シナリオ

サイコブレイドは、困惑する。

#√EDEN #√マスクド・ヒーロー #Anker抹殺計画

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 #√EDEN
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●どこかの街角
 ガウガウ、シャーシャー。
 人通りの少ない通りに、この辺りでは聞かない鳴き声が聞こえる。

 鳴き声の元を辿れば、そこには珍妙な生き物たちがうろうろとしていた。
 虎かもしれない何かと、蛇かもしれない何か。
 そんな珍妙な生き物たちが、あっちへ行き、こっちへ行き。まるで何かを探している様子だ。

 そんな彼らから遠く離れた場所では。
 ポキョーン……と物悲しい鳴き声が響いていた。

 緑の外套を羽織った男が小脇に抱えるのは、狸。……狸?
 ボタボタと涙を流しポキョポキョキュンキュン泣く狸かもしれない何か。
 心が痛んでいそうな、気まずい表情を浮かべた男が、抱えている狸かもしれない何かにちらりと視線を寄越す。

「これが、本当にAnker……?」

 ちょっと信じたくない。
 声には、そんな本音が滲んでいた。

 緑の男――外星体『サイコブレイド』は、多分きっと恐らくAnkerなこの狸かもしれない何かを抹殺するために来たのだが。
 あまりの珍妙さと泣きっぷりに、Ankerかもしれない自信を失いかけていた。

 かもしれないとか言っているが、この狸かもしれない何かは間違いなくAnkerだった。
 何度確認してもやっぱりAnker。

「これを、殺すのか」

 あまりにも良心が痛みそう。
 けれど、そうしなければならない理由が彼にはある。

 せめて一息で安らかな眠りに誘ってやろうと、サイコブレイドは刃を振りかざすのだった。

●星詠み
「ボクのおともだちがあぶないの!」

 白い耳をピンと立て、カプラ・ステッラ・アルピーナ(見た目は少年、|頭脳《知識》は幼児。その名は……!・h08937)は言う。

 彼が言うところのお友だち。イコール宿敵だったりするのだが。
 それは置いておき。

「あのね、ボクのおともだちのたぬきさんがつれていかれちゃうみらいがみえたよ!」

 曰く。
 お友だちに『鵺の残りカス』という存在がいるらしい。ネーミングからして酷い。
 そんな『鵺の残りカス』は鵺に成れなかったパーツで構成された妖怪かもしれない存在だ。
 そんな彼らのうちの一体、狸かもしれない何か(以下、狸)が攫われるらしい。

 誰に。

 そんなの一人しかいない。そう、サイコブレイドだ。
 ということはつまり、この狸はAnkerというわけで。

 嘘だろって思った?
 きっと、サイコブレイドも思ったに違いない。

「とらさんとへびさんがえさをさがしにいって、たぬきさんだけみたいなの!」

 一匹(?)では転がったり泣いたり叫ぶくらいしかできない狸。
 生きるためには仲間の手助けが必須な哀れな狸。

 虎っぽい何か(以下、虎)と蛇っぽい何か(以下、蛇)は、そんな哀れな狸のためにエサを探しに出ていた。
 そこを、サイコブレイドが誘拐しにくるようだ。

「たぬきさんをみつけたら、とらさんとへびさんがかえってくるよ」

 狸に接触したところで、ちょうど虎と蛇が帰ってくるらしい。
 ただ、彼らには攻撃の意思はなく、すぐに襲ってくる様子はない。
 事情を話せば攻撃はされないだろう。

 つまり、虎と蛇を説得して、サイコブレイドの魔の手から狸を守ると。
 意味が分からないかもしれないが、そんな依頼だというのだ。

 いや、本当に意味が分からない。

 「たぬきさんね、しゅーだんてきだけど、あんしんできるばしょってわかったらいっしょにかえってくれるよ!」

 現在は√能力を使う立派(?)な集団敵だが、どうやら保護&お持ち帰りが決定したらただの狸(かもしれない何か)になるらしい。
 もし連れ帰りたい人がいるなら、連れ帰ってやるのもいいだろう。

「だからね、みんなおねがい!」

 終始意味の分からない内容に首を傾げながら、EDENたちは現場へ向かうのだった。

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第1章 日常 『天気のいい日』


 狸は毎日泣き暮れていた。
 キュンキュンポキョポキョと泣き声を上げては、ポロポロと大粒の涙を零す。

 仲間の虎と蛇がいつも心配そうにしていて。
 それがまた、狸を泣かせていた。

 ——どうして自分はこんな身体なんだろう。

 短い胴体。手足のない身体。
 せめて手足があれば。あるいは、胴体がもっと長ければ。
 どちらもない自分は、転がることが精一杯。

 そんな情けない自分を、虎と蛇は大切にしてくれる。
 嬉しいと同時に申し訳なくて、だから涙が溢れてしまう。

 今だって、自力でエサを取れない自分のために食べ物を探しに行ってくれている。

 ——狸はもう、負担になりたくないのに。

 キュンキュン、ピスピス。
 鼻を鳴らし泣き続ける狸を、貴方達は見つけてどうするのだろうか——……。
 狸は毎日泣き暮れていた。
 キュンキュンポキョポキョと泣き声を上げては、ポロポロと大粒の涙を零す。

 仲間の虎と蛇がいつも心配そうにしていて。
 それがまた、狸を泣かせていた。

 ——どうして自分はこんな身体なんだろう。

 短い胴体。手足のない身体。
 せめて手足があれば。あるいは、胴体がもっと長ければ。
 どちらもない自分は、転がることが精一杯。

 そんな情けない自分を、虎と蛇は大切にしてくれる。
 嬉しいと同時に申し訳なくて、だから涙が溢れてしまう。

 今だって、自力でエサを取れない自分のために食べ物を探しに行ってくれている。

 ——狸はもう、負担になりたくないのに。

 キュンキュン、ピスピス。
 鼻を鳴らし泣き続ける狸を、貴方達は見つけてどうするのだろうか——……。
雪・大雪

 ある晴れた日。
 誰もが素通りするような通路の先を、小柄なパンダが歩いていた。
 手に持った鈴のついた鞭をゆらゆら、小柄なパンダ――|雪・大雪《せつ・たいせつ》(白雪童子・h13668)は思案げな言葉を零す。

「ポテポテと転がることしかできない狸、か……」

 思わず|雪華真人さま《お師匠さま》に拾われた日を思い出す。
 けれど、今は思い出に浸っている場合ではない。

「知りたいことがある。ならばこの術で!」

 口の中で呪文をモゴモゴと唱えれば、視界に映るインビジブルたちが生前の姿を取り戻していく。

「泣いている狸の子を見かけなかったかい?」

 そう問いかければ、スッと一点を指し示す。中には案内するかのように先を進むインビジブルも。
 その様子に「ありがとう」と言って付いて行けば。

「……いた」

 ころころ。
 しばらく進んだ先。小さな体を転がしながら、狸が泣いている。
 大雪は、そんな泣き暮れる狸に近付いた。

「狸さん。星の助言に従って、助けに来たよ!」
「キュゥ?」

 大雪が声をかけると、狸は涙に濡れた顔を向けた。

「僕は見習い仙人の雪・大雪というんだ!……お腹が空いているのかい?」

 返事の代わりに聞こえてきたのは、キュンキュンポキョポキョという判断に困る鳴き声。
 けれどそのお腹は、キュルキュルと鳴っていて。やはりお腹が空いているようだ。

 狸のつぶらな瞳からは、ぽろぽろと大粒の涙が零れ落ちる。

「そうか、そうか」

 大雪は懐から【いとうまし仙桃】を取り出し、そっと狸の前へ置いた。
 必死に仙桃を齧る様子に、大雪はかつての自分を重ねてしまう。

 弱くて、何もできなくて。悲しくて、申し訳なくて仕方がなかった、あの頃の自分。
 そんな自分を拾ってくれたお師匠さま。

「……僕も、あの時のお師匠さまのように」

 何かできることはないか。
 半人前の自分にも、きっとあるはずだ。

「狸さん」

 大雪は、しゃがみこんで優しく笑った。

「僕と一緒に行かないかい?」

 差し出された手の先で、狸は小さく首を傾げる。
 キュン、と泣いた狸の目からは、ほんの少しだけ涙が止まった。

クラウス・イーザリー

(サイコブレイドも大変だな……)

 クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)が星詠みの話を聞いて、最初に思ったのはそれだった。
 それまでもサイコブレイドと対峙したことがある。自分以外のEDENが対峙した話も、聞いている。
 その中には、何故そうなったのかと首を傾げる案件もあった。

「いやまあ、望まない大量虐殺をさせられるよりは余程マシなんだろうけど……」

 それにしても、変な状況に巻き込まれがちじゃないだろうか。
 不憫な星の元に生まれたのかもしれない。

 クラウスは意識を切り替えると、目を閉じた。
 呼び出した9体のドローンと感覚を接続し、あちこちに飛ばす。

 共有された視覚と聴覚で、路地裏などを探していく。

 そんな中、微かな声が聞こえた。
 最初は何か音が聞こえる程度だったが、クラウスの勘がこれだと伝える。それに従ってドローンを飛ばせば。

「いた」

 キュンキュン泣き暮れる狸の姿。
 急いで現場へ向かえば、コロンコロンと転がりながら、地面に水溜まりを作っている。

「ええと、大丈夫……?」
「ポキョ!?」

 怖がらせないようにそっと近づいて声を掛けると、驚いたのか声を上げて飛び跳ねた。
 「あ、飛び跳ねれるんだ」なんて言葉がクラウスの脳裏を過った。

「俺は君を助けに来たんだよ」

 驚きはするものの逃げる様子のない狸に優しく微笑み、零れ落ちそうな涙を拭ってやる。
 それだけで、ちょっと警戒していた狸はくたりと体の力を抜いてキュンキュン鳴きだした。
 警戒心が無いのか、気を抜きすぎな様子に苦笑する。警戒されて|叫ば《麻痺させら》れるよりはいいけれど。

「君の友達ももうすぐ帰ってくるだろうから、大丈夫だよ」
「キュゥーン」

 クラウスの言葉に嬉しそうな鳴き声を上げ、狸はもぞもぞしている。
 虎の身体に蛇のお腹。その奇怪な姿にちょっと興味が湧いたクラウスが、そっと背中を撫でてみれば。意外にも柔らかい被毛がクラウスの手を包み込んだ。

「あ、柔らかい」
「ポキョ?」

 なにしてるの? と言わんばかりのつぶらな瞳。
 結局クラウスは、狸のお友だちが帰ってくるまでその体を撫でるのだった。

第2章 集団戦 『鵺の残りカス』


 虎と蛇は、狸のためにエサを探しに出ていた。

 手足がなく、自力ではまともに動けない狸。エサを取るなんて到底無理で。
 鵺に成れなかった者同士、気が付けば一緒にいたから。だから、自分たちが狸の世話をすることに、疑問なんてなかった。

 だから今日も今日とてエサを探し、急いで戻ってきたのだが。

 虎と蛇は驚いた。

 いつも自分たちが戻ってきたら、狸は申し訳なさそうにキュンキュンポキョポキョ泣くのだ。もう泣かなくていい、助け合うことは普通なのだと伝えても。

 そんな狸が、今日は涙を引っ込めてキュンキュン元気に鳴いていたのだ。
 その隣には、見知らぬ√能力者。

 すぐにEDENだと気が付いた。
 そして、なぜEDENがいるのだろうと。

 EDENからは敵意を感じない。
 それどころか、あの狸が泣かずに元気に鳴いている。

 何があったのだろう。
 彼らは、何をしたのだろう。

 警戒を解いてもいいのかと、虎と蛇が困惑する中。
 EDENが取った行動は――……。
雪・大雪

 狸を慰めつつ、他のEDENと共に待っていた|雪・大雪《せつ・たいせつ》(白雪童子・h13668)は、近づいて来た気配に顔を上げた。

 少しして通路の先から現れたのは、虎と蛇。
 彼らは狸の側に見知らぬ√能力者がいるのを目にして、それぞれ持っていたエサをぽとりと落とした。
 まさか自分たちが不在の間にこんな事態になっているとは思わなかったのだろう。

「こんにちは。僕は見習い仙人の雪・大雪というよ」

 警戒する二匹に、大雪は穏やかな声で挨拶をする。
 何事も挨拶は基本であり、大事だ。

 二匹は警戒を解かなかったが、こちらに敵意がないことが伝わったのか襲ってくる気配はない。

 大雪は虎と蛇に言葉が通じるか心配しつつも、言葉を重ねる。

「僕はこの狸さんに共感していて、可能なら保護したいと考えてるんだ」

 ピクリ、ピクリと、虎の耳が震える。こちらの言葉を真剣に聞き取ろうとしているのだろうか。

「ともに歩み、日々励んでいければと……」

 ――実は僕も、昔は狸さんと近しい境遇の子だったんだ。

 その言葉に、虎と蛇が顔を見合わせる。どうやら大雪の言葉はちゃんと伝わっているらしい。
 それならば、聞いてくれる意思があるうちに何とか説得しなくては。

 大雪は言葉を続ける。

「そんな時に偉大なる仙人・雪華真人さまに拾われて命を繋がれ、仙道を志すことができた」

 傲慢な考えかもしれない。けれど、大雪がしてもらったように、今度は狸に同じことをしてあげたいのだ。

 じっと自分を見つめてくる虎と蛇に、説明が難しかっただろうか、ちゃんと意味が伝わったかなと心配になる。
 大雪が語ったことはどれも真実で、本心だ。どうにかそれを伝えたい。

「僕はこの狸さんを幸せにしてあげたいと考えているんだ」

 もっとわかりやすい言葉に言い換えれば。
 ようやく言いたいことが伝わったのか、虎と蛇の表情がぱっと明るくなった。ように見えた。

 実際、虎と蛇は嬉しかった。
 いつも申し訳ないと泣く狸。この子を幸せにしたいと言ってくれる相手が現れたことに。

 この相手なら、もしかしたら狸は笑って過ごしてくれるかもしれない。
 虎と蛇の心は天秤のように揺れ動くのだった。

クラウス・イーザリー

 クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)はホッと息をついた。

 狸のことを可哀想だと思っていたから。
 誰か、自分より狸のことを大切にしてくれる人はいないだろうか。そう思っていたら、先に狸の元へ着いていた仲間が誘っていた。
 だから安心できそうだと狸のことは任せて。

「ああ、えっと……おかえり?」

 自分の事をジーっと見つめる虎と蛇に苦笑して、そう声をかけた。
 警戒を解いてくれそうな様子なので、武器には触れず。二匹に手を振って出迎える。

 クラウスが丸腰なのを確認した虎と蛇がおずおずとした様子で近づいてきた。

 そんな二匹と目線をできるだけ合わせようと、クラウスはその場にしゃがむ。だいぶ近くなった距離から見上げてくる二対の目を見て、クラウスは話しかけた。

「俺たちはね、狸さんを守りに来たんだ」

 守る? 何から?
 そう言わんばかりに首を傾げ、互いに目を見合わせる虎と蛇の様子に、彼らはまだ気づいていないらしいと察する。

「どこまで言葉が通じるかな……」

 彼らが分かりやすいように、できるだけ簡単な言葉を選んで。身振り手振りを交えて話す。

「君たちが大切にしている狸さんを殺しに来る人がいるんだ」
「ギャウ!?」
「シャー!」

 驚く様子に、「そうだよね」と頷いて、クラウスは続ける。

「俺たちはその人を止めたいって思ってるんだ。その人も、無理矢理そうさせられているらしくて」
「ガウガウ!」

 虎の耳がピンと立って、まるで大変だと言わんばかりの顔。
 虎も意外と表情が解かるんだなと少し場違いなことを考えながら、クラウスの説明は続いていく。

「サイコブレイドだって、こんな可愛い狸さんは殺したくないと思うんだ」
「シャー」

 蛇が頷いている。言葉はわからないけど、なんとなく「うちの狸は可愛いだろう」とでも言っていそうだ。

「だからね。俺たちと一緒に狸さんを守ってくれないかな?」

 そう伝えてみれば。
 任せろと言わんばかりに勇ましい(?)鳴き声が返ってきた。
 二匹と敵対しなくて済んだこと。協力してくれそうな様子に、一安心する。

 虎と蛇の心は、狸を送り出すことにまだ揺れている。けれど、大切な仲間の狸を凶刃から守るため、その使命に燃えていた。

五ツ花・ウツギ
ルカ・リベラトーレ
レイシー・トラヴァース

 狸の隣には、虎と蛇がいた。
 そっと狸に寄り添う2匹はEDENたちへ敵意を向けているわけではない。二匹は迷っていた。
 狸を送り出してもいいものか――それをずっと、決めかねている。

「どうしたんだい?」

 そんな二匹へ、|五ツ花・ウツギ《いつはな・うつぎ》(遊び遊ばれ世は情け・h01352)が穏やかに声をかけた。

「この子を大切にしているのは、見てりゃ分かるさね」

 虎の耳がピクリと動いた。

「けれどね。大切だからこそ、この子にとって何が一番いいのか、考えてやるのも大事なんじゃないかね?」

 ウツギは狸へ視線を落とす。

「あたしらは、この子を無理矢理連れていくつもりはないよ。あんたたちが安心できる場所があるなら、そこで一緒に暮らせばいい」

 ガウ、と虎が鳴く。

「そうかい。心配なんだね」

 言葉は明確にわからない。けれど、その鳴き声から伝わってくるものはある。

「でも、この子はずっと泣いていたんだろう?」

 ウツギの言葉に、虎と蛇が狸を見る。
 今は涙の止んでいる狸が、キュンと小さく鳴いた。

「僕も、この狸さんには笑っていてほしいと思ってる」

 ルカ・リベラトーレ(それでも世界は美しい・h13445)が、狸の側で静かに続ける。

「僕は誰でも助けられるような英雄じゃないけれど。目の前にいる誰かが前に進むための、小さな助けにはなれると思うから」

 そういって、ルカは狸の頭をそっと撫でる。
 狸から嬉しそうな鳴き声が上がった。

「この子が安心できるように、ボクも力を貸すよ」
「ガウ……」
「シャァ」

 虎と蛇が小さく鳴いた。

 するとレイシー・トラヴァース(星天を駆ける・h00972)が、ぱっと狸の前へしゃがみ込む。

「それにさ!」

 軽い声に、狸が顔を上げる。

「世の中にはたくさん楽しいことがある。けど、このままじゃたくさんの楽しいことが経験できないんじゃないか?」

 レイシーは狸へ笑いかけてから、虎と狸を見る。

「お祭りとか、面白そうなところとか! あたしたちとだったら、いくらでも探せそうだろ?」

 小さな体の虎と蛇、満足に動けない狸。
 わかっているのだ。日々生きることに手一杯で、自分たちも狸も生を謳歌できていないことは。
 自分たちだけならそうでもなかったのだろうけど――。

 虎と蛇は、しばらく三人を見つめていた。

 ウツギは急かさない。
 ルカは狸の側から離れない。
 レイシーは狸へ楽しそうに笑いかけている。

 そして何より。
 狸自身が、少しも嫌がっていない。

「どうする?」

 ウツギが静かに問いかける。
 虎と蛇が狸を見る。

 やがて、二匹は顔を見合わせると、そっと狸の身体へ寄り添った。

「シャー……」
「ガウ……」

 寂しさがないわけではない。
 けれど、この子が笑える場所へ行けるのなら。

 虎と蛇は、ついに決めた。
 大切な仲間である狸を、EDENへ送り出そう、と。

 大切な二匹が寄り添って鳴いたことに、はじめはキョトンとしていた狸は。

「キュン」

 二匹に甘えるように擦り寄って、そっと鳴き返すのだった。

第3章 ボス戦 『外星体『サイコブレイド』』


 ――行っておいで……。
 ――幸せになるんだよ……。

 大切な虎と蛇の言葉に、最初はビックリした。
 けれど、彼らが心から自分の幸せを願ってくれているとわかる狸は、「ありがとう」とひと声鳴いた。

「キューン!」

 そして、自分を迎え入れてくれるというEDENたちに弾んだ鳴き声を上げる。

 その時、狸は満たされた感覚があった。
 自分が長く|失っ《欠落し》ていた『安心できる場所』

 この時、狸は『簒奪者』という√能力者ではなく、ただの狸っぽい何かへとなった。

 けれど狸は気にしない。
 だって、いつも迷惑をかけていた虎と蛇を、これで安心させてあげられる。もう迷惑をかけなくていい。

 それがとても嬉しくて、キュンキュンコロコロしていた。
 そんな様子の狸を、EDENも微笑ましく見つめる中――。

「なんだ、これは……?」

 この場に、第三者の声が響いた。

 一体どういう状況だと言わんばかりのその人物――サイコブレイドは、困惑の表情を浮かべていた。

 Ankerが居るとこの場に来てみれば、想定通り、EDENがいる。
 そこまでは良い。
 だが、彼らの足元には動物……動物? どう見ても普通じゃない生物がいる。
 しかも狸の頭を持つ生き物は嬉しそうに転がっている。

 傍から見ればカオスな空間だった。

「……そこの狸、でいいのか? それが、Ankerだな」

 サイコブレイドが狸だろうかと迷うのも無理はない。
 だが、彼の力が、たしかにこの狸っぽい何かがAnkerだと告げてくる。

 泣き濡れた痕跡のある顔。
 どうみても不自由しかない身体。
 当の狸自身は朗らかにキュンキュンと鳴いている。

 対して仲間らしき虎? と蛇? は小さい身体で一生懸命にサイコブレイドを威嚇していた。
 周りのEDENたちも警戒している。

 サイコブレイド自身、元々Anker抹殺計画に後ろめたさを感じていたが。
 哀れな狸に、健気な虎と蛇の姿を見せられて良心の呵責が滅多打ちにされていた。

 今ならきっと、説得だけで退いてくれるだろう。
 もちろん戦闘を行ってもいいが、貴方たちはどう対処するのだろうか――……。
イヴォシル・フロイデ

「おや」

 イヴォシル・フロイデ(|鷹追い《たかおい》・h06554)は、サイコブレイドの顔を見て目を細めた。

「以前、酒場で会ったね」
「……ああ」

 互いに覚えていた。

「その時、君は『守りたい奴がいる』と言っていた。覚えているかね?」

 サイコブレイドの視線が、足元で嬉しそうに転がる狸へ向く。

「……覚えている」

 イヴォシルは狸を指す。

「君がこの狸を殺すのは、君のAnkerを守るためなのだろう?」
「そうだ」
「では聞こう。君が今から殺そうとしているこの子は、そこにいる虎と蛇にとっての『守りたいもの』ではないのかね?」
「……」

 虎と蛇が狸へ寄り添う。
 サイコブレイドは、複雑な面持ちでその様子を見つめている。

「見てみるといい、あの狸の幸せそうな様子を。この光景と、君が今からしようとしていること。もし君が虎と蛇の立場だったらどうだろうね」

 涙で濡れそぼった狸の顔。
 けれど今は、幸せそうに鳴いている。

「……本当に、これを殺すのか」

 その呟きを聞いて、イヴォシルはにやりと笑った。

「さて。答えはもう、君自身が知っているんじゃないかな?」

クラウス・イーザリー

「びっくりするよね……」

 クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は、困惑した様子のサイコブレイドへ同情的な視線を向けた。

 Ankerを感知できる能力を頼りに、ここまでやってきたに違いない。その相手がどんな姿かは知らずに。
 きっと、それだけだったのだろう。

 それなのに、いざ辿り着いてみれば、そこにいたのは涙で毛皮が濡れそぼった狸かもしれない何か。
 その周囲にはEDENがいて、さらには虎と蛇かもしれない珍妙な生き物までいる。

「まさか、こんなことになってるなんて思わないよね」

 サイコブレイドの困惑も無理はない。
 クラウス自身も、最初は半信半疑だった。

「まあ、その……こんな感じだから」

 クラウスは狸へ視線を向ける。

 ついさっきまで、あんなに鳴いていた狸。
 けれど今は、安心したようにキュンキュン鳴きながら転がっている。

「できれば、そのまま帰ってくれるとありがたいな」

 クラウスは穏やかに笑う。

「いっぱい泣いていた可哀想な狸さんがやっと泣き止んだんだ。だから、もうそっとしておいてほしいんだけど……どうかな?」

 狸の傍では、虎と蛇も嬉しそうに寄り添っている。

「ほら。蛇さん? とか虎さん? も喜んでくれているし……」

 クラウスはわちゃわちゃとしている三匹を見て、それからサイコブレイドへ向き直った。

「前にも言ったけど、君だって好きでこんなことをしているわけじゃない。本当は、この子を泣かせたくはないんじゃないかな?」

 責めるような声音ではない。
 ただ、そうであってほしいと願うような声だった。

「だから、退いてくれたら嬉しいな」

 サイコブレイドを見つめる。

 優しい人なのだとわかっているから。
 だからこの状況も、きっと理解してくれる。

 それでも。

「もし戦うっていうなら、俺も戦うよ」

 クラウスは狸の前へ立つ。

「やっと安心することができた狸さんたちを、また泣かせたくはないからね」

 その言葉に、狸がキュゥ、と小さく鳴いた。
 まるでクラウスの言葉を肯定するように。

 サイコブレイドは、そんな狸を見つめたまま動けなかった。

雪・大雪

 サイコブレイドが現れるより少し前。

 EDENの説得により狸を送り出すと決めた虎と蛇に、狸は嬉しそうにしている。
 そして、コロコロと|雪・大雪《せつ・たいせつ》(白雪童子・h13668)の元まで転がってきたかと思うと。

 「キュウン」

 まるでよろしくと言わんばかりにひと鳴きして、頭を下げる動作。

「た、狸さん……!」

 大雪は嬉しそうに目を輝かせると、雪魄鞭の先をふりふりと振った。
 そのたびに、先端についた鈴がチリンチリンと軽やかに音を鳴らす。

「やったー、やったー!」

 狸の周りを、くるくる。
 まるで嬉しさを全身で表すように、大雪はスキップしながら回る。

 そんな微笑ましい光景が繰り広げられている、まさにその瞬間だった。

「なんだ、これは……?」

 現れたサイコブレイドを見て、大雪はピタリと足を止めた。

「……!」

 そしてすぐに、狸とサイコブレイドの間へと立ちはだかる。
 三匹を背に庇うように立ち、雪魄鞭を握りしめた。

 そんなことがあっての、今。

「サイコブレイドさん……」

 大雪は、じっとサイコブレイドを見つめる。
 敵意を向けるのではなく。けれど、ここから退くつもりもないという意思だけは、まっすぐに示して。

「あなたは、外星体同盟の殺し屋と聞いているよ」

 Ankerにまつわる噂も聞いている。
 大雪だって、何も知らないわけではない。

「でも……あなたはいま『殺したくない』と考えているんじゃないかな」

 サイコブレイドは黙り込む。

 その視線の先には、つぶらな瞳で見上げてくる狸の姿。
 安心しきった様子で、キュンキュンと鳴きながら虎と蛇に挟まれている。

「無辜の狸さんを殺めたところで、きっとあなたのためにはならないだろう」

 大雪は一生懸命に言葉を探す。

「ならないよ。絶対ならない」

 小さな体で、ぐっと拳を握る。

「これは断言する。誰に聞いても断言すると思う……」

 だって。

 大切な誰かを守るために、自分の心を傷つけることが。
 本当に、その人を守ることになるのだろうか。

 大雪には、それが正しいことだとは思えなかった。

「僕は……」

 狸を振り返る。

 涙で濡れた顔。
 けれど今は、嬉しそうにこちらを見ている。

「僕は狸さんの『安心できる場所』になりたいんだ」

 その言葉に、狸が小さく鳴いた。

「キュゥ……」

 その様子を見て、大雪はそっと笑う。

「誰かに対して、そんなことを考えた日が……あなたにもあるんじゃないかな?」

 自分も、そうだった。

 弱くて、何もできなかった。
 どうしようもないことが、とても悲しくて。

 でも、そんな自分を拾ってくれた人がいた。
 慈しんでくれた人がいた。

 だから。

「安心してもらうために、毎日語りかけて……」

 一つずつ、指を折る。

「お腹がすいたらご飯を作って、桃もあげて……」

 そして、もし名前が無いのなら。

「名前を考えて……」

 そこで、大雪の声が震えた。
 抑えようとしても、抑えきれなくて。

「そういう……そういう……!」

 上手く言葉にならない。
 それでも伝えたい。

 この狸が、ここにいていいのだと。
 だから、殺さないでほしいのだと。

 大雪は深く頭を下げた。

「どうか……退いてはくれないか!」

 ぽた。

 小さな雫が地面へ落ちる。

「やっと泣き止んだこの子を、もう泣かせたくないんだ……」

 さっきまでの狸のように。
 大雪自身もまた、ボタボタと涙を零していた。

 その姿を見たサイコブレイドは、何も言わない。
 いや、言葉が喉につかえて喋れないだけか。

 ただ、目の前で泣いている大雪と。
 その背後から見上げてくる狸を交互に見つめる。

 やがて。

 サイコブレイドの手から、ゆっくりと力が抜けていった。
 だらりと下げられた手。得物も今や力なく持たれているだけだ。

「……俺の、負けだ」

 しばしの逡巡。

 そしてようやく開いたサイコブレイドの口から洩れたのは。
 EDENたちの説得に根負けした、力ない言葉だった。

 もう、サイコブレイドにこの狸を殺す意思はない。

 ちらりと狸を見たサイコブレイドは、そのまま背を向けて歩き出した。

「っ、……ありがとう!」

 その背中に向かって、大雪は感謝の声を投げかける。

 その後。
 狸は大雪に抱き上げられ、新しい生活へと胸を弾ませるのだった――。

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