After Credits『BACK TO BACK』
「信じろとは言わない。背中だけ預けろ」
――捜査官ケイン、地下駐車場にて
▸ 𝗚𝗲𝗻𝗿𝗲
バディアクション/クライム/サスペンス
▸ 𝗦𝘁𝗼𝗿𝘆
汚職まみれの巨大都市。無鉄砲な若手捜査官ケインと冷静沈着な情報分析官リサは、最悪の相性ながら巨大犯罪組織《CROWN》を追う即席バディとなる。
銃撃、カーチェイス、潜入捜査。顔を合わせれば口喧嘩ばかり。それでも土壇場では互いの癖まで読み切り、何度も窮地を切り抜けていく。
やがて二人は、警察内部に《CROWN》の内通者がいることを突き止める。
集まった証拠が示したのは――リサだった。
記録、送金履歴、機密情報。あまりにも完璧な証拠を前に、ケインは一度リサへ銃を向ける。
それでもケインが信じたのは、証拠ではなく相棒だった。
その判断をきっかけに偽装の綻びを暴き、本物の内通者を逆に炙り出す大逆転。二人はそのまま《CROWN》本拠地へ突入し、組織を壊滅へ追い込む。
事件後、絶対にキスすると思わせる夕暮れの埠頭で、リサはケインに「次の仕事よ」と資料を投げつける。
ケインは一枚だけ落ちた紙を拾い、参ったなと首をすくめる。
暗転。
最後にもう一度BACK TO BACKの文字が浮かび、スタッフロールが流れる。
▸ 𝗧𝗮𝗴𝗹𝗶𝗻𝗲
信じる理由なんて、あとでいい。
▸ 𝗦𝗰𝗿𝗲𝗲𝗻𝗶𝗻𝗴
夜巡と虹子/名古屋Ⅴの映画館
▸ 𝗔𝗳𝘁𝗲𝗿 𝗖𝗿𝗲𝗱𝗶𝘁𝘀
「いや絶対くっつくだろ、あれ!」
劇場を出るなり、夜巡は納得いかないとばかりに声を上げた。
「知らん。私に言うな」
隣を歩く虹子は、いつも通り涼しい顔だ。
「いやいやいや! 最後の埠頭! 夕焼け! 二人きり! あそこまでやっといて資料投げて終わりってあるか?」
「仕事があるなら資料を渡すだろ」
「そういう話じゃねえ!」
夜巡が大袈裟に頭を抱える。虹子はそんな横顔を一瞥して、小さく息を吐いた。
映画は面白かった。
認める。
カーチェイスも派手だったし、ケインがビルの外壁を伝って敵の窓へ飛び込んだ場面はさすがに格好良かった。
何より、終盤のどんでん返し。
「しかし、あの偽装はよく出来てたな。送金履歴まで作り込んでさー」
「だからこそ怪しかったんだろ」
「そうか?」
「綺麗すぎる証拠は疑えって話だ」
虹子が言うと、夜巡は少し考え込む。
「じゃあ虹子が同じ状況だったら?」
「何が」
「オレが裏切り者だって証拠が山ほど出てきたら――」
「まず本人を締め上げる」
「信用ゼロじゃねえか!」
思わず声を上げる夜巡に、虹子が僅かに笑った。
劇場のロビーには、大きな映画ポスターが掲げられている。
背中合わせに銃を構えるケインとリサ。
夜巡はしばらくそれを眺めてから、ふっと鼻で笑った。
「……でもまあ、あの二人は最後まであの距離で正解だったかもな」
「さっきまでくっつけって騒いでただろ」
「いや、くっつきそうではあっただろ! でも実際くっついたら、それはそれで違う気もするっていうか……」
「面倒くさいな、おまえ」
「感想ってそういうもんだろ!」
虹子は呆れたように肩を竦める。
ポスターの中では、ケインもリサも互いを見ていない。それでも背中だけは、ぴたりと預け合っている。
「やっぱああいうの、いいよな」
夜巡がぽつりと言う。
「何が」
「いちいち確認しなくても分かり合える関係っていうの?」
虹子は答えなかった。
代わりに、少しだけ先を歩く。
「帰るぞ」
「おい、急に終わらせんなよ!」
「映画は終わっただろ」
「もっとこう、情緒って言うかさ~!」
二人で言い合いながら映画館を出ると、外には雨上がりの夜空が広がっていた。
濡れた路面に看板の色が長く滲み、軒先から落ちる雫が時折ちいさく水溜まりを揺らしている。夜の街はまだ明るいのに、雨のせいかどこか静かだ。
「腹減ったな」
「映画館であれだけ食っただろ」
「ポップコーンは飯にカウントされねぇから」
「じゃあ適当に食べて帰れば――」
「どこ食べに行く?」
被せるように言われ、虹子は呆れた顔をした。
「……じゃあ、軽いもの」
「決まり!」
横断歩道の信号が青に変わると、二人はほとんど同時に歩き出した。
映画の二人みたいに格好よく背中を預けるわけでもない。
信頼なんて言葉にすれば、たぶん二人とも居心地が悪くなる。
けれど、歩幅を合わせるでもなく、置いていくでもなく、雨に濡れた街を当たり前みたいに並んで歩く。
それくらいの距離なら、もうずっと前から馴染んでいた。
水溜まりを避けた虹子につられて、夜巡も半歩だけ進路をずらす。
そんな些細な呼吸まで、いつの間にか自然に揃うくらいには。
雨上がりの街の先へ、二人分の足音が並んで続いていく。
こちらもまだ、ただの相棒。
たぶん、いまのところはそれで。