暮れては明ける、キミへの一杯
赤い陽が、博多湾を超えて遠ざかる。昼間は夏の熱に満ちていた、『シーサイドももち海浜公園』も、暮れゆけば秋の気配を濃くして。彼の胸に、微かな哀愁を運ぶ。
整った人工の砂浜に足跡を残し、アンミタート・アケーディアは一人、歩いていた。
──私の『運命の人』は、どこにいるのでしょうか。
この公園で幾人もの女性と出逢い、語らった。いずれも魅力に溢れた相手だったが、彼の愛に応えることはなかった。
らしくもなくしんみりと、足跡を伸ばし続けること暫し。
行く先に、クマのような丸耳を生やした、珍妙な麦わら帽子が見えた。
瞳の大きな、あどけない顔立ちの女性だ。青のカーディガンとショートデニムから、華奢な手足が伸びている。
「こんばんは、愛らしいお嬢さん。海を眺めているのですか?」
声をかけると、女性は瞳を数度瞬いたが、警戒の色はない。
「こんばんは、素敵なお兄さん。ちょっと休憩にね!」
こちらを見上げて微笑まれ、アンミタートはふと、思うままに口を開く。
「あなたは……宵の空のような、瑠璃色の瞳をしているのですね」
「ふふ、嬉しいな。ボクの名前も瑠璃っていうんだ!」
お兄さんの瞳も、夕焼けみたいに綺麗だね。
瑠璃と名乗ったクマ耳帽子の女性の、打ち解けた様子に、アンミタートの胸も高鳴る。
「お一人での休憩も良いですが、一緒にドリンクでも如何ですか?」
──もちろん奢ります。
瑠璃はもう一度キョトンとし、すぐに楽しげに笑った。
「ありがとう! なら、ボクにオススメのお店があるんだ!」
🍹
「なるほど。だから『休憩』ですか」
案内されたのは、浜辺から少し離れた広場。
……の、駐車場に停車した、|クマ耳つき《・・・・・》のキッチンカーだった。
「うん、お客さまが増えて助かったよ!」
カウンターに座るアンミタートへ、瑠璃はしゅわしゅわと鳴る藍色のソーダをサーブした。そこへ静かに、レモンシロップを垂らす。
「ブルーピーを使った『夜明けのソーダ』さ!」
生まれたのは、藍から朱へ向かう、澄んだ紫のグラデーション。さる憧れの方も重なる美しい色味に、アンミタートは無心で見入る。
「ボク、愛や恋は……よく分からないけど」
アンミタートさんは良い人だから、きっと大丈夫だよ。
ソーダを喉に落とすと、清涼な甘みと酸味が、胸を優しく洗ってゆく。哀愁は溶け消えて、アンミタートは穏やかに笑った。
「ええ、必ず見つけます。私の……運命の人を」