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帰りたい者

#√EDEN #√マスクド・ヒーロー

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 #√EDEN
 #√マスクド・ヒーロー

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●目的と手段
 その男は帰還を望んでいた。
 故郷の星はもう失われ、今はこの地球に√を跨ぎ生きている。それでも帰りたかった。
 理性では分かっている、最早暗闇の向こう側だと。
 それでも暗闇へ――その向こうへ行ってみたかった。
 いや、それとも――この√Edenなら可能なのかもしれない。
 ならば必要なのはインヴィジブル。
 正しくないと分かっていたが、今の彼にはそれしかなかったのだ。

 彼の名はマルーゴ、外星体ズウォームの一人。

●手段と目的
「ウォーゾーンの機械兵団が民間人を誘拐しようとしている。すでに多数の民間人が誘拐されて敵の輸送船に乗せられている……急いで輸送船に潜入して民間人を救出してほしい」
 佐藤・京(たった一人の戦隊ブラック・h02013)が星を詠んだ。
「だが気を付けてくれ、この機械兵団はあくまで偽物、もしくは何らかの方法で手に入れたもの。黒幕は別にいる」
 少しだけ深く呼吸をしたのち、佐藤は言葉を続ける。
「うまく脱出させたなら、この輸送船を破壊するために中枢へ迫ってほしい。途中誰かが妨害にかかるが、こちらに関しても何とも言えない。で、中枢にある機関室には黒幕がいる。外星体……つまり√マスクド・ヒーローに存在する宇宙人の一人だ」
 星詠みは用件だけ告げると立ちあがる。

「事件の動機に関しては『彼』に聞いた方が速いだろう、どちらにしても納得できる話じゃないと思うけれど」
 そう告げる佐藤の目は何かを天秤にかけているような気がしていた。

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第1章 冒険 『さらわれた民間人を助けろ』


●連行

 人々が……何者かに連れていかれる。
 その目はもう希望を失い、虚ろに船を見つめるのみ。
 一方で連行者は――何も見てはいない。
 ただ、機械的に命令をこなすのみ。
 人を集め船に運ぶ。
 その後は何も知らない。

 やるべきことは邪魔する者への排除と最低限の人々への危害。そして連行。

 人々が運ばれていく、夜の船の中に。
 汽笛だけが闇の空に響いていた。


 それが今、君達が見える状況だ。
 派手に戦い希望をもたらすか、それとも誰にも知られずに救い出し危険を少なくするか――選択肢は委ねられた。
カデンツァ・ペルッツィ
京終・白夜

●聴取そして潜入。

 人を救う。
 時に派手に、時に影に隠れ、√を跨ぐ能力者は動くもの。

 最初に現れたのはバサラに婆娑羅な不良花魁。
 名を|京終・白夜《きょうばて・びゃくや》(白日挑燈・h03162)と誰かが呼ぶか名乗るのか。
 女の姿にウォーゾーンの機械兵士が警戒する。
「市井の民を勾引かすたァ重罪も重罪さね」
 大小を腰に差した女が見せるのは金箔捺しの手帳一つ。
「お巡りダ、何してンのか聞かせてもらウさね」
 白夜は警官でもあった。

 家を護る為には官憲に身を窶した方が良かれと警官になったのが全ての始まり。
 今となっては√を跨ぐ能力者。
 閻魔の白洲に引っ立てるために隠密も考えたが生憎と自分が分かっている。
 派手に動く方が周りは|やりやすい《・・・・・》だろう。
 ならば話は早かった。
 堂々と明らかに風体の違う女が職務質問をすれば。
「世界照合――この√の警察は刃物を常備しない」
 機械兵士が異常を察知し、威圧と制圧を兼ねた武器を構えた時にはもう白夜の姿は見えなかった。
 聞こえるのはコンクリートの港に着地する足音。
 遅れて何かが落ちる音と小さな花火のように鳴る火花。

 |もう既に仕事は成していた《オートキラー》

 どこから抜いたのかわからないハチェットを捨てれば白夜が次に抜くのはサアベル拵の軍刀――銘を聖天乙星という。
 三尺三寸、極楽の箸と同じ長さの刃を持つそれを我欲のままに振るえば情念に囚われ地獄行き。
 だが誰かのために振るえば情念は何かを返す。
 故に三尺三寸、太夫の情念を宿した刃は次々と鋼をねじ伏せていく。
「楽シい愉シい時間の始まりさね」

 このまま振るえば地獄道。
 ――サテ、手助けにナッたかね?

 だが、それはまだまだ遠くの話。
 猫が一匹、船の中に潜り込んだのだから。

「カタギの皆さんにご迷惑かけちゃダメだろ」
 カデンツァ・ペルッツィ(星を見る猫・h01812)は独白を隠せざるを得ない。
 何も知らない訳でもないだろう。
 文句の一つもつけてやりたいが……。
「今は救出が最優先だな」
 まずは救出だ。
 幸いにも誰かが騒ぎを起こしてくれる、猫一匹の行動ならやりやすいものだ。
 人が通れない隙間を通り抜け、配管を四つ足で飛びぬけてたどり着くのは連行された人々が収容されていると思われる扉。
 さて、この星詠みの猫の手にあるのは精密ドライバーひとつ。
 後は鍵を開けてちょちょい……と思ったら。

「そりゃねえぜ」
 目の前の鍵は電子錠だった。

 とは言え、ここで諦めたら猫が廃る。
 カデンツァが器用にジャンプし電子錠に飛びつくとドライバーで分解し始める。
 どんなにスマート化されても最終的には機械であり工業製品だ。

 |技術工賃初回無料《メンテナンス・スタイル》な腕前なら問題は無い。

 分解すれば見えてくるのは鍵の開け方。
 あとはその通りに触ってみるだけで……。

 ――カチッ

 音は鳴るものだ。
 後は鍵から飛び降りて……ここからが本番。
「にゃあ」
 カデンツァが普段から想像もつかない可愛らしい声で鳴く。
 ここが√EDENである以上、二本足で立って歩く猫は逆に警戒される。
 だからこそ四つ足で歩く普通の猫の演技は囚われた人々の警戒心を和らげ、星詠みの猫が誘う方向へと歩いていく。
 後はこのまま脱出させていくだけ。
 幸い、白夜が派手にやってくれた。

 不思議な猫の手によって、人々は家へと帰ることが叶った。

潮根・源八

●脱出

 少しずつ、少しずつ……人々は動き始める。
 その中、船をよじ登る姿が一人。
 |潮根・源八《しおね・げんぱち》(らあめん潮根屋大将・h02162)だ。

 化け蟹という獣の妖である彼にとって、海は陸と大して変わらない。
 見張りが港での騒動に気を取られている間に蟹脚で船壁をよじ登り、看板へと降り立った。
「脱出ボートは……」
 人々を連れ立って逃げ出すにも限度がある、まずはボートの場所を確認し、ついでにすぐに動かせる状態にしておく。
 ここまですれば後は簡単だ。
 思い切り息を吸い。
「助けに来たぞ! 皆、家へ帰れるぞ!」
 叫ぶ。

 ――時が動いた。

 不良警官の立ち回りに気を取られていた機械兵士も、猫に誘われ逃げ道を探していた人々も、声を聴き動き始める。
「邪魔だ」
 機械兵団を睨みつけると獣妖は泡をひと吹き。

 |泡衣《アワゴロモ》

 化け蟹である源八の体内から作られた巨大な泡は本来は人を癒し守る力を持つ。
 だが、引き換えに行動を封じる作用もあった。
 今回は此方を利用して機械兵士達を動けなくすると――左手の巨大な蟹鋏を振るい、海へと叩き落した。

 さらに源八は船内へと潜り込む。
 蟹鋏を扉にねじ込んで物理的に鍵を開けると人々を外へ。
「ありがとう、おじちゃん!」
 どうやら子供もいたようだ。
 真っ直ぐな眼差しが少しだけ眩しくて視線を逸らすとまた見えて来る機械兵団の姿。
 ここで立ち回るのは面倒。
 だから、先に進む人々ごと全てを泡衣で包み込んでしまう。
「動けなくなっているだけだ。上に脱出ボートがある、急げ!」
 泡に包まれて動けない人々を運び、逃げるように促すと源八は背中を向け、一人機械兵団へと対峙する。
「顔は怖いけど……おじちゃん、良い人なんだね」
「……いいから、さっさと行け」
 普段は娘に頭が上がらないラーメン屋の親父はこの時ばかりは√能力者としてぶっきらぼうに答え。
 そして、機械兵団の中へと飛び込んでいった。

 傷つくものは誰一人おらず。
 帰ることを望んでいた人々は無事にその願いを叶えるのだった……。

第2章 集団戦 『ミニマスケ』


●望むモノ

 船の中は次第に構造が変わっていく。
 現代の船のような配管の目立つコンクリート仕立てから、壁はディスプレイとなり床はガイドシーカーを示すガラス構造的な何かに。
 防音がなされ、音がすると言えば空気の流れる音と足音のみ。
 そこにもう一つ何かが追加された。

「かん内に侵入者あり!」
 小さな警備員らしきものが叫ぶ。
「えマージェンシー! 警戒から攻撃へ」
 あっという間に集まるその生命体の名は。
「らイフル、ハンマー、ナイフ、武器を持ちだせ!」
 ミニマスケ。
「せや、武装合体ドゥームズデイデバイスの承認も取り付けた
 ろ!」

 なにか発音がおかしいが、口々に叫びながら集団は有りとあらゆる通路を塞いだ。
 最早強行突破――それしかない。
山田・ヴァイス・ゴルト・シャネル三世

●援軍

「手数が必要ならば|私《わたしたち》が力になろう」
 状況が情況だからこそ、援軍は現れる。
 それが危険な物であろうとも。

 ――人間災厄「フィボナッチの兎」

 フィボナッチ数列によって現れる兎、今は非力な女を装う災いの名は山田・ヴァイス・ゴルト・シャネル三世。
 名前など|彼女《かのじょたち》にとって記号に過ぎない。
 今、ここに居るという事実のみが災厄たらん証。

「じゃミングOK!」
「やるぜやるぜやるぜ」
「まずあいつ
 を倒すんだ」
 ミニマスケが次々に口を開き、運んできたのは武装合体装合体ドゥームズデイデバイス。
 数がいればいるほど威力を増すそれを向ければ、後は発射するのみ。
 そう――

 武装合体ミニ終末兵器!

 だが、終末は災厄によって駆逐されん。
 振動の波が……艦内に響き渡る。
 周囲のグラスディスプレイを兼ねた壁からは火花が散り、次々とミニマスケ達が壊れていく。

 |霊震《サイコクエイク》

 最大震度7相当の霊能震動波。
 例え機械とてそのレベルの震幅に耐えられるわけがない、ネジが有れば緩み、緩まなければ歪み、液性の構造物は振動で泡立ち、気泡の破裂が更なる衝撃を呼ぶ。
 そこに残るのはただの残骸。
「食事の時間だ」
 かつてのミニマスケだったものを見下ろしてシャネルが呟く。
 好き嫌いは無い。
 人間災厄「フィボナッチの兎」にとって無機物有機物の区別なく、腹に収まるものは全て贄なのだから。

 山田・ヴァイス・ゴルト・シャネル三世の背後で光る眼が複数。
 それを見た物は既に――いなくなっていた。

潮根・源八

●本番

 艦内の様相が変わっていく。
 その中で元々厳つい潮根・源八の表情がさらに厳しさを増す。
「いよいよ、本番か」
 わらわらとミニマスケが出て来るが油断は無い。
 妖であり獣である源八は知っているのだ、小さな蟹でも、集団になれば巨大魚を食い尽くすことを。

「これ以上はすすませない」
「こう退するなら今の内」
「かかって来るな
 ら」
「先制攻撃だ」
「はっ射―!!」

 ドゥームズデイデバイスを構えるミニマスケ達。
 すかさず獣妖は溶解液を吹きデバイスを溶解させると、その身を敵陣に飛びこませた!
「何を言いたい!?」
 奥歯にものが挟まったように眉を顰め、蟹鋏で簒奪者達を薙ぎ払う源八。
 深く聞きたいがそこまでの余裕はなさそうだ。
「蟹!」
 周りから取り込む様に蟹脚を伸ばし捕えると。
「三!!」
 源八はミニマスケ達を壁に向かって投げつける。
「昧!!!」

 |蟹三昧《カニザンマイ》

 溶解液から繋がる獣妖の連続攻撃。
 その最後を締めくくるのは――
「たーんと喰えたか?」
 左腕の大蟹鋏による一刀両断!!

 たちまちその場にいたミニマスケ達は沈黙してしまう。
「……おい?」
 かろうじて動いていたモノに何かを問いかけようとした源八。
 だが最後のミニマスケも頭を垂れ、機能を停止した。
「こいつら……何か言いたそうだったな」

 潮根・源八の疑問はこの後、解決されるかもしれない……。

京終・白夜

●渡し賃

「お、なンかちんまいのが来たさね」
 独特の言い方は決して花魁言葉ではないだろう。
 ミニマスケを見据える京終・白夜達。
 その外見を可愛くないとは思うけれど、平和的な解決は望めないだろう。
 例え、その場で宴会の準備をしていようが……。

 ミニマスケ大作戦

 数日前から準備された宴会。
 それにかかわると何の因果か物事が失敗するから侮れない。
 案の定、白夜の手持ちは消えていた。
 有象無象の三途の渡し賃――現金含めて一切合切。
 どうやら閻魔様のお白洲は後払い非対応。
 幸いにも素寒貧は免れたがしばらく金運は望めない。

 とはいえ。

 ここで何もしないわけではない。
 むしろ何かするから金が飛ぶ。

 |百鬼夜行《デモクラシィ》

 いや白夜的に言うなら――花魁夜行。
 綺麗どころが刃を握り宴会中のミニマスケ達の中に混ざれば、酌と称して、芸と称して白刃を突き刺していく。
「ちンまい身でも、綺麗どころを最後に見れるにゃ世の常として果報だろぃ?」
 次々とミニマスケが倒れていく中、道中を進む花魁夜行と先に進む不良警官。
 芸者と勘違いした簒奪者が飛び掛かれば、刃がひらりと踊り。
 地獄へと落としていった。

「で、妾の手持ちが足りるかねぇ……?」
 目下の心配は財布の中身。
 どう工面しようか、経費で誤魔化せるか、京終・白夜の頭が痛い日々は続くだろう。

カデンツァ・ペルッツィ

●得られないモノ

 彼らが何かを伝えようとしているのは皆、分かっていた。
 だが誰もがそれを深く問う事はない。
 今はその時ではないから……。

「は、随分と可愛らしい連中じゃねえか」
 カデンツァ・ペルッツィがミニマスケ達の中へ猫獣人用カスタム魔導バイク。
 油断してると痛い目見るのは自分が良く分かっている。
 だからこそ、気張っていかないとならないが……流石に目の前で宴会をやっている簒奪者達を見たカデンツァがバイクから落っこちても仕方がないと思う。
 何せ√能力だし。

「打ち上げの準備してるって? そいつぁ流石に気が早えよ」
 バイクを起こしながら星詠みの猫はツッコまざるを得なかった。
 転ぶのは確かに失敗の一つだろう。
 もしアスファルトの上だったら、もし速度が最大限に乗っていたら、カデンツァ・ペルッツィという存在は消えていたか、その身は荒く摺り下ろされていただろうに。
 だからと言って無傷でもない。
 猫の獣人とは言え、痛いものは痛い。
 それでもカデンツァは再びバイクに乗り壁を走り、距離と速度を稼ぐ。
 何がどうなってそういう結論になるのかは分からないが、それも√能力。
 だったらこちらも――
「めげねえのが猫ってもんよ!」
 天井までバイクで駆け上がる星詠みの猫。
 天地が逆転した境で飛び降りれば、自然とその身は足を大地に向けよう。

 空中立位反射

 逆さに落した猫が体勢を立て直す現象をそう言った。
 跳躍と落下に変形体の力学を加えればその蹴りの威力は3倍となり、更に自重による慣性モーメントを応用することにより、その破壊力は半径22mに及ぶ!

 |猫の宙返り《キャットツイスト》

 カデンツァの蹴りが宴会中のミニマスケ達を中心に周囲を吹き飛ばす!
 その隙に戻って来たバイクに再び跨った星詠みの猫はスロットルを開放する。

「いいだろ、このバイク」
 そう言って、まだ動けるであろうミニマスケを置いていく。
 何故なら今のカデンツァ達には――
「遊んでる暇はねえんでな!」

 時間がないのだ。
 物事の終わりはそろそろ迫っていた。
 おそらくは機会失い一生得ることが無くなった者達を置いていき……。

第3章 ボス戦 『外星体『ズウォーム』』


●帰りたい者

 ピアノの旋律が艦内に流れて来る。
 その場所だけ広い空間となっており、壁面を通して360°全ての外が見渡せるようになっていた。
「お待ちしてました、皆さん」
 この場に合わない郷愁を思わせたジャズテイストのメロディーが止まり、人ならざる者が立ち上がった。
「私の名はマルーゴ……種族的に言うなら外星体『ズウォーム』と言った方が早いでしょう?」
 外星体のまま、マルーゴと名乗った男は艦内を歩く。
「このまま戦うのもいいですが、まあ独り言に付き合ってくださると幸いです。いいえ、同情や泣き落としではありません。ただ知ってほしいだけ、そんな我儘です」
 そしてズウォームは語りだす。

「私の|母星《ほし》は消えて久しく、家族から聞くには三千光年を超える向こう側にあると聞いています。私は母星を知りません。ただ知っている者が言うには『美しかった』そうです」
 溜息が聞こえた。
「だからこそ、私は|母星《ほし》に行きたく……帰りたくなった。私の生きる√ではもう消えてしまったかもしれない。けれど、この√なら――√Edenなら残っているかもしれない。たとえ違う星だったとしても、私は口にしたいのです『美しい』と」
 独白は終わりを告げる。
「まあ、そんな理由です。失ったものを取り戻そうした。そのために手段を選ばなかっただけ。例え目指しているものが紛い物であろうとなかろうと――無いよりはましですから」

 マルーゴは構える。

「さあ、つまらない独り言は終わりです。此処から先は手も口も駆使して貴方達を駆逐し、計画をまた遂行するのみ――お覚悟を!」

 決して叶わないであろう、願いを。
 欠落した故郷を。
 取り戻さんと非道を選び無辜の犠牲を望む者。

 その名はマルーゴ、外星体ズウォームの一人。
霊剣・緋焔
岩上・三年

●時を稼ぐ者達

 人には言葉を紡ぐ時間が必要だ。
 そして、その時間を稼ぐ者も居る。

 白刃が煌めき、続いてガトリングのモーター音が響きわたる。
 岩上・三年(人間(√妖怪百鬼夜行)の重甲着装者・|載霊禍祓士《さいれいまがばらいし》・h02224)が霊剣・緋焔(義憤の焔・h03756)を伴って現れたのだ。
「ここは私が時間を作ります!」
 三年が三銃身型ガトリング式重機関銃GPU-01/Aにて制圧射撃を行う。
 本来は車載を想定した大型の機関銃だが重甲用のジェットパックに懸架することで取り回しを可能としている。
 人間を含めた生き物を丁寧に挽肉にするほどの弾丸がマルーゴを襲う。
「これは……怖いですね」
 ズウォーム外星体の手が動き防御用ドローンがエネルギーフィールドを展開し弾丸を斜めに逸らしていく。
 流石に異星の文明とは言え悪の秘密結社を滅ぼさんとする質量兵器を真正面から受ける気はない。
 しかも――銃弾の間隙をついて緋焔が突進し、マルーゴの反撃を封じて来るのだ。
「くっ……陽動、牽制に徹しるつもりですか!?」
 ズウォームの表情がわずかに歪む。
 時間を稼がれるのは確かに厄介。
 ここで他の√能力者が何かを考えて来る可能性も、更なる援軍が来て一撃を叩き込む可能性だってあった。

 徹底した支援。

 これを実行できる√能力者の『仕事』が完全になされてしまうとこちらはじり貧で他の能力者と相対しなくてはいけない――排除が必要だ。
 マルーゴは自らの蟲が集まるが如き複眼に手を伸ばし、一丁の無重力ガンと化した『それ』を三年へと向ける。
「ご招待しますよ――宇宙へ」

 |無重力空間銃《ズウォーム・レンズアイ》

 咄嗟に飛び込む霊剣・緋焔。
 まるで複眼に映るかのように複数の光球に囚われた緋焔が力を失い、そして彼方へと吹き飛ばされる。
 だが、これを機に岩上・三年が動いた。
「陽動は数――ならば12倍の攻撃は受けられますか!」
 更なる援軍――分隊規模の重甲着装者達が三年の要請に応じて基地内に突入を果たしていたのだ。

 |重甲分隊《コール・スクワッド》

 √能力者を助けるべく現れた重甲の戦士がそれぞれの武器の引鉄を引き――銃火を放つ。
 その戦いの叫びは歌というには野蛮でボサノバとしては三年という女にとっては好みであった。
 砲火に包まれたズウォーム外星体が吹き飛ばされる。

 時間は作られた――此処からは選択の時だ!!

白帽・燕
潮根・源八

●困難を切り開く者達

 選択肢が決まる。

「お前さんが何処の誰かとか何を望んでるのかなんてことは、俺の知ったこっちゃない」
 潮根・源八がその姿を異形と化し、言葉を紡ぐ。
「俺はお前を止めるだけだ――全力でな」
 甲殻類の鎧を身に纏った半獣妖形態。
 その肩に留まる一匹の燕。
「良いのかい、それで?」
 |白帽・燕《しろぼう つばめ》(声義疾行・h00638)の問いかけに源八は只、頷く。
「そのために人を攫ってインヴィジブルにするなら相容れん。それに俺には奴の望みに応えるものも持ってない」
「……そうだね」
 同じく持っていない一匹の燕が一言呟く。
 もう、そうするしかなかったのだから……。

 先に動くのは源八。
 普段の動きとは段違いの速さでサイドステップを刻む。
 骨格も変わっているのだろう、横に動くことに特化した蟹の動きそのままだった。
 だがその動きも大きくはない、メインは甲羅を中心とした防御からの蟹鋏であろう。
 見せつけんばかりに鋏をかざしている獣妖の動きが分かっているからこそ、マルーゴも破壊光線砲を召喚し火力での優勢下を手に入れんとする。
 一方で燕は空を舞い、隙を伺う。
 直接の戦闘は苦手だが、レゾナンスディーヴァたる一匹の燕にとっては言葉は武器となる。
 問題はそれを「いつ」叩き込むか。
 そして、それに対抗されやしないか――だった。

 隙を伺うために燕が飛び込む。
 一瞬、ズウォーム外星体とすれ違いその身が触れた。
 一匹の燕が振り返る。
 その時にはマルーゴの手にはネガ・マインド・ウェポンと呼ばれる光線銃が握られていた。

 |対抗手段が来た《ネガ・マインド・ウェポン》!

 燕が目いっぱいに身を翻す。
 光線が宙を奔った後、重厚な足音が響き渡る、源八だ。
 即座にズウォーム外星体は破壊光線砲を源八へ向けた。

 |光の奔流に呑み込まれろ《ズウォームキャノン一斉発射》

「行くぜ。南無三!」
 直後、獣妖の甲羅が弾ける。
 源八が強制脱皮を行ったのだ。
 甲殻の鎧ならダメージを全て受けきることが出来ない。
 ……ならば盾ならば?
 話は変わる。
 一度砕けようが、軌道を逸らすことも甲殻が消滅する隙に次の一手が繰りだせる。
 走る源八。
 同時に一匹の燕が叫んだ。
「跪け!」

 |制義凍結《セイギトウケツ》

 相手を麻痺させる叫びの√能力。
 ズウォームキャノンの制御で機動力が鈍っていたマルーゴにそれを防ぐ手はなく、その場に立ち尽くす。
「あばよ」
 マルーゴの耳に聞こえるのは獣妖の声。

 |蟹念仏《カニネンブツ》

「インビジブルになりゃ、いつか帰れるかもな……」
 源八の呟きがズウォーム外星体の耳に聞こえる事は無い。
 その身を切り裂かれ、傷から来る熱い何かに身を焼かれているマルーゴにそれを聞かせるのは酷というものだろう……。

京終・白夜

●旅に出た者

 そこはどんなに美しいのだろう。
 そこは何処まで発展していたのだろう。
 私は聞く事と知ることしかできない。
 最早、見ることが叶わない星の名はズウォーム。

 出血の中、マルーゴは自らを終わらせる者を見る。
「あ゛~…名乗られたからには名乗り返さねェとオンナが廃るさね」
 独特の発音は文化の違いだろうか?
 検索する余裕が無かったのが残念だ。
「ってコトで、京終白夜。閻魔様のお白洲に手前を引っ立てるお巡りでありんす。よろしくドーゾ」
 どうやら警察らしい。
 成程、悪党たる自分にはふさわしい相手だ。
 残る命を振り絞りマルーゴは京終・白夜の前に立つ。

「自白はたんと聴いてやったし、罪状は明々白々ってな。後、足りてねェのは辞世くらいってトコかァ」
 白夜が握るは三尺三寸。
 地獄の亡者は我の為に、極楽浄土では誰が為の物。
 不良警官が握るは誰の為か?
「詠むなら聴いてやるのは吝かではねェけど、返歌には期待すンじゃねェぞ」
 目の前の者の為であることは確かであろう。
「生憎と和歌も俳句も嗜んではおらず、申し訳ありませんレディ」
 現れるのは十を超える破壊光線砲。
「故にこれが――」

 |私の歌《ズウォームキャノン一斉発射》

 いくつもの光条、空気の焼ける臭いが、機械が震える音が、奏でるは何も無き破壊の五条、死の七条、願望の五条。
「さてさて、オンナを追い駆けるにゃ慣れてねェンじゃねェか?」
 光の中を見定めんばかりに白夜は踊る。
「それしきの命中率じゃ妾に触れるなンてとてもとても……」
 歌に踊りに仕込まれたのかもしれない。
 故にマルーゴの攻撃は単調で空虚なものにしか見えないのだろう。
「生憎と研究一筋でしてね――だから!」
 たった一つ、破壊光線砲握るズウォーム外星体。
 その右腕が間合いを詰めて来た警官へと突き出される。
「ここまで引き寄せる必要がありまして!」
「偶然……妾もそうさね」
 宝持茶というには薄い色の指から伸びるは霊符一枚。
 直後に削られ消えていく破壊光線砲とマルーゴの右腕。
 そしてズウォームを捕えるは|アチラ《・・・》から来る巨大蛸の腕。
「ソチラがどうなっているか……妾は怖くて確かめられんせん」
 白夜の言葉にマルーゴは廓言葉という単語を思い出す。
 何の事は無い花魁の言葉ではないか。
「ならば、私が先に見て来ましょう……何、郷里へ行くついでですよ」
 口に出たのは遊女に対する見栄か何かだったのだろうか?
 死にゆくズウォーム外星体は自分の言葉がおかしくて笑ってしまう。

 |罪犯彌天《犯した罪を償うために彼は逝った》

 一度だけ抜かれた三尺三寸。
 ズウォーム外星体マルーゴは犯した罪を背負い、長い旅路に出た。

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