ある日の日常の、裏側で
表社会で見せる顔、同時に裏社会でしか魅せない顔は誰しも在る。
√マスクド・ヒーローなら尚更だ。
悪の組織はドコにでも多彩に潜み、秘密結社『プラグマ』から派生し名を掲げるのも裏で在る限りは自由。
プラグマ下位組織「暗黒商社アルコル」の全容も、すべてを知る者など存在するまい。組織の狙いはただ一つ。世界はいずれ悪に征服されて然るべき――。
|薄野・実 《すすきの・みのる》(金朱雀・h05136)にも、普段見せない顔はある。
広い枠で語るなら"家族"と言えそうな仲間にも隠している顔だ。
今日の店は閑古鳥が鳴きそうなほど平和――近所付き合いの範囲で、普段の何気ない言葉をかわし、今訪れた客の人相を見て裏側の顔が見え隠れしている事を悟る。猿の仮面を顔に付け、黒いフードを被っている――素性を隠したモノなど、表社会を生きるモノではない。ああこれは、厄介事が歩いてきたようだ。
「買い物客、って顔ではないか。やれやれ……面倒だな。仕方ないけど」
祖父の遺した中古雑貨品を扱うこの店は、確かに継いだ時点で実のものではある。
同時に、祖父の所有物だった――家族の場所をあれこれ理由を練り上げて、狙ってきたのだろう。
『此処の噂は聞いてるぜ?あれそれ欲しいモンはあるが、店のおまけがいるのなら標的は暫定お前に変わった』
――ああ、悪い顔。
実は静かに、店を臨時閉店させる。
――今場所を狙う刺客、ってヤツか。
――たまに来るんだよな、朝早くとかに。
「その話は、向こうで聞くよ」
『ほう!話がわかるやつだな!』
人間のようにしか見えないからと、刺客らしき男は上機嫌に付いてくる。
店から離れ、人の気配が途絶えた河川敷。
朝という時間帯もあって、当然誰も居ない。
「まあ、……ここでいいか」
顔の前に手を組んで浅く息を吐くと両腕の様子が変わる、――ざわりとDNAに組み込まれた細胞が活性化することで姿が切り替わり、綺麗な羽毛が大きく伸びて、実の体全てが大きな羽に覆われる。その手は鳥の鉤爪へ、腕の羽毛を開いた時、ばりりと容赦のない服が破れた音も聞こえた。そんなの今は重要ではない、音に気を引かれたなら、さあ顔を上げてこちらを見ろ。
そこに居たのは全身が異形の怪人へと至ったモノがいただろう。
「油断しましたね」
此処にいるのは、|金朱雀《ヘリオフェニクス》。
うろたえた男は、絶句している。
『お、お前……!金朱雀ファルド!?』
「ご存知でしたか」
姿が変わるまで分からなかったなら行幸。
踏み込みは疾風、鳥の鉤爪たるその手は烈火の如き炎を撒いて刺客へと詰め寄る。暴風で、仮面がパリンと容易く割れた。
数秒の時間の中に悪魔のような速度で動き金朱雀に対し、猿の仮面の下は――更に細かい猿に入れ墨のある猿顔が存在した。
――ああ、脳まで忠誠が刻まれてる奴か。
正義の心はきっとある。しかし、『怪人指令装置』に汚濁している。
「ならば、この後どんな戦いになるかもご存知ですよね」
『当然だ!爆発オチにしてやるぜ!……ウキキィー!』
刺客が取り出した棒は強固な打撃用の代物だが、金朱雀は動じない。
なにしろ、棒術の使い手は背中ががら空きになりがち――。
真正面から打ち込んでくる敵に、身を屈めて躱し――回し蹴りからの背中狙いを食らわせる。
素早い摩擦熱をも利用して、風に勢いを乗せた火炎は蹴り込んだ背中をゴウと燃やしに掛かる。
『アッチィイイ!!!』
「早く消さないと、お尻まで顔のように赤くなってしまいますよ」
――だがそれで、完全にニホンザルだな。
「逃げても走っても、奔る炎の勢いはコチラが操作しておりますから――」
ばたばたと、消えない炎相手に走り回る哀れな猿へと一言通達。
戦いは完全に、金朱雀の方へと勝機は傾いており――再び一気に詰め寄って、風のように鋭い脚力が胴体を蹴り飛ばし、黙らせる。
何度か蹴り込み理解した。この存在は体重が軽い。
故に、上に蹴り飛ばし――指をパチンと鳴らす。
ばぁん、と爆発が上空で起こった。
さながら花火の様相だが、炎と爆風は金朱雀の扱う能力。
――お釣りは結構、おととい来やがれ。
「……爆発オチになりましたね」
どしゃ、と落下した音が聞こえたか。それとも早々に黒焦げた刺客が逃げ出したのか、確認する気はなかった。
客ではないのだから、そこまで丁寧な対応など求められてはいないはず。
戦いが終わり、怪人姿から普段の姿へ戻り、腕や服についた土埃を払う。
裏の顔たる羽毛群も、今は腕に体に存在しない。人間態に戻ったのだから、改めて自分自身を改めて見つめる。
これから実は、あるべき日常へと戻るのだが――。
本来の姿、と実が認識しているのは金朱雀たる自身。
今の姿たる人間態は潜むために必要な仮初の姿だと――いいや、違う。
言い聞かせる日々は、増えている。
「……元々の人間の姿こそが本当の自分なんだ」
この自問自答をしている時、頭に浮かぶのは何時も同じ顔。
兄弟のように思う、彼の顔。
怪人で在ることを伏せているために、真実人間の姿の方が"自分"なのである。
「僕が思うより、周りの認識のほうが重要だな」
苦悩する前に、気持ちの置く場所を切り替える。いつものことだ。
裏の顔を伏せ続ける限り、裏の顔は――誰も知らずの秘め事だ。
知らぬ仮面は語るに及ばず。
「あー、……そろそろ店を再開しに戻らないと」
撃退した刺客の狙い、真実は不透明。
しかし敵対するなら迎撃するまで。
そうだ――それだけの、ことなんだ。