シナリオ

全ては夏の夜の

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ゾディアック・ミラー

これは2章構成の期間限定シナリオです。09/23(水)16時頃までに完結したシナリオの結果により、宿敵の運命が変わります。
なお、期間中に宿敵主によって倒された場合、通常のルール通り宿敵は絶対死します。

 夏を刺激するホンモノの恋なら、ナマ足ヘソ出しが爽快よねっ!

『イギィーーーー!!!! 許すまじラッシュガード!!』

 解放された浜辺にて笑顔で楽しむ人々とは対照的に、こっそり隠れた松の木の陰で独り歯ぎしりするは、ピンク色の可愛らしい『魔法少女アンテロス』
 どうやら、昨今の灼熱日差し対策に着られた長袖のスイムウェアやパーカーが、とてもお気に召さないらしい。

『冬はスキーで魅せるなら、夏は脱いで勝負でしょ! 誰もかれも洋服みたいな恰好しちゃってーー!!』

 普段は迷惑千万推しカプ養殖機の√能力者。
 美男美女をもっぱら顔で選ぶ彼女だが、今回はシチュエーションを大事にし、肉体美を基準にしようと意気込んできたようだった。
 それが、このザマである。

『~~~~しかたないっ!! 今日のところはあなた達が優勝よ!!』

 胸元のリボンからスルリと魔法の矢を取り出すとマジカルな弓に番え、放つは独自に編み出した強制恋愛製造√能力『ハートクエイク・アロー』
 本日のコンテストで"最も美しい"と称賛された二人に向かって放たんとする!


「というわけでこのままだと、筋肉隆々マッチョ男性二人が浜辺に妻子を置き去りにし愛の逃避行をする未来が見えました。心ある方は止めに行ってはいかがでしょうか」

 ──大惨事じゃないか!!?

 もっと危機感を持った説明をしろと飛びかかりたい衝動を必死で抑えるEDEN達の視線の先にいるのは、星詠みの|誉川《ほまれかわ》・|晴迪《はるみち》(幽霊のルートブレイカー・h01657)
 きっと大会では上を脱いでいたのでしょうね、などと言っているが、慈悲と正義感を現世に置いてきてしまったタイプのユーレーなので許してやってほしい。

「普段の予知よりも事件性が低い? それもそのはず。今回は先の"ゾディアック継承戦争"で獲得した"強者の陰謀"を察知する巨大丸鏡"ゾディアック・ミラー"を用いたものですから。……だから皆様の行動によっては、少し興味深いことも起こりそうですよ?」


 まずは昼間の浜辺で、√能力『ハートクエイク・アロー』を中てんとする『魔法少女アンテロス』との戦闘になると星詠みは語る。

「今から行けば、予知で見た初撃より少し前に接触できます。標的となった二人を守りつつアンテロスと戦ったり、ハートクエイク・アローを射る隙がないほどこちらに注意を引き付けるのが効果的でしょう」

 他の事件と同様、殺人や破壊といかないまでも、当人達の意思を無視しカップルを作ろうとする彼女を倒すか。
 もしくは早期発見の事件ゆえまだやり直せると信じ、壁や床となり見守るオタクの心構えを語ったり、ありのままをいつくしむ慈愛を説くか。

 どの方針を選択するかによって、この先の未来は分岐する。


 討伐を試みるEDENが多ければ、魔法少女アンテロスの心にあるという『ミラーレイヤード』世界へ乗り込み戦闘となる。

「鏡写しのように左右反転した夜の浜辺での戦いとなります。対峙する『爆破戦闘員部隊』という集団敵を倒し切れば、彼女のミラーレイヤードは破壊され撤退を余儀なくされるでしょう。……魔法少女にとってその世界がどれほど大切なものかは不明ですが、以降EDENとは強く対立する可能性が高まります」

 対話や説得を試みるものが多ければ、降伏したアンテロスと共に平和になった日常をすごすことになる。

「ミラーレイヤードは現れず、代わりに現実の夜の浜辺でアンテロスとの語らいとなるでしょう。花火を楽しんだり浅瀬に現れた海蛍と戯れたり。……彼女自身にも何かしらの変化が現れるようで、今後は一歩踏み出せないカップルの手助けにとどめ、殺戮の発生する事件は防ごうとする、平和的な性格になると予想されます」

 全てを収めるオベロン王が現れないのなら、パックの起こす不祥事は私達が止めなければいけませんね。
 足の溶けたユーレーが宙を泳ぐマーメイドのように影の中に消えてゆく。

 のぞけばその先は炎天下、熱い風が潮風と共に誘惑する、夏の浜辺へと繋がっている。

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第1章 ボス戦 『魔法少女アンテロス』


シキ・イズモ

 キリリと弦を引きカップリング相手を狙い定める『魔法少女アンテロス』
 その射程に至近距離でフラリと横入りして塞ぐ者が一人。
 何事かと遠目から近距離にピントを合わせ、アンテロスの視界に浮かび上がる姿はシキ・イズモ(紫毒の鳥兜未遂・h00157)
 浜辺で水着でないのが残念なくらいの爆裂ボディに、気だるげな雰囲気を纏ったダウナー少女だ。

「また来たよアンテロス。それじゃ、夏休みを思いっきり楽しむためにも、邪魔するね」
 矢尻に触れないようシャフトの部分をスパンと叩き上げ、繊細に構えられたハートクエイク・アローを転がし落とすシキ。
 幾度目かの攻防、手の内を知りきった者の動きだ。

『くっ── 共に歩み、他の者に依らず!』
 たまらず距離を取り詠唱するアンテロス!
 しかしいくらシキだって素手の勝負では分が悪い。
 濃縮した毒をチャージし始めると同時に、シレデウスカードが輝く。
「変身は魔法少女だけのものじゃないよ。スコルピオ×アルチーナ」
 二枚のカードから星の力が溢れ出し、シキの姿を光のシルエットとして包み込んでゆく。
 足、スネ、太もも、おしり──。
 クルクルと回転しながら蠍座と魔女の力を秘めたボディスーツが徐々に身を包んでゆく。

 ──そう、変身バンクだ!!

 こんな隙だらけの絶好の機会、アンテロスが逃すはずがない──否! 待っている! 弓矢は構えたままだが、ちゃんと変身と着替えが終わるのを待っている!!
 √マスクド・ヒーローの者ならば、当然の礼儀と様式美だとでも言うのか!!?

「なんだ、ちゃんといい子じゃないか……今まで溜めた毒、じっくり味わうといいよ」
 たっぷりと60秒の変身を済ませ、決めポーズと同時にシキが放つは√能力【|絡みつく粘性の毒《カラミツクネンセイノドク》】
 変身し新たに生えた|鞭状の毒尻尾《テールインジェクター》がアンテロスの死角から回り込み、威力18倍の粘性毒に塗れた強烈な一撃を穿つ!!

『キャッ!! 〜〜〜〜!!』
 弓手に受けてしまい、マジカルな弓を取り落とすアンテロス。
 しまったとばかりに逆手で回収するが、腕が痺れてすぐには反撃ができない。
 接近戦は不利と踏んで、たまらずターゲットのマッチョ男性達からは離れる位置まで後退する。

「対して、お約束を守るほど、ボクはそんなにいい子じゃないよ。うん。あの子も上手く説得されてくれないかな」
 急な参加ゆえ今回は撃退してしまったが、魔法少女の行く末を、そっと願うシキであった。

戸桜・リデル

「どうやら俺が軌道修正するしかなさそうですね。バニー仮面、ここに参上です」
 体勢を立て直し再び松の木の影から矢を番える『魔法少女アンテロス』の前に、真上からヒーロー着地で登場するは戸桜・リデル(人間(√EDEN)のルートブレイカー・h00081)
 ……そう、仮面を付けた女性バニースーツに身を包む男性、という外見を除けば、本当にヒーローさながらの登場なのである。

『キャーーッ!? 怪人ーー!!??』
「失礼な! バニー仮面です! ── アロー、弾丸、矢や弾と名がつくものなら例外は一切ありません。全てが俺の思うままです」
 素早く発動するは√能力【|剣風陣・操《ケンプウジン・ソウ》】
 アンテロスの手からハートクエイク・アローがスルリと抜け出し、魅了効果が53倍となった得物が、かつての主人を射止めんと襲いかかる!!

 ──カンッ!!

 しかしハートクエイク・アローが中ったのは横にある松の木!
 手にした矢の異変に瞬時に気付き、急カーブできない特性を利用して咄嗟に躱わしたアンテロス。
 さすが魔法少女とはいえど、ゾディアック・ミラーに捕捉される強者である。
『ふ〜ん、"矢"を操れるんだ。じゃあコレならどう? ハートクエイク〜〜〜〜"ボウ"!!』
「"|弓《ボウ》"!!??」

 バニー仮面の√能力を理解し、マジカルな(※装飾だらけで凄くゴツい)弓だけで物理的に殴りかかってくる魔法少女!
 先ほど操ったアローで反撃を試みるリデルだが、どうしてか深々と刺さったまま抜けない!?
 この場で新しい矢を作り出せるのはアンテロスだけだが、それも望みは薄いだろう。
 霊剣"訪春"を抜刀し、なんとか耐え凌ぐ。
 このまま殴り合いで勝負をつけるしかないと覚悟を決めた、その時──。

(…………バニー……仮面様…………)

 風が高い木々を通り抜ける音だった。
 しかし、呼ばれた気がしたのだ。
 霊剣の刃を鞭のようにしならせ、距離を取ると上を見上げるリデル。

 メキメキメキメキッ!!

 突如として、防風林である十メートル越えの松の木の一本が、身体をくねらせるようにしなり、根を足のように地面から引っこ抜きながら立ち上がった!!?
 よくよく見ればそれは、先ほどハートクエイク・アローが刺さった松の木!!

 ──摩訶不思議な√能力。
 魅了の効果が53倍にもなった日には、樹木だって歩くぜ!!!!
(……アイラブユー……フォーエバー!!!!)

「『うわーーーー!!!!????』」
 突如として生まれた闖入者に、乱闘をほっぽり出して逃げるアンテロスとバニー仮面!

「少し場所を移しましょう!」
 両者が二手に分かれれば、当然のようにリデルの方へついてゆく魅了松!
 マラソン選手のような美しいフォームで、幹も枝もメキメキと鳴らし、松葉と松ぼっくりを振り撒き落としながら、全力疾走する魅了松!!

 民間人の被害を出さないように、遠ざかってゆく松とバニー仮面。
 あとはこの世界のヒーローと、リデル自身がなんとかするだろう。

『…………ちょっと、アローの効果は落としても良いかもしれないわね』
 意図せずとも、自らの能力で恐ろしいバケモノを生み出してしまったアンテロスは、少しだけ反省をするのだった。

夢鏡・めう

「わかるよ〜夏だもんね、海に来たなら可愛く肌出してなんぼ! そこはめうも同意〜」
 ふわふわとした足取りで、へたり込む『魔法少女アンテロス』の側へ寄るのは|夢鏡《ゆめかがみ》・めう(ゆめふわはっぴーがーる・h08258)
『!? 分かってるわね、アナタ!!』
 めうの姿を見た途端、跳ねるように立ち上がり、手をガッシリと握ってご機嫌にうなずくアンテロス。
 ──めうの今年の水着は、濃い珊瑚色と白を基調とし透け感のあるパレオをミニスカート状に巻いた可愛らしいビキニ。
 そう、魔法少女待望の、ナマ足ヘソ出スタイルなのである!

「でも強制カップルは、せっかくの可能性を自分で捨ててるのと同じだから不同意〜」
 少し悲しそうな表情を浮かべるめうの言葉に、少しムッとするアンテロスだが……先のEDEN達から学びがあったのか、目の前にやっと理想の水着で現れためうを離したくないのか、そのまま話の続きを促すように見つめるにとどめた。

「ねえアンテロスちゃん。手を出さないからこそ出会える未知のカップリングや、結ばれるまで見守るじれったいときめきも素敵なんだよ。え、こんなめろい展開あるの?! とか、がんばれ……やったー! おめでとう! とか」
 そう語りながら視線を海辺の方へ移すめう。
 つられてアンテロスも、濃い影を落とす木陰の下から、キラキラと輝く波打ち際へと視界を広げる。

 ──理想のビジュアルカップルを現実のものにしたい。
 異能の力を手に入れてから、ただひたすらにそれを追い求めて来たアンテロス。
 未だニコニコと海を見つめるめうに合わせて、更によく目を凝らしてみれば。
 ……砂の山を城にせんと勤しむ子供、パラソルの中で語らう学生、焼きそばとかき氷を手に急ぎ駆ける者、本気のビーチバレーに熱くなるペア、砂浜をデカイシャベルでひたすら掘る謎の人物……。
 おや? おやおやおや……??

 理想には当てはまらないと、ターゲットから外して来たそれら。
 しかし一度立ち止まり、今ここにあるその軌跡に思いを馳せてみれば……彼ら彼女らにもそれぞれ出会いがあり、愛する者がいるのだと思えば、何かが内側から湧き上がって来るではないか!
 それがすぐ側にいる者であれば良いなと願うのは、たとえ今いなくとも思いを馳せていれば良いなと願うのは、間違いであろうか──イヤそんなはずはない! 想像および祈りは自由であるはずだ!

「めうは分かりきったらぶより何が起きるかわからないらぶが好き。ちょっとお話ししよ?」
『……私も今10組ほど見つけて語りたいと思ったところよ。アナタの"らぶ"なお話も、とても気になるわ!』
 完全におしゃべりモードに入った少女二人を、めうの護霊である羽うさぎの"ちまてゃ"が優しく見守る。
 もしアンテロスがアローを放てば、いつでも√能力【|めえめえミーティア《シープ・メテオ・シャワー》】のふわもこなひつじのぬいぐるみ達で迎撃補佐できるよう背後で構えていたのだが……どうやらその必要はなさそうだ。
 ときめきいっぱいの夢シチュエーションと、とても御本人にはお聞かせできない怒涛の妄想シミュレーション談話は、ビーチの賑わいに紛れて誰の耳にも届くことはなかった。

玖珂津・胡々乃香

 海水浴客で賑わう砂浜のはずれ、木陰からターゲットの人間を追う『魔法少女アンテロス』。
 しかし度重なるEDEN達との接触及び交流にて、その勢いは削がれつつあった。
 ──はたして自己満足で彼らを無理矢理カップルにしていいものだろうか、と。

「さてさて、何か手助けが必要かしら、アンテロスちゃん?」
 迷うその心を見抜いてか、後ろからそっと近づき囁くは、妖艶な笑みを浮かべるモデル体型のお姉さん──|玖珂津《クガツ》・|胡々乃香《ココノカ》(正体不明な妖怪探偵・h02098)。

『何よ、邪魔する気!? 』
 葛藤を振り払うように強気に弓を構えるアンテロス。だが、胡々乃香は動じない。
「邪魔をして欲しかったんじゃないかしら? いくら彼らを見つめても、あなたの欲しい答えは出てこないわよ。それは自分の中にしかないのだから」
 図星を突かれ、言い返せないアンテロス。大きな力を手に入れた全能感と理想、そして現実とのギャップに揺れ動く彼女は、まさに第二の思春期の真っ只中だ。
 頑張る人間が大好きな人妖である胡々乃香。
 悩める少女の背中を、ほんの少し押してあげるべく──すい、と視線をキラキラ輝く海辺へ向けた。

『〜〜〜〜っ、退きなさいよ!!』
 じれったさに痺れを切らし、威嚇の攻撃を仕掛けてくるアンテロス。
 待っていたと言わんばかりに発動するは、√能力|妖流抜刀術《影法師》《アヤカシリュウバットウジュツ・カゲマトイ》!
 一閃。
 一瞬で間合いを詰めた胡々乃香は、あらかじめターゲットの前に立ち塞がりつつ、アンテロスの手から巧みに魔法の弓を弾き飛ばしてみせた。
 そしてそのまま、夜闇のような影を纏って姿を消す!

『えっ!? 弓がない!? ちょっ、どこ行ったのよ~!!?』
「ふふ、ここよ。思いつめすぎても良い答えは出てこないわ。せっかくのビーチなんだもの、息抜きしましょ。さぁ、お姉さんを捕まえてごらんなさい!」

 姿はなくとも、手元にある奪った弓と楽しげな声がある。
 それを目印に必死で追うアンテロスは、いつの間にかバシャバシャと波打ち際を走っていた。
 お目当ての人間を逃がしてあげた胡々乃香は、波に脚をすくわれそうになりながら弓を取り戻そうとする少女を、優しく見守り誘導する。

 見えない相手を無我夢中で追いかけるうち……いつの間にかアンテロスが笑顔になっていたのは、なぜだろうか。

エアリィ・ウィンディア

「えとえと……え? えーと、どーしろと?」
 なんだか自分の“好き”に全力投球する新人迷惑√能力者が現れたと聞いて駆け付けたのは、エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)。
 視線の先にいるのは、先のEDENから弓を取り返し終え、肩で息をする『魔法少女アンテロス』だ。
 事態の決着まであと一息といったところだが、エアリィは小さな表情をキュッと引き締めた。

「でも、無理やり恋人さん同士にするのはダメだと思いますっ!」
 叫ぶと同時に解き放つは、自身の物語を世界に刻む√能力|六芒星空想黙示録《ヘキサドライブ・エピックリンカー》。
エアリィが精霊たちと育んできた日々の語りに応えるように、周囲の景色がキラキラとした幻想的な"妖精界"へと姿を変えてゆく。
 この世界の主人公となった彼女の攻撃は、届く限り絶対に外れることはない!

『ちょっと何なのよ、邪魔しないで──』
「おねえさんっ! そんな強制的なことしちゃだめだよっ!」
 アンテロスが取り出した魅了の矢へ向け、両利きの手で素早く精霊銃を構え、引き金を引く。
 狙いは寸分違わず──放たれた魔弾は、手の中のハートクエイク・アローを完璧に撃ち抜いて霧散させた!

「恋人さんは、お互いを想って、ほわほわしてふんわりして暖かいんだよーっ!!」
 愛とか恋とか、正直まだよく分かってはいない。
 だけど──なんだか、そう全力で叫ばないとダメな気がしたのだ!
 突然の大声と真っ直ぐすぎる言葉に毒気を抜かれ、アンテロスが面食らったように問いかける。

『なによ、急に……好きな人でもいるっていうの……?』
「好きな人がいるかって言われたら、いるよって答えるけど。その人と恋人かって聞かれたら……一緒に居て、ふわふわ温かい気持ちになるひとっ!」
 アンテロスの考える刺激的なカップリングなど、12歳のエアリィには寄り添うことも共感することもまだできない。
 だから、顔を赤らめ、しどろもどろになりながらも、とびきりの無垢な笑顔で必死に伝える。
 自分と、大好きな"その人"との温かい思い出を!

『……ぁ……あ…………』
 うめくような声を上げ、震える魔法少女。心配そうに覗き込む精霊の娘の前で、ついに彼女は叫んだ。

『──甘酸っぺぇ!!!!』

 バタンッ!! と受け身もなしにその場で倒れ伏すアンテロス!
 歪んだオタクの邪心に対し、あまりにも眩しすぎる"初恋レベルのピュアピュア"がダイレクトアタックとなって突き刺さってしまったのだ。
 ──そうだよ、ビジュアルの良さでも、刺激的なシチュエーションでもない。恋って……恋って……こういう温かいものだった……!!

「ふえぇ!? だいじょうぶ……っ!?」
 おろおろと狼狽えるエアリィの下で、ジュワジュワと心が浄化されていく音を感じながら、アンテロスは自らの罪を悔い、改心することを固く誓うのだった。

第2章 日常 『夜の砂浜にて』


 砂浜は夜の景色へと移り変わってゆく。
 海面を赤く染め上げた夕陽は沈みきり、空は明るい星から順に輝き、涼しい風が吹く。

 夜空と競うように人が灯すは、持ち寄った手持ち花火。
 海も負けじと呼び込んだのか、不思議に青白く発光する波打ち際には海蛍の群れがいる。
 それぞれが賑やかな夏の日を名残り惜しむように明かりをつけて、最後の夏を楽しんでいる。

『これから、どうしようかな……』
 そんな景色を遠目にポツリとつぶやくは『魔法少女アンテロス』。
 √能力による万能感の塊から抜け出し、二度目の思春期を終えた彼女。
 そう遠くない未来には、ドタバタの一日を遠く感じる頃には、自らの魔法少女としてのあり方にも決着がつくだろう。

 EDEN達はドタバタの一日の終わりに少しセンチメンタルになっているアンテロスと、一緒に過ごして少しの安らぎを提供しても、√能力者としての自分や未来の指針になる話をしてもいいし、放っておいてもいい。
 こうしている間にも一生に一度のしかない夏の夜は、夢のように過ぎ去ってゆくのだから。
エアリィ・ウィンディア

 すっかり日が落ちた夜の砂浜。
 波打ち際には青白く発光する海蛍が漂い、涼しい海風が火照った肌を優しく撫でてゆく。
 それらを遠く眺める場所に独り静かにたたずむ、可愛らしいピンク色の魔法少女。

「アンテロスさん……。……えーいっ!」
 どこか哀愁を漂わせる魔法少女の背中へ、エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)が元気に飛び付いた!

「ねね、せっかくだからおしゃべりしない?」
『え? な、なによ急に……』
 思わず気圧される『魔法少女アンテロス』の手を引き、バシャバシャと青く光る波の中へ連れ出せば、エアリィは無垢な瞳を輝かせて問いかける。

「アンテロスさん自体は、どんな人が好みなの? 推しカプっていうこととは別に、アンテロスさんの好みってことっ!」
 思いもよらぬ質問に、魔法少女は顔を真っ赤にして口をモゴモゴと開閉させた。
『な、なんでそんなこと聞くのよ……っ!』
「え? なんでって? ほら、やっぱり気になるじゃない? こういうお話する機会って滅多にないんだし、楽しもー♪」
『そ、そういうアナタはどうなのよ!』

 いたずらっぽく笑うエアリィに頬を膨らませてアンテロスが逆質問をすれば、今度はエアリィ自身が照れくさそうに頬を染めることとなった。
「……え? あたし? え、ええと、恋とかはわからないけど……さっき言ったように、大好きな人は、ほわほわあったかい人。かっこいいのもあるけど、優しくて、ピンチには心配してくれて……ほんと、素敵な人だよー」
『あまっ……初恋なのね』

 目を細めるエアリィへ相槌のつもりで打った言葉に、当の本人は目をぱちくりとさせながら動揺する。
「え? 恋っていうの? で? どうなんだろ……。あ、でも。恋とかの気持ちは一緒に探していこうって言ってくれたの。それが嬉しいのっ♪」

 楽しそうに語るエアリィの言葉は、波の音と共に優しく夜空へ溶けていく。
 その心にエアリィが名前を付けるのは、きっともう少し後のことなのだろう。
 ──恋の少し手前、ほんの寸瞬の大切な時間。
 他人の感情を強引に操ろうとしていたアンテロスは、目の前の小さな少女が見せた本物の愛おしさに胸を打たれ、素敵な人ね、とつぶやく。

 夢のように過ぎ去ってゆく夏の夜。
 二人の少女の少し甘酸っぱい談笑は、静かな波打ち際でいつまでも続いていた。

夢鏡・めう

 静かな波の音と、足元で幻想的に揺らめく青白く光る海蛍。
 足元でもてあそぶその光も、いつしか潮にさらわれて流れ去り、波打ち際は黒く闇色を増す。
 己の姿を確かめる術は空高くか細い星と月、遠く砂浜を縁取る街灯、次々と色を変えながら短く激しく炸裂する手持ち花火で遊ぶ集団の、小さな明かりだけだ。
 ふと、騒がしくも賑やかで太陽光あふれるビーチが白昼夢で、この暗く静かな世界が己の心の中であるような、そんな感覚におそわれる。

「あ、アンテロスちゃ〜ん。いたいた〜。なんだかセンチメンタルなの? めうとお話ししない?」
 そう声をかけてきたのは、|夢鏡《ゆめかがみ》・めう(ゆめふわはっぴーがーる・h08258)だ。
 ハッとして振り向く『魔法少女アンテロス』だが、よく見れば半日前にシチュと"らぶ"について語り合った相手である。
 肩の力を抜くアンテロスに、めうは手に持った紙袋を差し出す。

「あ! めうねぇホットドッグ買ってるんだけど食べない? 夜の浜辺で食べるの好きなんだ〜。……あ、無理はしなくて大丈夫だよ」
 差し出された温かい出来立てをそっと受け取り、並んで腰を下ろすアンテロス。
 言葉もなく一口かぶりつく少女の横顔を見つめ、めうは夜の海へ視線を送った。

「夜の海ってさ、静かすぎて自分のことが丸裸にされた感じになって、なんかそわそわむずむずしちゃうんだ。アンテロスちゃんは? 今どんな感じ?」
『……なんかね、急に静かになると、自分のこれからが分からなくなっちゃって』
「そっかぁ……」

 ぽつりとこぼされたアンテロスの本音に優しく相槌を打ちながら、じぃっと柔らかに、その顔を見つめるめう。

「めうあんまり難しいこと分かんなくて頼りないかもだけど、アンテロスちゃんと仲良くなりたいな?」
 小さく些細な、けれど確かに自分に向けられた、灯のような言葉だ。
 真っ直ぐで優しい言葉に、アンテロスの胸のすき間がほんのりと温かく満たされてゆく。
 そんな少女の小さな変化を感じ取っためうは、ぱっと花が咲くような笑顔を浮かべた。
「ふふ、気晴らしにぱーっといっぱい花火しちゃう?? しちゃお♡ これからのことは、そのあとゆ〜っくり考えよ〜♡」

 取り出した手持ち花火の詰め合わせパックに火を付ければ、パチパチと夜空を彩る温かな光。
 未来の悩みを一度脇に置いた二人の少女は、波打ち際で笑い合いながら、一度きりの夏の夜を優しく噛み締めていた。

 とある魔法少女の夏が終わる。
 次の季節には、目で見ず、温かな心同士をつなげる者になれるよう、祈りながら。

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