黄昏の美術館に隠されたクヴァリフの仔
黄昏色に染まるその街角に、ひっそりと開く美術館があった。
「ようこそ、黄昏の美術館へ」
案内された先は、ごく一般的な美術館。油絵の具で描かれた絵画や、有名な彫刻家が作ったと言われるブロンズ像がいくつも置かれている。
……中には、これ、美術品か? 呪物の間違いじゃないのか? という怪しいものもあったりするのだが、それはそれ。
限られた時間だけ開く、特別な美術館という噂は、たちまち、町のシンボルへとなりはじめていたのである。
「というわけで、皆さんにはその噂の黄昏の美術館に向かっていただきたいんです」
そう告げるのは、神妙な面持ちで件の美術館のパンフレットを配るアクシア・メロディールーン(はつらつ元気印なルーンソリッド・アクセプター・h01618)である。
「私が見たところによると、コレ……怪異を崇める狂信者と化した人々に対して、仔産みの女神『クヴァリフ』が己の『仔』たる怪異の召喚手法を授けているっぽいんですよね。というのも、美術館が怪しいのは分かったのですが、どこがどう怪しいのか、ちょっと分からないんです」
パンフレットによると午後3時から日の落ちる午後5時までの時間帯に開くらしい。
「けれど、確実にここでクヴァリフの仔が召還されているのは、確実です。皆さんには、その美術館に入っていただき、彼らの潜んでいる場所の特定をお願いしたいんです」
幸いなことにパンフレットには、美術館内のマップも記載されている。展示室に作業員通路、美術保管庫に、備品置き場、男女のトイレも気になるところか。
「ただ……私が見たのは、『地下』なんですよね。どこかにきっとその入り口があると思うんですが……」
それを今回、√能力者達が見つける事案なようだ。
「入り口が見つかったら、そこから長い通路を通って、儀式の部屋へとつながっているようです。見つけた時の状況によっては、敵が現れるかもしれませんので、注意して進んでくださいね」
また儀式場の状況によって、最後に戦う相手も変わってくるという。
「早くたどり着けば、仔産みの女神『クヴァリフ』が。そうでなければ、狂信者達が相手になります。どちらにせよ、『クヴァリフの仔』を生きたまま摘出する作業が必要です。そちらも忘れずにお願いしますね!」
場合によっては、『クヴァリフの仔』を倒さないよう、誰か一人は確保に特化した√能力も必要になるかもしれない。
「とにかく、この状況を見過ごすわけにはいきません。皆さん、どうぞ、敵を倒して、無事、『クヴァリフの仔』を回収してきてくださいね」
そういって、アクシアは心配そうに仲間達を見送ったのだった。
第1章 日常 『黄昏の美術館』

街が黄昏色に染まる頃、一人の女学生が件の美術館の前に佇んでいた。
「美術館、というものを時に恐ろしく思うのは……美術品というものが、ヒトの情念が込められたものだから、かしら?」
そう呟きながら、そっと美術館の中へと入るのは、セーラー服姿の|不来方《こずかた》・|白《まお》(「おがみ様」・h00013)。
「鰯の頭も信心、といいます。ヒトが|なにか《・・・》を感じ、数が集まれば、それは祈りに似る。怪異の隠れ蓑には打ってつけかも」
受付を済ませ、白は展示室の方を眺める。そこにいる客の数は、疎らなようだ。多くもなく、少なくもなくといったところか……。
そっとトイレに向かう振りして、白は。
「───誰だかわからないなら、返事なんてしてはいけないよ?」
さっそく、|彼は誰時より《ダレダトオモウ》を発動させ、美術館内のスタッフの認知力を阻害する霧を纏わせながら、展示室だけではなく、次々と部屋を見て回っていく。
「でも、備品置き場や展示場なんかが入り口ではない気はします。展示の期間中は、かえってそこまで立ち入る必要がなさそうな、保管庫が怪しいのでは?」
パンフレットで館内地図を確認しながら、そちらへと向かう途中で。
「スタッフ専用通用口……まさか、ね」
けれど、そこから異様な気配を感じ取った白は、念のため、周囲を確認したのち、その奥へと入っていくのであった。
白が潜入する同時刻。
「最近にわかにクヴァリフ関係の事件が増えてきましたわね。ここらで押しとどめないと」
激しい嵐を纏いながら、颯爽ともう一人の女学生、|明星《あけぼし》・|暁子《るしふぇる》(鉄十字怪人・h00367)もまた、この美術館を訪れていた。
白いセーラー服の上に肩にコートを引っかける暁子は、そのまま、美術館の正面……ではなく、裏口からそっと、潜入していく。そして、人気のない階段下の荷物置き場に身を潜めると、さっそく、そこから電源コードを引っ張り出して、美術館のそれとつなげていく。
「監視カメラに地下への通路へのヒントが写っているのでは……」
特注のハッキングツールを使って、次々と監視カメラにハッキングを仕掛けていく。
静かな物置の中で、小気味よいキーを叩く音が響く。そして、ターンと最後にENTERキーを気持ちよく叩いた。そのスピードは、かなり素早い。まるで彗星のようだ。
ハッキングツールから、次々と、カメラが映し出す映像が流れていく。
「さあ、敵の本拠地、地下への道筋は、どこでしょうね?」
次々とコードを入力し、ENTERキーを叩いていく。
「……これは?」
周りに人がいなくなったところで、スタッフと一部の客が、展示室にある隠し扉を使って、何処かへ行くのが確認できた。
「なるほど……そこにあるのですね」
ハッキングツールをしまい込むと、暁子もまた、そこへ向かい、人気のない瞬間を見計らって、隠し扉の先へと向かったのだった。
「アクシアさん、はじめまして。鬼哭寺・アガシと申します。超常現象関連特別対策室より参りました」
そう声を掛けるのは、|鬼哭寺・アガシ《kikokuji.agashi》(不明居士・h04942)だ。
「わわ、ご丁寧にどうも!」
差し出されるアガシの手に、慌てふためきながらも、アクシアは握手を返す。
「『クグァリフの仔』 最近頻発している事件と伺っています。被害拡大を防ぎ、仔を確保するのは勿論ですが。……怪異を信奉する者の一人として。かのクヴァリフに、もしも目通りが叶うなら光栄です。ぜひ、御前に参りたく。一般客のかたの安全に配慮しつ。静か且つ迅速に、解決に務めましょう」
「そ、そう言ってもらえると助かります。説明はさっき言ったのと同じになるんですが……」
と、アクシアもまた、美術館のパンフレットを手渡しながら、再度、説明を重ねるのであった。
そして、アガシもまた、件の美術館へと展示室へと入っていく。
「まずは避難誘導経路や避難口の確認も兼ねて……害ある呪物がないか、美術品を|チェック《破魔》しましょう」
最初のいくつかは、すぐに害のない偽物と看破することができた。
「世のかた曰くの。ある種の『本物』ですね。……確かに。|願い《呪》が焼き付いた、|鮮やかさ《美しさ》は……自分もつい惹かれるもので」
そして、ぱちりと曰くつきのそれを、|チェック《破魔》し、害のないものへと変えておく。
幸い、呪物とはいえ、アガシが手に負える程度のものしか置いてはいないようだ。一番、酷そうだったものは、先ほどの|チェック《破魔》で、無害にしたので、このまま展示されても問題はないだろう。
「……この辺で何かを感じますが……」
展示室の一角、人々の目が届かなくなる、最奥の薄暗い部屋。何かよからぬ気配を感じるものの確証が得られない。
何かをする前に、まずはとアガシは準備を行う。
「霊的結界なら抜けられるかもしれませんが、監視カメラなど機械的セキュリティがもしあれば。……そうですね。機械とは、霊障に弱いと言いますよね」
インビジブルを制御して、見つけた監視カメラを一時的に動かせないように……いや、インビジブルを使った時点で、カメラが壊れてしまったようだ。この部屋を映しているように見えるが、今はもう、黒い画面しか表示されていないだろう。
と、準備が出来たところで、アガシは発動させる。
「お聞かせ願います」
|弔花《テスタメント》で、一輪の花の幻影として供え、対象を生前の姿へと変えたインビジブルに尋ねた。
『あなたは何を知りたいの?』
ここの職員スタッフらしいインビジブルがアガシに尋ねる。
「ここに秘密の扉がありますよね。その入り方を教えていただけますか?」
『そこの彫刻の下。そこにスイッチがあるわ。もともと、ここはあまり人が来ないの。でもたまに紛れて来るから、行くのなら早めに行くと良いわ』
望み通りのものがあるといいわねと告げて、インビジブルは消え去っていく。
「ええ、それが見つけられることを、自分も願ってますよ」
インビジブルに教えられたとおりにすると、案の定、秘密の扉が開いた。恐らくこの先に彼らがいるのだろう。
アガシが通った後に、秘密の扉は、他の者を寄せ付けぬような素振りで、その扉を閉めたのだった。
第2章 冒険 『未知に満ちた、縹渺の小径で。』

さほど、時間をかけることなく、√能力者達は、この|小径《みち》を見つけることが出来た。
ただ、この先はかなり道が入り組んでいるようである。残念ながら√能力者達の持つパンフレットには、この先のことまでは記載されていない。
しかし、ただならぬ気配を感じる。
それを辿っていけば、恐らくゴールである、狂信者達や女神がいる場所へと向かうことが出来るだろう。
美術館から離れた先であれば、多少、荒事をしても大丈夫そうにも感じる。
迷わず先へたどり着けるよう、√能力者達は、慎重に先へと進むのであった。
●マスターより
今の所、順調に進めています。この章でも時間をかけずに向かうことが出来れば、女神と対峙することも不可能ではないでしょう。
ただ、ただならぬ気配は、か細く気配を感じ取ったかと思えば、その気配がなくなってしまうといった、不安定なものです。
指針は気にせずに、自由な発想で、ゴールへと向かってください。
皆さんの探索プレイング、楽しみに待っていますね!
「こんなところに、こんな場所があるのは、なんらかの変質を起こしたのか。……はたまた、最初から準備されていたものなのか」
興味深そうに通路を眺めながら、白は呟く。
そんな白でもわかっていることがある。
「どちらにしても、ロクでもないことに変わりはないけれど」
そういうことだ。だからといって、歩みを止めることもない。時折聞こえる雫が落ちる音に、耳を傾けながらも、辺りを見渡す。
(「こういう場所のほうが、美術館よりよほど怖くない。恐れ気もなく、踏み込んでいって、慎重さは大事だけれど、臆病とは別のもの」)
白はそう判断して、先へと進んでいく。
目指す先の気配は感じるものの、やはり、不確かな場所。
ある程度、歩いたところで、白は足を止めた。
「時間のロスは避けたいですね。だから、人海戦術でいきましょうか」
白は、|居ないモノ達《キミヲミテルヨ》を発動させ、事前に招集しておいた12体の監視と奇襲攻撃を得手とする朧な人影の召還を行った。白は彼らを通路の暗がりに溶け込むように散開させて、敵らしき人影がないかを見てもらったのだ。
「途中で女神のもとへ向かう敵を見かけない、なんてことはないでしょう?」
自身も物陰に隠れながら、先へ先へと向かい、そして。
「見つけました……」
召還した1体と合流を果たし、白は慎重にその先へと踏み込んでいったのだった。
「申し訳ありません。精進が足りず、監視カメラを壊してしまいました。信者達が異変に気づくかもしれません」
だがもう、この通路にアガシは来てしまった。後は野となれ山となれである。ちなみに近くに仲間の影は見えない。恐らく先へ行ったのか、それとも別のルートで潜入しているのだろう。
気を取り直して、アガシも周囲を見渡していく。
「まずは……怪異の気配を辿りましょうか」
神経を研ぎ澄ませて、アガシは僅かに感じる気配を、しっかりと読み取っていく。
「こっちですね」
迷いなく、アガシはそのまま、ぐんぐんと先へと進んでいく。右に左、あるいは真っすぐ。次は曲がって……。
ある程度、美術館から離れたところで、アガシは再度、辺りを見渡す。
人気はないし、仲間も姿もない。そして、一般人の気配もない。
あるのは、嫌な|あの気配《・・・・》だけ。
「では……良い加減を覚えたいものです」
|霊震《サイコクエイク》で、目の前の壁だけを抜いて見せたのだ。
「これで距離はまた稼げましたね」
それを数回こなした後、ようやく、出口であろう扉を見つけた。
「お邪魔致します。不調法な参拝となりましたこと、どうかお許しください」
とはいっても、相手はそう思ってはくれないだろう。
それでも、アガシはそう言わずにはいられず、そして目の前の、その扉を開いたのだった。
辺りの状況を確認しながら、暁子はため息交じりに呟く。
「気配が消えたり強まったり。厄介ですわ」
少し思案した後、暁子はふむと頷いて。
「ここは不思議な空間ですわね。ならば、わたくしも不思議なチカラで突破させていただきましょう」
きらりと暗い瞳を輝かせて、出たのは……。
「ふーしぎ、まーかふしーぎ、どぅーわー」
|不思議摩訶不思議魔空間《フシギ・マカフシギ・マクウカン》だ。
その能力を使って、自身が主人公の世界を作り出し、その不安定な空間を上書きしてみせたのだ。
――トーントーントーン……スタッ! トーントーントーン……スタッ!
純白のセーラー服を翻し、風のように鳥のように花のように、自在に空間を解析して駆け抜けていく。
と、最後に自身が生み出した花吹雪の幻影をかき分けて、空間を潜り抜けて。
「ふーしぎ、まーかふしーぎ、どぅーわー」
何とも言えない、脳を侵食するような洗脳ソングを口ずさむ暁子の前に現れたのは。
「どうやら、ここですね」
怪しげな雰囲気がビンビン感じられる、その入り口であった。
第3章 ボス戦 『仔産みの女神『クヴァリフ』』

「妾の『仔』となるべき汝らに、祝福を与えよう」
扉の先に現れたのは、あの仔産みの女神『クヴァリフ』であった。
狂信者達は全て、女神に操られ、クヴァリフの仔と結合してしまっている。
明らかに危険な相手だ。
しかし、女神の持つクヴァリフの仔を生きたまま取り出して、持っていけば、後々、この世界の優位さに結び付くかもしれない。
女神を倒しながらの回収である。
気を緩めることなく、対処していこう。
●マスターより
ここでの一番の目的は、クヴァリフの仔を生きたまま取り出し、回収することです。
回収はそれほど多くなくても構いませんが、必ず一つは持ち替える必要があります。
その上で、女神を倒さなくてはいけないという用件も満たさなくてはなりません。
かなり手ごわい相手ですので、行動は二つの行動をするよりは分担していく方が良いかもしれません。
現時点、三人連撃なしでは戦力不足となります。こちらも考慮の上、ご参加ください。
皆さんの熱いプレイング、お待ちしています。
※お知らせ
難易度が下がりました。普通に参加しても大丈夫ですので、良ければどうぞ。
「異なる√に坐す神。どんな|神《モノ》でも、その名がつく存在を私は、好きにはさせません」
ぶんと、大きく腕を振りながら、白は言い放つ。
(「神を打ち滅ぼすのも、もちろんだけれど……鼻を明かすことこそ、むしろプライドに障るでしょう。もちろん、荒れ狂う神というモノがそうそう、木っ端を近寄らせないなんてことは承知しているけれど……」)
それでも相手は神だ。圧倒的な圧を感じながらも、白はそれでもそこに立っていた。
「ほう……威勢のいい小娘め。これでも喰らって後悔するがいい」
笑みを深めながら、クヴァリフはその|触手《手》でもって、連続攻撃を仕掛けてきた。
「なに……?」
「それでも……止めないっ!!」
クヴァリフの威圧も、重ねてくる攻撃も、自身の耐性に託すことで、白は畏れず踏み込んでいく。その間に見つけて拾い上げたおんぼろの剣。
「そんな鈍らで、妾を倒そうと……いや、それは……!!」
クヴァリフが目を見張る。
なぜなら、その剣は……いや、その剣がいつの間にか強靭な矛へと姿を変えていた。
「───もう、おしまいね。ごめんなさい」
|毀滅の権能《キメツノオオカミ》。妖気と燐光で赫色に輝く神宝・|黄泉八千矛《よもつやちほこ》へと変えたそれでもって、白はクヴァリフの左腕を貫いて見せたのだった。
「ギャアアアアアアアアアッ!!!」
そして、そのまま切先を変え、目指すは女神の生み出す、その仔へと向けられる。
「生半可な武器で、神は斬れないもの。でも、私には関係ないわ」
「さ、させるかっ!!!」
その矛を避けるように、触手で白を払うと、そのまま、物凄いスピードでもって後退してみせたのだった。
すっと、見事な拝礼を見せるのは、アガシだ。
「なんだ、妾に用があるのか?」
クヴァリフの前に丁寧な所作で現れたので、少し警戒を解いているように感じられる。
「かの女神の徒となれば。仔を孕むのも、成仏の一つの形と存じます。ですが、操られての挺身は、信奉とも異なるものかと」
「……何が言いたい?」
すっとアガシは顔を上げ、その手はずっと、胸に置かれている。
「……カミガリとして。信者達の救助も踏まえ、より多くの仔の摘出を優先します」
「貴様も、先ほどの小娘と同じ輩かっ!!」
クヴァリフの仔『無生』を発動させながら、クヴァリフは、そのままアガシへと攻撃を仕掛けて来るものの。
「オオオオオオオオオオ……!!!」
「何っ!?」
盾代わりに呼び出したのは、自身に取り憑いている怪異、|極彩唱『不明』《アマルガム》だ。
「ご安心を。威光への敬意と鬼哭寺の技をもって、御前拝す幸甚に、鬼哭式を捧げますゆえ」
女神をアマルガムに任せ、アガシは、クヴァリフの仔と結合した狂信者達の方へと向かう。後方では、その2体が激しい攻防を繰り広げていた。もう女神はアガシを見ていない。
「さて、始めましょうか」
アガシはさっそく、クヴァリフの仔の手早い摘出に専念していく。
「|鬼哭を奉ず《オンジア・ジア・ナルマン・サヴァ》」
アガシが発動させたのは、|鬼哭式《ドゥラー》だ。解剖祭具『焦隠』『瞭印』『閻院』が命中した部位を切断する力でもある。
「怪異ではなく人間を。それも生かしたまま、というのは……難しい事と承知です。ですが……」
それでもやらずにはいられない。アガシは、怪異解剖士であり、|警視庁異能捜査官《カミガリ》なのだから。
アガシは出来るだけ、最小の切除で次々と、人々を救うため、処理していくのであった。
時は少し遡る。そう、この場に姿を見せたのは、嵐と共に颯爽と現れた暁子……いや違うようだ。
ずんと、地面が僅かに揺れる。
地震ではない、その巨体が地面にめり込んだ音だ。
十字の仮面を被った大きな体の怪人。それが、暁子のもう一つの顔でもあった。
「初手にて奥義、仕る……!」
すぐさま、暁子は初手にて、|疾風怒濤《シュトゥルム・ウント・ドラング》を発動させ、強化を施す。
その間に、どうやら、仲間達が攻撃を開始したようだ。
白がクヴァリフを矛で切り裂き、アガシは|凶悪な怪異《アマルガム》をけしかけている間に、人々をクヴァリフの仔を丁寧に切り離している。
(「仲間が来てくれたか」)
仮面の下で、暁子はホッとしたように顔を綻ばせる。しかし、本番はここからだ。
「むっ……貴様も妾を潰しに来たのかえ?」
先ほどまで戦っていたアマルガムを、何処かへとようやく吹っ飛ばして、その次に現れた鉄十字怪人を怒りのままに睨みつける。
「ぐあっ!?」
怪人細胞と強化筋肉をフル稼働させ、圧倒的な怪力でもって、クヴァリフに掴みかかった。
クヴァリフを捉えるわけではない。
ブチブチブチッと、嫌な音が響き渡る。
「や、止めよ、止めろおおおお!!!」
なんと、そのまま、その怪力でもって、ブチブチと、容赦なくクヴァリフの仔を女神から、引きはがしていくではないか。
「おのれ、おのれ……我が仔を奪うというのかっ!!」
血だらけになりながらも、クヴァリフは吠える。
「飛び道具が使えなければ、最後にモノを言うのは腕力だな」
「五月蠅い、黙れ、小童っ!!」
暁子は叫ぶクヴァリフをそのままに、ブチブチと容赦なくひたすらに引き剥がしていく。だが、負けじとクヴァリフも仔を体に宿しながら、その触手で攻撃しようとした……そのときだった。
――ズダダダダダ、ダン!!!
「ガハッ!!」
一度、死んだが……もともと発動していた力でもって、蘇生することができた。
「い、一体何が……」
クヴァリフが見上げたその上に、それはあった。
――|静寂なる殺神機《サイレント・キラー》。
上空に鎮座した自律浮遊砲台ゴルディオン1~3号機が、クヴァリフを一斉射撃してきたのだ。しかも、しっかり計算しつくしているのか、一発たりとも暁子への誤射はなく、あくまで砲台が貫くのは、クヴァリフのみ。
「お、おのれ……許さぬ、許さぬぞっ!!!」
怒り心頭のクヴァリフは、更に攻撃を仕掛けようとした……のだったが。
「ふーしぎ、まーかふしーぎ、どぅーわー」
仮面の下から、ある意味、洗脳されそうなほどの歌が響き渡る。そう、暁子の|不思議摩訶不思議魔空間《フシギ・マカフシギ・マクウカン》だ。この歌が聞こえた場所は、不思議摩訶不思議魔空間へと変わり、暁子が物語の主人公になる。すなわち、その攻撃は、全て必中になる。
その手を止めた暁子の周りには、いつの間にか、無数のヘビー・ブラスター・キャノンを呼び出していた。
「ま、まさか……」
暁子の呼び出した無数のヘビー・ブラスター・キャノンの先端に力がチャージされていく。チリチリと火花を散らしながら、その標準はクヴァリフをしっかりと捉え、そして。
「ヘビー・ブラスター・キャノン、フルバーストっ!!!」
「ぎゃあああああああああああああああああっ!!!!!」
哀れ、クヴァリフは、何度もそのフルバーストを討ち貫かれて、とうとう、その体を消滅させたのであった。
こうして、√能力者達の活躍により、無事、クヴァリフの仔は回収され、植え付けられた人々も救うことが出来た。
「ふむ。中々手ごわい相手だった」
役目を終えたキャノンをしまい込むと、暁子もまた、クヴァリフの仔の回収を手伝う。
全てを終えた頃には、黄昏色の空がいつの間にか暗い夜空へと、いや、目を凝らせば、星が瞬く夜空へと変わっていた。
地下から出た√能力者達は、綺麗な夜空の下、こうして、任務を終え、帰還していったのだった。