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 子供の頃、友達と学校の裏に出来たダンジョンに度胸試しに行った。友達はダンジョンから出てきたモンスターに殺されて食われた。僕はどうしたのか、震えながら茂みで見ていた。怖くて近づけなかったからだった。その時に思った。
「人って簡単に死ぬんだな」
 そのダンジョンはじきに閉鎖されたけど、ダンジョンは気がつくと出来ていたから、その近くに行ってこっそり様子を窺うのが趣味みたいになっていた。だいたい、無謀な子供とか、ヤクザな大人がダンジョンに近づいてモンスターになったりモンスターに殺されていた。スリルが欲しいけど危険はいらない、そんな臆病者だった。大人になって少しが経った。仕事は面倒だったけど大変ではなかった。特におもしろいこともなく日常が続いていたけど、スリルなんていらなかった。
 それは会社帰りのことだった。雑居ビルの3階にあるオフィスから出た僕は、1階まで降りるとビルの玄関へ向かっていた。日はとっくに暮れていたし、早く帰るつもりだった。1階の通路を歩いていると、見たことがある女性がドアから出てきた。1階の喫茶店の店員だった。姿勢良く歩く目に力があるその女性を僕はちょっと苦手にしていた。生き生きとしていたからだ。それとちょっと憧れてもいた。何もなければそのまま玄関まで行っていたはずだった。でも、そうではなかった。地面が一瞬揺れ、ビルの壁が青い石に覆われはじめた。どこからともなくうなるような声が聞こえる。気がつくと大きな爪をしたモンスターが玄関の前に立ち塞がっていた。
「罰が当たったのかもしれないな」
 がっくりとうなだれてそう呟くと、件の女性がその辺に落ちていた棒を持ってモンスターを殴りつけていた。モンスターがひるんだ隙に外へ出ようと走り出すがモンスターは意に介せず女性を殴りつけようとする。体が勝手に動いていた。僕はモンスターにタックルすると叫んだ。
「逃げて! ここは僕が引き受けます。2人死ぬよりも全然いい!」
 女性は一瞬躊躇したけれど、一気に走り出すと玄関から外に出て行った。
「それでいいよ。ここはダンジョンだから。僕はモンスターになるか食べられるかのどちらか。今でずっと見てきたから。それでいい」

「√ドラゴンファンタジーで、雑居ビルが突然ダンジョンになると言う事件が起きました。みなさんにはそのダンジョンに行って主を倒して欲しいのです」
 木原・元宏(歩みを止めぬ者・h01188)は√能力者達にそう話し始めた。
「ダンジョンの入り口は鍵がかかっていて入れないようなのですがその鍵を持っている人がいます。橋谷未智(ハシヤミチ)さんと言う方です。彼女はダンジョンになった雑居ビルにある喫茶店の店員です。今のところダンジョンからの唯一の生還者ということになります。彼女の持っているビルの鍵がダンジョンへの入り口を開けることができるただ一つの道具です。それを使えばダンジョンの中に入ることが出来るでしょう」
 元宏はスクリーンに意志の強そうな目をした女性を映す。
「この人が未智さんです。未智さんはダンジョンから脱出する際に怪我をしており病院に運ばれています。まずは病院に行って未智さんの信頼を得て、鍵をもらってください。その後でその鍵を使って雑居ビルに入り、一番奥にいるボスを倒してください。よろしくお願いします」
 元宏は頭を下げた。

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第1章 冒険 『ダンジョンからの生還者』


夜雨・蜃
ルーネシア・ルナトゥス・ルター

 病院には慌ただしい空気が流れていた。今日に限ったと言うことは無く、救急患者の運び込まれるところなのだ、危急の時と言う者も多いためだった。リノリウムの床を走る音に消毒剤の匂い、受付横の緊張感の走る状況を横目に夜雨・蜃(月時雨・h05909)は目当ての患者の病室を聞き、エレベーターに乗った。4階の奥寄りの部屋だった。脇腹に裂傷があるもののそれ以外に目立った怪我がない未智は、念のため個室に入っていた。状態が安定し次第4人部屋に移動する手はずだった。病室のドアを開けて中に入ると蜃は美智の顔を見ながらこう言った。
「失礼するでござる。貴殿がダンジョンから生還した、『橋谷未智』殿かな。拙者はこの度のダンジョンの始末を請け負った者の一人。
夜雨蜃、失せ物探しから怪異の撃退まで行っている者でござ…」
 道は蜃の方をじいっと見ると言葉を継げずにいる。
「ううむ、初見で信じてもらえないのもよくあること。でもちゃんと実績はあるでござるよ!」
「冒険者じゃないのですね」
 美智がそう言うのと同時にルーネシア・ルナトゥス・ルター(銀狼獣人の職業暗殺者・h04931)がノックをして病室に入ってきた。
「やぁ、こんにちは。私は怪しい者じゃないよ。生活空間がダンジョンになって困っている人達がいると聞いてね。その解決の為にやって来た冒険者……みたいなものさ」
「そう言う人達が冒険者以外にもいると言うことなんですね。確かにあなたたちはちょっとただならない感じがします」
 美智は2人の雰囲気に何か修羅場を潜ったことがあるもの独特の雰囲気を感じたらしかった。
「そうでござる。拙者達は冒険者ではないでござるが√能力者でござる。信じて貰えると良いのでござるが……」
「大丈夫です。お店のお客の中にも冒険者の方がいます。その方達はあなた方と似た雰囲気を持っています。それに、本気で何かをしようとしている人はわかると思ってます、私もそうなので。戦うわけじゃないですけど」
 美智がそう言うとルーネシアが口を開いた。
「さて、単刀直入で申し訳ないのだけど、いち早く元の日常を取り戻す為にも鍵を貸してくれないかな。大丈夫、私は犠牲者にはならないよ。
あと、口に出せる範囲で良いからあの場で何が起きたかも教えてくれるとありがたいな」
「鍵? もしかしてビルの鍵のことですか? それでいいなら持っています。お渡ししますね」
 美智が荷物から鍵を取り出すとルーネシアに渡す。
「因みにビルがダンジョンとなった日、他に残った人は…いたのでござろうな。知人でござる?」
「ええ、私を助けてくれた人がいます。その人がいなければ私はモンスターに殺されていたでしょうね。どのみちダンジョンにいれば私みたいな一般人はモンスターになってしまうでしょうけど。知り合いか、ですか。見たことはある人ですけど知人ではないです。たぶんビルの上にあるオフィス階にいる人だと思います」
 美智はその助けてくれた人を思い出しながら言った。
「特に巻き込まれた人は……そうか、いるんだね。分かった、その人を見つける事も最優先事項にする」
 ルーネシアはそう言いつつもやりきれない気分になる。
(時間が経っているから生存は厳しいかな……もし怪物と化しているのなら、せめてもの手向けだ。私の手で楽にしてあげよう)
「お願いします。私がダンジョンを脱出するときに声が聞こえたんです。その声は『見所のあるヤツだ、ここまで生きて連れてこいって言ってました』 つい2,3時間前のことなので、なんとか生きていてくれるといいのですけど」
「中の者の安否はわからぬが、誰のせいでも無し…しかし、助けられる者は必ず助けようっ。約束でござる」
 蜃がそう言うとルーネシアも肯いた。可能性は0ではないような気がする。急げばまだ間に合うかもしれない、そう思えた。

ラガルティハ・サンセット

 美智の病室に現れたのは、笑顔が似合うドラゴンプロトコルの少年だった。
「こんにちは、未智さん。僕はラガル、そこそこ長く冒険者をやってるよ。主に新人冒険者さんだとか、一般人の救助をしたりしてるかな」
 その少年、ラガルティハ・サンセット(陽光路・h05245)はそう名乗るといつものように笑顔を浮かべた。不安にさせないよう、おだやかに、早期をつけて次の言葉を口にする。
「うん、まずはあなたが生きててよかった。それに、あなたを助けてくれた人のことも話は聞いてる。出来る限りのことはしたいから、僕もその人を連れて帰るように努力するよ」
 美智はつられて笑顔を見せる。そして、少し考え込むような顔を見せてから一枚の紙をラガルティハに渡す。
「ありがとうございます、ラガルさん。ベテランの方に向かってもらえるのは心強いです。あの、一つ頼まれてもらえないですか? 実は私、バンドをやっていて。それで、私を助けてくれた人が生きていてくれたらライブに招待したいと思って。またステージに立てるのはあの人のおかげだから。あ、その、全然たいしたことないバンドなんですけどね」
 ちょっと顔を赤くして美智は言う。格好悪い自己顕示欲の表れなんだろうと、その顔は言っていた。ラガルティハは嬉しそうに笑った。
「確約はできないけど、絶望しないための努力はできるよ。僕も美智さんの願いが叶うようにできる限りがんばるね」
 ラガルティハはそう言ってチケットを受け取った。
「よろしくお願いします。あ、ラガルさん達も良かったらお呼びしますよ。そうですね。まずは努力することからですよね。私も早く怪我を治さないと」
 美智が前向きな表情になるとラガルティハはもう一度笑顔を見せる。
「今はあなたはゆっくりと休んで。眠れないかもしれないけど、瞼を閉じて、横になってね」
 そう言うとラガルティハは病室を出て行った。

第2章 冒険 『ダンジョン内を駆け抜けろ』


 鎌を持った女性が未智を救った男の前に立っていた。女性は男を興味深そうな顔で見ている。
「どうして僕を殺さないのかい?」
「私は清らかなるものが堕ちていく姿を見たいのよ。あなたが見せた清い行いにはゾクゾクしたわ。だから私はあなたがぐしゃぐしゃに泣きながら命乞いをするところが見たいの。あなたの大事なものを一つずつ壊していってね」
 女性は楽しそうに言う。
「あいにく、僕には大事なものなんて無いよ。自分でもがっかりするくらいだ。命を賭けてやりたいものも守りたいものも無いし、日々の生活に喜びもない。ただ時間を殺しているだけだからね。正直生きていることにも飽きてきてたくらいだ。君のお役にも立てないだろうさ」
 男は自嘲気味に言った。
「あの女はあなたの大事な人じゃないの? 命懸けで守ったのに?」
「違うさ。話したこともない。僕が助かるよりは彼女が助かった方がいいと思っただけさ。僕は空っぽだから」
 女性は一転、イライラを隠さずに言う。
「それは困ったわね。じゃあ、あなたを嬲るほかにないわ」
「お手柔らかに頼むよ」
 男は精一杯虚勢を張った。

 ビルの最上階に未智を助けた男が捕まっています。男はダンジョンのボスである女性にいたぶられようとしています。ボスは男を早々に殺すつもりはないようですが早く助けに行かなければ男は酷い怪我を負うか下手をすれば死んでしまうでしょう。ビルの中には元は人間だったモンスターとビルに置いてあるものが変化したトラップが待ち構えています。敵とトラップを掻い潜りながらできるだけ早く最上階を目指してください。
藤丸・標

 目的のビルにたどり着くと、ビルの様子が変わっていた。5階建ての雑居ビルであることに変わりはないのだが、どことなくおどろおどろしい意匠が見え隠れし、何よりも入り口が重厚な門に変わっている。幸い鍵はここにある。鍵を開けて鉄の扉をゆっくりと押し開けると、そこには瘴気に満ちた空間が広がっていた。間取りはねじれ、円を描くように回廊が延びている。藤丸・標(カレーの人・h00546)はゆっくりと中に入るとおもむろにカレーを食べた。ターメリックやクミン、カルダモンの香りがダンジョンに広がる。その匂いにつられて毛深い獣人に似たモンスターが槍を構えて出てくる。
「駆け抜けるのは得意よ。私の邪魔をしようとしても無駄だから」
 そう言うと標は一気に駆け出す。襲いかかってくるモンスターの穂先をするりと躱し、落ちてくる天井をすり抜け階段を駆け上がっていく。1体のモンスターが体を張って通せんぼするが標の蹴りがモンスターの頭にめり込みモンスターは倒れる。風のように駆け抜けた標のあとにはスパイスの匂いが残されていた。

ルーネシア・ルナトゥス・ルター
夜雨・蜃

「此処が橋谷殿のビルでごさるな。では参ろう。ゆっくりしている時間は、どうやら無さそうでござる」
 夜雨・蜃(月時雨・h05909)が古い雑居ビルだったダンジョンを見上げて言う。
「インドア・アタックか……敵の不意打ちには注意しないとね。それに見事にトラップだらけだ、奥に進んでほしくないのかもね。いいね、彼の生存にも希望が持てるというものだ」
 ルーネシア・ルナトゥス・ルター(銀狼獣人の職業暗殺者・h04931)は状況を確認して安堵した。理由があるなら目的もある、それが誰かに来て欲しくないと言うのなら、やることが残っていると言うこと。つまり、目的の彼はまだ生きていると言うこと。
「正面から堂々と…となれば、敵は待ち構えているとみて進むのが良かろう。ダンジョン化したビルの内部は変化するのだろうか…。ダンジョンの主は、やはり上の階にいるのでござろうな」
 中に入ったところで蜃が呟く。どうやらそのようだった。どう見てもまともなビルの光景ではない。通路は曲がり、蛍光灯だったライトは光る花に姿を変えていた。ルーネシアは耳をそばだたせながら先に進んでいく。幸い上階からの風の流れで行く先はわかるようだ。道中に仕掛けられた槍衾、壁から飛び出す刃を見破りながら進んでいく。先行して露払いをしていた蜃がルーネシアを見て言った。
「ふかふかした耳でござるな。拙者よりも耳が効くようでござる」
「どうだい、モフモフだろう?あとで触ってもいいよ」
 ルーネシアは笑顔で返す。階段を上った先で蜃は太った毛深いモンスター達に出会った。
「…うわ何か沢山いたでござる! これは…元人間? 遅かったか。気の毒だが…」
 蜃は悲しげな顔を一瞬見せるがキリッと前を向いた。
「階段の先へ、先へ。間に合ってくれよ。理由はどうあれ…他者を助けた者は、助けられるべき。拙者はそう思うでござる」
 【霧隠】で姿を消すと上階へと急ぐ。同じく闇を纏ったルーネシアがモンスターの間をすり抜ける。
「せっかく準備してくれたおもてなしなのにお相手できなくて悪いね、私は急いでいるんだ。生きているなら、必ず救い出すと約束したんでね」
 2人が駆け抜けたあとを風のように空気が流れた。たどり着いたのは最上階、生き物の、人の気配がする場所は一つだけ。ルーネシアの耳が聞いたのは話をする声。間に合った。先行する蜃が目的の部屋を見つけると扉を開けた。

第3章 ボス戦 『堕落者『ジュリエット』』


 扉を開けるとそこには人間の男性と、鎌を持った天使がいた。天使、『堕落者『ジュリエット』』は男を見るとつまらなそうに蹴り飛ばした。
「命懸けで人助けをするくらいだからひとかどの人物かと思ったけど、ずいぶん薄っぺらいヤツだったとは。堕落させようと思ったのだけど、その価値もないかしら」
 男はその通り、という顔をする。
「どうせ死ぬなら最後くらいって思っただけだよ。僕はずうっと人を見殺しにしてきた。子供の頃、ダンジョンの前で友達が死んだときも、仕事で同僚がへまをしたときも。自分だけは助かるように、そうしてきた。あんたの思惑が外れたんなら、それは良かった。ちゃんとした人が苦しむのを防げたんだから」
 そう言うと力なく笑う。
「そうね。これ以上時間を無駄にしてもしょうがないわね。そこのあなたたち、腹いせに私が直々に一緒に殺してあげるわ」
 そう言うとジュリエットは鎌を構えた。
継萩・サルトゥーラ
ルーネシア・ルナトゥス・ルター
夜雨・蜃

 部屋の中に入ると、そこには冷たい空気が満ちていた。冷気ではない、冷えた心が満ちた空間がそこにはあった。蹴り飛ばされて床に転がっていた男がゆっくり立ち上がる。見たところ小さな傷はあるものの、命に関わる怪我はないようだ。
「はは、蜘蛛の糸なのか拾う神なのか、救われる価値は、僕にあるんだろうか」
「確かに貴殿のしてきたことは褒められたことではないが…。自身を罰して欲しいという気持ち、それは過去の自分の行動を悔いているからであろう?」
 夜雨・蜃(月時雨・h05909)が男にそう言うと、男は自嘲気味に言った。
「ああ、確かに、罪の意識はあったよ。誰も助けられない自分に。いつでも自分の方がかわいい。さっきもそうだ、僕が助かる状況だったら、彼女を置いて逃げたよ、きっと。いつも後悔していた。罰して欲しいなんて思わなかったけど、無意識にそうしてたんだな」
 蜃はやさしく男の方を見ると、ジュリエットとの間に立つ。
「…夜雨蜃、参上。お主がこのダンジョンの主でござるか。そして今の会話から、その人が橋谷殿を助けた御仁と見受けた。成る程、思惑が外れた様でござるな」
 蜃は男を庇うように構える。
(これは僥倖……なんとか間に合ったね。あとはこちらだけに気を逸らしてもらおうか)
 ルーネシア・ルナトゥス・ルター(銀狼獣人の職業暗殺者・h04931)は部屋の中の状況を見てそう思う。助けようとした男は怪我をしているとは言えまだ生きている。モンスターになる様子も見えない。
「おや、随分と美しい天使がいるね。君がこのダンジョンの支配者とお見受けするけど、そちらの反応が薄い人より私達と踊らないかい? 楽しい悲鳴が堪能できるよ。君の悲鳴かもしれないけどね!」
 自身に満ちた顔でジュリエットを見ると、ジュリエットは苦々しい表情を浮かべる。
「ふん、あなたもそれなりに俗物のようね。私が欲しいのは高潔な魂よ。それが地に落ちて腐敗するように汚れていくさま、それが見たいのよ。あなたと、そこの男には興味はないわ、早々に消えてもらえないかしら?」
 そう言うと、ジュリエットは金色に輝く禁断の果実を投げつける。爆発とともに凶暴化を促す煙が吹き出す。
「まどろっこしいことを言ってんじゃ無いぜ? 食べ物を待つひな鳥みたいに口を開けててもな、おいしい餌は来ねえんだよ!?」
 継萩・サルトゥーラ(百屍夜行・h01201)が窓の外から一気に突っ込んで来る。そのまま構えたガトリング砲から強酸性の弾丸をジュリエットに撃ち込む。ジュリエットが鎌を一閃すると、弾丸が真っ二つに割れ、床に染みた酸が床を溶かす嫌な臭いが広がった。
「無粋な輩が、これだからこいつらは。少しは素直になってもらおうか」
 ジュリエットは再び金色の果実を投げる。今度は正直病にかかる煙が立ちこめる。
「やれやれ、……正直病なら恥ずかしいから黙ろうかナ」
 そう言うと、ルーネシアは無言で雷を纏った弾丸をプレゼントする。床と天井を稲妻が這い、仲間に力を与える。
「そのうるさい口が休んでくれるなら十分ね。そっちの子はどうかしら?」
 蜃にも疑心暗鬼になる果実を投げるが、忍者とは疑うものである。そしてその道を貫くものである。
「その人を帰してもらおうか。此方とて、そう易々と狩られる首ではない…覚悟されよ」
 蜃の心にはいささかの乱れもなかった。蜃はそのまま間合いを詰めてジュリエットの足を払うとジュリエットが鎌を突き出す。その鎌に合わせて袖に仕込んだ鎖を放つと鎌にまとわりつく。ジュリエットが面倒そうに鎖を引き剥がそうとするが突っ込んできたサルトゥーラの蹴りがジュリエットを突き飛ばす。毒づきながら立ち上がったジュリエットをサルトゥーラの弾丸が襲うが、足払いでサルトゥーラを転ばせると鎌を支点にしてくるりと回転して蜃を襲う。蜃は棺桶で鎌を止めると、そのまま回転しながら棺桶を叩きつける。ゴツンと音がして棺桶がジュリエットを突き飛ばした先に、待ち構えていたルーネシアとサルトゥーラの弾丸が飛ぶ。ジュリエットは酸と雷でビリビリと震えるが、怒りに燃えた目をして鎌を振り回す。
「この地べたを這い回る下等生物が!」
 鎌がめり込んだ床や壁が瞬く間に灰色に変わっていく。追い込まれていく√能力者達だったがその時、物陰から飛び出した男がジュリエットに体当たりをした。
「小悪党のくせに生意気な!」
 ジュリエットはそう言うと男を鎌で斬りつけた。体勢を崩しながらの一撃だがその一撃は男の脇腹を確かに斬り裂く。倒れ込む男。だができた隙は大きい。霧隠で姿を消していた蜃がここぞとばかりにジュリエットを払う。ジュリエットは左腕が斬り裂かれ、痛みに呻く。
「もう空から落ちてきたあとだろ? そんなこと言っても負け犬の遠吠えだぜ?」
 サルトゥーラの弾丸がジュリエットの脚を射抜く。脚から肉を焼く嫌な臭いが広がった。ジュリエットはこいつだけはと、ルーネシアに鎌を突き立てる。ルーネシアはそれを受けると、手にしたマチェットナイフをジュリエットの首にめり込ませた。
「これでキミを始末できるかな?」
 ルーネシアが右手に力を込めると、ジュリエットの首から血が噴き出し、悔しそうな顔をしたジュリエットはそのままバタリと倒れて動かなくなった。

 男は出血していたが、今すぐに死ぬというわけではなさそうだった。
「無事……ではなさそうだけど、生きていて良かった。すぐに救急車を呼ぶからね」
 ルーネシアは普通のビルに戻った部屋の中から救急車を手配した。簡単な止血をすると男に言う。
「過去にどのような趣味があったとしても、今回の君の行いは讃えられるべきだよ。人を救うというのは、本当に難しいんだ」
「そう言ってもらえると嬉しいですね。でも、ただの気の迷いかもしれない。普段の僕はこんなに勇敢じゃない」
 男はそう言ったが、蜃が背中を押すように言う。
「その気持ちがある今の貴方なら、過去とは違う事ができる筈でござる。今できたことが奇跡みたいなことだとしても、それを成したときの気持ちは残っているはずでござる」
「そうだといいね。僕も君達のようにとは行かなくても、少しはましなものになりたいって今思ったから」
 救急車は病院へと消えていった。輸血が間に合ったこともあって男の命は取り留められた。彼にも明日がある。それはきっと今までよりは明るいように思えた。

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