シナリオ

邪悪と狂信に満ちる村

#√汎神解剖機関 #クヴァリフの仔

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 #√汎神解剖機関
 #クヴァリフの仔

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●邪悪と狂信に満ちる村
 その村は、いつから狂っていたのだろう。
『アレ』を神として崇め奉ったころから?
 皆が、『アレ』を神として認識したころから?
『アレ』を見つけたころから?
 それとも………最初から?
 それは、誰にも分らない。わかる必要性はない。わかっては、いけない。
 理解してよいのは、これは世界を滅ぼしえる√を持っていること。
 その理解をした者達は、その力を欲していることだ。

●邪悪なる争奪戦
  天津原・煉(薄暮の鬼巫女・h00204)はいつもと違い神妙な面持ちで√能力者達を待っていた。
 いつもは割と気だるげだが、今回はどうやらまた別の厄介な問題を持ってきたのだと集まった√能力者達は肌で感じる。
 そうして、√能力者達が集まると一息ついて、煉は一同を見やり口を開く。

「みんな、集まってくれてありがとう。今回は急を要することだから、急ぎ声を掛けさせてもらったよ。皆は『クヴァリフ』という名の怪異を知っているかい?」

 知ってるものは頷き、知らない者でも名前だけならと√能力者達。

「その、『クヴァリフ』がだね、何を考えてるのか知らないけど、自らの『仔』を召喚する術を狂信者共に授けたのが見えた。そう、『クヴァリフの仔』を与えたといっても過言ではない」

『クヴァリフの仔』はそれ自体はさしたる戦闘力を持たないものの、他の怪異や√能力者と融合することで宿主の戦闘能力を大きく増幅する力を持つ。
 こんなものが自由に扱えるともなれば、怪異の力が増し、世界は更なる混迷に沈みかねない。

「これに輪をかけて厄介なのがね、かのアメリカの『FBPC(連邦怪異収容局)』がこの件に大きくかかわっている。むしろ、率先して狂信者となった職員を使い『クヴァリフの仔』を呼び出そうとしているのが見えたんだ」

 まさかの第三勢力。怪異とだけ戦えばそれで解決する事例と違い、今回はその怪異を連邦怪異収容局が呼び出そうとしている。

「このまま連邦怪異収容局に好き勝手にされてはより面倒なことになりそうだからね。君たちには儀式が行われている村に向かい、解決してきてほしい。閉鎖的な村で、ものすごく怪しい雰囲気だけど、放置するわけにもいかないからね。頼むよ。あ、それと、その呼び出された『クヴァリフの仔』は可能な限り回収してきてほしい」

 それじゃ、頼むよと、煉は√能力者達を見送るのだった。

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第1章 冒険 『閉鎖的な村』


エレノール・ムーンレイカー

「狂信者の村に別の勢力の関与、そして『クヴァリフの仔』。なるほど……なんだかいろいろ面倒くさそうな事件ですね」

 エレノール・ムーンレイカー(怯懦の精霊銃士・h05517)は今回の事件を聞いた時、思わず頭を抱えてしまいそうになった。
 それほどまでに今回の依頼は、特殊な部類だった。普段ならば、事件を引き起こす者たちがおり、それを対処するのだが、今回に限っては、元から事件が起きており、それを狙った第三勢力がいるという特殊な状況だ。

「まあしかし、いつも通りに私はやれることをやりましょう。冷静に、慎重に」

 ここで投げ出すわけにもいかない。狂信者も、別の勢力も放置するわけにはいかない。エレノールは静かに夜を待ち、月が雲で隠れたと同時に動き出す。
 魔術迷彩服と潜伏者の外套を纏い、闇夜に紛れて狂信者の村へと侵入する。
 狂信者たちがいくら警戒したとしても、これを見抜くのは至難の業。運や偶然を引き寄せることができなければエレノールを見つけるのは不可能だろう。
 残念ながら、狂信者たちは大変運がなかった。村を徘徊し、警戒していた狂信者たちだが、エレノールを見つけることができないでいた。
 エレノールは狂信者たちの目をかいくぐりながら、人の灯りを目指して進む。そこならば、誰かしら人がいるということであり、彼らから何か聞けるかもしれないと思い、音もなく屋根に飛び乗って聞き耳を立てる。

「今日……屋敷……」
「当番……儀式が……」

 全てを聞き取ることはできなかったが、ある程度重要そうなワードをメモし、直ぐさまにその場を離れる。長く滞在していると、気配で気づかれるかもしれないからだ。

(屋敷……となると、この土地に詳しい人が良さそうね。なら、協力してもらいましょ)

 そして、エレノールは人気がない所に移動すると【交霊の呪法】により、この土地のインビジブルを呼び出す。呼び出されたインビジブルは最初は靄のような形を取っていたが、だんだん人の形を取り始め、整然と同じ姿で現れる。現れたのは、素朴な年配の女性だった。

「おばあさん、この村で屋敷ってあるかしら?」
『屋敷……となるとあそこだろうねぇ』

 物腰柔らかなお婆さんは、エレノールに丁寧に場所を教えると、深々と頭を下げる。

『この村の罪を……お願いします……』

 そう言うと、役目を果たしたかのように元の姿なきインビジブルへと戻っていく。また頼まれてしまったエレノールは、お婆さんから教えてもらった手がかりを手に、屋敷へと向かっていくのだった。

白神・真綾

 白神・真綾(白光の堕神・h00844)は村に着くや否や、人目を避けながら屋根へと飛び乗り、村全体をきょろきょろと見渡していく。

(ヒャッハー! 真綾ちゃんデース! まずは儀式場を探すデース! こういうのは広い場所でやってるものと相場が決まってるデース! 広場か一番大きい建物を探すデース!)

 ……と、口に出さずに内心で思うだけ上出来だろう。普段ならこれが口に出ているかもしれない。
 ここからでは見えないと判断し、更に高い建物、坂の上の家の屋根へ飛び移っていく。当然、街中を徘徊している狂信者や村人に見つからないように。軽快な動きは一般人はおろか、狂信者たちですら欺き、ひょいひょいっと飛び上がっていく。
 儀式を行うのであれば広場だと大雑把に当たりをつけるが、この村の広場は閑散としており、枯れた巨木が一本あるだけで何もなかった。

(なら、儀式が行えそうな大きな屋敷を探すデース!!)

 白神は丁度いいので、その枯れた巨木へと飛び移り、ぐるりと見渡すと、村の奥の方に大きな屋敷が一軒、雑木林に隠れるようにひっそりと建っているのを見つけた。よくよく見ると、鉄の門で入り口は閉ざされており、いかにもな場所であった。
 そこを出入りする、この村の者ではなさそうな服装の者たちの姿も、巨木からギリギリ見つけることができた。

(多分アレが、話にあったFBPCの狂信者デース)

 目標を見つけ、白神はほくそ笑みながら軽快な動きで人目を避け、屋敷へと向かうのだった。

ケヴィン・ランツ・アブレイズ
風見・正人
ラウプター・ランガースクワンツ

 ケヴィン・ランツ・アブレイズ(“総て碧”のアルグレーン・h00283)と風見・正人(怪異捜査官・h00989)は二人並んで、村の中を歩いていた。村人は家の中から警戒するようにのぞき見し、視線を感じるとすぐに姿をくらましていく。
 その様子を見て、ケヴィンは軽くため息をつく。

「ふむ、こいつァ厄介な案件だぜ。一筋縄ではいかなそうだな……」
「怪異信望、か。怪異に恨み辛みのある身としちゃ、ムカつくことこの上ないな。とはいえ、まだ罪を犯してない一般人なら…止めてやらねぇと。一人の刑事として、な」
「まあ、鬼が出るか蛇が出るか、だな」
「むしろそっちの方がまだマシかもしれねぇが」

 軽口を叩きつつも、二人は目ざとく外に出ていた村人を視線に捉える。家の中に潜み、隠れているのではなく、何かを伺うようにしている様子だった。

「まずは」
「あいつから職質するか」
「頼んだ。俺は犬猫から聞いてみるわ」

 ケヴィンは人ではなく、この土地に住まう犬や猫なら人よりも話してくれやすそうだと思い、動物の気配をたどって移動を始め、風見は家の物陰からこっちを伺っていた村人の元へ向かう。

「ちょいと話を聞かせてほしいんだが、いいかい?」
「んだよ……なんで話さなきゃいけねぇんだ」
「捜査に協力してほしいんだよ。ほら、こういうモノでね」

 風見は懐から警察手帳を見せると、青年は目を見開き、風見と手帳を交互に見比べる。
 こういう時に権威を使わなきゃ損だと思い、使ってみたが効果は抜群のようだ。

「とある事件でアメリカ人を追っていてね、どうやらこの村に潜伏しているところまでは突き止めたんだが、そういう連中を見かけてないかい?」
「……アメリカ人かどうかわからねぇけど、外国人のよそ者なら、最近来た」

 風見は内心でビンゴだとほくそ笑みながら、更に話を続けて聞いていく。青年は村の空気も、因習も、そして好き勝手に動いている外国人も全部が嫌で、近いうちに家出をするつもりだったと話す。
 警察ということならば、家出を手伝ってくれるのであれば青年は全部話すと交換条件を出す。

「……どうだ? ダメか?」
「いんや。構わねぇさ。若いからこそ、どんどん外に出てチャレンジするもんだ」
「っ……! じゃあ……全部話すが、ちょっとこっち来てくれ。村の年寄り連中に見られるとマズイ」

 青年についていく形で風見は村の納屋に潜み、FBPCの狂信者らしき連中が集まっている屋敷の場所の情報を得る。

 一方、風見と別れたケヴィンだが、動物の痕跡を追っていたところ、思わぬところから情報を手に入れることができた。それはカラスだ。
 カラスは犬や猫よりも警戒心が強く、特にぞろぞろと現れて我が物顔で村に入り込んできたFBPCの狂信者を強く警戒していた。
 ケヴィンが試しに【動物と話す】で話しかけてみると、カラスたちは顔を見合わせて、上から見下ろす形でだが、返事を返してきた。

(なんだ人間。お前、話ができるのか)
(ああ。話が聞きたいんだが、ここに村人以外の連中が来なかったか?)
(来た来た。あいつら嫌い。ここ、俺たちの餌場なのに、あいつらは好き勝手にやってる)

 一見すると、カラスがかぁかぁと鳴いているだけに見えるが、ケヴィンはカラスたちから、あいつらを追い払うことを条件に、屋敷の場所を教えてもらう。
 奇遇にも、風見は青年から、ケヴィンはカラスからFBPCの狂信者が潜む屋敷の場所を得る。
 合流した二人は、互いの話をすり合わせてその場所で間違いないことを確認し、カラスから得た情報によると、早めに動いた方が良い。もう何かをやっていると事態の深刻さを示すものだった。
 二人は頷き、先に動いているであろう仲間たちにその情報を回して、急ぎ屋敷へと向かっていくのだった。

 そして、二人とはまた別に動く√能力者が一人いた。それはラウプター・ランガースクワンツ(零落した頂点捕食者・h01450)だ。
 彼女は捕食者であることを隠さず、堂々と村の中を歩いていた。それは自分を狙う狂信者たちをおびき寄せる餌に自らがなるということ。
 村人は警戒して近づかないが、狂信者たちは様子を見るためにひとり現れる。

「ああ、そこの人、ちょうど良かった」
「っ!?」

 ラウプターはにこりと、捕食者が見せるような笑みを浮かべたかと思うと、一気に尻尾を狂信者に巻き付けて締め上げる。それを見て仲間の狂信者たちは一斉に逃げ、村人たちはカーテンを閉めて閉じこもってしまった。

「私、何を聞けばいいんですかね? ああ、そうだそうだ。あなたたちが集まっている場所を教えてほしいんです」
「ぐあっあぁぁ……ぁぁっ……!!」

 丁寧な言葉だが、尻尾がぎちぎちと狂信者の身を締め上げる。
 ミシミシと骨がきしむ音がし、ラウプターが舌なめずりする様子を見て、狂信者はこのままだと生きたまま食われると本能で察し——。

「はな、す、話すから、た、たすけ……」

 狂信者は自白し、屋敷の場所と現在進行形で儀式が行われていることを話してしまう。儀式の発動まで時間も間もないことも。
 ラウプターはそれを聞くと、狂信者を捨て、仲間たちと共に屋敷へと向かっていくのだった。

第2章 集団戦 『狂信者達』


●狂信者
 儀式を行っているであろう屋敷へとたどり着いた√能力者達。
 彼らは情報を纏め、儀式の発動まで間もないことを知ると躊躇せずに扉をぶち破り、中へと侵入する。

「な、何者だ!?」
「儀式の邪魔を!!」
「奴らに我らが神の裁きを!!」

 あと少し、で儀式が完成だという所で邪魔をされた狂信者たちは、怒りを露わにし襲い掛かってくるのだった。
白神・真綾
エレノール・ムーンレイカー
継萩・サルトゥーラ

 扉をぶち破り、真っ先に狂信者に向けて突撃したのは白神・真綾(白光の堕神・h00844)だ。

「ヒャッハー!真綾ちゃんデース!儀式はそこまでデース!狂信者は殲滅デース!」
「な、なんだこいつは!?」

 侵入者が来るかもとは警戒していたものの、まさに世紀末的なノリで乗り込まれるとは思ってもいなかった狂信者たちは、その気迫に押されて判断が一瞬遅れてしまう。その一瞬こそが、この場面では命取りなのだ。

「光の雨に消えろデース!」
「ぐっあぁあっ!?」

 奇襲気味に白神が|驟雨の輝蛇《スコールブライトバイパー》を打ち込み、光の雨が屋敷の天井を貫き、驟雨のごとく狂信者たちを打つ。一部の狂信者たちは反撃を試みるが、更にまた一人、砕かれた扉から現れ、その銃口を狂信者たちへ向けて引いた者がいた。エレノール・ムーンレイカー(怯懦の精霊銃士・h05517)だ。

「先手必勝、一気に殲滅します!」

 白神に続く形でエレノールが【エレメンタルバレット|『水天破砕』《ハイドロバスター》】を狂信者たちの中心に畳み込み、水の奔流が狂信者たちをまとめて薙ぎ払っていく。
 天からの光で周囲が焦土と化し、更には地面から巻き起こった水流が数多くの狂信者たちを戦闘不能へと追い込んでいくが、この村を支配していたのは狂信者たちだ。無駄に数だけはいて、削れた狂信者の数も半分に満たない。

「わが神の裁きを受けよ……!!【魔力砲『信仰の炎』】の承認を!」
「承認!! 愚か者どもを薙ぎ払え!!」

 ずぶ濡れになりながらも、狂信者たちは【魔力砲『信仰の炎』】の許可を、この狂信者たちの実質的リーダーである教主に願うと、攻撃範囲から逃れていた教主は、すぐさま承認を出す。
【魔力砲『信仰の炎』】がその場に顕現し、莫大な力を込められた【魔力砲『信仰の炎』】から、閃光が放たれる。

「当たったらマズイデース!?」
「当たるわけには……!」

 白神は咄嗟に斜線上から飛び退くも、エレノールは扉の前に陣取っていたことが幸いし、左右への逃げ幅が狭く、このままでは回避が間に合わない。
 光がエレノールを飲み込もうとする瞬間――

「やったろうじゃないの! アバドン展開!」

【魔力砲『信仰の炎』】を一瞬だけ、継萩・サルトゥーラ(百屍夜行・h01201)が放った【アバドンプレイグ】による【小型改造無人ドローン兵器「アバドン」】が押し留めて、その隙を逃さないようにエレノールを抱えて斜線上から脱出する。
 アバドンが放ったアバドンミサイルやアバドンレーザーの弾幕が押し留めた時間は1秒にも満たないが、逃げるにはそれでも十分だった。アバドンたちは一気に【魔力砲『信仰の炎』】に飲み込まれ、扉という存在を消滅させていた。承認という力が必要とはいえ、18倍にも跳ね上がった力は恐るべきものだ。

「助かりました」
「いいってことよっ」

 折角の反撃を逃した狂信者たち。そこへ残酷な笑みとともに、白神が再び驟雨の輝蛇を打ち、数を更に減らしていく。仲間を呼ぶことに集中していた狂信者たちは、回避行動が遅れ、攻撃を避けることができずに次々と光の雨に打たれ倒れていく。その中には、教主も混ざっており、ついに信仰の炎を放つことすら防がれてしまう。
 続けて現れた狂信者たちもまた、エレノールの【エレメンタルバレット|『水天破砕』《ハイドロバスター》】やサルトゥーラのアバドンによるミサイルやレーザーの弾幕によって倒されていく。広い室内だが、これだけの範囲攻撃は避ける隙間もなく、次々と倒れていく。

「ヒャッハー!真綾ちゃんはまだまだ満足できないデース!もっと狂信者いないデスカー?」

 そんな白神の期待に応えたかのように、屋敷の奥からぞろぞろと、狂信者が教主を連れてやってくる。どうやら教主も複数いるようだ。その中には、村人らしき者たちもいる。
 戦いは更なる激しさを増し、そして村に潜む闇の深さを、様々な√能力者へと突きつけるのだった。

風見・正人
ケヴィン・ランツ・アブレイズ
ラウプター・ランガースクワンツ

「よーし、お前ら手を上げて壁の方を向け。大人しくすりゃ、命と人権は保証してやるって言いたいが……とうの昔に人間なんて捨てちまってるなこりゃ」
「ああ。もうこいつらは人間なんて捨てちまってる」
「このまま家ごと焼いちゃったりはダメなんですかね……ダメですよね。回収するものありますし」

 他の√能力者が狂信者たちと激闘を繰り広げている中、風見・正人(怪異捜査官・h00989)、ケヴィン・ランツ・アブレイズ(“総て碧”の・h00283)、ラウプター・ランガースクワンツ(零落した頂点捕食者・h01450)もまた、同じ広間で狂信者たちと対峙していた。
 狂信者たちは既に、人の領域を踏み外している者たちばかりだ。その眼には狂気しか映らず、人に戻ることはできない。

「ここでこいつらを蹴散らして『クヴァリフの仔』とやらを確保できれば上首尾だが……。そのためには急がねェとな。邪魔だ、退けッ!」

 真っ先に動いたのはケヴィンだ。【超絶化・化身舞闘】を発動し、【翼と角、鉤爪を生やした半人半竜の戦闘形態】へと姿を変える。風見は後ろで拳銃を構え、ラウプターはというと残酷な笑みを浮かべながら【煌焔翼】を纏う。
 半竜半人となったケヴィンは、一気に鉤爪を振るいながら切り込んでいく。【空中移動】を織り交ぜた自由自在な動きに、狂信者たちは反応する間もなく刻まれるが、無駄に数が多く、いくら鋭く強靭な爪でもキリがない。
 そこへ、轟音とともに狂信者たちが文字通り宙を舞う。その中には、教主らしき人影もいて、胴体に風穴が空いていた。

「こんな簡単に死ぬのに数だけは多いよなー、人間。喰い甲斐も無いしおいしくもない」

 退屈であるかのように、ラウプターは血を払う。先ほど、狂信者たちを吹き飛ばしたのも貫いたのも、ラウプターの【煌焔翼展開】によるものだ。

「でも妙に動かなかったな?」

 不思議そうにラウプターは首をかしげる。それはそうだろう。突っ込んだはいいものの、ある程度の抵抗はあるのを覚悟していたが、なぜか狂信者たちは動かなかった。目は確実にラウプターを捕らえていたにもかかわらずだ。
 そこへ、疑問を解消する声が聞こえる。

「【Don't move!!】よし、そのまま動くなよ。抵抗しなきゃ、その分仕事が楽になるからな。」

【警視庁異能捜査官式拘束術式】。全ては風見が、この場にいるほぼすべての狂信者たちの動きを封じていた。視界に入ったものすべては風見の力により、動きが封じられる。当然体力を消耗するが、相手が動かないのであれば、もはや√能力者たちの敵ではない。
 疑問が解消したラウプターは、ケヴィンとともにまとめて狂信者たちを薙ぎ払いにかかる。

「ほーら後追いですよ。数も足りないし諦めて死んでけニンゲーン」
「第二段階、限定解除開始……見せてやるよ。こいつが俺の、竜と人の力……その合わせ技だッ!」

 人ならざる姿、畏怖するべき存在である竜と化し、人竜騎士の闘気を纏ったケヴィンが残った狂信者たちを薙ぎ払い、吹き飛ばす。

「ふーーー……目ぇ痛ぁ……」

 風見が瞳を閉じ、力を解除する頃には、この広間に集まっていた狂信者たちはすべて地に伏せていた。風見から見てもまだ生きてる者達も多いが、トドメを刺す必要はない。風見は刑事で、殺し屋ではない。他の√能力者達も同じだ。
 だが、まだこれで終わりではない。
 √能力者たちは、屋敷の地下から強力な力を感じ取っていた。狂信者とは比べ物にならないほどの気配だ。肝心の『クヴァリフの仔』はそこにあるのは間違いないだろう。
 √能力者たちは気合いを入れ直し、警戒しながら地下へ通じる階段を歩いていくのだった。

第3章 ボス戦 『連邦怪異収容局員『リンドー・スミス』』


●連邦怪異収容局
 地下に降りた√能力者達は、儀式のための大きな広場へとたどり着いた。そこは上に合ったものよりも古く、そして禍々しい。
 無数の死体の山らしきものが積み重なり、風化したものすらあった。
 だが、そのような惨劇の中で、ただ一人異様な雰囲気を放ちながら、ガラスに包まれた『クヴァリフの仔』を持つ者がいた。

「このような所まではるばるご苦労。まさか、このように迅速にやってくるとは中々優秀なようだ。上のような役立たずと違って」

 『連邦怪異収容局員『リンドー・スミス』』。彼がこの儀式を故意に起こしていたことは間違いない。

「さて、残業は好まなくてね。スマートに君たちを片付けて帰らせてもらおうか」

 『クヴァリフの仔』が入ったガラスケースを机の上に置き、丁寧にタバコの火を、吸い殻入れへと締まった『リンドー・スミス』は完全に支配下に置いた怪異を纏わせながら、√能力者達へと強力な殺意を放つ。
 生き残るにはこの場で『リンドー・スミス』を退けるしかない!!
風見・正人
白神・真綾
ケヴィン・ランツ・アブレイズ

「さぁ、無駄な抵抗はせぬことだ。残業が長引くのはよろしくない」

 『連邦怪異収容局員 リンドー・スミス』は、まるで√能力者を業務の一環としてしか見ておらず、悠々と立つその姿はまさに強者そのもの。上にいた狂信者たちとは格が違いすぎた。

「奇遇だな、俺も残業は嫌いなんだ。まぁ、それ以上に――テメェみてーな外道に好き勝手やらせるのが、一番嫌いなんだけどな」

 同じ国に属する組織という共通点はあるが、風見・正人(怪異捜査官・h00989)は悪態をつきながら、【憑依顕現・告死鳥】によって【告死鳥】と融合し、広大な地下空間を飛翔しながら『連邦怪異収容局員 リンドー・スミス』へと迫る。

「外道で結構。それが人類の未来に繋がるのであれば喜んで外道と成ろう」

 『連邦怪異収容局員 リンドー・スミス』もまた、足元に怪異を生み出し、騎乗しながら舞い上がり、迫りくる風見を迎撃せんと跳躍する。『連邦怪異収容局員 リンドー・スミス』からは【荒れ狂う怪異の群れ】が放たれ、風見へと迫り、一瞬のうちに飲み込まれる。
 明らかに致命傷だ。『連邦怪異収容局員 リンドー・スミス』は期待外れかと落胆していたが、それは一瞬のうちに驚きへと変わる。
 確実に飲み込まれ、命を絶たれたはずの風見が怪異の群れの中から現れ、翼腕を薙ぎ払い――に見せかけた、速度の乗った蹴りを叩き込む。

 一撃をまともに受けた『連邦怪異収容局員 リンドー・スミス』は、笑みを浮かべていた。この地でありつけなかった強者との戦い。血が沸き、肉躍るとはこのことだ。
 態勢を整え、再度その命を刈り取らんと『連邦怪異収容局員 リンドー・スミス』が怪異を放つが、そこへ盾を持ったケヴィン・ランツ・アブレイズ(“総て碧”の・h00283)が割り込み、攻撃を防ぐ。その隙に、風見は完全に離脱して、再度速度を纏うように飛び回る。

「やれやれ、黒幕がどんな奴かと思っていたが……案外曲者だな、テメェ。国というモンの利益のためならどこまでも冷酷になれるし、必要とあらば命を懸けることも惜しまない……ある意味、騎士と同類の存在だ。だからこそ敵に回すと厄介だがな」

 ケヴィンもまた、国に仕えるという騎士に近い部分を認め、それでなおかつ外道にも自らなり果てる覚悟を決めている相手に対し、敬意と同時に強力な畏怖を感じていた。

「国に仕え、人類を導く礎となるこそ我が使命、我が喜び。なかなかに強力な盾だが、これを防げるのであれば防いで見せよ……!」

 鉄壁の壁たるケヴィンに対し、怪異を武装化し、周囲を巻き込みながら薙ぎ払う。風見もまた、必死に空へ回避行動をとる中、ケヴィンは盾を構えたまま動かない。
 不動を体現したケヴィンに攻撃が直撃したその時、瞬く間に怪異が消滅し、元の腕が露わになる。これには『連邦怪異収容局員 リンドー・スミス』も目を見開き驚くが、すぐさまその力に当たりをつける。

「クハハっ……! 無効化したか! だが!」

 心当たりはあったのだろう。すぐさま、盾を避けるように左側を狙い怪異を振るう。
 その怪異を風見の翼腕が削るように薙ぎ払い、白神・真綾(白光の堕神・h00844)は切り裂くようにフォトンシザーズを強く握り、嬉々として突撃してきた。

「ヒャッハー!こいつは大物なのデース!雑魚はもう飽き飽きしてたからすっごく楽しみデース!」
「クハハっ! 存分に楽しみたまえ!!」

 狂気の笑みを浮かべながら、『連邦怪異収容局員 リンドー・スミス』が再度、怪異を纏って薙ぎ払い、白神がフォトンシザーズを、風見が翼腕で翻弄するように弾きながら互いに傷をつけ合う。
 致命傷はケヴィンが盾を使い防ぐも、相手は手練れ。盾を避けるような攻撃も混ざり始めた時、白神が飛び切りの笑顔を浮かべる。
 気が狂ったのか、と『連邦怪異収容局員 リンドー・スミス』が思ったその瞬間、突如、地面が炸裂した。

【真綾ちゃんの絶対殺戮連撃】によって足場を崩された『連邦怪異収容局員 リンドー・スミス』は、ほんのわずかに動きが止まる。死角から迫りくるマルチプルビットの電撃ワイヤーによる捕縛された『連邦怪異収容局員 リンドー・スミス』。やっと生まれた大きな隙を√能力者たちは逃さず、一斉に攻撃を叩き込む。ケヴィンは暴竜殺しの黒鉄斧を振るい、風見は速度が乗った蹴撃を、白神は首を狙った最大出力のフォトンシザーズを打ち込んでいく。

「ヒャッハー! 残業も帰る心配もしなくていいデース!ここでしっかり倒れてくださいデース!」
「ぐうううっ!!!」

 全身を刻まれ、斬りつけられ、吹き飛ばされた『連邦怪異収容局員 リンドー・スミス』は数度地面に叩きつけられながらも、滑るように態勢を整える。

「なかなかやるではないか。だが、まだまだやられんよ!!」

 口内の血を吐き捨てた『連邦怪異収容局員 リンドー・スミス』は、更にギアを上げるかのように闘志を燃やす。√能力者たちもまた互いのプライドをかけて、戦いを激化させていくのだった。

ラウプター・ランガースクワンツ
エレノール・ムーンレイカー

怪異を纏い、暴風のように攻撃をまき散らす『連邦怪異収容局員 リンドー・スミス』を見て、エレノール・ムーンレイカー(怯懦の精霊銃士・h05517)は冷や汗をかいていた。

(こんな、こんな殺意とプレッシャー、今まで受けたことがありません! でも、わたしはまだ生きていたい。何としてもここを凌がなければ……!)

 生きるために、生存本能に促されたエレノールが自らを鼓舞している一方、ラウプター・ランガースクワンツ(零落した頂点捕食者・h01450)は強者との戦いに興奮しきり、喜んでいた。

「上の人たちと違って楽しめることを期待していますよ?」
「クハハ! 君らも期待を外さぬようにな!」

 怪異を武器として纏い、ラウプターへ迫る『連邦怪異収容局員 リンドー・スミス』。ラウプターもまた、己が姿を【|皇竜《アルファ・ドラゴン》】へと転じてまともにぶつかり合う。
 肉を喰らい、骨をそぎ落とす怪異だが、竜化したラウプターには通じず、力と力がぶつかり合いながら押し合いが始まる。
 そこへエレノールの援護射撃が『連邦怪異収容局員 リンドー・スミス』へと突き刺さるも、足元に怪異の波を巻き起こし、波乗りのように怪異へと乗る。距離を置かれたラウプターは悪態をつく。

「またぞろぞろと雑魚ばかり出しやがって! お次はチャチな変身か!? 何をしようがテメェはオレの餌に変わりねぇんだよ! テメェも! その雑魚共も! 上のカス共と同じようになァ!」
「餌かどうかは、この戦いの勝者のみが決める。キミたちもまた、私の餌になりうるのだよ!!」

 怪異の波から跳躍し、荒れ狂う怪異の群れを二人へ向けて解き放つ。暴威を体現したかのように、ありとあらゆるものを蹂躙する怪異に対し、エレノールはライフルを放り、装備を詠唱錬成剣「賢者の剣」へと代え、滑り込むように着地点にたどり着くと同時に、【|精霊剣・閃光の乱舞《セイレイケン・センコウノランブ》】を発動する。
 ラウプターはエレノールのことは気にも留めず、巻き起こった怪異をものともしないように【高圧熱線】で荒れ狂う怪異を押し返し、続けざまに振るわれた怪異を剛腕で弾き飛ばす。

「これをも凌ぐか。これではどちらがバケモノか分からぬな!」
「へっ! バケモノで結構! 勝てばいいんだよ勝てば! 食らいつくしたほうが勝ちだぁ!」

 再度組み合うラウプターと『連邦怪異収容局員 リンドー・スミス』。そして今の攻撃をチャージし、ラウプターのおかげでギリギリ命を繋いだエレノールは|世界樹の恩寵《グレイス・オブ・ユグドラシル》を連続発動し、一命を取り止める。
 【世界樹の根源の力】と接続したエレノールは怪異をまき散らし、ラウプターと互いにノーガードでやり合う『連邦怪異収容局員 リンドー・スミス』へ向けて、【聖樹の鎖】でその身を縛り上げる。

「ぐっ、小癪な……! この程度の鎖っ!」

 鎖に拘束されながらも、怪異をエレノールへ解き放つが、エレノールは一切鎖を緩めず、致死量の傷を負ったとしても、すぐに蘇生し、力をため続ける。

「よーーし!! そのまま動くなよぉお!!!」

 ラウプターは攻撃の手がエレノールへと向いた瞬間に深く息を吸い込み、口から怪異を根こそぎ滅ぼさんと【高圧熱線】のブレスを解き放つ。何度も何度も攻撃を退けてきたラウプターだが、この竜化には【竜血漿】を大幅に消費し、限界も近い。
 そろそろ〆なければマズイと思っていたところに、エレノールが好機を引きずり出した。その隙を逃さないように、全力の【高圧熱線】のブレスを放ち、怪異を削り取りながら『連邦怪異収容局員 リンドー・スミス』を押し込み始める。

「ぐおっおおおおおお!!!」

 60秒。先ほど、エレノールが最初の直撃を受けてから経った時間だ。
 【高圧熱線】のブレスが部屋全体を輝かす中、煌々とその光を上書きするような輝きがエレノールの精霊剣から放たれる。
 『連邦怪異収容局員 リンドー・スミス』の表情がここで初めて変わった。あれを受けるとマズイ、あれを受けては――。

 初めて回避行動をとるべく、鎖を引きちぎろうと抗うが、それを高威力のラウプターのブレスが邪魔をする。
 エレノールがゆらりと、剣を構えながら立ち上がる。その剣からは怪異を滅ぼす光が溢れ出していた。

「いま、四精霊の光閃き、悪しき者どもを塵へと還さん!」

 瞬く間の連撃。光のオーラを纏った錬成剣による超速の連撃がラウプターのブレスごと、『連邦怪異収容局員 リンドー・スミス』を切り刻む。
 端から徐々にその姿が掻き消える。『連邦怪異収容局員 リンドー・スミス』は自らが消滅する姿を見て、消えつつある手を叩き√能力者へ向けて拍手をする。

「見事だ。いずれ、相まみえよう。敵にせよ、味方にせよ、再会を楽しみにしているよ」

 満足そうな笑みを浮かべて『連邦怪異収容局員 リンドー・スミス』が消えていく。
 強者の余裕を見せながら消えたその姿に、√能力者たちは、連邦怪異収容局の底知れぬ深さを垣間見た気がした。

その後、無事に『クヴァリフの仔』が入ったガラスケースを回収。激戦の最中に無事だったのは奇跡か……それとも、避ける余裕すらあったのか。それは誰にも分からない。

√能力者たちは各自、痛む身体を引きずりながら村を後にする。
怪異を信仰していたこの村がどのような未来を辿るのか、それは村民たちに委ねられている。
若者は光を求めて歩き出し、狂信者を失った者たちは深い悲しみを負う。

時は無情にも流れ、怪異に飲まれていたこの村の存在は、やがて地方の歴史に埋もれていくのだった。

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