シナリオ

Bet -きみが為-

#√EDEN #ノベル

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√EDEN
 #ノベル

※あなたはタグを編集できません。

常折・悠久
常折・菖蒲

●賭ける

(──菖蒲ちゃんと同じ存在になる!)

 幼くいとおしい子が『決めた』覚悟を、無碍にはできない。するつもりもないし、したくもない。けれど。
「ニィちゃん、俺ァこの賭場を見つけ出したおメェさんの嗅覚は認めてんだ。だから悪いことァ言わねェ。男ってのァ引き際の見極めも肝要だ。もうやめとけ」
 胴元の男が青年── |常折《つねおり》・|悠久《はるひさ》(漂白・h13192)へと呆れ顔でいうも、悠久本人は眼鏡の奥の|白花《しろはな》色の瞳を子供のように丸くして首を傾げた。
「あれぇ、おかしいな。今度こそ勝てると思ったのになぁ」
 配られた|骨牌《カード》には見慣れぬ紋様が描かれて、場に広げられた役はなにがどう成しているのか、|常折《つねおり》・|菖蒲《あやめ》(白夢・h13202)には判らない。花札とも西洋|骨牌《かるた》とも違う。隠しに隠された"なんでも手に入る"と噂の賭場だ。初見の|遊戯《ゲーム》で勝者となることの難しさと、底意地の悪い意図は火を見るより明らかだった。
「いいじゃねぇか。『かみさまの情報』だろ? そんな簡単に手に入るもんじゃねぇよ、なあ?」
「違いねぇや」
 わざと薄暗く、故意に低い天井の部屋にげらげらと下卑た哄笑が広がるのを、菖蒲は梔子の瞳で冷ややかに睥睨する。
 「知らないゲームだ」と楽しげに興じていた悠久に免じて見逃してやっていたが、いとし子を嘲笑することを許すわけにはいかない。
 悠久の肩に添えた、小指と薬指をあかい糸で結んだ左手に微かに力を籠めたそのとき、その手に悠久の掌が重ねられた。「そうだね──」そして彼は胴元へと人当たりの良い笑みを向けた。
「大丈夫、お金はあるから。それに僕、こういうときの賭けは負けないんだ」
 常に傍に居る菖蒲にはよく判る。幼い頃の給食のデザートを賭けたじゃんけんや、アイスを賭けた学校のスポーツテストなんかでは、悠久はいつも勝てはしない。だけど。
「愛する人との未来のため、ってなると……ね、菖蒲ちゃん」
──ああ、いつだってこの子は私のために。
 じんわりと胸の奥があまいなにかで満たされていく。けれどその喜びは、やわく口許を緩めるになんとか留める。
「勝負に集中しなさい。あと、私は普通の人には見えないんだからって何度言わせるの」
 そして重ねられた手に、菖蒲も右手を重ねる。
「ええ、大丈夫よ。悠久には私がいて、私には悠久がいる。──負けることなんてあり得ないわ」
 それは加護。
 それは祝福。
 それは神の|執着《あい》。
 最後のひとつだけは、いとし子に気付かれてしまわぬように溶かして薄めて、撚り合わせて包み込む。
 菖蒲は座敷童。常折の家を豊かに潤わせ続けた力を、今はただいとし子にだけ注ぐ。
 悠久は骨牌を口許に添えて、いとも愉しげに白花色の双眸を輝かせた。

「最後の最後、これまでの倍額賭けるからやろうよ」


●有能な人
 初めて見るカードには、タロットカードのような暗示的な図柄がいくつも散りばめられていた。
 ルールの説明は、なかった。
「ここに辿り着いたんだ。ここのルールだって判ってんだろ?」
 素直に知らないと伝えてみたけれど、嘲笑が返るばかりで最終的には「やってみれば判る」と賭けが始まってしまった。
 構わなかった。
 見ればいい。
 目的のためなら、菖蒲のためなら、負けることなどなにひとつ恐れるものではなかった。
 場に捨てられたカード。
 揃えられた図柄。
 男たちが勝ったとされたときのことを思い出す。
 ある男はカードを放り出し、「"火傷した子供は火を避ける"」と言った。図柄には確かに火や子供があった。
 ある男はカードを伏せたまま「"夢は泡"」と言った。図柄にはベッドにいる男が描かれていたが、眠るところなのか起きるところなのかは判らない。
 ある男は場に捨てられたカードを拾って「"紙は辛抱強い"」と言った。図柄には本が乱雑に散らばる様子が見て取れた。
 そのときの様子は。表情は。目線は。──胴元の男は。
 日々のちょっとした賭けで勝てることがない事実が示している通り、悠久に秀でた観察眼はない。強い直感や第六感のようなものも備わってはいない。
 彼にあるのは、祈りの力。幸運と、降ろした霊的存在と手をつなぐ愛。そしてその存在から与えられる防護。
 だから、判った。

──つまりこれは、カードゲームじゃないんだ。

 悠久は微笑んだ。胴元を見て、カードを伏せたまま場に置く。
「ええと……、"最後に笑う者が最もよく笑う"、でいいかな?」


●確信している
 いい金づるがいる。
 そいつは、『かみさまと同じになる方法』を探してるんだそうだ。
 そいつの特徴は、左手薬指と小指の赤い糸──。
 そんな噂が出回っていたらしい。
「お金なんて、菖蒲ちゃんのためなら幾らかかっても構わないけどさ」
 常折の家を守護していた菖蒲は悠久に出逢い、彼が彼女のすべてになった。だから悠久を冷遇していた常折の家の者へ加護を与える必要はなくなったけれど、それに気付いた常折の家の者は掌を返して度を過ぎる程に彼を甘やかした。──悠久が楽に暮らせるなら。菖蒲の加護は家にも再び及び、更に悠久が湯水のように使える金額は膨らんでいった。
 だがそんな経緯に家族の愛情は伴わず、聡い悠久もそれを求めることもなく、ただただ、彼のこころは菖蒲に向き続けている。
 彼にとって常折の金は、菖蒲によってもたらされた彼女の恩恵だ。それを使い、彼女に添う。そして金以上の幸福な加護を、己が与えるのだ、菖蒲に。
 それは、なんて素敵だろう。
 結局、"なんでも手に入る賭場"なんて大仰な|看板《うわさ》を掲げながら、掴まされたのはガセネタと呼ぶことすら烏滸がましい情報だったけれど。
 目的を思い起こし傍らの存在を再確認すれば、悠久の相好はふにゃりと崩れてしまう。
「ね、ね、菖蒲ちゃん。今日も勝った僕、かっこよかった?」
 いつの間にか背丈も追い越してしまった少女の、切り揃えられた|白梅鼠《しらうめねず》の髪の下の瞳を覗き込む。はっきりと、その梔子の瞳が和らぐのが判った。
「さあ、勝ったのは最後だけだから、かっこよかったかはわからないわ」
 口ぶりだけは素っ気ないけれど、そこに確かに潜むあまさを悠久はめいっぱいに享受する。最後勝てばいいんだよ、と笑ってみせる。
「それと危ないから、あんまり変なところに顔出すのはやめなさい」
「えー。危なくないってあんなの。絶対勝つってわかってたし。──菖蒲ちゃんとのことで負ける理由、ある?」
 貴女のためなら、能力の限界を振り切ってでも全身全霊で挑むよ。
 そんな僕に貴女は、最大限の加護を与えてくれる。
 負ける、訳がない。
 自信を持って問う。もちろん菖蒲の感情が最優先だ。本気で彼女が嫌がるなら一切のあと腐れなくやめるつもりだけれど、そうではないことくらい、悠久にも伝わっている。
 菖蒲は美しいかんばせに困ったような優しい笑みを乗せてちいさく吐息をこぼした。
「だからよ」
 屑情報を掴まされ、舌打ちひとつで賭場を後にした悠久は知る由もない。負かされた──それも年若い背筋の伸びた青年に──その事実に賭場の輩の取るに足らない矜持が傷付き、暴力に訴えようとした者さえ居たことを。
 それも、悠久への危害を企てたこと、悠久に無駄足を踏ませたこと、悠久を|楽しませたこと《ヽヽヽヽヽヽヽ》への怒りと不満を籠めて菖蒲が一瞥しておいたことによって、訳も判らずぶるりと震えて青褪めていたけれど。
 もちろん、悠久とて√能力者であり武力の面の心配は不要ではあるが、そういう問題でもないのだ。
 菖蒲が告げる。
「あと、常識的な話。あなたはまだ学生なんだから、学生らしく、人として正しく生きなさい」
「|人として《ヽヽヽヽ》?」
──ああ。
 ほんの少し、低くなった悠久の声音。
 それが、菖蒲の胸をじりりと焦がす。
「僕はね、菖蒲ちゃんのためならなんでもするし、なんでも捨てる。人として? そんなの知るか」
 拗ねたようにほんの少し唇を尖らせる悠久に、菖蒲は眩暈がするほどの歓喜が胸の|裡《うち》に渦巻くのを止められない。
 かみさまに近付こうと労苦を重ねている彼に己は、なにを言うのか。
──こんなことを言えば悠久はもっと私を求めるとわかってるのに。
 嬉しくて、嬉しくて。
 浅ましくて、つみぶかくて。
 欲しくて、欲しくて、欲しくて。

「愛してるよ、菖蒲ちゃん」

──もっともっと、私を求めて。
──もっともっと、私も貴方を求めるから。

 こんなどうしようもない|執着《おもい》は、純粋無垢に慕ってくれているいとし子に知られるわけにはいかない。
 だから唇は真実を吐き、眸は素直な愛情を伝え、繋いだ手からは恋人のような恥じらう恋慕が届けばいい。

「ええ。私も愛してるわ、悠久」

  

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト

開く

読み物モードを解除し、マスターより・プレイング・フラグメントの詳細・成功度を表示します。
よろしいですか?