竜少年を守れ!
『ダンジョニア』
とある√ドラゴンファンタジーにて、その施設は満を持して開設された。
そこは冒険者にあこがれる子供たちのための、ダンジョンを模した体験型施設だ。
入り組んだ迷路の中には、モンスターのぬいぐるみが待ち構えてあり、時にはお菓子が詰め合わせられた宝箱も見つかる。
参加した子供には武器風の玩具が与えられ、一切危険が排除された冒険が繰り広げられる。親もその様子を眺め、我が子の将来に期待してしまうだろう。
オープンしてすぐに人気を獲得し、各地から夢見る子供たちをこぞって集めた。
平穏に笑い声が飛び交う中、とある少年が入り込む。
彼は、ドラゴンプロトコルだった。
かつて|竜《ドラゴン》だったその身は、しかし記憶と共に奪われて幼子の体へと堕とされた少年。
と言っても本人に自覚はないし、その力もまだ眠っている。
彼はただ、普通の子供と同じように遊びに来て、しかしその正体から狙われた。
悲鳴が上がった。鳴き声が伝播する。
子供たちの楽園は破壊され、踏み荒らされた。
そして角を生やすその少年に、悪の手が伸びる。
「おお、真竜の復活のため、その身をお捧げください」
恭しい言動で、未来を摘み取ろうとした。
●
「喰竜教団という組織が、ドラゴンプロトコルを集めて何やら企んでいるようです」
星詠みは予言を語る。
「ええ。かつては竜だった者たちです。そう容易くさらわれたりはしないのですが、それでも戦う力をほとんど持たない者も多くいます。そう言った弱者ばかりを狙って誘拐していっているようです」
悪の犯行にため息をつきながら、具体的な情報を語った。
「√ドラゴンファンタジーの子供向けダンジョン体験施設に、竜であることを忘れた少年がやってくるみたいです。それを嗅ぎつけて、喰竜教団がやってきます。当然一般人も多くいるのに構わずです」
そうして現場への扉を開き、√能力者を送り出した。
「出来る限り、被害のない対処をよろしくお願いしますね」
第1章 冒険 『子供用ダンジョン』

シンシア・ウォーカーは目新しいその場所に思わず口元をほころばせた。
「ダンジョン体験施設!近頃はこんなものが。」
かなり本格的に作られたセットの中を、子供たちが無邪気に駆け回り、時には勇ましさを見せている。それを眺めつつ、事件を防ぐための調査をしながら、冒険者の先輩として何か指導できたらと踏み込んだ。
館内にいるのは見る限りは子供とその保護者、それにスタッフ程度。しかし警戒は緩めず子供たちと交流していった。
華憐な格好の女性に、子供たちは興味津々に瞳を向ける。
「お姉さん誰ー?」
「シンシア・ウォーカーと言いまして、私は冒険者なんです!なんでも聞いてね」
「えーじゃあモンスターやって!」
と子供の無茶振りに、微笑みながら応える。
「構いませんよ。それなら私はとっても怖いモンスターです。私に見つからないよう逃げたり隠れたりしてください。冒険者にとって一番重要なのは逃げ足ですからね!」
「えーカッコ悪くない?」
「命より大事なものはありませんから。それに痛いのは嫌でしょ?」
納得をした子供たちは早速散り散りに逃げていく。それにシンシア・ウォーカーは大人の本気を見せて、瞬く間に捕まえていくのだった。
七槻・早紀は駆け回る子供を見て口端を釣り上げる。
「ははっ。遊び場みたいなもんッスけど、やっぱこういうのこそ、本気出すのが筋じゃないスかねぇ! なぁに、子供に混じるたってアタシも子供みたいなモンッスから。」
彼女も精巧に作られたセット内に踏み込み、子供たちの遊び相手になった。子供以上にはしゃぐその様に、どんどんと好感度が上がっていく。
「おーし、じゃあ次の部屋をクリアした子には、アタシからお菓子をプレゼントしてあげるッスよー!」
「わー!」「やるやるー!」
実用的な訓練もやらせるために、褒美で釣る。するとたちまち子供たちは、トラップが仕掛けられている空間へと入り、解除に勤しんでいった。
作戦成功と腕を組んで眺めていると、ふと一人だけ取り残されている子供を発見した。その頭部には角が生えていて、星詠みの言っていた少年だとすぐ分かる。
「混ざらないんッスか?」
「え? あ、いいの……?」
「もちろんッス。特別に、予約も受け付けるッスよ」
七槻・早紀そう言うと少年は表情を華やがせて、陳列された褒美を嬉しそうに眺めるのだった。
安藤・ポチは事件現場に踏み込むと、わっと子供たちが群がった。
「うわわっ。自分の毛並みはこんなにも魅力的ですかっ」
想像以上に子供の好奇心を引き寄せていることに驚きつつも、注意深く辺りを見渡す。喰竜教団という組織の人間が混ざり込んではいないか、一人一人観察していった。
「わんちゃんモフモフ—!」「お手して!」「次わたし触らせてっ!」
子供たちは相変わらずその毛並みを撫でていて。中々動けない状況にふと、安藤・ポチは利用しようと考える。
「触りたいならこっちに来てくださいっ」
無理矢理子供たちの輪から抜け出し、逃げ出す。すると大勢の少年少女がそれに釣られて追いかけてきた。
「事件が起きる前に、出来る限りの非難を誘導しましょう」
全ての子供たちを引き連れて来れている訳ではなかったが、他にも√能力者はいるようだし、これでかなりやりやすくはなっただろう。
「問題は、事件が起きた時に、子供たちを振り切れるかですが……」
とりあえず先の事は後にしようと、安藤・ポチはとにかく走るのだった。
第2章 集団戦 『ダークエルフ』

それは、最初からそこに潜んでいたのか。子供たちが、群がる部屋の中に突如として現れる。
黒い肌に尖った耳、整った顔立ち。その姿に子供たちは、警戒をせずぼけっと眺めている。そして、その少年を担ぎ上げた。
「無礼をどうか。あなたには私たちについてきていただきたく」
「えっ? なにっ?」
角の生えたドラゴンプロトコルの少年、ダークエルフが攫う。その優雅な振る舞いに、これから恐ろしい事が起こるとはまだ誰も気付いていない。
しかし去り際に、刃は振るわれた。
「回収はした。惹きつけておけ!」
その一括と共に似た姿のダークエルフが突如として現れる。それらは少年を連れ去る隙を作るために、騒ぎを起こそうとした。
七槻・早紀は少年をさらうダークエルフを目撃し、顔をゆがめる。
「げッ、まずい。んでも追いついちまえば問題ないッスね! てわけで速攻でなんとかするッスよ!」
しかし、うろたえる事もなくすぐに地面を蹴った。そして念動力で自前の鉄パイプを先行させて敵を吹き飛ばす。足を止めたその隙に距離を縮め、浮遊している鉄パイプをキャッチしてそのまま少年をさらったダークエルフを殴打した。
「さあ、少年を返してもらうッス!」
しかし手を伸ばした瞬間、別のダークエルフが割って入り邪魔をされる。
「数が多いのは厄介ッスね!」
向けられる武器を|棺桶《Jack》で受けて身を守る。とにもかくにも少年を取り返さなければと、七槻・早紀は出し惜しみせず√能力【路地裏バッドガール】を使用した。
強化された鉄パイプの連撃が、群がる敵を蹴散らす。そうして道を切り開き、逃げようとする背中を見つけて、再び距離を縮めた。
「さぁ、騒ぎがデカくなる前に大人しくさせてやるッスよ!」
シンシア・ウォーカーは、突然の敵の行動に慌ててしまう。
「っ、少年が!しかしお相手の数が多くてどこにいるかがわからない……!」
竜少年が攫われ、こちらを足止めするためにダークエルフが大勢立ちはだかる。一刻を争うと躊躇は捨てた。
「いいでしょう、鬼ごっこ延長戦。魔物相手なので|本気の《ズルい》やつ行きます。鬼が一人である必要はないですものね?」
√能力【亡者の行軍】を使用して指令を召喚。それらに攫われた少年を探させながら、攻撃してくるダークエルフには迎撃を命じた。
そしてシンシア・ウォーカー自身も、ダークエルフを蹴散らしながらに少年を捜索する。
「全員倒せれば万々歳ですが、そんな時間があるかどうか……!」
とその時、死霊の索敵に少年が引っかかる。すかさず誘拐犯へと突っ込み、ダークエルフをから少年を奪い返した。
「大丈夫ですか?」
「う、うん……」
怯えてはいるものの返事は返せるなら大丈夫だろうと、戦場から抜け出す。
「絶対に逃すな!」
しかしダークエルフたちは執拗に追いかけ続けてきた。
喰竜教団の狙いである竜少年は取り戻したらしいが、そのダークエルフたちはしつこかった。さらに数を増やして取り返そうとしてくる。
当然、一般人の被害など顧みない。
ノスタルジア・フォスターはたまたまそこに通りすがった。
「……これは、怪我をしている子供たちがいますね」
突如として現れたダークエルフたちによって、その施設は破壊され、子供たちの中にも少なからず傷を負う者が出ている。泣いて助けを求める彼らにすかさず駆け寄った。
√能力【|応急処置《ファーストエイド》】を行使し、幻影の衛生兵を召喚する。それらによって、多くの怪我人を治療させこれ以上の被害が出ないよう避難も進めていった。
「危ないです」
突然、切りかかってきたダークエルフに対して和傘で防ぐ。相手が弾かれた隙に、その傘を畳んで槍として突き出した。
「っ!?」
「さあ、こちらです」
退けた脅威には目も向けず、ノスタルジア・フォスターは一般人の救護を行っていくのだった。
●
四条・深恋は、事件が起きていると聞きその場に駆け付けた。
「ほいほい、お仕事のお手伝いですね」
軽い調子で戦場へと踏み込み、振り下ろされる剣を包丁で受け止める。
「あのー、これでも私花のJKでして、あんまり長時間は困るんですよ」
「知るかっ!」
ケツがあると襲ってくる敵に言うが、当然、相手がそんなこと考慮するはずもない。つばぜり合いをする剣に体重を乗せて、暢気な少女を崩そうとするが。
「それじゃあぱっぱと済ませちゃいますからね?」
敵に確認を取って、体重の乗る剣を受け流す。そして体勢を崩した隙をついて、敵が得物を握れないよう包丁で切りつけた。
「さてさて、何から取り掛かりましょうかね」
目の前の敵は片付けながら、次はどう動くべきかと辺りを見渡す。とりあえずと√能力【|黒生変化《コクジョウヘンゲ》】を使用してその姿を黒猫へと変化させ、出来るだけ素早く戦場を駆け抜け事態解決へと勤しむのだった。
●
パトリシア・ドラゴン・ルーラーは喰竜教団だという組織に、釣れないとばかりに胸を張った。
「おいおい余もドラゴンだぞ! 竜を喰らうというのならまずは余を喰らってみろ!」
竜帝としての誇りを掲げてわざわざダークエルフたちの前に立ちはだかる。そして振りかざしてくる剣を尽く叩き折った。
「さあ! どうやって余を喰らうのだ!?」
挑発するように笑いながら、炎を操る。√能力【|爆炎轟舞踏《ドラゴン・ブレイズ・ワルツ》】による爆炎を交えた攻撃が、延々と繰り返され、瞬く間にダークエルフを蹴散らしていった。
「このままでは余の方が貴様らを喰らうてしまうぞ!」
口ほどにもない相手を見下してわざと怒りを誘導する。歯を食いしばり突進するその速度に僅かにだけ口角を上げ、しかし今までと同様に怪力でねじ伏せた。
「いかなる敵が相手でも正正堂堂、正面から打ち破るのみだ!」
パトリシア・ドラゴン・ルーラーはひたすらに敵を蹂躙していった。
第3章 ボス戦 『喰竜教団教祖『ドラゴンストーカー』』

「上手くいっていないようね」
死屍累々と散らばるダークエルフたちにそんな声が掛けられた。
「教祖、さま……」
誰かが、その姿を見てそう零した。しかしそんな者にいちいち視線を向ける事もない。
それはようやく拝めた崇拝対象に、恍惚な表情を浮かべる。
「おお、真竜の復活のため、その身をお捧げください」
喰竜教団教祖ドラゴンストーカーは、怯える竜少年にその手を差し伸べた。
シンシア・ウォーカーは呆れたように敵の首魁を見やる。
「出ましたね、最近悪い意味で話題の。……いちおう主張くらいは聞きましょうか。」
「主張? これは真実よ! 真竜の復活にドラゴンプロトコルの遺骸が必要なのよ!」
問いかけにそう言い切るドラゴンスートカーに、シンシア・ウォーカーは早々に対話を切り捨てた。
「なんと身勝手な……まあ、恐らく話しても分かり合える相手ではないでしょうから、改心しろとは言いません。ただ、私に倒されてください!」
「邪魔をする気ね!?」
魔導書を開き、高速詠唱。全力を注ぎこんだ魔法で、ドラゴンストーカーが防御を取る間もなく攻撃を加えた。
竜少年が敵の手に渡る前にと一気に畳みかける。
そしてダメ押しとばかりに√能力【Stellanova】を発動した。
「真龍だかなんだか知りませんが、人を殺めるなどあってはならないのです!」
流星を模した魔法が降り注ぐ。地面をえぐり粉塵を巻き上げた。
「真竜様の復活邪魔をするなァアアーー!!」
儀式を中断された教祖は怒りを露わにし、傷だらけの体で向かってくる。
バーストシンザン・オブライエンは現れた敵の情報を記憶と照合させる。
「遺体を繋いですごいのを作るヤツ、牧場のスタッフの一人がこの前話していたぶもっ。戦慄の三身合体ゾンビー ってすごい敵が出てきて大変なことになるって聞いたぶもっ」
恐らくB級ホラーの話でも聞いたのだろう。そんな人語を解しながパカラッパカラッと戦場へ割って入った。
「三身合体ゾンビーの誕生は阻止ぶもっ」
√能力【トウカイテイオー】によって、味方に回復効果の恩恵を授ける。そして果物で雇った軍馬を引き連れて、ドラゴンストーカーの行動をかく乱した。
「馬ごときが邪魔をするなァ!」
身体部位の一つを竜化させながら迎撃してくるドラゴンストーカーに、軍馬たちは連携を取って対処する。
「帰ったらみんなでりんごとバナナむしゃむしゃするから頑張れぶもっ」
バーストシンザン・オブライエンはそうエールを送りながら、自身もキックとかみつきで攻撃を繰り出した。
七槻・早紀は自分勝手な敵の言い分にため息を吐いた。
「はぁ、それで。アンタがそうしたとして、この子の気持ちはどうなるんスか。本人が納得してるならそれはいいんス。だけども、ただ子供を利用するってんなら……。そりゃ、許せるわけないッスよねぇ……!」
そうして暴れるドラゴンストーカーの前へと躍り出る。
教祖を務めるだけあって、先ほどのダークエルフたちとは一線を画した強さだ。格上相手それなら代償を捧げなければ釣り合わないだろうと動き出す。
「一撃喰らいたいわけじゃあないが、そうも言ってられないッスよね? ただ、腕の一本持ってかれても、そもそも"使えない"側なら関係ないッスよね!」
√能力【|Get F***ed《ブチコロガス》】を行使して、全力で握った鉄パイプで殴りかかる。覚悟と怪力の乗った一撃は、敵を吹き飛ばした。
「へへ……これで盾の完成っす」
一度の攻撃で折れた右腕を構えながら、七槻・早紀はさらに踏み込む。
「ぐあっ!? がぁっ!?」
√能力者たちの絶え間ない攻撃に、ドラゴンストーカーはあっという間に押されていった。
それでも一矢報いようと真竜復活のため、竜少年に手を伸ばす。
だが、そこへとフーディア・エレクトラムリーグは割って入った。
白銀の蜘蛛の獣妖は、その複数の手で敵の望みを断ち切る。伸ばす腕を叩き落とし、そこから空中へと吹き飛ばしてコンボに繋げた。
そうして身動きの取れない相手へと√能力【|流麗白銀蜘蛛蟷螂《クイックシルバー・デスサイズスパイダー》】を行使する。
「美〜味しそ〜ぅですわねぇっ、アナタッッッ!!!!!」
青色は食欲を削ぐとも言われているのに関係なく、蹂躙されていく敵の有様に涎を垂らした。そうして、ドラゴンストーカーは地に落ちる。
「真竜、さま……」
最後までその野望に手を伸ばし続け、しかしそれも力尽きた。
「さてさて、今日何でお腹を満たしましょうか」
戦っているうちにその敵は美味しくないと判断したのか、フーディア・エレクトラムリーグは今日の献立を考えながら去っていった。