『戦闘要塞研究所』対『ミュケナイ七将軍』
チャ~ララ~ラ、チャラ、ラ、ラ♪
「しょうわ仮面のおねえさま、顏を隠して正義を助ける、いい女ひとよ♪」
|昭月・和子《あきづき・かずこ》(しょうわ仮面・h00863)は、√ウォーゾーンに集った能力者たちの前へ、歌いながら登場した。
赤い覆面と、マントですっぽり隠した姿。
「私は√マスクド・ヒーローから来た正義の味方。歌や姿は、|√《ルート》の慣習とご理解ください」
いまさら、マントの中身を詮索する者はいなかった。
戦闘機械群に反抗し、機械化や蘇生、受肉に人格移植された者までいる地球だ。
「ゾディアック・サインにより、戦闘機械都市のなかで孤立している人間の存在が明らかとなりました。彼は科学者で、そのような境遇でも戦闘機械群と戦う研究を続けているようです」
詳しい地図などを、マントのすき間から渡す、しょうわ仮面。
「みなさまには、人類抹殺のために稼働している戦闘機械都市を駆け抜け、その科学者のいる建物に向かっていただきます。一度、通過することができれば、その道筋をたどって安全に行き来ができるようになるのです」
単純に、孤立した人間を救出して戻る任務ではないらしい。
「通過がうまく行かないと、戦闘機械都市の能力で、量産型機械『バトラクス』が出現し、戦闘となります。研究者とのアクセスは諦めてください。もし、通過がうまくいけば、現地で科学者から何らかの頼みごとをされると予知に出ています」
詳しい研究内容までは不明だが、人類の反抗に関わりがある。
「科学者の頼みは1日で達成できますが、翌日にはなんらかの敵が建物を襲ってきます。この敵を撃破できれば依頼は成功です。どうか、みなさんの力をお貸しください」
第1章 冒険 『戦闘機械都市を駆け抜けろ!』

「ふむ、戦闘機械都市を駆け抜けろと……」
|九門・絢介《くもん・けんすけ》(しがないタクシー運転手・h02400)は、勤務中の出で立ちで現地|√《ルート》に入り込んだ。
「アームドベース・タクシーに搭載する武装が丁度届いたとこだし、そのテストを兼ねて走ってみるか」
見た目はごく普通のタクシー車両である。
依頼時に確認したロードマップは、√EDENとあまり変わりがなかった。絢介は『迎車』の表示を出すと、いつも通りの感じでアクセルを踏んだ。
しばらくして判ったのは、ビル街には違いないものの、生活感がないこと。まるで、積み上がった単なる直方体だ。港のコンテナ置き場を走っているような気分になる。
交差点から交差点までの距離には覚えがあった。こんなでも『地球』だ。
幹線道路からハンドルをきると、中央分離帯のない4車線にはいる。とたんに、道路わきの直方体がスライドドアのように開いた。
「来やがったな」
絢介の手は、車内のコンソールへ。
ビルから射出されてきたのは、迎撃用ドローンだ。戦闘機械群のなかでは簡易的なもので、自動車のタイヤホイールより小さい。
いっぽう、アームドベース・タクシーのタイヤハウスの上部がポップアップし、現れたのは車載マイクロミサイルポッド。
四機も積んでるから、敵ドローンを打ち落とすのに十分足りた。
続くビルから、敵もミサイルを撃ってくる。当然、むこうの飛翔体のほうがデカい。
ハンドルテクニックでかわす。
「|魔境《都心》で事故らずに走れてるのは、伊達じゃねえよ!」
するうち、直方体の合間から、火器管制レーダーが見えた。
タクシーのマイクロミサイルを撃ち込んだが、爆発が起こっても無傷だ。プロテクトバリアに防がれたらしい。もっと接近して、火力の高い武器をつかわなければ。
「ちょっと、裏道を通るか」
路地を一本ずらして、直接レーダー設備を狙う。その建物には、プリズムランチャーが備わっていた。
分岐した光線は、さすがに腕前でなんとかなるものではない。
「こっちだって、バリア装置は積んでるんでね」
インヴィンシブル・フィールド・バリアを作動させる。
すべての光線を防ぐことはかなわず、ボディのあちこちに溶けてひしゃげた傷がついても、走行に支障はない。助手席がわのドアがはずれかかっているように見えるが、そこから車載用メガビームキャノンがせり出してきた。
大型ビームの一撃でレーダーは破壊され、このエリア内の敵戦闘機械は沈黙する。
絢介は道順を戻し、武装も収納した。『忘れようとする力』で車体を修復したので、元どおりのタクシーの姿だ。
お客の待機場所まではあと数エリア。
「さて、ここまでは上手く駆け抜けられたな」
「器用貧乏だからなー。警戒網を掻い潜っていくっきゃねー」
|嘯祇・笙呼《しょうぎ・しょうこ》(人間(√マスクド・ヒーロー)のマスクド・ヒーロー・h01511)は、ビル街に足を踏み入れた。
このエリアも、生活感がない。
人間の真似事をして、一階は店舗らしいガラス張りだが、出来の悪い生成AI画像のように、ところどころ不自然だ。
侵入側の笙呼も都市部での隠密行動を真似るしかなく、戦闘機械都市相手に通ずるか判らないなりに、忍び足や空中移動を活用して移動する。
おのずと、路地裏のような暗がりや、ビルの屋上を進むようになった。
暗視と視力で情報収集し、戦闘知識と環境耐性から最短経路やセンサーやトラップの配置を割り出してこまめに無力化を行ないつつ。
星詠みの話では、こうやって警戒を突破していけば、情報が蓄積されて、次からは安全に通れる道が詠めるらしい。
「待ってろ、今いくぜ」
こんな場所で孤立しているなんて、その科学者も大変な目にあったものである。
「そうだ。自分には救助活動技能がある。この任務も、救助のためだもんな」
ところが、まだ通過エリアがあるうちから、相手のことを心配するのは早かったらしい。
うっかり、センサーの前を横切ってしまった。
貯水槽に偽装されたプリズムランチャーがせり出し、曲がるレーザーが照射されてくる。
「あっぶ、なかった~」
警報までは鳴っていない。
すぐに屋上から飛び降り、下層階の手すりにつかまったから身体は無事だ。あとは、1ブロック走るだけで現エリアを抜けられる。覚悟を決めて、表通りへと飛び出した。
大きなガラス窓に映る、笙呼の裸身。
レーザーに、服の帯などを切られ、脱げてしまったのだ。
「スッポンポンになっても救助のため!」
最後のエリアは、直線だ。クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は、決戦型ウォーゾーン『蒼月』の内部で、貰った地図を確かめた。
「人類の反攻に関わるのなら、放ってはおけないね」
覚悟を決めた表情で操縦桿を握る。
「その科学者に会えるように頑張ろう。『|限界突破《ゲンカイトッパ》』だ!」
ウォーゾーン全体が、蒼白に輝く。
決戦モードでは、移動速度を4倍にできるのだ。片側一車線の道路をダッシュで抜けていく。両脇のビルがスライドしても、人類抹殺機能が働く前に通過してしまえば無傷である。
実のところ、クラウスの『蒼月』は改造モデルで、機動力に特化しているせいで装甲が薄い。
激しい攻撃を受けてしまうと、足が止まるかもしれない。回避や遮蔽をとるなどの凌ぎ方もあるが、決戦モードが使えるのは短時間。寄り道のヒマはないのだ。
体高2.5mのパワードスーツは、ただひたすらに駆ける。
クラウスに知らされるディスプレイ表示が、ふたつ開く。
ひとつは、地形サーチの結果だ。この先でビルの数が減っていき、やがて開けた場所に出る。
「事前の情報どおり、目的地だね。どういう頼み事をされるのかはわからないけど、まずは科学者に会えることを願うよ」
もうひとつは、前方に敵ドローンが配置されていること。
ミッションの最初に襲ってきた型で、小さくて武器も貧弱だが、数が揃っている。
「ここは押し通る!」
『蒼月』から『WZ用プリズムランチャー』を放つ。屈折する光線が、敵ドローンに無差別攻撃を与える。続いて、『WZ用グレネード』を投擲し、爆破。
|空《から》になったマニュピレーターに、グリップを持たせた。
黒煙に残った、わずかなドローンへと接近し、柄のトリガーを引く。光が延びて剣になった。
光刃剣での居合が、妨害者をすべて斬り伏せる。
決戦モードの限界が来た。通常の色に戻った『蒼月』を操り、クラウスはビル群を抜けた。目の前には一本のつり橋がある。
堀のような縦穴に掛けられており、渡ったさきには八角柱の塔がある。
戦闘都市で見てきた直方体ばかりの建物とはおもむきが異なっていた。その塔から、スピーカーを通した低い声が響きわたる。
「戦いはこちらでもモニターしていた。ようこそ、『戦闘要塞研究所』へ」
第2章 日常 『一日だけの撮影会』

八角柱の塔、『戦闘要塞研究所』の最上階に案内された√能力者たちは、呼びかけてきた声の人物と会う。
「あらためまして。私はヴィクトリ・H・シバタ、ここの所長です」
差し出された手は、鋼鉄でできていた。
顔には大きな縫い傷。
「見ての通り、私はサイボーグとデッドマンの中間のような存在です。所長と言っても、働いているのはドローンばかりでして。ウォーゾーンと戦っている方々と会えて本当にうれしい」
会談の結果、シバタ所長に研究所を離れる意思はないとわかった。
願いがあるならばと能力者が話をむけると、こうきりだされる。
孤立した状態でいたので、まだ途中の研究を広く知らせて、人々に戦闘機械群と戦う勇気をもってほしい、と。
そこで、一日だけの撮影会を開催する運びとなる。
研究所までの道の安全は確保されたので、一般人を招待する。
展示物はモックアップになるが、新エネルギーの威力実験、新合金の構造紹介、WZ用飛行翼の合体シミュレーション、はては20m以上もある巨大WZと、見どころは沢山だ。
(「こういう人の努力があるからこそ、俺達は戦い続けていられるんだな」)
クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)はシバタ所長に感謝しながら、撮影会の運営を手伝うことを約束した。|九門・絢介《くもん・けんすけ》(しがないタクシー運転手・h02400)は頬を紅潮させている。
「あ、オレ、ダメなんだよね。ロボットアニメで育って来たから、新エネルギーとか、新合金とか、そう言うワード聞いちゃうともう、『男の子』としての血が騒いじゃう」
「ハハハ。専門家や記者が中心になるはずだが、子供たちの招待も許可しよう」
顔の縫い傷が歪むくらい、所長は嬉しそうな笑顔になった。
撮影会の準備は滞りなく進む。
その過程でクラウスが呟いたことが、展示を増やす切っ掛けにもなった。
「もし既にWZで装備できそうな試用品があるなら、人々に見せるデモンストレーションも兼ねて装備させて貰いたいな。……WZ用の飛行翼とか、実用化されたら俺も使いたい」
「台座式実験室36番を使ってみるか」
所長は鋼鉄の指で顎を撫で、思案している。
「装備というより、訓練室のデモンストレーションになる。戦闘中に装備換装を行う提案のひとつだ。用意しよう」
そして、撮影会当日。
クラウスは招待された人の案内に回った。研究所までは念の為の護衛も兼ねて、ウォーゾーンに乗って人々を連れてくる。
絢介はもう、記者や子供たちといっしょになって撮影しまくっていた。
密閉された室内で、火花を散らす新エネルギー。
分子構造を拡大して作られた、新合金の紹介模型。
「すげえ、すげえ。ま、√EDEN産のスマホでSNSにアップして、√ウォーゾーンの人々に伝わるかどうかは定かじゃないがな」
これは、能力者だけの会話だ。
事情を知るクラウスは、ほんの少しだけ口角をあげて苦笑を表す。
(「俺自身、前線で戦う者として新しい兵器や素材の開発には期待しているからね。絢介さんのようにはしゃぐことはできないが、気持ちはよくわかる」)
専門家たちは実用化にむけての質問をシバタ所長に投げかけ、活発なディスカッションが行われた。
「しかもトドメが、20m以上の巨大WZだろ。これはもう、ロマンしかないよね」
子供たちと見上げる絢介。
数フロアをぶち抜いた格納庫に、魔神のような姿が立っていた。
WZは左半身の装甲が取り外され、内部構造を示すラベルも掲げられている。
所長がマイクをとった。
「事前の通達のとおり、ジャンボ・マシンWZはモックアップ、実物大の模型です。今まで見ていただいた全ての発明がつぎ込まれたと仮定してのものです。私はこれからも戦闘要塞研究所に残り、完成まで頑張っていきます」
参加者から拍手が送られる。
「予定よりも展示がひとつ増えました。みなさんはこちらへ。クラウス君、頼む」
|台座式実験室《ダイザ―№36》は、マシンウォーZに負けず劣らず巨大な設備だった。
円筒形のサイロの中央に柱が通してある。
柱からは水平に支え棒が延びており、その先にWZや各種装備を取り付る仕組みになっている。
支え棒は、中央柱を中心にして旋回、上下動が可能だ。
「空中に射出された装備を、WZで受け取る状況をシミュレーションし、またその訓練を行う実験室だ。闘技場で試すより安全で、繰り返し試行できる。そのぶん手ごわいと思うから、失敗してもいいつもりで気楽にな」
「はい」
所長の説明と、取り付けられたWZ内からのクラウスの返事を聞いて、絢介はまた頬を紅潮させた。
「WZ用飛行翼は、空中で本体とドッキングする仕様なのか! ……行け、いまだクラウス!!」
柱の周囲をまわりながら、二本の支柱の高さが近づいていく。
「スクランブルクロースッ!」
掛け声は、絢介が勝手にアテレコした。
それに違わず、シミュレーションは成功し、翼を生やしたWZが旋回する様子を、見学者たちに披露することができた。
撮影会が終わり、絢介は|人気《ひとけ》のなくなった格納庫でアームドベース・タクシーの点検をする。
「星詠みが明日には敵が襲ってくるって言ってたけど、その狙いってどう見てもこれじゃね?」
第3章 ボス戦 『ベンジャミン・バーニングバード』

予知通り、血染めの重機が攻めてくる。
『戦闘要塞研究所』の、つり橋とは逆方向からだ。ビルを倒して道を広げながら、接近してきた。戦闘機械群とは違い、運転台には鳥型の怪人が座っている。
「見たこともない敵だ。鳥獣に操られた重機……。『|獣機械《じゅうきかい》』だ!」
シバタ所長が、仮の識別名を付ける。
√能力者たちは獣機械を倒し、研究所を守ることができるだろうか。
ブルドーザーやクレーン車は十数とやってきた。
ガラスに覆われた運転台にそれぞれ、頭身が低めの鳥獣たちが押し込められている。それら、シバタ所長が呼ぶところの獣機械たちの戦列は、研究所最上部にある八面の観測窓と、望遠モニターで確認できた。
クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は首を傾げる。
「物凄く不釣り合いだな……」
重機とゆるキャラという組み合わせ。
しかし、予知にあった『なんらかの敵』だとは思う。
「見た目はともかく重機の破壊力は高そうだ。気を付けて戦おう、絢介さん」
「ああ。そのかわり敵は、加速が遅く小回りが利かないはず。オレはそこを突くぜ」
グッと白手袋の拳を突き上げる、|九門・絢介《くもん・けんすけ》(しがないタクシー運転手・h02400)。
ふたりは出動用のエレベーターに入り、格納庫までいっきに下降する。
決戦型ウォーゾーン『蒼月』の内部へと、クラウスの身体は滑り込んだ。
棒立ちのマシンウォーZの足元で、アームドベース・タクシーのドアを開ける、絢介。
「おまえのことは、オレたちが守ってやるよ。いつかいっしょに戦う日まで待ってな」
巨大な模型に声をかけると、運転席に座った。
『戦闘要塞研究所』の周囲は堀になっており、つり橋は収納済みだ。獣機械が簡単には入ってこられないようになっている。そして、WZとタクシーは、秘密の通路を通って偽装された発進口から戦場に出られる仕掛けだ。
「まずは騎怪兵団を片付ける」
クラウス機から、プリズムランチャーが無差別に発射された。
錆の浮かんだようなショベルカーは、意外に頑丈だ。グレネードでの爆破に切り替えると、重機はひしゃげて横倒しになる。
武器を発射しながら、ウォーゾーンは常に移動し、集団に囲まれないように立ち回った。
バックミラーでその様子を見た絢介は、敵の運動性能の低さが見立て通りだったと頷く。
「一掃だッ!」
車体に隠された、ポッド4基からのマイクロミサイルによる範囲攻撃。
ゆるキャラ共の、数が出揃ったところを狙って吹っ飛ばす。
最初に現れた鳥の乗機が、おそらく指揮役だろう。
絢介はその背後をとろうと、ハンドルを鋭く切る。
いっぽう、秘密の通路を着替えながら走るシルエットがあった。
「くっそ、寝過ごした!」
|嘯祇・笙呼《しょうぎ・しょうこ》(人間(√マスクド・ヒーロー)のマスクド・ヒーロー・h01511)だ。
チャイナと和装とタイツを合わせたような衣装は、着付けが複雑である。
「見た感じ、どの能力も危険だな。こいつでいけるか?」
半分以上は倒された兵団を見て、まだまだ油断はならないと|呪力増幅杖《ブースターロッド》を構えた。
服の間違った穴に腕を通してしまったことは気付いていない。
「息を吐く暇も与えねーよ。|風神剣《フウジンケン》!」
ロッドは、|霊的接続《チャンネル》により、言語中枢から言霊を汲み取り、放出できる。
「志求風神道!」
鉄壁がロードローラーに耐える。
「汝至無量劫……」
範囲に小型リフト3台を巻き込んだ。
「離欲深正念っ」
二回攻撃で、クレーンを倒す。
「浄志修真行ー!!」
鎧無視攻撃がパワーショベルに大穴をあける。遅刻はしたが、笙呼の戦闘知識が作戦の理解と補完を助けた。
「ふむふむ。ふたりはボス狙いに行ったか」
着付けの間違いは訂正されず、タイツは限界をむかえてビリビリと裂ける。
瓦礫のすき間を通すような運転で、絢介はブルドーザーの背後をとった。
「食らいやがれよ!」
アームドベース・タクシーから伸びたメガビームキャノンが、鳥のゆるキャラが座るシートを撃ち抜く。
ガラスが吹き飛び、鳥は焦げながらつんのめった。
むき出しになった敵ボスめがけて正面から、蒼白に輝くウォーゾーンが突っ込んでくる。
「|限界突破《ゲンカイトッパ》!」
クラウスは、機体に握らせた光刃剣での居合で、鳥の片羽根をぶった斬った。
わずかに躱されたのか、とどめとはいかない。
「物凄く不釣り合いだ」
WZ越しのつぶやきが聞こえたのか、鳥は振り返って抗議する。
「ボクはマスコットキャラクターだよ? ピッタリのはずさ」
「なんのキャラのつもりだ」
不機嫌そうに問うたクラウスに、怪人は答えてくれる。
「民間軍事会社『BBB』。ボクは『ベンジャミン・バーニングバード』だよぉ」
「戦闘機械群じゃねえのか?」
絢介の質問にも丁寧に説明する、ベンジャミン。
「我が社は多くの√に出張し、お客様にかわって要望をかなえるのさ。今回は√EDENからの要請で、√ウォーゾーンのための新組織『ミュケナイ七将軍』を作りにきたんだ。そこに建ってる発明品のかたまりを拝借してね」
組織の名前が並んだが、目的はやはり戦闘要塞研究所だ。
「悪の組織は秘密でありながら、存在を誇示するのも役目でね。そんじゃ!」
『BBB』のエージェントは、運転台から跳躍する。
手榴弾をバラ撒いて、WZとタクシーを爆破した。兵団のブルドーザーへと移る途中で、笙呼はそれを妨げる。
「もし、万一、仮に……スッポンポンになる方が有利なら俺はそれを実行する!」
服の破れ目をみずから広げた。
「う、うわぁ!」
ベンジャミンは驚き、失速してしまう。
「話を聞いて、もしやと……。おまえ、√EDENの依頼者って、服を操る集団だろ?」
笙呼はすばやく、過去のデータを思い返した。
「ふふふ、そのとおり。『BBB』の雇い主は、『スパルタン教育委員会』なんだよ」
また、別の組織名だ。
どういう理屈か、裸のほうが対抗しやすい相手らしい。
「ま、オレのインヴィンシブル・フィールド・バリアと『忘れようとする力』には、カンケーねぇぜ!」
無事なタクシーから、絢介が叫んだ。
「博士の研究を破壊させる訳にはいかない。全力で退けて、研究を続けさせてあげたいと思うよ」
ウォーゾーンからは、クラウスの声がする。
「絶対、必ず守るぜ研究所!!」
笙呼はいいカッコウで、決着に臨んだ。
急に空模様が怪しくなる。
「やったろうじゃないの!」
雷鳴、稲光とともに、威勢のいい声が響く。
「だ、誰だい?!」
新しいブルドーザーにたどり着いた『ベンジャミン・バーニングバード』は、切れてないほうの翼で目を覆い、羽根のすき間から外を伺う。
「ボクより目立つ登場をするなよ!」
「まぁ焦んなや、楽しいのはこれからだ」
ソードオフショットガンを掲げた少年の影、稲妻に照らされたその顔には、縫い傷がいくつもはしる。
「|擬似人格《サルトゥーラ》が、今のオレの名さ」
継萩・サルトゥーラ(|百屍夜行《パッチワークパレード・マーチ》・h01201)は、デッドマンの学徒動員兵。
ツギハギの数は、シバタ所長よりも多いかもしれない。
「おい、そこの鳥。『ミュケナイ七将軍』だって? オレは『ジェネラルレギオン』! 機械たちの将軍だ。他所から来た悪の組織とは、ちょっとばかり出来がちがうぜ!」
「だったらボクはもっと偉いもんね! 大将軍ベンジャミンの挑戦を受けてみよ!」
獣機械たちが動きだした。
挑発にのってしまったのか、研究所はそっちのけでサルトゥーラひとりを取り囲み、ショベルやドーザーブレードを押したて潰しにかかる。
「まさに、|危険地帯《デンジャーゾーン》ってワケか。……いっちょハデにいこうや!」
ピンチを楽しむかのように笑い、サルトゥーラはショットガンを乱射した。
ベンジャミンの配下は、オリジナルよりも能力が落ちる。
初見でその弱点を見抜いたジェネラルは、レギオンの力も借りずに生身のまま、獣機械たちを一掃してしまう。
ゆるキャラの屍のうえに、這い出してくるボス。その額に、銃口が突きつけられる。
「バケモノ相手にはコレが一番」
「うう~。……長浜先生、ごめんなさい」
ターンと、とどめの一発。
サルトゥーラは銃を収め、すこし落ち着いた顔つきになる。
「ま、ああは言ったが、『ミュケナイ七将軍』。油断のならない相手かもしれないぜ」
無事に襲撃を乗り切った『戦闘要塞研究所』を振り返り、仰ぎ見るのだった。