シナリオ

恋猫ティータイム🐾

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ゾディアック・ミラー

これは2章構成の期間限定シナリオです。09/23(水)16時頃までに完結したシナリオの結果により、宿敵の運命が変わります。
なお、期間中に宿敵主によって倒された場合、通常のルール通り宿敵は絶対死します。

●猫×にゃんこ×猫
 此処は猫カフェ『にゃんどれす🐾たいむ』。
 落ち着いた様相の店内には、毛色も種類も性格も様々な猫たちが暮らしている。

 まずは三毛猫の『みーくん』。
 好奇心旺盛で誰にでもすぐ近付く世話焼き猫。ふわふわな胸元の毛並みを揺らしながら、店内を堂々と歩き回っているリーダー格。
 次は艶やかな黒猫の『クロロ』。
 金色の瞳が印象的な気まぐれ屋で、人の膝に乗るよりも少し離れた場所からじっと見つめるのが好きな一匹狼な猫。
 茶トラの『チャイ』は元気いっぱい。
 撫でられるのがとっても大好きで、遊び疲れると豪快にお腹を見せて眠る子。
 真っ白なペルシャ猫の『ヒメリ』は名前の通りのお姫様。
 ふわふわの長い毛を優雅になびかせる美しさがあるが、実はおやつを見ると誰よりも素早く動く食いしん坊さん。
 ノルウェージャンフォレストキャットの『ルーナ』。
 この子は大きな体と豊かな毛並みで王子様風の品格を持つ猫。高い棚の上がお気に入りだが、たまに下りられなくなっている。
 青い瞳のシャム猫は『シエル』。
 彼は細身で気品があり、少し離れた場所から人間を観察していることが多い。
 丸い顔のスコティッシュフォールド、『もっち』。
 折れた耳と柔らかな体つきが愛らしいアイドル猫。眠そうな顔で膝の上に収まって甘えるのが得意だ。
 続いてロシアンブルーの『ソラ』。
 この子は銀灰色の毛並みが美しく、静かで人見知り。それでも心を許した相手には、そっと頭を寄せてくる。
 ラグドールの『ミルク』は大柄だけど穏やかな甘えん坊。
 抱き上げられると力を抜き、まるでぬいぐるみのように腕の中で眠ってしまう。
 そして、窓辺にいるのは白黒模様のハチワレ猫、『ハク』。
 何をするでもなく外を眺めている姿は、物思いにふける哲学者のよう。

「はあぁ~……みーんなビジュが良い!」
 魔法少女アンテロスは猫カフェのパンフレットを眺め、惚れ惚れしていた。
 猫が可愛いと感じる心の傍ら、生まれてきたのはカップリング妄想。
「リーダーのみーくんが孤高のクロロくんの心を解いて、最終的には毛並みを舐め合う仲になるとか! ルーナくんとヒメリちゃんの王子と姫で王道カップルもあり! でもでも、ハクさん×ソラくんの不器用カップルとかミルク×チャイで甘々濃厚とか……」
 想像は止まらない。
 それゆえにアンテロスは決めていた。このカフェをカップル猫でいっぱいにするために、このハートクエイク・アローで猫たちを貫いてしまおう、と――。

●選び取るのは
 男女不問、種族不問、年齢や歳の差も不問。
 双方の事前の関係性も不問であり、ビジュさえよければ問答無用。
「そんな魔法少女が猫カフェの猫をカップリングしようとしています。冗談みたいですが本当の話です。だって――」
『ゾディアック・ミラーから予知が得られたんだからな。マジだぜ!』
 星詠みの八分儀・天地(冥探偵・h00497)は、腕に抱いた黒猫人形で腹話術を行いながら、今回の事件について語っていく。
 一応の敵は魔法少女アンテロス。
 彼女の企みは、ビジュのいい二人(※今回の場合は二匹)を無理矢理にカップルにするというものだ。ハートクエイクアローを打たれれば、それまで恋愛関係になかった者同士であっても互いに過剰な好意を抱くことになる。
「当人、もとい当猫の意志を無視している点では存分に悪いのですが……」
『殺人を行うわけでも、何かを破壊するわけでもないんだよな』
「なんというか……はい。簒奪者としてアンテロスを倒すか、そうでない方向を模索するか、選択肢がある状況でもあります」
 そんなわけで今回は現場に向かった者に選択権がある。
 アンテロスに戦いを挑んで倒すのか。
 説得や会話を試みて、平和的解決を目指すのか。
『どう動くか、絶対的な正解はないからお前たちの思うようにしてみてくれ!』
「戦う場合は撃破後、アンテロスのミラーレイヤードに乗り込んで、其処に巣食う集団敵を倒すことになります。説得や会話をして成功すれば、アンテロスと一緒に猫カフェタイムを楽しむ時間を過ごせそうですね」
 天地は黒猫人形の手を取って揺らし、いってらっしゃい、と告げる。
 どちらを選び取り、どのような未来に繋げていくのか。
 その道筋は、現場に赴く者たちに委ねられている。

マスターより

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第1章 ボス戦 『魔法少女アンテロス』


宮代・トワ

●まずは一歩目を
 猫カフェ『にゃんどれす🐾たいむ』にて。
 異例のカップリング模様に悩んでいるのは、魔法少女アンテロス。
「あの……お姉さん、なにか悩み事ですか?」
 其処に声をかけたのは宮代・トワ(銀世界・h13671)だ。妄想に集中していたアンテロスはびくりと肩を跳ねさせ、はっとしつつ応える。
「えっ、悩み事というか……いや、これは重大な使命でして!」
「使命ですか?」
「そう! この子たちを素敵なカップルにしてあげるの!」
 アンテロスが掲げたのは件のハートクエイク・アローだった。トワはそれを見つめ、少しだけ困ったように眉を下げる。
「色恋なんてものは、私にはまだ理解しかねますが……本人、いえ、本猫たちの想いが大事なのは知っています」
「猫さんたちの思い?」
「お話を聞く限り、アンテロスさんが猫さんたちを好きなのは伝わってきます。ですからこそ、一つ提案があるのです」
 アンテロスが首を傾げる。
「実際の猫さんを知らずに決めるのは、少し早計ではないでしょうか」
「……実際のって?」
「物語の人物を知って、想像を膨らませるのと同じです。触れ合えば、写真や紹介文だけでは分からない性格や関係性も見えてくるはずです」
 そういってトワは店内を見渡した。
「みーくんは誰にでも近付きますし、クロロは少し離れて観察する子。チャイは元気で、もっちは甘えん坊。実際に会えば、きっと新しい組み合わせも見つかります」
「新しい……組み合わせ……! そう! そうよね!」
 アンテロスの瞳が輝いた。
「良ければ、一緒に触れあってみませんか?」
「え?」
「感想も二人なら二倍……いえ、二倍以上ですよ、きっと」
 アンテロスは暫く固まった後、ゆっくりとハートクエイク・アローを下ろした。
「それ、ちょっと面白そう」
 すると足元を三毛猫のみーくんが横切り、二人の前で振り返る。まるで「ついてこい」と言わんばかりに尻尾をぴんと立てた。
「行ってみます?」
「うん! まずはもっと猫さんたちを知ってみようかな」
 魔法少女はまだ矢を手放したわけではない。
 けれど少なくとも今は――トワの誘いによって、彼女の視線は猫に向いていた。

雪願・リューリア

●平穏の秘訣は対話から
 猫カフェに足を踏み入れれば、可愛い猫の声がした。
 雪願・リューリア(願い届けし者・h01522)は、店内を見渡しながら息を吐く。
「アンテロスか……星詠みとして存在は知ってはいたが、懲りていないのだな」
 視線の先では、魔法少女アンテロスが猫たちを前にして楽しそうにしている。おそらく本格的にくっつけるカップリングを吟味しているようだ。
 その姿に警戒を滲ませつつも、リューリアは剣を抜かなかった。
「無理やりカップル化は良くないと思うぞ」
 その足元で、飼い猫のアーシアもまた懸命に鳴き声を上げている。猫たちの危機を前に黙ってはいられないらしい。
「アーシア、お前も何か伝えたいのか? ならば、ここは彼女を呼ぶとしよう」
 呼び出されたのは、同じピンク髪のツインテールを持つアイドル竜。華やかな姿で現れた彼女は、アーシアの鳴き声を聞くなり暫く耳を傾ける。
「……なるほど。『特定の二匹だけをくっつけるなんて生ぬるい。自分なら、この猫カフェにいる全員を愛してみせる』ということか」
 何となく予想はしていたが、やはり暴君のようだ。
 翻訳された内容にリューリアは思わず苦笑する。一方、その話が耳に入っていたらしいアンテロスは目を輝かせていた。
「全員を愛する!? なにそれ、最高!」
「いや、そこでは意気投合しなくていいのだが……」
 リューリアは額を押さえながら、それでも一歩踏み込む。
 こちらに意識を向けてくれているのならば好都合だ。
「アンテロス。愛し方は一つではない。恋人同士にすることだけが、猫たちを大切にすることではないだろう?」
「むむ……」
 アンテロスが考え込む。すぐに反論が返ってくると思っていたリューリアにとって、それは意外な反応だった。
「じゃあ、友達とか、家族みたいな愛もありってこと?」
「ああ。それぞれが望む形ならばな」
 アンテロスは猫たちへ視線を移し、少しだけ頬を緩めた。
「そういう愛も、アリかぁ」
 彼女はまだハートクエイク・アローの力を手放す気配はない。それでも、確かな手応えはあった。リューリアは静かに微笑み、対話を続ける姿勢を取った。
「ならば、もう少し話をしようではないか」
 そして――猫とその平穏のための会話がもう暫し続いてゆく。

不忍・ちるは

●想像と妄想と
 猫カフェの一角で、アンテロスはハートクエイク・アローを構えていた。
 その視線の先には三毛猫のみーくんと黒猫のクロロがいる。二匹の間に漂う距離感さえ、彼女にとっては物語の始まりに見えているらしい。
「そこまでです、アンテロスさん」
 駆け寄った不忍・ちるは(ちるあうと・h01839)は、射線を遮るように間に立った。
「なに?」
「猫ちゃん、お好きなんですよね?」
「もちろん! だって、みんな可愛いもの!」
 アンテロスは即答した。敵意というよりは寧ろ仲間を見つけたような顔である。
「ビジュが良いのも分かります。カップリング妄想もよきことだと思います。みんな可愛くて捗りますよね」
「そう! 分かってくれる?」
「はい。ですが……でもですね、アンテロスさん」
 続けて、ちるはは少しだけ困ったように笑った。
「妄想が捗るのは、あくまで可能性が垣間見えるからこそではないでしょうか。今ここで確定してしまうのは、ちょっと早計では?」
「むむー?」
 するとアンテロスの指が矢をつがえたまま止まる。
「なんなら私×もっちの運命の出会い……そんな、私にはマツリちゃんがいますので!? ……なんてドラマもできますね」
 ちるはが笑うと、アンテロスも思わず吹き出した。
「ふふっ、なにそれ!」
「いえ、冗談ですが!」
「でも……確かに。妄想って楽しいものね」
「そうなんです。だからこそ、もう少しみなさんのことを眺めませんか?」
 ちるはは店内へ視線を向ける。
 みーくんはクロロへ近付こうとして、一歩手前で止まっている。ルーナは高い棚の上から店内を見下ろし、ヒメリはその視線の先のおやつに釘付けだ。チャイは尻尾を揺らしながら、ミルクへ遊びに誘うようにじゃれている。
「ほら。まだ、何が起きるか分かりませんよ」
「…………」
 アンテロスは矢を下ろした。
「どうですか?」
「もうちょっとだけ見てみるのもアリ、かぁ」
 その声には、先ほどまでの勢いとは違う柔らかさがあった。
「ねこ好きシンパシーで、和解できるといいですね」
 ちるはがそう告げると、アンテロスは小さく笑う。
「うん。……それなら、もう少しだけ付き合ってあげる」
 まだ完全に解決はしていない。
 けれども、その手にあるハートクエイク・アローは確かに下ろされていた。

小弓・佐倉

●じゃれあう愛しさ
 猫カフェ『にゃんどれす🐾たいむ』。
 その一角では魔法少女アンテロスがパンフレットを胸に抱き、猫を眺めていた。
「猫さん、みんなかわいーい!」
「……おねーさん、猫ちゃんたちに、何しようとしてるの?」
 其処に小弓・佐倉(夜黒の椿・h08163)が声をかける。
「え? もちろん、素敵なカップルを――」
 アンテロスが楽しげに語りかけた、そのときだった。
 店内の床を鬼火猫たちが一斉に駆け抜ける。
 まずは一匹が別の猫へ飛びかかり、じゃれあいが始まった。更に別の一匹が混ざり、気付けば九匹がもみくちゃになっている。追いかけて転がり、ちょっかいを出し、時にはシャッという声と共にちいさな喧嘩まで起こる。
 けれど次の瞬間には、何事もなかったように隣りあって毛繕いをしていた。
「ほら……わたしの猫ちゃんたち、見て?」
「君の?」
 小弓はその光景を指差す。
「九匹がもみくちゃ。こんなにかわいい。ちょっかい出し合って、時々喧嘩して、色んな子と遊ぶから……色んな、とうとい表情が見れるの」
 アンテロスは目を瞬かせたが、カップリングもまた良いと主張する。
「だけど二匹でじゃれて愛しあってるのも、すっごく可愛いよ?」
「でも、猫カフェって、猫ちゃんたちがいっぱいだから、いいとこだと思う。だから……組み合わせ、決めちゃうと……猫ちゃん団子、見れないよ?」
「猫ちゃん団子!」
 アンテロスの脳裏に、店内の猫たちが一匹ずつではなく、何匹も重なって眠る光景が浮かんだ。みーくんとクロロの間をチャイが横切り、ヒメリがもっちのおやつを狙い、ルーナが高みから見下ろしている。そんな予測不能な猫たちの関係。
「可能性を、固定しちゃうの……きっともったいない、よ?」
「……可能性かぁ」
 アンテロスはパンフレットに視線を落とした。
 其処には、十匹の猫たちの可愛らしい姿が並んでいる。
「確かに全部の子がいろんな子と遊んでるところも……見たいかも」
 やがて彼女は困ったように頬へ指を当てた。
 その言葉を聞いた小弓はほんの少しだけ口元を緩める。きっとアンテロスとは戦わずに済む。そんな予感が――否、確信がした。

ラデュレ・ディア
ラナ・ラングドシャ

●安寧は日常の中に
 穏やかな店内では猫たちが思い思いの時間を過ごしている。
「ネコカフェ、たくさんの猫さんがいるのですね」
 ラデュレ・ディア(迷走Fable・h07529)は双眸を淡く細めながら辺りを見渡す。
 三毛猫のみーくんが堂々と歩き、茶トラのチャイが玩具へ飛びつく。その一方で窓辺にいるハクが静かに外を眺めていた。
 どの猫も自由で愛らしい子ばかり。
「ほんと、可愛い猫ちゃんたちいっぱいだ~!」
 ラナ・ラングドシャ(|猫舌甘味《𝚕𝚊𝚗𝚐𝚞𝚎 𝚍𝚎 𝚌𝚑𝚊𝚝》・h02157)も瞳をきらきらと輝かせる。頬を緩ませながら猫たちを眺める二人はちいさく拳を握った。
「ですから、そのような場所に混沌を持ち込ませはしません……!」
「うん! 猫ちゃんに必要不可欠な自由とあんねい? を守ろう!」
「必ずお守りしましょう、ラナ。わたくしも頑張ります……!」
 気合いを入れる二人の視線の先。
 店の中央には、魔法少女アンテロスがいた。
 彼女の手には翼を思わせる意匠を持つ弓。そして、その矢先には淡い光を纏うハートクエイク・アローがあった。
「そこまで言うなら、邪魔しに来たってことだよね?」
 二人の声を聞いていたアンテロスは残念そうに眉を下げた。ラナとラデュレを睨みつけた魔法少女は猫たちを指さす。
「だって、この子たち! みーくんとクロロくんとか、絶対に良いと思わない? ルーナくんとヒメリちゃんだって、もう王子様とお姫様じゃん!」
「とても可愛い猫さんたちに夢中なのですね」
 ラデュレは警戒を解かぬまま、それでも柔らかな声音で応じる。
 そして、アンテロスを真っ直ぐに見つめた。
「にゃは! ねぇねぇ、おねーさんも猫ちゃん好きなの?」
 続けてラナが前へ出る。
「もちろん好き!」
「ボクもだーいすき! 可愛いよねぇ~!」
「だからこそ、可愛い子同士をもっと仲良くさせてあげたいの!」
「それはそうですが、無理矢理に関係性を与えてしまうよりも、自由な猫さんたちの可愛らしさを愛でるのは如何でしょう」
「そうそう! ラーレの言う通り!」
 ラデュレの言葉を肯定したラナは楽しそうに指を振った。
「もちろん関係性があるラブラブな猫ちゃんたちも可愛いんだけどさ! やっぱりこの子たちの一番の特徴って、ひとりで自由気ままなところだと思うんだよね♪」
「――!」
 その言葉を聞いたアンテロスが一瞬だけ黙った。
 その間に、みーくんがアンテロスの足元に歩み寄る。しかし彼は彼女を一瞥すると、そのまま別の場所へ向かった。
 少し離れた場所ではクロロが金色の瞳でその様子を眺めている。
 ほら、とラナが嬉しげに笑う。
「この子はこの子で、好きなところに行ってる! だから一旦その矢は置いといて~~、まずは一匹ずつじっくり自由に過ごす姿を観察してみるのはどうかな!」
「ラナの仰る通り、ですね」
「その子が好きな遊び、好きな場所、よく遊ぶお友達……それを知ることができたら、もっと幸せな気持ちになれると思うよ~♪」
「一匹一匹の個性をのんびりと見ること。それが充実したひと時になると思うのです」
 ラデュレも静かに頷いた。
 そして、もうひとつの思いを言葉にしてゆく。
「それに猫さんたちを愛でる人々の中には、恋人や掛け替えのないご関係性があるはず……。ご一緒に安らぎのひと時を共にするのですから。ですので、その矢はお控えくださいませ……!」
 アンテロスは弓を構えたまま、困ったように二人を見つめた。
 やがて彼女は、手元の矢へ視線を落とす。
「でも……それで本当に楽しいの?」
「楽しいよ!」
 対するラナは即答した。
「だって、あの子が何をするのか、どこで寝るのか誰と遊ぶのか。知らないこといっぱいあるんだもん!」
「ええ。それを知ることも、猫さんを愛するということではないでしょうか」
「……そっか」
 ラナとラデュレの言葉に偽りはない。
 そのことを感じ取ったらしいアンテロスの表情が少しだけ和らいだ。
 彼女はまだ弓を下ろしてはいない。ハートクエイク・アローも手の中にある。けれど――先ほどまでの勢いや敵対心は確実に薄れていた。
「じゃあ、ちょっとだけ見てみようかな」
「ほんと!? やったぁ! じゃあ、まずは誰から観察する?」
「まあ……!」
 ラナがぱっと顔を輝かせ、ラデュレも安堵の吐息を零した。
 そのとき、棚の上にいたルーナがちいさく「みゃうみゃい」と鳴いた。
「あ! ルーナくん、あんな高いところにいる」
「おりられなくなってる?」
「大変です、お助けしましょう……!」
 アンテロスが顔を上げ、ラナとラデュレも倣う。皆の視線が、同時に大きな猫へ向けられている。そのときの三人の心はひとつになっていた。
 未だすべてが解決したわけではない。
 それでもアンテロスが猫を見る目には、先程までとは違うものが宿りはじめていた。

夢野・きらら

●過程あっての結果
 堂々と店内を歩く三毛猫のみーくん。
 少し離れた場所では黒猫のクロロが金色の瞳を細めている。
 確かに並んでいるだけでも絵になる二匹だ。だからこそアンテロスが目を輝かせている理由も、夢野・きらら(獣妖「紙魚」の|古代語魔術師《ブラックウィザード》・h00004)にはわからなくもなかった。
「みーくんとクロロくんをくっつけたい、っていう気持ちは分かるよ」
 けれど――。
 きららは、ハートクエイクアローを手にしたアンテロスに視線を向ける。
「その方法だと、大事なものを見落としているんじゃないかな」
「大事なもの?」
 するとアンテロスが首を傾げた。
 彼女はビジュアルの良い二匹をくっつければ最高で完璧だと思い込んでいるようだ。
「うん。たとえば、みーくんとクロロくんの『過程』さ」
「……?」
 きららは二匹を指差してみる。
「見たところ、ハートクエイクアローは細かな調整が利かないんだろう?」
「調整なんてなくてもラブはラブだもの!」
「そうか。それなら、猫同士を強引にくっつけた瞬間に、そこへ至るまでの時間が全部なくなってしまうね」
「で、でも! カップルになった二匹が仲良くしてるところもすごく可愛いよ!」
「そうだね」
 きららは決してアンテロスの意向を否定しない。
 だが、そうではない道もあるのだということをゆっくりと語っていく。
「だけど、みーくんが世話焼きながら少しずつクロロくんの傍へ近付いて、クロロくんが最初は逃げるのに、ある日ほんの少しだけ距離を縮める。そういう瞬間こそ、一度しか起こらないんじゃないかな」
「なる、ほど……?」
 アンテロスが複雑そうな顔をする中、きららは穏やかに続ける。
「きみは『結果』だけ見て満足してしまうのかい? それとも、気まぐれ屋がどうやって心を許していくのか、その機微まで味わいたくはない?」
「……機微、かぁ」
 アンテロスはぽつりと呟く。
 そのとき、みーくんがクロロの前を横切った。クロロは逃げずに金色の瞳でその姿を追う。やがてみーくんが振り返ると、クロロはほんの少しだけ尻尾を揺らした。
「あれも過程?」
「そういうこと。よくわかったね。だから、関係性の変化を味わうためにここに通って、見守るのもいいと思うんだ」
 きららの言葉を聞いたアンテロスはアローを下ろし、猫たちを眺めた。
「すぐくっつけるより、見守ったほうが面白い……のかな」
 まだ迷いはあるようだ。けれども、瞳には今までとは違う色が生まれている。
 きららはそれを見て、期待を込めた微笑みを浮かべた。

セレネ・デルフィ
鴛海・ラズリ

●素敵な関係
 猫カフェ『にゃんどれす🐾たいむ』。
 穏やかな空気に満ちた店内には危機が迫っていた。猫たちの関係性に目をつけた魔法少女アンテロスはパンフレットを眺めている。
「ふふ。やっぱり、この子とこの子……!」
 その様子は実に楽しそうだが、行われようとしているのは無理やりなカップリング。
 セレネ・デルフィ(泡沫の空・h03434)と鴛海・ラズリ(✤lapis lazuli✤・h00299)はアンテロスの行為を止めさせるため、猫カフェに訪れた。
「参りましょう、ラズリ」
「うん、セレネ! 個性派揃いの可愛い猫ちゃんが集合しても、強制カップルなんてだめー! なのよ……!」
 その声を聞いたアンテロスが驚いたように目を丸くする。その手には既にハートクエイク・アローが握られていた。
「ちょっと言い方が酷くない? 私はただ、素敵な猫ちゃん同士を結びつけて――」
「にゃんこ達の意思を無視してカップルにするなんて……させられませんね」
「結びつけるのも無理やりはいけないの」
 二人は揃って頷く。
「そもそも、カップリングに拘る必要はないと思うのです」
 続けてセレネが店内を見渡した。
 その視線の先では三毛猫のみーくんが黒猫のクロロへ近寄っている。クロロは少しだけ身を引くものの、みーくんが何度も様子を見に来ることを拒みはしない。
 やがてクロロがちいさく喉を鳴らした。
「あれをご覧ください。猫たちの友情……鼻ちゅーでのご挨拶はどう見ても愛らしく。ブロマンスがあるならロマンシスだって……!」
「そう、これが! ブロマンス……!」
 ラズリも嬉々として指を差す。
「一匹狼猫なクロロを、皆を取り纏めるみーくんが心配そうに見つめながら、時折構いに行ってるの。きっと周りと馴染ませようとしてるんだよ。兄貴分のようなみーくんにだけ心を開いたような、あの甘い鳴き声がね……素敵な関係性だよね……!」
「ええ。恋仲でなくとも、二匹の間にあるものは、とても尊いものです」
「で、でも……! ヒメリちゃんとルーナくんの王子と姫も……捨てがたいんだもん!」
 二人の捲し立てるような勢いに対し、アンテロスは反論しかけた。
「それも否定はしません」
 するとセレネは微笑んだ。
 関係性を妄想していくのは悪いことではない。それゆえに否定はしない。
「ですが、例えばヒメリちゃんともっちちゃん。愛らしい二匹が互いに競い、認め、高めあう関係だってよいと思うのです」
 その言葉を裏付けるように、ヒメリともっちが並んでおやつの皿を見つめる。次の瞬間、二匹はほとんど同時に駆け出した。
「あっ」
「ふふ!」
 見事な競争の末、二匹は顔を見合わせる。
 そして――鼻先をちょこんとあわせた。
「ほら。これも素敵でしょう?」
「……た、確かに」
 アンテロスの声から少しだけ勢いが失われた。
 ラズリは其処を逃さない。
「そうだよね、ペアだけなんて勿体無いもの!」
 彼女が両手を広げて力説していく。
「これから寒くなってきたとき、私たちは思い知るのです。猫団子の良さを……!」
 するとチャイが大きく伸びをして、その隣へミルクがのっそりと移動する。更にもっちがその二匹の間へ潜り込んだ。
「ほらほら! 猫ちゃんたちはぎゅうっと集まって、猫団子したり落ちてたり……! そこに私たちは飛び込んで猫吸いをするのです。なんて完璧な流れ!」
「猫吸い……それは罪深き人間の特権……!」
 いつしかセレネの瞳も輝いている。
 気付けばソラまで近くに座っていた。窓辺のハクも少し離れたところからその様子を眺めているようだ。その光景はやはり和やかだ。
「そうは思いませんか、アンテロスさん……!」
「えっ、私に振るの!? それは……猫吸いは、したいけど……」
 アンテロスは困惑したように二人を見る。
「したいんですね?」
「……したい」
 返ってきたのはちいさな声だったが、セレネとラズリが顔を見合わせる。
「それならば!」
「一緒に猫カフェを楽しみましょう!」
「でも、私は――」
 アンテロスはハートクエイク・アローへ目を落とした。
 続けて彼女は矢を握りしめる。
「猫ちゃんたちをもっと素敵な関係にしてあげたいの! せっかく可愛いんだから、最高の組み合わせにしてあげたい!」
「その『最高』を決めるのは、アンテロスさんではありませんよ」
「みーくんとクロロのように名前のつかない関係もある。ヒメリちゃんともっちちゃんのように、競い合う仲もある。そして、たくさんの猫が集まる猫団子もあるの」
 対するセレネとラズリの言葉は穏やかだった。
「どれが一番なんて、決めなくてもいいんです」
「可愛い猫ちゃんたちが、それぞれ好きなように過ごしてる。その姿を眺めてるだけでも、こんなに素敵なんです!」
 二人の言葉を聞いたアンテロスは黙り込んだ。
 やがて、彼女の手にあるハートクエイク・アローが少しだけ下がった。
 視線の先では、ミルクがチャイの背中に顎を乗せている。もっちは丸くなり、その脇ではヒメリが毛並みを整えていた。
「ちょっとだけ、このまま見てみたいかも」
「では決まりですね!」
「やったの……!」
 二人が歓声をあげる。
 けれどアンテロスは、まだ完全に矢を手放してはいない。
 それでも――その指先から、先ほどまでの強い力は抜けていた。
 猫たちの穏やかな寝息や元気な鳴き声が響く店内。三人の間には、ほんの少しだけ柔らかな空気が流れはじめていた。

篭宮・咲或
アドニス・ガルダ・インファリリ

●自然な成り行きで
 魔法少女アンテロス。
 彼女は今、猫と猫をカップリングして無理にくっつけようとしている。その目的を知った篭宮・咲或(Butterfly effect・h09298)は思わず眉を上げた。
「猫を強引にカップル化とはねぇ」
「猫と猫を……カップリング?」
 アドニス・ガルダ・インファリリ(プシュケの花檻・h12904)も改めて確認するように呟いた。けれど一般人に被害が出ないだけまだマシなのかもしれない。
 そう思いながらも、咲或たちは呆れたようにアンテロスを眺める。
「それをおいても……う~~ん、いい趣味してるわ」
「そういう癖もあるのか、成程ね」
「うふふ、ふふ。みーくんとクロロ……いいえ、ソラとかも――」
 どうやらカップリング妄想は本気らしい。
 パンフレットを片手に、これから始まる猫たちの恋模様を想像しているのか、アンテロスは実に楽しそうな顔をしている。
 ならば被害と労力は少ないに越したことはない。
 それにせっかくこんなに居心地の良さそうな猫カフェまで来たのだ。できることなら戦闘などせず、猫を愛でる時間を確保したい。
「アンテロス?」
 まずは咲或が声をかけると、彼女が振り向いた。
「ん? あなたたちは……」
「ちょっとお話ししない?」
 戦うためではない。
 その意思を示すように咲或は柔らかな笑みを浮かべた。
 隣ではアドニスも穏やかな表情をしている。
「私を止めるつもり? 純粋に猫ちゃんたちの幸せを願ってるだけなのに!」
「幸せ、か」
 アンテロスが抗議しようとしているが、アドニスの声音には責める色がない。
 ただ静かに問いかけてゆく。
「猫の恋は、猫心に任せておくのが一番ではないかな」
「でも! あんなにビジュアルのいい子たちが揃ってるんだよ? だったら素敵な組み合わせを作りたくなるじゃん!」
「無理矢理より、自然な流れで愛や恋が生じた方が途中でハプニングやすれ違いも起きたりして楽しいのではないか」
「それは……」
 アンテロスが黙る中、アドニスは続けた。
「もどかしいからこそ、その先に何が待っているのかを楽しめる」
「……う」
「君のそれはむしろ政略結婚に近い気がする」
「政略結婚!?」
「それで猫は幸せなのか? その愛は本物なのか――」
 アドニスの声は変わらず穏やかで落ち着いている。
 決して大声を出しているわけでもないのに、妙に耳を傾けたくなる言葉だった。だが、内心では愛なんて自分が一番信じていない。アドニスはそのことを隠しながらアンテロスの説得をしていった。
 そのやりとりを聞いていた咲或は感心する。
「流石は教皇猊下。聖職者なだけあって説得力があるというか」
「本当? 咲或に褒められると嬉しいな」
 穏やかに諭しているだけなのに、自然とそうだと思わせるオーラがある。ぱちぱちと軽い拍手を送りながら、咲或も追撃として口をひらいた。
「それにさぁ、人の恋路を邪魔する馬に蹴られて、なんとやらっていうじゃん」
「猫に噛まれて死んでしまえ、だっけ?」
「馬? 猫にも!?」
「猫に噛まれて、まさしくお怒りの猫からの天罰ってのもありそうじゃない?」
「猫に……噛まれる……」
 それを聞いたアンテロスの顔が引きつる。
「今回は猫だったけど、人でも猫でも大して変わんないと思わない?」
「いや、猫に怒られるのはちょっと怖いけど」
 アンテロスの反応を見た咲或はくすりと笑った。
「それに、見守るってのも結構美味しいポジションよ」
「見守るポジション?」
「まずは自分でくっつけるんじゃなくて、あの二匹はもしかしていい感じじゃないかって遠くから眺める。焦れったくなったり思わぬ組み合わせになったり。そういうのを楽しむのも結構いいものだよ」
 咲或の話を聞いたアンテロスはちらりと店内を眺める。
 三毛猫のみーくんが堂々と歩き、高い棚にはルーナがいて、窓辺にはハクとソラがいる様子が見えた。皆それぞれが好き勝手に過ごしている。
 誰かに決められたわけでも、矢を射られたわけでもなく――ただ、それぞれの猫らしい時間を過ごしていた。
「でも、私がくっつけた方が早いよ?」
「早さが重要なのか? 本当の恋なら、待つ時間さえ楽しめるはず」
「…………」
「猫心を弄ぶのはやめなさい。もどかしくとも成り行きを見守る事もまた愉しいよ」
 アドニスが微笑むと、アンテロスは考え込んだ。
 やがて少しだけ肩の力を抜く。
「そっか。見守る、かぁ」
 その声には、先ほどまでの勢いが僅かに薄れていた。
「そうそう。もどかしくとも、成り行きを見守る。それもまた愉しいよ」
「ちょっとだけ、分かるかも」
 咲或が頷けば、アンテロスは顔をあげる。
 そうして、彼女はパンフレットに視線を落とした。其処には猫の写真が並んでいる。咲或は迷っている様子のアンテロスに声をかけた。
「どうする?」
「じゃあ……今は、とりあえず矢は使わないでおこうかな」
 まだ完全に諦めたわけではないのだろう。咲或にもアドニスにもそれはわかった。
 けれども今のアンテロスはハートクエイク・アローを構えてはいない。それだけでも十分な一歩だったと言えるだろう。
「それじゃあ一緒に眺めよっか」
「共に行こう」
 咲或とアドニスが猫カフェの店内を示す。
 アンテロスは少し迷ってから、こくりと頷いた。
「うん! 猫ちゃんたちを普通に見てみたい」
 すると柔らかな鈴の音が鳴り、猫たちの視線が三人に集まった。穏やかな視線、好奇心でいっぱいの瞳、遊んでほしそうな顔。
 果たしてこのまま平和な猫カフェタイムとなるのか。
 それともアンテロスのカップリング魂が再び燃えあがるのか。
 少なくとも今は――その答えを、猫たち自身に委ねる時間がはじまった。

ゾーイ・コールドムーン

●本当に望むこと
 猫カフェ『にゃんどれす🐾たいむ』内。
 ゾーイ・コールドムーン(黄金の災厄・h01339)はアンテロスを見つめていた。
 正直なところ、ゾーイはカップリングという概念を完全に理解しているわけではない。二匹の猫を見て恋愛関係を想像して楽しむもの。おそらくアンテロスが好んでいるのはそういうものなのだろう。
 しかし、其処から先。
 当猫たちの意思を無視して関係を実際に作ってしまうとなれば話は別だ。
「人生……いや、今回は猫生を捻じ曲げるような行為だ。褒められたものではない」
 とはいえ命が失われる類の事件でもない。
 ならばこそ、無理に戦いを挑んで決着をつけるよりも穏便に事を収められるなら、その方がずっと良いはずだ。
「……よし」
 ゾーイはゆっくりと息を吐いた。
 そして説得のため√能力で自らを強化する。
 必要なのは趣味への理解か、口先の器用さか、或いは言葉そのものの魅力。強化された思考を巡らせ、ゾーイはアンテロスへと向き直った。
「きみが素敵な恋愛を見たいと思う気持ち自体は、悪くないんじゃないかな」
「でしょ?」
 アンテロスの表情がぱっと明るくなる。
「うん、それ自体はいいことだ」
「ねー! 猫ちゃんたち、みんな可愛いし! だったら可愛い子同士が一緒になったら、もっと素敵じゃない?」
「その気持ちは分かるよ」
 まずは肯定する。
 そのうえでゾーイは静かに言葉を続けた。
「けれど、まず常識的な話をすると……無理やり心を変えるのは良くない事だ」
「……?」
「植え付けられた感情で成立するつがいを自然な姿だとは言えない」
 理路整然と伝えられたことでアンテロスが少しだけ目を伏せる。
 だが、ゾーイは追い立てるようには話さなかった。
「猫は特に自由気儘に振る舞う様が可愛らしくて、美しい生き物だろう?」
 それから視線は猫に向かう。
 三毛猫のみーくんは我が物顔で歩き回り、黒猫のクロロは少し離れた場所から周囲を眺めている。茶トラのチャイは遊び相手を探すように尻尾を揺らし、窓辺のハクは今日も外を見つめていた。
「その魅力を損なうのは、きみも望む所ではないんじゃないのかい」
「猫ちゃんが自由なのが可愛い、ってこと?」
「そういうことだね」
 ゾーイは優しく頷き、言葉を続けていく。
「それに何となく互いに興味を持つ過程だったり、友達特有の距離感だったり。つがいでないからこそ見られるものもあると思うよ」
「友達……たしかに友達同士で一緒にいる猫ちゃんも可愛いよね」
 アンテロスは店の中を見つめながら呟いた。
「そうだろう?」
「でも、そこから恋になるかもしれないんだよね?」
「もちろん。だからこそ、待つ意味があるんじゃないかな」
 ゾーイは微笑み、暫しの沈黙が流れる。
 やがてアンテロスは、手にしていたハートクエイク・アローへ目を落とした。
「つまり、今日はまだ撃たなくてもいいってこと?」
「それが一番だと思うよ」
 ゾーイが即答すると、アンテロスは少しだけ笑った。
「じゃあ、まずは普通に猫ちゃんたちを見てみようかな」
 完全に考えを改めたわけではない。
 それでも、矢を放つという選択を脇へ置いてくれた。それだけで十分だ。
「それじゃあ、猫たちがどんな関係を築いていくのか一緒に見守ってみようか」
「……うん!」
 ゾーイに向けられたアンテロスの返事。
 それは先程よりもずっと素直であり、軽やかな声色になっていた。

藍染・蓼

●妄想はそのままで
 此度の相手は魔法少女アンテロス。
 相手の特性や使用できる力を思いながら、藍染・蓼(無彩色と有彩色の顔・h08168)は考えを巡らせていた。
「あぁ、顧客の若い奴にもいたな」
 蓼は顎に手を当て、猫カフェのパンフレットに視線を落とす。
 接客業をしていれば、それこそ色んな客を目にする。推しと推しを並べて、勝手に物語を想像する者だってめずらしくはない。
 だから、眼前の魔法少女が何をしようとしているのかも理解できなくはなかった。
「推し同士とかでカップリングするやつだろ? まぁ、猫同士でカップリングする奴はそいつが初めてだけどな」
 蓼は鋭い牙を見せて苦笑する。
 問題であるのは、その妄想を現実にしようとしていることだ。
「……猫の奴らも大変だな」
 ちいさく呟いた蓼は魔法少女の気配を追った。
 やがて辿り着いた先。そこには、件の魔法少女――アンテロスがいた。
「あれ、あなたは?」
「おっと」
 どうやら向こうもこちらに気付いたらしい。警戒こそ見せたものの、すぐに攻撃してくるような様子はない。寧ろ挨拶までしてくるくらいだ。
「こんにちは! もしかして……私を止めにきたの?」
「ああ。……まぁ、話し合いで済むなら、それに越したことはねぇと思ってる」
「話し合い?」
 戦うかもしれない可能性を考えていたのか、アンテロスが首を傾げる。
 対する蓼は肩を竦めた。
「くっつけたい奴らをくっつけようとすんのは、まぁ一応は何も言わねぇ。しかしな、本猫の意思も考慮してやれよ」
「でも、絶対にお似合いの子たちがいるんだよ! みーくんとクロロくんとか、ルーナくんとヒメリちゃんとか!」
「どの道、全員ビジュ良いんだろ?」
「もちろん!」
「だったら、せめてくっつきたい奴らをくっつけさせてやるとかでいいんじゃねぇか」
「だけど、そうしたら私の考えた最高のカップリングにならないかもしれないよ?」
「そりゃそうだろ」
 蓼はアンテロスにあっさりした返答を返す。
 ごく自然で当たり前だというような口調だったため、アンテロスはたじろいだ。
「え?」
「だからって、本人……本猫の意思まで無視していい理由にはならねぇだろ」
「むむ……」
 その言葉にアンテロスが僅かに黙った。
 蓼自身、不本意な社交会や見合いを経験してきた身だ。家柄を理由に本人の意思とは関係なく話が進んでいく。あの息苦しさはよく覚えている。
「自分で選べねぇってのは、案外しんどいもんだぜ」
「しんどいの……?」
 アンテロスの表情からほんの少しだけ笑みが消えた。
 蓼が語る内容が経験談であるような雰囲気を感じ取ったらしい。
「アンテロスが猫たちを好きなのは分かる。だったら、好きだからこそ、選ばせてやってもいいんじゃねぇか?」
「…………」
 長い沈黙が続いた。
 やがてアンテロスは、手にしていたパンフレットを胸元に抱き寄せた。
「猫ちゃんたち自身が選ぶところ、かぁ」
「ああ。一回くらい店で触れ合ってみてからでも良いんじゃね?」
「それで……私のカップリング案が全滅したら?」
「そのときはそのときだろ。話ぐらいはオレでも良ければ聞いてやるよ」
 蓼は牙を覗かせ、からりと笑った。
 アンテロスはしばらく蓼を見つめていた。そして――僅かに頬を緩める。
「……うん。あなたの話も、もう少し聞いてみてもいいかも」
 彼女がハートクエイク・アローを手放す気配はまだない。けれど、先ほどまでの頑なな様子が崩れてきているのも事実。
 蓼はその変化を見逃さず、店内を示す。
「じゃあ、まずは猫たちに会いに行くところからだな」
「その前に、私の推しカップリングについて聞いてくれる?」
「そこからかよ」
 呆れた声を返しながらも、蓼は楽しげに笑っていた。

アン・ロワ
リシェル・チェルケス

●あいのかたち
 猫カフェ『にゃんどれす🐾たいむ』。
 その店の中では、ひとりの魔法少女が意気揚々と気合いを入れていた。
「待ってて、可愛い猫さんたち! 最高のカップルを誕生させてあげるんだから!」
 その手には淡い桃色の光を宿した一本の弓。
 ハートクエイク・アローだ。この矢が放たれれば、これまで恋愛などしたことのない二人、否、二匹でさえ互いに強烈な好意を抱くことになる。アンテロスにとって、それは猫たちを幸せにするためのとっておきの贈り物なのだろう。
 しかし、だからこそ止めなくてはならない。
「「まちなさ~~い!」」
「!?」
 突然、アンテロスの進路を塞ぐようにして両腕を広げた二人の少女が現れた。
 その正体はアン・ロワ(彩羽・h00005)とリシェル・チェルケス(|白銀《しろがね》の魔女・h13518)だ。
 二人は揃って猫カフェの奥に続く道を塞ぎ、アンテロスを真正面から見つめている。
「そこを通してくれないかしら?」
「だめよ!」
 アンはきっぱりと言い切る。
 きょとんとするアンテロスに向け、
「あなたも『あい』に満ちた存在にはちがいないわ。だけど、そのちからの使い方を間違えたらいけないとおもうの」
 その言葉を聞いたアンテロスの表情が僅かに曇った。
「私の愛が、間違ってるっていうの?」
「そうは言ってないわ」
 対するアンは首を横に振る。
「ねこさんは自由できまぐれな子たちよ。それがかわいいの! ひとの都合で勝手に結びつけたらかわいそうだわ」
 続けてリシェルも一歩前へ出る。
「そうです、猫さんはお空の雲のように自由な心の持ち主。誰かの想いで心を縛るなんて、よくないことだわ」
「……でも! 私は猫ちゃんたちに幸せになってほしいの! 可愛い子と可愛い子が一緒にいたらもっと可愛いでしょ? お互いに好きになれたら、きっと幸せよ!」
 リシェルに反抗するようにアンテロスが声をあげた。
「それは……」
 アンテロスの言葉に、アンは一瞬だけ言葉を止めた。
 その気持ちそのものは嘘ではない。猫が好きで、可愛い子たちに幸せになってほしい。アンテロスはそのために自分の力を使おうとしている。
「あなたが猫ちゃんたちを幸せにしたい気持ちがあることは、あたしにもわかるわ」
 だからこそ、否定するだけではいけない。
 アンは柔らかく微笑んだ。
 そして、ゆっくりと魔法少女の弓を見る。同時にリシェルが穏やかな声で続けた。
「猫さんたちを幸せにしたい気持ちが本物なの、わたしにもわかります」
 二人とも責める声音ではない。
 だが、身勝手なカップリングは何も生まないはず。
「でもね。動物たちも、ひとのこころも思い通りにならないものなの」
「この子たちにもそれぞれの気持ちがあるんです」
「だから、あたしたちは悩んだりすることもあるけれど――あるがままでいること、そこから生まれた絆のほうがずっとずっと尊いものよ!」
 リシェルは強く語り、アンは胸元に手を添えた。
 するとアンテロスがぽつりと呟く。
「……あるがまま」
「それに、もともとなかよしな子たちがいたら……あなたの都合でその子たちを引き離すことになっちゃうかもしれないわ」
「…………」
「それって、ほんとうの『あい』のかたちなのかしら?」
「本当に『あい』が大切なら、そうして育まれる絆を、想い合うふたりのありのままの気持ちを大切にしなきゃって思うの」
 アンとリシェルが続けた言葉にアンテロスは答えられなかった。
 その隙を突くように、リシェルが更なる思いを伝えていく。
「だからこそ、その『あい』を、あなたの思う形にするために使ってほしくないの」
「……私の思う形に?」
 きょとんとしたアンテロスに向け、リシェルは頷く。
「えぇ、近づいたり離れたりしながら、お互いの絆を見つけていくはず。ほんとうに『あい』が大切なら、そうして育まれる絆を、想い合うふたりのありのままの気持ちを大切にしなきゃって思うの」
「でも……そうしたら、誰もカップルにならないかもしれないじゃない」
 それでもいいの? と、アンテロスは困ったように言った。
 その問いかけに対してアンが即答する。
「もちろん。だって、カップルになることだけが幸せじゃないもの!」
「……!」
「一緒に遊ぶのが好きな子もいる。少し離れたところから見ていたい子もいる。ひとりでのんびりするのが好きな子だっているわ」
 その言葉を聞きながら、アンテロスは猫カフェのパンフレットを握りしめた。
 そこには十匹の猫たちの写真が並んでいる。
 三毛猫のみーくんに黒猫のクロロ。
 茶トラのチャイと白いペルシャ猫のヒメリ、王様な雰囲気のルーナ。
 シャム猫のシエルとスコティッシュフォールドのもっち。ロシアンブルーのソラ、ラグドールのミルク。そして、窓辺のハク。
 みんな可愛い。
 だからこそアンテロスは思ったのだ。
 この子たちには、誰と誰が似合うのだろう、と。
「……でも、私は」
 彼女は自分の弓を見つめた。
「ねぇ、アンテロス。誰かを幸せにしたいという気持ちはとても素敵よ?」
 リシェルは不安そうなアンテロスに声をかけていく。
「え?」
「でも押しつけてしまったら、この子たちの幸せになろうとする心まで、きっと奪ってしまう。だから、ね?」
「あの子たちが……」
「ね、ね。いっしょに、どの子がほんとうに仲良しなのか見にいきましょ」
 アンは手を差し出した。
 アンテロスが黙っていても構わずにカフェの方へいざなう。
「ありのままの姿で寄り添う猫ちゃんたちを見たら、きっともっとおっきな『ときめき』がやってくると思うの!」
「猫さんが自分の想いでお互いに寄り添えるよう、いっしょに見守りましょう?」
「ね、リシェルもそう思わない?」
「えぇ、アニーさん。そうしたら、アンテロス……あなたの言う『あい』が、もっともっと素敵なものになると思うの」
 リシェルも店の奥を示してみせる。
 暫しの沈黙の後、アンテロスは手にしていた弓をゆっくり下ろした。
「……見てみたい」
「猫さんをですか?」
「うん、あの子たちが自分で誰かを選んでいるところ」
 アンテロスは顔をあげ、アンとリシェルはぱっと表情を輝かせる。
「じゃあ――」
「うん」
「それでは一緒に行きましょう」
 三人は並んで猫カフェの奥を見つめた。
 鈴の音が、からんと響く。
 まず目に入ったのは、堂々と歩くみーくんだった。その後ろをチャイが元気よく駆けていき、少し離れた場所ではクロロがそんな二匹を金色の瞳で眺めていた。
 棚の上ではルーナが優雅に座り、ヒメリはおやつの気配にぴくりと耳を動かす。
 もっちはクッションの上で眠そうに丸まり、ミルクはその隣でのんびりしている。
 そして窓辺にハクとソラ。
 二匹は寄り添っているわけではないけれど、離れすぎてもいない。ハクが外を見れば、ソラも同じ方向を見る。
 その距離は誰にも決められていない。
 だからこそ、不思議なほど自然だった。
「……ふふ、可愛い」
 アンテロスが小さく笑った。
「でしょう?」
「ですよね!」
 アンとリシェルが嬉しそうに答える。
 アンテロスは手の中の弓を見つめた。そして、そっと光を消す。ハートクエイク・アローはもう必要ない。
 誰かと誰かを無理に結びつけなくてもいい。
 猫たちは猫たちのまま自由に歩き、自由に近付き、自由に離れていく。
 その中で生まれる小さな絆こそが、きっと――。
「ねぇ、二人共」
 アンテロスはアンとリシェルの方を振り返り、ふわりと微笑んだ。
「私、この子たちをもっと見ていたい」
「ええ!」
「あたしも!」
 三人の声が重なる。
 その足元をみーくんがすり抜けていった。チャイが追いかけ、クロロがそれを眺める。窓辺ではハクとソラが同じ夕暮れを見つめていた。
 誰にも決められない。
 誰にも強制されない。
 それでも、いつかは自然に芽生えるかもしれない。
 そんなちいさな『あい』の行方を見守るために。
 アンテロスとアンとリシェルは笑いながら、猫たちが待つ店の奥に足を踏み入れた。

第2章 日常 『ようこそ、にゃんこ天国へ』


●猫と過ごす日
 猫カフェ『にゃんどれす🐾たいむ』店内。
 先程までのハートクエイクアロー騒ぎが嘘のように、穏やかな時間が流れていた。
「わぁ、改めて見るとみんな可愛い!」
 魔法少女アンテロスは猫同士をくっつけることは止め、純粋に猫カフェを楽しむ心算のようだ。見渡す先には個性豊かな猫たちがいる。
 三毛猫のみーくん、艶やかな黒猫クロロ。
 元気いっぱいの茶トラのチャイに、真っ白なペルシャ猫のヒメリ。
 ノルウェージャンフォレストキャットのルーナ、青い瞳のシャム猫シエル。
 スコティッシュフォールドのもっちとロシアンブルーのソラ、ラグドールのミルクに窓辺が好きなハチワレ猫のハク。
「美味しいって評判のカフェメニューも楽しみだったんだよね」
 アンテロスはメニューをひらく。
 カフェの一番人気は猫の肉球を模した肉球ラテ。
 猫耳型のホットケーキには蜂蜜とクリームがたっぷり添えられていて、猫しっぽシフォンケーキはふわふわの味わい。
 また、魚型クッキーを添えたにゃんこパフェや、それぞれの猫の特徴が再現されたアイシングにゃんこクッキーなど猫尽くしの品々が並ぶ。
 更に猫たちには専用のおやつメニューも用意されていた。
 定番のささみスティックに、カリカリおやつと猫用ミルク。そして数量限定のにゃんこおやつプレートまで。
「おやつもあげられるんだ~!」
 アンテロスの言葉を聞いた瞬間、ヒメリの瞳がきらりと輝いた。
 チャイも尻尾をぴんと立ててアピールしているる。クロロやシエルまで、いつの間にか客の近くに陣取りはじめた。
「ふふっ。みんな、食いしん坊さんだね!」
 アンテロスの笑い声と猫たちの鳴き声。
 平和そのものであるこの場所で、どう過ごすかは訪れた者次第。

 魔法少女であるアンテロスと猫カップリング談義をしてもいいし、自分の恋愛について相談したり話したりする恋バナで交流を深めても良し。
 友達や知人同士で猫と遊んだり、恋人同士のデートはもちろん、カフェメニューを全力楽しんでもいいし、ひとりでそっとこの空間の空気を楽しんでもいい。
 きっと、今日は――誰もが思い思いに猫カフェの時間を満喫できるのだから。
宮代・トワ

●はじめての時間
 右を見ても左を見ても、猫、猫、猫。
 宮代・トワ(銀世界・h13671)とって、猫カフェは初めて訪れる場所。けれど一歩足を踏み入れた瞬間から、その感想はひとつに決まっている。
「これは……楽園ですか」
 窓辺ではハクが外を眺め、高い棚ではルーナが優雅に丸まっている。その下ではチャイが元気いっぱいに駆け回り、もっちは柔らかな体を丸めて眠そうにしていた。
「……どの子も可愛らしくて、目移りしてしまいますね」
 平静を装っているもののトワの視線は忙しい。実の所、かなりテンションがあがっている状態だ。そんな彼女の隣ではアンテロスが猫を眺めながら嬉しそうにしている。
「ね! みんな可愛いでしょう?」
「なるほど……私はミルクさんの抱き心地が気になります」
「私もミルクが気になってきたかも!」
 その言葉に反応したように、大柄なラグドールのミルクがこちらへ歩いてきた。
 トワの顔が僅かに輝き、瞳が輝く。
「アンテロスさん、もしよろしければ一緒に触れ合いませんか? あと私、猫さんたちにおやつもあげたいのです」
「いいね、おやつならきっとヒメリがすぐ来るよ!」
 その言葉通り、真っ白なヒメリがどこからともなく現れた。更にチャイまで寄ってきて、二匹は期待に満ちた目でトワを見上げている。
「……ちょっとでいいですから、なでさせてくれませんか?」
 トワはそっと手を差し出した。
 すると最初に鼻先を寄せたのはミルクだった。大きな頭を手のひらへ預けるように擦り寄せてくる。トワの口元が緩み、自然と笑みが浮かんだ。
「柔らかいですね……」
「ミルクは甘えん坊なんだね」
 アンテロスも笑いながら、その背中を撫でる。
 やがておやつの時間が終わると、二人は並んで席へ戻った。
「後は私たちもおやつをいただきましょうか」
「もちろん!」
 注文後に運ばれてきたのは猫耳を飾ったにゃんこパフェ。
 二人は顔を見合わせ、思わず笑った。
「にゃんこパフェ……とても素敵な響き。食べながら猫さんのことを話しましょう」
「うん。いっぱい話そう!」
 その傍らでは満足したチャイが丸くなり、ミルクも静かに目を閉じている。
 猫たちの寝息と小さな鈴の音。
 トワとアンテロスの笑い声に包まれるカフェには優しい時間が流れていった。

アドニス・ガルダ・インファリリ
篭宮・咲或

●微睡みと平和
 猫カフェ、にゃんどれす🐾たいむに平穏が戻る。
 柔らかな陽射しが窓から射し込む様は、とても平和で日常そのものだ。
 これも皆がアンテロスに説得や対話を願って穏便に解決したおかげ。誰も戦いを選ばなかったことが今という時間に繋がっている。
 アドニス・ガルダ・インファリリ(プシュケの花檻・h12904)は店内を見渡し、ほっとしたように微笑む。その隣では篭宮・咲或(Butterfly effect・h09298)が、近くへ寄ってきた猫の背を撫でていた。
「無事に猫達の平穏が守られて良かったよ。猫カフェって初めてなんだ」
「いつも通りに楽しめるみたいでよかったよかった。ほぼ家にいないから猫は飼えないけど、猫好きなんだよねぇ」
「私にも可愛い猫がいるが……ここの猫たちもとても可愛らしいね」
 アドニスの視線の先では、三毛猫のみーくんが堂々と歩き、茶トラのチャイがその後ろを元気よく追いかけている。
 少し離れた場所では黒猫のクロロが金色の瞳でこちらを眺めていた。
「ねー、いいよね~。可愛くて」
「咲或も猫好きなんだね」
「でも、猫飼ってるのに猫カフェきたらその子妬いちゃうかもねぇ」
 アドニスと咲或は猫についての会話を交わしていく。
 そうかもしれないな、と考えたアドニスは家にいる猫のことを思う。その中で彼は飾らない言葉を紡いでいった。
「私は私を好いているものを特に好んでいるよ」
 さらりと言ったアドニスに、咲或は一瞬だけ目を丸くした。
「それ、猫にも人にも同じ?」
「どうだろうね」
 意味ありげに笑ったところで、店員が注文を尋ねに来る。
 此処では自分の分のカフェメニュー以外にも猫にあげられるおやつも頼めるようだ。
「私の分はともかく、にゃんこおやつプレートを用意してもらおう」
「じゃあ僕は肉球ラテと、クッキーを数枚」
 二人の注文が済むと、咲或は膝元へやってきた猫を撫でながら料理を待つ。
 やがて運ばれてきたのは、色とりどりの猫用おやつを可愛らしく盛りつけたプレートだった。猫たちもそれが何かわかっているのか興味津々な様子。
「おいで」
 アドニスが穏やかに呼びかける。
 すると、みーくんが真っ先に駆け寄った。
「みーくん」
 咲或は名前を呼びながら、差し出されたおやつを食べさせる。
 続いてチャイとヒメリが飛び込んでくる。そして少し遅れて、クロロも静かに輪へ加わった。二人はそれぞれ一匹ずつ名前を呼び、食べる様子を眺める。
 時折、気持ちよさそうな場所を優しく撫でればゴロゴロと猫の喉が鳴った。
「ふふ……」
 猫たちはすっかり甘やかされていた。
 その光景を眺めながら、アドニスもおやつを受け取った猫たちを順番に撫でる。はぐはぐと夢中で食べる姿には自然と頬が緩んだ。
「猫は気まぐれな様がいい。咲或もそう思うだろう?」
「うん。来るときは来るし、帰るときは帰る。そのくらいがいいよねぇ」
 ところが次の瞬間、咲或が顔をあげる。
「……あれ?」
「おや」
 いつの間にかアドニスの周囲には猫たちが大量に集まっていた。
「アドニス、すごい囲まれてる」
「今日の私はまたたびの香りでもするのかもしれないな」
「香水にまたたび入りとかできるのかしら」
「ふふっ……なんでだろうね。それは…企業秘密かな」
 続けて他の猫までアドニスのもとへ駆けていく。先程まで咲或の傍にいた子までが彼の方に寄っていっている状態あ。
「……泥棒猫」
「泥棒猫だなんて……君もこっちに来ればいいじゃないか」
 ぽつりと零れた咲或の声を聞き、アドニスが手招きする。
「咲或にも優しく食べさせてあげようか?」
「え、俺もおやつを?」
「勿論、人用のものをだよ」
「それならいいかな」
 アドニスの誘いに対して咲或はちいさく笑った。
 その一方で、膝の上では一匹の猫がすっかり眠そうにしている。
 なんとなく自分までダメ猫にされそうな気がして、咲或はその前足をそっと持ち上げ、ふりふりと動かした。
「にゃー」
「みゃー」
 すると猫も鳴き返す。
 咲或は思わず吹き出し、アドニスもそんな様子を見て微笑んだ。
 猫たちの喉が鳴る音。柔らかな毛並みを撫でる音。窓の外から差し込む穏やかな光。先ほどまでの騒ぎなど忘れてしまうほど、店内には静かで優しい時間が流れていた。
 気まぐれな猫たちのように誰も急ぐ必要はない。
 今は穏やかなひとときを楽しめばいい。
 そんな楽しい午後は、ゆっくりと過ぎていった。

ラデュレ・ディア
ラナ・ラングドシャ

●にゃんこいっぱいタイム
 事件は無事に解決。
 後はゆっくりとこの時間を満喫するだけ。
「これなら穏やかに猫カフェを楽しむことが出来そうです」
「うん! これで猫カフェ満喫出来るね♪」
 ほっと胸を撫で下ろすラデュレ・ディア(迷走Fable・h07529)の隣で、ラナ・ラングドシャ(|猫舌甘味《𝚕𝚊𝚗𝚐𝚞𝚎 𝚍𝚎 𝚌𝚑𝚊𝚝》・h02157)が嬉しそうに笑う。
 改めて二人が店内を見渡せば、其処には実に個性豊かな猫たちがいた。
「ラナのお友だちも、なのですが、猫さんたちには様々な種類がいらっしゃるのですね」
「そうだね、みんな可愛い!」
 そんな中、ラデュレの視線が一匹の猫へ向いた。
「あっ、あの子はソフィアそっくり……! もっち、というお名前のようです」
 丸い顔に折れた耳。柔らかな身体を揺らしながら歩くスコティッシュフォールドのもっちは、ラナの姿を見つけるなり、とことこと近寄ってくる。
「ホントだ! ソフィアみたいな子!」
 その周囲には護霊として寄り添う仔猫たちの姿があった。
「とても愛らしくて微笑ましいのです」
「ボクの仔猫ちゃんたちに似た子が沢山でかわい――」
 ぽこっ。
 そのとき、突然ラナの足元に猫パンチが飛んできた。
「――あいたたっ!?」
 ぽこぽこ。ぽこぽこ。
 護霊の仔猫たちが、揃ってラナへ猫パンチを繰り出している。それを受け止めたラナが慌ててしゃがみ込む。
「な、なになに!? もしかしてやきもち?! 待っ、心配しなくてもキミたちが一番だよぉ~!!!」
 必死になだめるラナの姿に、ラデュレは思わず口元を綻ばせた。
「ふふ、ラナのことが大好きなのですね」
「もう、みんなったら~!」
 ようやく仔猫たちが落ち着いたところで、二人はカフェメニューを選ぶことにした。
「私は肉球ラテと、猫耳型のホットケーキをいただきたいです」
「みんなは猫しっぽシフォンケーキで……ボクはにゃんこパフェ♪」
 ラデュレとラナは好きなものを頼む。
 やがて運ばれてきたラテには泡の上に小さな肉球模様。ホットケーキには可愛らしい猫耳が添えられている。
「とっても可愛らしくてステキ……!」
「ほら、みんなも一緒に食べよ!」
 ラナが仔猫たちへ差し出したのは猫しっぽを模したシフォンケーキ。そして自分にはたっぷりクリームとフルーツが盛られたにゃんこパフェだ。
 ぱくりと一口食べれば幸いの味が広がる。
「ラテはまろやかで、ホットケーキは甘くて美味しいです……!」
「にゃは~! あまあまでしあわせ~!!」
 ラナの幸せそうな顔を見て、ラデュレも微笑む。
「まあ、こちらのおやつも猫さんたちが食べますか? おやつをあげてみたいのです」
 続けてラデュレが指差したのは、猫たち用のにゃんこおやつプレートだった。
「もちろん! ほら、みんなもおいで~!」
「まあ、たくさんいらっしゃいました……!」
 ラナが声をかければカフェの猫たちが集まってくる。
 ヒメリは真っ先に近付き、チャイは嬉しそうに尻尾を振る。みーくんも興味津々に覗き込み、ミルクはのんびりと輪に加わった。
「どの子も可愛らしくて癒されますね」
「ふふ、ソフィアもおやつを召し上がれ……!」
 ラデュレが一匹ずつ優しくおやつを差し出していく。するとソフィアが近付き、ラデュレの手元へ鼻先を寄せる。
「あっ、ソフィア! それはラーレが他の猫ちゃんにあげるものだってば! ラーレにまで“やきもち”焼かないの~!」
 ラナが慌てて声をあげるとソフィアはどこか不満そうにラナを見上げた。そんな様子を見つめるラデュレはとても楽しげだ。
「本当に可愛らしいですね」
「ほら、やきもちばっかり焼いてないで、他の猫ちゃんたちと仲良くしておいで~!」
 ラナに促されると、ソフィアは渋々ながらも他の猫たちの輪へ入っていく。
 その光景を眺めながら、ラデュレは肉球ラテを一口飲んだ。
 猫たちの鳴き声と足音。楽しげな笑い声。
 窓辺ではハクが変わらず外を眺め、棚の上のルーナは穏やかに店内を見下ろしている。誰かが誰かを決めつけることもなく、それぞれが好きな場所で好きなように過ごしている。そんな猫たちに囲まれて、二人の午後もゆっくりと過ぎていった。
 甘い香りと柔らかな毛並みに包まれながら――。
 にゃんどれす🐾たいむには、いつまでも優しい時間が流れていく。

不忍・ちるは

●いつかの日を思って
 カフェには柔らかな午後の光が差し込んでいた。
 不忍・ちるは(ちるあうと・h01839)はメニューを眺め、楽しそうに目を細める。
 どれも猫を模した可愛らしい盛り付けで、肉球ラテに猫耳パンケーキ、魚型クッキーまで並んでいる。悩みに悩んだ末、ちるはが選んだのはクッキーを添えたにゃんこパフェとカフェラテだった。
「アンテロスさんは、どちらを注文されます?」
「私は肉球ラテ! あと、この猫耳パンケーキかな」
 同じようにアンテロスも目を輝かせている。
 注文品が届けられた後、ちるははスマートフォンを取り出した。
「よろしければ写真だけ撮らせて頂けますと……」
「もちろん! 可愛く撮ってね!」
 アンテロスは快く飲み物をテーブルの中央に寄せる。
 ぱしゃりと軽快な音が響き、記念の一枚が記録された。
「アンテロスさんはカップリングを決めるときって、どういう要素を重視します?」
「要素かぁ」
「実際のビジュでしょうか? それとも性格? それとも、こんな感じかなってイメージした妄想……とかこだわりがあるのですか?」
「全部!」
 ちるはが問うとアンテロスは即答した。
 まずは並んだときに絵になること。性格が正反対なのもよければ、似た者同士で仲良くしているのも好きだと彼女は語る。
「なるほど……」
「そこから私の中で物語が始まるの!」
 ちるはは納得しながら店内を見渡していく。
「例えば、マツリちゃんと相性を考えると……どんなかたがよいですかね?」
「うーん、同じ種類のもっちもいいけど、チャイみたいな子なんかどうかな」
 いつか何かのご縁があれば、とちるはは胸を弾ませた。まるで親が我が子の未来を思うような、何処か微笑ましい表情だった。
「あ、でもでもアローは無しでお願いします!」
 はっとしたちるはが付け加える。
「うん! じゃあ、ちゃんとみんなが自分で選べるカップリングを考えようかな」
 するとアンテロスは素直に頷いた。その言葉に、ちるははふっと微笑む。
 パフェの上では猫型クッキーが仲良く寄り添っていた。
 やがてアンテロスは新しいカップリング案を語り始め、ちるはも楽しそうに耳を傾ける。猫たちの鳴き声と食器の触れ合う音が、穏やかな店内に溶けていく。
 誰も何も焦らなくてもいい。
 この場所には猫と人々がそれぞれの距離で過ごせる、優しい時間が流れていた。

小弓・佐倉

●憧れと戯れと
 猫カフェの窓辺は穏やかだ。
 ハクがいつものように外を眺め、少し離れた棚の上ではルーナが悠々と毛並みを整えている。チャイは床を駆け回り、もっちは誰かの膝の上ですっかり夢の中。
 そんな猫たちを眺めながら、小弓・佐倉(夜黒の椿・h08163)はぽつりと呟いた。
「そう、そのとおり。猫ちゃんたちは……みんな、みんなかわいいの」
 その声はとても優しい。
 猫は何の種類でどんな柄でも、どんなお顔でどのような瞳をしていても可愛い。
「どんな子でも……みんなに愛されて、みんなにかわいいって思ってもらえる、とても……とうとい、存在」
 アンテロスは隣で静かに耳を傾けていた。小弓は少しだけ寂しそうに笑ったが、次の瞬間、その表情は柔らかく綻んだ。
「だから、わたし、猫ちゃんたちがとっても羨ましいの」
「猫っていろんな気持ちを教えてくれるよね」
 アンテロスは小弓の思いを汲み取ったのか、そっと微笑んだ。
 そして、小弓は鬼火を纏う猫たちをこっそり呼ぶ。このカフェの猫たちと一緒に遊べたら、という思いからだ。小弓の周囲にふわりと猫たちが降り立つ。纏うのは恐ろしげな炎ではなく、まるで夜灯りのような優しい光だった。
「わぁ、かわいい!」
 アンテロスの瞳が輝く。
 それから小弓は、そっとおやつを手に取った。
「……猫ちゃんはみんな好き。その中でも、わたしは、黒猫さんが、一番好きなんだけど……クロロちゃん、来てくれるかな?」
 視線の先にはクロロ。
 金色の瞳を細め、少し離れた場所からこちらを見つめている。小弓がおやつを差し出すと猫たちが、まるで遊びに誘うようにクロロの近くへ向かった。
 クロロはしばらく彼らを眺め――やがて、ゆっくりと歩き出す。
「あっ……来た」
「来たね!」
 二人の声が重なる。
 クロロは小弓のすぐ手前まで来ると、じっと彼女を見上げた。それから差し出されたおやつの匂いを嗅いでから、ぱくりと食べる。
「……ふふ」
「やっぱり、猫ちゃんって最高だね」
「うん……」
 小弓の頬が嬉しそうに緩み、アンテロスも笑っていた。
 争う理由はもう何もなかった。猫たちが思い思いに過ごす、その隣で――とても穏やかな時間が、ゆっくりと流れていった。

夢野・きらら

●日常が続く意味
 カフェ店内からは先ほどまでの緊張がすっかり消えていた。
 猫たちも思い思いの場所でくつろぎ、いつもの穏やかな猫カフェに戻っている。その様子を眺めながら、夢野・きらら(獣妖「紙魚」の仙人・h00004)は目を細めた。
 猫カフェの楽しみ方は人それぞれ。
 撫でるのも遊ぶのも、眺めるだけなのもいい。ただし、大切なのは店と猫たちに迷惑をかけないこと。それさえ守ればきっと誰だって楽しい時間を過ごせる。
 そのことをアンテロスも少しずつ分かってくれたようだった。
 きららの視線の先では、三毛猫のみーくんが黒猫のクロロへ近付いている。
 みーくんはいつもの調子で何かを話しかけるように鳴き、クロロは金色の瞳を細めてそれを眺めていた。けれど、今日は逃げない。
「ふふ」
 その光景を楽しみながら、きららは肉球ラテへ手を伸ばした。
 猫と触れ合わないのかと問われれば、きららはきっとこう答えるだろう。
 自分を好いてくれていなくても、猫は目の保養になるのだ、と。
 ただし、あまり露骨に見つめていると猫に気取られる。だから視線はそれとなく。さりげなく自然に――。
 そんなきららの近くでは、アンテロスも猫たちを眺めていた。
「……ねえ」
「ん?」
「さっきのことだけどね」
 アンテロスが何かを言いかけたが、きららは軽く笑って首を振ってみせる。
「もうそのことはいいんじゃないかな」
 反省している子にいつまでも説教を続けるほど野暮ではない。代わりにきららは少しだけ考えてから尋ねた。
「猫カフェ、楽しい?」
「え?」
「せっかく来たんだからさ。楽しかったら、ぼくもうれしいなって」
 アンテロスは目を丸くして、それから店内を見渡した。
 眠そうに丸まるもっち。おやつを狙うヒメリ。窓辺で外を眺めるハク。誰もが可愛らしく、それぞれの時間を過ごしていた。
 やがてアンテロスは無邪気に笑う。
「うん、楽しい!」
「そっか」
 答えを聞いたきららも満足そうに微笑んだ。
 猫たちの鳴き声と、カップとソーサーが触れる音が店内に響く。
 みーくんはまた一歩クロロへ近付き、クロロはそれを拒まなかった。誰に決められたわけでもなく、猫たちは好きなように過ごしている。
 とても静かで――ときに賑やかな、優しい午後が流れていった。

セレネ・デルフィ
鴛海・ラズリ

●猫と甘い時間を
 にゃんどれす🐾たいむの店内は賑やかだ。
 パンフレットで紹介されていた猫たちが、それぞれ思い思いの場所で寛いでいる。
「ねこさんたち、可愛い……!」
 セレネ・デルフィ(泡沫の空・h03434)は思わず声を弾ませた。
 ふわふわの毛並みを揺らしながら歩くみーくん。棚の上から此方を見つめているクロロ。窓辺ではハクが外を眺め、棚の上にはルーナが優雅に座っている。
「やっと! もふもふタイムだよーっ!」
 鴛海・ラズリ(✤lapis lazuli✤・h00299)も嬉しそうに両手を広げた。
 チャイは元気いっぱいに店内を駆け回り、ミルクは柔らかな身体を丸めて昼寝中。ソラは物陰からそっと様子を窺い、シエルはそんな皆を静かに観察していた。
 そして、白く長い毛並みのヒメリと丸い顔に折れ耳を載せたもっちが、二人から少し離れた場所で並んでいる。
「ね、猫ちゃんたち撫でたいよね。おいでおいで、みーくん! クロロ!」
「来てくれるでしょうか」
 呼ばれたみーくんは期待通りにとことこと近付いてくる。
 一方のクロロはというと、くるりと身体を丸めて違う方を向いてしまった。
「あっ、そっぽ向いてツンなクロロ可愛い~! これがメロ男ってやつね……?」
 ラズリは目を輝かせ、兎理解しました、と納得する。
 しかし、セレネがきょとんと首を傾げた。
「メロ……?」
「ちょっとちがう?」
 二人は顔を見合わせ、くすくす笑う。
 その間にもセレネはヒメリともっちをじっと見つめていた。
「ふわふわお触りしたいな……。ヒメリちゃんにも、もっちちゃんにも……!」
 そっと手を伸ばすものの、ヒメリは優雅に身をかわし、もっちも眠そうな顔のまま少し距離を取る。だが、それもまた猫らしい動作と所作だ。
「あう、つれないですね……」
 わかっていてもセレネはしょんぼりする。
 しかし、彼女はすぐにが何かを思いついたように顔をあげた。
「ね、ラズリ。おやつ、あげてみませんか……?」
「あっ! おやつ作戦良いかも!」
 ラズリは同意し、二人はさっそく猫用のおやつを手に取った。
 そっとカリカリを差し出せば、みーくんが近付いてくる。
「わ、わ、来た!」
「わ、わ、いきなりねこさんハーレムです……!」
 続いてチャイとミルクが訪れ、いつの間にかセレネの周りにも猫たちが集まってきた。二人は驚きながらもすぐに笑みを浮かべ、猫たちのおやつ襲来を喜ぶ。
 セレネはささみスティックを差し出しながら、空いた手でチャイの背中を撫でた。
 ふわりと柔らかな毛が指の間を滑る。
「ふわふわ……もふもふ……しあわせ……」
 ラズリの膝にはもっちが収まり、横ではいつの間にかミルクが身体を預けている。抱き上げようとすると、ミルクの身体がびょーんと長くなった。
「わあっ、伸びた!」
 思わずラズリから笑い声が零れる。
 セレネも同じように、もっちへそっと顔を近付ける。
「ね、もっちちゃん……猫吸いさせてくれませんか……!」
 返事の代わりにもっちは眠そうに瞬きをした。
 その瞬間、セレネの表情がとろりと緩む。しあわせ、と零れた言葉は本心からのもの。それからたっぷり猫たちとの触れあいを楽しんだセレネとラズリは、二人揃ってカフェスペースに移動する。
「肉球ラテと猫耳ホットケーキ、お願いします!」
「それから、猫しっぽシフォンケーキも」
 ほどなくして可愛らしい猫モチーフのスイーツが運ばれてきた。
 ラズリの前には肉球模様のラテと、猫耳を模したホットケーキ。セレネの前には猫のしっぽを思わせるシフォンケーキが置かれる。
「美味しいです!」
「おいしいね! そっちのも……?」
 いつの間にかラズリがシフォンケーキをラズリがじっと見つめている。その意図に気付いたセレネは一口分を切り分けてそっと差し出した。
「ふふ、どうぞ」
「えへへ食べる! 食べる!」
 ラズリは嬉しそうにぱくりと頬張り、満面の笑みをセレネに向ける。
「わあ、ふわふわあまーい! セレネにも蜂蜜たっぷりパンケーキをお裾分け!」
 そして今度はラズリが自分のホットケーキを切り分ける。
「わ、ありがとうございます」
「はあい、あーん」
 セレネが口を開ければ、ふわふわのパンケーキが運ばれた。
「蜂蜜たっぷり……! おいしいです……!」
 二人の足元では猫たちが静かに丸くなっていた。
 遠くではみーくんが店内を歩き、クロロは相変わらず少し離れた場所から二人を眺めている。窓から差し込んでいる柔らかな光の中で、猫の喉を鳴らす音とちいさな笑い声が穏やかに重なっていく。
 誰も急ぐ必要はなく、のんびりとした空気が流れている。
 可愛らしい猫たちと触れあい、美味しいものを分けあいながら談笑する時間。
 これこそが何よりも尊く、幸いなひとときの証だ。

アン・ロワ
リシェル・チェルケス

●ふわふわいっぱいティータイム
 猫カフェには穏やかな空気が満ちている。
 恋する猫ばかりになってしまいそうだった、にゃんどれす🐾たいむは平穏そのもの。
 先程までの緊張など何処にもなく、普段通りの営業がはじまっていた。
「アンテロスの気が変わってくれてよかったわ、ねこちゃんたちもこれであんしんね!」
「えぇ。彼女を説得できて、本当によかったわ」
 アン・ロワ(彩羽・h00005)がほっと胸を撫で下ろす隣で、リシェル・チェルケス(|白銀《しろがね》の魔女・h13518)も静かに頷く。
 リシェルはそう答えてから、ふと店の奥へt目を向けた。
「それが猫さんだけでなく、人間相手でも同じ……って、わかってくださっていれば、よいのだけれど」
 ほんの少しだけ心配そうな声音だったが、此処にはもう争いの気配はない。
 代わりに聞こえてくるのは、猫たちの鳴き声と楽しげな話し声。アンも店内を見渡しながら、いつかの未来に繋がってくれることを願う。
 そして――。
「…………」
 次の瞬間、アンは両の手のひらで口元をぎゅっと押さえた。
「かわいい~~~~!!」
 声が大きくなりそうなのを何とか飲み込んだらしい。
 視線の先では三毛猫のみーくんが堂々と店内を歩いている。ふわふわの胸元を揺らしながら、まるで店内の様子を確認しているようだ。
 其処から少し離れたところには艶やかな黒猫クロロがいた。
 金色の瞳が此方をじっと見つめていることに気付き、アンとリシェルは目を細める。
「みーくんもクロロさんも、とってもかわいい……!」
「ふわぁ……。えぇ、本当に。みんな綺麗で可愛いのだわ」
 村に住み着いている猫たちなら、触れ合えるかどうかはその日のごきげん次第。
 近寄れば逃げる子もいるし、こちらから手を伸ばすより先に向こうから甘えてくる子もいる。けれど、この店の猫たちは人に慣れているらしい。
 だからといって好き勝手に触っていいわけではない。無理に抱き上げたり追いかけたりせず、猫自身が「いいよ」と示してくれたときだけ。
 それが、この店で猫たちと仲良くするための大切な約束だった。
 リシェルは様子を見ながら、猫たちを瞳に映す。
「抱っこしたいけど――」
「もちろん、無理に抱っこしたりしないで、『おゆるし』が出たときだけにするわ!」
 アンはそう言って、店員から借りた猫じゃらしを手に取った。
 ふわふわと揺れる先端。それにまず興味を示したのは、チャイだった。ぱしっと猫じゃらしへと伸びた前足を見て、アンの目がきらきらと輝く。
「なかよくなれたらうれしいわ。ええと、指先のにおいを近付けるのがいいのよね!」
「下から指先を近づけるのがご挨拶。そっと、触れないくらいの距離で、ね?」
 二人が並んで指先を差し出すと、チャイがくんくんと匂いを嗅いだ。
 それから、ちいさな鼻先がアンの指に触れる。
 リシェルも同じように手を伸ばした。すると、近くにいたソラが興味深そうに顔を寄せてきた。銀灰色の毛並みが柔らかな光を受けて輝く様は美しい。
「まあ」
 微笑むリシェルの傍に座ったソラは逃げない。
 寧ろ、指先の匂いを確かめるように鼻先を近付け――ほんの少しだけ、額を寄せた。
「ふふ。ご挨拶してくれたわ」
「わあ……!」
 アンの瞳が輝く。
 更に近くでは、ハクが窓辺から外を眺めていた。もっちは眠そうな顔のまま椅子に収まり、チャイは猫じゃらしの動きを追っている。
 白い毛を優雅になびかせるヒメリは気品あるお姫様のように見える。けれど、その視線はしっかりと店員の持つおやつへ向いていた。
「あの子、食べ物を見てるわ」
「どうやら、とても正直なお姫様のようね」
 二人は顔を見合わせてくすくす笑う。
 そのまま話をしているうちに、アンがふと尋ねた。
「魔女さんにはねこちゃんが寄り添っていることが多いけれど、リシェルはねこちゃんと触れ合う機会はある?」
「近所の子たちとは仲良くさせてもらっているわ。……猫さんたちのお話も、聞けたらもっと楽しいのだけれど」
 リシェルがそう言ったところで、二人の視界に大きな猫の姿が入った。
「あっ」
「まあ……!」
 高い棚の上から、ノルウェージャンフォレストキャットが此方を見下ろしている。
「わあ、おっきい! この子はルーナ?」
「えぇ、そうよ」
 大きな体と豊かな毛並み。堂々たる姿はまさしく王子様だ。
 ただし――。
「……下りられないのかしら?」
 ルーナは棚の端で少し困ったようにしていた。
 リシェルがそっと近付く。
「受け止めてあげるから、降りてきてくださいな。おやつもあるのよ?」
 一緒に遊びましょ、と優しく声を掛けるとルーナは暫くリシェルを見つめた。それから意を決したように棚から飛び降りる。
 リシェルが両腕で受け止めたが、感じたのはずしんとした重み。
「わっ……意外と重たい」
 そのまま勢いに負け、ぽすんと床へ尻もちをついてしまう。
「大丈夫!?」
「ふふふ、あはははっ……大丈夫よ、アニーさん」
 猫を抱きしめたまま、リシェルの笑い声が響いた。当のルーナは何事もなかったように、リシェルの腕の中に収まっている。
 其処へ店員がおやつを持ってきて、アンが受け取った瞬間だった。
「それじゃあ、みんなにもあげましょうか」
「……にゃ」
「みゃあ」
「にゃー!」
 何処からともなく猫たちが集まってきたので、アンもリシェルも驚いてしまう。
 チャイが足元へ、ヒメリが目の前へ。気付けばもっちまでいつの間にか膝へ乗っている。ミルクが後ろから寄りかかってきたかと思えば、ルーナまで参加してきた。
「わあ、まって、まって! じゅんばん……あー!」
「ちゃんとみんなにあげるからぁ……!」
 アンの姿が、あっという間にふかふかな毛並みに埋もれていく。リシェルも助けようとして――結局、自分も猫に囲まれてしまった。
「アニーさん、大変ね」
「リシェルもよ」
 けれど、どちらも猫たちから離れようとはしない。気付けば二人とも頭から足元まで毛だらけで、ぺちゃんこにされてしまった。
「ふふふ、あったかい!」
「ふかふか!」
 アンが笑い、リシェルも腕の中のルーナを撫でながら心地よさを抱く。
「とってもしあわせ」
「えぇ、幸せね」
 ローブや吹くが毛だらけになっているのも気にならないくらいに幸いが満ちていた。
 窓の外では穏やかな陽が傾きはじめている。
 猫たちが喉を鳴らす音と、楽しげな笑い声。肉球を模したラテや猫耳ホットケーキの甘い香り。其処にはもう、誰かを無理に結びつけようとする必要はない。
 隣にいて、触れあいたい相手と触れ合う。
 眠りたい猫は眠り、遊びたい猫は遊び、おやつが欲しい猫は全力でおやつをねだる。
 そんな自由な時間がゆっくりと流れていく。
 アンとリシェルも優しいひとときの中で、猫たちに埋もれながら笑っていた。

雪願・リューリア

●甘くてやわらかな時間
 猫カフェには柔らかく穏やかな時間が流れている。
 雪願・リューリア(願い届けし者・h01522)は引き続き飼い猫のアーシアを連れており、カフェでの時間を満喫することにした。
「せっかくだから、我も楽しませてもらうぞ」
 そう言って注文したのは、肉球の形をふわりと描いた肉球ラテと猫耳ホットケーキ。
 更にアーシアと店内の猫たちのために、ささみスティックと運よく用意されていたにゃんこおやつプレートも注文する。
 料理が届けば、アーシアはさっそくささみスティックに夢中になった。
「ふふ……よほど気に入ったようだな」
 尻尾をぴんと立てながら夢中で食べるアーシアを眺め、リューリアは微笑む。そして、その間にアンテロスに声を掛けた。
「アンテロス、どの猫と仲良くするか決めたのか?」
「うーん、それが全然決められないの!」
 アンテロスは困ったように笑った。
 みーくんもクロロもやっぱり素敵だ。チャイはとても元気で可愛いし、ヒメリはお姫様そのもので愛らしい。そう語るアンテロスの視線の先では、白く長い毛を優雅になびかせるヒメリがいた。
 リューリアもその姿を見て、思わず目を細める。
「ヒメリはアーシアに負けないぐらいの白さだな」
「でしょ? アーシアちゃんもすごく綺麗でふわふわだし、ヒメリちゃんと並んだら絶対に絵になると思うの!」
 アンテロスの顔がぱっと明るくなり、アーシアにも視線が向いた。
「そこからまたカップリングを考えるのか?」
「えへへ」
 悪びれず笑うアンテロスに、リューリアもつられて笑ってしまう。
 そのときふと、足元へ小さな影が寄ってきた。
 みーくんだ。人懐っこい彼はリューリアの足元を一周すると、まるで「撫でて」と言わんばかりに身体を擦りつけてくる。
「おや、我を選んでくれるのか?」
「みーくんにすっかり気に入られちゃったみたいだね」
「ならば存分に甘やかすとしよう」
 リューリアがしゃがみ込んで撫でてやれば、みーくんは満足そうに喉を鳴らした。その様子を見ていたアンテロスの元にもチャイが近付いていく。
「わっ、チャイちゃん! もしかして私のことも好き?」
 膝に前足を掛けられたアンテロスは嬉しそうな声をあげた。その返事の代わりに、チャイが手へ頭を押しつける。
 可愛い、と笑ったアンテロスは夢中になってチャイを撫ではじめた。
 その表情を眺めながらリューリアはふと思う。
 猫たちにこれほど好かれているのなら、根は悪い子ではないのだろう。少なくとも猫たちを心から可愛いと思い、大切にしたいという気持ちだけは本物なのだ。
「アンテロス」
「なに?」
「お気に入りの猫は見つけられただろうか?」
 アンテロスはチャイを撫でながら、それから店内を見渡した。
「うん、ここのみんな!」
「それはまた欲張りだな」
「だって、みんな可愛いんだもん!」
 そんなやりとりをしていると、背後から賑やかな声が聞こえてきた。
「……アーシア?」
 ささみスティックを食べ終えたアーシアが、いつの間にか猫たちの輪へ乱入していたようだ。みーくんやチャイに近付き、更にはルーナにまで堂々と接近していく。
「随分と積極的だな」
 しかも、どうやら本人には別の目的があるらしい。
 猫たちの真ん中に陣取って胸を張るアーシア。リューリアは呆れながらも、何処か楽しそうに笑った。
「まさか……ここでもリーダーになろうとしているのか?」
 どうやら暴君ぶりは健在らしい。
 しかし、猫たちが嫌がっている様子はない。寧ろアーシアが先頭に立って遊びはじめると、チャイもみーくんも楽しそうについていく。
「まあ、猫たちの面倒見は良いようだな」
「アーシアちゃん、頼もしいね!」
 アンテロスも笑っている。
 その声を聞きながら、リューリアはテーブルへ戻った。
「ならば我は我で、アンテロスとホットケーキでも食べさせてもらうとしようか」
「いいね! 猫耳のところ、どっちから食べる?」
「我は耳からだな」
「じゃあ私は反対側!」
 二人は猫耳型のホットケーキを分け合う。
 肉球ラテから立ち上る甘い香り。走り回る猫たちと楽しげな鳴き声。
 アーシアも、みーくんもチャイも、そしてアンテロスとリューリアも――誰もが笑っていられる午後が、ゆっくりと穏やかに過ぎていった。

ゾーイ・コールドムーン

●理解する気持ち
 ハートクエイク・アローはもう完全に手放されている。
 ゾーイ・コールドムーン(黄金の災厄・h01339)はそのことを確かめ、安堵を抱く。
 アンテロスは敵として立ちはだかっていた。しかし、こうして話をしてみれば根っからの悪人というわけではないことがわかる。
 ただ人や猫の関係が好きで、可愛い猫たちを眺めているうちに、少々――いや、かなり大胆な妄想を膨らませてしまった普通の少女の部類なのだろう。
「穏便に済んで良かった」
 ほっと胸を撫で下ろしたゾーイは猫カフェ内を見渡してみる。
 あとはもう難しいことを考える必要もない。
「じゃあ、後はのんびりと猫カフェを満喫しようか」
 こういった場所にはこれまで訪れる機会はなかった。だからこそ、此処にいるだけで少しばかり新鮮な気持ちになる。
 落ち着いた内装の店内には、柔らかな音楽と食器の触れ合う音が響いていた。
 そして何より、気ままに歩き回る猫たちの姿が印象的だ。
 ゾーイは人の少ない隅の席を選び、まずは飲み物を頼んだ。猫たちを眺めながら、ゆっくり飲むのはブレンド珈琲。
「さて、どんな様子が見られるかな……」
 最初に目に入ったのは三毛猫のみーくんだった。
 ふわふわの胸元を揺らしながら店内を堂々と歩き回っている。ときおり他の猫へ近付き、鼻先を寄せては何かを確認しているようだった。
 その少し離れたところには黒猫のクロロが静かに丸まっている。チャイは別の客に撫でてもらっており、嬉しそうに喉を鳴らした。ころんと転がってお腹を見せた姿に、周囲からは微笑ましげな笑い声があがる。
 ヒメリは優雅に歩いていた。ただし、おやつを持った店員が近付いてきた瞬間、その動きだけは優雅さの欠片もなくなってしまう。
 高い棚にはルーナが悠然と座り、シエルも隣の棚から人間たちを観察している。
 もっちは椅子の上で丸くなり、ソラは静かな場所で毛繕い。ミルクは誰かに抱き上げられていて、もうすっかり眠そうだ。そして、ハクは窓辺で外を眺めていた。
 ゾーイはそんな光景を静かに眺めていた。
 手を伸ばして撫でてみたい気持ちがないわけではない。けれど、それは猫たちが求めてきたときでいい。
 彼らは彼らのまま、自由気儘に振る舞っている。その姿こそが可愛らしくて美しい。
 だからこそ、こちらから無理に干渉する必要はない。
 そうして暫く穏やかな時間を過ごした頃だった。ゾーイは席を立ち、近くの猫と遊んでいたアンテロスへと声を掛ける。
「どうだい? 実際の彼らを見守ってみて、皆にも説得された事は実感できたかな」
「……うん。やっぱり、みんな可愛いね」
 アンテロスは店内を見渡し、柔らかな表情で頷いた。
「それは同意するよ」
「でも……」
「どうかしたかな」
 ゾーイが問うと、アンテロスは少し考えるように首を傾げる。
「こうやって見てると、私が思ってたのとは違う組み合わせもあるのかも」
「というと?」
「たとえばクロロくんって、みーくんに構われるのを嫌がってるように見えて……実は完全に嫌ってるわけじゃないのかもだし、意外とルーナの方を見てることが多いの」
 その言葉を聞いたゾーイはそっと微笑んだ。
「新しい想像が出来たんだね」
「うん! でも、前みたいに無理やりじゃなくて……この子たちがどんな関係になっていくのか、見てみたいって思った」
「それなら、少しわかる気がする」
 完全に理解できたわけではない。
 けれど、理解しようとすることならできる。
「その上で、カップリングについて新しい想像が出来たなら聞いてみたい。理解できないかもしれないけど、その努力はしたくてね」
「ふふ。じゃあ、いっぱい話してあげる!」
 ゾーイを見つめたアンテロスは楽しそうに笑った。
 その向こうでは、みーくんがクロロの隣へちょこんと座る。クロロは一瞬だけみーくんを見たものの逃げることはなかった。気付けばミルクがゾーイに近寄ってきており、手の甲にすりすりと頭を押し付けた。
「あっ、気に入られてるみたい!」
「それは光栄だね」
 アンテロスとゾーイは顔を見合わせ、微笑みあった。
 店内には猫たちの鳴き声と、人々の穏やかな笑い声が響いている。
 急いで答えを出す必要などない。
 今日くらいは猫たちの自由な時間を眺めながら、誰もが好きなように楽しめばいい。
 そんな優しい心地が、ゾーイたちの間に満ちていた。

藍染・蓼

●穏やかに過ごすひととき
 猫カフェ『にゃんどれす🐾たいむ』。
 改めて奥の扉を潜ると、ふわりとした柔らかな空気が包んだ。
 店内では猫たちが自由に歩き回り、のんびりしている。たとえば窓辺ではハクが外を眺め、高い棚の上ではルーナが悠然と丸くなっている。
 何処らか鈴の音が聞こえたかと思うと、奥の席ではチャイが玩具を追いかけていた。
「猫カフェ、久々に来たな」
 藍染・蓼(無彩色と有彩色の顔・h08168)は店内を見回しながら、懐かしげに呟く。
「久々ってことは……結構来るの?」
 するとアンテロスが意外そうに目を丸くした。
「あっは! なんだよ。そんなに意外なんか?」
 対する蓼は楽しそうに笑う。
「えー、なんとなく?」
「ここの店は初めてだが、前行った店は猫の奴らと店員から覚えられるぐらいには通ったことあるぜ?」
「そんなになんだ」
「ああ。あんまり人が入らねぇ店だと普通のカフェより静かだし、何気に居心地良いんだよな。ついでに猫の奴らとも遊べるし」
 そう話していく蓼の足元を、三毛猫のみーくんが通り過ぎていく。
 蓼は追いかけることも、呼び寄せることもしなかった。ただ静かに見送るのが彼なりの所作であり、猫カフェを楽しむ秘訣でもあった。
「触らないの?」
「オレからはあんまり触らねぇな。寄って来てくれるんなら撫でてみるかって感じだ」
「なるほど!」
 アンテロスは少し感心したように蓼を見る。
 猫たちに触れることを前提にしていた彼女からすれば、意外な接し方だったらしい。
「じゃあ、猫ちゃんたちから来てくれるのを待つタイプなんだ」
「そういう方が、猫も楽なんじゃねぇか?」
 その言葉を聞いたかのように、みーくんがくるりと方向を変えた。
 そうして、とことこと蓼のもとへ戻ってくる。
「お?」
「……あ、みーくん!」
 みーくんは蓼の足元で立ち止まり、じっと彼を見上げる。
 蓼がしゃがむと、みーくんは警戒することなく鼻先を近付けてきた。
「撫でてもいいってことか?」
 問いかけるように手を差し出せば、みーくんはその指先へ頭を擦り付けた。
「ふふっ、気に入られたね!」
「みたいだな」
 アンテロスが嬉しそうに笑う中、蓼は三毛の毛並みをゆっくり撫でる。その動きは驚くほど静かで、みーくんも満足そうに目を細めていた。
「なんか、こうしてると落ち着くな」
「だから私は、この子たちがもっと仲良くなったら素敵だと思って……」
「ああ、その話だったな」
 蓼は席に座りながら、アンテロスの方へ身体を向ける。そして、彼女が話しやすいように急かすことなく待った。
「まずね、みーくんとクロロくん!」
「なるほどな」
「みーくんは誰にでも近付いていくでしょ? でもクロロくんは、ちょっと離れたところから見てるタイプだから……」
「そういうもんか?」
「そう! だから、みーくんが何度も話しかけて、最初はクロロくんがそっけなくして、それでも諦めなくて……いつか隣に並んでいたら最高だと思うの!」
 身振り手振りを交えながら語るアンテロス。
 蓼は時折相槌を打ちながら、きちんとその話を聞いていた。
「へぇ、なかなかの想像力だ」
「それでね、ルーナくんとヒメリちゃんは王子様とお姫様!」
「見た目からして分かりやすいな」
「でしょー!」
 アンテロスの瞳がきらきらと輝く。話を遮らず聞いてくれる蓼を相手にしたからか、彼女の想像はどんどん広がっていた。
「でも、ハクとソラも捨てがたいの。二人とも静かだから、最初は全然会話しなくて……でも、同じ窓辺で外を眺めてたりしたら……最高!」
「それはちょっとわかる気がするな」
「わかる!?」
「ああ。そういう静かな関係も悪くねぇだろ」
「えへへ、そうそう」
 アンテロスは満面の笑みを浮かべた。
 そんな二人の会話を聞いていたのか、窓辺のハクが一度だけこちらを振り返る。その隣では、ソラが二人を眺めていた。
「……おやつ、そろそろ来るんじゃねぇか?」
 蓼がそう言った直後。
 店員が猫たち全員分の数量限定おやつプレートを運んできた。
「わあっ、おやつ!」
 アンテロスが歓声をあげる。
 その声に反応して、チャイが駆け寄り、ヒメリも優雅さをかなぐり捨てる勢いで近付いてくる。きっとこのスペースは猫たちにとって天国のようなものだろう。
「ほらほら、みんな順番だぞ」
 蓼は笑いながら、猫たにおやつを分けていく。
 みーくんにクロロ、チャイとヒメリとルーナ、シエルにもっち、ソラやミルクに、そしてハク。それぞれ違う食べ方をする猫たちの愛らしさを眺めながら、アンテロスも楽しそうに声を弾ませる。
「ねぇねぇ」
「ん?」
「こういうのも……カップリングの形なのかな」
 アンテロスは同じ皿を覗き込むみーくんとクロロを見つめていた。その瞳は微笑ましげで、純粋にカフェを楽しんでいるように思える。
「まだ分からねぇけど、仲良くする方法なら、いくらでもありそうだな」
「……そっか」
 アンテロスは少し考えてから、柔らかく笑った。
「もっともっと見てみようかな。私の想像じゃなくて、この子たちがどうするのか」
「ああ。それが一番楽しそうだ」
 猫たちの可愛い鳴き声と、二人の笑い声が重なる。
 この魔法少女が最終的にどうするかの結論は、まだ先だ。けれど今は、それでいい。
 窓から差し込む穏やかな光の中、猫たちと過ごす時間。これだけは誰にも急かされることのない、楽しい時間に間違いないのだから。

 猫たちは思い思いに過ごし、アンテロスもその姿を眺めながら楽しそうに笑っている。今日という日に交わされた言葉は、きっと新たな未来を形作るだろう。
 いつの日かまた、皆で笑い合いながら平穏な時間を過ごせるように。
 そんな願いと共に――。
 こうして、この事件は誰ひとり傷つくことなく穏やかな結末を迎えた。

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