「クヴァリフの仔」争奪戦~道頓堀フロント企業強襲作戦
「私達の使命は、何も知らぬ無辜の民衆を守る事だ」
そう言って連邦怪異収容局員『リンドー・スミス』は√汎神解剖機関の陰鬱なる森の中でそんな風に呟いた。
「それは私達|連邦怪異収容局《FBPC》も、汎神解剖機関も、羅紗の魔術塔さえも変わるまい。だが、そんな民衆も、狂信に駆られこのようなものを呼び寄せる事がある」
――『クヴァリフの仔』……仔産みの女神クヴァリフの肚より産まれし、怪異の幼生。
研究組織である『汎神解剖機関』の発見したクヴァリフ器官は見事な|新物質《ニューパワー》……情報隠蔽に使えると言えるが、故に|連邦怪異収容局《FBPC》を含めた√能力者は、無辜の民衆を『教育』――超常社会を構築する機会を喪失したとも言えるだろう。
「つまり……狂信に陥るような弱者に、クヴァリフの仔は扱えまい。これは私達、|連邦怪異収容局《FBPC》が預からせて戴くとしよう」
リンドー・スミスは見据える――西日本最大の都市が一つ、大阪の街並みを。
「怪異を崇める狂信者と化した人々に対して、|王権執行者《レガリアグレイド》の怪異である仔産みの女神『クヴァリフ』が己の『仔』たる怪異の召喚手法を授けていることが予知によって確認されました」
星詠みの人間災厄である|アレクシア・ディマンシュ《Alexia・Dimanche》(ウタウタイの令嬢・h01070)は大阪の某所を貸し切って集まった√能力者達にブリーフィングを行っていく。
召喚される『クヴァリフの仔』はぶよぶよとした触手状の怪物であり、それ自体はさしたる戦闘力を持たないものの……他の怪異や√能力者と融合することで宿主の戦闘能力を大きく増幅するという特性を持つ。
「人類社会に危険をもたらす狂信者達も、彼らが手に入れてしまった『クヴァリフの仔』も放置する訳にはいきません……そして、何より」
――この『クヴァリフの仔』からもまた、人類の延命に利用可能な|新物質《ニューパワー》を得られる可能性は大きい、との事だ。
「ですので……今回日本の大阪に潜伏している|連邦怪異収容局《FBPC》のメンバーは、道頓堀の飲食店に偽装してフロント企業を運営しているのですわ」
今回、|連邦怪異収容局《FBPC》のメンバーは西日本の暴力団……新年会を行っている彼らへと『クヴァリフの仔』の肉体を用いた料理を提供し、人体実験も兼ねている様だ。
「これがどのような結果になるにしろ、クヴァリフ器官の人体実験データは回収して暴力団構成員も救助して下さい」
具体的にはフロント企業の飲食店に潜入し、相手に気取られない様に位置取りながら……『クヴァリフの仔』の肉体を摂取した暴力団員が反応したと同時、即座に両者を鎮圧する作戦だ。
「……その後は、クヴァリフの降臨が予知されていますわ」
召喚した『クヴァリフの仔』と融合する事で、クヴァリフは更なる強化を試みている様だ。
其れを阻止する為にも、邪神と交戦して撃破し……『クヴァリフの仔』を回収するのだ。
「それでは、皆様……潜入準備は整えていますわ」
妖しく典雅な笑みを浮かべ、アレクシアは潜入道具を集まった√能力者に提供していくのであった。
第1章 日常 『個性的な飲食店』

「ねえねえ、こういう人たちをその気にさせるなら、私みたいなのもいた方がいいんじゃない?――大丈夫、こーゆーのなれてるし任せて!」
最初にフロント企業飲食店にやってきたのは、|七篠・那々奈《ななしの ななな》(デッドマンの|載霊禍祓士《さいれいまがばらいし》・h05258)。
見た目はエッチなキョンシー娘であるが、精神はかなり我の強いオジサン……自分の見た目を自分好みの可愛くエッチなキョンシー娘にする事に心血を注ぐある種の求道者であり、肉体の変化にともなう精神の変質を克服しているため精神状態は酷く安定しているデッドマンの完成形だ。
「……ああ、ちゃんと裏工作はしてくれているのね」
見た目がヤバいキョンシー風の女がややおしつけ気味に店員に話しかけ、自らを売り込んでいく――それが那々奈のプランであったが、既に星詠みが潜入用の手筈を整えていくれていた様だ。
ともあれ、嫌味な感じはせずに男心を心得た様子でキョンシー風の見た目をした美少女は暴力団員にお酌をしていく。
「(……出来ることなら、若いのに被害がでねーよーにしてやりてーな)」
美少女の死肉をツギハギしながらも、狂人――誤字にあらず――な精神力で自我をたもちつづける男心を完膚なきまでに理解した中身オジサンな少女であるが、中身は善性と言える。
欲するものの業の深さと、根っこの人格における善性は必ずしもイコールでは結ばれない、という事だ。
「どうかしたか?」
「いえいえ、何でもないですよ~」
若衆の言葉に対し、キョンシー娘は愛想のよい営業用スマイルを向けてお酌をする。
仕事は仕事として全うするつもりでもある那々奈は、そのまま暴力団員にサービスを振る舞うのであった。
「いや~ボクの地元……√妖怪百鬼夜行の大阪とは、同じ大阪でも、ちょっと雰囲気が違うね〜」
缶ビール片手に、裏難波、黒門市場から千日前商店街、道頓堀と大阪食い倒れ観光と洒落込みつつ|神鳥《かみとり》・アイカ(邪霊を殴り祓う系・h01875)は仕事の前に大阪観光を軽くこなしていく。
「さて、そろそろお仕事お仕事……」
やがてある程度観光を済ませたアイカは件の飲食店に訪れ、入口付近の席に陣取る。
そこはある程度ラグジュアリーさを確保した様な店舗であり、奥には団体用の座席も設けられている様だ。
「いい加減にお腹いっぱいなんだけどね……『クヴァリフの仔』の肉体を用いた料理でしょ?」
アイカは前に戦った件の|王権執行者《レガリアグレイド》の事を思い返す。
かの邪神にして女神は、頭足類特有の触手を携えている……
「(親が『アレ』で、ココが大阪とくれば……やっぱ『アレ』じゃないかな?……考えるのは辞めとこ酒がマズくなる……)」
最初に注文した生ビールのジョッキを呷り、冷たいビールで喉を潤しながらアイカは追加注文をオーダーしていく。
「すいませーん。生ビールお代わりと、お好み焼きゲソ抜きでお願いしまーす……えっ? 飲み放題がお得? じゃぁソレで〜」
やがてアイカの前に提供されたエールがなみなみと注がれたジョッキとゲソ等の類が入っていない本場のお好み焼きが提供される。
アイカはお好み焼きを割りばしで口に運び、口内に広がるソースと生地の風味をビールで流し込んでいく。
「やっぱ、生きているなぁ……焼鳥も頼もうかな」
一応何かあった時の為に√能力の効果で上げた速度を活かして封殺にかかれるよう準備を済ませながら、アイカは三杯目のジョッキを注文していくのであった。
「ろくでもない事になってはるなぁ……まぁでも人体実験やったり、クヴァリフの降臨まで予知されとるんなら気ぃ引き締めてやらへんとなぁ」
シガーを加えながらルーシー・チルタイムダブルエクスクラメーション(チルタイム!!ショータイム!!・h01895)は入店し、自分のコミュ力を用いて店員さんと仲良くなっていく。
チルタイムは自分が認識しているだけでも4種類の種族の遺体で作られた、どこぞのマッドな博士の負の遺産であるデッドマン。
だが、傍から見れば京都弁を喋る外国人だ。
「(……いい感じに何か僅かでも情報を得れるように喋りながら、暴力団員が見える位置を確保したい)」
そうして話題等を用いて店員を誘導し、上手く奥の座席の近くの席へと案内されるチルタイム。
しかし、ここで注文を聞かれる――
「(料理は……でも注文しないと怪しすぎるだろう)」
「とりあえず野菜系とか飲み物系……シーザーサラダと冷ややっこ、後はドリンクを」
タンパク質系統に『クヴァリフの仔』を使用している可能性を考慮し、チルタイムは無難なものを注文していく。
お冷やの様子を確認してからお冷やで誤魔化しつつ、スマホを見たりして時間稼ぎを。
「(こっちの料理にクヴァリフの仔の肉体が使われている可能性を一応考慮するに越したことはないからな……)」
シーザーサラダを口に運び、ショウガのペーストを乗せた冷ややっこを味わいながらチルタイムはジョッキに注がれたドリンクを飲み干していくのであった。
「『クヴァリフの仔』の肉体を用いた料理を提供?!――行くしか無ェじゃねェの。何だ天才か? 輩らしく人型のスーツ姿に変化して早速行くぜェ〜♪」
一方で上機嫌に人間形態へと変身し、その筋の人間らしいスーツを着て『クヴァリフの仔』を用いた料理を楽しみにしている者もいる。
ウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)……|D.E.P.A.S.《デパス》にして何処かの世界よりやってきた眼孔を持たない巨大な闇色の水大蜥蜴は、大阪観光しつつだらりと地理把握。新年会の会場に新入りっぽく入る。
勿論、相手も犯罪組織……顔を見ない相手を招き入れる訳がないが。
「俺は|D.E.P.A.S.《デパス》だからなぁ……インビジブルが、な?」
彼の肉体に宿るインビジブルが、暴力団員の認識を操作していく。
インビジブルの手助けにより席に着く事の出来たウィズは、それっぽく振る舞いつつ、右手にあたる闇こと影でテーブル囲む全員へと秘かに『ルートブレイカー』を当てていく。
「敵の狂気を相殺できるか試す……でも多分全員はカバー出来ねェだろうなァ……ちったァ頭数減らせりゃ良いか」
そうしてある程度以上は『頭数』を減らした、と認識するウィズ。
後は事が始まるまで『クヴァリフの仔』入りの料理を堪能していく――
「|手前《オレ》はうまうま喰うがな!……味は……どうなんだコレ。やっぱたこ焼き、だよなァ? いやゲソ関係……?――歯応えはまァまァ……味はなんつか……ねっちょりしてる? どうなんだコレ」
そう言って首をかしげながら、ウィズは暴力団員と共に『クヴァリフの仔』入りの料理を堪能していくのであった。
「ふむ……とんでもない事をしますね……とりあえず、バレない様に隅っこの方で私達も食べて待ってましょうか」
そうして座席の方でウィズの様子を確認しながら、|神咲・七十《しんざき・なと》(本日も迷子?の狂食姫・h00549)はFBPCのフロント企業である飲食店が行う人体実験についても言及しながら、意味もなく√能力を使用。
バレない様に『フリヴァく』に顔が隠れる服などを着せて店の隅っこの席で監視もかねながら、待つついでに料理を注文していく。
「……アイドルのお忍びってこんな感じなんですかね? ふにゅ……しかし、一体どんな味がするんでしょうね」
彼女もまた『クヴァリフの仔』を用いた料理に興味を持つ√能力。
「食べられるなら私も食べてみたいのですが……もきゅもきゅ」
そんなことを思いながら出された料理を食べていき……事が起きるまで割とのんびりと、食事をしてお皿をどんどん積み上げていく――
「んぅ……この後の『運動』のためにお腹の容量をうまく調整しないといけませんね」
お好み焼きを頬張り、ジュースを注いだジョッキを呷りながら七十は胃の中に料理や飲料を収めていく。
そろそろ、件の『運動』が始まりそうだ――そんな風に彼女は確信し、食事に一区切りを着けていくのであった。
「食事の機会があるなら出張ろうとも。ゲテモノだろうがなんだろうが歓迎だ」
とはいえ、山田・ヴァイス・ゴルト・シャネル三世(フィボナッチの兎・h00077)は|警視庁異能捜査官《カミガリ》として働く代わりに幽閉を免れた人間厄災が一人……変に|連邦怪異収容局《FBPC》やヤクザ、或いはヤクザを介して警視庁の組織犯罪対策課等に警戒されるのは避けたい所だ。
「少しラフな格好、具体的には普通の女に見えるような格好に着替え目立たないように行動しようか」
店に着いたら入り口近くの席を希望するフィボナッチの兎……人間災厄としての本質はともあれ、現在の外見は女性の一人客である。
故に適度にヤクザ……派手に騒ぐ奥の座席の付近を怖がるフリをしておけば、離れた席を希望するのにさして違和感は無い。
「(店の間取りまでは分からんがカウンター席ぐらいあるだろう……いつヤクザどもに変化があるか分からんからな)」
早く出てくる料理を聞いて注文するヴァイス・ゴルト……これも『ヤクザが怖くて、早く食事をして出ていきたい女』としては当たり前の行動であり挙動だろう。
何も違和感を持たれず、ヴァイス・ゴルトは時々奥の座席を流し見……『奥の座席からヤクザが出てこないか、時折因縁を付けられない様にして確認している』という風に見せかけて観察することも、だ。
「(ところでここでの食事のお代は領収書を切ればいいのか?……ああ、FBPC持ち? 益々結構)」
そうして目の前に出された料理……『クヴァリフの仔』を入れた料理に対する対策も自然にこなし、すぐさま割りばしを用いて速やかに人間災厄は平らげていく。
どこまでも『奥の座席の怖い人を恐れている女性の一人客』として――普段は非力な女を装うが本質は飢えた獣たる人間災厄『フィボナッチの兎』は、積み重ねてきたノウハウ・経験を活かし奥の座席にて饗宴を愉しんでいる暴力団員を監視。
「さっさと腹ごなしをしてメインに備えるとしようか……」
ぽつり、と零した素の呟きは誰にも聞こえない。
そのまま怯えた女性を演技を再開し、料理を平らげていくヴァイス・ゴルト。
皮肉にも、フロント企業として運営する飲食店……|連邦怪異収容局《FBPC》のメンバーが作り上げた料理は美味であった。
――そして、奥の座席から何やら様子が変わった様な声色が聞こえてくる。
「始まったか」
瞬間、先にフロント企業へと到着していた仲間の√能力者も準備を済ませ……作戦は第二段階へと移るのであった。
第2章 冒険 『一時的狂気に苛まれる民間人』

――騒乱が店内を満たす。
食した暴力団員が発狂し、それを|連邦怪異収容局《FBPC》の職員が鎮圧しようとする。
ここで最後まで立って他勢力を鎮圧した勢力が、イニシアチブを握る。
故、√能力者よ……二つの勢力を鎮圧するのだ。
「民間人の方を傷つけるわけにはいきませんしね……」
祈り込めた『指圧』を以て、秘孔を突きながら|明星・暁子《あけぼし・るしふぇる》(鉄十字怪人・h00367)は暴力団員を正気に戻していく。
的確な身体刺激で正気に戻すと同時、テクニカルなパフォーマンスを披露して元気付ける事で一時的狂気を解消するべく暁子は疾走。
「はぁ!」
ずぶり ぴーぷーー……と、どこからともなく聞こえる効果音と共に、発狂した暴力団員は一瞬で倒れ伏す。
息の音が聞こえる以上、生きている。
「初手にて奥義仕る――『|疾風怒濤《シュトゥルム・ウント・ドラング》』!」
更に√能力の発動により、嵐と衝動を纏って自己強化を施す。
そのまま純白のセーラー服の裾を華麗にはためかせ、次から次へと民間人のツボを突いていく――そのスピードは嵐と衝動によって、目にもとまらぬスピードの域となっている。
「更に言えば、精密さも3倍となっているのですよ」
襲い掛かって来る暴力団員の背後へと即座に出現……そのままダイナミックに、しかし無駄のない動きで背中のツボを突く。
「ここですよね。違いませんよね?」
「……かぁ……!」
瞬間、瘴気を吐いて倒れ伏し落ち着く暴力団員。
彼を既に鎮圧した暴力団員と同様に安全地帯へと運び込み、すぐさままた暴れている暴力団員に指圧を仕掛けに行く暁子。
鉄十字怪人の重甲着装者である彼女だが、人間形態での動きは寧ろ軽快である。
「ここから、クヴァリフとの戦いもありますからね……」
二人同時に首の横を指圧し、鎮圧した暁子はそんな風に呟きながら三人目の指圧に取り掛かっていくのであった。
「ふにゅ……始まってしまいましたか――ふむ、予約はないですがこのままゲリラライブと行きましょうかね?」
一時的狂気の騒乱の中、高らかにアイドルソングが鳴り響く。
|神咲・七十《しんざき・なと》(本日も迷子?の狂食姫・h00549)の√能力『『フリヴァく』イン・ステージ』の発動により、既に戦場内は邪神系アイドル『フリヴァく』が発する攻撃曲『アイズ』の旋律に包まれている。
七十も大鎌『エルデ』の刃をマイクにし、デュエットを開始……√能力の本領である『隷属させるデュエットの歌』が、一時的狂気に陥った暴力団員及び|連邦怪異収容局《FBPC》の職員を『フリヴァく』の支配下に置いて隷属状態にしていく。
「ふむ、荒事慣れした方が多いようですし……鎮圧に協力して貰いましょうか」
一時的隷属に留めた暴力団員に対し、七十はまだ発狂が収まっていない者やFBPC職員の相手を『お願い』する。
全ては√能力の根幹である『フリヴァく』のライブの妨害をされない為にだ。
「大きな怪我をしない程度にお願いしますね♪……まぁ、ある程度弱らせて貰えれば隷属させることも出来るでしょう♬」
そんな風に可愛く頼み込みながら、上手く戦場を見渡して七十と『フリヴァく』はデュエットを継続。
隷属状態を施す歌を高らかに歌い上げ、戦況をコントロールしていく。
「さて、もうそろそろ『チル・マイ』に移行しても良い頃でしょう」
弱らせ隷属させてを繰り返して制圧して回り……やがて余裕が出たと確信した七十は回復曲『チル・マイ』の演奏に移行。
疲弊し負傷した者達を癒す『チル・マイ』の歌が、重奏の如く戦場内へと反響していく……
「ハードな状況っすね……ちょっと痛い目をみさせても、正気を取り戻させてやるっすよ」
|山田・菜々《やまだ・なな》(どこにでもいる、大切なものを守りたい、ただの人間・h01516)は素早く騒乱の戦場となる飲食店の奥へと突入。
確かな感覚で拳を構え、発狂する暴力団員へ√能力『|百錬自得拳《エアガイツ・コンビネーション》』を叩き込んでいく。
「邪魔なんてさせないっすよ――」
振るわれた拳は手加減を見極めた軽快なビンタとなって頬に叩き込まれる。
その一撃は『クヴァリフの仔』を食した事で暴力団員を蝕む苦悩と混乱を吹き飛ばし、そのままダウンさせていく。
しかし、そこに菜々の介入を良しとしない|連邦怪異収容局《FBPC》の職員が乱入……菜々にスタンガンを突きつけようとする、が。
「……スタンビュート!」
瞬間、迸る高圧電流を発し、鞭のようにも伸縮する特殊警棒が|連邦怪異収容局《FBPC》の戦闘員を痺れさせて鎮圧。
0.5秒にも満たない刹那に数人の”収容”のプロフェッショナルを返り討ちにして見せた菜々は再び暴力団員の鎮圧を再開していく。
「これで好き勝手されるのは、腹立たしいっすからね」
そんな風に呟きながら、地面に蹲っている暴力団員の一人に菜々は正気を取り戻させる平手打ちを叩き込んでいくのであった。
「ありゃりゃーウィズさん奇遇じゃん……え?」
「よーゥ、縁あンなァ……どした?」
|神鳥《かみとり》・アイカ(邪霊を殴り祓う系・h01875)はウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)……何処かの世界よりやってきた眼孔を持たない巨大な闇色の水大蜥蜴――が、人型で事件解決の休憩を取っている所の隣を見据える。
所謂『人間じゃない』√能力者は珍しくない。
だからこそアイカの目を釘付けにしたのは『ウィズそのもの』ではなく『ウィズの行動の痕跡』であった。
「あっ……えっと……もしかして食べたの?」
「ああ」
端的に言えば、ウィズが『クヴァリフの仔を用いた料理』を『自分の意思で注文し、平らげた』事にアイカはこんな反応を示しているのだ。
「後で感想を聞かせて欲しいけど……とりあえず状況は?」
「奥の職員とヤクザは縛り上げてっから、取り敢えず目の前の喰った奴ら吐かせてるカンジ……そっち任せて良い?」
アイカの再びの問いに対し、ウィズはアイカと合流するまでの経緯を端的に語っていく――
「アイツら変な物喰ったか?!吐かせちまえ!」
正気に戻った暴力団員に檄を飛ばし、ウィズは狂気に陥っている暴力団員を鎮圧していく。
無力化された暴力団員は正気を保っている者に胃の中のものを吐き出させられ、やがて『クヴァリフの仔』の影響から逃れていく。
「ヤクザなら仲間の回収させた上で避難の方が無難だろ」
職員とヤクザが取っ組み合いになったなら丁度良い……とも思いながら、ウィズは死角になる一団の奥側に干渉。
影から伸びる黒縄の捕縛技能でヤクザ職員問わず縛り上げて数を減らしながら、手前側を正気ヤクザに任せ、影で吐き出した仔を残さず回収していく……という所でアイカと合流したのだ。
「成程、因みにボクは声を掛け一般人の外への避難を促していた所から始まったね」
アイカの方は飲酒によって発動する√能力『|君の知らない物語《シークレットタイム》』を用い、最適な技能を向上。
奥座敷に向かいながら不穏な動きを見せるスタッフ……|連邦怪異収容局《FBPC》の職員を背後から忍び寄り、そのまま一瞬で締め落としながら無力化。
やがて把握できる|連邦怪異収容局《FBPC》の職員、その最後の一人をチョークスリーパーで絞め落としながら奥の座席を覗き込んだ所……カッコいいスーツ姿の見知った顔に、思わず『にやり』と言った笑みを浮かべて合流したのだ。
「さて、こっからが……」
「本番、だね」
数分後、残っていた狂気暴力団員と|連邦怪異収容局《FBPC》の職員残党を二人で体術と影を用いて処理した後、ウィズとアイカは正気を取り戻した暴力団員を逃がした後……空気がより重苦しくなる飲食店内を、背中合わせになりながら見渡していく。
「伊達に邪神じゃねェ、か」
「だとしても、勝つよ」
ウィズが√能力『|星脈精霊術【梟刃】《ポゼス・アトラス》』で『闇顎』……かつての自分の一部であり、意思を宿す為分体としても使用可能な手足を操作し――
アイカが右手――あらゆる√能力を打ち消す最強の√能力を、|載霊禍祓士《さいれいまがばらいし》の剛腕で振るうべくファイティングポーズを構えた直後、時空が歪む……!
第3章 ボス戦 『仔産みの女神『クヴァリフ』』

――降臨、|王権執行者《レガリアグレイド》『仔産みの女神『クヴァリフ』』。
既に『クヴァリフの仔』は√能力者達に回収されている。
「ならばこそ……諸共我が手に」
妖しく、邪悪な笑みを浮かべて『クヴァリフ』は嗤う。
全ては、邪神として……女神として、遍く理を超える力を得る為に――
「いよいよ邪神の登場っすね……どこまで通用するかわからないっすけど、全力でぶつかるっす」
床を蹴り、更にアクセルシューズを駆使して素早く敵陣に突入するのは|山田・菜々《やまだ・なな》(どこにでもいる、大切なものを守りたい、ただの人間・h01516)。
彼女は迫りくる『クヴァリフの御手』……邪神の√能力による猛攻を見切り、手にしたバス停を握り締める。
無数の眼球による牽制を退け、女神の抱擁による捕縛を潜り抜け、最後に迫り来る触手の群れに対し……
「これなら避けられないっすよね――『|暴れるバス停《ブレイキング・ブースト》』!」
ブースト加速したバス停を触手諸共巻き込み砕きながらクヴァリフに叩き込み、女神の貌を仰け反らせる菜々。
「なんと……」
痛打を喰らったクヴァリフだが、そこは邪神の|王権執行者《レガリアグレイド》……即座に残った触手で菜々を捕えようとする。
だが、その事は彼女も了承済みだ――ここからが√能力『|暴れるバス停《ブレイキング・ブースト》』の本領発揮である。
「敵の反撃を見切って避けながら距離を取る……その間に!」
――バス停を持っていない方の腕が、異音を立ててへし折れる。
其れは『|暴れるバス停《ブレイキング・ブースト》』の対価……片腕を骨折する代わりに、菜々は再行動の権利を即座に獲得。
ブースト加速によって部位破壊できるまで、同じ部位を何度もバス停で攻撃していく――
「ここからが、本番っすからね」
やがて触手の中でも要を担っていた部位が破裂すると同時、菜々は折れた腕を抑えながら撤退するのであった。
「お前を倒せば、この地域の怪異は収まるようだな……」
次にクヴァリフの前に現れたのは|明星・暁子《あけぼし・るしふぇる》(鉄十字怪人・h00367)……怪人体を解放し、彼女は身長200㎝の鉄十字怪人モードで事に当たる。
「ならば私が、能力者の手助けに入ろう」
愛用のブラスターガンを構え、クヴァリフの√能力『クヴァリフの御手』への対策として遠距離攻撃主体で戦っていく|暁子《るしふぇる》。
女神を織りなす要素を用いた連続攻撃には、接近戦ではリスクが高いと判断したのだ。
「特に『女神の抱擁』とやらは危険そうだ……」
何せ邪神……理を外れた世界の神の抱擁である。
仕掛けられた場合、どんな浸食が起きる事か。
「それを以てしても、相手の『御手』が多いな――だが手数には私も自信がある」
思念操作機能を備え装備者に随伴する、半自律浮遊砲台ゴルディオンを三台同時に展開。
計算し尽くされた弾道計算と一斉発射で触手を穿ち滅し、徹底して接近させない様に立ち回る鉄十字怪人。
「だが、それでも……『神』であるならば」
――妖しい『女』の微笑をたたえ、クヴァリフはいつのまにか|暁子《るしふぇる》の傍に……
「ご苦労。褒美をやろう」
瞬間、炸裂する重甲――重甲着装者として装着する『重甲』……科学または特撮技術を用いて鍛造され、爆薬や炸薬を搭載した対怪人装甲兵器の各所に仕込まれた爆薬炸薬。
其れを思い切り良く起爆させ、クヴァリフに痛打を与えていく。
「まだまだ弾薬も炸薬もたっぷりあるぞ?」
即座に修復した『重甲』を再装着し、そのまま鉄十字怪人は弾薬と炸薬のカクテルを邪神に披露していくのであった。
「……噂通りパワーアップ出来たら儲けものだけど、ウィズさん、マジで大丈夫……?」
「喰ったがまだ吸収してねェよ。大元に効果あるとも思わねェしな?」
背中合わせの構図でウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)は|神鳥《かみとり》・アイカ(邪霊を殴り祓う系・h01875)の問いにそう答える。
アイカはクヴァリフの顕現により、回収した仔の反応、仔を食べているウィズにどんな影響が出るか気にかけている。
最悪、ウィズを吐かせて『クヴァリフの仔』を排出させる事も辞さないつもりだ。
「(しかし、前々から思っていたンだけどよ。アイツ、エッッッロくね?身体も触手も存在から仔産みって所まで。いや〜、ソソりはしねェけどさ、好みじゃねェし)」
「ウィズさん?」
アイカからの問いに対し意識を取り戻し、息を静かに整えた後ウィズは返答。
「……ってェ訳で、拓きますか」
「――うん! ありがとう、行くよーッッッ、緋色を纏いて 我が敵を撃ち砕く!!」
ウィズの言葉に対し、アイカは√能力『岩飛流『紅雀』』を発動――全身に纏う破魔のオーラを緋色に輝くその場に最も適した任意の形質に変形させ、60秒間攻撃回数と移動速度を4倍、受けるダメージを2倍にする√能力だ。
そこからアイカはオーラを瞳、両手、両足に集中させる事で徒手空拳を強化……更にウィズが√能力『|星脈精霊術【薄暮】《ポゼス・アトラス》』を起動させる。
「すべてのリソースは『切断吸収能力を持つ虚無の銃口であり爪牙』に割り振るぜェ!」
鎖も髪も、その蛸足も、余さず細やかに切り刻み肉片を端から影で喰らうべくウィズは√能力『クヴァリフの御手』とぶつかり、そのまま『虚無の銃口』である爪牙を振るってクヴァリフ諸共切り刻んでいく。
「文字通り斬り開いてくれた……なら!」
アイカの方も負けてはいられない。
紅いオーラをたなびかせ、4倍に高めた移動速度を載せた拳の2連撃を邪神に仕掛ける。
クヴァリフを掴み、マヒするかのように貫く威力の破魔を乗せた発勁を叩き込み、よろめいた所に、残りのオーラを全て形状変化させて込めた気弾を叩きつけていく。
『……ッッ!!……!?』
|載霊禍祓士《さいれいまがばらいし》としての力強い迫撃戦は、クヴァリフもかなりの苦痛を示した様だ。
その隙を、ウィズは決して逃さない。
「やっちまえ、神鳥」
「うん!」
ダメ押しとして、アイカの方も迫撃戦を継続していく。
ウィズも『切断吸収能力』を最大限以上に励起させ、爪牙を振るって双方向からクヴァリフを蹂躙し貫通していく――
『お、のれ……!!』
やがてその相貌が憎悪と憤怒に染まるクヴァリフ。
しかし既に十二分以上の負傷をこれまで交戦した√能力者。
そしてアイカとウィズに刻み込まれた。
「あらよ、っと」
ウィズが拡げた影……丸呑みするかのように口を開けたソレにクヴァリフは逃れようとする。
「そうは問屋が卸さない、ってね」
そこをアイカは右ストレートをクヴァリフの顔面に叩き込んで阻止するのであった――
「また白い花が咲いたなら、一番美しい歌をあなたにささげましょう、何度でも…」
|川西《かわにし》・エミリー(|晴空に響き渡る歌劇《フォーミダブル・レヴュー》・h04862)は√能力『|約束された代役《オルタネート》』を発動。
上方から複数の眩い光が差し込み、装備を光を受けて煌びやかに輝く『美しい舞台衣裳』へと変換する事で、攻撃回数と移動速度を4倍とする代償として受けるダメージを2倍にする√能力だ。
「|二式飛行艇《H8K》の性能を具現化した|少女人形《レプリノイド》……それがわたし」
輝く舞台衣装を身に纏い、エミリーは『九九式二〇粍三号機銃』……かつて大型機に致命的な一撃をもたらした兵器の概念を具現化し発展させた機関砲をクヴァリフに向けて掃射。
迫り来る触手諸共ハチの巣にしていき、更に加速しながら後3回の一斉掃射を続けざまに続行する。
「――『九二式七粍七機銃・改』!――『|天蓋大聖堂に掛かる虹《アルカンシェル》』、接続!」
世界を取り戻そうと立ち上がった人々の想いを変換した虹の様に見えるエネルギーを、かつて大量生産されていた7.7mm機関銃を対戦闘機械群用に改良したカスタム品に接続。
そのままエネルギーを機関銃の一斉掃射の速度で放射していくのであった。
「うにゅ〜、私にとって別の意味で危険な相手が来ましたね。変な風評被害が来る前にご退場願わないといけないですね」
最後にクヴァリフの前へと躍り出たのは|神咲・七十《しんざき・なと》(本日も迷子?の狂食姫・h00549)。
√能力『|『フリヴァく』《邪神系アイドル》イン・ステージ』を発動し、連れていた『フリヴァく』に回復曲『チル・マイ』を歌って貰い、自分はエルデ……鋭い切れ味と綺麗な金属の響く音を奏でる黒に赤の意匠の入った大鎌を構えてクヴァリフに突撃していく。
「申し訳ないですが、早めにお帰り頂いてもいいですかね?――ファンの一人として風評被害は困りますので」
『……ファン? 信者ではなく?』
その言葉に困惑するクヴァリフ。
しかし困惑は隙……捕縛以外の攻撃は再生力を頼りに無視し、捕縛に対してはエルデで斬り払って妨害。そのままエルデで攻撃していく。
「さて、大分行けましたかね?――こっちも試してみましょうか♪」
最後に、七十は『フリヴァく』に回復曲『チル・マイ』から攻撃曲『アイズ』に変え……クヴァリフを隷属化しようと試みる。
その攻撃曲の隷属能力に、傷を負っていたクヴァリフは逆らえず……
『――侮るな』
瞬間、クヴァリフの触手が自身の脳幹や心臓、子宮等を抉って損壊し自害していく。
その様子を前に、七十は嘆息を漏らす。
「やっぱり、ファンのものにはならないか……」
急所を自壊し倒れ伏したクヴァリフの姿を見て、彼女の『ファン』の一人である人間災厄「万理喰い」のレゾナンスディーヴァは『クヴァリフの仔』を回収して汎神解剖機関へと帰還していくのであった。