シナリオ

妖怪大捕物

#√妖怪百鬼夜行

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 #√妖怪百鬼夜行

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「オラァッ!! どけどけッ!」
「きゃああっ!!」
「い、おばけぇっ!!」
「ホネーッホネッホネッ!! ここらの人間どもはどいつもこいつも骨のない連中ガイコツ!」
「ジャッジャッジャッ! おとなしくオレらの言う通りにするヘビ!」
「グマッグマッグマッ! そうしたらなるべく苦しくないように死なせてやるクマ!!」
 ――無法! 暴れ回る犯罪妖怪グループ!
 バレンタインも過ぎた頃。√EDENでのことである。それは白昼堂々、都内某所の大型ショッピングモールでの事件であった。
 突如として現れた√妖怪百鬼夜行から妖怪犯罪グループがショッピングモールを襲撃したのだ!
 殴られる店員! 奪われる金品! 無銭飲食されるフードコート! まさにそこは混沌たる悪意の坩堝。この状況を捨て置けば、近隣区域は大きな被害を被ることになるだろう。
「ほっほっほ……。雑なカス札どもでおじゃるが、よう働くわ」
 その一方、妖怪犯罪者たちの暴れ回る様子を密かに伺う影があった。
「彼奴らが|√EDEN《この世界》の者どもの目を惹いている間に麿の雅な策を推し進める……ほほほ。完璧な計略におじゃるな。
 ……では、麿は目的を果たすとしよう」
 古妖は犯罪妖怪たちの暴れ振りに満足げな笑みを浮かべると、静かにその姿をくらませた。

「事件だ、皆! すぐに出動してくれ!」
 星読み能力者のひとり、新条・零雄(h04517)が√EDENの能力者たちへと呼びかける。
「√妖怪百鬼夜行の妖怪たちが現れたんだ」
 零雄は手元の端末を操作し、モニターに画像を映し出した。
 ――今回の事件の舞台となっているのは、都内の大型ショッピングモール「オダイバ・シティ東京」。そこに現れた妖怪たちが、施設内の店舗や買い物客を襲っているのだ。
「すぐに現場に行って、まずは暴れてる妖怪たちを止めてほしい。数は多いが、戦力としてはそれほどではないからそこまで苦戦することはないはずだ」
 星詠みからの依頼は、暴れている妖怪たちの鎮圧と撃退。それと、襲われている人々の救助である。
「……だけど、この事件は暴れてる奴らをやっつけて終わりっていう単純な話じゃない。奴らが√EDENに来ることを手引きした妖怪……おそらくはそれなりの強さの古妖が裏に潜んでいるはずだ。犯罪妖怪たちの騒動を隠れ蓑に、なにか別の企てをしているんだと思う」
 零雄は続ける。
「もしかしたら、犯罪妖怪集団の中にその古妖の情報を持っている奴がいるかもしれない。できそうなら、|そいつを特定して話を聞き出す《2章の内容が戦闘になる》ようにできたらすこし楽になるんじゃないかな。もちろん気にせず撃退しちゃってもいい。そうしたら、そこからは|古妖の手がかりを探すことになる《2章の内容が捜査になる》な。
 ……それで敵の居場所までたどり着いたら、あとは叩きのめして無力化してくれ。動けなくなるくらいまでぶん殴ったら、最終的には百鬼夜行世界の封印の祠まで連れて行って封印することになる。そうしたらこの事件は解決、ってわけだ」
 零雄は一度言葉を切って、それからホワイトボードへとペンで文字を書き入れる。

『1.ショッピングモール内で暴れ回っている妖怪たちをやっつける』

『2-A.妖怪たちの中で情報を持ってそうな者を見つけ出せたら、情報を吐かせる。
 2-B.古妖怪の痕跡を調査し、作戦の内容や居場所を探る』

『3.今回の事件の元締めである古妖をやっつけて、封印する』

 ――ここまでをホワイトボードに記入して、零雄は振り返った。
「まとめると、こういうことになるな。……そういうわけだ。ほかに質問がなければさっそく出動の準備に取り掛かってくれ」
 説明は以上となる。
「事態は緊急を要する。皆、よろしく頼むぞ!」
 そうして手短に話を終え、零雄は√能力者たちへと出動を依頼するのであった。

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第1章 集団戦 『妖怪犯罪者』


「ゲヘヘ! 美味そうな匂いがするオニ~~ッ!!」
「ペラペラペラ~~ッ!! 俺様にも食わせるノッペラ!!」
「きゃああーーっ!!」
 バァンッ!! ダイバ・シティ6階レストランフロアに押し入る犯罪妖怪集団!
 妖怪たちは手あたり次第どかどかと店に上がり込んでは食事中だった客たちを放り投げ、店員たちに料理の提供を強要する!

「オッ 見るガイコツ! でっけェガンヴァスがあるガイコツ!」
「おーい! こっち来てみるカッパ! プラモの在庫がいっぱいあるカッパ!」
「でかしたガイコツ! 根こそぎ持って帰ってドドメキカリで売り捌くガイコツ!!」
 一方ダイバ・シティ7階ガンヴァスベース――人気アニメ作品・機動戦記ガンヴァスシリーズの関連グッズの展示や販売が行われるスペースにも犯罪妖怪集団は上がり込んでいた。ショーケースは次々に叩き割られ、展示されたプラモデル作品や新発売のガンヴァス関連商品も妖怪軍団の手にかかる!

「フーン、こいつはなかなかのものヘビ。俺様にピッタリヘビ!」
「ウワバミの兄貴! こっちの時計はどうヒトツメ?」
「ホォ~ッ! こいつはゴージャスで俺様好みヘビ!」
 専門店エリアにおいても妖怪軍団は暴れ回っている。サングラスや腕時計といったアクセサリからいい感じのシューズまで、店頭のものを好き放題奪い取っては試着してポッケナイナイを繰り返している!

「グマッグマッグマッ! 美味そうな子供クマ! グヘヘヘヘ、オレクマはやわらかい|児童臓物《ガキモツ》が大好物クマ~!」
「た、助けてぇっ!!」
「まとめて捕まえてあとでみんなでパーティーにするクマ!」
「イエーッ!!」
 そして――逃げ惑う人々を片っ端から捕らえてゆく妖怪どもの姿もあった。

 ――ダイバ・シティは地獄めいた様相を呈し、まさに混沌の坩堝と化している。
 君たちはここに介入し、犯罪妖怪たちの暴虐を止めなくてはならない!
七豹・斗碧
アガーテ・デア・フライシュッツ

「ペラペラペラ~~ッ!! 人間どものつくる飯は美味いノッペラ!!」
「ハァーッ! もうぜんぶ喰っちまったオニ! オイ、女! すぐに次の飯を持ってくるオニ!」
「は、はいい~~っ!!」
「酒も持ってくるテング! 純米大吟醸以外は許さんテング!!」
「か、かしこまりましたーっ!」
 ――――ダイバ・シティ6階。飲食店街に響き渡る無法妖怪たちの怒声と店員たちの嘆く声!
 なんたることか! ダイバ・シティのレストランエリアは傍若無人と悪逆の限りを尽くす妖怪たちの邪悪極まりない宴の場と化していた。
「ん~……?」
 ――しかして、その最中。
「……なんか騒がしいね?」
 アガーテ・デア・フライシュッツ(h05890)は、今になってようやくこの喧騒に気が付いた、という顔で視線を上げた。
 アガーテは食べ終えたポテトの包装紙をくしゃっと潰して近くのゴミ箱へと放り捨てる。そうしてから彼女は腰掛けていたベンチから立ちあがり、周りの様子を見渡した。
「オイッ!! お前ッ!!」
「おお?」
 そのとき、アガーテへと浴びせられる怒声――視線を向ければ、そこに立つのは身の丈十尺もあろうかという大男の妖怪――大入道であった。
「お前、ニンゲンじゃないようだが……俺たちの仲間ではないニュードー!!」
(うわ、めんどくさ……)
 絡まれたアガーテが眉根を顰める。その様子を見下ろして。妖怪大入道は不審をあらわにした。
「怪しい奴ニュードー……! 捕まえて締め上げて背後関係を吐かせてやるニュードー!!」
 大入道は手にした金棒を掲げ上げた。向けられる敵意と殺気。アガーテはそれに反応してジャケットの内側へとしのばせた双銃へと手を伸ばし――
「えい」
 ――しかしてその瞬間。不意に、風が吹き抜けた。
「ニュドッ!?!?!」
 見上げれば、大入道の首筋からは赤く血が噴き出ている。数秒後。大入道はひゅうひゅうと息を吐きながらばたりとその場に倒れ伏した。
「……あなた、大丈夫?」
 そうして――倒れた大入道の背中を踏みながら、そこに顔を出したのは七豹・斗碧(h00481)であった。
「あ、うん。大丈夫。助けてもらっちゃったかな。ありがとー」
 アガーテははたと手を振り斗碧に礼を伝える。
「礼には及ばないよ。当然のことをしただけだからね。あなたもはやく安全なところへ……」
「それはだいじょぶ。あたしも戦えるからね」
 避難を促す斗碧に、アガーテはジャケットの内側から引き抜いた双銃で答えた。
「あっ。なんだ、あなたも」
「そ。ちょうど来てたトコだったんだよね」
 せっかくの買い物だったのにさ、とアガーテは苦笑する。√EDENはもっとも豊かな世界と評されることからもわかるように、他のあらゆる√世界よりも買い物に適しているし、√EDENで休日を過ごす√能力者たちも多い。アガーテは私用で遊びに来ていたところに巻き込まれたかたちになる。
「そしたらここは共同戦線でどうかな?」
「いいよ。その方が楽できそうだし……さっさと終わらせて買い物に戻りたいんだよね。|√EDEN《ここ》って品揃えいいからさ」
「わかるよ。私も|√EDEN《この世界》のお店好き」
「ね。いいよね。……それじゃ、|同盟《チーム》成立、ってコトで」
「おっけー」
 二人は頷き合い、ぱしんとハイタッチめいて手を叩き合った。
 ――そうして結成した即席のコンビで、二人は犯罪妖怪たちへと挑む!

「せーぇのぉっ!!」
 バァンッ!! 蹴破る勢いでドアをブチ破り、アガーテはレストランへと突入した。
「オニッ!?」
「なにごとノッペラ!?!?」
「て、敵の襲撃ヌリカベ!!」
 突然の闖入者に困惑する妖怪たち。アガーテは素早く二挺の銃を掲げてトリガーを引く。ダダダダダッ! |双銃《ザミエル/メギド》が歌い上げる銃声の|二重奏《デュオ》! 駆け巡る弾丸が妖怪たちを撃ち抜いて次々とやっつけてゆく!
「ちぃッ!」
 だが、敵もやられる一方ではない。妖怪のっぺらぼうがテーブルを蹴倒して|遮蔽物《盾》がわりにする!
「お前らも盾をつくるノッペラ!」
「お、おう!」
「わかったヤマワロ!」
 のっぺらぼうに続いて妖怪たちが次々にテーブルを蹴倒し、簡易的なバリケードを形成した。銃弾から身を護る壁を作り出し、妖怪軍団はそこから態勢を立て直して逆襲に出るべく作戦を組み立てようとする――
「うーん、無銭飲食にとどまらず、テーブルまで蹴飛ばす迷惑行為か……」
 しかして。
「これ以上は許しておけないね。|お片付け《・・・・》させてもらうよ」
 吹き荒れた風が、妖怪たちを逃さない。
『……むかし、むかしのおはなしです』
 七豹・斗碧という能力者が用いる権能は、周囲の空間へと干渉・侵蝕し、自らの領域へと上書き・支配するものだ。
『そのむかし。かまいたち、という妖怪がおりました』
 斗碧はその権能を用いる際、『ものがたり』という形式で『ちから』に『かたち』を与える方式を得手とする。無秩序な力に『名』を与え、『ものがたり』という形質を与えることで力の方向性を定め、整え、望む結果を導き出すのだ。
『――赤い花をめでる人々を見て、かまいたちはおもいました。『そうだ、おいらも赤いのをぱっと裂かせてやろう。きっとみんなよろこぶぞ』――』
 風が、強まる。
「……な、なんだァ!?」
「さあさあ、全員首には気をつけて」
 ひゅ、と。鋭く風の音が鳴った。
「風が吹いたら、それはもう君の喉が裂かれてるってことだからね」
「ギャアアアーーッオニーーーッ!!」
 途端、店内が赤く染まってゆく。――此度、力へと与えられたものがたりは『かまいたち』。その名と形質を与えられながら解き放たれた力が風に乗ってその刃を振るい、妖怪たちの首を切り裂いたのだ。
「壁を作って安心したつもりみたいだけど……私の|風《かまいたち》は、それじゃ止まらないよ」
 流れる風は銃弾とは異なり、バリケードがわりに立てられたテーブルを避けて回り込み妖怪たちを襲撃する!
「グエーッ!!」
「な、なんだこの攻撃はノッペラ!?!?」
 たまらず悲鳴を上げながらテーブルの陰から飛び出す妖怪たち!
「こ、こうなりゃいちかばちかノッペラ! オマエら! 一気にあの女どもを叩き潰すノッペラ!!」
「オウッ!」
 しかしてここで妖怪たちは一か八かの作戦に出た! 奴等さえ斃せば脅威は取り除けるとばかりに、妖怪たちは斗碧とアガーテのもとを目指し数に飽かせて押し潰すことにしたのだ。おおお、と鬨の声をあげながら妖怪たちが二人のもとへ殺到する!
「やめてよね、そーいうのー……」
 アガーテはそれに怯むことなく飛び出した。回し蹴りめいた動作で先頭に迫っていたのっぺらぼうの首元へと足を引っかけながら引き倒す。変則的フランケンシュタイナー!
「グェッ!?」
「……めんどくさいからさ」
 じゃこんッ! のっぺらぼうを引き倒すと同時、ジャケットの内側から飛び出したふたつの弾倉。アガーテはそれを引っ掴んで素早くマガジンチェンジしながら迫っていた妖怪たちに向けて容赦なくトリガーを引いた。
 だだだだだ、ッ! ばしゅッ! 吹き荒れる弾頭と鎌鼬の風! 二人の√能力が炸裂する。――戦力差は明白だ。かくして6階レストランエリアにのさばった犯罪妖怪たちは弾丸と風刃によって制圧されてゆく!
「……さて。話のできそうなやつ、いるかな~?」
「そうだね。|古妖《元締め》のこと知ってそうな|ひと《妖怪》か……。やっぱり、上の方の奴じゃないかな。ほら、それこそ『アニキ』とか『リーダー』とかそういう」
「だね」
 そうして――――攻略開始から数分後。二人はレストランエリアの妖怪たちをあらかたやっつけ終えていた。
 二人は顔を見合わせて相談し、情報を得られそうな妖怪を探る。
「今やっつけた中にそれっぽいのいた?」
「うーん……どうだろ。ここの集団にいるのどれもは違ったかも」
「……じゃ、当たりを引くまでやるしかないかー」
 しかし、どうやらいま倒した連中の中には|それっぽい《えらそうな》者は見当たらない。ハズレか、とぼやきながらアガーテが残念そうに肩を竦めた。
「じゃ、別のフロア見に行ってみよっか。このあたりはだいたい片付いたからね」
「ん」
 だが、手がかりは未だ他の場所にもあるはずだ。提案する斗碧に頷き、アガーテは歩き出す。
 ――そうして、別のフロアへと移動を開始する二人。妖怪軍団相手の大捕物は、かくして幕を開けたのであった。

シャオ・ホァピィ
ジナ・ムゥ・マナミア

「ジャーッジャッジャッジャッ!! 取り放題ヘビ~~~!!」
「ギョロッギョロッギョロッ! ざこ人間どもをいたぶり放題でしかも略奪し放題とは最高ヒトツメ!!」
 暴虐! 暴れ回る妖怪軍団!
 ダイバ・シティ内に居を構えるブランド系セレクトショップになだれ込んだ邪悪な犯罪妖怪集団は、止めに入った警備員や店員たちを暴力で排して商品の強奪を行っていた。
「うわぁ」
 その現場へと駆け付けたシャオ・ホァピィ(h06287)は、目の当たりにしたその状況に思わず呻いた。
「大丈夫ですの?」
 シャオを気遣って、ジナ・ムゥ・マナミア(h00906)が心配するように声をかける。
 二人はたまたま同じタイミングで現場に駆け付けた者同士であったが、どちらも人妖の類であり、歳の近さや|変化の術を得手とする者《どろんバケラー》同士ということもあってすぐに意気投合、即席のコンビを組んでいたのである。
「あ、うん。だいじょぶ。気分悪くなったワケじゃないから」
 シャオは緩く首を振った。
「でしたらどうしまして?」
「うん。あのすーっげぇ分かりやすい感じの笑い声とクセの強い喋り方……」
 問いかけるジナに、シャオは頷いて答える。
「あいつら、そこそこ有名な迷惑妖怪の犯罪グループだよ! ボクでも知ってるくらいの!」
「まあ!!」
 ――犯罪妖怪グループ、|威血殺圧死゛《いちごあじ》。
 √百鬼夜行世界の妖怪新聞でも何度か記事に取り上げられたことのある妖半グレの集団だ。百鬼夜行世界の妖怪テレビで定期的に放送される『密着! 天狗|警察《ポリス》24時! ~カメラが捉えた妖怪逮捕の瞬間100連発~』などでも度々登場している。テレビで見た奴らの姿と完全に一致するぞ、とシャオはジナに解説した。
「なるほど……つまり、とっても悪い方々ですのね!!」
 そんな邪悪極まりない連中の蛮行を捨て置くわけにはいかない! ジナの双眸に火が灯る!
「うん。百鬼夜行のツラ汚しにも程があるっつーか……」
 しかしてその一方、シャオの表情が些か暗くなる。
「……あら。どうされましたの?」
「ああ、うん……。あの星詠みの兄ちゃんが言ってたけど……今回さ、あいつらのバックに古妖がついてるっつってたよなぁ……」
「そうですわね……。ええ、ますます放っておけない案件ですわ!!」
「まあ、やっぱりそうだよな。だいぶめんどくさいコトになりそうだけど……」
 シャオはこの先に待ち受けているであろう面倒な状況を想像して嫌な顔をした。――しかしてそれも束の間。シャオは両手で自分の頬をぱし、と張って気合を入れなおし、そのまなざしをまっすぐに前へと向ける。
「……だからこそ、やるっきゃないってことだ!」
 そう。これを放置すれば√EDENにどんどん被害が拡大し、多くの人間たちが悪党どもの犠牲となってしまうだろう。そんなことを許すわけにはいかない!
「ええ! もちろん、私もともに参りますわ。二人であの悪いやつらをやっつけましょう!」
 もちろん、ジナもシャオと同じ想いだ。二人は顔を見合わせて力強く頷き合い――そうして、いままさに犯罪行為の行われている現場へと向かって駆け出していった。

「オラッ!! ざこ人間!! さっさとレジを開けてカネを出すヒトツメ!!」
「でないと今すぐここではらわたを食い尽くしてやるオニ!」
「ひ、ひいっ……!」
 不運にも逃げ遅れた店員を妖怪たちが取り囲み、商品どころかレジの売上金までも強奪しようと脅しをかける。
「ジャッジャッジャッ……オイ、お前ら! そんなむやみに脅すんじゃねえヘビ。……そういうのは、もっとスマートにやるヘビ。こうやってなァ!」
「ぎゃあああああああッ!! 痛い痛い痛いッ!! やめ、ッ! やめてください……ッ!!」
 その中でもえらそうな態度をしていた|蛇《うわばみ》の妖怪は、にやにやと厭らしい笑みを浮かべながら馴れ馴れしく店員の男性の腕を取った。そのままぎりぎりと力を込めて、腕をへし折ろうとする。
「ジャッジャッジャッ! レジを開けたくなったヘビ~?」
「ぎ、っ……! い……!」
「――お待ちなさい!!」
 だが、そのときであった。
「なんだオニ!?」
「だれヒトツメ!」
 鋭く走った声に、犯罪妖怪たちはすぐさま反応しながらいきり立つ。
「悪しき欲望を満たすため、傍若無人の限りを尽くす邪悪なものたちよ! お聞きなさい!」
 そこに姿を見せたのは、むろんジナである。
「人間様に危害を加える蛮行、これ以上はこの私が許しませんわよ!」
 こんな悪事はもうお止しなさい。ジナは犯罪妖怪たちの前に進み出ると、簡潔な降伏勧告を力強く宣言しながら妖怪軍団を睨みつけた。
「ハァ~~?」
「オニーッオニッオニッオニッ! 笑わせるなオニ!」
「ギョロッギョロッギョロッ! チビのメスガキ一匹が俺たちをどう許さないヒトツメ~!?」
 しかして――ジナに対し、犯罪妖怪たちはただ嘲笑ばかりを浴びせかけた。
「警告はしましたわよ!」
 だが、ジナはそれに対して一歩も退くことなく立ち向かい――その手に握ったパクトを掲げる!
「オルタードロンパクト!」
 オルタードロンパクト! それはジナの力を解放するための鍵となる不思議なコンパクト!!
「テイク・ザ・シェイプ!」
 キーワードに応じてドロンパクトが煙を放つ! 広がる煙がジナの姿を包み込み、しかしてそれも束の間――
「悪しき運命さだめもドロンと変える!」
 煙を払い、ジナはふたたびその姿を現した。
「魔法少女……」
 否、煙の中から現れた者はもはやジナではない!
「めたもる☆ジーナ!」
 そこに立つ姿こそ、ジナがどろんと|変身《変化》した戦場の立ち姿。その名も魔法少女めたもる☆ジーナ! ジーナは剣めいて掲げた|卒塔婆《ラディカルソートヴァー》を構え、犯罪妖怪たちへと対峙する。
「な、なんだとヘビ……!!」
「フン! 変化したところで無駄ヒトツメ! どうせ狸が俺たちを化かすために見た目を変えただけに決まってるヒトツメ!!」
「そ、そのとおりオニ!! 姿を変えたところでしょせんこけおどしに決まってるオニ!」
 しかして、犯罪妖怪たちは強がるようにジーナの変身を笑い飛ばした。
 ――だが、そのときである!
「うるさいッ!! グダグダ言ってんじゃないよっ!!」
 がしゃンッ!! 激しい音とともに商品棚が蹴倒される!
「こ、今度はなにヘビ!?!?」
「|正義の味方《・・・・・》が来たってコトは、傍若無人の時間ももーおしまいってこと!」
 新たな敵の登場に困惑した犯罪妖怪集団の前に、ゆらりと長い影が立ちあがる――それは持ち前の変化の力でその肉体を変質されたシャオの妖怪変身姿。長い腕と脚をもつ妖怪・手長/足長の力をその身に宿した形態である。
「な、なに……!」
「ってワケで……悪いオトナはオシオキの時間だコラァ!!」
 喝破! 犯罪妖怪軍団を見下ろして、シャオが力強く叫ぶ。
「う、ウワバミのアニキ! どうするヒトツメ!?」
「うろたえんじゃねェヘビ!! たかだか見た目を変えただけのメスガキ二匹、俺様たちの敵じゃねェヘビ!!」
「そ、そのとおりオニ!」
「数だってこっちの方が多いヘビ! 二人まとめてとっちめてやればいいだけヘビ!」
「お、オウ!」
 対し、犯罪妖怪集団は反発しながら戦闘態勢に入った。
「それにあの手長のガキ……よく見りゃ楽しめそうなイイ身体をしてるヘビ。ぶっちめた奴は好きにしていいヘビ!」
「オオーッ!!」
 ――更に、犯罪妖怪集団は年頃に似合わぬシャオの豊満な肢体を見るにつけ、下卑た顔で気色の悪い笑顔を浮かべてみせた。
「更生の余地なし、ってかんじだね」
「ええ。こんな奴ら、もう一人残らずやっつけるしかありません!」
 シャオはジーナと顔を見合わせて頷き合うと、互いの背中を護るように立った。
「フン! ガキどものくせに生意気ヘビ!」
「俺様たちに逆らうとどうなるか教えてやるヒトツメ!」
「オニーッオニッオニッオニッ! あの豊満な小娘の身体は俺様がもらうオニ!!」
 二人を取り囲み、襲い掛かる犯罪妖怪集団――二人の戦いがここに幕を開ける!

「ゲヘヘヘ! 仲間より先に大人の階段を上らせてやるオニ!」
「遠慮するよ!」
 犯罪妖怪の突撃をいなして、シャオは姿勢を低くとる――そこから手長妖怪の身体の特質を最大限に活かして、その長い腕を力強く薙いだ。
「せーえのっ!!」
「グオッ!?」
「ギャアッ転ばされたヒトツメ!!」
 強烈かつ広範囲にわたって仕掛けられた足払いが犯罪妖怪たちの足元を払ったのだ。たまらずこかされる妖怪たち!
「まじかるジーナ! いまだよ!」
「お任せですわっ!」
 転がした犯罪妖怪の上に飛び乗ったジーナが、掲げたソートヴァーを力強く突き立ててとどめを刺す。見事な連携を前に、貫かれた妖怪が悲鳴を上げて爆散した。
「こ、ッ、このガキィ!!」
「おっと!」
 ふたたび突っ込んできた妖怪犯罪者の突進を、シャオは巧みな体捌きで商品棚の上を飛び越えて躱した。標的を見失った犯罪妖怪が商品棚に激突して鼻血をまき散らしながら呻く!
「ええーいっ!!」
「ギャアアーーーッ!!」
 そして、ジーナはそれも見逃すことなく冷静かつ着実にトドメ! また一帯の妖怪犯罪者を爆死させ、もとの√へと爆殺強制送還する。
「いいね、息ピッタって感じ!」
「ええ。このまま一人残らずやっつけますわよ! 特にあのウワバミ妖怪の男……ほかの妖怪より立場が上っぽいですわ! 逃がしてはいけませんわよ!」
 ジーナは妖怪軍団の中でひときわ身体が大きく、そしてほかの妖怪たちに指示を行うように叫んでいたヘビ妖怪の男を指し示し注目した。
 ――ひょっとすると、この状況を企てた|黒幕《古妖》へとつながる情報を持った妖怪犯罪者なのかもしれない。必ず捕まえますわよとジーナはシャオに意見を伝えた。
「おっけ。異論ナシだよ!」
 シャオは力強く頷き、標的の姿を見定める――
「な、なんだこのガキども……なんでこんなに強いヒトツメ!?」
「あ、アニキ! このままじゃ押し切られちまうオニ!」
「うるせえ! うろたえるんじゃねえヘビ! どうにか、どうにかしねえとまずいヘビ……!」
「これで……」
「一網打尽ですわーっ!!」
 そうして、二人は更なる攻勢をかけた。インビジブルたちの力を吸って、√能力が炸裂する。悲鳴を上げて逃げ惑う犯罪妖怪たちを二人は次々に叩きのめし――数分後には、現場の制圧までを成功させるのであった。

アーシャ・ヴァリアント
柳檀峰・祇雅乃

「ホネッホネッホネッ! 大漁ガイコツ~!」
「カーッパッパッパッ! こいつを|ドドメキカリ《ヨウカインターネット上の盗品市場》で捌けば俺たち大金持ちカッパ〜!!」
 がしゃ、ッ!! 乱暴に袋へ放り込まれてゆく機動戦記ガンヴァスシリーズのプラモデル! 荒い取り扱いにパッケージの箱が悲鳴をあげる。しかして悪質犯罪妖怪たちは気にも留めず手当たり次第に商品を引っ掴んでは盗品用ぶくろにぽいぽいと投げ込んだ。
「あーあー、どいつもこいつも。無銭飲食、窃盗、暴行に誘拐。ホントやりたい放題ね……」
 いままさにそうした悪質な犯罪行為が行われる現場、ダイバ・シティのガンヴァスベースフロアにて。アーシャ・ヴァリアント(h02334)は不快げに眉をひそめた。
「ええ。度し難い犯罪ね」
 その隣に並んだ柳檀峰・祇雅乃(h00217)は――アーシャとは対照的に見える笑みをたたえた表情であったが、しかして祇雅乃はただならぬ威圧感を醸し出していた。
「ガンヴァスプラモの聖地ガンヴァスベースを荒らした罪。貴重なプラモを粗雑に扱った罪。あまつさえ|おもちゃ屋《わたし》の前で転売の話をした罪。子供たちを襲い、怯えさせた罪……」
 祇雅乃は微笑んだまま、妖怪犯罪者たちの罪状を指折り数える。
「……ふふ、絶対許さないわよ♪」
「うわ……めっちゃキレてるわね……」
 浮かべた微笑みでは隠しきれぬ殺気の凄まじさ。アーシャは祇雅乃の様子を横目で見てうわあと呻き軽く引いた。
「ま、でも……」
 しかして。アーシャは拳を掌にぱしんと打ち付けながら気合を入れなおして妖怪犯罪者たちの方へと視線を向ける。
「許しておけない、は同意見よ。さっさと片づけて後ろにいる奴を吐かせちゃいましょ」
「ええ。許す理由が何一つ残ってないわ♪ 一人残らず成敗よ」
 戦闘態勢に入るアーシャに頷く祇雅乃。そうして二人は混沌の坩堝と化したガンヴァスベースへと進み出した。

 すう、と息をおおきく吸い込んでから。
「あー、そこの雑魚妖怪どもー」
 ――まず、アーシャが犯罪妖怪たちへと呼びかけた。
「ホネ?」
「なんだカッパ?」
 突然の呼びかけに妖怪たちが訝しみながら視線を向ける。
「一度しか言わないからよく聞きなさい」
 アーシャは続けて告げた。
「アンタたちを扇動したせっこい古妖を吐きなさい、そしたらできるだけ痛くしないで済ませてあげるから」
「抵抗は無駄よ。いま投降したらなるべくやさしくしてあげるわ」
 並ぶ祇雅乃も同じく降伏を呼びかける。
 ――対し、妖怪たちは。
「ホネーッホネッホネッホネッ! バカなことを言うホネ!」
「こんな暴れられる機会、逃す妖怪がいるわけねーカッパ!」
「お前らこそ死にたくなかったら帰って段ボール工作でもやってるオニ!」
 嘲笑を、返した。
「ああ、そう」
「……じゃ、仕方ないわね」
 妖怪の反応に、二人は顔を見合わせて静かに頷き合った。
 ――そうしてから。
「じゃあ殺すわね」
「ころ……まぁ、痛い目は見てもらうわっ!」
 だ、ッ! 二人が走り出す!
「なにィ? マジでやる気かホネ!」
「けッ! 相手になってやるカッパ!」
 いきり立つ犯罪妖怪軍団! 妖怪軍団は盗品袋を床に放ると、二人を迎え撃つべく動き出した。
「えいやっ!!」
「ぎゃっぱ!?」
 先手を打ったのは祇雅乃であった。長身とフィジカルを活かして敵の集団に真っ先に飛び込んだ祇雅乃は、その手に掲げた魔導書をハンマーめいて振り下ろす。分厚いページと金属の装丁が生み出すその書物の重量はおよそ15kg。そんじょそこらの戦槌よりも重たく硬い本の角が、河童妖怪の頭の皿を無慈悲に叩き割る!
「ふんっ!」
「ウオオーッ!?」
「ギャアアーッ!!」
 さらに祇雅乃は昏倒した河童妖怪の足首をむんずと掴み上げ、そのまま力任せに振り回した。
 吹き荒れるシンプルな暴力! 人間一人分にも匹敵する質量の河童の身体を鈍器がわりに、祇雅乃はガンヴァスベースに集まっていた犯罪妖怪たちをどかどかとしばき倒してゆく!
「おもちゃを大事にしない悪い子はおしおきよっ!!」
「や、やべえ女オニ……!!」
 身長2メートル超の恵まれた体格から繰り出される強力な攻撃に思わず妖怪軍団もおののいた。
「こ、こっちホネ!! こっちの女ならどうにかできそうガイコツ!!」
「オ、オオーッ!!」
 そこで妖怪たちはアーシャの方へと目を付ける――アーシャも女子としては|背丈《タッパ》がある方ではあったが、それでも祇雅乃のサイズ感に比べれば小さく見えてしまう。ならばこちらの方が与しやすしと判じて、妖怪軍団は標的をアーシャの方へと絞ったのだ。
「数で押せばどうにでも――」
「……数で押せば?」
 フ、ッ。アーシャは嘲るように笑った。
「そんな浅い考えで、アタシに勝てると思わないでほしいわねッ!!」
 瞬間、アーシャの全身が光を纏った。――|竜王煌羅《ドラゴニック・オーラ》! 練り上げた竜氣を放って、アーシャは戦闘力を引き上げる!
「なに!?」
「な、なんか光ったオニ!!」
「どらぁッ!!」
 アーシャの纏う輝きに妖怪たちが怯んだ瞬間、アーシャは素早く妖怪軍団のもとへと攻め込んでいた。鋭い蹴り足が炸裂し、回し蹴りが下っ端の鬼を蹴り飛ばす! 鬼はプロモーション展示品の超大型1/12スケールモデルNeuガンヴァスへと突っ込み、そのままガンヴァスごと爆死して百鬼夜行世界に強制送還された。
「こ、このヤローッ!!」
「ブッ殺してやるガイコツ!!」
 仲間の斃される姿に逆上した妖怪たちがいきり立ちながらアーシャに向かって押し寄せる!
「そっちがこんなトコで暴れたのが悪いんでしょ!」
 アーシャは鋭く迎え撃つ! 正面からやってきた河童を爪撃で撃退。横から迫ったガシャドクロに裏拳を叩き込んでばらばらに粉砕し、背後を狙った蛇妖怪には振り向きざまの肘打ちを叩き込んで昏倒させる。
「ええ! |ガンヴァスベース《聖地》を荒らすような悪い子は……絶対に許さないわよ!」
 そして、またも炸裂する祇雅乃の暴力! 武器代わりに振りまわされた河童がようやく爆死して、ガンヴァスベースの妖怪犯罪者たちのおおかたは無力化されることとなる。

「じゃ、吐いてもらうわよ」
「ヒ、ヒイッ……!」
「喋らなかったら殴るし、噓をついても殴るわ。動いても抵抗したとみなして殴るわね」
 そうして――残った数名の妖怪犯罪者たちを正座させ、二人は尋問へと入った。
「お、お許しガイコツ! お許しをガイコツ!!」
「うるさいわね」
「グアーッ頭蓋骨陥没!!!」
 やかましく命乞いするどくろの妖怪の脳天を祇雅乃は魔導書で叩き壊して爆死させ、もとの√へ強制送還する。
「で、アンタらの元締めは?」
 アーシャは気にせず尋問を続けた。
「し、知らないカッパ!」
「じゃあいいわ」
「ギャッ!!」
 情報を出せなかった河童妖怪が祇雅乃に殴られて爆散し、もときた√へ送還される。
 似たようなやり取りが幾度か繰り返され――
「ヒッ……!」
「アンタで最後ね、何吐く気になった?」
 そうして、最後の一人になった。
「い、言う! 言うオニ!!」
 鬼がアーシャから逃げようと後ろに下がりながら、慌ただしく声を張り上げる。
「ヒ、ヒグマ!! ヒグマ妖怪のアニキが、えらい古妖のおっさんから仕事を回されたって言ってたオニ……!」
「ヒグマ? ……熊の妖怪ってこと?」
「あー……いたかも。下のフロアで誘拐しようとしてたヤツだ」
 アーシャはここに辿り着くまでに見かけた妖怪たちの姿を思い返し、その存在へと思い至る。
「じゃ、そいつを締め上げれば情報が出てくるってことね!」
「ええ。探して捕まえて吐かせましょう!」
「じゃ、じゃあ俺は帰らせてもらうオニ……」
「え? ダメだけど」
「オニッ!?」
 祇雅乃とアーシャが逃げようとする鬼を見下ろした。
「それじゃ、アンタもボコして終わりにするからお疲れ」
「な、なんでッ! ちゃんと情報は吐いたオニ!?」
「一回しか言わないって最初に言ったじゃない」
「さっき言ったときにこうしてれば痛くしなくて済んだのにねえ」
 後から言っても遅いのよ、と頷き合う二人。
 そうして、ガンヴァスベースフロアに妖怪たちの最後の断末魔めいた悲鳴が響き渡り――――アーシャと祇雅乃は、得た情報を頼りに熊の妖怪を探してダイバ・シティを走るのであった。

アメリア・ノクタルガス
嵯峨野・伊吹

「グマッグマッグマッ! 美味そうな人間のガキがいるクマ~~ッ!!」
「うわあああっ!」
「ままああああ!!」
「グヘヘヘヘ、俺様は人間のガキの泣き叫ぶ声が大好きクマ! ガキどもの泣き顔を見ているだけで興奮してくるクマ!!」
「シャシャシャシャシャ……俺も同じヘビ!」
「ホネッホネッホネッ! さすがヒグマの兄貴! 兄貴についてきゃいくらでも美味いガキが喰えるガイコツ!」
「こっちも捕まえたノッペラ! あとで持ってかえって|児童臓物《ガキモツ》パーティーにするノッペラ!」
 妖怪軍団の暴虐は続く!
 ファミリー層が楽しい憩いの時間を過ごしていたフードコート・エリアで暴れる犯罪妖怪たちは逃げ惑う人々を殴り倒してはその中から手当たり次第に子供たちを奪い取り、その泣き叫ぶ声を肴に邪悪な宴の算段を進めていた。
「おいおいおいおい…………。いかんでしょ、こいつは」
 ――その惨状に、嵯峨野・伊吹(h05558)は表情を歪めた。
 伊吹は昼行燈だとかサボり魔だとか給料泥棒だとか呼ばれているタイプの異能捜査官である。
 他の√からやってきた簒奪者どもの悪事も、軽度なものや事情によっては見逃して|なかったこと《・・・・・・》にするとか、最低限の仕事しかしないようなタイプの刑事であった。
 しかして。
「流石に、これは看過出来ないでしょ。お仕事的にも、倫理的にも」
 ここまで派手に|やらかす《・・・・》案件が目の前で始まってしまったとあれば、いくら怠惰で通った伊吹でも見過ごすわけにはいかない。
(……まずはまだ周りに残ってる|一般人《パンピー》の避難やって……いや、そんなことやってたら連中もっと子供ら捕まえるぞ。先に奴らを無力化しなくちゃいけないが、そうすると誘導ができない……流石に俺一人じゃ手が回らないな。三課に急ぎ応援頼むか?)
 ――だが、考えて伊吹は唸った。
 これほどの大人数の犯罪者が派手に動く事件、一人で対応しきるのは不可能に近い。
 ならば、優先度が高いのはおそらく捕えられた子供たちの救出からだ。避難誘導をしている間に奴らが子供たちを捕えたまま逃走を図ったり、あるいはこの場で『味見』などと言い出したりして子供たちに喰い付かないという保証はない。市民を巻き込むリスクはあるが、まず敵の鎮圧から取り掛からねばなるまいか、と伊吹が思考した――そのときである。
「ずいぶん大事みたいね」
 不意に、伊吹の後ろから少女の声がした。
 伊吹が振り向くと、そこには銀髪の瘦せた少女が立っている――アメリア・ノクタルガス(h03600)であった。
「君は?」
「たぶんおじさんの仲間よ。呼ばれて来たの」
「応援ってことか。渡りに船だ、助かるよ」
 伊吹はすこしほっとした。非力そうな少女であったが、呼ばれてきたということは√能力者だろうと類推する。
「よし、なら二手に分かれて行動しよう。いいかい、まずおじさんがあの悪い連中に殴り込みをかけるから、君は周りのみんなを逃げられるようにしてくれるかな」
「それならいい手があるよ」
 アメリアはにやりと笑ってみせた。
「おじさん、夜目は利く方?」
「夜目? まァ、慣れちゃいるが……」
「そう。それじゃあ……|始めるぞ《・・・・》」
 瞬間、アメリアの身体が膨れ上がった。
 肉体はめきめきと音をたてて変異し、ヒトのかたちをしていたその姿は化生のそれへと変わる。
 獣妖ノクタルガス。アメリアの本来の身体である。
「うお……! 君、そういうタイプか」
「驚くのはこれからだ」
 ぎょっとした伊吹に低く笑い声を投げかけて、ノクタルガスは周囲空間のインビジブルたちから力を吸い上げた。次の瞬間――そこに、|夜《・》が訪れる。
「グマッ!? 何事グマ!?」
「わからねえノッペラ!」
 フードコート・エリアは突如として闇に閉ざされた。闇を呼び込むノクタルガスの√能力の発現だ。突然の状況に妖怪たちが焦り、困惑する!
「いくぞ|おじさん《・・・・》」
「あいよ」
 妖怪たちが惑う一方で、二人は行動を開始する。
「|お嬢ちゃん《・・・・・》のお陰で向こうは混乱してる。この隙に捕まってる子供らを助けるぞ」
 今の状況なら、周りの人々に手を出すこともしないだろう。そう判じて伊吹が駆け出す。
「いいだろう。……今の世は人と妖の命こそ最重要、だったな」
 ノクタルガスは頷いて伊吹へと続き、素早く闇の中を駆けた。
「ウオオオッ!! いったいどこのどいつの仕業ガイコツ!!」
「おのれェ! 出てくるヘビ!!」
 闇の中で敵を見失い喚き散らす妖怪たちの横をすり抜けて、ノクタルガスと伊吹は捕まえられた子供たちのもとへと飛び込んだ。
「よーしよしよし……もう安心していいぞ」
「怖がらせてすまない。どうか許してほしい」
 四本腕と長い尾でいっぺんに7,8人抱え込んだノクタルガスと、残った子供たちの手を引く伊吹。敵群が闇に慣れる前にと二人は全力で子供たちを奪取。妖怪軍団のもとから引き離すことに成功する。
「よし……子供たちはこれで助かったか」
「ならば次は奴等を掃討する。手を貸してくれるな?」
「もちろん。もう手を付けちゃった仕事だからね」
 ――そうして、二人はあらためて敵群へと対峙する。
「グオオオーーッ!!」
 そのとき――空気が、爆ぜるように震えた。
「ガアアッ!!」
 裂帛! 凄まじい咆哮に大気が砕け、闇の帳が打ち砕かれる。――犯罪妖怪たちの頭であろうとおぼしき熊の姿の妖が、その力でノクタルガスのもたらした闇を散らしたのだ。
「なに……?」
「どうやら、大物が混ざってたらしいな。……アタリってコトか?」
「なめるなクマ! 惰弱な『るうとえでん』の人間ども!」
 獲物を奪われた怒りか、熊妖怪は激昂しながら二人を怒鳴りつける。
「よくも我々の邪魔をするつもりクマ! ……オイ、オマエラ!」
「シャッ!」
「ペラァ!」
「ホネッ!」
 号令に従うように、犯罪妖怪集団が立ちあがった。妖怪たちは殺気とともに二人を取り囲み、私刑にかけようとしている!
「私が知る時代より世が平和になったということらしいが……こんな奴等がのさばれる程の平和はむしろ世に毒なのではないか?」
「いやまったく耳の痛いことで。……ま、でもね。こうしてのさばった連中を追い返す立場の人間もしっかりいるわけだ。ここはひとつよろしく頼むよ、お嬢ちゃん」
「わかった。いいだろう。……ではやるぞ、おじさん。狩りの時間だ」
「ああ」
 対し、二人はどちらもひどく冷静であった。
 長く生きた獣妖であるノクタルガスからすれば、この程度の木っ端妖怪どもなど労する相手でもないし、伊吹にしてもこのくらいの修羅場は今まで幾度となく潜ってきている。
 故に――いつも通りの対処をするだけだ。襲い掛かる妖怪たちを迎え撃ちに、二人は同時に飛び出した
「死ぬホネッ!」
「フッ!」
 骨棍棒を振りかざしたドクロ妖怪の打撃を躱し、ノクタルガスは側面に回り込む。すれ違いざま叩きつける尾の一撃で肋骨を粉砕。ドクロ妖怪を爆死させて百鬼夜行世界に強制送還した。
「はッ!」
「ギエーッ死ぬヘビ!!」
 続けざま、閃く刃! ノクタルガスの鎌を備えた上腕が蛇妖怪を討ったのだ。ノクタルガスはそこから素早く飛び出し、更なる攻勢を仕掛けてゆく。
「ちぃッ!」
「先にこっちの人間から殺すノッペラ!」
 ノクタルガスの暴威を恐れてか、妖怪たちの軍勢が今度は伊吹へと狙いを定める。
「殺す、ってねぇ……」
「死ねオニ!」
 巨漢の鬼が伊吹へと突進を仕掛けた。100kgをかるく超える大柄な体躯が伊吹を襲う!
「そう簡単に言うもんじゃないよ」
 ――しかして、伊吹は巧みな体捌きで鬼の突進をいなした。
「グオッ!?」
 側面へと流れるように身体を反らし、脇腹のあたりへと回り込みながら鋭い手刀。的確に急所を突いて斃す。
「こ、こいつ……!」
「ただもんじゃねぇノッペラ!」
 演武めいて披露された見事な武術の業前に、妖怪たちがおののいた。
「さて、と……お前さんたちさぁ?」
 向けられる鋭いまなざし。伊吹は妖怪たちを睨む。
「抵抗できない相手に手を挙げるのは、ルール違反だっての。……√EDEN防衛条項知らねえか?」
「し、知らねぇノッペラ!!」
「そんなルール、クソくらえテング!」
「ほー……そうかいそうかい。そんなら、体で覚えて帰ってもらわなくちゃならないな」
 ぱき、っ。伊吹が拳を鳴らす。
「じゃ、お前さんたち――ちょっと痛い目みようか」
 そして、ここから先は一方的な|教育《・・》の場となる。

 ――そうして。
「さて――避難と鎮圧はあらかた完了、と」
「ああ。ほとんど斃した筈だ」
 炸裂した√能力。おおかたの犯罪妖怪たちは、√能力者たちの手によって撃退されもとの√へと強制的に送還を受ける。
 だが、しかし。
「グルルルル……!」
 ただひとり、残る悪質犯罪妖怪の姿があった。
「情けねえ奴らクマ……。こんな軟弱なるうとの人間どもにぶちのめされるとは!」
 赤く染まった毛皮を逆立てて激怒する熊妖怪である。
 熊妖怪は不甲斐なくも全滅された手下どもに苛立つと、怒りを込めてはげしく咆哮した。
「……どうやら、あれが連中の親玉らしいな」
「この案件を指示した黒幕の情報を持ってる、っていう……グループの頭か」
 二人は顔を見合わせて頷き合った。そうしてから、戦闘態勢をとりなおし、熊妖怪へと対峙する。
「良し、ここからは尋問タイムといこうか」
 かくして、事件は次なる段階へと進む。

第2章 ボス戦 『暴妖「赤鬼熊」』


Branch Point!

Route A/Normal
√能力者たちは犯罪妖怪たちの撃退に成功した。
しかし、作戦を企てた古妖の正体や居場所については不明のままだ。再び同じ事件を起こされる前に、敵の黒幕の正体を掴み、追いつめねばならない。

▶[Route B]/Professional
√能力者たちは犯罪妖怪たちを撃退しながら、この作戦を企てた古妖の情報を知るであろう妖怪犯罪集団のリーダー格の妖怪を見つけ出すことに成功した。
戦って追いつめることで、敵の黒幕の情報を吐く可能性がある。妖怪犯罪者を叩きながら、事件を裏から操る古妖の情報を引き出そう。
√ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「グルルルオオオォォォオオオォオォオオオッ!!!」
 ――咆哮! フードコート・エリアに獣の声が響き渡る。
 そこに立つのは犯罪妖怪グループのリーダー、赤鬼熊! 凶暴でありなおかつ冷酷無比。しかも狡猾なずる賢さを持ち合わせたきわめて邪悪かつ危険な妖怪だ!
「テメェラ、よくもオレクマの手下どもを全滅させやがったクマ!!」
 赤鬼熊は手下たちをやられたことに腹を立て、ひどく激昂している。非常に危険な状態であると言えた。
「お返しにオマエラのことも一人残らず皆殺しにしてやるクマ……! オマエラのハラワタでモツ焼きパーティーを開催してやるクマ!!」
 凄まじい殺気とともに迫りくる強烈な気配――――情報を握っている可能性があるとはいえ、敵の戦闘力はきわめて高く、強力だ。油断せずかからねばならない。
 かくして、赤鬼熊との戦いは始まる。
アーシャ・ヴァリアント
柳檀峰・祇雅乃

「グオオオォォォォオオッ!!」
 響く咆哮。威迫する熊妖! 怒りに赤く染まった双眸が睨めつける!
「ニンゲンどもがッ! 皆殺しにしてやるクマ!!」
 その体長はおよそ3メートル。犯罪妖怪グループの|頭《ヘッド》、緋色の毛皮を纏う赤鬼熊! その獣妖が殺気とともに驀進する!
「こういうのを盗人猛々しいって言うのよね」
 ――対し、柳檀峰・祇雅乃(h00217)は冷静であった。
「ひとの世界に悪さしに来ておいて、仲間がやられたからって逆ギレするのはおかしいと思わないのかしら?」
「そういう考えができなかったから|こんなん《犯罪妖怪》になってるんでしょ、きっと」
 他責思考しかできない自分勝手な奴だから犯罪妖怪なんかに成り下がったのだとアーシャ・ヴァリアント(h02334)が切って捨てる。
「黙れ黙れッ!! 力がない方が悪いクマ!! 弱い奴が喰われて餌にされるのなんぞ当たり前のことクマ!!」
 フードコート・エリアのテーブルや椅子を蹴散らしながら、熊妖が襲い来る。√能力者たちのもとへと、まっすぐに!
「はっ」
 |竜《ドラゴン》の前で強さを語るか。
 アーシャは鼻で笑って身構えた。
「熊ごときが粋がってんじゃないわよっ! 弱い方が喰われるのが当たり前、って言うならねぇ……こっちこそバラバラに解体してジビエ料理にしてやるわっ!」
「ええ。少なくとも無事では済まさないわ」
 祇雅乃もまた笑顔のままずいと前に進み出る。たたえた微笑みはただならぬ圧力を纏い、どの裏に激しい怒気を秘めていることをなによりも雄弁に示していた。
 ――そう。祇雅乃はさきほど木っ端妖怪どもを蹴散らした程度ではまだ興奮冷めやらず、|聖地《ガンヴァスベース》を荒らした連中の悪事にまだキレている。
「五体満足で帰れる可能性は残ってないと知りなさい?」
「フゴォッ!! それはこっちの台詞クマ!! 二人まとめて今夜の晩飯にしてやるクマ!!」
 そして、赤鬼熊は突進! 二人の間合いへと強烈なぶちかましとともに飛び込んでくる――!
「グオオオオオッ!!!」
「だああっ!!」
「ドラぁッ!!」
 対し、アーシャと祇雅乃は真正面から渾身の打撃を打ち込んで迎撃! かくしてここに戦いの火ぶたが切って落とされる!

「しゃあッ!!」
 激突の衝撃からすぐさまに態勢を立て直し、赤鬼熊は再び飛び込みながらその爪を薙ぎ払った。
 フィジカルを活かした強烈な爪撃。まともに当たれば如何に√能力者とはいえ身体の何割かを抉り取られてもおかしくはない威力。妖怪軍団の頭を張っているだけのことはある!
「っとぉ!」
 アーシャはアクロバットめいた動作で身体を回転させながら側面へと飛び退いて爪を逃れた。
「ふ、ッ……ッ!!」
 一方、祇雅乃は魔法力によって編み上げた障壁を肉体に這わすことで爪が皮膚に食い込むのを防ぐ。叩きつけられる衝撃は持ち前のフィジカルと気合で耐え凌いだ。
「なるほど、見た目通りに力自慢……!」
 だが、余裕はない。赤鬼熊の身体はフィジカルに自信のある祇雅乃を更に上回る野獣そのものの肉体。そこから繰り出される強力な一撃は、祇雅乃をもってしても一撃堪えるのがせいいっぱいだ。
「フン……一発でも受け切ったことは褒めてやるクマ」
「それはどうも」
「だが、二度は防げぬクマ!!」
 ぐい、ッ! 赤鬼熊は体重と力をかけて祇雅乃を押し切った! パワーで強引に態勢を押し崩し、そこへ更なる追撃を仕掛けに来る!
「それならこっちはどうかしらッ!!」
「グマッ!?」
 しかして、ここでインターセプト! 鋭い爪が赤鬼熊の攻勢へと割り込み押し止める。アーシャが|竜斬爪《ドラゴニック・クロー》で反撃に出たのだ。
「グルルルルゥ……!」
「見識が浅いのよ! 熊と|竜《ドラゴン》だったら|竜《アタシ》の方が強いに決まってるでしょ!」
「ふざけるなクマ! お前のような細っちょろい女の腕でこのオレクマに勝てるはずがないクマ!!」
 赤鬼熊は態勢を立て直して再び攻撃に入る! ぶつかり合う爪と爪。激しく交錯する殺気と殺気が火花を散らす。
 ――真正面からまともにぶつかり合えば、赤鬼熊の言う通りフィジカルではアーシャは勝てない。故にアーシャは敵の攻撃の『型』を見切り、力の方向をいなすことで受け流して致命傷を避ける戦法をとっていた。
 熊爪を躱し、開いた身体をめがけて突き込み次の攻撃動作がくる前に後退。ヒットアンドアウェイスタイルに近いやり方で赤鬼熊へと少しずつダメージを与えてゆく。しかして躱し損ねれば強力な熊爪はアーシャに軽々と致命傷を食らわせるだろう。紙一重の戦いがじりじりと続いてゆく。
 ――――その最中。
「少しはやるようクマが……! やはりオレクマの方が」
「隙ありよっ!!」
 ばぎゃん、っ!
「グマォァッ!?」
 赤鬼熊の脳天で、金属フレームがへしゃげて粉砕する音がした。
「グマ……!? 一体なにが……」
「あら一発で壊れちゃった。じゃ、次はこれね!」
 振り返った赤鬼熊がそこに見たのは――フードコートのテーブルを鈍器代わりに掲げ上げて構えた祇雅乃の姿であった。
「えい」
「ごブッ!」
 全身全霊の力でフルスイング。その重量と取り回しの悪さからヒールレスラーが凶器に選ぶのも稀な金属製のテーブルを、祇雅乃はシンプルな鈍器にして赤鬼熊の殴打に使う。
「テ、メェ……ッ!!」
「あら。まさか『武器を使うなんて卑怯』なんて言わないわよね? ――喧嘩はいつだって|無法《バーリトゥード》でしょ?」
 祇雅乃は微笑みとともにもう一度テーブルを振り下ろした。
「さあ、いつまで立ってられるかしら?」
「ちぃ、ッ……!」
「そこぉッ!!」
「グマッ!?」
 防戦に追い込まれる赤鬼熊。その隙を逃すまいとアーシャは攻め込み――開いた口腔でもって、その竜牙で赤鬼熊に食らいつく!
「がフッ!」
「ゴァッ!! テ、ッメェ!!」
 咬合力で強引に食いちぎった赤鬼熊の肉片を吐き捨てながら、アーシャは後ろへと下がり赤鬼熊の反撃を避けた。
「……毛深くて食いづらいわ、残りはしっかり下処理してからね」
「コイツ……本気でオレクマを喰うつもりクマ!?」
「そう言ったでしょ。……なに。怖い? 今なら素直に親玉について吐けば食べるのやめるか考えてあげても良いわよ」
「ふざけるなクマァ!!」
 激昂とともに咆哮する赤鬼熊。
 しかして、その身体には√能力者たちの手によって着実にダメージが重ねられている。
「……まだけっこう元気そうねぇ?」
「けど、状況はまだこっちが有利よ。このまま押し切って後ろの奴を吐かせてやるわ!」
 二人は体勢を立て直しながら赤鬼熊へとあらためて対峙し、そして更なる攻勢をかけてゆくのであった。

 かくして、ダイバ・シティを襲った犯罪妖怪集団――その|頭《ヘッド》である獣妖・赤鬼熊との戦いは始まったのである。

シャオ・ホァピィ
ジナ・ムゥ・マナミア

「やるじゃん魔法少女っ♪」
「あなたもいい活躍だったわ!」
 フロアに蔓延っていた犯罪妖怪たちをあらかた仕留め終えて、シャオ・ホァピィ(h06287)と|ジナ・ムゥ・マナミア《めたもる☆ジーナ》(h00906)はぱしんとハイタッチした。
「とはいえ、この中にはいなかったみたいだね」
「蛇の人がそうかとおもってたけど、そしたら一体……」
 顔を見合わせる二人。
 ――しかして、次の瞬間。建物中に響くほどの獣の咆哮がダイバ・シティを満たした。
「この声は……!」
「いってみましょう!」
「うん!」
 そこから感じ取れる強大なプレッシャー。先まで相手をしていた木っ端の妖怪たちとはまるで格が違う凄まじい存在力!
 敵集団の首魁に違いない、と頷き合うシャオとジーナは、そこから一も二もなくその声のもとを目指して駆け出した。

「グルゥゥォオオォアアアアアアッ!!!」
 そして――辿り着いたフードコート・エリア。そこで二人が目にしたのは、狂乱する獣妖! 緋色の毛皮を纏う赤鬼熊の姿である!
「クサレ人間どもがァッ!! オレクマの手下どもをよくも全滅させやがったクマ!!」
 八つ当たりめいて振った腕が、フードコートに出店するハンバーガーショップのカウンターを粉々に粉砕する。そうしながら、赤鬼熊は怒りに双眸を血走らせたまま二人へとそのまなざしを向けた。
「……なるほどね、手下のやつらをやっつけたから偉そうなヤツを引きずり出せた、ってコトか!」
「ええ。あなたが手を貸してくれたお陰よ」
「それはこっちの台詞さ!」
「なにをゴチャゴチャ言ってるクマ!!」
 赤鬼熊は怒りのままに暴れ狂い、フードコート・エリアのテーブルや椅子を蹴散らしながら二人へと突進を仕掛けた。テーブルの部品であった木片や金属部をまき散らしながら、熊鬼が押し寄せる!
「わあっ!」
「くっ!」
 二人は咄嗟に横へと飛び退いて熊の突進を躱した。勢いあまって鬼熊の激突したうどん屋のブースが木っ端微塵に打ち砕かれ、調理器具や食器の破片がぶちまけられる!
「っつつ……すっごいパワー……これまでのとはもうレベチって感じ!」
「ほかの手下たちとは攻撃の重さがぜんぜん違うわね……!」
「うるせぇクマァッ!!」
「……でも語尾はクマなんだ?」
 徹底してんなこいつら。さっきの妖怪たちもだいたいヘビだのヒトツメだの自分の名前を語尾に付けてたのを思い返してシャオは微妙な顔をした。その間抜けさはちょっと面白いが、しかしていま向けられる殺気はまるで笑えるものではない。
「ガアアッ!」
 店舗建材の破片を振り払いながら、赤鬼熊が起き上がる。
「お前たちにやられた手下どもの恨み……このオレクマが果たしてやるクマ!!」
「なんだよ! 悪いことしたのはそっちのくせにさ。そしたらボクたちみたいのにやられるのなんかあったりまえじゃん! そういうの、『ぬるっとデモクラシー』っていうんだぞ!」
「『盗人猛々しい』かしら」
「それ!」
「やかましいクマ!!」
 ガアアッ! 咆哮とともに赤鬼熊が構える!
「けど、この子の言う通り。悪いことしようなんて考えておきながら、自分達が返り討ちに遭う可能性も考えずに乗り込んできたなんて……大したリーダーね!」
「なにィ……!?」
 ジーナは赤鬼熊へと挑発的な笑みを向けてみせた。それからちらと横目でシャオを見て、二人でほんのすこし頷き合う。
「そーだよ! どんな√でだって、悪は滅んで正義が勝つんだ!」
「心配せずとも、お仲間と同じ所にきっちり送って差し上げるわ!」
 二人は息を合わせて口上を述べ、赤鬼熊へと絶対的な正義の真実を叩きつけた。
「言わせておけばメスガキどもが……調子に乗りやがってクマ!!」
 だが、邪悪の存在である熊鬼は正しき理を認めない。再びの咆哮とともに、赤鬼熊は二人へと襲い掛かった。
「ガアアアアアアッ!!」
「うわ……っ! くっ、啖呵切ったはいいけど……!」
「ガオァッ!!」
 襲い来る熊爪! 3メートルにも達する筋肉質の体躯が繰り出す猛撃は、一発で致命傷になり得る凄まじい破壊力を伴う!
「きゃあっ!?」
「ガアアアゥオオアアアアッ!!!」
 咆哮とともに襲い掛かる爪と牙! シャオとジーナは大絵筆と|卒塔婆《ソートヴァー》を振るって致命打を防ぐが、一撃一撃の重さが凄まじい。二人とも受け流すだけでも精一杯だ。
「この熊、滅茶苦茶やべー!!」
「なんてパワー……! 押し返せないわ!」
「グマハハハハハハ!! さっきまでの威勢はどうしたクマァ?」
 一撃受け止めただけでも――否、止め切れていない。一撃防ぐごとに、打撃の勢いで二人は大きく後方へ弾き飛ばされるように追いやられ、後退を余儀なくされている。
「ガアッ!!」
「くっ……!」
 爪の先端が衣類を裂いて、その向こうの柔肌へと傷を刻んだ。傷口から赤く血を滲ませながら、二人は苦悶する――だが、挫けてはいない。ふたりは歯を食いしばって痛みを噛み殺しながら熊鬼へと果敢に立ち向かった。
 ――しかし、それも終点に至る。
「……っ!」
「まずい……!」
 幾度かの後退を繰り返した先――二人は、背中に冷たい感触をおぼえた。
 ――壁だ。袋小路である。逃げ場のない通路の先まで、二人は追いつめられていたのだ。
「グマッグマッグマッ……どうやらここまでのようクマ」
 シャオとジーナを見下ろして、赤鬼熊は嘲笑う。
「命乞いは聞かないクマ。生きたままはらわたを貪り尽くし、その様子を動画撮影してそのテの嗜好のやつらに売りさばいてやるクマ!!」
 ガアアアッ! 咆哮! 飛び掛かる熊鬼!
「きゃあああっ!!」
「魔法少女っ!!」
「死ぬクマ!!」
 1t近い重量を持つその巨体が、遂にジーナを捕らえ組み敷いた。ガルォッ。獣の唸りとともに顎を開き、熊鬼がジーナの首筋へと牙を突き立てる――!
 ――――しかして、その瞬間であった!
「……なんて、残念!」
「グマッ!?」
 熊鬼が食らいついたのは、木の葉の塊であった!
「貴方が今捕らえたのは私の化術で作り出した|木ノ葉分身《ハッパーミラージュ》よ!」
「なに……!」
 そう。赤鬼熊に喰らい付かれたのはどろんバケラーとしての力でジーナが作り出していた虚像だったのだ。本物の二人がいるのは、赤鬼熊の背後――先までとは逆に、二人が熊鬼を袋小路へと追いつめる位置関係になる!
「馬鹿な! どこから!?」
「ここの袋小路に入ったところだよ」
 傷口に滲む血を拭いながら、シャオはにやりと笑ってみせた。
「グググ……だが、愚かクマ!! オレクマと貴様らではそもそものパワーが段違い! 追いつめたくらいで有利に立ったなどと――」
「いいや。勝機ならもう掴んだよ!」
 瞬間、シャオは手にした大絵筆を突きつけるように熊鬼へと向け――|その力《√能力》を解放する!
「ふっとばせぇっ!!」
 叫ぶシャオの気迫とともに、手にした絵筆が巨大化した。
 神話に伝わる猿神の如意金箍棒めいてそのサイズを膨れ上がらせた大絵筆は、列車事故にも匹敵する勢いでもってその先端を熊鬼に激突させる!
「グオオオオオオオッ!?」
 ばご、と鈍く重い音を響かせて、熊鬼の身体がダイバ・シティの壁面へとめり込んだ。
「この袋小路じゃ避けられなかったでしょ」
 作戦大成功! シャオはジーナとハイタッチした。
「あとよろしく!」
「心得たわ! マジカルコンボで決めよ!」
 シャオは大絵筆を引っ込めながら、入れ替わるように一歩下がる。代わって前進するジーナ。その手に掲げるラディカルソートヴァー!
「|邪霊金縛り《スペクターバインド》っ!」
「グマァッ!?」
 打突のダメージから立ち直す前に、ジーナはその霊力で熊鬼を縛る!
「さあ! これでフィニッシュよ!」
 そして、ジーナは飛び込んだ。掲げたソートヴァーに全身全霊の力を込めて――振り下ろす!
「成敗っ!」
「グアアアアアアアアッ!!!」
 ――爆発! とどめの一撃を受けた熊鬼は断末魔めいた悲鳴とともに爆死を遂げる!
「……やりすぎちゃった?」
 炎を振り払いながら、ジーナは〆のポーズを決めた。
 ――――しかし!
「なめるなクマアアアアッ!!」
「わっ!?」
「あら」
 爆煙の中から、赤鬼熊が立ちあがる――凄まじい生命力! これだけの攻撃を受けてまだ命を残している!
「この程度でこのオレクマを殺れると思うなクマ!!」
 咆哮する熊鬼! 赤鬼熊はその場から逃れるように駆け出し、二人から離れていく!
「あっ、待て!」
「まだ貴方達をそそのかした古妖の情報を聞いていないわ!」
 しかして、ここで奴を取り逃すわけにはいかない! 頷き合うシャオとジーナは再びダイバ・シティを走り、熊鬼を追いかける!

 ――そう。戦いは続くのだ!

七豹・斗碧
アガーテ・デア・フライシュッツ

「クソ人間どもがアァァッ!!」
 振るわれる剛腕! 咆哮とともに薙がれた赤鬼熊の腕が手当たり次第にそこらじゅうのものをぶん殴り、ぶち壊す。
「見つけた、あれだ!」
「おー……なんかすごいやる気のヤツがでて来たねー」
 赤鬼熊の暴れるフードコート・エリアに到着したのは、七豹・斗碧(h00481)とアガーテ・デア・フライシュッツ(h05890)であった。
「また新手が出てきたクマ!?」
 二人の気配に気づき、赤鬼熊は苛立ちながらそのまなざしを向ける。
「ふざけやがってクマ……ちょっと暴れたくらいでオレクマの手下どもを皆殺しにしやがってクマ!!」
 そして、激昂とともに叫んだ。
「うーん……たしかに仲間のひとたちを全滅させたのは私達なんだけど…………怒ってるなあ……」
「怒ってるねー」
 苦笑いする斗碧の横で、アガーテがぼんやり呟いた。
「でもまー……ワルいことしたんだから、自業自得……いんがおーほー、だよね」
「んー、それはたしかにそう」
 怒らしたのは私達だけど、そもそも退治されなきゃならないような悪事に手を染めたのは向こうの方だ。逆ギレだよねと二人は頷き合う。
「なんだとクマ……? 脆弱な人間風情が、ッ!! 餌になるくらいしかできない食物連鎖のド底辺が、よくも言ってくれるクマねェ!!」
 対し、怒りを顕わにする赤鬼熊。フーッ、フーッ。興奮した様子で荒く息を吐きながら、鬼熊はじりじりと二人の方へとにじり寄り始める。
「私は人間ってゆか獣人なんだけど……。……でもさ、そうやってナめた結果がこうなんじゃない?」
「うるさいクマ!!!」
「それより、あたしたちさー。アンタたちの後ろにいるヤツのことききたいんだよねー」
「なに……?」
 ここでアガーテが核心を突く。『後ろにいるヤツ』の言葉に、赤鬼熊が警戒の色を示した。
「あ、そうそう。キミたちのこと動かしたヤツのこと。聞かせてもらいたいね」
「ね」
「っていうか、よく考えたらこの状況だってその『後ろにいるヤツ』のせいじゃない?」
「なんだとクマ……?」
 赤鬼熊が表情を更に険しめた。
「どんな作戦か知らないけどさ、そいつの企みに乗ったせいで手下のひとたちも私達にやっつけられちゃったわけじゃん?」
「うん。……断ってればよかったのに」
「黙れ黙れ黙れクマ!! 貴様らさえ出てこなければ手下どももこんな目に遭うことなかったクマ!!」
「それは違うよ」
「どうせ『好き放題暴れられるうまい話だ』とか思ってホイホイ乗っかったんでしょ。恨むなら自分の浅はかさを恨んでよね」
「グオオオォオォオッ!!」
 ――舌戦は、斗碧とアガーテの方が優位性を保つ。返す言葉もなくなって、赤鬼熊は怒りのあまりに激しく咆哮した。
「このオレクマをコケにするとは……どうやら命はいらないらしいクマァッ!!」
 次の瞬間、鬼熊は床面を蹴立てて駆け出した。ざりぃ、ッ!! 両脚の爪がフロアに深く傷を刻み込みながら、踏み切った足の脚力で砲撃めいて熊の身体が飛び出す!!
「わお」
「……あの図体。パワーも相応ってことね!」
 アガーテと斗碧は、二手に分かれるように別々の方向へと跳んだ。フードコート・エリアのテーブルセットを粉砕しながら突き進む赤鬼熊の突進を躱して、二人はそれぞれ戦闘態勢に移る。
「ん」
 じゃきん、ッ! アガーテの掲げた黒銃の銃口が赤鬼熊を狙う。アガーテは無造作にトリガーを引き絞り銃撃した。
「ガアッ!」
 熊鬼は毛皮と分厚い皮下脂肪で弾丸を受ける。血飛沫こそあがるものの、まだ致命傷には遠い!
「こんなナメた弾でこのオレクマが死ぬかァッ!!」
「うわっ」
 ざぁっ! 爪の先でがりりと音を鳴らして床面を蹴立て、熊鬼は反撃に転じるべくアガーテへと飛び掛かった。ガァァッ! 咆哮とともに迫る殺気!
「こっち忘れないでよね!」
「グムゥッ!」
 ――だが、側面から衝突する蹴り足! 体ごとぶち当たるように斗碧が横合いから飛び蹴りを叩き込んだのだ。
「ガアッ!」
 蹴り足をぶち当てられた衝撃に軌道が逸らされた赤鬼熊の身体はアガーテの横を通り抜けてフードコート・エリアの床を転がり、テーブルセットに激突してばらばらとその残骸をまき散らす。
「こっちをナメてくれてるのはラッキーだったね。……強そうだけど、やりようはある」
 反動で後退しながら斗碧は態勢を整えた。立ち上がろうとする熊鬼の様子を伺いながら、構えを直して対峙する。
「ねえ」
 斗碧の後ろで再びかちりと金属の音が鳴った。掲げた銃は白きメギド。構えるアガーテが引き金に指をかける。
「あいつ、ずっと語尾にクマクマつけてるけど…………出てきたのが海外だったら語尾がベアになってたのかな」
「……ええ?」
 いきなり飛び出したワケのわからない話に、斗碧が困惑した。
「キミはそこの所どう思う?」
「どうって言われても……」
「たらればの話で盛り上がろうとしてんじゃねえクマ!!!」
 ばぁん、っ!! テーブルの破片を振り払いながら立ち上がる熊鬼! 怒りに満ちた双眸が二人を睨めつけ、凄まじい殺意を宿しながら再び襲い掛かろうとする!
「わー、怒ってる……」
「でも冷静じゃなさそう。多分いける……まー、とりあえず支援するから適当に頑張って」
 牽制射。アガーテが二、三度続けて素早く引き金を引き、熊鬼へと弾丸を浴びせかける。
「ザコがァッ!! こんな豆鉄砲がオレクマに効くわけねェクマ!!」
 だが熊鬼は止まらない! 着弾の衝撃にいくらか怯みこそしたものの、進撃そのものを止めるほどのダメージにはなっていなかったのだ。
「これだけで斃せるとは思ってないよ」
 しかして、アガーテの手はそれだけではなかった。
 ザミエルの魔弾を熊鬼へと打ち込む一方で、アガーテは聖銃の引き金もまた引いていたのだ。
 撃ち出されたのは祝福の聖弾。光の弾は斗碧の身体に当たって弾け、その身に加護を与える!
「わ! なにこれ、あったかい!」
「|ご加護がありますよーに《Bless you》、ってねー……じゃ、よろしく」
「オッケー!」
 光を纏いながら、斗碧は駆け出した。だ、ッ。素早く熊鬼の前へと飛び込み、間合いを詰めたかと思いきやすぐさまサイドステップで側面へと移動!
「グオァッ!!」
 赤鬼熊は迎撃の熊爪を繰り出すも、加護を得た斗碧を捉えるには遅い!
「せやっ!」
「グ、ッ!」
 斗碧は横っ腹に蹴り足を見舞った。反撃の爪が再び襲い来るが、それよりも速く斗碧は後退。そして――床面を蹴り、飛翔した!
「ヌゥ、ッ!?」
 斗碧が至ったのは熊鬼の直上。あまりの速さに斗碧の姿を見失って、熊鬼が焦りの色を見せる。
「……これで、決めるよ!」
 斗碧はその隙を逃すことなく、上方から鋭く落下した。――流星めいて急降下! 刹那ほどの間も置かず、蹴り足が熊鬼の脳天を捉える!
「だあっ!!」
「グオオオオアアアアアアアアッ!!!」
 ご、ッ!! 頭蓋を貫き脳天を撃ち抜く衝撃! 斗碧の必殺の蹴りが熊鬼の急所を捉えた!
「さあ、どうだっ!」
 反動で跳んだ斗碧は宙返りしてアガーテの下へと舞い戻り、油断なく構えなおした。
「グ、ゴ……ッ!! ば、馬鹿な……! こんな、こんなことが……ッ!!」
 苦悶する熊鬼。赤鬼熊は呻きながら痛む頭を抱え、ふらふらと身体を揺する。
「……ガアアァァウオッ、ッッ!!」
 しかしてそれも束の間――熊鬼は咆哮しながら二人へと背を向けて駆け出した。不利を悟って逃れようとしている!
「あ、逃げる気だ」
「そうはいかないよ! 追っかけよう!」
「んー……そうだね」
 斗碧はアガーテを引っ張るようにしながら駆け出して、熊鬼を追ってダイバ・シティの中を走り出す。

 既に赤鬼熊へと叩き込まれたダメージは許容量を超え、致命傷に近いところまで届いていた。
 あと一押しで口を割るところまで弱らせることができるだろう。熊鬼との戦いは詰めの局面に至る!

アメリア・ノクタルガス
クラウス・イーザリー

~ここまでのあらすじ~
 ――√EDEN。日本国。首都たる東京都、その都内――お台場、と呼ばれるエリアにて。
 大型ショッピングモール、『タイバ・シティ』に√百鬼夜行の妖怪犯罪者たちが現出し、人々を襲った。
「……そうして、その妖怪どもを退治するために呼び集められたのが我々というわけだ」
 獣妖ノクタルガス――アメリア・ノクタルガス(h03600)は、クラウス・イーザリー(h05015)へと状況を説明する。
「なるほど……だいたいわかりました」
 |√能力者たちの相互扶助組織からの依頼《サポート参加》によって今しがた戦場へと到着したばかりのクラウスは、先んじてこの戦場における戦いに参加していたノクタルガスから現状についての説明を受けた。
「……つまり」
 クラウスが視線を向ける――その先では。
「グウオォォオオオォォオァアアアァァッ!!!」
 緋色の毛皮を纏う大型の熊妖怪が、激しく咆哮していた。
 赤鬼熊。ダイバ・シティを襲った妖怪犯罪集団の頭であった、熊の獣妖である。
「あれを、倒せばいいと」
「いや、単純に斃すだけではいけない。我々がやるべきは、奴を殺すことではなく……|背後関係《奴らをそそのかした古妖の情報》を吐かせることだ」
 今やるべきことは、敵を撃退することのみならず、この事件を裏で操る黒幕――古妖の情報を吐かせることとなる。
 この場は戦いであると同時に尋問の場でもあるのだ、とノクタルガスはクラウスへ説明した。
「……そういうことですか」
 思っていたより手間のかかる案件ですね、と嘆息するクラウス。仕方があるまい、とノクタルガスが嗤うように喉を鳴らした。
「殺さず情報を吐かせる……ということだな。私自身、独りだった頃は考えもしなかった策だ」
「そうなんですか?」
「ああ。……ふふ。しかし強欲なものだ。戦闘に勝利と生存だけでなく情報まで求めるとはな」
「いえ……。たしかに敵の情報は絶対的に必要なものです」
 自嘲めいて笑うノクタルガスに、クラウスが言う。
「むしろ、この先の勝利と生存を積み重ねていくためにこそ情報は必要になりますから」
「……それもそうか」
 懇々と言うクラウスに、ノクタルガスは頷いた。
「よし……では、吐かせるぞ。加減して、な」
「はい。やりましょう」
「だが、先に言っておく……甚振るのは趣味ではない。努力はするが、あまり期待するな」
「……では、こちらで善処します」
「わかった」
 ――そうして、クラウスとノクタルガスは戦闘態勢へと入る。
「ふざけるなよクマ……!」
 一方――熊鬼は怒っていた。
「このオレクマを相手に、情報を吐かせる算段とは!!」
 そう易々と吐いてたまるものか、と赤鬼熊は咆哮する。
「貴様らにこそ恐怖と命乞いの言葉を言わせてくれるクマ!!」
 怒りに叫ぶ熊鬼が、ダイバ・シティのフロアを力強く蹴立てて走り出す。
「来るぞ」
「はい」
 迎え撃つべく構えるノクタルガスとクラウス――かくして、ここに戦端は開かれる!

「ガァアアアアアウッ!!」
 まるで暴走する自動車! 3メートルにも達する熊鬼の躯体が、凄まじい速度で突っ込んでくる!
「正面からの打ち合いは……!」
「少々厳しいな、これは!」
二人はこれを散開して躱した。勢い余って突っ込んだ熊鬼の巨体はそのまま壁に激突。衝撃の威力にダイバ・シティの建物そのものが激しく揺れる。まともにやりあえば如何に戦闘に長けた√能力者とて無事では済むまい。
「捉えられぬように立ち回るしかあるまい!」
 槍尾! ノクタルガスは身体を捻って回転し、長く伸ばした尾を鞭めいて奔らせ熊鬼を打擲した。
「わかりました。カバーしあっていきましょう」
 クラウスは引き抜いた拳銃で熊鬼に狙いをつけ、素早く引き金を引いた。ダンッ! 銃声と共に弾頭が爆ぜ、赤鬼熊の毛皮に叩き込まれる!
「グオオオオオッ!!」
 熊鬼は苦悶した。――ここに至るまでに重ねてきた√能力者たちとの戦いの中で、その身体には既にかなりのダメージが蓄積されている。もはや僅かな傷でも致命傷になりかねないほどの状態であるともいえた。
 ――しかし!
「舐めるなクマァ!!!」
 手負いの獣ほど、厄介なものもない。
 怒りに叫ぶ熊鬼は血走る両目で二人を交互に睨めつけ、それからまた駆け出した。――狙われたのはクラウス! 凄まじい殺気と共に獣の爪牙が迫る!
「……!」
 対し、クラウスは飛び退いて熊鬼の突進を避けた。靴に仕込んだ脚力強化機構によって引き出された力で床面を蹴り、素早くステップを踏んで熊鬼の爪を躱す。
「グオオオッ! 餌の分際でちょこまかと生意気クマ!」
「黙って餌になるような人間ばかりじゃないからね……!」
 逃れながらクラウスは引き金を引き、反撃の銃弾を熊鬼へと叩き込む。グオ、と苦悶する熊鬼。怯んだ隙を逃さずクラウスはノクタルガスへと目配せした。
「今だ!」
「ああ、制圧する!」
「グオッ!?」
 がら空きの背後から強襲! 飛び掛かったノクタルガスは、その異形の躯体に備えた生体武具によって熊鬼へと攻め寄せた! 鎌状に鋭く尖った上腕を熊鬼の身体へと突き立て、下腕の鉤爪で追い打ち! 赤熊鬼へと深く傷を刻む!
「ガギャアアアアッ!!」
「だいぶ堪えるでしょ……もうそんなに傷だらけなんだからね!」
 ダン、ッ! 銃弾の追撃! 悲鳴を上げる熊鬼へと、クラウスが更に弾丸を撃ち込んでゆく。
「グ、オ、オ……ッ!!」
「これでどうだッ!」
 熊鬼が呻いた。そこへ更に追い打ちをかけるようにノクタルガスが仕掛ける! ノクタルガスは再び鎌腕と鉤爪で斬撃を見舞うと、更に身体を回転させて槍尾での追撃をかけた。
「ガアアアアッ!!」
 激しい衝撃に吹き飛ばされる赤鬼熊の躯体! 床上を転げたその身体は勢いのままに壁に激突し、骨の軋む音を響かせてようやく止まった。
「グ、オオ……オ、オオオッ!?」
 熊鬼はそこから起き上がって態勢を整えようとする――
 しかして。
「馬鹿な……ッ!?」
 ――しかし、立ち上がれない。
 呻いた熊鬼は身体に力を込めようとして――やはり立ち上がれなかった。
 熊鬼は痛みを堪えるようにぜえぜえと荒く息を吐き出し、その動きを止める。
「何故クマ……、ッ! オレクマの身体が、動かねぇ……ッ!?」
 赤鬼熊の身体は既に限界であったのだ。屈強な獣妖の肉体をもってしても耐え切れぬほどの傷を刻まれていたのである。ダメージは既に許容量を超え、その身体はもはや致命的なまでに血を流している。
「“詰み”というやつだ、熊鬼」
 ノクタルガスは赤鬼熊の正面へと立ち、鎌腕を突きつけた。
「もはや手下はおらず、その傷ではお前自身ももはや戦えまい。諦めて|もとの√《百鬼夜行》へ帰れ」
「グ、ム……!」
「これ以上の抵抗は無駄……ってやつだよ」
 クラウスも油断なく銃口を突きつける。
 熊鬼は暫し逡巡を見せた後――クソ、と憎々しげに怨嗟の言葉を吐き捨てながら、両腕を上げて降伏の意を示した。
「お前の敗因は、『手下』ばかり集めて『仲間』をつくらなかったことだろう。仲間と、仲間の為に行う狩りというのも案外侮れないものだぞ」
「それじゃ、背後関係について吐いてもらおうか」
「……わかったクマ」
 ――そして、熊鬼は喋った。

 自供の後、赤鬼熊は√能力者たちによって拘束され、もとの√妖怪百鬼夜行へと移送。現地の天狗|警察《ポリス》にその身柄は引き渡されることとなる。
 その一方――熊鬼からの情報提供によって、√能力者たちはこの事件の黒幕の正体とその潜伏場所を突き止めるに至った。
 戦いは次の段階へと移行し、√能力者たちはこれより遂に首謀者である古妖との邂逅を果たすこととなる!

第3章 ボス戦 『入内雀・藤原実方』


「ほっほっほ……美味い美味い!」
 ――東京都。芝浦。
 都の交易網を支える港湾区域であり、国内外から輸送されてきた多くの物品が集積される重要なエリアである。
 そこに建つ貨物倉庫のひとつ――食品の集積を主として行う棟の中に、その古妖の姿はあった。
「麿の知る米とは少々違うでおじゃるが、まあよいでおじゃ」
 入内雀・藤原実方。
 ――妖と化した古の貴人である。
 ”食”に並々ならぬ執着を示す実方は、√EDENの侵略のために現地の食糧事情を攻撃することが有効な手段であると考えていた。
 そこで彼が考えたのが、食料品倉庫の襲撃である。
 実方は配下とした妖怪犯罪者たちに派手な事件を起こさせることで√EDENの能力者たちの注意を向けさせ、その隙にこの作戦を推し進めてゆくことを企図していたのだ。
 おそるべき計画であった。
 昨今の国内の食糧事情を鑑みて政府主導で輸入されていた外国産の米がちょうど芝浦の貨物倉庫に集積されていたのである。しかして、実方とその直属配下である雀妖たちはその倉庫を襲撃し、輸入された外国米を食い荒らしていたのだ!
 君たちの到着が早かったため、幸いにも致命的なまでに荒らされてこそはいないが、このまま捨て置けば日本の食糧事情は実方によってズタズタにされてしまうだろう。
 急ぎ、奴を撃破しなくてはならない!
アガーテ・デア・フライシュッツ
七豹・斗碧

「ほっほっほ」
 ばりっ、ばりっ。乱暴にこじ開けた袋から手づかみで引きずり出した米を貪り食う。
「ちとぱさついておじゃるが、これはこれで」
『ぴいちくぱあちく!』
『ぴいちくぱあちく!』
「うむ、ゆるす。お前たちも好きに喰らうがよいでおじゃ」
『ぴいちくぱあちく!』
 雀の喚く声。実方が配下としている雀妖の群れだ。妖たちは実方の許しを得て米の襲撃に加わり、そこらじゅうの米袋を破いては啄んでゆく。
 このままでは倉庫内に集められた食糧品も実方たちによって食い尽くされてしまう――!
「そこまでだよ!」
 ――しかして!
「ん。これ以上はダメだよ」
「ヌウッ!?」
 だぁんッ! 疾った銃弾が実方の脚を掠め、床で爆ぜる!
「何を企んでるのかと思えば……ずいぶん悪質なつまみ食いだね」
 そこに現れたのは、七豹・斗碧(h00481)とアガーテ・デア・フライシュッツ(h05890)であった。
「わー……ずいぶん食べ散らかしたね」
 荒らされた庫内の惨状に、アガーテは呆れて絶句する。
「なんでおじゃ、お主ら……! 麿の昼餉を邪魔するつもりでおじゃるか!」
『ぴいちく!』
『ぱあちく!』
 対し、実方が激昂する。麿の食事の邪魔をしようとは、なんと不埒な奴らでおじゃ! 怒りに満ちた双眸が二人を睨んだ。
「うっわー、こっちもこっちで盗人猛々しい感じ……」
 一方的に略奪しに来たくせに、よくもまあそんなに怒れるものだ。斗碧が僅かに眉を顰める。
「……けど、ここまで追い詰めたんだ。ゴハン食べるのはもうあきらめて観念してもらうよ」
 そうして、斗碧はその手に|ナイフ《雪姫》を引き抜いた。身構えながら実方を睨み返す。
「そのお米はさ、お前のお腹に収まるためのものじゃないんだから」
「フン……。奪われるほどに弱き|るうとえでん《この世界》が悪いのでおじゃ!」
「さっきの|やつら《妖怪》たちとおんなじこと言ってるね」
「類が友を呼んだってコトだね。……ま、でもさ。このくらいわかりやすい悪い奴の方が気持ちよくぶっ飛ばせるし、かえってちょうどいいかもね!」
「そーいう考え方もあるか……じゃ、やっつけよう」
「うん。行くよ!」
「フン! たかだか小娘ふたり! 麿の敵ではないでおじゃる!」
 かくして、動き出す√能力者たち。ここに戦端は開かれる!

「行くでおじゃ、雀ども! 小娘どもをばらばらに引きちぎってやるでおじゃる!」
『ぴいちくぱあちく!』
『ぴいちくぱあちく!』
 実方が二人を指しながら雀妖たちへと攻撃を指示する。
 雀妖――雀の頭と屈強な成人男性の身体をもつ妖怪戦闘員軍団が、実方に従って動き出した。
「ほかの妖怪たちの姿が見えなかったけど……」
「やっぱり自分の手下がいたんだね」
「ほほほほほ! こやつらはあの下品な妖怪どもと違って高貴な麿に相応しい近衛の妖怪衛士でおじゃ!」
『ぴいちくぱあちく!』
『ぴいちくぱあちく!』
 ざっ! 一糸乱れぬ隊列を組み、二人のもとへと押し寄せる雀妖の群れ! その数十二体! いずれも八尺に届く体躯を持つ巨漢の群れだ!
「けど」
「うん」
 斗碧とアガーテは互いに目配せし、頷き合った。
「そんなに遅いんじゃ話にならないね」
「ヌウッ!?」
 ――瞬間、斗碧の姿が溶けるように掻き消える。
「おのれ、小癪な小細工を! ええい構わぬ、先にその小娘から縊り殺してしまえ!」
『ぴいちくぱあちく!』
『ぴいちくぱあちく!』 
 しかして、実方の軍団は止まらない! 一人消えたならば残った方を、とばかりに雀妖たちはアガーテめがけて攻め寄せる!
「ほほほほほ! さあ、押しつぶされるがいいでおじゃる!」
「んー……」
 だが、アガーテは表情一つ変えず雀妖たちに対峙する――
「起きて、ザミエル」
 ここでアガーテは手にしていた二挺の銃のうちひとつを宙に放った。――瞬間、投げられた魔銃ザミエルは光を纏い、アガーテとおなじ顔をしたヒトガタの姿へと変じる。その手には一挺のマスケット。ザミエルはぱちりと目を開き、周囲の様子をうかがった。
『……おはよ、アガーテ』
「うん。おはよう。さっそくだけど働いて」
『了解。なに撃てばいい?』
「あれ」
 迫りくる雀妖たちをアガーテは指し示した。
「十二体いるから、ひとり六体。外さないでね。そしたら二人でちょうど十二体、ぜんぶ片づけられるから」
『うわなにあの……雀? 怪人? ちょっとキモくない?』
「いいから撃つ。やるよ」
『はいはい』
『ピイッ!?』
 短くやり取りを済ませて、アガーテとザミエルはそれぞれ掲げた銃を雀妖の群れへと向ける。続けざま、トリガー! ダンッ! バァンッ! 爆ぜる銃声! 撃ち抜かれた雀妖が悲鳴を上げて爆死する!
「ヌウッ!?」
『たしかに身体はでかいし強そうには見えるけど』
「ノロノロ飛ぶ雀なんて楽勝すぎてちょっと退屈かも」
 ガンガンガンガン! |七面鳥撃ち《ターキー・シュート》だ、と冗談めかして笑い、アガーテとザミエルは群がる雀妖たちを次々と爆散させてゆく。
「ヌオオオッ!? 馬鹿な! 麿の兵たちが!!」
 いとも容易く撃破される雀妖たちに、実方が困惑して叫んだ。
 そして――その背後から、囁きが忍び寄る。
「――こんなので私たちを止められると思ってたんなら、的外れもいいとこだよ」
「ヌウ、ッ!」
 瞬間、刃が実方を襲った。――斗碧だ。空間へと干渉する『蝕式』の術式によって姿を隠し、気配を消しながら実方に迫っていたのである。
「おのれ、小癪な真似を! 小娘風情がァ!」
「おっと……! 逆切れやめてよね! いきなり大暴れされて怒ってるのはこっちの方なんだからさ!」
 暴れて抵抗する実方から一度間合いを取り、斗碧はナイフの柄を握りなおした。
「迷惑かけた分はしっかり一発食らってよね!」
 斗碧は素早く踏み込み、実方のどてっ腹へと刃を力強く押し込む!
「グオオオオッ! ふ、不埒者めがぁっ!!」
 傷口を抑えながら激昂する実方! 実方はそこから素早く身を翻しながら斗碧の立つ場所から間合いを取り、態勢を整える――そして。
「よくも麿に斯様な傷を……もう許さぬぞ下賤の者ども!!」
 咆哮――瞬間、実方の身体が爆発するように弾ける! 実方の身体は無数の雀と化して広がり、倉庫内を激しく飛び回った!
「うわ……なにこれ!」
「っ……!」
 鋭い嘴と鉤爪が刃と化し、嵐となって庫内を暴れ回った。まるで弾幕の真っ只中! 激しい攻勢に斗碧とアガーテも傷を刻まれる。
「ほほほ……! 麿を侮るでないわ、小娘ども!」
 雀の群れが結集しなおし、そこに実方の姿を再構成する。一筋縄ではゆかぬぞと実方は挑発的に嗤った。
「痛っつ……えらそうにしてるだけのおじさんじゃないってことか……」
「けど、向こうだって消耗してるのは間違いないよ。このまま押し込んでやっつけよう!」
 二人は傷を抑えながら立ち上がり、そして再びそれぞれの手に刃と銃を握り締める。

 かくして、再び始まる交錯! ここに妖怪犯罪者たちをそそのかした事件の黒幕、藤原実方との戦いが幕を開けたのであった!

アメリア・ノクタルガス
クラウス・イーザリー

「はぁ……憂鬱ね」
 アメリア――アメリア・ノクタルガス(h03600)は、移動中のバス車内でため息をついた。
「……どうしたの?」
 問うたのはクラウス・イーザリー(h05015)である。
 ふたりはダイバ・シティでの赤熊鬼との戦いの後、二人は聞き出した情報をもとに事件の黒幕である藤原実方が潜む芝浦の倉庫区画へと向かっていた。
 なお、バスに乗るにあたってノクタルガスは人間態――銀髪の少女アメリアの姿へと変じている。
 アメリアは物憂げな表情で手にしたスマートフォンの画面を閉じた。
「ひどいニュースを見たわ」
「どんな?」
「鳥インフルエンザ……この世界の家畜がかかる伝染病なんだけどね」
 アメリアがバスの天井を仰ぐ。
 彼女が目にしたのは、鳥インフルエンザ――ニワトリなどの鳥類の間で感染する伝染病に関する記事であった。
「病気が広がらないようにするためとはいえ、数十万羽を全て殺処分……」
「……なんてこと」
 防疫のため、という理由があり、その必要があるとはいえ。
「あんまりよ。この√の人間を見る目が変わってしまいそう……」
「かわいそうでもあるし、食糧問題にも影響してきそうなニュースだね……」
 クラウスは重々しく頷いた。|彼の出身世界《√ウォーゾーン》において、食糧問題は√EDENのそれよりも身近にある。クラウス自身、そうした問題の深刻さは身をもって実感していた。
 人々の食卓に並ぶ鶏卵や食肉になるはずだった家禽がそのように処分されている状況だ。√EDENの食糧事情にも少なからず影響が出ることだろう。
「そんな状況で、今回の敵は更にこの世界の食糧を狙ってきたってことか」
 ――そんな最中に人々の糧となる米を襲いに来たとは。その悪辣さにクラウスは怒りすらおぼえる。
「この事件……何としてでも止めなければいけないね」
「……そうね」
 アメリアは静かに頷いた。

 そうして――二人は戦場たる倉庫区画へと至る!
「そこまでよ、古妖」
「人々の食糧を奪うだなんて、そんなこと……もうこれ以上は許さないぞ!」
「なにィ……?」
 ダァンッ! 開いた扉から中へと踏み込むアメリアとクラウス。倉庫の奥で米を食んでいた今回の事件の黒幕――古妖・藤原実方は、不快げに表情を歪めながらゆっくりと振り向いた。
「またるうとえでんの者どもでおじゃるか……。フン、またぞろ麿の邪魔をしにきおって」
 藤原実方が二人を睨んだ。
「だが、これ以上赦さぬというのは麿の台詞でおじゃるぞ。麿の雅な昼餉の時間を妨ぐとは、なんたる不埒者か!」
「この世界の人たちの生きる糧を食い荒らすことのなにが雅だって言うんだ!」
「これ以上は言葉を交わす価値もないわ。――はやいとこお帰りいただきましょう」
 対し、二人は戦闘態勢へと入る。引き抜いたスタンロッドを構えるクラウス。アメリアはその姿を|獣妖《ノクタルガス》の身体へと変じた。
「小賢しいわ! 返り討ちにしてくれるでおじゃる!」
 迎え撃つように実方も戦闘態勢に入る。疾く来よ、と呼びかける声に応じて、雀の頭を持つ怪人――雀妖の群れが姿を現した。
「行くでおじゃる!」
『ぴいちくぱあちく!』
『ぴいちくぱあちく!』
 ざっ! 倉庫の床を蹴立て、身の丈八尺にも達する雀妖たちが二人のもとへと攻め寄せる!
「集団で来たか……けど、負けるわけには!」
「いや、ここは私に任せろ」
 クラウスが身構えるが、ノクタルガスがその前へと進み出た。
「作戦がある」
 笑うように喉を鳴らすノクタルガス。クラウスはその様子に、任せるよ、と頷いた。
「……行くぞ!」
「フン! なにを仕掛けるつもりか知らぬでおじゃるが……麿の軍団に勝てるはずがないわッ!」
『ぴいちくぱあちく!』
『ぴいちくぱあちく!』
 迫る雀妖の軍団! ノクタルガスは敵群に対し素早く飛び掛かり、真正面から突っ込んでいった。
『ぴい!』
「ほーっほほほほ! なにをするかと思えば馬鹿正直に飛び込んでくるだけとは、うつけにも程があるでおじゃる!」
 嘲笑う実方。そのまま囲んで押し潰してしまえい、と実方は雀妖たちに命じる!
「――お前たち、こんな言葉を知っているか?」
 しかし。
「『樽一杯のワインに一滴の泥水を入れれば、それは樽一杯の泥水になる』……とな」
 ノクタルガスは、怯まない。
「何を言うておるでおじゃ!」
「つまり――こういうことだ!」
 瞬間――ノクタルガスの姿が消えた!
 否、消えたのではない。影を纏う一瞬。ノクタルガスは|変化の力《√能力の一つ》――を用いることでその姿を変えたのだ。
「ムウッ!?」
「記事で読んだぞ。人間たちはな、家畜に疫病が蔓延った際には――疑わしきものをまとめて処分するとな」
『ぴぎゃアッ!!』
 ばしゅッ! ――血飛沫! 雀妖のうちの一体が血を噴き出しながらのたうち回り、悲鳴を叫んで斃れる!
「なに……!? どういうことでおじゃ! 何が起きておるでおじゃる!?」
「まだわからないか?」
 ざしゅッ! ふたたびの血飛沫と悲鳴。雀妖がまた斃れる。
「|泥《私》が混じったのだ」
 |雀妖のうちの一体《ノクタルガス》が仄かに笑んだ。
 ――そう。ノクタルガスは|消えた《・・・》のではない。彼女は雀妖の軍団の中へと飛び込みながら、変化の術によって自らの姿を雀妖そっくりに変えて紛れ込んだのだ。
「止めたければすべて殺処分でもしてみることだな!」
『ぴぎゃあッ!!』
 薙がれる爪。響く悲鳴! またも雀妖が斃れる!
「ヌ、ヌ、ヌゥゥ~~ッ!!」
 雀妖軍団は混乱の最中にあった。群れの中に異物がまぎれているのだ。密かに襲い来る敵は、不意を打って仲間たちの次々に殺し軍団の連携を乱してくる――! 軍団は既に戦力としての体を為さなくなっていた。
「こっちの連中の相手はこのまま私がする。お前は奴を討て」
「わかった!」
 そうして、ノクタルガスが雀妖たちを相手取っている隙にクラウスは走った。目指す先には黒幕、藤原実方!
「おのれぃ! 小童どもが、麿を舐めおってからに!!」
 実方は激昂の叫びとともに向かい来るクラウスへと向かって飛び掛かった。手にした扇子でクラウスを殴りつける!
「くっ!」
 クラウスは手にしたロッドで打撃を受け流し、サイドステップで間合いを測りながら態勢を整えた。
「よくも麿の雅な策を邪魔立てしてくれたでおじゃるな……万死に値するでおじゃるぞ!」
 そのふくよかな体つきからは想像もできぬ速度! だぁんッ! 震脚! 力強い踏み込みとともに実方がクラウスへと更なる追撃をかける!
「強い……、けど!」
 衝撃に押され後方へと飛び退かされながら、しかしてクラウスはぎりと歯噛みして痛みを耐え、そしてその身に宿す|力《√能力》を励起する!
「なんの罪もない人たちの生活を脅かすような奴に、負けるわけにはいかない!」
 アクセルオーバー。クラウスの身の内に力が巡る。回路を巡る電流のように、力は光を帯びながらクラウスの全身に纏わった。
「なに……! 何でおじゃるか!?」
「俺の全力だ!」
 瞬間、クラウスの姿は実方の視界から消えた。
 ――纏う電光がクラウスの肉体と精神を加速させていた。さながら稲妻。光とともに駆けるクラウスは、輝く軌跡を残しながら実方へとぶち当たり、衝撃を叩き込む。
「ヌウッ!」
「√百鬼夜行の古妖……折角蘇ったところなんだろうけど、また眠ってもらうよ」
 閃くスタンロッドの一撃が、実方を狙う!
「小癪な!」
 ――だが、実方も負けてはいない。一撃をもらいながらも、その目はクラウスの動きを捉え、迎撃態勢を整えていた。振り抜いた扇子でロッドを迎え撃ち、弾く!
「ヌンッ!」
「はっ!」
「下賤の者がァッ!」
「だあっ!」
 繰り返される交錯! スタンロッドと扇子がぶつかり合って火花を散らした。力と力が競り合い、幾度となく激突する!
(全力だっていうのに、互角に持ち込むのが精一杯か……!)
 クラウスは努めて表情には出さず、しかしてわずかに苦悶した。さすがに古の妖というだけのことはあるか。相応の力量を持っていることは間違いあるまい。
「ほほほ! どうしたでおじゃるか、先までの威勢のよさは!」
 それどころか、実方が押し込んできたのだ。クラウスは徐々に守勢へと追い込まれてゆく――
「そうはいかない」
 そのときであった。
「なにィッ!?」
 ざしゅ、ッ!! ――実方の腹が突如切り裂かれたのだ。切り口から返り血めいて羽毛が噴き出し、困惑した実方が思わず後退する!
「私の存在を忘れていたな?」
 ノクタルガスであった。
「なに……!? き、貴様! 麿の手下たちは!?」
「とっくに全員斃しきった」
 クラウスが実方を抑えている間に、ノクタルガスは雀妖たちを全滅にまで追い込んでいたのだ。そうして、急ぎクラウスへの助力に駆け付けたのである。
「二対一、ってことになるけど……あなたがまだ人々に害を為すつもりだっていうなら、容赦はしない」
 ――そうして、二人はあらためて実方へと対峙した。
 おのれと歯噛みする藤原実方。実方と二人の間に敵意と戦意が交錯し合い、再び空気が熱を帯びてゆく。
 そうしてから――再び戦端は開いた。

 かくして更なる激闘。√能力者たちと古妖・藤原実方の戦いは、続く。

アーシャ・ヴァリアント
柳檀峰・祇雅乃

「どぉ、ッ、らぁあああああああああああああああああッ!!!!」
「ヌウウウウウウッ!!」
 轟音――爆炎! 芝浦区域の倉庫から、絡まり合うように燃ゆる炎の軌跡を描いてふたつの人影がまろび出る!
「でぇいっ!」
 そのうちの一人――アーシャ・ヴァリアント(h02334)は、揉み合っていた敵・藤原実方を蹴飛ばして反動で後方へと飛び退き、態勢を整えた。
「小賢しいでおじゃる!」
 戦いの相手である藤原実方もまた巧みに身を翻し、炎を振り払いながら倉庫地帯の地面に降り立った。
「麿の雅な計画を潰しに来るとは! なんと迷惑な連中でおじゃるか!」
 袖を振り乱しながら実方は出あえ出あえと叫ぶ。声に応じて陰より現れる雀妖軍団!
「ゆけ、我が手下どもよ! あの女を叩き殺すでおじゃる!」
『ぴいちくぱあちく!』
『ぴいちくぱあちく!』
 屈強な肉体をもつ悪辣な雀妖の群れは、邪悪に囀りながらアーシャめがけて走り出した。
 ――しかし!
「よー……いしょっ!」
『ぴいっ!?』
 雀妖たちの進路に、大きな影が落ちる――思わず仰ぎ見た雀妖の一体が見たのは、今まさに降り来る靴底。だぁん、ッ!! 次の瞬間、雀妖は圧殺され爆死を遂げていた。
「見つけたわよ。あなたがこの事件の黒幕ね!」
 爆発の煙を振り払い、まっすぐに実方を指すその女は――柳檀峰・祇雅乃(h00217)!
 ――二人はダイバ・シティでの戦いの後、熊鬼が吐いた情報をもとに黒幕である古妖・藤原実方の居場所を特定し、その作戦を叩くために急ぎ駆け付けたのだ。
 まず先陣を切ったアーシャが見つけた実方へと先制して奇襲めいた蹴り足をぶちかまし、そこに祇雅乃が合流した、という状況であった。
「あのクマが吐いた情報通りよ」
 祇雅乃の隣へとアーシャが並び立つ。二人は構えなおしながら、雀妖の群れと藤原実方へ対峙した。
「食糧の盗み食いだなんて……地味だけど面倒くさいことしてくれちゃって」
 辟易した顔でアーシャは唸った。
「とはいえ、戦略としては間違ってないのよね。失礼ながら、意外とちゃんとした計画で驚いてるわ」
 一方、祇雅乃はちょっと感心した様子であった。
「陽動に使ったのがあんなチンピラ妖怪連中じゃなかったら危なかったかも」
「あー……まあ、そうね。あのクマが口割らなかったらここまでたどり着いてないワケだし」
「フン……。あの低級妖怪どもめ、易々と口を割ったでおじゃるか。腕っ節が効くと思うて任せたが、麿の見込み違いでおじゃったな」
 実方は不快げに吐き捨てた。
「それはそれとして、よ」
 ここで祇雅乃はその表情を引き締めながら、藤原実方を睨みつける。
「昨今のお米の高さに辟易している一人として、とっても許しがたい計画なので……ここできっちり潰させてもらうわね?」
「ええ。アンタ達に食べさせる米なんて一粒もないわよ! さっさとぶっ飛ばしてやるわっ」
 アーシャも構えを取り直し、その双眸に熱く戦意を燃やす。
「フン……! 麿の雅な策を邪魔立てする不埒者どもめが!」
「誰が不埒者よ! 他人の物勝手に食べてるアンタたちの方がよっぽど不埒でしょうがっ!」
「食べ物の恨みは怖いのよ、藤原実方さん?」
 激昂する藤原実方に怒鳴り返すアーシャ。祇雅乃もまた実方を睨み、三者はいずれも敵との間合いを測る。
「麿は|やんごとなき《藤原の》一族の貴人でおじゃるぞ! 貴様らのような下郎どもとは違うでおじゃ!」
 曰く――この世の中のあらゆるものは、我が一族のためにこそ存在するのだと実方は嘯く。文字通りに『この世をば我が世とぞ思ふ』ているのだ。
「うっわ、ほんとにどうしょもないヤツ……!」
「このくらいわかりやすい悪い奴だと、逆に後腐れなくていいわよ」
 嫌な顔をするアーシャに、祇雅乃が冗談めかして笑いかけた。
「笑っていられるのも今だけでおじゃる!! 行け、手下どもよ!」
『ぴいちくぱあちく!』
『ぴいちくぱあちく!』
 ふたたび響く邪悪な囀り! 態勢を立て直し戦列を整えた雀妖の軍団が、あらためて二人へと襲い掛かろうとしていた!
「数で押してこようってワケね。典型的な小物って感じ!」
「このくらいなら……全部まとめて相手できるわよ!」
 しかして、二人は僅かばかりも怯むことなく敵群を迎え撃ちにかかる!
「すぅー…………ッ!!」
 アーシャは深く息を吸い込んだ。肺腑の奥へと空気を送り込み、そしてほんの少し息を止める。
 それから。
「動いたらぶっ殺すわよっ!!」
 ――その|声《・》を、響かせた。
 竜として生まれ付いたその強靭な肉体を最大限に活かして肺活し、常人が間近で聞けば鼓膜を破壊されるほどの凄まじい音をその配布と声帯から|撃ち出した《・・・・・》のである。
「ムウ……!?」
『ぴいいいいいっ!?』
『ぴいいいいいい!!』
 半径十数メートル圏内のガラスを割るほどの怒声が、雀妖たちを震え上がらせた。古妖さえ怯む声の勢いは、配下の木っ端妖怪如きで容易に耐えられるものではない。
「いい声ね。惚れ惚れしちゃうわ」
 アーシャの怒声と同時に、祇雅乃も飛び出していた。
 『ちょっと本気を出す』気持ちになって、祇雅乃は両腕に力を込め、そして掲げた|『混沌の生成と分解、再構成について』《書物》を振り回しながら敵陣へと飛び込んでゆく。
「私も本気でいきましょ」
『ぴぎゃッ!?』
 振り下ろした魔導書の角が雀妖の頭部を粉砕し絶命せしめた。斃れる雀妖の身体を蹴飛ばして退かしながら祇雅乃は前進。瞬く間にもう一体をフルスイングした本の角で真っ二つにへし折って抹殺する。
 雀妖たちはアーシャの『声』で身体の自由を奪われたに等しい状態であった。であれば、積まれた段ボール箱を蹴倒していく作業ほどの苦労もない。祇雅乃は微笑みを湛えたまま淡々と雀妖たちを処理してゆく。
「ヌヌ……ウヌヌヌヌヌゥッ!! おのれぇっ!!」
 ――しかして!
「麿の手下どもをよくも潰してくれたでおじゃるな!」
 さすがに古のものと言うべきか。藤原実方は手下の雀妖たちと異なり、既に回復していた。
「カアッ!」
 実方は咆哮とともに前進し、祇雅乃へと飛び掛かる!
「あら――!」
「死ねい!」
 ざッ! 実方は閉じた扇子を暗器めいて突き出し、祇雅乃を襲う! 祇雅乃は咄嗟に書物をぶつけて軌道を逸らし、掠り傷にとどめた。
「ヌンッ!」
 だが追撃。そのふくよかな体型からは想像もつかぬ俊敏な身のこなしで、藤原実方は祇雅乃へと攻め寄せた。
「なるほど、さすがこれだけ手下を操るだけのことはあるわね……なかなかの実力者!」
 祇雅乃の戦闘力をもってしても、実方は容易に制圧できる相手ではなかった。鋭く重い攻撃が素早く、そして幾度となく攻め寄せ、祇雅乃を追いつめにかかる。
 祇雅乃は力を込めて応戦するも、攻撃を受け流すので精一杯であった。見た目に似合わず、藤原実方は真正面からのぶつかり合いも得手としている!
「大女よ! お前もなかなかやり手のようでおじゃるが……麿には及ばぬでおじゃ!」
「く、っ……」
 渾身の力で撃ち込んだ一撃が、祇雅乃を揺るがした。ざり、と靴底が音をたて、祇雅乃は大きな後退を余儀なくされる。
「これでとどめでおじゃる!」
 そして、追撃とばかりに再び飛び掛かる実方――!
「今よ!」
「がぁ、っ!」
 ――しかして、そのときである!
「があああああああううううううぅぅぅッ!!!」
「……なにぃ、ッ!?!?」
 迸る、炎! 激しく燃え上がる火の手が藤原実方を呑み込むように包む
「ぐお……ッ!! 何でおじゃるか、この炎はッ!?」
 激しい熱にその身を苛まれながら、実方は叫んだ。
「|灼熱の吐息《サラマンドラ・バーン》……知らない? これがドラゴンの炎よ!」
 その炎を仕掛けたのは、むろんアーシャである。
 ――祇雅乃が実方と打ち合っている間にアーシャは再びおおきく息を吸い込んで、ブレスの準備をしていたのだ。
 祇雅乃は実方を抑え込みながらアーシャが炎を誂える時間を稼ぎ、それと同時にもっとも炎の勢いを強く受ける位置まで誘い込んでいたのである。
「大成功ね」
「ええ!」
 炎にまかれる実方を見下ろして、二人はハイタッチした。
「う、ぬ、ぬ、ぬゥ…………ッ!! おぉぉぉのれぇッ!!」
 しかし、咆哮!
 藤原実方は、激しい怒りとともにその全身に蓄えた力を打ち放ち、纏わりついた炎を払ったのだ。
「ハア、ハア、ハア……! き、貴様らァ……! よくも麿にこれほどの恥辱をッ!!」
 激憤とともに実方は叫ぶ。血走った双眸。鬼の形相で実方は二人を強く睨めつけた。
「かくなる上は……麿の全身全霊を以って貴様らを嬲り殺しにしてくれるでおじゃる!! 生まれてきたことを後悔するがよい!!」
「あらー……だいぶお怒り?」
「キレてるってことはそれだけ追いつめられてるって証拠よ。このままやっちゃいましょ!」
 激しく憎悪と闘志を燃やす実方! しかして、祇雅乃とアーシャはひるむことなく真正面から対峙した。
 ――かくして、燃える倉庫区画において√能力者たちは睨み合う。

 戦いは、最終局面へと入ろうとしていた!

シャオ・ホァピィ
ジナ・ムゥ・マナミア

「おのれぇぃ! おのれおのれ、るうとえでんの能力者どもめ……! よくも麿の邪魔をォ!」
 港湾区域――芝浦倉庫エリアに、怒りの声が響き渡る。
 事件の黒幕である藤原実方は、ここに至るまでの√能力者たちとの戦いでその身体を大きく疲弊させていた。
 既に致命傷に近いダメージすら刻みつけられている。あと一押しで、封印が可能になるまでにもっていくことができるだろう。
「かくなる上は……残る麿の力をもってして、ここら一体の米という米を喰らいつくしてくれるでおじゃる!!」
 しかして、藤原実方の身に宿る怨念は、ここで斃れることを許さない。
「おおおおおおおおッ!!」
 そうして――咆哮とともに動き出した藤原実方は、まだ襲っていない倉庫の棟を目指して進み始めた。

「……お米泥棒、とは」
 ジナ・ムゥ・マナミア(h00906)は微妙な顔で藤原実方の姿を見た。
「派手にやった割には随分おセコい悪巧みでしたわね……」
 あれだけの|戦力《犯罪妖怪たち》を動員しておいて、最終的な目的が米の盗み食いとは。拍子抜けですわ、とジナは呟いた。
「もっと、こう……ものすごい悪事を企んでいるのではないかと思っていましたのに」
 ほんのり残念がるジナ。しかして、その一方で。 
「こ、こいつかぁ~!」
 シャオ・ホァピィ(h06287)は頭を抱えていた。
「……ご存じですの?」
 シャオの反応に、ジナは様子を伺う。
「いや……けっこう有名人だよ。かなり有名な和歌アーティスト……。……アーティストとしてすげー人だと思ってはいるんだけどさ……」
 藤原実方。
 √EDENの正史における平安時代の人物であり、かの名家・藤原一族に連なる貴人のひとりである。
 歌を詠む才に恵まれ、当時はたいへんな浮名を流したことでも知られている。源氏物語に語られる光源氏のモデルとなった貴人の一人でもあるのだという。
 ――しかして実方は宮仕えの貴人であった身分から職場でのトラブルによって左遷の憂き目に遭い、失意のうちに没したという記録も残されている。
 その恨みの化身が雀と化して穀物を食い荒らした、という逸話が、いまここに在る√妖怪百鬼夜行の古妖・藤原実方の核となっている。
「……っていう人らしーんだよね」
 オンライン百科事典の記事を参照しつつ、シャオは説明を終えた。
「なるほど……雀の特質を。だからお米にこだわるんですわね」
「そういうことみたいだけど…………ううん。そっか、こいつが黒幕かぁ~……しかも米泥棒かぁ~……」
 シャオは苦々しい顔をした。
 絵描きと和歌詠い、と、畑は違えど藤原実方はシャオと同じく|芸術《アート》の分野で大成した大人物だ。その人物像にシャオは尊敬の念すら持っていたといってもいい。
 ――しかして、そのように尊敬していた者の振舞いがこのような悪質米泥棒とは。シャオは憧れを踏みにじられた思いであった。
「あの……気を落とさないでくださいまし?」
「あ、うん……。ゴメン、ありがと」
 励ますジナに頷き、シャオは気合を入れなおした。シャオは大筆を引き抜きながら戦闘態勢に移る。
「まあ、兎に角やっつけるか……超迷惑だし」
「そうですわ。この世界の人々を困らせるつもりでしたら、どのような方でも許すことはできません!」
 ジナはドロンパクトを開いて光を纏う。ジナは素早く短縮版の変身バンクを挟んでめたもる☆ジーナの姿へと変じた。
「オッケ。こっちもいくよ!」
 シャオは懐から一枚の画用紙を取り出すと、引き抜いた大絵筆を紙面に走らせそこに一体の妖怪の絵姿を結ぶ!
「どろんっ!」
 そうして、変じる姿! ――かくして、戦闘形態へと変じたふたりは、藤原実方の討伐へと向かう!

「ゆくでおじゃるぞっ!!」
 その一方。藤原実方は√EDEN世界に対する兵糧攻め作戦を完遂するべくして倉庫棟へと向かい驀進していた。
 引き連れた雀妖軍団とともに凄まじい勢いで実方は食品倉庫へと迫る!
 ――しかし、そのときであった!
「まてぇい!!」
「ヌゥッ!?」
 悪を咎め、その悪行を阻む鋭い鬨の声が響く!
「何奴……! どこでおじゃるか! 姿を見せい!」
 だが、その姿は周囲に見えない。どこにいるのだとあたりを見渡す実方――そこへ、更に声が降る!
「人々の生きる糧を荒らし笑顔を奪う悪しき妖怪よ、聞くがいい」
 渋い男性の声色。ばさ、と翼が開く音が鳴り、黒い羽が散った。
「……上でおじゃるか!」
 そしてその時、藤原実方は見た。
 倉庫棟の屋根上。そこに佇む二人の影を!
「我欲と悪意によって人を傷つけんとするならば、必ずやその前に立ちはだかる壁が現れる……」
 男の声音に続いて口上を継ぐめたもる☆ジーナ。ジーナともうひとりは、倉庫棟の屋根面から一歩を踏み出す。
「その壁は必ずやお前の邪悪なる野望を阻み、人々の平和と安寧を護るだろう」
「そして、その壁の名を」
「……『正義』という!」
「やあっ!」
「トォッ!」
 ――跳躍! 日の光を受けながら、ふたつの影が藤原実方の目の前へと舞い降りる!
「めたもる☆ジーナ!」
 片や、戦闘形態へと化けたジナ。
「特警天狗・クロガラス!」
 もう一人は――同じく戦闘形態へと化けたシャオである!
 シャオが化けたのは√百鬼夜行世界でも有名な伝説的天狗|警察《ポリス》の筆頭捜査官のひとり、特警天狗・黒烏であった!
「ヌ、ヌゥゥッ!?!?」
『ぴいいっ!?』
 |クロガラス《変身した今のシャオ》は身の丈七尺にも達する偉丈夫だ。隆々とした体躯はそこに佇むだけで威圧感さえ放つ。
『ぴ、ぴいいっ!!』
「む、むむ、ムゥッ!」
 実方配下の雀妖たちは、対峙したこの一瞬だけですっかり戦意を喪失し、既に散り散り逃げ出していた。実方自身も|クロガラス《シャオの変身姿》に怯んでいる。
 ――なぜならば、|天狗警察の烏天狗《カラス》は|犯罪妖怪《雀妖たち》からしてみれば|捕食者《天敵》そのものであるからだ。本能的な恐怖が雀妖たちを襲っていた。
「さあ、追いつめたわ。妖怪犯罪者たちをあやつる黒幕、藤原実方!」
 観念しなさい、とジーナが指先を突きつける。
「そろそろ年貢の納め時ですわよ……お米だけに!」
「おのれ……うまいこと言ったつもりでおじゃるか!!」
 しかして、ここで実方は逆上した。
「|天狗《ポリ》にビビってイモ引くくらいなら、ハナから斯様な策など立てぬでおじゃる!!」
 見せる戦意! 実方は懐から一枚の短冊紙を取り出しながら筆を引き抜き、そこに文字を綴り始めた!
「……あら? 観念してハイクを詠むなんて随分と潔い……」
「いや、違うぞめたもる☆ジーナ!」
 突然の奇怪な行動に困惑しかけたジーナであったが、|クロガラス《シャオ》が警告する。それと同時、|クロガラス《シャオ》は駆け出していた。
「遅いでおじゃる! ――『かくとだに 乞うて焦がれし 果ての地や――』」
 だが、実近の方が一手早い! 実方が詠んでいるのは己の呪力を込めた呪詛の詩歌! 声に乗せて呪いの力が周囲一帯の区画へと拡散してゆく!
「これは……呪歌!?」
「ほほほほほ……麿の力ははかなく弱きるうとえでんの民草どもには覿面でおじゃろう。麿の声を聞いた者は一人残らず麿に恋焦がれなんでもいうことを聞く手下になるのでおじゃ!」
 飛び込んだ|クロガラス《シャオ》をあしらいながら、実方が嘲笑う。
「ほぉれ、麿を放っておいてよいでおじゃるか? こうしてる間に、ここら一体の下郎どもは皆麿の手駒となるでおじゃるぞ!」
「こやつ、なんと陰湿な真似を!」
「なら、こっちは任せて!」
 |木の葉式神《ハッパーファミリア》! ジーナはその身に宿す霊力を木の葉に宿らせて式を作り出すと、それを風に乗せて放った。木の葉式神たちは素早く周囲一帯へと広がり、呪歌の影響を受ける人々を救い出すべく駆け回る!
「なに……!? 式神でおじゃるか!?」
「なるほど。これがあれば我々が出向かずとも貴様の呪歌に囚われる人々もすぐに救い出せる、というわけだ」
「ええ。けど|木の葉式神《ハッパーファミリア》がなかったら実際危うかったわ。とことん小賢しい化けスズメね!」
 実方は戦場近くの人々へと累を及ぼすことで救助などのために√能力者たちが戦場を離れざるを得ない状況にしようとしていたのだ。その間に戦場から逃れようとでもしていたのだろう。しかして今回はジーナの木の葉式神たちの存在が救助要員を引き受けたがために、その策も失敗に終わったのだ。
「お、おのれ……!」
「……そういうわけで、これでおしまいよ。化けスズメ!」
「うむ。その蛮行、見逃すわけには行かぬ……!」
 後退る実方へと、めたもる☆ジーナと|クロガラス《シャオ》がにじり寄った。
「グ、ヌゥ……ッ!!」
 藤原実方は、ここに至るまでに√能力者たちと幾度となく打ち合い、戦いの最中に内包した妖力を大きく削り取られている。
 ――ここまで強がってこそいたが、もはや実近には多くの力は残されていなかったのだ。
 あと一撃、強烈なやつをもらえばもはや耐えられないだろう。
「それじゃ……今度こそ詠んでもらうわよ、辞世の句をね!」
 そうした状況を知ってか知らずか。二人は実方へと迫り――めたもる☆ジーナは|卒塔婆《ソートヴァー》を。|クロガラス《シャオ》は|錫杖《杖へと変化させた大絵筆》を掲げる。
「成敗ッ!」
 そして、ふたりが繰り出す渾身の一撃!
「グオオオオオオオオオオオオッ!!! ば、馬鹿なアアアアアアアアアッ!!!」
 かくして正義の鉄槌を受けた藤原実方は、断末魔めいた絶叫を残しながら爆死を遂げて√百鬼夜行世界の封印の祠へと強制送還されていった。
「せめてご飯は炊いて食べるべきだったわね、藤原実方!」
「そういう問題でしたでしょうか……?」
 燃ゆる実方の爆死の炎を振り払いながら、変身を解いた二人は勝利のポーズとハイタッチを決めたのであった。

 ――こうして、√百鬼夜行世界からの侵略の手は√能力者たちによって食い止められ、日本の食卓の平和もまた守られたのである!
 しかし、√EDENを狙う魔の手はまだそこらじゅうに潜み、日夜この世界を狙っている。√能力者たちの戦いに終わりはない。
 戦いを終えた√能力者たちは、次なる戦いへと向けてふたたび走り出すのであった。

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