仕事帰りにバスジャック
●√マスクド・ヒーロー、国道◯号線
バスジャック。
秘密結社『プラグマ』の大首領に忠誠を誓う怪人どもが、よく引き起こす事件のひとつといえる。よく狙われるのは、こども園の通園バスであろうか。小さな子どもたちを人質としたり、拉致して洗脳したり、怪人どもにとっては都合のよい相手と言える。実に卑劣なことに!
しかし今回、敵が狙いを定めたのは街の中心にある官庁街から郊外の住宅街へと向かう路線、それも最終便近くのバスであった。
ドスンという衝撃とともに天井が凹み、慌てて運転手がブレーキをかけたところに乗り込んできたのは、量産型妖怪人『悪餓鬼』であった。
「てめぇら、大人しくしておけーッ! 喰われたくなければなぁ!」
「ひ……ッ!」
「うわ……!」
すでに9時を回っている。郊外の路線に乗り合わせた客はさほど多くなく、10人にも満たなかった。彼らは現れた怪人の姿に青ざめ怯えは見せたものの、騒ぐ声はさほど大きくない。
日頃の激務のせいで、疲労困憊なのである。こんな時間にバスに乗っている者は、勤め帰りのくたびれたサラリーマンばかりであった。中にはこの騒ぎにさえ気づかず、窓ガラスに頭を押し付けて寝ている者さえいた。
「……こんな人間さらって、何かの役に立つのか?」
かえって心配になる悪餓鬼どもであったが、そう指示されたからには逆らえぬ。
「よーし、いい心がけだ。そのままおとなしくしておけ!」
幸い、彼らが連れ去られることは星詠みによって察知された。
怪人どもによって脅されたバスは速度を上げ、停留所をいくつも通過してどこかへ向かおうとしている。それを止め、乗客を救出しなければならない。
第1章 冒険 『バスジャック事件勃発!』
「状況は把握した。これより追跡を開始する」
決戦型WZ『-陽炎-』に乗り込んだ樒矢・リベル(カゲロウ・h07812)は、左右の計器に視線を巡らせたのち、発進した。
目指すはバスの走る国道◯号線。郊外の路線である。9時を回ったこの時間に走っている車は少ない。リベルのWZはさほどの騒ぎも起こすことなく、バスを追う。
「……了解」
連絡が入った。バスは経路であるはずの国道を外れ、山間へと向かう県道に曲がったらしい。そちらに敵のアジトがあるのかもしれない。その前に追いついて、バスを止めなくては。
坂道を走っていると、後ろから何かが近づいてきた。
「面白いこと、やってるみたいじゃん? あたしにも首突っ込まさせてよ!」
『竜漿アシスト自転車』に跨って激走してきたのは、レイシー・トラヴァース(星天を駆ける・h00972)であった。
車、あるいはWZと遜色ない速度で走っていたレイシーであったが、
「はー、はー、さすがにずっと登りは、キッツイ!」
「……こちらに乗り移るか?」
「そうする! いくらあたしの竜漿を動力にできるからって、やっぱり長距離走行向きじゃない!」
自転車は後で回収しよう。レイシーは汗を拭いながら、WZの肩に飛び乗った。
そのまま走ること、しばし。
「あれ!」
レイシーが先を指さす。
「あぁ」
リベルも頷いて、さらにWZを加速させた。
「ッ! 追手だぜ!」
バスを占拠した量産型妖怪人『悪餓鬼』どもも、こちらに気づいたようだ。
「死ねッ!」
罵声を吐きながら座席を引きちぎると、こちらに叩きつけてきた。
「……ッ!」
右に左に機体を操り、それを避けていくリベル。
「もっとバスに近づけて!」
「どうするつもりだ?」
「乗り移る!」
「……わかった。武運を祈る」
速度を維持したまま、ギリギリまで機体を近づけるリベル。レイシーはWZの肩を蹴って、バスの天井に飛び乗った。
「くそッ! 乗り移ってきやがった」
悪餓鬼どもが頭上を見上げる。
「まとめてブッ飛ばせりゃ、楽なんだが……!」
顔をしかめるレイシー。しかし中には、乗客たちがいる。迂闊に攻撃をかけるなど、もってのほか。
「んー……ま、なんとかなるんじゃね?」
アシスト動力に注ぎ込んでもなお余る全身の竜漿を、右目に集中させるレイシー。その右目は激しく燃え上がり、
「そこだッ!」
窓から顔を出し、こちらを見上げてきた悪餓鬼に、踏みつけるような蹴りを浴びせる。
「ぐお……!」
その悪餓鬼は窓から転落してアスファルトの上を転がっていき、その窓からレイシーは車内に身を躍らせ……ようとしたのだが。
「えぇい、振り落とせッ!」
運転手の隣りにいた悪餓鬼が、ハンドルに手を伸ばして無理矢理にそれを切った。
「わぁ!」
車体は大きく振れ、レイシーは振り落とされた。その身体を、転落する前にリベルのWZが支える。
「悪い、逃がしちまった!」
「いや、大丈夫だ。うまく敵を追い込めた」
急ハンドルを切ったバスは県道から外れ、さらに狭い林道に入るしかなかったのである。あれでは、スピードは出せまい。
「ずいぶん災難な話だなぁ」
バイクを走らせながら、イワタ・レイジ(気ままなバイク乗り・h13218)はため息をつく。
「疲れた人間さらって、何をするつもりなんだろうな?」
独り言かと思われたが、その呟きに、
「何らかの利があるからそうするのでしょう。ソレがよいことでないのは、明らかです」
と、応じる声があったのである。彼が跨がっているのはただのバイクではない。『|汎用人工知能搭載バイクβ《ヒメちゃん》』……対怪人殲滅AGIが搭載された特注品である。
「次、右です」
「了解」
ステップをこすり火花が散るほどに車体を傾け、交差点を曲がるレイジ。そのまましばらく進んでいくと、バスが見えてきた。
バスと併走したレイジは、こちらに気づいた乗客に向けて手を振った。そして、手のひらを下に向けて振る。乗客は察したらしく、コクコクと頷いて屈んだ。
だが、そのレイジの姿は量産型妖怪人『悪餓鬼』どもの知るところともなる。
「まだ追っ手がいやがったか!」
再び座席を引き剥がし、叩きつけてくる悪餓鬼ども。
「当たるか、そんなものッ!」
飛来する座席を避けつつ、煽るようにニヤリと笑ってみせるレイジ。
「なにぃッ!? ……くそッ、おい運転手! あいつを振り切れ! もっとスピードを出すんだよ!」
「は、はい……!」
「そんなんじゃ、足りねぇ! もっとだ!」
悪餓鬼は運転手を引き剥がすようにして無理矢理にアクセルを踏み込もうとしたが……。
「緑の強化週間だ!」
レイジが声を張り上げた。あらかじめ、レイジは自身の緑化細胞を進路に蒔いていたのである。そのせいか、林道の周囲に生い茂る草木は異常な繁殖を見せてバスの進路を塞いでいた。
「わぁ!」
咄嗟に運転手は急ブレーキをかける。悪餓鬼の身体はつんのめり、フロントガラスに叩きつけられた。
「『よくないこと』を阻止するために、まずバスを止めないとな!」
「ロキ、マヤ」
2匹の蝙蝠が、カンナ・ゲルプロート(陽だまりを求めて・h03261)の指図を受けて飛んでいった。
そのまま月の見えない夜空を見上げていたカンナが不意に、
「……いた」
と、呟く。
「やはり、あのまま林道の方に?」
「えッ、あッ……」
急に声をかけられ、狼狽するカンナ。振り返ればそこには、髪が長くスタイルのよい女性が立っていた。レア・マーテル(PR会社『オリュンポス』の|万能神官冥土秘書《スーパーエリートメイド》・h04368)である。
「申し遅れました、私は……」
自己紹介したレアは、狼狽するカンナが落ち着くのを待つ。やっと落ち着いたカンナが前方を示した。
「あの、えと……うん。間違いないわ。やっぱりスピードも出せてないみたい。先に行った人が、上手くやってくれてる」
「では、今からでも追いつけますね。私も社の奉仕者として、事件解決の一助になればと思っています。よろしくお願いします」
「こちらこそ。急ぎましょ!」
カンナはさらに2匹の黒猫を放って、上空からだけではなく地上からバスの様子を窺った。バスは異常に繁殖した草木に進路を阻まれ、停車していた。
「まずは、乗客を助け出さないと……!」
カンナが、瞬間移動じみた速さで、一気に踏み込んだ。量産型妖怪人『悪餓鬼』どもがその姿を捉えるよりも速く。
「暴力で解決できないことを探してるんだけれども……」
こうなっては、仕方がない。カンナは『鉄拳』を振り上げ、バスの後部にある非常口を強く打った。
扉はひしゃげ、カンナは外からそれをこじ開ける。
「助けに来たわ! 早くここから外へ!」
あらかじめ用意していた言葉を発し、脱出を促す。身を屈めていた乗客たちが、わぁわぁと声を張り上げながら逃げ出してきた。
「てめぇッ! 逃がすか!」
悪餓鬼どもが怒声を発する。そして拳を振り上げて襲いかかってきたのだが……。
「ここは、私が」
バスの窓から中へと飛び込んだレアが、細く長い指を備えた手で悪餓鬼の拳を受け止めていた。
「こ、こいつ……ッ!」
それは一見すれば清らかな乙女の御手。しかしそれは外側に過ぎず、異形の部位であった。
悪餓鬼はそこまで察することはできなかったであろう。しかし本能が危険を感じたか、すぐに手を引っ込めた。
だが、引き下がったわけではない。レアが最後尾となってバスから降りても、悪餓鬼どもは襲いかかってきた。
「燃費が悪いのですが……仕方ありませんね」
レアが|豫母都大神《ヨモツオオカミ》の本性を現した。悪餓鬼どもは次々と襲いかかってくるのだが、禍々しきその姿はあらゆる干渉を無効化しつつ、逃げる乗客たちの盾となる。
「カンナさん、今のうちに」
「えぇ! エレン、ルナ! みなさん、黒猫のあとについて逃げて!」
2匹の黒猫が乗客たちを先導するように、林道を駆けていった。
第2章 集団戦 『量産型妖怪人『悪餓鬼』』
「てめぇ!」
バスを止められた量産型妖怪人『悪餓鬼』が、怒りを露わにして喚く。
「敵の数はそんなに多くない、か?」
愛車である『|汎用人工知能搭載バイクβ《ヒメちゃん》』を止め、イワタ・レイジ(気ままなバイク乗り・h13218)はバスへと近づいていく。
確かに、バスから飛び出してくる悪餓鬼どもは数体。さほど多くはない。バスジャックならば、この程度で十分ということか。
「ひぃ」
遅れてバスから飛び出してきたのは、騒ぎに気づかず寝ていたサラリーマンであろう。
「逃がすかッ!」
悪餓鬼は太い手を伸ばしてくるが、レイジは割って入って、その拳を受け止めた。『|High & Grow
《テノナカ、ニ、タイヨウ》』、レイジの身体を這う根の末端部位を活性化させたのである。それによって硬化した腕は、怪人の拳にさえビクともしなかった。
「お疲れのところ申し訳ないが、守りながらの戦いは苦手なんだ。敵は引き受けるから、自力で逃げてくれ」
「は、はいッ!」
慌てて逃げていくサラリーマンを尻目に、レイジは悪餓鬼の腹に蹴りを入れ、よろめいたところを殴り飛ばす。
「てめぇ……食う!」
敵は喚きながら不気味に長い舌を伸ばし、牙の先から唾液を滴らせながら飛びついてきた。
「おっと!」
なんとか、それを避けるレイジ。代わりに、彼の脳内にある種が声なき声を発した。
するとレイジの左脇腹から瞬く間に植物の茎が伸び葉が生い茂り、その身に大穴を開けたのである。
すると、
「グワァッ!」
「ギャアッ!」
彼を取り囲まんとしていた悪餓鬼どもの脇腹も同じように吹き飛んだ。
うずくまり、あるいは絶命する怪人どもを見下ろし、
「片ッ腹に穴が開いたら、怪人でも動けなくなるのか? まだ『なりたて』で、よくわかってないんだ」
と、レイジは肩をすくめながら、まだ立ち上がろうとする悪餓鬼の頭を蹴り飛ばしてとどめを刺した。
「よくも邪魔してくれたなッ!」
ドスドスと足音を立てながら、量産型妖怪人『悪餓鬼』どもが林道を駆けてくる。
「ひ、ひぇぇッ!」
「もうダメだ!」
逃げていたバスの乗客たちは悲鳴を上げ、中にはへたり込む者もいたが……。
「皆さん、大丈夫! 私たちがいるから!」
萩高・瑠衣(なくしたノートが見つからない・h00256)が、彼らに声をかけた。さすがにレゾナンスディーヴァというべきか、その澄んだ声はよく通る。乗客も悪餓鬼どもも、その声の方を振り返った。
瑠衣の傍らには、弓槻・結希(天空より咲いた花風・h00240)もいる。
「ずいぶんと少数による襲撃だと思えば……増援がいたのですね」
蒼穹剣『レガリア』を抜き、敵群を見渡す結希。
――セレスティアルとして斯くあれるよう、祈りと共に進みましょう。
その決意を胸に、剣を構えて地を蹴る結希。瑠衣も、『篠笛』を構えた。
しかしながら悪餓鬼の1体が下卑た笑みを浮かべると、
「グヘッ、グヘヘェーッ!」
と、不愉快極まりない叫び声を上げたのである。
「これは……ッ!?」
さすがの結希も表情を引き攣らせる。身体が動かない。地を踏みしめる足も剣を握る手も、すべて感触を失っていた。
「う、動けない……!」
瑠衣のその言葉も、はっきりした声にはならなかった。彼女もまた、全身を麻痺させていたのである。
「ゲヘヘヘヘッ! おい、今のうちに人間どもを連れて行くぞ!」
「おう!」
悪餓鬼どもは勝ち誇って、サラリーマンたちの首根っこを掴み、抱え上げ、立ち去ろうとした。
「……逃さないわよ」
瑠衣は感触もないまま、唇をブルブルと震わせながら突き出した。その先が、『篠笛』に触れる。
「……ッ!」
瑠衣が子供の頃から吹いている、使い慣れた笛である。感触はままならずとも、音を外したりなどはしない。
「うおおおおおッ!?」
『篠笛』からは特殊な周波数の音波が放たれ、それは悪餓鬼のみにだけ、震度7相当の振動を与え続けた。
「わわわッ!」
たまらずサラリーマンたちから手を離し、倒れぬように踏ん張る悪餓鬼ども。
「動ける!」
激しい揺れに驚いた悪餓鬼は、思わず目を閉じてしまったのだ。麻痺から回復した結希が再び悪餓鬼どもに躍りかかる。
「空に咲いた花、流れた風よ。どうか、この剣をお導きください!」
「ヒェッ!」
敵は再び結希を見据えようとするのだが、消耗した体力ではそれもままならない。なにより結希の速さに勝るものではなく、『レガリア』の切っ先は敵の喉を深々と貫いた。
「今のうちに!」
『譜面台』を悪餓鬼の脳天に叩きつけながら、瑠衣が声をかける。音波が生み出した振動は悪餓鬼のみを揺らし、乗客たちには及ばなかったのである。
「あ、ありがとうッ!」
サラリーマンたちはカバンを抱え、全力で林道を駆けていった。
「あらあら、こんなにたくさんの人が。近くに|激辛料理《ひょうばん》のお店でもあるのかしら?」
トイロ・ウート(エルフの|冒険者《タビビト》・h00193)は逃げてきたバスの乗客たちを見ながら小首をかしげたが、
「んなわけ、あるかい!」
片町・真澄(爆音むらさき・h01324)がスナップを効かせてぱしんと、トイロの肩を打った。
「見てみ。怪人どものお出ましや!」
真澄が顎で示したとおり、前方からは量産型妖怪人『悪餓鬼』どもが、口を開け舌を伸ばしながら押し寄せてくるではないか。
そちらを見やったトイロは慌てた様子もなく『魔導書』を開く。
「ふふふ、いまはエルフの手も借りたい場面みたいね。なら、変身魔法でお手伝いしようかしら」
そう言ったトイロが意識を集中させると、その姿は瞬時にして『森を出現させる大鹿』へと変じていた。
「こりゃ、すごいわ」
真澄が目を丸くしたが、
「安心して。どんな姿でも、ボクはボクの儘なんだから」
と、トイロは目を細めた。
『|森の揺り籠《モリデノネムリカタ》』。蹄がアスファルトを蹴り、大鹿は悪餓鬼どもに向けて突進していく。
「う、うおおッ!?」
悪餓鬼どもは慌てふためいてその見事な角から逃れようとしたが、林道は(EDENたちの能力のせいで)あちこちから木々が溢れており、逃げあぐねているうちに大鹿の角が悪餓鬼どもの身体を持ち上げて跳ね飛ばした。
「真澄さん」
「よっしゃ、あとはウチに任せとき! こんな奴らに、冥土の土産なんか要らんやろ。手ぶらで行け行け!」
『愛用の改造鉄パイプ』、その実は自身に合うよう改造した衝撃波生成棒状装置を握りしめ、真澄は敵群に躍りかかる。
「掻き乱せ!」
鉄パイプが手の中で激しく振動する。それを敵に向けて薙ぎ払うと衝撃波を発し、
「ぐえッ!」
それを受けた悪餓鬼はガードレールに叩きつけられた。敵は頭を振りながら起き上がろうとしたが、その体内では振動が反響し続け、ガードレールについた手もガクガクと震えていた。
悪餓鬼が戸惑っているところに真澄は飛び込んで、勢いを乗せたまま得物を薙ぎ払った。
「ギャッ!」
敵は頭蓋を砕かれ、事切れる。
「さすが」
「そやろ? 高速の払い抜けって、めっちゃかっこいいやんな」
得意げに真澄は笑い、なおも迫ってくる悪餓鬼どもを散々に打ち倒していった。
「これで、片付いたかな」
真澄が振り返るとトイロは、気を失った1体を大鹿の姿のまま口に咥えていた。その身体をガードレールの外、崖下にヒョイッと投げ捨てる。
「じゃあ、お店探しを続けようかしら?」
「だからないて、そんなもん。隠れすぎの秘境店やわ」
ふたりは顔を見合わせ、笑った。
第3章 ボス戦 『キメラ型妖怪人『赤天鬼』』
「くそう! よくも邪魔しやがって!」
キメラ型妖怪人『赤天鬼』は長い舌をベロリと伸ばし、ドスドスと足を踏み鳴らしながら林道に姿を見せた。
「てめぇら、何者だ!」
するとヨーキィ・バージニア(|ワルツを踊るマチルダ《ワルチング・マチルダ》・h01869)は笑顔を見せて、
「はいどーも♪ みんなのアイドル、ヨークタウン級航空母艦ヨークタウンの|少女人形《レプリノイド》、ヨーキィちゃんでーす!」
と、明るく元気に手を振ってみせる。
隣のトート・スノードロップ(人間災厄「グリム・リーパー」・h09445)は対照的に無表情のまま淡々と、
「ボクはトート。君のための死神さ」
と、その象徴でもあるかのような『死神の大鎌』を構えた。
「ふん、邪魔するなら蹴散らすだけだ!」
赤天鬼は4本の腕を振り上げながら襲いかかってくる。
「だったら聞かないでよ!」
ヨーキィは唇を尖らせるが、おっと、アイドルにそんな表情はふさわしくない。笑顔を浮かべ直して、
「トートさん、人質になってた人も上手く逃がせたし、あとはコイツだけ。頑張ろう!」
「そうだね」
「ハッ! まとめて蹴散らしてやる!」
高らかに宣言し、振り下ろしたトートの大鎌を腕で弾く赤天鬼。お返しにと、4本の腕を次々と叩きつけてきた。
「……く」
その一撃一撃の重さたるや。なんとか弾き続けるトートではあったが、一撃を受けるたびに腕はきしみ、痺れた。
それでもトートは下がらない。痺れた腕で、なおも攻撃を弾き続ける。
しかしこのままではやがて……。
「ヨーキィちゃん、これでも艦隊の旗艦になったこともあるのだ!」
ヨーキィが声を張り上げると、少女人形たちが次々と姿を現した。あらかじめ、待機させていたのだ。
「さぁ行くよ、随伴艦のみんな!」
少女人形たちは駆逐艦を模している。装備した砲を次々と発射すると、それらは赤天鬼の肩や脇腹を抉った。
「ぐぬぬ……改造されて、無敵となった俺が、そんなものに怯むかッ!」
しかしながら敵もすぐさま反撃に転じる。長い舌を叩きつけるようにして、舐め回してきた。避けきれなかった少女人形が、腹を打たれて茂みの中に飛ばされる。
「ははは! どうだ!」
先ほどの傷も消え失せ、勝ち誇る赤天鬼。それでもヨーキィはその歌声で少女人形たちを鼓舞し続け、少女人形たちは僚機が何機か蹴散らされつつも、敵の腹に魚雷を命中させた。
「ぐおおッ!」
そこに、大鎌を振り上げてトートが飛び込んだ。
「このッ!」
赤天鬼は両手を伸ばしてそれを受け止めようとしたが……『死神の大鎌』は血の如くに赤い刃を持つ二振りの小鎌へと形を変えたのである。
「な……ッ!?」
「死神の鎌は、刈り取る命に合わせて形を変えるのさ」
刃は左右から敵に襲いかかり、その肩に、脇腹に、いくつもの傷を負わせた。
「ニンゲンちゃんの平和を脅かす存在は許さないヨ☆ ピョッピョーン☆」
兎玉・天(うさてん堂・h04493)はいつも賑やかである。
天月・八雲(今日も明日ものらりくらりと・h12271)の方は頭をポリポリと掻きながら、
「あー、君が『赤天鬼』?」
と、気だるそうに声をかけた。
あちこちを切り刻まれてよろめいていたキメラ型妖怪人『赤天鬼』は気合を入れ直すかのように背筋を伸ばし、
「そうとも! 俺が改造に改造を重ねて生み出された最強のキメラ型怪人、赤天鬼様よ!」
と、声を張り上げた。
しかし八雲はパタパタと手を振り、
「あー、そういうのいいから。おじさんさ、もうこんな時間になると疲れて眠たくなっちゃうんだよね。ほら、アラフィフだし。
作戦も失敗してるし、今日はもう帰ってくんない?」
などと言いながら、あくびさえしてみせたのである。
もちろん赤天鬼の方はそれに応じるどころか、
「ふざけるな!」
と、至極もっともな怒鳴り声をあげながら襲いかかってくる。
ちらりちらりと周囲に視線を巡らせた八雲は、
「人質は無事で、こんな夜中に通る車なんてそうそうない。存分にやってくれていい」
と、天に囁いた。
「ガードレールは……まぁ、それくらいは不可抗力として許してもらおう」
「りょーかい☆ いくよ赤天ちゃん☆」
「ふざけたことを抜かしやがって……喰らえ、ベロベロベロ~~~ン!」
赤天鬼が長い舌を伸ばしてくる。それをギリギリのところで避けた天。舌は道路の脇に生えていた木の幹を、いとも容易く真ッ二つにした。
しかし天はそれを恐れるどころか、
「それイイネ☆ 持って帰って、うさてん堂に並べよット☆」
などと、目を輝かせているではないか。
「天ちゃん、あれ持って帰って売っちゃうの?」
さすがに八雲も顔をしかめるが、
「うん☆ ビヨーンッて、楽しそう☆」
「あー……なんかそういうグミ、あったな駄菓子屋とか。まぁいいや。だったら、早いところ片付けよう」
八雲は口の端を持ち上げながら、
「その身をもって己が罪を知るがいい。おじさんに夜歩きさせた罪とか。明後日とか筋肉痛だよ、これ」
ふざけたことを言いながらも、無機質で無慈悲な神聖体へと変異した八雲。三対の翼を広げ、『聖槍』を放つ。敵は咄嗟に身を捩って胸を貫かれることこそ避けたが、食い込んだ槍がその思考を乱してくる。
「ぐ、ぬぬ……!」
敵はその思考操作に必死に抵抗していたが……。
「はーいよット☆」
むむむ、と念じていた天が最後にひらりと宙返りすると、空中でその姿は巨人へと変じて、赤天鬼に襲いかかったのである。
「ぎゃッ!」
|オモイ《しつりょう》はエネルギー。
「お前が『よくないこと』の黒幕だな?」
イワタ・レイジ(気ままなバイク乗り・h13218)が組んだ両手を動かしてほぐしながら、キメラ型妖怪人『赤天鬼』を見据えた。
「もう人質も逃げたし、手下もいない。お前も帰っていいんじゃないか?」
レイジとしては、これで敵が引き下がるのならばそれでいいのである。怪人同士、なにも死ぬまで戦わなくてもいいではないか。
しかし赤天鬼は情けをかけられたと思ったのか、
「ふざけるな~ッ! 俺は最強のキメラ怪人だぞ!」
激昂して4本の腕を広げ、防御などかなぐり捨てて飛びかかってきた。
「戦う気十分なら……こちらも全力で!
レイジが拳を打ち込む。しかし赤天鬼はニヤリと笑い、腕に1本でそれを弾いた。
「効かんなぁ~! 喰らえ『鬼の力・狂鬼の一撃』ッ!」
凄まじい力を込め、残る3本の腕が叩きつけられる。
「ははは、どうだ! 邪魔なんかしなければよかったと後悔させてやる!」
哄笑しながらなおも腕を叩きつけてくる赤天鬼。
しかし。
「──あぁ、騒がしいな」
それにしても|林道《ここ》は、本当に。
「な……」
赤天鬼もその違和感に気づいた。鬼の力を叩きつけているというのに、レイジは倒れないのだ。
赤天鬼には知る由もないが、そのとき知られざる植物や菌糸たちが保有し共有する情報に覚醒したレイジの肉体は、常を遥かに上回る強靭さを手にしていたのだった。
「傷ついたところで、土の身体だ。この身体になってから、戦うのが楽しくてしょうがない」
と、頬を打たれつつもレイジは笑う。黒い肌に囲まれた大きな|眼《まなこ》が、赤天鬼を見据える。
「ば、馬鹿なッ!」
敵が飛びかかってこようとしたところに、レイジは前蹴りを叩き込んだ。それを予期していなかったか、みぞおちを打たれた赤天鬼が「ぐえッ」と呻く。
呻きながらも腕を伸ばしてきたが、それはあまりに苦し紛れであった。身をかがめてそれをかいくぐったレイジは、下から突き上げるように渾身の拳を叩き込んだのである。
顎を打たれた赤天鬼は自らの歯で長い長い舌を噛み切りながら、仰向けに倒れた。
「……|怪人《ヴィラン》を倒す怪人がいても、いいよな」