香る水、そして決戦
ザンッ、バギィ!
√仙術サイバー京都Ⅱ、伏見のとある場所に立つ祠。
白蛇が祀られているというその祠は今、見るも無惨に破壊され尽くしていた。
「兄貴!こんなもんですかい!」
「ああ、これで近いうちに呪いの水が発生するだろう。」
サングラスの男——アルバートは満足そうに呟き、鉄バットや鉄パイプを持った手下たちを引き連れてその場を去っていった。
●バチ当たりな者たちに鉄鎚を
「おつかれ!
最近は大規模戦闘にゾディアックミラーの予知、そして王権決死戦と忙しいな!
ちゃんとみんな食べて休んでるか?」
√能力者が集められた会議室に颯爽と現れたのは、招集をかけた星詠みの|矢神・疾風《やかみ・はやて》(風駆ける者・h00095)だ。
忙しい√能力者たちを労いつつ、疾風はテキパキとプレゼン機材をセッティングしていく。
「ま、そんな超多忙な皆に申し訳ないんだけどさ……放っておけない星が見えちゃったからな、なんとか協力してほしい。
以前から何度か皆にも世話になっている、オト・ウタ姉妹に関する依頼だ。
オトにあのアルバートから、挑戦状が届く事が予知されたんだ。」
彼女たちを知る√能力者たちに、ピリッとした空気が流れた。
アルバートとは、√仙術サイバーに住むオト・ウタ姉妹を執拗に狙ってくる香港マフィアのボスである。
「挑戦状には、オトをアルバートの敵として認め、1VS1での戦いを申し込む旨が書かれている。
それに勝てば、もうオト・ウタ姉妹を襲うことは無い、と血判と共に記載されていた。
しかし、1VS1というのは罠であることを星は教えてくれた。」
どういうことか。
固唾を飲んで話の続きを待つ√能力者たちに、疾風はプレゼン画面を交えながら説明を続けた。
「実際待ち受けているのは、アルバートだけではない。
アルバートの手下であるマフィア戦闘員軍団も待ち受けている。
オト一人でマフィア戦闘員軍団とアルバートの両方を相手にするには、まだ残念ながら力量不足だ。
なのでオトがアルバートと戦うことに専念するため、皆にはマフィア戦闘員軍団との戦闘を任されてほしい。
アルバートもオトに味方の√能力者が着いてくるのは予測済だから、アルバートに手出しせずマフィア戦闘員と戦う分には文句は無いようだ。
ただ、もうひとつ厄介事があるんだ。」
疾風が地図を投影する。
「オトが呼び出されたのは京都Ⅱの伏見という地域の外れの辺りだ。
ここには治水目的で建てられたある祠があったんだけど、事前にアルバート一味が破壊してしまったようなんだ。
これにより、地域を流れる水に謎の呪的影響が発生……簡単に言うと、呪いの水になってしまった。
アルバートはオトとの戦闘前に、互いにこの水を飲むことを条件として出してくる。」
それなら条件は平等なのでは?と声が上がったが、疾風は首を横に振った。
「マフィアのボスがその対策をしていないと思ったかい?
アルバートは事前に呪いの水の効果を打ち消す『解呪水』を準備しているようだ。
なので、こちら側もアルバートと戦う前に『解呪水』を手に入れておきたい。」
ただ、と疾風は続ける。
「『解呪水』についての情報は、その地域からさほど離れていない場所にある、という事までしか分からなかった。
なので、アルバートに指定された場所に向かう前に、『解呪水』の探索に向かってほしい。
そうだな、伏見地域の中心に闇市や酒蔵が集まる場所があるから、そこで調査をしてみてはどうだろうか?」
疾風は先ほどの地図を使い、闇市や酒蔵の集まる場所を示した。
一応、と疾風は追加する。
「もし『解呪水』が見つからなくても、アルバートとは戦うことは出来る。
ただ、ある程度はやはり不利になるとは言わざるを得ないな。
ちなみに呪いの水が与える効果は『視力を落とす』というもので、時間が経てば経つほど効果は強くなるみたいだよ。
……ま、君たちならきっと『解呪水』を見つけてくれると信じているけどさ!」
そこまで話してから、疾風は居住まいを正した。
「恐らくこれが、オトとアルバートの因縁を断つ最後の戦いとなるだろう。
姉妹が今後安心して生きるため、彼女たちに協力してほしい。」
よろしく頼んだ!と疾風は礼をして√能力者たちを送り出した。
第1章 冒険 『呪いの水』
√仙術サイバー、京都Ⅱ。
いつもの廃墟に√能力者たちが向かうと、挑戦状を握りしめたオトが覚悟を決めた顔で待っていた。
「皆さん、今日はよろしくお願いします!」
「お姉ちゃん、頑張ってなあ!」
妹・ウタの声援を背に受け、オトは折目正しく√能力者たちに礼をした。
まずは『解呪水』の探索だ。
オト一行は伏見地域の中心部へ向かった——
オトと合流した不動院・覚悟(ただそこにある星・h01540)は伏見中心部に聞き込みに行く前に、戦いの舞台である破壊された祠周辺へ向かった。
√能力【|阿頼耶識・明王《アラヤシキ・ミョウオウ》】を発動して観察力を上げてから、ちょうど祠跡近くに湧いていた水に近づく。
「まず呪いの水と伏見の通常の水の違いを確かめましょう。
現物を見て得られる何かもありますからね。
……とはいえ呪いの水は危険ではあるので、不用意に口に含んではいけませんよ。」
オトに忠告しながら、覚悟は用意しておいた透明な器に呪いの水を慎重に採取した。
オトが黙って見つめる中、覚悟は水を零さないように丁寧に日にかざしたり、手で扇いで匂いを嗅いだりしてしっかりと観察する。
「——見た目は普通の水と変わりませんね、匂いも全く無い。
ただ——感覚的なものですが、怨嗟のようなものを強烈に感じる。
見た目は全く同じでも、普通の水と絶対に間違えることのない何かがありますね。」
覚悟の分析に、オトも頷いて同意した。
見た目こそ普通だが、呪的要素を含む水。
まさに“呪い”の水だった。
覚悟は壊れた祠の周辺を見渡す。
この近くには、Ⅰ階層なら有名武将の首が埋まるとされる薮があるらしいが、ここはⅡ階層なのでただボロボロの廃虚が立ち並ぶばかりであった。
「——その他に異変は見当たりませんね、では中心街へと聞き込みに行きましょうか。」
分かりました、と凛としたオトの声を合図に、二人は移動した。
そして、伏見中心部。
√能力【|阿頼耶識《アラヤシキ》】も発動して魅力が高まっている覚悟は、闇市に足を踏み入れるとすぐに軒先から声がかかった。
「そこの素敵なお兄さん、厄除けの腕輪はいかがですかい?
戦士なお兄さんを怪我から守るよぉ。」
見ると、吉兆を呼ぶ置物や厄除け腕輪など、スピリチュアルな物品を扱う店のようだ。
ちょうどいいですね、と覚悟は店員に向き直って尋ねた。
「僕たち、伏見の外れで発生した呪いの水について、調べているんです。」
「ああ!あそこの水神さんは怒ると怖いからねえ、祠を壊すなんて不届き者が居ると困っちゃうよねぇ~~」
これは何か知っているかもしれない、と覚悟はブレスレットを指して更に聞き込む。
「このブレスレットの厄除けがあれば、その呪いの水の『呪い』は解けそうですか?」
店員は少し困ったように苦笑いした。
「このブレスレットもかなり強力だけど、それでもあの水神さんの怒りを解けるまでは残念ながら至らないよ。
そうだね……1分ほど、呪いの効果から身を守る程度かな?」
覚悟はそれでも興味深そうに、ブレスレットを店員に渡して財布を出した。
「一応これは購入していきましょう。
……もし、呪いを解く方法のヒントを知っていたら、どんなに小さなことでも良いので教えてほしいのですが。」
店員は代金を受け取って笑顔でブレスレットを包みつつ、話を続けた。
「確か伏見のどこかの名水と、酒の神様に認められた酒米を合わせたもので、水神さんを抑えられると聞いたことがあるよ。」
なるほど、と覚悟は店員に礼を言い、ブレスレットをオトに渡したのだった。
「オト様、探すべき水は、既に名を持っているかと。」
オトと合流するや否や、エピフィラ・ルニフローラ(A.N.C.-L-XVI《LUNIFLORA》記憶無き花・h13547)は目線をオトに合わせて丁寧に進言した。
オトは目を丸くする。
「そ、そうなんですか?」
「そう考えられます。
伏見は酒処——即ち名水の地。
それならば、土地そのものに残る霊水の伝承を辿るのが最適解かと。」
少し失礼、と手元にスマートフォンを取り出したエピフィラは、猛烈なスピードで検索を始めた。
【高速思考】で地名・古地図・酒造の水脈・伝承を照合していき、更に『伏見』『香る水』『病を癒す』『霊水』という四要素を重ね——
「……御香宮の《御香水》、名の由来は、境内より湧いた水の芳香が四方へ漂い、飲めば病が癒えたという伝承。
此度の“香る水”、そして呪いを解く水——偶然と見るには、条件が重なり過ぎております。」
オトは息を飲み、静かエピフィラに確かめた。
「じゃあ、ウチらはその、御香宮に行けば良いってことですか……!?」
エピフィラも微笑んで頷いた。
「そうですね、道中で更に証言を得てから御香宮に向かいましょうか。」
早速二人は御香宮に向かって出立した。
エピフィラは√能力【|銃技《白蝶守花》《ジュウギ・ハクチョウシュカ》】を発動し、オトに月花精霊《フロス》の白蝶分霊を纏わせる。
「どうぞ、ご安心を…銃技《白蝶守花》——御身へ向かう殺意は、わたくしが承ります。」
ありがとうございます、と恐縮するオトの背中を押し、先を急ぐ。
途中、御香宮近くにあった古そうなお茶屋に立ち寄り話を聞いた。
「確かに御香宮さんの御香水は昔っから病に効く言うて、参拝者も多いんですよ。」
エピフィラは心の中でビンゴ、と呟きながらお礼にお茶をオトに買い与えて先を急いだ。
そして御香宮入り口。
エピフィラはスッとオトの前に腕を出して静止した。
「誰か居ます……少しお待ちを。」
オトを木の影に隠れさせ、エピフィラは慎重に鳥居を潜る。
すると明らかな殺意を持ったマフィアの手下が、エピフィラに飛びかかってきた。
「攻撃意思を確認。
月華影心流——宵待、執行いたします。」
エピフィラは即座に飛び上がり、愛刀『月下美人』を振り下ろす。
カキィン!
エピフィラの攻撃で、手下が持っていた鉄パイプが弾き飛ばされた。
武器を失った手下は捨て台詞を吐いて逃げていく。
「クソッ……でも、ただ水を手に入れただけでは『解呪水』にはならないからな!
一生そこで悩んでろ!」
「……ふむ、『解呪水』にするには、『御香水』に加える更なるファクターが必要と。」
敗走する敵を見送ったエピフィラは他に敵が居ないことを確認してから、オトを呼ぶ。
二人で汚染や細工がされていないことを確認し、用意したボトルに『御香水』を汲んだ。
「……神様。ウチ頑張るから、アルバートに負けませんように……」
本殿に向かって呟いたオトを、エピフィラは優しく見つめていた。
(何て卑怯な手を使うんだ……!)
星詠みから聞いた情報を反芻して|真白・漆黒《ましろ ブラック》(|漆黒の支配者《ダーク・ルーラー》のジェネラルレギオン・h09483)は心の中でアルバートに怒りつつ、オトの目線の高さに合わせて優しく肩に手を置いた。
「大丈夫だぞ、オト!
絶対に『解呪水』を見つけ出してみせるからな!」
ありがとうございます!とオトの顔には安心の色が滲んだ。
さて、と漆黒は荷物から帽子やらサングラスやらを取り出しながら呟く。
「闇雲に探しても見つからないよな。
……まずは闇市を当たってみるか?」
取り出した小物類でサッと【変装】した漆黒は、良い感じにマフィアになっていた。
オトにもサングラスをかけてもらい、連れ立って闇市へ向かう。
「アニキ!お疲れ様ッス!!」
闇市を歩いていると早速、漆黒をマフィアと勘違いした下っ端店員に声をかけられた。
「お疲れ。……調査の方は順調か?」
漆黒は【演技】しながらカマをかけてみる。
下っ端店員はヘェ、とペコペコしながら状況を説明してくれた。
「ここから東にある酒蔵群で仕入れている酒米を、指示通りボスの分以外はカツアゲして処分しておきやした。
今頃は琵琶湖の魚のエサになっておりやすぜ!」
漆黒は内心で酒米が処分されていることを嘆きつつ、下っ端店員を労ってから闇市を出た。
闇市から少し離れてから、漆黒は√能力【レギオンスウォーム】で酒蔵群に放っていたレギオンたちと合流する。
レギオンたちから報告を受け取った漆黒は、メモに情報をまとめた。
「ふむ、どの酒造にも敵らしきものは見つからなかった、と……そしてどの酒造でも酒米が無くて困っている様子だったか。
ただ、神棚にある酒米だけはどの酒造でも死守されていたんだな。」
もしかしたら酒造に頼み込めば酒米を分けてもらえるのだろうか?と漆黒は考えながら、レギオンたちをよくやった!と褒めたのだった。
オトと年頃の近い|一ノ瀬・碧《いちのせ・あおい》(一眼千里の放課後運び屋・h14002)はにこりと笑って握手してから、状況を整理して呟いた。
「解呪水……なら、水そのものより流れを追った方が早そうやね。
場所が分からんでも、物が動けば跡は残るけん。」
そう判断した碧は、オトと共にまずは酒蔵に向かった。
酒蔵の入口にあった直売所で、話を聞いてみる。
「ここ最近で、妙に取り引きが増えたものとかありませんか?」
店員は頭に手をやりながら苦笑いし、投げやりな口調で答えた。
「取り引きが増えたどころか、こちとら原材料が全部無くなっちまって商売上がったりさ!
今ある酒もそんなに売れてねェし、困ったもんだ!」
碧とオトは顔を見合わせて首を傾げ、碧は更に質問を重ねる。
「原材料が無くなったって、どういうことですか?」
「あぁ、なんだか今年の酒米に違法農薬が使われていたとか言って、役人とか名乗るやつが酒米全部を持って行って処分しちまった。
こんな低層階に役人が来るなんておかしいよな、俺たちゃ見捨てられた存在のハズなのにヨ?」
ふんふん、と話を聞きながら、碧は自身の大きな単眼『碧眼』でそっと周りを見渡す。
店内はもちろん、その強力な【視力】で酒蔵の方まで見渡すが、酒米倉庫が店員の言う通り空になっている以外の異常は見当たらなかった。
二人は礼を言って酒蔵を後にし、次は闇市へ向かう。
酒米がキーアイテムとみた碧は、食料を取り扱う店舗に目をつけて話しかけた。
「最近、お米について取り引きが増えたり、逆に減ったりした事ってありますか?」
「うーん?普通のお米は問題なく流通しているよ。
……ああ、そういえば今年は酒米が違法農薬漬けで全滅とは聞いたね。」
店員は実は、と声を小さくする。
「農薬漬けというのは嘘らしいよ、マフィアが酒米を巻き上げるための偽情報だってもっぱら噂さ。」
へぇ~~とオトと碧は目を丸くして再び顔を見合せた。
やはり酒米が怪しい。
「教えてくれてありがとうございます、店員さん!」
碧は礼を言って闇市を後にしたのだった。
第2章 冒険 『呪いの水』
√能力者たちと調査に回ったオトの元には、『解呪水』に関する色々な情報が集まった。
名水と酒米で水神の怒りを抑えられる話。
御香宮の『御香水』。
ほとんど処分された酒米と、神棚に残る酒米。
嘘偽ってまでマフィアが手に入れたがった酒米。
そして、オトの手元には厄除けブレスレットと『御香水』が入ったボトルがある。
『御香水』だけでは『解呪水』には至っていないことは調査からも分かっているため、もう一押しアクションを起こしたい。
また、アルバートと戦う際に『解呪水』をいつ、どのように使うかもポイントとなってくると思われる。
オトと共に、対アルバート戦の作戦を練るのも良いだろう。
闇市近くの甘味処で腰を落ち着けたオト一行は、次の行動を考えていた——
※マスターより
いただいたプレイングの中で、どれかひとつでも『解呪水』に至る正解があれば、オトは『解呪水』を手に入れられます。正解は何人分あっても良いです。
また、3章でオトがアルバートに向かう際の作戦を一緒に考えてあげるのも、次に繋がって良いと思われます。
オトと共に伏見の地を駆け回り情報収集を行った、不動院・覚悟(ただそこにある星・h01540)、|一ノ瀬・碧《いちのせ・あおい》(一眼千里の放課後運び屋・h14002)、エピフィラ・ルニフローラ(A.N.C.-L-XVI《LUNIFLORA》記憶無き花・h13547)、|真白・漆黒《ましろ ブラック》(|漆黒の支配者《ダーク・ルーラー》のジェネラルレギオン・h09483)は、それぞれ得た『解呪水』に関する情報を突き合わせた。
覚悟は全員を見渡し、ゆっくり、しかし聞きやすい声で意見を述べる。
「御香宮神社の御香水と、酒蔵の神棚に残された酒米を組み合わせたものが、『解呪水』になると僕は推測します。」
うんうんと碧は頷いて同意した。
「ウチもそう思うよ。」
「ふむ……御香水と酒米から酒を造るのが正しいかと我は考えたが、御香水と酒米を混ぜるだけで良いのか?」
首を傾げる漆黒に、覚悟も一緒に考える。
「そうですね……酒を造るのが、本来は正しく丁寧であるのかもしれません。
しかし、水と酒米から酒を醸造するには、かなりの時間を要すると聞いた事があります。」
「……日本酒の醸造には、一般的に一ヶ月から二ヶ月かかります。」
【高速思考】でエピフィラが根拠を示し、覚悟もそれに頷いて続けた。
「あのアルバートが、酒が完成するまで戦いを待ってくれるとは思いません。
そもそも、この『解呪水』は敵にバレないように準備してこそ威力を発揮します。
今回は簡易的かもしれませんが、御香水と酒米を混ぜる、に留めておくのが良策だと僕は考えます。」
「でも、これから酒米を酒蔵に分けてもらえるか交渉に行く時に、少しでも酒に近いものに出来るか聞いてみるのはアリかもしれんね!」
碧がにっこり笑い、漆黒も頷いて同意した。
「……もうひとつ、必要なものがあるとわたくしは考えます。」
エピフィラがそう切り出し、皆の注目が集まる。
「壊された祠の主、水神様への礼でございます。
白蛇を祀る祠の破壊が呪いの発端。
水神の怒りを鎮めず、名水だけ汲んでも解呪には至らないと考えられます。」
なるほど、と一同が頷く。
「わたくしは先に祠に向かい、可能な限りの祠の修復と、祭具の調達を行います。
皆様は酒蔵に向かい、事情を話して酒米を手に入れてからこちらへお越しを。」
そう言い残し、エピフィラは【高速移動】で祠の方角に颯爽と駆けていった。
「では、酒蔵に向かいましょうか。」
覚悟はそう言って、残った一同を先導した。
◆
一行は先程碧たちが訪れた酒蔵に戻ってきた。
店員に一連の事情を話すと、蔵から杜氏を呼んできてくれる。
マフィアの変装を解き、いつものように支配者の口調に【演技】した漆黒が、一歩前に出た。
「我は妹分であるオト達の事と、美味しい酒を造ってくれている貴方達の事を護りたいと思っている。
彼女が無事に決闘に勝てばまた平和が訪れるから。
良ければ、力を貸してくれないか?」
「……君たちは、探偵ごっこかい?
悪いが、神棚の酒米は酒の神様への大事な供え物だ……お遊びに付き合って渡す訳にはいかねえ。」
杜氏の厳しい表情と言葉に、一行は顔を見合わせた。
しかし、ここで引き下がる訳にはいかない。
今度は碧が前に出た。
「全部とは言いません、ほんの一部……少量でいいんです。
水神様のお怒りを鎮めるため、お力を貸していただけませんか?」
「『御香宮さんのご香水』に加えて、『酒の神様に認められた米』が水神様に認められるにはどうしても必要なんです。
水神様の呪いを解き、安全な水でこの地の酒造りを再開してもらうためにも、どうかお願い致します。」
覚悟もそう言って丁寧に頭を下げると、杜氏は困った顔をしながらも考える素振りを見せた。
「水神様の呪いを解く……君が言うそれはもしかして、御香宮さんの、あらゆる神様の怒りを解く酒の伝説のことではないか?
……ふうん、ちょっと待ってな。」
そう言って杜氏は一度席を外す。
しばらく待っていると、杜氏は二つの小さな布袋を手に戻ってきた。
「これが神棚に祀っていた酒米だ。
しかし御香宮さんの伝説に沿うには、恐らくもうひとつ、酒造りに使うこれも必要となるだろう。
麹菌だ、これはこの蔵で大事に受け継がれ、培養されてきた大切な菌だ。
大切に使え、必ず水神様の呪いを解き、この地に安寧をもたらしてくれ。」
そう言って杜氏は、覚悟、碧、漆黒それぞれに酒米、麹菌、お供え用の升をしっかりと渡してくれた。
「ありがとう、杜氏さん!
呪いが解決したら、今度は酒の作り方とかも教えてくれると嬉しい!」
漆黒が笑顔で杜氏の手を握ると、杜氏もしっかりと握手し返してくれた。
◆
一行が祠の地へ戻ると、エピフィラの手によって祠は新品同様にまで修理され、綺麗に祭りの準備まで整っていた。
「オト様、お待ちしておりました。
こちらは奉納の準備が整っておりますので、あとは手に入れたものを水神様に捧げるのみでございます。」
覚悟、碧、漆黒それぞれから供え物を受け取ったオトは、エピフィラが準備していた三方にそれらを載せて祠の前に置く。
「水神様、祠を破壊してしまうという大変な非礼を失礼致しました。
わたくしたちの精一杯の誠意を捧げますので、どうかお許しいただけませんでしょうか。」
オトが三方を置いたのに合わせ、エピフィラが水神様に非礼を詫びて折目正しく礼をした。
一瞬の静寂、そして——
一陣の風が吹いた。
すると辺りには清浄な空気が戻り、音もしていないのに一行の頭の中に声が響き渡る。
「『御香水に酒米と麹を入れよ。その水でそなたを守ろう』……と、聞こえましたね。」
覚悟が皆に確認すると、それぞれが頷いた。
碧がオトに笑いかける。
「最後はオトさんが作った方がよかやろ、その布袋開けて混ぜや。」
うん、と頷いたオトは升に入った御香水に酒米と麹菌を入れた。
ふわり、と升から光が舞う。
√能力【|阿頼耶識《アラヤシキ》】、【|阿頼耶識・明王《アラヤシキ・ミョウオウ》】で観察力を高めた覚悟はその変化を如実に捉えた。
覚悟が頷くと、オトの顔に笑顔が灯る。
「——やったな、オト!
これで『解呪水』は完成だぞ!」
漆黒が絵柄で声をかけると、オトも嬉しそうに「はい!」と笑った。
「これで安心して、アルバートと決着つけられます!」
オトは覚悟から小さな容器を受け取り、それに『解呪水』を詰める。
太陽の光を受け、透明な容器の中で『解呪水』はキラキラと光った。
「オトさん、『解呪水』は呪いの水を飲んでから、すぐ飲んだ方がよかと思うよ。
時間が経つほど効くなら、受けてすぐ解くんがよか。」
碧がオトにそうアドバイスし、同時に覚悟も指示を出す。
「先ほど購入した厄除けブレスレットも着けておきましょう。
念には念を、しかし約1分の守りを過信しないでくださいね。」
「分かりました!」
厄除けブレスレットをしっかり着け直し、オトは顔を引き締めた。
『解呪水』はオトの腰のポーチに収められ、一行はアルバートの指定場所へ向かう。
さあ、決着の時だ。
第3章 集団戦 『マフィア戦闘員』
「よく来たな、小娘よ。」
ズラリと並んだマフィア手下の中心で、アルバートが朗らかにオトに声をかけた。
「俺に負けるために、ノコノコとよく来てくれたものだ……感謝するよ、そこの小娘の|友人たち《・・・・》もな。
まあせめて、俺の手下たちと存分に遊んでいってくれよ?」
ははは!とアルバートはひとつ高笑いしてから、手下が持ってきたワイングラスを受け取った。
「さあ小娘、まずは駆けつけ一杯から始めよう。
俺からのもてなしだ、受け取れ。」
オトもワイングラスを受け取ると、アルバートはオトに向かってグラスを掲げた。
オトも倣ってワイングラスを掲げ、二人は同時に中の呪いの水を煽った。
——Battle Start!
呪いの水がオトとアルバートの喉を通った瞬間、目に見えるほどに悍ましいオーラが二人に収束した。
想定以上の強力な呪縛効果に、両者の仲間が慌てて駆け寄る。
「ボス!!大丈夫ですか!!」
「早く解呪水をお飲みください!」
「俺たちが時間稼ぎしておきますから、しっかり飲んでくだせえ!」
アルバートの手下であるマフィア戦闘員たちがオトを目掛けて【ダッシュ】し【特攻】しようとしたが、彼らの眼前は真っ白な吹雪で覆われてしまい見事足止めされた。
「これはオトと、お前たちのボス……アルバートとの真剣勝負だ。
貴様たちがオトに手を出すことは、我が許さない!」
雪妖形態へと変身し、先程までとは様相の異なる雪妖の和装束を纏った|真白・漆黒《ましろ ブラック》(|漆黒の支配者《ダーク・ルーラー》のジェネラルレギオン・h09483)が吹雪の中から現れ、氷で出来た太刀をマフィア戦闘員たちに突きつけた。
この戦いでは純粋にオトの力をアルバートに認めさせる必要がある、それ故に手下たちの露払いは漆黒たちで引き受ける意気込みだ。
「漆黒さんに賛同します、そもそもこれはアルバートがオトさんに申し込んだ戦い。
アルバートではないあなたたちは、オトさんに触れる権利はありません。」
√能力【戦場の支配者】を発動し、戦場に蒼い炎を灯した不動院・覚悟(ただそこにある星・h01540)も漆黒の後ろから現れた。
更に√能力【|阿頼耶識・千手《アラヤシキ・センジュ》】を発動し、マフィア戦闘員たちに蒼炎を織り交ぜた白兵戦を仕掛け、彼らを後退させていく。
漆黒が作り出した吹雪の後ろ側では、オトの盾になるようにエピフィラ・ルニフローラ(A.N.C.-L-XVI《LUNIFLORA》記憶無き花・h13547)が立ちはだかり、オトの傍には|一ノ瀬・碧《いちのせ・あおい》が寄り添っていた。
「今こそ解呪水を…どうか御心置きなく、あの方との決着を。」
前を向いたままでも分かる優しい力強さでエピフィラが言い、碧もしゃがみこんだオトと同じようにしゃがんでにっこり笑った。
「オトさん、今。飲んどくとよかよ。」
二人に見守られ震える手でボトルを開けたオトが『解呪水』を口に含むと、あっという間に清浄な空気が呪いの水の邪気を払ってくれた。
しっかりとした足で立ち上がり、エピフィラと碧に「ありがとうございます!」と明るい声で礼を言う。
「護衛はウチらの仕事やけん。
あんたは前だけ見とっとよかよ。」
「御安心を、オト様……貴女の背は、わたくしがお護りします。
——主役の幕を、どうぞ。」
碧とエピフィラに背中を押され、オトは吹雪の向こう側の覚悟や漆黒にも聞こえるように声を張り上げた。
「覚悟さん、漆黒さん!
オト、行けます!!
正々堂々頑張るので……吹雪での目眩しを、消してやってください!」
オトの宣言を聞いた漆黒は、吹雪を緩めて二人が相対できるように場を整えた。
念のためエピフィラが√能力【|銃技・白蝶守花《ジュウギ・ハクチョウシュカ》】を発動して『月花精霊《フロス》の白蝶分霊』の群れをフィールドに放ち、オトに横槍が入らないように警戒する。
覚悟も見守る中オトは前に進み出て、こちらも『解呪水』によって立ち直ったアルバートと面と向かう。
アルバートは薄く笑った。
「フン、そちらも『解呪水』を準備出来たとは……なかなか優秀な|お友達《・・・》を持っているな小娘。
そして俺の手下の介入を許さない、ときた……いいだろう、ここからは|1VS1《サシ》で拳と拳の語り合いだ。
手加減はしない!」
◆
「ボス……ボスは無事なのか!?」
「小娘の邪魔をしなければ……けれど、吹雪で何も見えないぞ!!」
「クソ、あの青髪の男……ぶっ殺してやる!!」
漆黒は雪妖の力を上手く調整し、オトたちには視界を確保しつつ、マフィア戦闘員たちは猛吹雪の中に閉じ込めて【逃亡防止】していた。
「チクショー!俺達を誰だと思っていやがる!!」
マフィア戦闘員たちが√能力で漆黒たちを麻痺させようとするが、猛吹雪で視界が阻まれた状態ではその攻撃も無駄に終わる。
麻痺攻撃が無駄だと分かったマフィア戦闘員たちは、次の瞬間には√能力【デンジャラス・カーチェイス】で改造車を呼び出していた。
マフィア戦闘員の一人が運転席に飛び込み、残りはフロントや車の屋根の上に飛び乗る。
「やぁやぁ、俺たちは香港マフィア、アルバート様直属の手下だ!
俺たちを舐めてると痛い目に遭うぞ!!」
マフィア戦闘員たちはそんな【挨拶】をしながら、吹雪を突き抜けEDENたちに改造車ごと飛び込んできた。
車のあちこちから躍り出た青竜刀を構えた戦闘員たちが、漆黒に怒りの矛先を向け——
「……なんだァ!?青竜刀の威力が全然出ねぇ!!」
威勢を失い歯ぎしりするマフィア戦闘員に漆黒は驚くが、すぐに事態を把握して笑顔が思わず零れる。
「——ありがとう、覚悟。助かったよ。」
「礼には及びません。」
√能力【|阿頼耶識・羅刹《アラヤシキ・ラセツ》】を発動し、漆黒の側で静かに機を伺っていた覚悟の右掌がマフィア戦闘員に触れ、マフィア戦闘員の√能力が無効化されたのだ。
襲いかかってきたマフィア戦闘員の勢いは失われ、漆黒はかすり傷を負うに留まる。
そしてそのかすり傷も√能力【戦場の支配者】の効果であっという間に治癒した。
「こっちたい!よそ見したらいかん!」
続けて碧が√能力【|黑星撃鉄《ヘイシントリガー》】を発動し、マフィア戦闘員たちを『超小型監視|UAV《無人航空機》』の群れが取り囲む。
オトとアルバートが対面するフィールドからグンと離れた場所から碧が呼びかけることで、マフィア戦闘員たちの横槍を防止する狙いだ。
「舐めやがって……このアマァ!!」
計算通りオトたちから離れて碧に駆け寄り鈍器を振り上げるマフィア戦闘員たちに、碧は舌を出して煽りつつ『黒星鏢・道標』で迎撃していく。
「オトさんの邪魔ばするなんて野暮なこと、ウチが許さんけんね!」
更に『黒星鏢・道標』を用いて碧は高速移動してマフィア戦闘員たちをオトたちから引き剥がすように誘導し、また瓦礫をポイポイ投げてオトたちのフィールドへの遮蔽物を作り出していった。
オトから引き離されたマフィア戦闘員たちは歯噛みしつつ、√能力【マフィアインパクト】を発動した。
「こうなったからには……特攻してでもあのガキを邪魔してやる!!」
「あら、六十秒も頂けるのでしたら——充分過ぎますね。」
これにはエピフィラが素早く反応した。
「フロス、月光を一弾へ。銃技《月華光輪》——咲きなさい。」
エピフィラは√能力【|銃技・月華光輪《ジュウギ・ゲッカコウリン》】を発動し、【月光】属性の弾丸をマフィア戦闘員たち目がけて撃ち込んだ。
ドカン!!
着弾と共に凄まじい月の光が一帯に放たれ、爆風となってマフィア戦闘員に襲いかかる。
「……クッ、ボス……小娘の邪魔をしてやることが叶いませんでした……ボスの健闘を祈ります……」
EDENたちの猛攻によってマフィア戦闘員たちは戦う体力を完全に失い、そこかしこに大の字になって転がっていた。
◆
一方、オトとアルバートは、互いに地形を巧みに利用して一進一退の攻防を続けていた。
アルバートの太刀筋をギリギリまで読み、素早く離脱し死角へと回り込むことで、オトは上手く攻撃を躱している。
巨大な太刀二振りを振り回し続けたアルバートは、避け続けられることは予想外で疲れを見せ始めた。
「フッ……やるじゃないか、小娘。
俺が見ないうちに強くなったな。」
オトも汗を飛ばしながら応えた。
「ウチの生活を守るため、妹を守るため、ウチはいーっぱい努力してきました……もう、あなたに襲われても、怖くない!!」
強いオトの決意を聞き、アルバートの口元が緩む。
「そうか。なら小娘、実力差の現実を見せてやろう。」
アルバートは√能力【黑鳥告死剣】を発動し、カラスの群れがオトを取り囲んだ。
オトはカラスを見て、戦闘前に漆黒が言っていたことを思い出す。
「——無理をしてカラスには突っ込まずに、敵を油断させてから返し刃を浴びせるのが有効だぞ!」
それに倣い、オトはカラスの群れに慌てた様子で攻撃するフリをした。
アルバートは隙ありとみてオトに接敵し太刀を振りかぶる。
「かかりましたね!」
オトはすぐさま『雷素式拡声器・改』をアルバートに突きつけ、拡声器を通して自身の肋骨を折るほどの大声で叫んだ。
オトが編み出した√能力【音波ブレイク】は、自身の肋骨を犠牲にして目の前の敵に強力な破壊音波をぶつける攻撃方法である。
「ぐっ……あああああ!!!!」
アルバートはまともに破壊音波を身に受けて吹っ飛び、地面に叩きつけられて動けなくなった。
「——負けたよ、小娘。悔しいが負けだ。
この俺を破るとはな……約束しよう、もう二度と貴様たちの生活を脅かさないと。」
EDENたちが見守る中、アルバートは誓いを述べてから血を吐き、息を止めた。
◆
「——勝った……勝ったんや、ウチ……」
呆然と立ち尽くすオトに、真っ先に碧が駆け寄る。
「オトさん、よう頑張ったね!」
「ああ、すごい戦いぶりだったな!」
続けて漆黒がオトの傍に行き、肩をぽんぽんと叩く。
緊張が解けたオトは一粒、二粒と涙を零し、そのままだばっと涙を流し続けた。
そんなオトにエピフィラはそっとハンカチを差し出す。
「オト様自らが掴んだ勝利です、胸を張りましょう。」
ありがとうございます、と渡されたハンカチで涙を拭いながら、オトは鼻声でエピフィラに応えた。
最後にエピフィラの後ろから姿を現した覚悟は、オトの頭にそっと手を乗せ、優しく撫でた。
「覚悟さん……ウチは、覚悟さんが色々教えてくれなければ、心折れて妹も守れなかったかもしれません。
本当にありがとうございます……!」
泣きじゃくりながらも礼を述べるオトに、覚悟は不器用な笑顔を見せる。
「頑張ったのはオトさん自身です、僕たちはそのサポートをしたに過ぎません。
よく頑張りましたね。オトさんたちが安心して暮らせることが分かりましたので、僕も安心して次の戦いに臨めます。」
覚悟はオトの頭を優しくぽんぽんとしてから、手を差し出して握手を求めた。
「何かあったらすぐに助けを求めてください、いつでも協力します。」
オトは涙を拭ってから、差し出された手をしっかりと握り返した。
続けて漆黒、エピフィラ、碧とも握手をする。
「皆さん、本当にありがとうございました。
ウチとウタは、これからもこの地で協力し合って頑張って生きていきます。
また、良かったら遊びに来てください!」
オトは再び大粒の涙を零しながら、4人に別れを告げたのだった。