シナリオ

恋とプールとクリームソーダ

#√マスクド・ヒーロー #√EDEN #ゾディアック・ミラー #受付:9月10日(木)〜9月16日(水)23:59 #リプレイ執筆中

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 #√マスクド・ヒーロー
 #√EDEN
 #ゾディアック・ミラー
 #受付:9月10日(木)〜9月16日(水)23:59
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ゾディアック・ミラー

これは2章構成の期間限定シナリオです。09/23(水)16時頃までに完結したシナリオの結果により、宿敵の運命が変わります。
なお、期間中に宿敵主によって倒された場合、通常のルール通り宿敵は絶対死します。

●プールサイドのきらめき
 夏の日差しが降り注ぐ、√EDENの屋外プールレジャー施設。多くの人々で賑わうこの場所は、プールサイドの飲食店にも列ができていた。
 店のカウンターで注文すれば、手渡されるのは巨大なグラスになみなみと注がれたドリンク。それを嬉々として受け取る人々は、恋人や友人など、二人組が多かった。
 それもそのはず、この店の目玉商品は二人で飲むことを推奨されているクリームソーダ――その名も、『恋のときめき★クリームソーダBig』なのだ。大人の掌よりも大きいくらいの巨大グラスの中で、パチパチと弾ける色とりどりの炭酸ドリンク。上には二つの大きなアイスクリームが乗せられていて、その味も好きに選べるのだとか。おまけにドリンクに刺されたストローは、飲み口が二股になったもので――見るからに、カップル向けであることが窺えた。
 大きなクリームソーダは、それだけで画になる。さらにそれをプールサイドのパラソル付きのテーブルで写真に収めれば、SNS投稿向けの一枚が撮れる。ある日そんな投稿がバズったことにより、ここは連日ドリンク目当ての客が長蛇の列を作っているのだった。
「素敵……! このドリンクを飲んでる推しカプなんて、妄想捗っちゃう!」
 看板を見て歓喜の声を上げたのは、√マスクド・ヒーローの簒奪者、『魔法少女アンテロス』だった。彼女は桃色の瞳を輝かせ、パラソルの下でドリンクを飲む人々へ視線を移す。
 彼女が目を留めたのは、仲良くクリームソーダの写真を撮っている女性二人のグループだった。見るからに、SNS投稿目当ての友人同士といった雰囲気である。でも、彼女にとっては今の関係性などどうでもいい。重要なのは、『ビジュが好み』であるかどうかだけだから。
「うーん、キラキラ女子達の百合カプ! いける! 私の『ハートクエイク・アロー』で二人をくっつけちゃお!」
 興奮気味のアンテロスが、愛らしい見た目の弓に矢を番える。その√能力が女性二人に突き刺されば、本人達の意思は無視されたカップルが誕生してしまう。

●推しカプ養殖計画を阻止せよ
「みなさん、『ゾディアック継承戦争』お疲れ様でした! 今回は、あの戦いで獲得した謎の神器『ゾディアック・ミラー』による予知をお伝えします!」
 集まったEDEN達へ、ぺこりと頭を下げて。星詠みのアリス・アイオライト(菫青石の魔法宝石使い・h02511)は語り出すと、彼らに一枚のパンフレットを差し出した。
「事件の発生場所は、√EDENの屋外プールレジャー施設です。ここのプールサイドに、人気の飲食店があるのですが……そこを訪れているお客さんを狙って、『魔法少女アンテロス』が現れます」
 √マスクド・ヒーローの|魔法少女現象《プエラマギカ・フェノメノン》で覚醒した、魔法少女の簒奪者。彼女が危険な√能力を編み出し、密かに陰謀を進めようとしている――そんな予知を『ゾディアック・ミラー』が伝えているのだとアリスは語るが……そこで彼女は、苦笑を浮かべた。
「とはいえ、アンテロスの狙いは一般人を危機に陥れることではなくてですね……どうやら、『見た目のいい二人を無理矢理カップルにする』ことが企みのようなんです」
 私知ってますよ、こういうのを『顔カプ』と言うのですよね。そんなことを言ったエルフの星詠みは、首を傾げるEDEN達を気にせず説明を続ける。
「ええ、アンテロスの趣味嗜好を優先し、本人達の意思は無視してくっつけようとするという点で十分に悪い企みです! 見た目だけでくっつけられたら、堪らないですよね! ですので、みなさんには彼女の狙いを何としても阻止していただきたいんです!」
 そう一息に語ると、アリスはEDEN達へパンフレットを広げて見せて、施設内地図の一点を指差す。プールサイドの飲食店――ここが、今回アンテロスが現れる場所だと告げながら。
「みなさんは、アンテロスが最初の矢を撃つより先に現地に到着できます。列に並んでいただいても十分間に合いますので――まずは、『恋のときめき★クリームソーダBig』を注文してください!」
 ――何て? 突然飛び出した不可解な名称に、EDEN達の表情が複雑なものになる。エルフの星詠みは『そうでしょうとも』と頷きながら、スマートフォンに一枚の写真を表示して見せた。
「どうやら、√EDENのSNSではこの飲み物がバズっているようでして……何というか、いかにもカップル向けな飲み物でして……『魔法少女アンテロス』は、これを飲んでいる二人の中から、好みの見た目の人を探そうとするようなんです」
 だから、一般人に恋の矢を放つ前に、EDEN達が対象となってほしい。アリスはそう語ると、さらに続ける。
「もちろん、『ハートクエイク・アロー』を受ける必要はありません。EDENとはいえ、喰らったらアンテロスの思うままになってしまうかもしれませんからね。彼女の注意を引き付けることさえできれば――後は戦うでも、話題を逸らすでも、話しかけて説得するでも。お好きな方法で対処いただければと」
 目的は、『魔法少女アンテロス』の注意を引き付けること。そのためには、『恋のときめき★クリームソーダBig』を頼むだけではなく、ちゃんと楽しまなくてはならないという。写真を撮ったり、一緒に飲んだり――これが意外と距離が近くて気恥ずかしかったりするのだが、√EDENの一般人にはそんなところもウケているのだとか何とか。
「……ええと。人を選ぶ依頼だとは思うのですが……ええ、依頼ですからね! ぜひ頑張っていただいて、大きなクリームソーダを美味しくいただいてきてください!」
 にっこりと笑った星詠みは、そのままEDEN達を√EDENへ続く道へと導く。そしてそこで、『あ』と思い出したように一言だけ付け加えた。
「場所は、プールですので。もちろん水着での参加です! では、よろしくお願いしますね!」

マスターより

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第1章 ボス戦 『魔法少女アンテロス』


●共に飲むクリームソーダ
 賑やかなプールサイドには、パラソル付きのテーブルが並んでいる。夏休みの屋外プールレジャー施設は水着姿の人々で混み合っているけれど、このテーブルを利用するのは飲食店の客ばかり。主な目当てがクリームソーダということもあって、席はすぐに空いて入れ替わりで利用できるようだ。
 飲食店の看板を見れば、色とりどりのドリンクの写真の上に『恋のときめき★クリームソーダBig』と書かれている。クリームソーダというと緑色のメロンソーダを連想するものだが、この店のソーダは複数のフレーバーから選ぶことができるよう。もちろん定番の緑色もあるし、赤色のイチゴソーダ、青色のラムネソーダ、紫色のグレープソーダに桃色のピーチソーダ、それから黄色のパインソーダがあるらしい。
 大きなグラスに注がれるソーダの上、乗せられる二つのアイスもフレーバーを選べる。バニラをはじめ、チョコレート、クッキー&クリーム、ストロベリー、チョコミント、そして口の中で弾けるキャンディ入りバニラアイスも。映える写真を求めて訪れる客にとっては、ソーダとアイス二種の組み合わせこそが腕の見せ所。それが目当てではない者も、ソーダに溶けるアイスとの味の組み合わせを考えるのはきっと楽しいだろう。
 注文した巨大クリームソーダをカウンターで受け取ったら、テーブルの席についてさっそくいただく。写真を撮ったりお喋りしたりしてもいいが、『魔法少女アンテロス』を誘い出すつもりなら共に来た人と一緒にストローに口をつけるのがいいだろう。きっと、その瞬間に興奮気味の簒奪者が現れるはずだ。
 アンテロスへの対処は、EDEN達に任されている。戦いを仕掛けるならば多少周囲へ配慮する必要はあるだろうが、ここは√EDEN。周囲の人々が混乱して逃げていっても、『忘れようとする力』があるからパニックが広がることはない。穏便に済ませたいということならば、アンテロスと会話することもできる。カップルの『推し方』について説いたり、はたまた自分の『推し』を語って時間を稼いだり――とにかく一般人に『ハートクエイク・アロー』を向けさせないように働きかければ、それだけでいい。
 EDEN達がテーブルにつく時、アンテロスは瞳を輝かせて矢を向けるべきカップルを物色している。その瞳を引き付けるため、そして自分達も楽しむために。こだわりの組み合わせの『恋のときめき★クリームソーダBig』を選ぶのも、作戦の内なのだ。
冬迦・アールグレイ
四希・アーデュラ

 賑やかなプールサイドに、アイスブルーの水着を纏った少女が現れる。
「涼しいのはいいけど気恥ずかしいわ」
 そう呟きながら飲食店の列に並ぶ、|冬迦・アールグレイ《とうか・アールグレイ》(エルフの雷の|精霊銃士《エレメンタルガンナー》・h13145)は肌を露出したビキニ姿をしている。吹き抜ける風に、腰に纏った薄布がふうわりと揺れた。
「冬迦の水着は大胆ですね。ナンパして来る人が出るんじゃないか心配なぐらいです」
 そんな姉らしい感想を伝えるのは、|四希・アーデュラ《しき・アーデュラ》(エルフの古代語魔術師ブラックウィザード・h08215)だ。姉の視線を気にするアールグレイに『似合ってますよ』と告げれば、妹は嬉しそうにはにかんだ。
 対するアーデュラは、メイドのようなデザインの水着を身に着けている。白と黒のシックなカラーリングに、ふんだんなフリル。足はニーハイソックスで覆っているけれど、レース仕立てなので夏のプールサイドでも涼しげだ。
 メイド服を可愛いと思うから、水着としてデザインしてもらった。嬉しそうに語るアーデュラは、妹にその姿を見せて感想を求めた。
「姉さんは似合っているとは思うけど、そんなバイトを始めたのかしら?」
 首を傾げてアールグレイが言うけれど、アーデュラはただ笑うだけ。その時注文の列が進み、自分達の番がきたので、二人はさっそくドリンクを注文することにした。
 大きなグラスをしっかりと両手で抱え、アーデュラは手近なテーブルへクリームソーダを置いていく。しゅわしゅわ弾けるソーダの上、乗せられたアイスは二つともチョコミント。アールグレイが選んでくれた組み合わせを満足げに確かめると、アーデュラは席に着いた。
「アンテロスさんの企みを阻止しましょう。その為にも二人で仲良くして推しカプに認定されないとですね」
「ええ、だからこれを二人で楽しそうに飲んでいるところを……わかりやすくベタな名前ね」
 改めてアールグレイの唇から零れたのは、『恋のときめき★クリームソーダBig』の名だった。いかにもな見た目と名前の巨大ドリンクを前に、本当に飲んでいいのだろうかと一瞬考える。しかし姉のアーデュラが乗り気でストローを咥えたので、アールグレイもそれに倣ってもう一方のストローの端を口に咥えた。
(「冬迦の顔を間近で見れるまたとないチャンスです」)
 そんなことを思う姉は、クリームソーダをひと吸いしながらじっと目の前の妹を見つめる。アールグレイの青い瞳が、躊躇いながら見つめ返してくれる。それが嬉しくてにっこり微笑んだアーデュラは、そのままそっと瞳を閉じた。
(「どうして目を閉じているのかしら? 何だか私まで意識してしまうわ」)
 姉の挙動を見ていたら、アールグレイの顔が熱くなってくる。けれどそんな顔を見たアーデュラがスマートフォンのカメラに収めようとしたので、それは何とか断った。代わりに、二人で仲良くクリームソーダを飲むシーンを撮影することにする。
 そうして、姉妹が楽しく『恋のときめき★クリームソーダBig』を飲んでいたところに――『魔法少女アンテロス』が近付いてきた。
「仲良し美少女二人! 推せる!」
 言いながら『ハートクエイク・アロー』を放とうと矢を番えるから、慌ててアーデュラが席を立つ。そして庇うようにアールグレイの前へ立って、黒い瞳でじっと敵を睨む。できるなら戦いたくはない、けれど妹にその矢を撃たれるのも嫌だ。そんな想いで敵に立ち向かうアーデュラだったが、それを見た魔法少女は桃色の瞳を輝かせた。
「かっわいー! 小さなメイドさんがお嬢様を守る感じ、いい! え、あなたがお姉さんなの? 妹姉百合かー!」
 にこにこと笑顔で妄想を語るアンテロスが、再び矢を番える様子はない。会話に夢中になってくれたことに安堵して、二人はしばしの間魔法少女の妄想に付き合うことにするのだった。

ヴォルフガング・ローゼンクロイツ
エレクトラ・テスタロッサ

「トラちゃん、アンテロスの騒ぎを追っていたら、こんな話題があるらしい。プールにデート行こうぜ」
「ヴォルフ、本当!? 嬉しいわ。じゃ早速行きましょ。」
 そんな仲睦まじい会話をして、|ヴォルフガング・ローゼンクロイツ《Wolfgang Rosenkreuz》(螺旋の錬金術師|『万物廻天』《イザヴェル》・h02692)と|エレクトラ・テスタロッサ《Elektra Testarossa》(赫霆の薔薇|『神魂合一』《ウニオ・ミスティカ》・h03015)はプールサイドへとやってきた。
 ヴォルフガングは黒のボードショーツに、ボルドーのシャツを羽織っている。その隣で腕を絡めて歩くエレクトラは、ウェディングドレスに見立てた白の水着を纏っていた。胸元で白いリボンを結ぶビキニの上に、繊細なレースで作り込まれたパレオを巻き付けている。ふわりと風に揺れる白いそれは、ドレスのトレーンを思わせた。
「日差しが強いが大丈夫か? 俺は君が大事だから」
「ヴォルフ、大丈夫よ。クリームソーダを飲んだ後は、プールで泳ぎましょ? 折角来たんだし」
 心配そうにエレクトラの顔を覗き込む夫に、彼女は笑いかける。彼が繋いできた手を握り返すと、二人はさっそく店に並び始めた。二人は夫婦で、最近新婚旅行を終えたばかりだ。待つ間もそんな思い出話に花を咲かせれば、自分達の番はすぐにやってきた。
「『恋のときめき★クリームソーダBig』を注文しないとな」
 ヴォルフガングが注文をして、店員から大きなグラスを受け取る。なみなみと注がれたソーダは真っ赤なイチゴ味、上に乗っている二つのアイスはバニラとストロベリー。見た目にも甘やかなそれをテーブルに置くと、夫婦は並んで椅子に座った。
「トラちゃん、こういうデートもいいだろ? 写真撮っておこうぜ」
 アイスが溶ける前に、なんて言いながら、ヴォルフガングはエレクトラを抱き寄せて写真を撮る。顔を寄せ合い思い出の瞬間を切り取る二人に、離れた場所から『魔法少女アンテロス』が注目しているのもわかっていての行動だ。
 ハートのストローを見て笑い合い、二人は同時に赤いクリームソーダを飲み始めた。距離が近いけれど、照れよりも喜びが大きい。視線を絡ませ合いながらしばしソーダを堪能したエレクトラは、やがて口を離すと微笑んだ。
「大きいクリームソーダね。ふふ。美味しいわ。あなたと一緒なら、尚更よ。でもちょっと照れるわね」
「そ、そこ照れないの……!? 意外とオトナの余裕?」
 アンテロスの声が聞こえてきて、二人は顔を見合わせる。どうやら敵は二人に注目して、『ハートクエイク・アロー』を撃つことも忘れているようだ。
(「根っから悪い子でもないとは思うけど、カップルを見守る事も覚えて欲しいわ」)
 思うエレクトラは魔法少女へと視線を向けて、小さく微笑んでみせる。それだけで色めき立つアンテロスは、しばし夫婦の様子をじっと観察し続けていたのだった。

神隠祇・境華
シンシア・ウォーカー

 プールサイドを、二人の女性が歩いていく。
 金髪を風に靡かせるシンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)は、真っ白な出で立ち。白い水着の上から白地に草花柄のロングパレオを纏い、青いラインがアクセントのショールを羽織っている。全体的に淑やかなドレスを思わせるその姿で飲食店を目指す彼女の隣では、|神隠祇・境華《かみおぎ きょうか》(金瞳の御伽守・h10121)が緊張の面持ちで歩いていた。
 境華の水着は、鮮やかな青のワンピースタイプ。胸元と腿周りのフリルが美しくグラデーションしており、その上から羽織る着物は薄手の素材だ。すっきりと結い上げたポニーテールには白い花を飾っていて、白薔薇の髪飾りつけたシンシアと共に歩くと揃えてきたようにも見えた。
「アンテロスの注意をこちらに集めるためにも、件のドリンクに挑戦しましょう」
 シンシアが言うように、二人はEDENとしてここへ来ている。だから迷いなく飲食店の列に並んだ二人なのだけれど――いざ注文の番が来たら、境華は口籠ってしまった。
「こ、恋の……」
「……どうしました境華さん、私から注文しましょうか?」
 商品名を言う時点で、境華にはハードルが高い。しかしそれを察したシンシアが、何でもないようにその名を口にした。
「『恋のときめき★クリームソーダBig』、ひとつください。フレーバーはいちご! あっアイスもですね、私はバニラで」
「……ありがとうございます。私はキャンディ入りバニラアイスを」
 そうして無事に注文できた二人は、受け取った大きなグラスを手に席へと移動した。パラソル付きのテーブルに大きなクリームソーダを置いたら、それだけでリゾート感がある。
「わぁ……可愛らしくて、素敵ですね」
 境華が瞳を輝かせて座る先で、赤色の炭酸ドリンクがしゅわしゅわと音を立てている。上に乗ったバニラとキャンディ入りバニラアイスも可愛らしく、何だか飲むのがもったいない気持ちになってしまう。
 ――けれど、本来の目的を忘れる二人ではない。
「さて一緒にストローに口をつければよいのでしたか。境華さん、そちらのストローどうぞ。私はこれで、っ」
「あ、はい。こちらのストローですね」
 真ん中に刺された二股のストローの両側を、それぞれ指で摘まむ。いざ飲もうとした境華は、思った以上に顔が近付くことに気が付いてしまって。しばらくじっとストローを見つめ考えていたが、やがて意を決して口をつけた。
 対するシンシアも、一緒にストローで飲もうとする。こちらも境華の顔が近いことには気付いたが、それでも大した抵抗感はなく、赤いソーダを飲んでいた。
「結構顔を近くに寄せないとですね……んー! ドリンク美味しいです!」
「……美味しいですね」
 こくりと頷く境華は、ほっとため息を零していた。暑い夏のプールサイドで飲む炭酸は、確かに美味しい。それをシンシアと共有できるのが嬉しい、と思いながら、彼女はアイスを一口、スプーンで掬った。
「パチパチとしてこちらも美味しいです。シンシアさんも、一口どうぞ」
「え、アイス、いいんですか? ではありがたく」
 笑顔を浮かべて境華の差し出したアイスをぱくり、シンシアは口の中でぱちぱちと弾ける刺激を楽しむ。それから今度は自分が、とバニラアイスをひと掬いして。
「バニラも香り高くて絶品です。一口ぜひ!」
「ありがとうございます」
 食べさせ合って、感想を言って。そんな穏やかな時間を一緒に過ごす二人は、その最中にも注がれる視線があることに気付いている。
 いつの間にか『魔法少女アンテロス』は、二人のすぐ傍のパラソル付きテーブルから二人がクリームソーダを分け合う姿を観察していたのだ。
「金髪でお淑やかな美女と、黒髪で清純そうな美少女だわ……百合カプいける! 攻めはやっぱり……いや意外と逆カプかも……」
 ぶつぶつと不穏な呟きが聞こえてくるのを、二人は聞こえていないものとする。ともかく、こちらへ注視して一般人に手を出さないなら、狙い通りである。
 二人はそのまま、もう一口ソーダを飲もうとストローへ顔を近付ける。その時、ぱちりと目が合ってしまったから、二人は思わず頬を染めた。
「あっ……い、いえ……なんでもありません」
「目が合うとなんだか気恥ずかしいですね……?」
 そんな風に言いながら、笑い合う。その恥ずかしがる顔が堪らない、とか、魔法少女が大興奮で叫んでいたとか。

エアリィ・ウィンディア
椎宮・紫水

「クリームソーダ、一緒に楽しもうよ、紫水さんっ♪ はやくはやくーっ!」
 エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)の無邪気な声が、プールサイドに響く。彼女にぐいぐい手を引っ張られたら悪い気はしなくて、|椎宮・紫水《つちみや・しすい》(シセキエイ・h12162)は笑いながら彼女についていき、飲食店の列に並んだ。
「アンテロスの事も無視はできないが、クリームソーダがとても美味しそうだね」
 看板に描かれた色とりどりの大きなクリームソーダを見て、紫水がサンバイザーの下の瞳を細める。そのサンバイザーは、瞳の色と同じ紫色。纏う水着は明るいオレンジ色のハーフパンツ型と、同系色のハイビスカス柄シャツで。『紫水さんかっこいいね♪』と笑うエアリィと会話を弾ませていれば、あっという間に自分達の注文の番がやってきた。
「ソーダから選ぶなんて素敵な悩みだね。ふむ、青のラムネソーダにしてチョコアイスを乗せると、完全にエアリィ嬢のカラーかな?」
 メニューを眺めながら紫水が微笑んで言えば、エアリィはぱちぱちと若葉色の瞳を瞬く。彼女の着ている水着は、白黒カラーの猫モチーフなのだ。青は鮮やかな髪色で、その上にちょこんと茶色のチョコアイスが乗ったら猫の耳のように見えるかも。そう語られたら何だか照れてしまって、エアリィは誤魔化すように両手を猫の形にしてみせた。
「にゃ、にゃーん……」
「……かわ……」
 そんな仕草を真正面から喰らったら、紫水は語彙力を失って立ち尽くしてしまう。彼の反応にくすくす笑って、エアリィはその無邪気な瞳を店員へと向けた。
「でも嬉しいっ♪ せっかくだからそうしようっ♪」
 そうして、ソーダは青いラムネ味、アイスはひとつがチョコレート味に決まった。もう一つをエアリィが選ぶことになると、彼女は迷わずストロベリーを選択する。
「チョコとストロベリー、合わせて食べてチョコストロベリーでっ♪ おいしいよねっ!」
 ウキウキと語る彼女の隣で、紫水は微笑み頷いて見せる。青いソーダとチョコアイスがエアリィなら、ストロベリーの色合いは少し自分に似ている――なんて彼は思うけれど、それは敢えて言葉にしなかった。
 完成した大きなクリームソーダを受け取って、二人は席へと移動する。さっそく二股ストローに口をつけて、ソーダを一口。爽やかな味が口に広がればにっこり笑い合う二人の姿に、『魔法少女アンテロス』が気付かぬわけがない。
「猫ちゃん水着の美少女に、爽やかなお兄さんですって!? 初恋泥棒カプ……」
 これはもう、『ハートクエイク・アロー』でくっつけるしかない! そんな衝動のままにハートの矢を番えようとするアンテロスだけれど、気付いた二人はすぐに魔法少女へ声をかけた。
「あ、矢はヤダ。ほわほわあったかふわふわ。今のこの気持ちを大切にしたいからー! 強制はのーさんきゅーですっ!」
「そうだね、アローはノーサンキューで。エアリィ嬢とカップルの仲になれるのはとてもとても嬉しいけれど、私達はそこに至るまでも大切にしたいからね」
「えーっ!」
 穏やかに笑い合いながら二人が言えば、アンテロスは少し不満そうに声を上げるけれど。彼女の桃色の瞳が、交互に二人を見る。そして、気付いたようにぽつりと呟いた。
「そっか、発展途上も、まあ……美味しい、かも?」
 そうして弓を下げた魔法少女に、二人は笑って頷く。悪い人ではないことはわかっていたから、戦わずに解決できるならその方が嬉しい。
「でも……。楽しいおしゃべりなら一緒にしようよ。ね、紫水さん」
「もちろん、楽しいお喋りなら歓迎だよ」
 二人は揃って、アンテロスを一緒のテーブルへ誘う。すると彼女は瞳を瞬かせた後、興奮気味に言ったのだった。
「お喋りしてくれるのっ!? じゃあ、二人の馴れ初めを、ぜひ! 長くなってもいいから!!」

シリウス・ローゼンハイム
プロキオン・ローゼンハイム

 シリウス・ローゼンハイム(吸血鬼の|警視庁異能捜査官《カミガリ》・h03123)は、プールサイドに上機嫌でやってきた。細身のズボン型水着にロゴ入りの白いTシャツ、そして頭にはサングラス。その顔ににこにこ笑顔が浮かんでいるのは、彼が甘い物に目がないからだ。
「ここのクリームソーダがおいしそうだったから食べたくて、遊びに来たんだ」
「はあ……別にいいけど」
 呆れたように言葉を返したのは、プロキオン・ローゼンハイム(シリウス・ローゼンハイムのAnkerの弟・h03159)だ。ラッシュガード系の水着を身に着けて兄についてきたけれど、彼はシリウスが受けた依頼については何も聞かされていない。ただただ兄は甘い物目当てで、ついでに弟である自分と夏のレジャーを楽しむために、この場に来ている――そう解釈している彼は、列に並んだ先で目的のメニューを注文する兄を黙って見つめていた。
(「えーっと、『恋のときめき★クリームソーダBig』? どんなものだろう」)
 シリウスが店員へ注文しているメニューを覗き見て、プロキオンは首を傾げる。そうこうしているうちに注文が終わったようで、少し待つように言われたプロキオンにはさらに疑問が浮かんできた。
(「あれ、僕は何も注文聞かれなかったんだけど、なんで?」)
 しかしその答えはすぐに目の前に提示される。
「お待たせしました! 『恋のときめき★クリームソーダBig』、おひとつです!」
 店員がそう言って差し出してきた巨大なグラスにたっぷりのクリームソーダ。
「おお、これは美味しそうで飲みごたえがありそうだな!」
 シリウスはそんなことを言って嬉しそうに受け取っているが、プロキオンは全ての疑問が繋がってしまった。ヘンテコな名前も、兄が注文した後に自分へ注文の聞き取りがなかったことも、答えがこれであれば不思議なことはない。
「兄さん、このソーダ、もしかして二人用……しかもカップル向け?」
 口から声が零れたら、それだけでプロキオンの顔は赤くなってきてしまった。でも、兄が自分を誘ったのがこれを一緒に飲もうなんて下心からではないこともわかっている――わかっているから、困るのだ。
「早速……あれ、これストローが変わっているな。折角だ、ロキも飲むか?」
 やっぱり、シリウスは席に着いてから初めて、ハートの二股ストローに気が付いた。何でもないように誘ってくるのだから、本当に厄介だ。
「嫌だよ恥ずかしいから飲まないよ、一人で飲んでよ」
「え、だめ? そうか……うーむ、暑い体に沁みるこの清涼感と弾ける飴がたまらん……」
 真っ赤になりながらプロキオンが断れば、シリウスは特に傷付いた様子もなくひとりでストローに口をつけた。しゅわしゅわと弾けるソーダを飲み、それからキャンディ入りバニラアイスを口に含んでパチパチとした食感を楽しんでいる。そう、彼はカップル向けなんて意識全くなくて、ひとりでこの巨大ドリンクを楽しめる男なのだ。
 堂々と一人で飲む兄を見ていれば、プロキオンは逆に気になってきてしまう。いつもそうだ、兄はとても美味しそうに食べたり飲んだりするから、見ていると気になってきてしまう。
(「兄さん、おいしそうに飲んでるなあ……べ、べつに僕も欲しくなんか……」)
 頭の中でぐるぐると考えていたら、不意にシリウスと目が合った。兄は嬉しそうに赤い瞳を細めると、大きなグラスをプロキオンの傍へと寄せてくれる。
「ロキ? お前もこれが欲しいのか、いいぞ、一緒に飲もう」
「っ……」
 本当に、当たり前のように分け与えてくれる。だからプロキオンはちらりと周囲に目をやって、自分に言い聞かせるように呟いた。
「ま、周りも飲んでる人たち居るし……紛れるよね……」
 そうして、意を決して兄が飲んでいるのとは反対のストローに口をつける。全く気にしないシリウスが同時にソーダを飲むから、距離が近い。けれど、その距離についてはプロキオンも特に意識する素振りはなく、こくりと飲み込んだソーダの味に赤い瞳を輝かせた。
「あっこれ美味しい」
 暑い夏のプールサイド、冷たいソーダが喉を通れば生き返るような心地がする。そんな弟の反応を嬉しそうに眺めたシリウスは――ふと、自分達を見つめる視線があることに気付いた。
(「ん? あれが噂のアンテロスか?」)
 隣のテーブルで席に着き、こちらを凝視している『魔法少女アンテロス』。だからシリウスは、彼女が弓を手に取るより先に声をかけた。
「……すまないな、|弟《こいつ》は俺のだ」
 プロキオンには気付かれないよう、そっとウインクする。魔法少女はそれをどう受け取ったのやら、興奮気味に何度も頷くのだった。

不忍・ちるは
リーリエ・エーデルシュタイン

 夏の日差しが眩しいプールサイドを、リーリエ・エーデルシュタイン(アンダー・ザ・ローズ・h05074)は日傘を差しながらやってくる。颯爽と目的の飲食店に並ぶ彼女は、『恋のときめき★クリームソーダBig』の看板を見て微笑んだ。
「やっぱり飲食は女友達同士が気楽」
 語りながら注文内容を考えるリーリエだが、ひょこりと顔を覗かせた|不忍・ちるは《shinobazu chiruha》(ちるあうと・h01839)は首を傾げて尋ねてくる。
「リーリエさんはどきどきしながらだとおいしくないです?」
「う……」
 投げかけられた質問が、誰との話を示しているかなんて言われなくてもわかってしまう。だからリーリエは頬を赤らめながら、もにょもにょと答えるのだ。
「……いえ、彼としたくない、とかではなく、あれはあれで」
「ですよね、一緒に食べておいしい相手って大事です、へへ」
「ちるはさん? どうしてそんなににこにこですかちるはさん?」
 にっこり笑顔のちるはは、春の終わりに訪れた中華飯店での出来事を思い出している。互いにあの時は『お相手』と行っていたけれど、別卓で楽しそうにしていたリーリエの姿を彼女はよく覚えていたのだ。
 深く言及される前に自分達の番が来たので、リーリエは慌てて店員へ注文を始めた。気になっていたのは、黄色のパインソーダだ。
「黄色のソーダなんて珍しい」
 呟き、ちらりとちるはを見る。彼女にとって、黄色はちるはを連想する色だから。
「ソーダはこれで? アイスはクッキー&クリームが好きなのでひとつはそれに」
「では私はパチパチするバニラお願いします」
 そうして二人は完成した巨大なクリームソーダを受け取ると、パラソル付きテーブルへと移動した。椅子に座り、真ん中に『恋のときめき★クリームソーダBig』を置けば、ちるはが瞳を輝かせる。
「クリームソーダかわいいですね! おいしく頂きましょう」
 一緒に選んだからこそ、自分一人ではできない仕上がりになっているところが楽しい。そう語りながらちるははキャンディ入りバニラアイスをひと掬い――そのまま、リーリエの口元へと運ぶ。
「はい、あーん♪」
「ノータイムあーん!? さすがですわ」
 驚き思わず声上げるリーリエだが、友人であるちるは相手に狼狽えたりはしない。
「じゃあお返しに、はいあーん」
 そうやって即座にお返しすることだって平気なわけだが――その|差分《・・》にちるはがにやにやしているのは見ないふりをした。
 アイスをお互い堪能したら、パインソーダを一緒に飲む。こくり、と爽やかな炭酸を飲み下してから、リーリエは改めてちるはを見た。
「ちるはさんの水着、ずっと思っていたのですが……奥様ですか? 鍛錬中の旦那様に会いに行く途中ですか?」
 今日のちるはの水着は、黒いビキニの上から白いワンピースを纏うものだ。ワンピースは裾がキュロットタイプになっているから水の中でも捲れない、ガードの固いもの――けれど胸元や脇の開きが大きくて、彼女の健康的な肢体が窺える。
 それが誰のための水着かなんて明白で、リーリエは冷やかし半分に感想を告げたのだが――ちるはは、首を傾げて言葉を紡ぐ。
「水着は……砂浜で遊べたらいいなあぐらいで……。おそろいのブレスレットが、あの……ですね? ……暑いですね」
 訊かれていないのに自分で語り、そしてはっと気付いたら赤面してしまった。そう、水着ももちろんお気に入りだけれど、本心では左手首のブレスレットこそが大切なのだ。けれどこれ以上語って突っ込まれてはたまらないと、ちるははリーリエを褒め返すことにする。
「リーリエさんは柔らかな微笑みに心射抜かれますし、フリルたっぷりのかわいさと水着の反対色が映えて絵画の手法のような綺麗さで」
 語り出したら止まらない、ちるはが絶賛するリーリエの水着は深い青を基調としたツーピースだ。落ち着いた青に濃い色のベージュを合わせているから一見カジュアルな雰囲気だが、そのシルエットは優美でリーリエらしい。胸元の飾りや腰回りの装飾品は陽射しを受けて煌めいており、彼女の気品を演出していた。
「ありがとうございます。私の方はお淑やかに? 浜辺を歩いてみようかと。少し華美な所が私っぽいというか……これなら見られても恥ずかしくないというか?」
「ふふふ、そうですかそうですか」
「……誰にとは言ってませんよ私?」
 またしてもによによ笑いをされたから、堪らずリーリエは突っ込む。
 そんないつも通りのいちゃいちゃ(広義)を繰り広げる二人を、『魔法少女アンテロス』は弓番えることすら忘れて凝視していたとか。

モコ・ブラウン
史記守・陽

 プールサイドに現れたのは、スポーティーな水着にパーカーを羽織ったモコ・ブラウン(化けモグラ・h00344)。有事に備えて銃のホルスターもしっかりと提げているものの、その両手には浮き輪とビーチボール、さらにモグラ型フロートまで背負っている。
「また訳のわからない犯人が出てきたもんモグね」
 呆れたようにため息をついて、モグラの娘は飲食店の列に並ぶ。そして、隣に並ぶ後輩――|史記守・陽《しきもり はる》(黎明・h04400)を見上げて、にやりと笑った。厚底サンダルのおかげで、今日は多少顔が近い。それでも、最近背が伸びた彼の顔はまだまだ彼女の上にあった。
「ま、プールに出てきてくれたのはいい心がけモグ。出てくるまでは休暇みたいなもんモグよね? せっかくだから久々に羽を伸ばすモグ」
「そうですね……。でも、クリームソーダ、飲まないといけないんですよね?」
 モコが持ち込んだ大量の道具が、やはり遊ぶためのものだったと理解しても陽はつっこんだりしない。彼もまた、遊び道具は用意していないものの、場所を考えて去年購入した水着を引っ張り出してきて着用していた。さりげない向日葵柄が描かれた青系グラデーションのハーフパンツに、爽やかなライトブルーのシャツ姿。彼はただ複雑な表情を浮かべると、看板に書かれた『恋のときめき★クリームソーダBig』の文字を見つめた。
「シキくんどうしたモグ? 炭酸だめだったモグか?」
「いえ、炭酸は大丈夫です。それに、これは作戦ですから。甘い物苦手だから、ちょっとなぁ……と思っていただけです」
 きょとりと首を傾げたモコに、陽は慌てて首を振って答える。そうだ、他意はない。二人はあくまで捜査官としての仕事でここへ来ているのだ。モコと一緒に大きなクリームソーダを飲まなければいけないと聞いて、緊張しているわけでは決してない。
 自分に言い聞かせるように胸中で呟く陽に、モコは気付く様子もなく。『お客様、どうぞ』とカウンターの店員に呼びかけられて、注文に向かう。
「クリームソーダはやっぱ王道のメロンソーダにバニラアイス。基本を外しちゃいけないモグね」
 故郷の喫茶店にもこういうのがあったと、モコは目を細めて語る。それを聞いた陽は、カウンターに置かれたメニュー表を覗き込んで彼女に問いかけた。
「味はモコさんが好きなもので大丈夫ですよ。でも、アイスは二つ選べるんですね。どうしましょう、両方バニラアイスにしますか?」
「むむ、それはちょっともったいないモグ! じゃあこっちのパチパチするキャンディ入りバニラと二種類モグ!」
 そうして注文を終えたら、程なくして完成した巨大なクリームソーダが手渡された。陽がそれを受け取って、パラソル付きテーブルへと持っていく。
「……大きいですね……」
 改めてそれを見て、陽が漏らしたのは素直な感想だった。なるほど、これは一人で飲むのはきついだろう。緑色のソーダ水がぱちぱち弾ける様は涼しげだけれど、気軽に飲めるドリンクではなかった。
 そして、同じく実物を目の当たりにしたモコも青色の瞳を瞬いている。彼女が注目しているのは、二股になったストローだった。
「え? ストローが一つになってるのモグ?」
 飲み口は二つ、ドリンクに刺さる部分はひとつ。そして二つに分かれる部分には、ハートの飾りがついている。『カップル向け』『人を選ぶ依頼』などと星詠みのエルフが言っていたことの意味をやっと理解して――二人は、そろりと顔を見合わせた。
「……まぁ仕事ですから」
「……確かに、カップルに見せなきゃいけないんだったモグね」
 互いに紡ぐ言葉は、職務に忠実な二人らしい。互いに頬が赤くなってしまっているのだけれど、顔を見ることができなくなった二人は相手の反応には気付かない。
「任務だから仕方ないモグ、シキくん、自然にするのモグよ? 恥ずかしがって、犯人に気取られちゃいけないモグ」
「そ、そうですね。一般人を狙わせないためですし、俺達が目立てばいいんですよね?」
「うん、恥ずかしくなんかないモグよ。うん」
 そんな言葉を交わしながら、二人は席に座った。目の前にすると、クリームソーダの存在感が増す。これを二人で一緒に飲むのか――夏の日差しをより暑く感じてしまった陽は、気を紛らわせるように提案をする。
「えーと……それっぽく振る舞うには、とりあえず、写真でも撮ってみます?」
「写真モグ? じゃあインカメにしてこう……」
 カップルに見えるよう、そしてSNS映えするように――モコが考えたのは、二人でストローに口をつけながらばっちりカメラに目線を送るポーズだった。椅子を引いて距離を詰めて、モコはカメラに収まる画を確かめる。
「……あの、これ、思ったより距離近くないですか?」
「し、仕方ないモグ! こうしないと一緒に写らないモグ! ほらもっと寄るモグ!」
「え、もっと寄る?」
 ほらほら、とモコに急かされて、陽は慌てて体を寄せた。瞬間、モコの白い腕に彼の手が当たってしまう。触れた、と思うと同時に咄嗟に手を引っ込めて、真っ赤になった陽は狼狽えながらも言葉を紡いだ。
「す、すみません、触れようとしたつもりはなくて偶々……!」
「べ、別にいいモグよ、気にしないモグ!」
 モコはそう言うけれど、その顔は真っ赤だ。そうして互いに照れる二人の耳に――『キャー!』と黄色い悲鳴が届く。
「なになに今の、社会人カプなのにちょっと触れただけで赤面!? これは……もうちょっと壁になって見守るべき……??」
 そんな声にちらり視線を向ければ、二人の予想通り興奮気味の『魔法少女アンテロス』の姿がそこにはあって。どうやら、意識をこちらへ向けることには成功したようだと、モコと陽は目配せし合う。
「上手く犯人が釣れたモグ」
「幸いすぐ矢を番えるつもりもないようですし、もう少し囮になりましょう」
 ぼそぼそと小声で相談し合って、二人はクリームソーダのストローに同時に口をつける。先程までは意識しすぎて赤くなっていたけれど、アンテロスの視線を感じている今は不思議と任務に集中できていた。
「そういえば最近普通に甘いモノ食べてるモグ」
 バニラアイスをひと掬い、共に食べながら。ふと思い出したように、モコが言う。確かに、今までであればアイスクリームも甘いソーダ水も口にできなかった。陽は『味ですか……そうですね……』と相槌を打つけれど、実際には『味どころではない』というのが正しかった。
(「いや、それ以前に味がわからないです。もう、味がどうこうって次元じゃなく、緊張でわかりません」)
 赤面は収まったけれど、緊張は残っているのだ。弾けるキャンディ入りバニラを口に運ぶ、その手だって情けないくらいに震えている。
 ――でも、それにも悪い気はしない、と陽は思う。
 相変わらず、甘いものはあまり好きではないけれど。それでも口にできるようになったのは、克服しつつあるということなのだろうか。
「バレンタインの時もそうですけど。不思議と、モコさんとなら甘い物平気なんですよね」
 陽がそう告げつつ再度クリームソーダを飲んだら、モコは瞳を瞬いた。彼の言葉に含まれた意味が読み解けない、けれどそれは彼自身もそうかもしれない。だから敢えてモコはふふりと笑って、キャンディをたっぷり掬うようアイスにスプーンを突き刺した。
「シキくんも、大人になってきたモグね」
「甘い物が平気になったって、大人っていうのかなぁ……」
 妙にしみじみと言うモコには、思わずつっこむ陽だけれど。
「今度、おすすめの和風スイーツが食べられる甘味処に連れてってあげるのモグ」
 嬉しそうにそう言われたら、『まぁ、いいか』と思ってしまう。彼女と共に行ける場所が増える、そのことが嬉しいから。

第2章 日常 『水際にて』


●和解の後は夏のレジャーを
「うん……なんとなくわかってきたわ。ビジュで選ぶカプもいいけど、関係性を見るとますます萌えられる……これが、顔カプにはない良さ……!」
 EDEN達との対話を経て、『魔法少女アンテロス』は深く頷いた。彼らの説得は、うまく作用したようだ。彼女は握り締めていた弓を消し去ると、EDEN達へにっこりと笑いかけて言葉を続ける。
「それじゃ私、この後もいろんなカプの壁になって妄想してくるね! あっ、もちろんみんなも引き続き見守らせてもらうから……いちゃつく時はぜひ教えてね! ううん違うの、邪魔なんて絶対しないから! ねっ!」
 その桃色の瞳は、出会った時以上にきらきらと輝いている。この場での簒奪者の身勝手な縁結びは無事に防げたようだが、今後彼女がどう動くかはまだわからない。EDEN達は魔法少女に曖昧な表情で応じると――改めて、周囲の景色を確かめた。
 ここは、√EDENの屋外プールレジャー施設である。先ほど利用した他にも飲食店があるから、プールサイドの定番メニューをいただきつつのんびりすることもできるだろう。
 その傍には、大きな流れるプールがある。水流に身を任せてぐるぐると水遊びするのはきっと楽しい。さらに少し離れた場所には波のプールも用意されている。波打ち際で波と追いかけっこするようにはしゃぐのもいいし、奥の深いところまで進んで、波の中を漂うこともできる。そして、どちらのプールからでも目に入るのが、高さのあるウォータースライダー。ぐるぐると入り組んだコースは、右に左に進んで何度でも滑りたくなるほどだ。特にここのウォータースライダーは、貸し出される大きな浮き輪型のチューブを利用して二人一緒に滑るコースが人気らしい。
 『魔法少女アンテロス』は密かに『推しカプ』を見つけてこっそり観察するだけにすると言っているし、気兼ねなく遊んでもいいだろう。逆に、彼女と話したいことがあれば気軽に話しかけてもいい。
 多くの人で賑わう、夏のレジャー施設。この後の一日をどう過ごすかは、全てEDEN達の思いのままに。
ヴォルフガング・ローゼンクロイツ
エレクトラ・テスタロッサ

 『魔法少女アンテロス』がおとなしく(?)なったことを確かめて、|エレクトラ・テスタロッサ《Elektra Testarossa》(赫霆の薔薇|『神魂合一』《ウニオ・ミスティカ》・h03015)はプールサイドの飲食店に近付く。
「あ、ヴォルフもフランクフルト食べる? 少し、お腹空いちゃって」
 彼女が声をかければ、|ヴォルフガング・ローゼンクロイツ《Wolfgang Rosenkreuz》(螺旋の錬金術師|『万物廻天』《イザヴェル》・h02692)は嬉しそうに頷いた。そして、愛する妻からフランクフルトをひとつ受け取ると、笑顔で言葉を紡ぐ。
「トラちゃん、このままデートしようぜ。ウォータースライダーとかどうだ?」
「ぇ、デート続行? 嬉しい。勿論よ。ウォータースライダー? 面白そうね。行ってみましょ」
 そうして、水着姿の二人はフランクフルトを食べながら手を繋いで歩き出す。黒のボードショーツのヴォルフガングと、ウェディングドレスみたいな白い水着のエレクトラ。色の対比も美しく、すれ違う人々が二人を見ている。
「あれがそうかしら? 高さがあるからわかりやすいわね」
「二人一緒に滑るコースが人気っぽいな。これにしようぜ」
 食べ終えたフランクフルトの棒は、ゴミ箱へ。さっそく二人一緒のコースに並んだ夫婦は、自分達の番が来たら素早く浮き輪型チューブに乗り込んで、ヴォルフガングは当たり前のようにエレクトラの腰を抱き寄せた。
「浮き輪チューブにしがみつくトラちゃんを後ろから支えてやれるし、一石二鳥だな?」
 彼の冗談みたいな口振りに真っ赤になりながらも、エレクトラは嫌がらない。彼女は彼に身体を預けながら、そっと小声で伝えるのだ。
「恥ずかしくなっちゃうでしょ。でも、ありがと」
 そうして体勢を整えたら、いよいよチューブが滑り始める。水の流れで一気に急降下を始めれば、エレクトラの口からは思わず楽しそうな悲鳴が上がった。
「きゃあ、思ったよりスピード出るのね! でも、ヴォルフが一緒だからすっごく楽しいわ!」
 水飛沫を浴びながら、はしゃぐエレクトラ。その笑顔が眩しくて、ヴォルフガングは彼女から目が離せない。
 やがて曲がりくねったコースを滑り切ったチューブは、最後の直線へ飛び出した。コースの先には着水用のプール。そこに真っ直ぐに飛び込んだチューブから放り出されるように、抱き合う二人は水の中に沈んだ。
「ぷは、すごかったな。トラちゃんが楽しそうでよかったぜ」
 彼女を支えたまま水面から顔を出したヴォルフガングは、笑顔を浮かべてエレクトラを見て――そして、不意にドキッとしてしまう。びしょ濡れで抱き合う、距離の近さを突然意識してしまって。するとエレクトラも顔を真っ赤にしながら――それでも小声で『もう一回、滑る?』と彼に尋ねるのだった。

シンシア・ウォーカー
神隠祇・境華

「境華さん、波のプールですって。今年は海にも行きましたが、プールで波を楽しむのもまた一興ですね。ふふっ」
 シンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)が真っ先に向かったのは、波のプールだった。引いたり押し寄せたりする波打ち際に立てば、|神隠祇・境華《かみおぎ きょうか》(金瞳の御伽守・h10121)も興味深く波の動きを眺めている。
「こうして人工的に波を作れるのは、不思議ですね。どのような仕組みなのでしょう?」
 裸足でギリギリのところまで近付いて、もっとよく確かめようとする。けれどそこで突然ぱしゃりと水がかかったので顔を上げれば、悪戯っぽく笑ったシンシアの姿。
「隙を見せましたね境華さん――やーっ!」
 さらにばしゃりと水を掬い上げて境華にかければ、冷たい水に楽しそうな悲鳴が上がる。波の仕組みを考えるのはやめた、シンシアとの水の掛け合いの方が楽しそうだ。境華はさっそく水面に手を入れて、シンシアへ向けてかけようとするが。
「ふふっ、こちらからも――わっ……!?」
 手を引かれた、と思ったら、すでに境華の足は浮いていた。そのまま、バランスを崩して波のプールの中へ転がり込む。ばしゃーん! と、一際大きな水音がプールに響き渡った。
「もうっ、シンシアさんっ」
 ずぶ濡れになった境華が慌てて起き上がって声を上げるが、非難向ける先を見れば思わず笑ってしまった。だって、当のシンシアも同じくずぶ濡れで、銀の瞳をぱちくりとしているのだから。
「以前の海の時の仕返しですか?」
「そうです、いつかの海の時は境華さんに目論見がばれて阻止されましたからね、リベンジに成功しました! ……本当は、境華さんだけ落とすつもりだったんですけど」
 言葉を交わせば、可笑しくなって一緒に声上げて笑って。二人はそのまま、しばし波打ち際で水と戯れる。
「今度はあのウォータースライダー行ってみませんか!」
「かなり高いですね……」
 ひとしきり遊んだ後にシンシアが誘えば、境華も二人でならとついていく。二人で一緒に滑るコースを選んで登れば、先程まで遊んでいた波のプールが小さく見えて。
「わ、上に上ると結構高いですね」
 シンシアはそう言うけれど、見えるコースの入り組んでいる様子に心は弾んでいる。
 浮き輪型のチューブに揃って乗り込み、手を繋いで――。
「さあ、行きますよっ! ……わわ、落ちる!!」
「わっ……!」
 勢いよく滑り出せば、二人は揃って声を上げてしまう。水の流れるコースの上を、高速で滑っていくチューブ。左右へ振られればスリルがあって、境華は笑いながら声を上げてしまう。
 そして――最後は着水用のプールに大きな飛沫と共に放り出される。再びずぶ濡れになった二人は、水面から体を起こして笑い合った。
「……ふふ。これは、もう一度滑りたくなるのも分かりますね」
「ええ、ハラハラしましたがとても楽しかったです! もう一回行きたくなりますねっ」
 二人同じ感想なのだから、もう一度滑ろうと誘い合うのも自然なことで。二人は再びチューブを一緒に持ち上げると、スライダーの入り口目指して階段を上り始めるのだった。

四希・アーデュラ
冬迦・アールグレイ

「アンテロスも思いとどまってくれたようだけど、推し候補を見つけて気が変わったりしないか心配ではあるわ」
 ふらふらとプールサイドの散策を始める『魔法少女アンテロス』を見送って、|冬迦・アールグレイ《とうか・アールグレイ》(エルフの雷の|精霊銃士《エレメンタルガンナー》・h13145)は呟いた。魔法少女のここまでに見えた性格を思えば、気が変わったと言い出すことがないとは言い切れない。本人の邪魔をしないよう見張っていた方がいいと思う――そう真剣に彼女が語れば、姉の|四希・アーデュラ《しき・アーデュラ》(エルフの|古代語魔術師《ブラックウィザード》・h08215)はしばし瞳をぱちぱちと瞬かせた後、笑顔を浮かべて妹へ声をかけた。
「では冬迦、二人一緒に滑るコースもあるようですし、一緒にウォータースライダーを滑りましょう」
「え?」
 その言葉に、今度はアールグレイが瞳を瞬かせる。姉は遊びたいと言うことだろうか? 思えばつい眉を寄せてしまうけれど、アーデュラは微笑みながら首を横に振った。
「見晴らしもいいし、遊びながらアンテロスさんの様子を確認することもできる筈ですよ」
「そうね……確かに高い所なら、プールの全体も見渡せるだろうし悪くないかしら」
 アールグレイは頷いて、姉妹で二人乗りのコースに並ぶことに決める。実は、彼女もウォータースライダーが気になってはいたのだ。
 階段を上っていく途中で、人の列の最後尾が見えて二人はその後ろに並ぶ。人気の施設だけあって時間がかかりそうだと思ったが、意外と列はどんどん前へ進んでいく。アールグレイが周囲の人々の様子を気にして眺めれば、すでに全身濡れている人が多いようだ。みんな笑顔で順番を待っている姿を見ると、リピーターが多いことが窺えた。もちろん、眼下のプールサイドにいるアンテロスを観察することだって忘れない。
 そうして周囲の観察をしながら楽しんでいると、あっという間に二人の番がやってきた。
 アーデュラは浮き輪型のチューブに乗りながら、アールグレイへ声をかける。
「冬迦は私につかまっても構わないですよ」
 姉らしく頼もしい言葉をかけたけれど、返答を聞く前にチューブは滑り出した。水の上を進むチューブは、思った以上にスピードが出る。アーデュラは思わず小さく悲鳴を上げながら、妹の腕を必死に掴んで――。
 右に左に曲がりくねったコースを抜けたら、最後はストレートでさらに速度が乗る。そしてそのまま着水用のプールへ放り出されると、二人はぷは、と息をついて顔を上げた。
「思っていた以上に凄い速さで滑り落ちました」
 そう、思わず自分の方から妹の腕を掴んでしまうほどに。アーデュラは少し気恥ずかしく思いながらアールグレイを見るけれど、当の本人は小さく微笑んでいる。アールグレイは氷雪を操るのが得意で、水の扱いにも慣れている。だから全く怖くはなかったのだけれど――姉と一緒だったから、思った以上に楽しめたのだ。
「ねえ、冬迦。もう一度滑ってもいいですか」
「もう、すっかり夢中になったようね。後一度だけなら構わないわ」
 二人は言葉を交わしながら、ウォータースライダーの列へ再び向かう。アンテロスの監視だって忘れていないから――そう言ったアーデュラが宣言の通りに魔法少女の姿を探せば、彼女はスライダーの列にいる姉妹を見上げてそれはいい笑顔を浮かべていた。

エアリィ・ウィンディア
椎宮・紫水

「アンテロスも無事落ち着いたかな?」
「うんうん、きっと落ち着いたと思うよー。ほら、目がイキイキしているしっ!!」
 クリームソーダを飲み終えて、|椎宮・紫水《つちみや・しすい》(シセキエイ・h12162)が言葉を紡げばエアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)がこくこくと頷く。そして、そんな二人のやり取りを間近で見ていた『魔法少女アンテロス』は、桃色の瞳を輝かせながら笑顔を浮かべた。
「うんっ、今日はもう『ハートクエイク・アロー』はやめ! 私はみんなの壁に徹するから!」
「いや、あの、壁って、まぁいいか」
 興奮気味に語られたら、思わず突っ込みたくなってしまうけれど。何も悪さをしないと言うならこれ以上何か言うのもよくないだろうと判断して、彼はエアリィへ向き直った。
「エアリィ嬢、屋外プールへいってみようか?」
「うんっ、水着だしプールで楽しむの賛成ー♪」
 そうして二人は、魔法少女に手を振り別れて、プールへと近付いていく。ぐるりと施設を眺めれば、やはり気になるのは見上げた場所にあるウォータースライダーだ。
「流れるプールも楽しそうだけど、やっぱりウォータースライダーかな?」
「ウォータースライダー? うん、ぜひぜひっ!」
 一緒に滑ろうと紫水が誘えば、それにももちろんエアリィは頷く。だから二人乗りチューブで滑るコースを選んで、二人はスタート地点まで登っていく。
 人気の施設だから多少並んだけれど、それでもスムーズに二人の番がやってきた。スライダーのスタート地点に浮かべた浮き輪型チューブの後方にまず紫水が座り、その前にエアリィが座る。すると、すぐに紫水の両手がエアリィの肩を抱き寄せた。紫水の足の間に座る形になっていた少女の体が、自然と彼の方へ倒れてしまう。
(「……えっと? 抱えられ? えっと??」)
 思わず思考停止したエアリィは、体勢の意味を理解できない。別にこの距離が初めてなわけではないけれど、今日の二人は水着姿なのだ。肩に触れる彼の手の体温を感じたら、頭の中が混乱してしまう。
「ちょ、ちょっと嬉しいけどなんというか……」
 ごにょごにょと言葉を零すと、エアリィは真っ赤になって俯いた。頭からはぷしゅうと煙が出そうな勢いだ。そんな彼女の様子にやっと気付いた紫水は、けれど突然体勢を変えるのも危険と判断して、そのまま声をかけた。
「あ、ごめん。最近こういうの多いから無意識でしてた。大丈夫?」
「だ、大丈夫、では……!」
「はい、どうぞー」
 エアリィの返答も虚しく、そこで従業員から出発の合図が出されてしまった。時間切れである。紫水がにこにこと笑顔を浮かべてチューブを押せば、いよいよ二人はスライダーを滑り始めた。
「わー、はやいはやいっ! たのしーっ!!」
「お? 意外と速い?! 楽しい!」
 加速しながら右へ左へとコースを進む中、二人は思うままに声を上げて笑い合う。
 コースはやがて曲がりくねったエリアを抜けて、最後の直線に入った。一気に滑り降りるチューブが、さらに速くなる。するとその時、紫水はずるりとチューブの中で体を滑らせてしまう。
「あ、待って体勢崩した?!」
「ええーっ!?」
 紫水の声にエアリィが驚くが、振り返る間もなくチューブは着水用のプールへ飛び込んだ。ばしゃーん! と大きな水飛沫を立てるチューブから放り出され、紫水は強かに背中を打ってしまう。
「……うぐ、まともに背中打った。エアリィ嬢大丈夫?」
「あたしは大丈夫なんだけど……。紫水さんは、だ、大丈夫?」
 エアリィは心配げな表情を浮かべると、紫水の背中を掌で撫でる。すると彼はじんじんとした痛みが和らいだ気がして、彼女へ微笑んだ。
「何か悪い事したかなー? うーん? でもとっても楽しかったね」
「うんっ! すごく楽しかったねっ♪」
 紫水が言葉を紡げば、エアリィもまた満面の笑みで頷いてくれる。その笑顔に痛みも消えてしまって、紫水は嬉しくなって彼女の手を掴んだ。
「次は流れるプールかな? カフェでスイーツも外せないし」
 その声は、もう大丈夫だと言うようで。だからエアリィもほっと安堵のため息を漏らすと、彼の手をぎゅっと握り返した。
「後はプールで流れたり、スイーツを楽しんじゃおうっ♪ スイーツか……もう一回クリームソーダとか?」
 まずは流れるプールへ、と歩き出したエアリィが、ふと思いついて提案してみる。先ほど飲んだ『恋のときめき★クリームソーダBig』が美味しかったので、もう一杯飲みたいと思ったのだ。顔をつき合わせて同じソーダを飲む時間は、ふわふわとあたたかいものだから。
 すると紫水は、小さく笑って。プールへ向かおうとしていたエアリィを繋ぐ手で引き留めて、先に飲食店へと誘うのだった。
「いいね、またエアリィ嬢と味わえるなら」

不忍・ちるは
リーリエ・エーデルシュタイン

 意気揚々と去っていく『魔法少女アンテロス』を見送って、リーリエ・エーデルシュタイン(アンダー・ザ・ローズ・h05074)は首を傾げる。
「アンテロスは壁になりましたか……壁??? プールだと地面の方がいいのでは?」
 場所が屋外プールである以上、壁では活動範囲が狭すぎるのでは……などと素朴に思って漏らした言葉だったが、リーリエはすぐに『そういうことじゃないですね』と続ける。しかし、疑問を耳にした|不忍・ちるは《shinobazu chiruha》(ちるあうと・h01839)は真剣な顔で考え始めていた。
「地面……推しに踏まれ……さらに並んで座られるなどと……壁よりよきでは?」
「ちるはさん?」
「だめですかはい私も落ち着きます」
 ぷるぷると首を振って、ちるはは邪念を追い出すことにする。いやでも、お友達のいちゃいちゃを地面になって見守れる機会があったらぜひしたい、という思いは変わらず抱いていたりして。
「じゃあちるはさん、引き続きデートといきましょう」
「あ、はい、そうですね」
 リーリエの誘いに気を取り直して、ちるはは彼女と共に流れるプールへ向かう。二人とも、水の中で泳ぐことも意識した水着で来ているのだ、依頼の目的も達成した今、プールで遊ばない理由もない。
(「こんなに暑い日ですもの。ゆっくりプールに浮いていたい気もしますがとりあえず……」)
 人々が歓声を上げながらゆったりと流れていくプールを間近で眺めてから、リーリエはちらりと隣のちるはを見る。当の彼女はその視線に気付かず、きょろきょろとレンタル浮き輪の店を探していた。
「あ、あそこですね。ではのんびりと浮き輪借りてき……」
「えい」
「?!!」
 紡ぐ言葉の途中、突然リーリエが手を突き出してきた。しかし予想外のことながら、ちるはは反射でそれをするりと躱す。
「ってかわしました?! 流石シノビの者……」
 悔しそうにリーリエが呟き――一瞬、二人の間に落ちる沈黙。その間に、ちるはは脳内で友人の行動について推理を巡らせていた。
(「これはリーリエさんのはしゃぐ振りですか……!?」)
 そう、『やられた』からには『やっちゃって』いいはずなのである。思えばちるははにこにこと笑顔を浮かべて、静かに両手を前へ持ち上げる。
「つまりは……そういう? お戯れです?」
「え? 私は落ちますよ? 華麗に落ちるのでやめた方が……きゃぁぁぁぁぁ!?」
 どぼん、と上がるは水柱。こんな機会は滅多にないから、全力でどーんと落としました。プールの監視スタッフがピピーと笛鳴らすのには、頭下げて謝るけれど、そんなことすら可笑しくって笑いが込み上げてしまう。
「リーリエさん、私も私も」
 プールに流されないよう抗い立っているリーリエの傍で、ちるははプールの縁に座って両手を出して『引っ張って』のポーズ。すると令嬢もくすりと笑って、差し出された友人の両手を取った。
「此処まで濡れたらプールを満喫しましょうか」
 言葉と共に手を引いて、ぐいっとちるはをプールの中に引っ張り込む。ざぶん、と水の中に入ったちるはは、そのままリーリエをぎゅっとハグした。
「きゃっ」
「ふふふ、これが私の『したい』です♪」
 自慢したい、なんて気持ちではなく、もっと純粋に楽しいから、嬉しいから、掴まえてしまいたい。ふふっと笑ってちるはが言えば、リーリエもまたくすくす笑って。
「ふふ、こういうのもとっても楽しいですね」
 笑い合った二人は、そのまま流れるプールに身を任せて、ぎゅっとしたり手を繋いだりしながら水の冷たさを満喫する。夏の日差しを受けて輝く水面より、二人の時間はもっともっと煌めいていた。

 EDEN達が楽しむ様子も、『魔法少女アンテロス』は約束通りに眺めるだけでいたようだ。無事に彼女の悪事(?)は平和的に阻止された。この魔法少女とEDEN達との関係が今後どうなっていくかは、今はまだわからない。

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