シナリオ

闇のオークションに祝福を

#√EDEN #√マスクド・ヒーロー

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√EDEN
 #√マスクド・ヒーロー

※あなたはタグを編集できません。

 暗い、暗い牢屋の中。
 一人の少女はつまらなさそうに外を見る。

 縦70cm、横90cm。鉄格子で区切られた彼女の空は今日も晴天だった。
 その日は珍しく、彼女の耳に啜り泣く声が聞こえてこない。不思議に思って辺りを見渡すが、どうやら今この牢屋には自分しかいないらしい。


 カンカンっと何かを叩く音。
 一人の少女は目を覚ます。

 そこで彼女は気が付くのだ。
 そうか、運命の日は今日だったのか、と。

「『LadiesandGentleman!』」
「『今宵もお越しいただきありがとうございます!』」

 壇上には、下半身に蜘蛛の足を持つ女性が立っていた。マイクを通しているからか、声が2重に聞こえてくる。
 少女はそれをジッと見詰める。

「『本日の目玉商品はこちら──!』」
「『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!』」
「『さぁ、入札は100万円から!』」

 次々と上がる札と声。
 蜘蛛の足を持つ女はこの時気が付く事が出来なかった。
 少女の周りにインビジブルの群れが現れたかと思うと、インビジブルは少女を食べた。
 まるで餌に群がる水槽の中にいる魚のように、次々と啄まれていく。

 そして、少女の姿が跡形もなくなった時になって、蜘蛛の足を持つ女は異変に気がつく。
 後ろを振り返ると、そこには髪の長い、大きな獣が佇んでいた。

 獣は、この競売場にいた人々の命を、まるで蝋燭に息を吹きかけるように、いとも簡単に吹き消していった。

 獣の影響はこの競売場だけではない。
 外の世界にも手を伸ばし始めた。





 この√EDENの危機に気が付いたのは、星詠みであるアステリオス・ハシェット(h03394)だった。

「私が見た未来はここまでだった。
 しかし、これ以上は見ずともわかる。
 √EDENは一人の少女によって危機に陥る」

 アステリオスはあなた達にそう告げた。

「恐らく、敵は√マスクド・ヒーローの怪人と思われる」

 まずは、敵の本拠地である√EDENの競売場に向かう事だな、とあなた達に告げるとアステリオスは目を閉じ、話を締めくくる。

「さぁ、行ってくるといい。健闘を祈る」

マスターより

開く

読み物モードを解除し、マスターより・プレイング・フラグメントの詳細・成功度を表示します。
よろしいですか?

第1章 冒険 『闇の競売場』


シンシア・ウォーカー

「√EDENでの闇オークションですか。
 変装で参加者として潜入しちゃいましょう。
 サングラス掛けて、っと……羽はまぁ、小さいしバレないでしょう」

 シンシア・ウォーカー(h01919)は辺りをキョロキョロと見渡しながら呟いた。
 変装にしては少々雑であるが、シンシアにとってはコレが最大限の変装なのだろう。
 周りには一目見て裕福であることがわかる服装の人々が、仮面をつけて競売場へ吸い込まれていく。
 その流れを見て、入口を見つけたシンシアも人々と同じように競売場へと入っていった。

 競売場、というものは最初に商品の下見をすることが出来る。
 シンシアがまず辿り着いたのは、その下見会場であった。

「一体何を売って……魔導書!?
 どうしましょう、調査云々抜きにしても普通に気になるのですが!
 どんな魔法なのでしょう!」

 シンシアはガラスのケースの中に入っている魔導書に吸い寄せられる。
 そこには禍々しい、如何にもという雰囲気を醸し出す魔導書が鎮座している。だがガラスケースに入っているため中を確認することは出来ない。
 少々落ち込むシンシアであったが、しかしこの競売場は非合法な闇のオークションを開催している場所でもある。安易な気持ちでセリに参加することは身を滅ぼす危険がある。もし、この魔導書が窃盗品であれば……そうでなくとも落札価格の相場がわからないこの状況。魔導書……のみならず、この会場にある全ての物に手を出すべきではないだろう、とシンシアは判断する。

 だが……気になる……。

 シンシアは後ろ髪を引かれる思いでその場を後にし、会場を散策することにした。
 この下見会場だけでもだいぶ広さがあるため、1人で手掛かりを探すのは難しいだろう。

 『ゴーストトーク』
 シンシアは降霊の祈りによって視界内のインビジブルを生前の姿に変える。

「ねぇ、少し聞きたいことがあるのだけれど……」

 紳士のようなシルクハットを被る男性のインビジブルはシンシアを見て恭しく一礼する。
 だが一言も発しないところを見ると、生前は喋ることが出来なかったのではないか、と推測することが出来る。

「このオークションの運営元について、なにか事情を知らないかしら?
 あ、あとこの後の目玉商品も教えて!」

 シンシアがそう言うと、インビジブルはふむ、と考え込む。
 インビジブルはシンシアに背を向け、まるでついてこいと言うかのように歩きだす。
 そして、数多くいるオークションの参加者の一人を指差した。

 その人物は、まるで|ヒーロー《・・・・》のような|仮面《マスク》を被っている。

 インビジブルの意図に気が付くかどうかはあなた達次第である。

 そしてもうひとつ……シンシアが言っていた目玉商品にも心当たりがあるらしく……その場からそっと、先程と同じように指を差した。
 そこには搬入口と書かれた、鉄製の扉があるのがわかる。

石動・悠希
エアリィ・ウィンディア

「闇オークションね…大体の場合が法に触れるような裏ルートの物が多いだろう」

 石動・悠希(h00642)はオークションの参加者の間を縫うようにして歩く。
 だが、そういう所だからこそ『その筋の物御用達の品』がある。
 悠希が思った通り、その下見会場には違法パーツと思わしき物体など、表向きには売れないが需要がある物が並んでいる。

 同じ会場にやってきていたのはエアリィ・ウィンディア(h00277)。
 彼女も辺りを見渡す。
 ふと視線を送った先には、一人の黒髪の少女が佇んでいるのがわかる。
 エアリィには闇の競売、オークションなどはわからない。だが人間は売り買いするようなものではないということはわかっている。

 同時刻、悠希も同じようにその少女を見ていた。
 闇オークション自体を潰しても良いのだろうが、後に面倒ごとになることはわかっていた為、穏便に済ませようとしていた。
 だが……この少女はどう見ても……。

 そこで、悠希はふと青い髪の少女が搬入口へ滑り込む姿を見る。
 エアリィだ。
 彼女は『|精霊探査球《エレメンタル・サーチ・スフィア》』で敵を索敵しながら中を進み、搬入口の先を調べ、めぼしい物は鞄に詰め込んでいる様子だ。

 エアリィが索敵をしてくれているおかげで悠希も難なく搬入口の先へ進むことが出来ている。

 さて、あと少しで搬入口の先の突き当たり、というところであなた達はとある扉を見つける。
 錆びた鉄で出来たその扉は分厚く、一目見て直ぐにこの扉の先にあるものは厳重に保管されている、ということがわかる。

 この場から立ち去る為にもう一度√能力を使おうとしたエアリィは思わず立ち止まり、その中をそっと覗き込むために扉に手をかける。
 だが思っていた以上よりも扉が重く、数センチしか開かない。
 その姿を見かねた悠希は、エアリィと同じようにそっと扉に手をかける。

「あ、あなたは?」
「多分目的は一緒だと思う、安心して」

 その言葉を聞いて、エアリィは彼女が星詠みから依頼を受けた√能力者の一人であることを察する。
 2人は一緒に重い鉄の扉を開く。

 と、そこには角が生えた髪の長い少女が人形を持って、突然現れたあなた達をジッと見つめていた。

第2章 ボス戦 『変幻の権能『ジェッロ・ペンタメローネ』』


エアリィ・ウィンディア

「わっ!?」

 エアリィ・ウィンディア(h00277)は突然現れた少女に驚き、後ずさりする。少女はその様子をじっと見つめ、首を傾げた。

「…あなたは一体だれ?」

 エアリィは少女に問いかけるが、彼女も同じようにエアリィを警戒している様子がうかがえる。

「もしかして、囚われている人なの?
 それなら、ここから脱出しようよ?」

 エアリィはそう言って、少女に恐る恐る手を差し伸べた。しかし、その瞬間、少女は目を輝かせてエアリィにグッと詰め寄る。

「………………お姉さんは一体誰なのだ!?」
「えっ!?」

 少女は興奮気味にエアリィへ迫ってきた。長い髪が揺れ、口からはギザギザした歯が見える。その腕の中には、綿がはみ出したボロボロの人形が握られている。周りには他にも壊れたおもちゃが散乱していた。

「あ、あたしはエアリィ。あなたの名前は?」
「エアリィちゃん! ジェッロちゃんは、ジェッロちゃんなのだ!」

 どうやら、彼女に悪意はないらしい。
 無邪気に笑い、エアリィとの出会いを心から喜んでいるジェッロという名の少女。その無垢さに、エアリィも少し安心する。

「エアリィちゃん、ジェッロちゃんと遊んで欲しいのだ」
「え?」

 このまま少女をここに置いておくのは危険だ。
 しかし、今はそのような時間もない。だからといってこのまま放置するのも……エアリィは少し考え、微笑みを浮かべた。

「わかった。でも、今は忙しいから少しだけね?」
「やったのだ!」

 ジェッロがそう言った次の瞬間、彼女の身体がどんどん大きくなり始めた。

 |純粋な知恵の権能《コクマ・パフォーマンス》。

 ジェッロはエアリィの3倍ほどの大きさのゴーレムに変身した。
 その異変に、エアリィの第六感が警報を鳴らす。すると、巨大なジェッロゴーレムの拳が、エアリィの立っていた場所に振り下ろされた。エアリィはとっさに回避する。

「ジェッロちゃんは、悪の組織のスーパーワルワル怪人なのだぁ!!」

 ジェッロは完全に役になりきってノリノリだ。
 エアリィは仕方なく左手の精霊銃を抜く。距離は近いが、この部屋は狭い。ほとんどジェッロゴーレムが占領してしまっているため、零距離射撃で応戦するしかない。

 ジェッロはさらに嬉しそうに叫ぶ。

「エアリィちゃん、かっこいいのだ!」

 もう一度、ジェッロゴーレムが拳を振り下ろす。エアリィはすぐにバックステップで間合いを取りながら、オーラ防御とエネルギーバリアを同時に展開して耐えようとするが――。

「うにゅ、お、おもーーいっ!!」

 しかし、これだけ大きく、至近距離であれば、弾は当たりやすくなるはず。しかも部屋の大きさのせいで動きも鈍い。エアリィは精霊銃を連射する。全弾命中するが……しかし、ジェッロゴーレムはまだまだ耐えているようだ。

九・白
山梨・平三
石動・悠希

 石動・悠希(h00642)は、襲いかかるジェッロを見て眉を顰めた。
 この闇オークションの場において、彼女はできるだけ穏便に事を進めようと考えていた。だが、ジェッロがこれほどまでに敵対的な行動を見せる以上、そうもいかない。
 悠希は冷静に状況を見極め、対応する必要があると感じた。

「コミュニケーションは不要だろうから……迅速に片付ける」

 悠希のその言葉を聞いた九・白(h01980)と山梨・平三(h02659)も、すぐに彼女に倣い、武器を構えた。
 闇オークションの裏には様々な危険が潜んでいることは予測していたが、ここまでの事態に発展するとは予想していなかった。しかし、二人も悠希同様、即座に戦闘態勢に移る。

「荒ごとは得意だよ」

 白はそう言い放つと、すぐにジェッロへと接近を試みた。ジェッロはゴーレムの姿をしており、強力な肉体を誇示している。しかし、白はそれに臆することなく、彼独自の近接戦闘術、|喧嘩殺法《なんでもあり》を駆使してジェッロに対峙する。
 素早い身のこなしで懐に入り込むと、彼の拳が鋭く打ち込まれる。

「わしも続くとするかのう」

 山梨も、白に続いてジェッロに向かって前進した。彼の手には【屠龍大剣】が握られており、その重厚な剣筋は見る者を圧倒する。
 だが、ジェッロのゴーレムのような身体は異常なほど硬く、山梨の攻撃も思うように効果を与えられない。鋭い一撃を放ったにもかかわらず、ジェッロの体にはわずかな傷しか残らなかった。

 一方で、悠希は状況を冷静に分析し、ジェッロが単なる敵以上の存在であると判断した。彼女の視線は、ジェッロの動きを一瞬も逃さず、次の行動を考えていた。そして、悠希はついに決断を下す。

「アシュラベルク、発動」

 彼女は心中でそう呟くと、【貫通攻撃】を繰り出し、ジェッロに向かって一直線に突き進んだ。
 その攻撃は狙い澄ましたもので、一気にジェッロを貫くつもりでいた。
 しかし、その瞬間、ジェッロはゴーレムの形態から急に変身する。
 硬いゴーレムの姿は消え、代わりに美しい魔女の姿が現れたのであった。

「そうはいかないのだ! 
 今度のジェッロちゃんは……天才美人魔女なのだ!」

 ジェッロの声は誇らしげで、その変身を見せつけるように胸を張る。ジェッロは魔法の杖を振るい、悠希が放った攻撃を防御する。その反応の速さに、悠希はわずかに驚きを覚えたが、冷静さを失わない。

「ジェッロちゃんは、負けないのだー!」

 ジェッロは楽しげに叫びながら、あなた達に対して魔法の攻撃を繰り出し始めた。魔法のエネルギーが彼女の杖から放たれ、空間を揺るがすような衝撃を伴って悠希たちに襲いかかる。
 あなた達はその攻撃を軽々とかわしつつ、反撃の隙を伺っていた。

「そうとう厄介な敵だな……」

 白は小さくつぶやくが、その表情に焦りは無い。
 たしかに厄介な相手ではあるが、しかし中身はやはり子供だからだろうか、隙も多く見られる。
 その意表をつけば、もしかすると……だが、今この場にはジェッロを止める決定打がないのもまた事実。

長峰・モカ
モルドレッド・アーサー
シンシア・ウォーカー

「教えて頂いた”目玉商品”……って、あの子のことなのでしょうか?」

 シンシア・ウォーカーは、星詠みから聞いた予言を思い出していた。
 戦闘の喧騒に紛れて、彼女は部屋にある棚に並んだ魔導書を手に取りつつ、戦場の中心にいるジェッロを見つめていた。
 少々気が引けるものの、今はジェッロをおとなしくさせる方が得策だ。シンシアは息を潜め、忍び足でジェッロに近づいていく。

 一方、モルドレッド・アーサーはジェッロの攻撃をかわしながら、右手に槍を、左手には盾を構え、反撃の機会を伺っていた。

「うははは! 面白いのだ!」

 ジェッロは大きく笑っていた。
 その様子は、まるで戦いそのものを心から楽しんでいるかのようだ。モルドレッドもまた、この戦闘に快感を覚えているのか、薄い笑みを浮かべていた。

「油断するな。そこにいるのは強敵だ……敬意を込めて、叩き潰せ」

 モルドレッドはあるものを見て、そう呟く。ジェッロは彼らが何を言っているのか、あまり理解していない様子で首をかしげている。
 次の瞬間、全く気にしていなかった死角から攻撃を受け、驚いた顔を見せた。

 シンシアだ。
 彼女は物陰に隠れ、ウィザード・フレイムでジェッロに一撃を与えたのだ。
 無邪気なジェッロは、予測しづらい行動をすることが多い。それが厄介な点だった。シンシアは過去の戦闘経験から、自分の位置が露見するのを避けるため、あえて隠れたままの攻撃を選んだ。

「今日はいっぱい遊んでくれる人がいて嬉しいのだ!」

 ジェッロは攻撃を受けたにもかかわらず、楽しそうな声を上げている。
 しかし、人数的に不利だったことも影響してか、ジェッロの姿は徐々に元に戻りつつあった。それでも、彼女は笑顔を浮かべたままだ。

「……でも、もうジェッロちゃんは眠いのだ……」
「あ、ねぇちょっと待って?」

 シンシアは慌ててジェッロに呼びかけた。ジェッロは瞼をこすりながら答える。

「あなた、どうしてこんなところにいるの?」
「……わかんないのだ。
 ジェッロちゃん、ここはつまんないから、おうちに帰りたいのだ……」

 ジェッロはそう呟くと、その場に倒れ込んで眠りに落ちてしまった。



「……面白いじゃねえか」

 その頃、長峰・モカはゴーストトークで、インビジブルからこの場所で何が行われていたのかを聞き出すことに成功していた。
 彼女はその内容に激しい怒りを覚えながらも、冷静さを保っていた。そして、眠っているジェッロの近くにいる仲間たちに歩み寄り、声をかける。

「ちょっといい?」

 彼女は一呼吸置いてから言葉を続けた。

「この子が、話に聞いていた”目玉商品”で間違いないみたいよ」
「やっぱり……そうなのね……」

 シンシアがそう呟いた時。
 部屋のドアが勢いよく開き、オークション会場の人間と思われる人間が慌てた様子で入ってきた。

「お、お前達、いったいこんなところで何をしている!?」
「な、商品になにをした!?」
「あのお方に報告だ! 早くしろ!!」

第3章 ボス戦 『ジョロウグモプラグマ』


それはインビジブルが語る3日前の出来事。

「ジェッロちゃんはここから出たいのだ」
「えーと……確か誘拐されてきたんだっけ?」
「ゆーかい?」

 1人は今回のオークションの目玉商品のジェッロ。もう1人は長い、黒髪を持つ女性。

「ごめんね? 私が強かったらここから出してあげるのに」
「大丈夫なのだ! お姉ちゃんがいるから退屈じゃないのだ!」

 ジェッロは女性に抱きつく。

「そうだ、ここからもし出られたら私が服を作ってあげる。ジェッロちゃんは可愛いから、お姫様の服なんてどう?」
「お姫さま! ジェッロちゃん、お姫様にもなれるのだ?」
「もちろん!」

 そうやって2人で話していると現れたのは屈強な男たち。
 彼らはプラグマ、と呼ばれる悪の組織の人間達だ。

「来い!」

 彼らは女性を引っ張って部屋から連れ出す。

「お姉ちゃん!」
「だ、大丈夫。すぐに戻ってくるからね?」


 だが、その約束は果たされることは無かった。

「ジョロウグモを元に出来た怪人だが……」
「まだ人間性が残っているな……」
「洗脳処置を施すぞ!」

──あの子はいったい、今どうしているんだろう?


あなたを嘲笑するかのような高笑いが聞こえる。
何事かと辺りを見渡すと、上から足が蜘蛛のようになった女性が現れた。

「ここは私達、プラグマが所有する競売場……そして、そこの娘は今日のメイン……。
 何をしていたかは知らないけれど、ここに入ったのであれば、私のご飯になるしかないわね!」
ブリギッテ・ハイスヴルスト
森屋・巳琥
柳檀峰・祇雅乃
ヴォルン・フェアウェル
石動・悠希
シンシア・ウォーカー
エアリィ・ウィンディア

「ご飯になんかなってあげないからっ!」

 ジョロウグモプラグマの言葉にエアリィ・ウィンディア(h00277)が反応する。

「それに、人間は商品なんかじゃないんだよっ!!」
「あら、そんなこと知らないわ。
 私はただ命令に従うだけですもの」

 クスクスと笑うジョロウグモプラグマだが、その瞳に生気がないことにあなた達は気付くことでしょう。
 そういえば、このジョロウグモプラグマの元になった人間は悪の組織プラグマによって洗脳状態だったはず。
 洗脳されているというのであれば、とエアリィはジョロウグモプラグマに訴えかけるように叫んだ。

「お姉さん。
 ジェッロさんを助けたいんでしょ!?
 それなら、なんで商品なんていうのよっ!
 あなたが助けたい人、そして、新しい服を作ってあげたい人なんでしょ!
 まだ、人の心が残っているのなら、抗ってっ!」

 ジョロウグモプラグマは『ジェッロ』という言葉に一瞬動きを止める。
 だが、すぐにその名前を鼻で笑う。

「知らないわよ、そんな子供……私は生まれ変わった。この幸福を全√に教えてあげるのよ!」

 言葉だけでは足りない。
 それに気付いたあなた達は、ジョロウグモプラグマとの戦闘を開始するのだった。

 ヴォルン・フェアウェル(h00582)は襲い来るジョロウグモプラグマの前に立つ。

「どっちかっていうと懐柔とか騙し討ちの方が得意だけどね?」

 だが、この場面でそのようなことも言ってはいられない。

「ほら、ずっと君をみてる。逃げ場なんてないよ」

 『|月がわらう《ビースト・ムーン》』でヴォルンはこの部屋で最も重く殺傷力のあるであろう、商品を搬送する為にあるであろうコンテナでジョロウグモプラグマを攻撃する。

「ぐっ、身体が……」

 これにより、ジョロウグモプラグマの身体は状態異常【三日月の哄笑】にかかり、回避行動がとりづらい状況に陥った。

「だからどうということはないわ……。
 手駒を、増やせば良いんだもの!
 さあ、貴方を素敵な怪人にして洗脳してあげるわ!」

 シンシア・ウォーカー(h01919)は、謝っても許されないと、こっそり盗んだ魔導書を更に念入りに隠し、ジェッロが戦闘に巻き込まれないように遠くに避難させる。

「√能力者同士の戦闘に巻き込んでごめんね……」

 むにゃむにゃと眠り込むジェッロに謝っていると、何かがシンシアを襲う。

「ふ、服!?」

 それはジョロウグモプラグマが投げた洗脳糸製悪の怪人スーツであった。
 シンシアがジェッロを守るために能力を発動しようとした時、目の前に誰かがやってきた。
 彼女達……森屋・巳琥(h02210)と柳檀峰・祇雅乃(h00217)がシンシアとジェッロを守るように目の前に立つ。

「ここは私達に任せください!」
「子供の為ですもの、絶対に守ってみせるわ」

 森屋はヴェノム・バレットでジョロウグモプラグマが投げつけてきた服を次々に撃ち落とす。

「この人達には指一本触れさせません!」
「くぅ……なら、これならどうだ!?」

 ジョロウグモプラグマはその様子を見て悔しそうに唸ると、自身が支配する蜘蛛戦闘員軍団を召喚する。

「私の手駒達、仲間の怪我なんて気にせず襲いなさい!」

 ワラワラと現れる蜘蛛戦闘員を見て、あなた達は更に戦闘を激化させる事だろう。
 もちろんその手はジェッロにまで及ぶ。

「そうはさせないわよ!
 我が肉体よ、我が意に従い姿を変えよ」

 柳檀峰が詠唱を行うと、彼女の姿はみるみる変化し……遂には赤い鱗を持つドラゴンへと『自己変化』で変身する。
 そのまましっぽを使い蜘蛛戦闘員を蹴散らしていく。

「よし、今なら……」

 シンシアは『|楽園顕現《セイクリッドウイング》』を発動させ、楽園の叢檻を放つ。

「これで、ジェッロちゃんは大丈夫なはず……」


 一方その頃、ジョロウグモプラグマ達も思いもしない行動をとる影があった。

 石動・悠希(h00642)とブリギッテ・ハイスヴルスト(h01975)だ。

「…やれやれ。
 もしかしてって思ったけど。先の戦闘で潰すって決めたから…オークション、いや裏にある組織ごと潰す。
 それがせめてもの慈悲でしょう」

 悠希はジョロウグモプラグマに対して哀れみを感じてはいた。
 しかし、今彼女に同情していても誰も何も救われないことを悠希は知っている。
 だからこそ、悠希はこの闇の競売場ごと悪の組織プラグマを潰す事に決めた。

「え、なに、解体していいの!?」

 悠希に着いてきたブリギッテは目をキラキラと(というよりはギラギラ)させながら、悠希に詰め寄る。

「え、うん……もちろん、自分もそのつもりだけど……うん? 解体…?」

 潰すのではなく解体?

「ぃよっしゃあああ!解体開始ぃぃぃっ!!!

 悠希が疑問を投げつける隙もなく、ブリギッテは彼女の身の丈を超える大きさの巨大チェーンソーのスターターロープを引っ張って、この競売場を解体し始める。

「……………まぁ、いいか」

 悠希は恐らくこの会場の支柱であると思われる柱を爆破するために破壊工作を行うのだった。


 時は少々遡り、ジョロウグモプラグマと戦うあなた達は、彼女に語りかけることを諦めなかった。

「しらない、知らないわよ!
 私は……私はぁ!!」

 シンシアは持ち前の逃げ足でジョロウグモプラグマからの攻撃を避けながら全力魔法を彼女に放つ。

「このままじゃ埒が明かない……!」

 ジョロウグモプラグマに攻撃は効いてはいるようではある。しかし一向に彼女が倒れる気配がしない。
 洗脳され戦闘員にされた女性だからか、無意識的に手加減をしてしまっているらしい。

「あの、あなた彼女のことを、逃がそうとしてたんじゃ……!」

 ジェッロを思い出して欲しい。その一心でシンシアは語りかける。だがジョロウグモプラグマはそれを否定する。

「……声だけで足りないのなら、外部からの衝撃も与えるっ!」
「え?」

 エアリィの言葉に呆気にとられたシンシアだったが、あなた達は心のどこかで分かっていた。
 ジョロウグモプラグマの洗脳を解くためには、ジェッロを救い出すためには、この闇の競売場を潰すためには……こうするしかないということに。

「世界を司る六界の精霊達よ、あたしに力を……。
 精霊達とのコンビネーション、じっくり味わってねっ!」

 『|六芒星増幅術精霊斬《ヘキサドライブ・ブースト・スラッシュ》』を発動したエアリィはジョロウグモプラグマに向かって走り出す。
 それをみてジョロウグモプラグマも対応しようとするが、それを見たシンシアが全力魔法で攻撃する。

「させない!」
「邪魔を……っ!」

 ジョロウグモプラグマがシンシアに気を取られている隙に、エアリィ一気に接近する。

「その悪意だけを断つっ!!」

 エアリィはジョロウグモプラグマを複合魔力を束ねた斬撃の六芒星精霊収束斬で斬りつける────!

「ぎ、ギャァァアアアアア!!!!」

 悲鳴をあげてその場に倒れるジョロウグモプラグマ。
 ピクリとも動かない彼女に、ほぅ、と一息を着く。

「早く脱出するよ!」

 だが、その空気も一瞬にして変わる。
 悠希が全ての破壊工作を終えて帰ってきたのだ。

「え、どういうこと……?」
「ここは直ぐに爆破される。
 一応脱出するまでに時間はあるだろうけど、何が起こるか分からないからね」

 その言葉を聞き、あなた達はいっせいに逃げ出す準備をする。





 眠るジェッロを連れて、あなた達は走る。
 グラグラと揺れる会場。
 怒号と悲鳴。
 この競売場が壊れていく。

 そんな中ジェッロはそっと目を覚まし、辺りを見渡した。



 暗い、暗い牢屋の中。
 ジェッロは帰ってこないお姉ちゃんをずっと待ちながら、つまらなさそうに外を見ていた。
 縦70cm、横90cm。
 鉄格子で区切られたジェッロの空はずっと晴天だった。
 あの日は珍しく、お姉ちゃんの啜り泣く声が聞こえてこない。不思議に思って辺りを見渡すが、お姉ちゃんはどこにもいなかった。

「嘘つき」

 結局、あのお姉ちゃんも、ジェッロを捨てたんだ。
 もう会いに来てくれないんだ。

 その時、プラグマの戦闘員達があなた達を道ずれにしようと立ちはだかる。

 あなた達はジョロウグモプラグマと戦いもう体力も残っていない。
 絶体絶命。
 そんな時だった。

「その人達に、酷いことしないで!!」

 生きていたジョロウグモプラグマが、戦闘員達に攻撃を始めたのだ。

 まさか、洗脳が解けたのか?

「行って……その子を、助けてあげて!」

 あなた達は躊躇する。
 だが、彼女の決意は硬い。
 ジェッロは変わり果てた彼女の姿を見て、それがかつて自分と約束をしたお姉ちゃんだと分からなかった。
 それを見て、彼女は少し落ち込んだ後……ニッコリと微笑んだ。

 この姿になってしまえば、彼女はもう今までの日常には戻れない。
 洗脳されていたとはいえ、酷いことを沢山してきた。
 その報いを、今ここで受けなければいけない。
 彼女はそう言ってあなた達の背中を押す。

「……ごめんね、ジェッロちゃん……お姫様にしてあげられなくて」

 彼女の言葉を背中で聞いたあなた達は立ち止まりそうになる。
 だが、行かなくてはいけない。
 彼女に、お姫様を託されたのだから。

「…………お姉ちゃん?」





 爆破された会場の前で、少女の泣き声が響き渡る。

 あなた達は、あの勇敢な騎士の姿をいつまでも忘れないことだろう。

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト