シナリオ

彼らにとっては、ただの日常

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マルザウアーン・ノーンテッレト
天國・巽

 自動ドアが開く音。
 気の抜けた入店音に、ポップな店内BGM。

 ガラス戸ひとつ隔てた先にある日常は、非日常と化していた。

「おいおい騒がしいな」
「どうした巽よ?」

 コンビニに入った瞬間、天國・巽は即時異変に気付いた。
 一歩遅れて足を踏み入れたマルザウアーン・ノーンテッレトは、巽の気配が一瞬緊張感を帯びたことに気付き、さらに一拍遅れて”原因”に注意を向けた。

 店内の四か所に1人ずつ、買い物客でも店員でもない者がいる。
 そのうちの1人は、レジ前で店員でナイフを突きつけていた。

 √能力者の間では楽園と呼ばれる√EDENにも、当然の如く犯罪はある。
 例えばコンビニ強盗。
 2人はたまたま折悪しく、その現場に鉢合わせたということだ。

「動くな!」

 入ってきた客ふたりに、犯人の1人が怒鳴る。
 一般人ならそれでビビッて動けなくなるだろうが、彼らは違う。

「よッと」

 巽は怒鳴る犯人を無視し、入口の傍に積んであった買い物カゴを掴むと、レジでナイフを突きつけている男――仮に犯人Aとでも呼ぼうか――へと投擲した。

「うぉ?!」
「流石ッ!」

 顔に引っ掛かってぐるぐると回転すぐカゴと、慌てふためくA。
 店員を助けるために走り出そうとしていたマルザウアーンが、してやられた犯人を見て笑顔になる。

「ザウ、|奥の買い物《二人A・B》任せた」
「うむ! 重いものは任せてくれッ!」

 それを目の端にして、巽は雑誌コーナーへ。
 彼の言葉に応じてマルザウアーンは踏み出しかけた足を方向転換、別の犯人Bが立っているコーナーに向かう。

「な、なんだテメェら!?」

 四人組の中では大柄で重そうな犯人Bは、肝っ玉は小さかったようで。
 仲間を無力化されて狼狽え、パニックに陥って矢鱈に腕を振り回す。

「みんなポテチ何味が好きだろうか!」

 だが|背丈《タッパ》ならマルザウアーンのほうが高い。縦だけでなく横幅も厚みもある。体格デカけりゃ声もデカい。
 犯人Bの腕を軽く受け止めて、その下顎に軽く掌底を打つ。目線は棚に並んだお菓子のコーナーに向けながら。

「コンソメは定番として……地域限定味!? これは絶対だなッ!」

 脳を揺らされて気絶したBには一瞥もくれず、目についた菓子類をぽいぽいカゴに入れていく。明朗快活・いつも笑顔の銀狼獣人おまわりさんは、普段はこんな輩よりもっと凶悪犯を相手にしているのだ。

「えー、頼まれたのはザンプとウェンズデー」
「手前、このやろ……!」

 一方、雑誌コーナーの巽には、顔を真っ赤にした犯人Cが襲い掛かる。
 最初に怒鳴ってきたのはこいつか。襟首を掴んで来たので逆に掴み返し、手首の関節を固めて体重をかけてやる。

「いでっ、いでででっ?!」

 痛みで動きを止めた男の頸動脈を、指先で摘んで10秒。
 失神してカクンと崩れ落ちるCを放り捨てて、巽は買い物を続ける。

「ンで、飲み物はコーラとカルピスと……?」

 冷たい飲み物のコーナーから、目当てのものをしゃがみこんで探す。
 その背後から別の犯人が近付いてきても無視。
 気付いてないわけではない、取るに足らないだけだ。

「ああ、ここか」

 犯人Dが殴りかかってくる瞬間、巽は掴んだジュース缶をそいつの足元に転がした。
 振り返りもせずに、完璧な間の計り方。
 勢いよくひっくり返ったDは「ぐべっ?!」と、頭を打って失神した。

「あーあー、大丈夫かよ」

 ひしゃげた缶と男を見て、呆れ顔で立ち上がる巽。
 その頃、レジでは犯人Aがやっとカゴから解放され、大慌てで刃物を拾うところだった。

「クソっ、なんなんだ一体!」

 Aが取り残されている数十秒のうちに、状況は一変していた。
 事態を把握する暇もなく、レジに突っ込んでくるマルザウアーン。

「お会計お願いしまーすッ!!」
「ごべぇッ?!」

 ニコニコ笑顔で元気よく叫ぶ大男に、強烈な頭突きをかまされ、最後の犯人Aも気絶。
 ごちーん!! と鳴り響く激突音が、店員お呼び出しチャイムの代わりだ。

「こっちも一緒に頼まァ」
「はぇ? は、はい……2534円になります」

 合流した巽が、マルザウアーンのと並べて買い物カゴをレジに置く。
 一連の流れを目の当たりにしてなお、理解の追いつかなかった店員は、呆けた顔で会計を行う。これが正常性バイアスというやつか。

「騒がしくて悪かったな? 早ェとこ警察よびな?」
「怪我がなくて良かった! じゃあなッ!」

 そのままふたりは店を出て、コンビニの脇道へ消える。
 まだポカンとしていた店員は、数秒遅れて我に返った。

「お、お客様ー!?」

 お礼も言ってない! と慌てて追いかけても、ふたりの姿は忽然と消えていた。
 普通の人間には別の√の存在も、そこに繋がる道も認識できない。

 偶然居合わせたコンビニ強盗を、一切動じず華麗に退治して去った謎の二人組。
 彼らはいったい、何者だったのだろうか。
 誰もいない脇道を見て、店員は不思議そうに首を傾げるのだった。

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