巡る季節にまた華を咲かせて
想いを込めた華が咲く。
想いを受けた華が咲く。
君が、貴方が、守った華が。
――今年も燃えるように美しく。
◆
秋空に爽やかな風が吹き抜けて、季節の巡りを実感する。
道の片隅に真っ直ぐ咲いた曼殊沙華を見て、一年前の事を思い出した。
想いを一心に込めた真っ赤な花畑と、あの手を振っていた男の子は、どうしているだろう。
――そう思ったのがつい先日。
高い青空に映える、赤に染まった花畑を黒を纏う二人がゆく。
鮮やかな景色に、小弓・佐倉は眼を細める。綺麗だ。今年も。
木邑・零壱は折角手入れされたその華を、長い脚で踏まぬよう気を付けつつ辺りを見回した。
「シュカ、いるか? 俺等のことを覚えてくれてたらいいんだが。」
零壱の呼び掛けに倣って、小弓も口元に手を添える。やまびこをする様な仕草でその名を呼んだ。
「……、しゅ、シュカー……?」
大きい声は出ないけれど、此の山で、少年を想う声は必ず届く。何と云っても彼は木霊なのだから。
がさり、と花畑を見守る木陰が揺れた。
「わ、わぁ……! 零壱さん! 小弓さん!」
華と同じ赤い髪を眼元まで伸ばした少年が、嬉しそうな声を上げて駆けてくる。その姿は一年前と変わらず。
シュカが姿を現した事に零壱は口元を緩ませて、土産を入れた手提げ袋を掲げて見せた。
「おう、久しぶり。」
「えへへ……今年も、来てくれたんだね!」
「……いろんなひとに綺麗なお花、届けたいと思うけど。わたしたち、同じ人来ても、よかったかな……?」
駆け寄って来たシュカに、小弓が心配そうに首を傾げる。その表情にシュカは慌てて手を振った。
「も、もちろん! また見たいって思ってくれたなら、すごく嬉しい!」
それに、何度見て貰ってもお花は減らないからね、と笑う。
心から嬉しそうなシュカの姿に、小弓は安堵の息を吐いた。その頭に零壱が大きな手をぽんと置く。
「甘いものを持ってきたんだ。何処かでお茶でも飲みながらゆっくり話さないか?」
手提げに入れた包みと水筒を見せると、シュカはそれじゃあと手を合わせた。
「お花をゆっくり見られる様に、長椅子を作ったんだ。」
こっちだよと先導するシュカに二人は付いて行く。
花畑より一段高い場所に、大きな木を削って作った|長椅子《ベンチ》が設えられていた。三人で並んで座っても余裕があるだろう。
零壱は二人を先に座らせると、温かい緑茶をコップに注いで渡してやる。
「……あれから気付けば一年か……お前が元気そうで本当よかった。」
嬉しそうにそれを受け取るシュカを見て、笑みを浮かべた。
立派な包みの茶菓子は、彼の実家にあたる旅館でも客人に提供している由緒ある品だ。小弓がそれを開いて、シュカに手渡す。
それぞれの手にお茶とお菓子が行き渡ったのを見て、零壱は小弓の隣に腰掛けた。
「二人も、元気そうで良かった。」
シュカも嬉しそうに、コップを両手で包んで頷く。
「……今年も、綺麗だね。お手入れ、頑張ったの?」
時折風に揺れ、ちらちらと舞う火の粉の様に赤い光を弾く曼殊沙華。
小弓がそう云ってくれるのが嬉しくて、シュカは口元を緩ませる。
「うん! 今年も、綺麗に咲く様にって、」
「……お手入れって、どんなこと、してるの……?」
「えぇと、お花が終わった後は花殻を切ってあげたり……株を分けてあげたり……、」
指折り数えるシュカは、ハッと思い出した様に付け加えた。
「あ、後、皆に直して貰った石灯籠がまた壊れない様に、囲いを作ったりしたよ。」
「ああ、そりゃ大事だな。」
昨年の事件を思い出して零壱は頷く。
「二人の事も聞きたいな。どんな一年を過ごしたの?」
シュカの問い掛けに、小弓も頷いて思い出を紐解いていく。
秋を過ぎて冬。二人で温かいグラタンを作った事や、皆にココアを振舞った事。
「それから、」
春。とある祭りの話をしていると、その時に零壱から貰った節巡の彩蛋が鞄の中で揺れる。
「……わ、」
飛び出したのは、小鳥の姿をした精霊。
季節の巡りを司るそれは、羽ばたく度に淡く光る赤い華の幻を散らしながら三人の周りを悠々と飛び回る。
「……精霊さん、ここ見て、喜んでるみたい。……秋が来たよって、お知らせしてくれる素敵な場所だよ、って。」
小弓がその姿を見上げて、微笑む。それに同意する様に、小鳥はちるちると鳴きながらシュカの肩に止まった。
「ふふ、かわいい、」
今度は小弓の肩に移って、つんと頬をつついて茶菓子をおねだりする。
そんな様子を微笑まし気に眺めていた零壱は、柔らかく声を掛けた。
「――なぁ、シュカ、」
「うん?」
「また花を見に来ても良いか?」
長い前髪の向こうで、シュカがぱちりと眼を瞬いたのが解る。
「また、来年もお話しよう。巡ってくる彼岸花の季節に、わたしたちも、また来るよ。」
続けられた小弓の言葉に、丸い瞳はくるりと輝いて。
「……もちろん!」
――少年は華が咲く様に、破顔した。