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怪生物ちゃん観察日誌

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ライラ・カメリア
皮崎・帝凪

「では、ライラ。俺の大事な相棒を頼んだぞ!」
「このライラ、命にかえてもお護りいたしますわ!」
 玄関先で皮崎・帝凪(Energeia・h05616)の背に手を振ったライラ・カメリア(白椿・h06574)は、燃え上がる使命感を胸に秘め、自らの拳を握りしめると魔王城の中へと戻って行った。

――遡ること数時間前。

 発明品の実地検証のため、数日間魔王城を留守にすることになったのだが、しかし帝凪には心配事があった。白いフォルム、円らな黒い瞳、そして小さな翼や尻尾。それに加えてオシャレに着飾るあの子。
 そう。今し方、帝凪の足元でころころと転がりながら、床の冷たさを堪能している怪生物ちゃんを一人にしてしまうということが、どうしても心配で胸の中に引っかかってしまうのだ。それに加えて夏の間、毎日つけていた怪生物ちゃんの観察記録。これに関しては、信頼できる者しか引き継げない。
 信頼の出来る者もそれなりにいるが、一番最初に帝凪の脳裏に思い浮かんだのが、信頼できる友人であり、怪生物ちゃんを可愛がってくれるであろうライラだ。思い立ったが吉日、帝凪は早速彼女を魔王城に呼び出すことにした。
「かくかくしかじか。」
「そういうわけで、暫く怪生物ちゃんを預かっていてほしいのだ。」
「まあっ……ダイナ様!大切な怪生物ちゃんをお預かりできるだなんて光栄です!」
「観察日誌の引き継ぎもお任せくださいませ!」
「怪生物ちゃんも、ライラの言うことをよく聞いて仲良く過ごすのだぞ!」
 説明もそこそこに、そうして彼女に『怪生物ちゃん観察日誌』を任せることにしたのだが、しかしながらほんの数日とは言え、怪生物ちゃんと離れるというのは寂しさが勝る。
 帝凪はどこか寂しそうな視線を向けて、床に転がる怪生物ちゃんへ言葉を告げる。しかし、怪生物ちゃんも帝凪を心配させぬようにとしているのだろうか、転がっていた身を起こし、小さな翼をはばたかせながら帝凪の傍らまで飛ぶと、円らな瞳で見つめ返しながら帝凪の肩を尻尾でぺちぺち叩く。これは、帝凪の支度を促している時の仕草だ。
 そうされてしまっては、寂しい表情をしたまま留まるわけにもいかない。帝凪は荷物を旅行鞄に詰め込み、ライラと怪生物ちゃんに見送られながら出かけることになる。

 これがライラの『怪生物ちゃん観察日誌』の始まりである。
 ライラは早速、ペンを片手に日誌のページを捲る。敬愛してやまない彼に頼まれたことは、何としてでもやり遂げてみせる。それに彼の相棒である怪生物ちゃんは、ウルトラキュートで愛らしいのだ。そんな怪生物ちゃんの日誌をつけることが出来るだなんて、これもまた夢のような話でもある。
 研究机を借り、早速一頁目を綴ることにした。もちろん、ライラの傍らでは怪生物ちゃんが、はじめの一頁を見守っている。

『〇月×日 天気は晴れ。
 今日はダイナ様が発明品の実地検証のために、数日間魔王城を留守にするそうです。今日から数日間。ライラが観察日誌をつけます。』

 じいっと、大人しく座ったままの円らな瞳が、ライラの文字を追いかける。次の言葉を待っているかのようだ。視線に気付いたライラは、瞬きをすることも忘れて怪生物ちゃんを見つめていた。そうしてたいそう大真面目な顔で日誌の続きを綴る。

『白くて丸いフォルム、黒目がちな円らな瞳。
 ああ、なんてかわいいのでしょう……。
 その黒い瞳で日誌を書くわたしの手元を見つめておりました。
 途中で疲れてしまったのでしょうか、身を横たえて眠る姿勢をとったのです。
 わたしの手元で眠る怪生物ちゃんの可愛さ……。
 写真は撮ったので、後程この日誌に貼り付けておきます。
 お昼寝がお上手で可愛いですわ!』

 日誌を書き終えたライラは、眠る怪生物ちゃんにハンカチをかける。布団の代わりだ。研究机は床と同じでとても冷たい。もし万が一、怪生物ちゃんが風邪をひいてしまうようなことがあれば、ライラももちろんのこと、相棒である帝凪が血相を変えてしまうだろう。
 眠る怪生物ちゃんの写真を日誌に貼り付け、ライラは本日の日誌を書き終えた。

――二日目。

『〇月△日 天気は晴れ
 今日はとても暑い日です。
 怪生物ちゃんも暑さを感じているのか、いつもより動きがのんびりとしているような……。』

 ライラは日誌を書く手を止め、怪生物ちゃんへと視線を向ける。
 小さな翼をぱたぱたとはばたかせているものの、心なしかいつもより動きが遅い気がする。室温はどうだろうか。室内の温度計に目を向け、冷房の操作をしてみた。
「怪生物ちゃん、室温は丁度いいですか?暑かったらご遠慮なく仰ってくださいませ。」
 少しだけ室温を下げてみたが、まだ動きはのんびりとしているようだ。ぱたぱたとはばたかせていた翼の音が聞こえなくなったと同時に、怪生物ちゃんは研究机の上に腰を落ち着けると、日誌の近くに置いていた消しゴムで遊び始めたようだ。
「はっ、もしかして湿度も関係するのかしら!?」
 慌てるライラを他所に、怪生物ちゃんは消しゴムを軽く蹴り、サッカーを始めたようだ。中々転がらない消しゴムに苦戦をしているようで、何度も何度も小さな足で消しゴムを蹴り飛ばしている。

『のんびりしておりましたが、消しゴムでサッカーを始めたようです。
 惜しい……!もう少しでゴールですわ!そこ……!ああっ!
 中々滑らない消しゴムに、少し怒っている姿もウルトラキュートです……!
 無事にゴールが出来ましたが、やはり今日の暑さはこたえるようで、怪生物ちゃんは早々にお昼寝に入りました。
 明日は水浴びをしましょうね。
 それにしてもやっぱり今日の寝顔も一億万点のかわいさですわ!』

――三日目。

『〇月〇日 天気は晴れ
 昨日に続き、今日もとてつもなく暑い日です。
 今日は研究道具をお借りして、小さなプールを作りました。』

 ばしゃばしゃと水を弾く音を聞きながら、ライラは日誌を綴る。
 ライラの視線の先には、水を張った金属のボウルの中で泳ぐ怪生物ちゃんの姿がある。小さな麦わら帽子を頭に乗せ、小さな浮き輪を使って浮かぶ姿で水を楽しんでいる。
 ライラがボウルの中にビー玉を転がし入れると、器用に尻尾でビー玉を掬い上げ、それをライラに見せた。心なしか得意げにも見える。

『かわいい!!!
 今日はプールの中に転がしたビー玉を沢山、本当に沢山、尻尾で掬い上げることが出来たのです。
 なんて賢いのでしょうか!それにビー玉は色を揃えて掬い上げているようで、最初は赤を二つ、次に黄色を二つ、最後に緑……さすがは怪生物ちゃんですわ!
 新調した水着も、麦わら帽子もとてもかわいいので、今回もお写真をつけておきます。プールで涼んだ後はしっかりとストレッチもしておりました。
 足をばたばたとさせ、泳ぎの練習もバッチリです。
 今日も最高にかわいいですわ!』

――四日目。

『〇月□日 天気は雨
 明日にはダイナ様が帰って来られます。
 今日は雨ですが、昨日のプールのお陰で怪生物ちゃんはとっても元気で、今日もとってもかわいいです。』

 ライラは窓へと視線を向ける。すると、怪生物ちゃんが窓の外を眺めていた。
 視線の先はこの魔王城の入り口。もしかすると、帝凪が恋しいのかもしれない。暫く窓の外を見つめたまま尻尾をゆらゆらと動かしている。
 ライラ自身もまた、そんな怪生物ちゃんの姿を眺めていたが、不意に怪生物ちゃんが立ち上がる。
「……どうかされましたか?」
 ライラの声に怪生物ちゃんはぴょん、と飛び跳ねた。かと思えばステップを踏み始める。どうやら雨の音に合わせて踊っているらしい。

『そろそろダイナ様が恋しくなっているのかもしれません。
 尻尾が元気がないような……でもそんな姿もキュート……。
 はっ……!!!怪生物ちゃんが、怪生物ちゃんが踊っております!!!
 な、なんて、かわいいのでしょうか!
 今回もお写真をつけておきます!
 最終日もウルトラキュートですわ!』

――五日目。

『〇月〇日 天気は晴れ
 今日はダイナ様が帰って来る日です。
 そんな日に相応しく、天気は快晴。
 怪生物ちゃんもどこか嬉しそうな雰囲気を醸し出しております。』

 研究机で日誌を書くライラの傍らには、怪生物ちゃんがいた。
 この数日間、ライラが日誌を書くとこうして傍らに来るようになったのも、毎日毎日ライラが怪生物ちゃんへと話しかけ、そして怪生物ちゃんが喜ぶものを与えたからだろう。
 とはいえライラ自身は日誌をつける――もとい、ウルトラキュートな姿を書き記しているだけだが。文字が進むのに合わせて、怪生物ちゃんの身体もゆっくりと斜めに倒れては、再び定位置に戻って行くのをライラは幾度となく眺めた。
 日誌を書いている最中、玄関のチャイムが鳴る。それと同時にライラと怪生物ちゃんが、同時に顔をあげる。この魔王城の主、帝凪が帰って来たのだ。
「ダイナ様、お帰りなさい!」
 怪生物ちゃんと共に帝凪を出迎えたライラは、腕に抱えた『怪生物ちゃん観察日誌』を帝凪の眼前に差し出す。
「しっかりと記録をしましたわ。ダイナ様から引き受けた観察日誌、きっとダイナ様も満足する出来になっていると思いますわ!」
「随分と自信があるようだな。」
「ならば、怪生物ちゃん観察日誌の鑑賞会をしよう!」
 はい!と明るい声色で返したライラと、自らの観察日誌の鑑賞会と聞き、不思議そうに身を傾けた怪生物ちゃんを伴い、帝凪は研究机に向かう。『怪生物ちゃん観察日誌』は、研究机の後ろの戸棚におさめているのだ。沢山の日誌の中から、一番新しい日誌を取り出すと、早速研究机に広げる。
 帝凪の書いた日誌と、ライラの書いた日誌。机上に広げられたノートを見比べるように、怪生物ちゃんの身が左右に揺れる。暫く左右に揺れていたかと思えば、なにやらもの言いたげに円らな黒い瞳が、帝凪とライラを見上げ白い身体から赤い光を放ち始めた。
 それもそのはず。二人の書いた日誌は、バイタルデータや性能などの小難しいデータが並んでいる真面目な観察記録などではなく、おおよそ似たような内容で、ひたすらに『怪生物ちゃんかわいい!』と並べられていたのだ。
 怪生物ちゃんの様子に瞬きを繰り返していた二人だが、互いの日誌を改めて目にした時、二人揃って噴き出してしまう。考えていること、感じていることは同じのようで、やはり二人にとって怪生物ちゃんはウルトラかわいいのだ。
「ライラ、写真付きの素晴らしい観察記録だ!」
「ダイナ様こそ、怪生物ちゃんの皿回し記録……!キュートすぎる代物ですわ!」
 二人の目下で淡い光を放っていた怪生物ちゃんが、小さな翼をはばたかせながら飛び上がり、二人の視界へと映りこむ。もの言いたげな瞳は変わらないままだ。恐らく、ちゃんと記録をしなさい、とでも言いたいのだろう。
 しかし、二人にとってはそんな姿もかわいく映るもので、鼻の下を伸ばしながらかわいいと連呼をする帝凪に、カメラを構えるライラがそこにはいた。
 そんな姿を見ていた怪生物ちゃんの身体から出る光は、徐々に勢いを無くして行く。そうしていつの間にか元の白い身体に戻った時には、怪生物ちゃんは研究机の上でころん、と転がったのである。もし、怪生物ちゃんに両手がついていたのなら、お手上げだと言わんばかりに両手を広げ、大の字になっていたに違いない。
 怪生物ちゃんは、研究机の上でころころと転がりながら、日誌を見せ合う二人の男女を円らな瞳で見守ることだろう。

 こうして帝凪のいない夏休みは幕を閉じたのである。

 後に、ライラ作『夏休みを満喫する怪生物ちゃんの写真』は、無事に帝凪の手によって研究記録ノートという名のアルバムの中に、大切に保管をされたことは、また別の話である。

『△月△日 天気は晴れ
 今日も魔王城では、楽しそうな声が聞こえる。』

 円らな瞳の誰かが、日誌に足跡を残した。

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