クヴァリフの仔を回収せよ!
●√汎神解剖機関
「怪異を崇める狂信者と化した人々に対して、仔産みの女神『クヴァリフ』が己の『仔』たる怪異の召喚手法を授けていることが予知によって確認されました。その手法によって召喚される『クヴァリフの仔』は、ぶよぶよとした触手状の怪物で、それ自体はさしたる戦闘力を持たないものの、他の怪異や√能力者と融合する事で宿主の戦闘能力を大きく増幅させます。人類社会に危険をもたらす狂信者達も、彼らが手に入れてしまった『クヴァリフの仔』も放置する訳にはいきませんし……何より、この『クヴァリフの仔』からもまた、人類の延命に利用可能な新物質を得られる可能性は大きいです。危険な敵を排除しつつ、可能な限り『クヴァリフの仔』は生きた状態で回収してください」
神谷・月那(人間(√EDEN)の霊能力者・h01859)が√能力者達を集め、今回の依頼を説明した。
「どうやら、街外れの研究施設で、『クヴァリフの仔』についての研究が行われているようです。どうやら、研究員達の中に狂信者が混ざっているようですが、なるべく刺激を与えず、施設内に侵入してください。どうやら、入り口の警備は厳重なものの、裏口は飼育員がドーベルマン達に任せてサボり気味なので、上手くいけば容易に侵入する事が出来ると思います。施設内には、実験の過程で狂気や霊障に苛まれた人々がおり、問答無用で襲い掛かって来るかも知れません。もしくは『ヴィジョン・ストーカー』に襲われ、幻覚を見せられるかも知れません。例え、ここを突破したとしても、狂信者達は召喚した『クヴァリフの仔』を仔産みの女神『クヴァリフ』に捧げ、合体させてしまうため、何とか撃破して『クヴァリフの仔』を奪取してください。場合によっては、触手状の『クヴァリフの仔』と融合して通常以上の戦闘能力を獲得した狂信者達が襲い掛かって来るため、可能な限り『クヴァリフの仔』を生きたまま狂信者達から摘出し、汎神解剖機関に持ち帰ってください」
そう言って月那が√能力者達に対して、『クヴァリフの仔』の回収を依頼した。
第1章 冒険 『研究施設潜入ミッション』

●街外れの研究施設
「最近にわかにクヴァリフ関係の事件が増えてきましたわね。とにかく、ここらで押しとどめないと」
明星・暁子(鉄十字怪人・h00367)が風待・葵(電子の護霊・h04504)と共に、街外れの研究施設を訪れ、特注のハッキングツールを使って、監視カメラのハッキングを行った。
監視カメラは正面入り口と裏口に複数設置されていたものの、そのうちのいくつかはダミーであった。
それでも、見た目だけならホンモノとまったく区別がつかないため、侵入者達にとっては脅威であった。
「まぁ、ザルな部分があるなら、そこを突くのが一番ですよね。それじゃ、監視カメラを乗っ取りますか」
その間に、葵がイクリプス・レギオンを先行させ、ハッキングツールで監視カメラにアタックを掛けた。
監視カメラのセキュリティは思ったよりも強固であったが、時間さえ掛ければ乗っ取る事が出来そうな感じであった。
ただし、敷地内には何人か見張りがおり、無線を使ってやり取りしているため、例え監視カメラのハッキングに成功したとしても、正面入り口からの侵入は難しかった。
「とりあえず、狙いは裏口ってところね」
その事を確信した暁子が【疾風怒濤】で全ての能力値と技能レベルが3倍にした後、赤い角が生えそうな勢いでキーを入力し、裏口のセキュリティを完全に支配した。
裏口で飼われているドーベルマン達は、その違和感に気づいたようだが、飼育員はまったく気にしておらず、外に出てくる事さえなかった。
そうしているうちに、ドーベルマン達が吠え始めたものの、飼育員は『うるさい』と叫んでバトン型のスタンガンを振り回すだけで、まったく異常に気付かなかった。
「ええ、どうやらスマホで動画を見ているようですね。だいぶ楽しんでいるようですが……、何というか……その……もっと、やるべきことが……」
葵が複雑な気持ちになりつつ、イクリプス・レギオンで飼育員の様子を窺った。
ここまで無能すぎると、逆に心配になってしまったものの、飼育員は監視カメラを見ておらず、ハッキングされた事にも気づいていないようだった。
それとは対照的に、正面入り口の見張りは頻繁に連絡を取り合っており、物音がしただけでも現場に駆けつけるほど、空気がピリついていた。
●裏口
「研究員の中に狂信者が紛れているのか。ならば、中がどうなっているのか、調べておかねばな」
そんな中、西織・初(戦場に響く歌声・h00515)が裏口から見えない位置に犬の餌を置いた。
「まあ、状況的に考えて、真っ黒でしょうね。これで何も無い訳がありません。表向きはクリーンな製薬会社の研究施設を装っているようですが……」
八辻・八重可(人間(√汎神解剖機関)・h01129)が、事前に入手した情報を、仲間達に報告した。
全面的にホワイトやクリーンな印象を押し出しているものの、実際には狂信者達が隠れ蓑にしているだけで、経営実態はほとんどないようである。
「本来、人類の皆様の営みに、わたくしたちのような人外が過度に干渉することは、よきことではございませんが、干渉を行う怪異があり、それを取り除くことであれば吝かではございませんね」
その間に、御蘿・伊代(殺戮触手・h05678)は物陰に隠れ、裏口の様子を窺った。
飼育員は監視小屋にいるものの、スマホの動画をみながら、ポテトチップを頬張っていた。
「……」
一方、初が木の上に隠れ、念動力で近くにあった石を操り、コツンと壁に当てた。
「!」
その音に気づいたドーベルマン達が一斉に耳をピンと立て、警戒した様子で鼻をヒクつかせた。
「!」
それと同時に、ドーベルマン達がカッと両目を見開き、そのニオイの正体を本能的に確信した。
だが、犬の餌があるのは、門の向こう側。
美味しそうなニオイがするものの、鼻先ギリギリのところで……届かない。
その事が、もどかしく思ったのか、門の近くをウロつき始めた。
「まぁ、可愛らしいワンちゃん。時間のある時であれば一緒に遊ぶのも楽しいものなのですが……。しばらく大人しくなさってくださいますか?」
それに合わせて、伊代が触手のうち2本を変形させ、先端にある眼球でドーベルマン達を睨みつけ、凄まじい殺気を放つ事で、今までに感じた事がないほどの恐怖を植えつけた。
「クゥ~ン」
その事に危機感を覚えたドーベルマン達が、一斉に服従のポーズをとって、敵意がない事を強調した。
「……」
その間に、初が空中浮遊で音を立てず、裏口の扉に手を掛けた。
裏口の扉には鍵が掛かっていたものの、念動力を静かに使う事で容易に解錠する事が出来た。
幸い、飼育員は、気づいていない。
呑気に、スマホで猫の動画を見ており、完全に油断しているようだった。
(猫好きに悪人はいないと言いますが……)
八重可が複雑な気持ちになりながら、裏口の門を乗り越えて、ドーベルマン達の横を通り過ぎていった。
ドーベルマン達は『触らぬ神に祟りなし』と言わんばかりに、見て見ぬフリだった。
飼育員も猫動画に夢中で、監視カメラだけでなく、外も観ていないため、監視小屋の前を通り過ぎても、まったく気にしていなかった。
(……とは言え、ハッキングが成功していなかったら、警報装置が作動していたかも知れませんね)
その事を実感しつつ、八重可が裏口から施設内に入っていった。
●【美永久家別邸】
「久留さん、あそこ。裏口の警備が手薄っぽいですね。しかも、飼育員は犬に警備を任せてさぼっているようです」
志藤・遙斗(レベル23 男)がタバコを吸いながら、研究施設の裏口を指差した。
どうやら、ドーベルマン達が優秀らしく、いままで誰にも突破された事が無いようである。
「それじゃ、『ガッ!』と行って『ダッ!』と終わらせる……訳にはいかないか」
その間に、久留・春過(志魄ドライブ適合者・h00263)が遠目の物陰に隠れ、アイウェア『レイヴンサイト』(バトルゴーグル)を装着した。
「さすがに、それは……。まあ……、犬の餌になりたいのなら、話は別ですが……」
遙斗が軽く流しながら、渇いた笑いを響かせた。
「……ん? 何だか、様子がおかしくないか……?」
そんな中、春過がドーベルマン達の違和感に気づき、状況を飲み込む事が出来ずにキョトンとした。
ドーベルマン達は完全に戦意を失っており、まるでチワワの如く、円らな瞳をキラキラさせて走り回っていた。
「ドーベル……マン?」
春過は自分の目を疑った。
どう見ても、チワワ。
でっかい、チワワである。
「これは……予想外ですね。まあ、仲間達が手を打ってくれた……と言う事でしょう。だとしても、油断は出来ませんが……」
遙斗が警戒した様子で、頭の中で状況を整理した。
おそらく、ドーベルマンは無力化。
監視カメラもハッキング済みだが、ここで油断は禁物。
猫動画の虜と化している飼育員が、想定外の行動をする可能性もあるため、気は抜けない。
「……ほれ、これやるから大人しくしててな?」
一方、春過は、ぎこちない笑みを浮かべ、コンビニで仕入れたペットフードを渡し、穏便に進んでいこうとした。
「……わんっ!」
ドーベルマン達は、鳴き声も可愛かった。
だが、ここでドーベルマン達を刺激すると、甘えた鳴き声を響かせて、飼育員に不信感を抱かせてしまう可能性も捨てきれない。
「ドックフード……、気に入ってくれたようですね。備えあれば患いなしとは良く言ったものです。……ごめんね。少しこのままおとなしくしていてくださいね」
そう言って遙斗がドーベルマン達の頭を撫でた後、なるべく足音を立てないようにしながら、春過と施設に入っていった。
第2章 冒険 『狂気や霊障に苛まれる人々』

●研究所裏口付近
「……誰かァァァ!」
「助けてくれぇぇぇぇ!」
狂気や霊障に苛まれる人々が奇声を響かせ、施設内を走り回っていた。
その事に危機感を覚えた職員が、麻酔銃等で大人しくしているものの、逃げ出した数が多いため、対応が間に合っていないようだった。
「急いだ方が良さそうですね」
そんな空気を察した八辻・八重可(人間(√汎神解剖機関)・h01129)が、物陰に隠れて状況を把握しようとした。
どうやら、狂信者達は儀式を行うために、生贄を捧げているらしく、この程度の犠牲は想定内のようである。
「……とは言え、民間人の方を傷つけるわけにはいきませんね」
その間に、明星・暁子(鉄十字怪人・h00367)が祈りを込め、狂気や霊障に苛まれる人々の秘孔を突いた。
「はぁ!」
それと同時に、独特な効果音が響き渡り、狂気や霊障に苛まれる人々がシルエットに包まれ、血飛沫の如く何か悪いモノが噴き出した。
「す、凄い……。瞬時に相手の症状を見極め、外科や内科、霊的な技量で、適切な処置をするなんて……」
八重可がバトル漫画の解説役並のアシストで、不自然な状況をカバーした。
「ンン? ここは秘孔ではなかったようですねェ? ならば、こことここを突けば……プラスマイナスゼロです」
それに合わせて、暁子が【疾風怒濤】全ての能力値と技能レベルが3倍にした後、純白のセーラー服の裾を華麗にはためかせ、次から次に狂気や霊障に苛まれる人々のツボを突いていった。
「ま、まさか、数秒の差でミスを修正する事で、ミスをミスでなくするなんて……」
八重可が的確に解説しながら、狂気や霊障に苛まれる人々の攻撃を見切って、霊的防護で身を守った。
狂気や霊障に苛まれる人々は、激しい恐怖に襲われており、冷静ではいられなくなっているようだ。
「それが秘孔と言うものよ。秘孔は万能。これを暗殺術として昇華した者もいるとか、いないとか……」
暁子が背後に格闘家のような人物を思い浮かべつつ、再び秘孔を突いて狂気や霊障に苛まれる人々を無力化した。
●研究所薬品庫付近
「うーん、こういう状況ですと……私ができることは、そう多くないですねぇ」
風待・葵(電子の護霊・h04504)は複雑な気持ちになりつつ、衣料品の調達、運搬などを行った。
しかし、力仕事が苦手であったため、ドローンのサポートを借りて、対応する事になった。
「頭が痛ぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
その間も、狂気や霊障に苛まれる人々が両目を血走らせ、奇声を上げながら襲い掛かってきたものの、早業でフェイントする事で、何とか致命傷を避けた。
それでも、しつこく狂気や霊障に苛まれる人々が襲い掛かってきたため、ペルツォフカ(唐辛子フレーバーのスパイシーなウォッカ)を一斉範囲攻撃で解き放った。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああ! め、目があああああああああああああああ!」
次の瞬間、狂気や霊障に苛まれる人々が悲鳴を上げ、両手で顔を押さえてゴロゴロと転がった。
どうやら、効果は、絶大。
まわりにいた狂気や霊障に苛まれる人々も、『これはヤバイ』と本能的に理解したのか、近づいてくる事はなかった。
●研究所警備室付近
「さて、どういたしましょうか。人の子の助けになりたいのは、やまやまなのですが、わたくし医療の心得はございません。なので、わたくしは霊障に冒された皆様が暴れぬよう、じっとしていて貰えるようにいたしましょうか」
そんな中、御蘿・伊代(殺戮触手・h05678)が【触手眼光】を発動させ、にょろりと這い出させた目玉付き触手で睨みつけ、本能的な恐怖を抱かせる視線を放って、最も危険な生物以外の恐怖に対する抵抗力を10分の1にする事で、狂気や霊障に苛まれる人々の戦意を喪失させた。
「あ、あの……」
「お、俺達……」
我に返った被害者達は怯えた様子で、激しく目を泳がせた。
「皆様にお願いがございます。そう難しいことではございません。ただ、少しの間大人しくして頂ければ……。もちろん、わたくしの言う事、聞いてくださいますよね?」
そう言って伊代がにゅるりと、触手を絡ませた。
「わ、分かった!」
「も、もちろんだとも……!」
被害者達が青ざめた表情を浮かべ、力強くコクコクと頷いた。
そして、被害者達は借りてきた猫の如く、部屋の隅っこで大人するのであった。
●研究所地下室付近
「助けてくれぇぇぇぇぇぇぇ!」
狂気や霊障に苛まれる人々が、涎を垂らして襲い掛かってきた。
「……それが助けを求める態度か?」
西織・初(戦場に響く歌声・h00515)が歌唱、楽器演奏、パフォーマンスを駆使して、【幸せを願う歌】を歌い、幸せを呼ぶ青い鳥の幻影を出現させ、全ての行動の成功率が100%にする事で、狂気耐性や精神抵抗を向上させて抵抗力を高めて落ち着かせた。
「お、俺達は……一体……」
我に返った被害者達が、目をパチクリさせた。
「一体、どんな実験に触れればこうなってしまうのか。いや、耐性があるとはいえ自分もこうなってしまうのは避けたいところだが……」
初が被害者に駆け寄り、深い溜息を漏らした。
何とか落ち着かせる事が出来たものの、未だに恐怖から逃れる事が出来ないのか、目が泳ぎ、全身が震えていた。
「もう大丈夫だ。これから、すべての元凶を……断つ」
そう言って初が、地下室から現れた狂気や霊障に苛まれる人々に視線を送るのであった。
●【美永久家別邸】
「無事侵入できたのはいいんだが……なんかこう、拍子抜けというか思ってたのと違うというか……もっとスパイアクションみたいなのを想定してたから、一周廻ってこのザル警備は何かの罠なんじゃないかとすら思い始めているんだが……√汎神解剖機関って割とこんな感じなのか?」
久留・春過(志魄ドライブ適合者・h00263)は研究所内に足を踏み入れ、気まずい様子で汗を流した。
それだけ仲間達の連携が上手く行っていたのだが、頻繁に連絡を取り合っていた訳ではないため、実感がないようである。
「……とは言え、これはひどいですね。まずは人命救助を優先しましょうか」
そんな中、志藤・遙斗(普通の警察官・h01920)が物陰に隠れ、狂気や霊障に苛まれる人々に視線を送った。
狂気や霊障に苛まれる人々は地下から溢れ出しており、みんな我を失っているようだった。
幸い、他の√能力者達が沈静化に当たっているため、研究所の外に飛び出す事はないものの、地下から溢れた瘴気を浴びて、状況が悪化しつつあるようだ。
「まぁいいか、目の前のことに集中、集中っと。医学の専門知識もないし、ペインキラーなんて打って変に元気に暴れられても面倒だし、怪力で取り押さえが一番かな」
春過が火掻き棒をギュッと握り締め、気絶攻撃で狂気や霊障に苛まれる人々の意識を奪った。
「な、なんだ! 何だ、お前達は!」
その騒ぎを聞きつけ、治療者のひとりが顔を出した。
どうやら、狂気や霊障に苛まれる人々を落ち着かせていたようだが、あまりにも数が多過ぎるせいで、対応しきれていないようである。
「警察だ! おとなしく投降しろ」
遙斗が偽装式警察手帳を使い、目の前にいる治療者に警告した。
「け、警察!?」
治療者が、あからさまに動揺した様子で、ドシンと尻餅をついた。
どうやら、治療者はまったく事情を知らなかったらしく、実験の被験者に指示された薬を投与していただけのようである。
その薬は、相手の反抗心を消し去り、精神を落ち着かせる効果があるらしい。
「こっちは、まだ生贄にされていないようだが……」
春過がベッドに眠る実験の被験者達を見つけ、即座に状態を確認した。
実験の被験者達は、薬で眠らされていた。
「もう大丈夫です。もうすぐ応援の部隊が来ますので、そしたら安全な場所に避難しましょう」
そう言って遙斗が実験の被験者に駆け寄り、安全な場所まで誘導した。
第3章 ボス戦 『仔産みの女神『クヴァリフ』』

●仔産みの女神『クヴァリフ』
「ええい、なんじゃ、なんじゃ。人が気持ち良く眠っていれば、邪魔をしおって。しかし、妾は力を手に入れた! 残念じゃが、お前達に屈するほど、弱くはない」
仔産みの女神『クヴァリフ』がクヴァリフの仔を取り込み、不気味な笑い声を響かせた。
どんな事があっても、負けない自信があるのか、完全に√能力者達を見下しているようだった。
「後は信者の方々からクヴァリフの仔を摘出するだけと思っておりましたが、仔産みの女神『クヴァリフ』に取り込まれてしまったようですね。まあ、人の子が相手ではございませんから、乱暴にしても構いませんが……」
御蘿・伊代(殺戮触手・h05678)が、仔産みの女神『クヴァリフ』の前に陣取った。
「あは、あはははは、これは面白い事を言うのぅ。まさか、妾に勝てると思っているのか?」
仔産みの女神『クヴァリフ』が、フンと鼻を鳴らした。
「そう言えば『仔』の捕獲が優先事項でしたっけ? だとすると、あまり面制圧とかでメチャクチャにするのはよくなさそうですね」
風待・葵(電子の護霊・h04504)が落ち着いた様子で、最善の方法を考えた。
ここで必要以上に攻撃を加えてしまうと、回収対象である『クヴァリフの仔』を傷つけてしまうため、最適の攻撃手段で効果的にダメージを与える必要があった。
「ええ……、少なくとも負ける事はありません。それでも戦うのであれば相手をしますが、クヴァリフの仔は必ず回収します」
八辻・八重可(人間(√汎神解剖機関)・h01129)が、キッパリと言い放った。
「ほっほっほっ、随分と面白い寝言を言うのじゃな。ならば、やってみろ。まあ、いくら足掻いたところで、無駄だと思うがのう」
仔産みの女神『クヴァリフ』が勝ち誇った様子で、挑発気味に言葉を吐いた。
「ここは高火力の一撃で敵を仕留めてしまうのが良さそうですかね」
そんな空気を察した葵が【E.o.a.S.S.】で高火力型イクリプス・レギオンを召喚し、6号機から8号機、火器管制に仔産みの女神『クヴァリフ』の行動をインプットした後、少しでも照準精度を稼ぐのを待ってから、集中砲火を浴びせた。
「う、ぐっ……ぐっ!」
すぐさま、仔産みの女神『クヴァリフ』が禍々しいオーラを展開したものの、すべての攻撃を防ぐ事が出来ず呻き声を上げた。
だが、ほとんどの攻撃はクヴァリフの仔が喰らってしまったらしく、どす黒い血を撒き散らして、何かが腐ったようなニオイを漂わせた。
「ケタ外れの生命力ですね。まさか、ここまで攻撃を喰らっても、消し飛ぶ事なく、再生を始めているのですから……。ならば、遠慮はいりませんね。それでも、なるべく加減はするつもりですが……」
次の瞬間、八重可が【怪異解剖執刀術】を発動させ、使い捨てスカルペルを放って、仔産みの女神『クヴァリフ』に絡みついた触手を次々と切断した。
「やめ、やめろ! それは不死身ではない。限りある命じゃ! お前達とて、困る事になるんじゃろ?」
仔産みの女神『クヴァリフ』が危機感を覚え、禍々しいオーラを展開した。
「その仔は、あなたが取り込んで良いものではございません。そろそろ子離れなさってくださいませ」
伊代が【触手連撃】で、先端が眼球の触手を作って、仔産みの女神『クヴァリフ』を睨みつけ、恐怖を与える事で牽制し、そのあと触手で攻撃を加え、鞭のようにしなる触手で捕縛しつつ、再び触手で攻撃を仕掛け、先端が刃になっている触手でクヴァリフの仔と仔産みの女神『クヴァリフ』を斬りつけ、最後に先端が怪物の口になった触手で捕食しようとした。
「そんなの、お断りじゃ。この仔は誰にも渡さぬ!」
その途中で仔産みの女神『クヴァリフ』が残像を繰り出し、伊代の攻撃を回避した。
●我が『仔』
「渡さぬ……か。ならば、強引に引き剥がすだけだ」
明星・暁子(鉄十字怪人・h00367)が身長200㎝の鉄十字怪人モードで、【疾風怒濤】を発動させ、全ての能力値と技能レベルが3倍にした後、怪人細胞と強化筋肉をフル稼働させ、圧倒的な怪力で仔産みの女神『クヴァリフ』に掴みかかった。
「……クッ!」
それと同時に、クヴァリフの仔が触手を伸ばし、暁子を絞め殺す勢いで絡みついてきた。
「そう言えば、仔は回収するんだったな……。全ての元凶をここで断つ」
西織・初(戦場に響く歌声・h00515)が、空中浮遊、空中移動、空中ダッシュを駆使しつつ、一気に距離を縮めてきた。
「ほっほっほっ、随分と強気じゃな。だが、出来るのか? お前達に……妾を殺す事が!」
仔産みの女神『クヴァリフ』が、自身の記憶世界『クヴァリフの肚』から最も強き『仔』を1体召喚し、この世のものとは思えない歌声を響かせた。
「無駄な事を……。このまま身も心も蝕まれてしまえ!」
仔産みの女神『クヴァリフ』が、その場で仔を産み、完全融合を果たし、未知なる生命を誕生させ、空間を引き寄せ、不気味に蠢く触手を操った。
「……無駄なものか。やはり最後にモノを言うのは腕力だな。これで少しはマシになったか」
それと同時に、暁子がエネルギーバリアを指先に集中させ、仔産みの女神『クヴァリフ』の身体を突き破り、クヴァリフの仔を引きずり出す勢いで、ブチブチと触手を引き千切った。
「まるでヒキガエルの悲鳴だな。今から本物を見せてやる」
それと同時に、初が【鳴り響く音撃】で歌唱、楽器演奏、音響弾、鎧無視攻撃、衝撃波を使って、2回範囲攻撃を繰り出した。
「うぐ……がは!」
その攻撃を食らった仔産みの女神『クヴァリフ』が血反吐を吐き、クヴァリフの仔だったモノを吐き出した。
「完全融合を果たし、抜け殻になった方か。まあ、ないよりはマシだろ」
そう言って、初が仔産みの女神『クヴァリフ』だったモノを念動力で動かし、瓶の中に入れて回収するのであった。
●【美永久家別邸】
「さてと、後はクヴァリフを倒して、仔の回収をするだけですね」
そんな中、志藤・遙斗(普通の警察官・h01920)がタバコに火をつけながら、仔産みの女神『クヴァリフ』に視線を送った。
「おのれ……ふざけた事を……!」
仔産みの女神『クヴァリフ』は、だいぶ弱っているものの、まったく戦意は衰えておらず、両目がギラギラとしていた。
「そんな目で睨んでも無駄だ。それでも文句があるなら、相手をしてやろう。その場で仔を産んで戦力増やしてくるってんなら、纏めて吹き飛ばすだけだ」
久留・春過(志魄ドライブ適合者・h00263)が、覚悟を決めた様子でキッパリと言い放った。
「ほっほっほっ、愉快、愉快、実に愉快。回収するのか、吹き飛ばすのか、どっちなんじゃ? まあ、そんな事を言いつつ、迷っておるのじゃろ? この美しい妾が傷つく事を!」
仔産みの女神『クヴァリフ』が高笑いを響かせ、その場で産んだ『仔』と完全融合を果たそうとしようとした。
「えーと……、こういう場合、どんな顔をすればいいんですかね。まあ、とにかく……一気に行きましょうか」
それと同時に、遙斗が小竜月詠(日本刀型退魔道具)と、特式拳銃【八咫烏】を使い分け、【正当防衛】で殺戮気体となったタバコの煙を纏い、自身の移動速度を3倍にした後、霊剣術・朧を仕掛けて、仔産みの女神『クヴァリフ』の身体を貫き、力任せに斬り裂いた。
「うが……がはっ!」
その一撃を食らった仔産みの女神『クヴァリフ』が血反吐を吐き、恨めしそうに両目を血走らせ、遙斗の身体を掴み取る勢いで、利き腕を不気味に泳がせた。
「とりあえず、中途半端に融合したそれはいいか。中途半端にくっついて、何処から何処までが仔なのか分からないしな」
春過が【志魄ドライブ『魄光』】で志魄】属性の弾丸を射出し、『仔』もろとも仔産みの女神『クヴァリフ』を撃ち抜いた。
「目標沈黙……残存の敵影無しっと。それじゃ、さっさと目標物の回収をしてしまいましょう。クヴァリフの仔なんて絶対に危険だろうし……。なんで上はこんなものを欲しがっているんだろう?」
そんな疑問を口にしながら、遙斗が細心の注意を払いつつ、唯一残ったクヴァリフの仔をケースに保管するのであった。