兄弟良縁
燦々と太陽が照らす砂浜で、私はうんと伸びをする。仕事が重なりなかなか遊ぶことの出来なかった毎日で、久しぶりのデートだと夫に誘われたのだ。
――が、私はすこしばかり不機嫌だった。
この日のために用意したワンピースの感想を待っていることに、鈍感な彼は気づいていない。まぁそれはいいとしても、大人しい性格の夫に軽々しく声をかける若い女の子達が居たからだった。
「なぁ、あの子達は店の場所を聞いてきただけだよ?」
「はいはいそうですね」
困った様子で眉を下げて、夫はどうにか私の機嫌を取ろうと必死だった。彼なりに考えて、ちょっと飲み物と食べ物を買ってくると告げて人ごみでごった返す店先へと慌てた様子で向かっていく。
「はぁ……」
せっかくのデートに選んでもらったリゾートビーチで、こんなため息をつく羽目になるとは。嫉妬深い私が悪いという自覚はあるものの、断りきれない夫にも苛立ってしまう。
世の中の夫婦や恋人達は、どうやってバランスを取っているのだろう。彼の愛情を信用しているのに、不安になって仕方がない。
そんな風に遠い目をしながら何気なく行き交う人々を眺めていれば、よく目立つ二人組が居る。
それはよく似た顔立ちの若い男の子達で、兄弟なのだろうと察することが出来た。おそろいのTシャツ姿に色違いのレイを首に飾ってて、とても仲が良さそうに歩いている。
「ああいう子達って、やっぱりモテるんでしょうねぇ」
つい口に出たひとりごとは、誰にも聞かれていない。とはいえ彼らは相当の美形で、男の子達のほうを振り向いたり色めきだっている人達はちらほらと居る。
――ふと、そんな彼らに近づく者が数人。
「すいませ~ん! あの、お兄さん達ってぇ、このお店とかわかりますぅ?」
それは私が不機嫌になっている原因、私の夫に色目を使っていた女子達だった。
「あ、あの子達……!」
やっぱりそういうつもりで声をかけていたんじゃないか。思わずビーチチェアから身を乗り出して、事の様子を見守る。
「ああ、それならあっちで……」
緑の髪をした男の子が気さくに道を教えてやるとありがとうございますぅ、と随分甘えたような声色で彼女達は感謝を告げる。それから、
「あのぉ、もしよかったら一緒にごはんとかどうですか? あたし達、ちょうど暇で~」
きぃい、私が勝手にはらわた煮えくりかえる思いになった次の瞬間。
「悪い、今日は弟と二人で過ごしたいんだ」
緑の髪の男の子がそう告げて、銀髪の男の子の腰に手を回す。
「ちょ、兄上……!」
驚いたように銀髪の彼が声をあげるものの、嫌がる様子はない。むしろどことなく照れくさそうにしていて――ん、これは?
「そういうわけだから、他を当たってくれよ」
いくらなんでも仲の良すぎる兄弟の姿に、女子達は私と同じようになにかを察してすぐに立ち去っていく。それから、銀髪の彼が口をとがらせた。
「……兄さん。あのさ、人前でそういうことしないでほしいんだけど」
「でも、こうしないとあの子達かなりしつこそうだったからな」
それに、とお兄さんらしき彼が言葉を続ける。
「せっかくロキが俺と遊びに来てくれてるんだ、誰にも邪魔されたくない」
うれしそうにそう告げた言葉に、弟さんのしろい頬がわずかに赤く染まる。
「……ま、まぁ。確かに結構うるさそうな子達だったし……」
あら~。思わずそんな声が出て、そっぽを向いている彼のかわいらしさににっこりしてしまう。
「喉がかわいてないか? 向こうの店でノンアルコールのカクテルが飲めるらしい」
行こう、と手を差し出したお兄さんの手を、弟さんがそろりとつなぐ。そうして仲睦まじい兄弟の姿を見送っていれば、夫が料理を持って戻ってきた。
「ただいま……あれ、どうしたの?」
「……あなたももうちょっと、私のこと気にしなさいよね」
随分と機嫌がよくなっている私に、夫は不思議そうに首をかしげるのだった。