他にもドリンクバーでは色々なジュースを混ぜてオリジナルジュースを作り、拡げたスナック菓子を取り合いながら菜々はカラオケボックスではしゃいでいく。
カラオケ自体には新曲が治められており、それを謳いながらクラスメイト達もスナック菓子やジュースを口にする。
「……こんな日常を守るために、おいらは頑張ってるっすね」
√EDENは楽園……戦闘機械群により物資やインフラ等を破壊された√ウォーゾーンよりも遥かに高い水準の生活が出来る上で……どの√よりも豊富なインビジブルを有している。
だからこそ、菜々達『√EDENを守る√能力者』は逃げられない。
――此処が楽園なんだ。だからお前は、もう何処にも逃げられない。
その言葉は呪いか、或いは……ともあれ、菜々が戦う理由は一つ。
「さ、もう少し歌うっすよ」
クラスメイト達との青春だ。
「カラオケ……」
戦闘機械群の侵略に晒されている√ウォーゾーンでは、のんびり歌ってる余裕があまり無い。
そもそも大抵の娯楽を含めた文化が破壊された以上、クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)はカラオケボックスに来るのが初めてである。
「何だか、落ち着かないな……」
兵士養成学園に所属し、学園生活を程々に楽しみながら戦闘機械群との戦闘に身を投じているクラウスにとってカラオケボックスという文化は未知の領域だ。
その上、別の√という事もあってかあまり知ってる歌が無い。
故、クラウスは聞き役を選んで……ふと、カラオケボックスの飲食メニューを目にする。
「……√EDENではカラオケでこんな豪華なご飯が食べられるのか」
何となく手を伸ばし、メニューを開いたクラウスは驚いただろう……√ウォーゾーンでは考えられない程の『御馳走』が多種多様に――それ以上に、安い値段で提供される事に。
思わずクラウスはメニューに記されているラーメンを注文し、他にも色々頼んで堪能していく。
「自分の世界ではあまり食糧が豊富じゃないから、こういう時にいっぱい食べておきたい……」
√ウォーゾーンは物資が豊富ではない。
農耕等の文化も戦闘機械群の存在で難しくなっている以上、√を跳躍できる√能力者は他の√で飲食を済ませたり√ウォーゾーンに食料を持ち込んだりしている。
「まぁ、楽しむ余裕があまり無いだけで音楽も歌も好きだし……下手くそでは無いと思う」
やがて一通り食べ終えた後、マイクを渡されたクラウスは上機嫌にポップなアニソンを歌っていくのであった――