シナリオ

|AI《あい》に目覚めたアンテロス

#√マスクド・ヒーロー #√EDEN #ゾディアック・ミラー

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ゾディアック・ミラー

これは2章構成の期間限定シナリオです。09/23(水)16時頃までに完結したシナリオの結果により、宿敵の運命が変わります。
なお、期間中に宿敵主によって倒された場合、通常のルール通り宿敵は絶対死します。

●√マスクド・ヒーローのどこかの地下空間にて
「デュフフ…今日も沢山の美男美女たちに出会うことができたわ」
 長いピンク髪のツインテールの魔法少女らしい服装をした少女が、意気揚々と秘密基地にしている地下空間にへと降りる。
 地下空間は数十人は住むことの出来る程の広さがあり、しかも電気も水も使えるようで生活するには十分過ぎる程であった。
 そして魔法少女アンテロスは、スマホに記録した戦利品を手に、PCの前に座り作業を始める。
「この前は…邪魔されてしまったけれど、今度は大丈夫よね。だって実際の人達をどうこうするわけじゃないのだから」
 街中で見かけた美男美女たちの姿を撮影した動画を元に、魔法少女アンテロスは新たな動画を生成し、そして思うがままにカップリングさせているのだ。
 通常であるなら、そうした実在する人物の意志に反する行為をさせるのは動画であっても、セキュリティ上できないようになっている筈なのだが、新たに編み出した√能力『ハートクエイク・アロー』を画面からデータ上の人物のどちらかに撃つことによって、そのセキュリティを易々と突破してみせたのである。
「あとは私が入力しなくても、思いのままに素敵なカップルぶりを見せてくれるに違いないわ」
 その後、アンテロスは画面の中で意志を持ったかのように愛し合うカップル達の動画を夜が明けるまで視聴し続けるのだった。

●星読みからの依頼
「という事で、ゾディアック継承戦争から全然懲りていないようなのだ」
 星詠みを務めている、雪願・リューリア(願い届けし者・h01522)は、呆れながら依頼の詳細を伝える。
「魔法少女アンテロス、相も変わらず『ビジュのいい2人を無理矢理カップルにする』ことを諦めていないのだと、ゾディアック・ミラーから予知できてしまったのだ」
 だが流石に前回√能力者達にコテンパンにされた事を警戒して、やり方を変えてきたのだとリューリアは説明を続ける。
「今度のアンテロスは現実の世界で無理矢理カップリングさせようとしているのではなく、仮装世界で実現させようとしているぞ」
 アンテロスは秘密結社『プラグマ』が使っていたと思われる地下空間を拠点に、√マスクド・ヒーローの街に繰り出しては理想の美男美女の素材を探し出した後で、彼等を元にして動画を作り続ける日々を過ごしているのだという。
「どうもアンテロスは新たな√能力『ハートクエイク・アロー』を会得したらしい。その力はデータ上の存在であっても有効なようで、矢に射られた者はプログラムもセキュリティも関係なく、告白とかもっと先の行為を勝手にしてしまうらしいぞ」
 その先のことは聞かないでくれと念を押してから、リューリアは恥ずかしそうに続ける。
「本人達には何の影響はないのが幸いではあるのだが…どうもアンテロスは完成した動画を拡散する気のようだ。そうなってしまえば本人達の名誉や立場は大変なことになってしまうぞ」
 それは紛れもない犯罪行為なのだが、アンテロスはそれが違法行為であるとは思っていないようである。
「一応悪気はないみたいだから、説得すれば諦めてくれる可能性はあるぞ。といってもカップリングに対する執着は相当なものだから、違法行為であると指摘するだけでは諦めてはくれないだろうな」
 アンテロスが拠点にしている地下空間の場所は、ゾディアック・ミラーの予知により判明しているので迷うことは無くたどり着ける。
 地下空間は十分に広いので戦闘する分には何ら支障もないようである。
 ただ新たな力を得たとはいえ、前の戦いで散々な目に逢ったアンテロスは、√能力者達に対して積極的に戦おうとはしないだろう。
 やはり実物の方が素晴らしいとか、何らかの手段でアンテロスを満足させることができたなら、ひとまずは動画の作成も拡散も諦めてくれるようである。
「説得が上手くいかずにアンテロスと戦うことになるなら、彼女も必死に抵抗するようだ。アンテロス専用のミラーレイヤードに逃げ込んで、そこで仲間と合流することが予知されているぞ」
 戦うのなるなら、その点は注意して欲しいとリューリアは伝える。
「逆に説得することになるなら、アンテロスがよくリサーチに通っているゲームセンターとかで気分転換をさせるのが良いと思うぞ」
 その際の会話次第では、比較的平和な性格に変わる可能性もあるようである。
「説明は以上だ。やり方は任せるが、今度こそアンテロスに引導を渡して欲しい」
 説明を終えたリューリアは、√能力者達を現場まで送り届けるのだった。

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第1章 ボス戦 『魔法少女アンテロス』


世渡・鋼牙

 世渡・鋼牙(人間(√マスクド・ヒーロー)のヴィークル・ライダー・h02786)は、地下へ続く階段を慎重に降りると、地下特有のひんやりした空気と機械の稼働音が聞こえた。
 秘密結社プラグマが使っていたという広大な地下空間であり、今は魔法少女アンテロスが拠点として使っているのである。
「デュフフ……今日も素敵なカップルが生まれたわ……」
 情報通り、地下空間の奥では、長いピンク髪の魔法少女アンテロスがPCの前で動画を眺めながら頬を染めてニヤついている。
 鋼牙は咳払いし、アンテロスに声をかける。
「アンテロス。ちょっと話がある」
「きゃああ!何よ女の子の部屋に無断で入ってくるなんて!」
 うっとりと画面を見つめていたところを呼びかけられ、アンテロスはびっくりして振り返る。
「ま、また邪魔しに来たの?今回は無理矢理カップル化している訳じゃないのよ。ただデータ上の推し達が勝手に愛し合ってるだけなんだから」
 アンテロスが必死に言い繕っている中、画面には見た目麗しい少年と少女が愛し合っている姿が映し出されている。
「いや、オレもオタクだから好きなカップリングとか妄想したりそれをイラストなんかで形にする分には全然理解できる」
 気まずさを感じながらも、鋼牙は弁明を続ける。
 違法だから、じゃ止まらないなら、別方面で攻める作戦に出たのだ。
「尊い、は分かる。すごくわかる。だが拡散はいかんだろ。動画の元にされた本人達の名誉や立場を壊す可能性がある。布教にしても一気にって言うのは解釈違いだ。余計な争いの火種にしかならない。だから、広げたいならそれこそ直接語って布教するのが地道だがベストだ。あと、特別感が薄れる」
「ど、どういうこと?」
 ただ否定されると思っていたアンテロスであったが、鋼牙の思わぬ言葉に戸惑いの表情を浮かべる。
 鋼牙はゆっくりと歩み寄り、画面を指して話を続ける。
「それにだ、自分だけが知ってる、自分だけが楽しめるっていう特別感……あれは格別だ。個人の範囲なら、どんな過激な展開でも自由だし、誰にも迷惑をかけない」
 だから動画を拡散するのは止めて欲しいと、説得を試みる鋼牙であったが、アンテロスは首を横に振る。
「でも、せっかく作ったのに、誰にも見てもらえないのは勿体ないじゃない」
 推しカプを自慢せずにはいられない、アンテロスもそんな承認欲求が抑えられない一人の少女のようである。
「その気持ちは理解できる。ならば見せる相手を選べばいい。信頼できる仲間とか、同じ嗜好を共有できる人とかさ。無差別に拡散するより、ずっと満足できるはずだ。もちろん彼等にも拡散はしないように約束した上でだぞ」
 そう鋼牙に熱弁を語られ、アンテロスは黙り込んだ。
 元より戦っても簡単に勝てる相手ではないのは、前回の戦いから思い知らされており、しかも一人相手では新たに編み出した√能力『ハートクエイク・アロー』も大して役には立たない。
「動画を作るのは止めなくていい。ただ、個人…いや身内の範囲内で楽しむ。それでどうだ?」
 そんなアンテロスの心情を察した鋼牙は、このまま懐柔すべく畳みかけるのだった。

パトリシア・バークリー

「さあ、行こうか」
 パトリシア・バークリー(アースウィッシュ・h00426)が地下空間に足を踏み入れ、魔法少女アンテロスが居ると思しき部屋の扉に手をかける。
 そして扉を開けると、案の定彼女はPCの前でツインテールを揺らしながらウキウキしていた。
「いいわもっと、カップルぶりを見せて頂戴!」
 PCに映された動画に夢中になっているアンテロスは、まだパトリシアの侵入に気付いていないようである。
「アンテロス、こんにちは。今日も元気にLOVEに励んでるかな?」
 パトリシアは軽く手を振って声をかける。
「もちろんよ!この前は邪魔されたけれど、今度は大丈夫よね。だってAIが仮想世界の中で勝手にやっているだけなのだから、ってあなた誰よ!」
 つい気軽に返事をするアンテロスであったが、パトリシアが√能力者であることに気付いて、慌てて弓を構える。
 アンテロスが新たに手に入れた√能力『ハートクエイク・アロー』。
 アンテロスが実在の人物達に作り上げたデータ上の存在に、矢を撃ち込み、プログラムもセキュリティも無視して恋に落とさせた力である。
「その弓の腕、大したもんだねぇ。ディスプレイの中の動画に命中させるなんて」
「そうよ。どんな存在だろうと私の弓にかかれば恋に落としてみせるわ」
 アンテロスは不敵な笑みを浮かべているが、その手は震えているのをパトリシアは見逃さなかった。
「ああ、あたしは動画作りは止めないよ。実害も出ないしね。問題はその後」
 強張っていたアンテロスの表情が曇る。
「その後……?」
「できあがった素敵な動画って、そんなにみんなに見てもらいたいかな?」
 確かに動画を作って自分だけで楽しむだけなら、大して問題は無いのかもしれないのだが、その動画をネット上に拡散するとなれば話は別である。
 元となった本人たちの人権は無視され、名誉は傷つけられることだろう。
 パトリシアは言葉を重ねる。
「自分一人が、誰も知らない素敵な秘密の動画を持ってるって、いい気分にならない?ネットで拡散させたら、アンテロスが作った動画でいけないことする人も出ると思うよ。そうなったら、自分の努力が穢されたって感じないかな?」
「う、うう……」
 それからアンテロスは黙り込む。
 その沈黙は、彼女が本気で考えている証拠である。
 パトリシアはそこで勝負に出た。
「よければさ、あたしのハーレムに来ない?」
 予想だにしていなかった誘いに、アンテロスが目を丸くする。
「ハーレム……?」
「作り物の動画なんかじゃなく、実際のみんなが恋人で、いっぱい楽しめるよ」
「え、ええと……」
 アンテロスは頬を赤らめ、視線を泳がせる。
 推しカプ厨ではあるが、いざ自分がその立場になるということは、考えてもいなかったようである。
「これは脈ありかしらね?」
 アンテロスが明確に拒絶の態度を見せず、心が揺らいでいる様子に、パトリシアは更に言葉を紡ぎ出すのだった。

スアン・ラバラティーソ
ニューエン・ヴァン・キート
リーガル・ハワード

「よし。僕も警視庁異能捜査官カミガリとして協力しよう」
 話を聞いて協力を申し出たのは、端正な顔立ちと落ち着いた物腰の青年であり、異能捜査官を務めるリーガル・ハワード(イヴリスの|炁物《きぶつ》・h00539)である。
 警察官としてもフェイク動画の拡散は、阻止すべき案件なのだ。
「へへっ、面白そうな話ッスね。そういうことなら、この俺……いや、私にお任せを!」
 同じく今回の依頼を快く請け負ったのは、ニューエン・ヴァン・キート(機械仕掛けのフリークスバスター・h13669)、四義体サイボーグの身体を持つ、自称フリークスバスターの風来坊である。
 普段は荒事が得意な性分ではあるが、今回の主犯が年若い魔法少女であると聞かされ、どこか芝居がかった様子を見せている。
 そしてニューエンの視線の先には、彼にとっては年上である女性、スアン・ラバラティーソ(頂に響く祈りの暴風・h13024)の姿があった。
「ユニークなことを思いつくものね。でも、流石に拡散行為は止めなくちゃねぇ」
 最後にゆっくりと口を開いたスアンは、3人の中では年長者であり『おばあちゃん』を自認する、世話焼きで温和な女性である。
 荒事よりも平和的な解決を望んでおり、それはリーガルとニューエンも同じである。
 一行が辿り着いたのは、秘密結社『プラグマ』が使用していたとされる地下空間。
 数十人は住める広さがあり、電気も水も通っているその場所は、今のアンテロスにとって絶好の隠れ家となっている。
 そんな地下空間の奥の部屋で、ピンク髪のツインテールの魔法少女の姿を目撃する。
「うう……私はどうすれば」 
 3人が目撃したアンテロスは、事前に聞いていた情報より大分様子が違っていた。
 画面の中で不自然に惹かれ合う男女の動画を見つめ、恍惚な笑みを浮かべているかと思いきや、画面など目もくれずに隅で頭を抱えている。
 どうやら先の√能力者達の説得によって、アンテロスの心は揺れ動き思い悩んでいるようである。
 他の√能力者達はこの場には居ないようである。
 恐らくはアンテロスに考える時間が必要であると、配慮してのことなのだろう。
「おっと、お悩み中のトコ悪いッスね、お嬢ちゃん」
「ひゃあああ!」
 ニューエンが軽快な足取りで近づき声をかけると、アンテロスは盛大にびっくりする。
「な、何よあなたたち!やっぱり私に酷いことをするつもりなのね!」
 警戒して立ち上がり、アンテロスは『ハートクエイク・アロー』の構えをとる。
 特にスアンに対しては、天神地下街の件もあって、かなり警戒しているようであった。
「お、落ち着いてもらおうか。手荒な真似をするつもりはないし、人聞きの悪いことを言わないでもらいたいな」
 それこそ動画にでも拡散されたら、とんでもない誤解をされかねない状況であることを承知しつつ、リーガルは慌てて取り繕う。
 無関係の一般人たちを映した不法な動画の拡散を阻止しなければならないが、下手に刺激しても、彼女専用のミラーレイヤードに逃げ込まれたら面倒なことになってしまう。
 リーガルは丸腰であることをアンテロスにアピールしつつ、その裏でいざとなれば即座に追跡できるよう用心するのは忘れない。
「待って、待って。戦いに来たわけじゃないのよ」
 張り詰めた空気を和らげるように、スアンが微笑みを浮かべて一歩前へ出た。
 その手には菓子の入った包み紙が握られていた。
「そうそう、博多土産のお菓子、良ければ一緒に食べましょう? 今はネットで色々出来て便利ねぇ」
 スアンが丁寧にお菓子の包みを開けると、甘い香りが地下空間に漂った。
 その香りに反応して、アンテロスのお腹が小さく鳴る。
 編集作業に夢中になっているあまり、長時間何も食べていなかったのだろう。
「……お、お菓子なんかに釣られないんだから!」
 それでも強がるアンテロスだったが、視線は完全に博多土産に釘付けになっていた。
 スアンはふふっと笑い、アンテロスの隣に腰を下ろす。
「俺からも差し入れッスよ」
 そこへニューエンも便乗して、お土産を広げる。
 コンビニで購入できるような菓子類ではあるが、ニューエンなりに相手が少女であることを配慮した上で厳選した品々である。
「別に食べ物で釣る訳ではないぞ」
 リーガルも嘆息しながら、上等のお茶を全員分用意する。
 半ばお茶会のようになった空気の中で、スアンはぽつりと語り始める。
「“宝石”はね、忘れようとする力が働いたみたいなの。今頃は、平和な日々を送ってくれていることを願っているわ」
 語り続けるスアンの静かな言葉にアンテロスも思わずお菓子を食べるのを止めて、彼女の言葉に耳を傾けている。
「こうやって、色々な出来事を通して、人は誰かと縁を結んで、同じ思い出を作っていって。その先に、恋愛や結婚があるのだと思うの。誰かを好きになった時に、同じ思い出や、好きなものを共有する時間があった方が、とても素敵だと思わない?」
 スアンの言葉に、アンテロスの表情がわずかに揺らいだ。
 彼女が愛しているのは『尊いカップル』だが、それはあくまで外見や自分の妄想に基づいたものであり、当人たちが築き上げる本物の『縁』や『時間』の重みについて、深く考えてはこなかった。
「そ、それは……そうかもしれないけど……」
 これまでの√能力者達の説得の甲斐もあって、アンテロスの心は傾きかけている。
 スアンは畳みかけるようにアンテロスの目を見つめ、諭すように続けた。
「でも、そういう思い出を作っている時に、どうして生まれたのかも分からない噂や動画があると、ショックを受けると思うの」
 その言葉に、アンテロスはハッとした。
 自分の欲望のままに拡散しようとしていた動画が、推しであるカップルたちを、不幸にしてしまう光景を初めて思い浮かべたのだ。
「バアは、推しというものには詳しくないけれど、好きな人たちが不幸せになっていくのを見るのは、とても悲しいことだと思うわ」
「そんな……私は……」
 アンテロスが力なく呟く。
 これまでの彼女も悪気はなく、ただ好きなものを愛でたいという純粋すぎる情熱が、暴走していたに過ぎないのだ。
 そこへニューエンからもフォローが入る。
「ま、そういうこった。ほどほどにしておいた方が、楽しく生きられるってもんだぜ?」
「……まあ、そういうことだ。他人の尊厳を蔑ろにすれば、自身も傷つくことになる。今の君のようにな」
 リーガルも真摯な態度で二人に同意する。 
「一度、動画作りはお休みして。バアに、推しについて教えてくれないかしら?」
「え、ええ勿論よ!」
 スアンが優しく問いかけると、アンテロスの瞳に再び輝きが戻った。
 どうやら立ち直りは、早いようである。
「い、いいわ。私の見つけた最高の尊さについて教えてあげるわ。でも、この場所では教えられないから、場所を変えてもいいかしら?」
 アンテロスの提案に、スアンはニコニコしながら頷くのだった。

第2章 日常 『ゲームセンターで遊ぼう』


「さ、さあ着いたわよ」
 地下空間で√能力者達に説得されたアンテロスは、渋々と頻繁に通っている巨大ゲームセンターへと案内する。
 このゲームセンターではUFOキャッチャーやコインゲームなどの機械のある施設だけでなく、バッティングセンターやカラオケと野球用のグラウンドにテニスコート、フードコートまであったりと、殆どテーマパークに近い場所であった。
 ここには遊ぶ目的で大勢の人々が集まるので、アンテロスが推しカップルを見つけるには相応しい場所であると言えるだろう。
 密かに遊びもせずに怪しげな格好で徘徊している少女と噂されていたりもするが、当の本人は大して気にしていないようである。
「と、いう訳で私の気持ちを変えたければここで私を納得させてみなさい」
 拠点としていた地下空間では弱気であったアンテロスも、賑やかな場所に移動したことで幾分か強気になっているようである。
 今は敵対する意識も一般人をハートクエイク・アローで撃つ気配も感じられないが、時間が経てばまた気が変わって再犯に及ぶという可能性も十分にある。
 アンテロスを心変わりさせるには、あと一押しが必要なのである。
 といっても、アンテロス自身はこの巨大ゲームセンターで推し活を進めることばかりで、あまり遊んだことは無いようなので、一緒に遊んであげれば懐柔するのも難しくはなさそうである。
パトリシア・バークリー

「こりゃまた大規模なゲーセンだね。あたしが時々遊ぶとことは大違い」
 見渡す限りのゲーム機の数々に目を輝かせながら、パトリシア・バークリー(アースウィッシュ・h00426)はアンテロスに話しかける。
「アンテロスは、普段どのゲームで遊んでるの? まずはそれからやろうよ」
「えっ? 私は推しカプ候補を観察しに来てるだけだし……」
 普段は魔法少女の格好でゲームセンター内を徘徊し、推しカプ候補がいないかを観察しているばかりで、アンテロス自身は実際に遊んだ経験がないため、突然のパトリシアの誘いに、しどろもどろになってしまう。
「せっかくこんな場所に来てるんだから楽しまなきゃ」
 それからパトリシアとアンテロスは、ゲームセンター内を回り始める。
 まずは軽く協力プレイのアーケードゲームを楽しんだ。
「あともう少しでクリアだったのに」
 悔しがっている様子からもアンテロスなりに楽しんでいたようで、パトリシアは上機嫌になる。
「それじゃ、次行ってみよう!」
 その後もパトリシアは遠慮なくアンテロスを連れ回した。
 二人は対戦格闘ゲームでボタンを連打し合ったり、ガンシューティングで撃ち合ったりと、様々なゲームを遊び続けた。
 最初は警戒していたアンテロスも、次第にゲームセンター本来の楽しさを満喫しているようである。
「よし、ゲーセンならやっぱりプリクラだよね」
 それからパトリシアが次に提案したのは定番のプリクラである。
 狭い空間の中でアンテロスと一緒に、カメラに向かってピースサインを作る。
「ち、ちょっと近すぎるわ!」
 戸惑うアンテロスを尻目に、シャッターが次々と切られる。
 パトリシアは手際よく画面にタッチして、デコシール一杯の写真を撮るのだった。
 プリントアウトされたシールを切り分けながら、パトリシアは躊躇いなく自身のスマホに貼り付け、アンテロスにも渡す。
「お互いのスマホとかに貼ろうよ。友達なら、シール交換くらい当たり前だって。……それとも、恋人ならって言ってほしかった?」
 パトリシアのからかうような発言に、アンテロスは顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。
「さて、カラオケ行く前に腹ごしらえ。あたしはしおラーメン頼むけど、アンテロスは?」
 パトリシアは気を取り直して、アンテロスを引き連れてフードコートへ向かう。
「……じゃあ、私はクレープで」
 すっかり大人しくなったアンテロスと一緒にパトリシアは、賑やかな喧騒の中で食事して過ごしたのである。
「いつもこうやって観察しているのかしら?」
「べ、別にもういいでしょ!」
 他愛のない会話も交え、アンテロスとの距離がさらに縮まっていくのを感じた。
「よし、お腹もくちた。カラオケ行ってみよう!」
 最後の締めくくりとばかりにカラオケボックスへと向かう。
 部屋に入って早々にマイクを握ったパトリシアは、アンテロスに問いかける。
「アンテロスは――もちろんアニソンだよねぇ」
「え?そうだけれど…」
 図星を突かれアンテロスが戸惑う中、先にパトリシアが歌い始める。
「あたしの美声に聞き惚れるといいよ」
 パトリシアがセレクトしたのは、激しくも美しいメロディックメタルである。
「うわ…すご…」
 その歌声はアンテロスも思わず聞き入ってしまう程であった。
 それからもしばらくの間、二人は交互に歌い続けるのだった。

世渡・鋼牙
スアン・ラバラティーソ
リーガル・ハワード

「腹を割って話すにはうってつけの場所だな」
 世渡・鋼牙(人間(√マスクド・ヒーロー)のヴィークル・ライダー・h02786)が、ゲームセンターの喧騒を見回しながら呟いた。
 重甲着装者としての頑強な体躯を持つ彼だが、今は騒ぎとならないよう客達と変わらない服装をしている。
「とっても楽しそうな場所ねぇ!遊べるものがこんなに多いと、何をしようか迷ってしまうわぁ」
 朗らかに声を弾ませるのは、スアン・ラバラティーソ(頂に響く祈りの暴風・h13024)である。
 少女のように瞳をキラキラと輝かせている。
 その一方で、警視庁異能捜査官のリーガル・ハワード(イヴリスの|炁物《きぶつ》・h00539)は、コートの襟元に手を添えたまま、どこか居心地が悪そうにしていた。
「実は僕、こういった場所にはプライベートで行ったことがないんだ。捜査や張り込みならあるが……縁がなかったというか。漠然とした知識なら持っているけれどね」
 3人の反応を見つめ、魔法少女アンテロスはどこか誇らしげにしている。
「ふん、どうせあなたたちに、ここの素晴らしさが分かってないでしょ?」
 だがそうふんぞり返るアンテロスも、施設内で遊んだ経験はそれほどなく、ただゲームセンターに通う若い客達を観察して妄想を膨らませていただけに過ぎない。
「……と、いうことで。案内をお願いしてもいいか?」
 そんなアンテロスに対して、リーガルは自ら歩み寄り、そしてこう続けた。
「推しを見つけるのも結構だが、本来の楽しみ方を知るのも大事だと思うんだ。ふたりで楽しめるもの……できれば、身体を動かせるやつがいい」
「なっ……! わ、私に指図する気!?」
「ごめんなさいね。私達もあまりこの場所には慣れていないからね」
「そうそう、楽しみ方は人それぞれだしな」
 つい捜査官の癖が出てしまったリーガルに、スアンと鋼牙がフォローを入れる。
 不服そうに頬を膨らませつつも、アンテロスは足早にスポーツフロアへと3人を先導するのだった。

 連れて行かれたのは、エアホッケー台が並ぶエリアだった。
 初心者でも遊びやすい無難なチョイスであると言える。
「ここならどう?返り討ちにしてあげるわ!」
「望むところだ。手加減は無用だよ」
 まずはリーガルが相手をすることとなった。
 ゲームが始まると、アンテロスは思わぬ反応速度でゴールを狙って撃ち返してくる。
 彼女は推しカプ廚の引きこもりな印象であったが、元々身体能力は高いのだ。
 一方のリーガルはエアホッケーには慣れていないせいで、ぎこちない動きで失点を重ねてしまう。
「このままストレート勝ちよ!」
 アンテロスが得意げに畳みかけようとする。
 だが、リーガルの学習力は極めて高く、僅かの時間でエアホッケーのコツとアンテロスの攻撃パターンを見切って、反撃を開始する。
「えっ!? ちょっ、嘘でしょ!?」
 終わってみれば逆転負けとなり、アンテロスは愕然としてしまう。
「フン。余裕ぶってるからそうなるんだ」
 リーガルも大人げなく勝ち誇ってしまう。
 やっている内に彼自身もゲームを楽しんでいた証拠である。
「も、もうひと勝負よ!」
 アンテロスもムキになってリーガルに再戦を申し込む。
「白熱した勝負になりそうだ」

「ふふ、二人ともいい勝負だったわねぇ」
 水分補給し休憩してから3人とアンテロスは次のコーナーへと向かう。
 白熱した勝負に賞賛の言葉をかけるスアンの傍らで、鋼牙は周囲の筐体を品定めするように眺めていた。
(次は俺の番だが……ここはゲームのチョイスがものを言うな)
 まず目に入ったのはUFOキャッチャーだが、鋼牙は一瞥して首を振る。
(カップルの定番みたいなイメージがあるが、アームの設定が弱い事が多くて実質店の貯金箱だ。取れずに苛立たせても逆効果だ)
 マンガやアニメなら、主人公は何故かUFOキャッチャーが上手かったりするのだが、生憎とそこまで器用ではないことを鋼牙は自覚している。
続いて格闘ゲームの列を見るが、これも却下だ。
(キャラゲー要素もあるから反応はしてくれるだろうが……練度がダイレクトに反映されるからな。納得させる以前にアンテロスの心が折れちまう)
 色々と悩んだ挙句、鋼牙が足を止めたのは、二人乗りの大型筐体を備えたガンシューティングゲームの前だった。
(シューティング……これなら良いかもな。武器の違いはあれど、ハートクエイク・アローを扱う以上、射撃にはそれなりに自信ありと見た)
 実際、反射神経に優れているのは先ほどのエアホッケーでも証明されている。
 鋼牙はこれにしようと決心するのだった。
「おいアンテロス。次はあれで勝負しようぜ」
「ふふん、言っておくけど、私は的を射抜くことに関しては誰にも負けないわ!」
 勝負に乗ってきたアンテロスが、備え付けのモデルガンを両手で構える。
 どうやら鋼牙の見立ては間違っていないようである。
 ゲームが始まると、アンテロスは見事な精密射撃を披露して、高得点を稼いでいく。
 鋼牙もまた、持ち前の反射神経で次々と標的を排除して、アンテロスと僅差に持ち込んでいく。
「状況や相手を見て客観的に判断する、ってのは大事だ。まあ言うは易し、で中々難しいけどな」
「ふ、ふん…偉そうに!まだ勝負はこれからよ」
 そしてゲームはボス戦へと突入し、激しい争奪戦が繰り広げられた。
「や、やったわ。私の勝ちね!」
 鋼牙より先にボスを倒すことに成功し、大量得点を得たアンテロスは勝利に喜ぶのだった。
「負けちまったな…」
 悔しそうにする鋼牙ではあったが、内心ではホッとしていた。
 実は鋼牙は、あえて要所要所で意図的にミスをすることで、アンテロスに華を持たせるようにしていたのだ。
 バレたら興ざめさせてしまう、ある意味リスクのある判断ではあったが、幸いにもアンテロスには気づかれてはいないようである。
「私の狙いはいつだって百発百中なんだから!でも、あんたの腕も悪くなかったけどね」
 アンテロスの中に、確かな親愛の情が生まれているようであった。

「あらあら、お二人ともとってもかっこよかったわぁ!」
 二人の勝負を見届けていたスアンが、ふんわりとした笑顔で手招きをした。
「バアもね、やってみたいものを見つけたのよ。あちらへ行ってみましょう?」
 そう言ってスアンが案内したのは、先ほど鋼牙が『貯金箱』と断念したクレーンゲームのコーナーだった。
 ガラスケースの中には、色とりどりのぬいぐるみが山になるほど積まれていた。
「やっぱりとても可愛らしいわね! 表情もたくさんあるのねぇ」
 スアンは目を輝かせてぬいぐるみを眺めている。
「気になるなら挑戦してみればいいんじゃない。私は上手くできそうにないけれど」
 アンテロスもぬいぐるみが気になりつつも、自分からは取れる自信はないようである。
「バアもあまり遊んだことはないのだけれど……山になるほど積まれているのなら、簡単に取れるかしら? いくつかとって、お揃いにしましょう!」
「あんなのアームがゆるゆるに設定されてて、簡単に持ち上がらないんだから!山積みになってるのも滑り落とすための罠に違いないわ!」
 ゆるゆるなスアンに、アンテロスが思わずツッコミを入れてしまう。
「まぁ、そうなの? 世の中には色々な仕掛けがあるのねぇ」
 スアンは微笑みながらコインを投入した。
 案の定、アームはぬいぐるみをかすめただけで空しく上昇していったが、スアンは全く気落ちした様子もなく、再チャレンジする様子に、アンテロスは思わず割って入る。
「も、もう!見てられないわね!」
 それからアンテロスは、悪戦苦闘しながらもどうにかぬいぐるみを2個ゲットすることに成功するのだった。
「まあ!本当に取れてしまったわ!」
「これくらい当然よ!これあげるわ。2個持っていても仕方ないし」
「まぁ、ありがとうねぇ。精霊たちも、きっと喜ぶわぁ!」
 アンテロスから差し出されたぬいぐるみを、スアンは嬉しそうに受け取るのだった。

「たくさん遊んだし、フードコートにも寄りたいわ」
 スアンの提案に、一行は館内のフードコートへと移動する。
 多くの客達で席が埋められていたが、どうにかテーブル席を確保して、それぞれ好みの物を購入した。
 スアンの手元にあるのは、季節限定のモンブランクレープである。
「栗の甘みが程よくて美味しいわね!」
「そう?別に普通じゃない」
 幸せそうにクレープを食べるスアンの姿に、アンテロスの表情も自然と和んでいくのがわかる。
「アンテロスの分もあるぜ」
 そこへ気を利かせた鋼牙が、同じようなクレープをアンテロスに差し出した。
 リーガルも甘い物ばかりだと喉も乾くだろうと、全員分のアイスコーヒーを用意するのだった。
 それから4人は落ち着いたひと時を過ごしていく。
「そうそう。あなたの『推し』について、色々聞かせてもらっても良いかしら?」
 スアンはクレープを一口味わったあとで、アンテロスに問いかける。
「……え?いいの?」
 思わぬ問いかけにアンテロスは目を丸くする。
 スアンが優しく促すと、アンテロスは堰を切ったようにマシンガントークを始めるのだった。
 その内容は3人には完全には理解できるものではなかったが、その熱意だけははっきりと伝わってくる。
「こういう時間を共有するのも、とっても楽しいものねぇ!」
「興味深い話は聞けたよ」
 捜査官としても年頃の少女の感性を知るいい機会でもあったと自分に言い聞かせながら、リーガルも便乗して頷く。
(ま、この様子なら、もう心配なさそうだぜ)
 ここで敢えて説教するような言葉をかけるのは無粋だろうと、鋼牙はそのまま流れに任せて、アンテロスの心が解きほぐされいく様子をしっかりと見届けるのだった。

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